フランク・ブラムス。リ・エスティーゼ王国において名の知れた作曲家であり、クルベルク伯爵家で食客として暮らしていたもののここ十年程は挑戦的な楽曲を作成しており、それにより立場を失い、帝国との戦争で当主が居なくなったクルベルク家からも追い出されることとなりその後を知る者はいない。
これがヒルマから得た彼の情報だった。
まあそれなりに結果を残し、彼の言葉を借りれば新たな扉を開こうとして失敗していたのか。
それで勤め先からも暇をもらうも諦めずにいたところ王国は崩壊、運良く生き残るも自棄になり魔導国に移住したとでも考えておけば良いか。
詳細は聞かないと分からないだろうが、別に態々過去をほじくり返す必要もないしな。
しかし貴族相手に商売していたとは思えない程思想に歪みがなかったな、聞いていた話しでは王国貴族はかなり腐敗していたようだから多少選民思想はあろうかとも思ったが発言内容から考えると柔軟な考えを持っているように感じた。
芸術家故の思考なのだろうか、まあそういったことは今後学んでいけば良いか。
「お似合いですよロータス様」
「ありがとうヒルマ、これで私もこの街に馴染むかな?」
「ええ、やはり威圧感は減りましたね」
俺はヒルマと共に注文していた服を受け取っていた。
外殻の問題があるのでズボンやシャツといったものは着ることができないので貫頭衣とトーガの様なものを誂えた。
一応中流層という設定なので派手さこそないが、生地は厚手でそれなりに質の良いものを使用し、染色はせず目立たない所に刺繍を入れる形をとった。
金策が上手くいったらまた新しいものを依頼しよう。
「良かったよ、これで君と並んでも見劣りせず済みそうだ」
「いやですわロータス様」
「あのままだと蛮族みたいだからね、問題はないけどやはり見た目からも文明人らしい装いをしなくては」
自らを蛮族と言えば店員がどうしたものかと顔を引き攣らせる、自分としては冗談でいったのだからもう少し純粋に笑って欲しかったが無理があったか。
いやそもそもセンスがないか?あちらでもあまり褒められはしなかったしな。
「さあ行こうかヒルマ、約束の時間までまだあるからゆっくり街を散策しよう」
「ええ、行きましょうロータス様」
そう言って彼女は腕を絡め、俺はもう一本の腕で肩を抱き寄せ店を出た。
街を歩いているとよく見かける住民は挨拶を返してくれる様になってきた、それでも面識の少ない住民からは怪訝な視線を送られることも多い。
まだ互いに冗談を交わすなどといった気さくさはないが進歩してきただろう、無論挨拶をするのは住民だけでなく公務員の亜人種やアンデットもだ。
住民に比べると亜人種はいくらか気さくな会話もできる様になった。
アンデットとなるとリッチなどの知性体については問題ないが、警邏のデスナイトは返事をよく判別できない。
それでもこちらに応える様子を見せることからそれを見た住民が驚いた表情を見せることもあった。
見た目や種族の問題もあるから意思疎通ができるとは思っていない者も多いのだろう。
そうして住民と交流しつついくつか店を回っていると約束の時間が迫ってきたので広場に向かうことにした。
「こうして二人で街を散策するのも久しぶりだ」
「ええ、最近は商会の方も忙しくなってきましたからね、今日はとても充実していますわ」
「そうだね、私もとても楽しんでいるよ」
アイテムボックスからリュートを取り出し何の曲を弾いたものかと考える。
「たまには趣向を変えてみるか」
今日は無難にゆったりとした曲を弾き語りすることにした、いつもと違い歌い始めるのを聞くと行き交う人も興味を持ち足を止める。
しかしこうあちらの曲ばかり弾いてもつまらないと考え簡単な曲をつくることにした。
いつも弾いている曲調と違うものだから足を止める人も増えてくる、歌は前に編纂したものにしよう。
そうして弾き終わるとまばらに拍手が聞こえてきたので俺は立ち上がって礼をする。
「ご清聴ありがとうございました」
それだけ言えば集まった人はまた散り始めた。
「どうだったヒルマ?今日は趣向を変えてみたんだが」
「えっと、その……もしかして私に?」
「正~解!貴方の為につくった曲ですよ、詩も色々と考えたんですけどどうでした?」
からかう様に告げればヒルマは赤く染めた顔を更に染め上げて背けてしまった。
あまりこういうことをしたことはないがやってみると意外と楽しいものだ、逆は散々されてきたがいざやる側になって初めて相手の気持ちが理解できた。
「そう拗ねないでくれよヒルマ」
「……さい」
「?何か言ったかいヒルマ」
「今度からは、二人の時にしてもらいたい、です」
初心な反応を見せるヒルマに嗜虐心が刺激され次回が楽しみになってくる、今まで散々遊ばれてきたものだからネタは色々とある。
「そうだね、こういった特別なものを他の人に聞かせる訳にはいかないし今度は二人っきりでね」
そう言って彼女の耳を撫でれば跳ねる様に仰け反った。
「お、おお、おお……」
聞こえてきた声に振り向けばフランクが滂沱の涙を流し跪いていた。
「フランク?どうしたんですか?」
「わ、私は今神話の一説を見ました、音楽で愛を告げる、かくも瑞々しく美しいこととは、おお……」
そこまでかとも思ったが、こちらではあまり一般的なものでもないのか?吟遊詩人がいることもあるし人間なんて昔から惚れた腫れたの話しを好むものだろうからそういう歌や物語くらいありそうなものだと思っていたが。
「ヒルマ、こちらでは愛を歌に乗せる表現やそういった物語とかは一般的ではないのですか?」
「そう、ですね……やはり楽器を弾いて歌うとなると一般的とは、恋物語もあるにはありますが上流階級向けのものが殆どで、庶民間で伝わっているものとなると少ないかと」
「なるほど、それは」
何と言うかこれは予想外だったな、文化レベルこそ低いが人口は多いからそういった教養が必要なものもある程度存在していると思っていたのだが。
「以外とこういった流行をつくっていけるかも知れないな……フランク!それじゃあ約束を果たしに行きますよ」
俺は未だ項垂れるフランクを引きずりながら彼の家に向かった。