門の前に降り立つと門番であろうニ体のオークに視線を向けられる、しかし僅かに動揺した様子を見せるだけでこれといった反応を示さなかった。
「コンニチハ、敵意ハナイ、偶然コノ地ヲ見ツケタノデ挨拶ニキタ、ココハ村カ?」
二対の腕を上げ敵意がないということを示してそう言うとオークは互いに見合わせ迷った様な表情を浮かべながら告げる。
「……ここは牧場だ、アンタどこから来た」
「空カラダヨ、シカシ牧場……牧場カ、良ケレバ見学ガシタイノデ代表者ニ取リ次イデモラエルト有難イ」
そう言うとオークは表情を歪めたが一体が重い足取りで牧場の中へ向かっていき、俺は顎……いや牙?まあどうでも良いがそこに指を当てて思案する。
オークの様な亜人種が門番をする建造物しかない牧場、人間種でも家畜にしているのだろうか。
距離がある為聞き取りづらかったが牧場の中心部であろう箇所からは絶えず悲鳴、というよりも絶叫だろうか、それが聞こえてくる。
それにオークのあの目、あれはあちらでもよく見たものだったな。絶望したものの目、希望
を絶たれ、安寧もなく無為に生きている者の目だ。正直この楽園に来てまで目にすることになるとは思わなかった。
身体能力に秀でた亜人種の希望をへし折って絶望で支配し、人間種を家畜にする牧場、正直上位悪魔が出てきても驚きはしないが……いや、最悪プレイヤーが出てきてもおかしくはないか。
上空から見た建造物の配置と建造物の出来の差から考えると、建築計画は立てたが作業自体は亜人種にやらせたのだろう。
歪さから言って測量はできても建築の知識はなかっただけであればプレイヤーかもしれないし、趣味と実益を兼ねた設計なら高位の悪魔であるだけの可能性も高い。
確か悪魔は知能がある生物を痛ぶることを好む、だったか?それかあっちで虐げられていたプレイヤーであるなら目的が共通しているかもしれない。
どの道この牧場が何の目的でつくられたかが分からなければ答えは出ない。
そう考えていると白い衣装に赤く鼻が長いマスクを着けた異形種がオークに連れられ歩いてきた。
正直スキルで感知した強さから見れば代表者ではないと思うが、連れているオークの様子から見るとそれなりの役職だと思われる。
「ドウモ初メマシテ、私ハサクパント申シマス。付近ヲ飛行シテイマシタ所偶然コノ牧場ガ目ニ入リマシテ、是非ゴ挨拶ヲト伺イマシタ」
名前についてはアバター名を略したものを名乗った、偽名ではないし嘘を疑われることもないだろう。
正直さくさくぱんだとそのまま名乗るのは抵抗がある。
「おお、これはご丁寧にどうも、私わこちらの牧場を管理させていただいているプルチネッラと申します」
丁寧に挨拶をすればプルチネッラもそれに続いて返してきた、不審者だとしても下手なことをしなければ敵対はしないか。
「ドウモプルチネッラサン、外部カラ見テコレホド整ッテイル牧場ハ初メテ見マシテ、後学ノ為ニモ見学ヲサセテ頂クコトハ可能デショウカ?」
「おお!それはそれは、この牧場の管理を任されている身と致しましては大変嬉しく思いますが見学となりますと……」
同好の士を見つけた様に一瞬喜ぶも迷う素振りを見せる。
「イエ警戒サレルノハゴ尤モデス、デスガ私ハココデノコトヲ他言スルツモリハアリマセン。オ役ニ立ツカハワカリマセンガコチラヲ」
そう言って俺はアイテムボックスから一つアイテムを取り出して恭しく差し出した。
「ほう、こちらは?」
「聖者ノ振リ鈴トイウアイテムデス、鳴ラセバ精神ヲ安定サセル効果ガアリマス。似タヨウナモノヲオ持チカモ知レマセンガ、コチラノ牧場デアレバ有用カト」
「おお!それは素晴らしいですね!何分ストレスを抱える羊も多いものでして、こちらがあればより愛に満ちた世界に近づけましょう!」
「オ役ニ立テルノデアレバ幸イデス、私ノ扱イニツキマシテモコノママ立チ去ッテモ問題ガアルデショウ、代表者ノ方ニゴ採択ヲオ願イシタイノデスガ」
「ええ、そうですね。そちらに関しては……おや噂をすれば」
そう言ってプルチネッラが振り返ると牧場の中から一体の悪魔とそれに付き従う三体の悪魔が歩いてきた。
-早まった
そう思った瞬間俺はすぐさま跪く。
先頭の悪魔が何かは分からなかったが続く三体の悪魔、あれは魔将だ。
正直戦闘になっても勝てはするだろう、だが問題は先頭の悪魔がプレイヤーであった場合だ。
全戦力である可能性は低いだろうし、牧場なんてものをつくっている時点で拠点と共にこちらに来たプレイヤーである可能性の方がよっぽど高い。
であればプレイヤーが複数いる可能性もあるし、それが控えていると考えると逃走も悪手。
正直逃走だけを考えれば可能ではあるが、奴らの支配域も不明な時点で選択するのはリスクが高い。
自分が思っていた以上にこの楽園に来て浮かれていたのか?俺が来れたということは他に居ても何もおかしくはないのに。
まさかこの楽園に来てまで臣従の意を示さなければならなくなるとは。
しかし後悔しても仕方がない、今は俺の持てる全てで誠意を示して彼らに従うのが最良だろう。
「頭を上げ給え」
その言葉に従い頭を上げれば派手なスーツを着た悪魔が笑顔で俺を見下ろしていた。