ある日仕事も終わり自宅で夕食を取っていると突然室内に転移門が展開された。
突然のことだったが皆迅速に跪き主が現れる前に礼をとることができた。
「これはシャルティア様、この様な場に御身自ら来られるとは何か緊急のご要件でございましょうか」
「緊急……ええ、そうね、緊急と言えば緊急でありんす」
抑えてこそいたがその顔は怒りに歪んでおり、何か失態を犯したかと思ったが一つ思い当たることがあった。
「差し出がましいとは思いますがもしやアルベド様の件でしょうか」
そう問えばその顔はみるみる歪んでいきテーブルを殴りつけ拳の形に削り取る。
ヒルマは顔を上げず震えだし、使用人からは短い悲鳴が上がる。
少々まずいな。
俺は緊急用に持っていた伝言の魔法紙を使用しアインズに連絡を取る。
『アインズさん、緊急事態です、シャルティア様が激怒し我が家に乗り込んできました』
『はぁっ!?大丈夫なのか!?』
『何とか穏便に鎮めますので場合によってはアインズさんも覚悟しておいてください、貴方絡みです』
『そ、そうか……迷惑をかけるが頼んだ、そうだな、私も覚悟しておくが……何卒武運を祈るぞロータス』
報告を完了しシャルティアを確認すれば何とか怒りを鎮めようとはしていたが抑えきれず、気に入っていたテーブルは無惨にも木くずとなっていた。
「シャルティア様のご心痛については甚く理解致しました、しかしここでは万が一のこともありますので一度守護階層の方へ移動しましょう、詳細はそちらにて」
「ええ、ええ、そうね、そうしましょうか」
血走った目を向け肩で息をするシャルティアに続いて転移門を通る、最後にヒルマにそれとなくジェスチャーを送ってその場を離れた。
……
シャルティアの私室は見事なまでに荒れ果てていた、調度品が壊されているのは勿論シモベであろう吸血鬼の花嫁の幾人かは玩具にされ失神している者、臓腑を撒き散らし息も絶え絶えな者、逆さ吊りの状態で壁に貼り付けられている者と地獄の様相を呈していた。
俺はシャルティアがソファーに座るのを確認した後、吸血鬼の花嫁を回復させ退出させた。
ソファー前に置かれていたテーブルは破壊されていたので変わりにアイテムボックスから白色のテーブルを取り出して設置、続いて酒と思われる瓶とグラス、黄金色に輝く果実を取り出す。
どれもギルド時代に拠点の飾り用に制作したフレーバーアイテムで飲食できるかは不明だが、個人的に出せるもので何とか最低ラインを超えられるものはこれくらいしか思いつかなかった。
爪を使いコルクを抜いて丁寧にグラスに注いでシャルティアに差し出す、彼女は無言でそれを引っ掴んで一息に飲み干し叩きつける、今度は加減が効いたのかグラスは割れずにすんだ。
俺はシャルティアに酒を注ぎながら果実を飾り切りして皿に盛っていく。
そして酒瓶が空になる頃になってようやくシャルティアは落ち着きを取り戻してきた様だった。
「当たり散らして悪かったでありんすねロータス」
「構いませんよ、シャルティア様のご心痛は理解しておりますので」
「そう……」
憂いに満ちた表情を浮かべため息をつくシャルティア、アインズにフォローを頼んでいたが間に合わなかったか。
「それで私の元に来られた件ですが、先ずは実験の進捗についてお話しますか?」
「ええ、今どうなっているでありんす?」
「デミウルゴス様には書面で共有しているのですが妊娠についてはまだ成功しておりません、変わりに最近別の試みを思いつきましたので現在はそれを実践している最中です」
「別の試み?」
シャルティアは興味を持った様でこちらに視線を向ける。
俺は少し迷ったが幻惑の腕輪を取り出し装備する、姿が変わった俺の姿を見てシャルティアは少し驚いた様な表情を浮かべる。
「こういった見た目を変えるアイテムを使用して、通常時、擬態時と別の雌と交配を行っております」
「意味がありんすの?」
「ただ見た目を誤魔化すだけのアイテムだと思っていたのですが、こちらを使用して擬態すると感覚も変化する様で……実際に触って頂ければ分かるかと」
俺はそう言ってシャルティアに右手を差し出し、彼女はその手を取って感触を確かめる。
「確かに、蟲人の外殻の感触じゃありんせんね……」
「ええ、それに変化した身体に合わせて私が感じる感覚も妙な差異がありまして、意識すると擬態した身体の触覚などが優先される様に感じます。であればこの姿で交配に成功すれば雌と同じ種族で私の素養を持った子が生まれる可能性が高いかと考えまして」
「ふぅん……まあどの道まだ結果は出ていない、と」
興味を失った様に手を離しグラスを手に持つ。
「はい、申し訳ありません」
謝罪をしアイテムボックスからもう一つ酒瓶を取り出しグラスを満たす。
「シャルティア様、手持ちが少々心許ないので追加を手配してきてもよろしいですか?」
「別に貴方の手持ちで構いんせん、どうせ酔うことなどありんせんし」
「こういう時は真に良いもので洗い流すことも重要かと、私の手持ちではナザリックのものと比べどうしても味が落ちますので」
「……そうね、許可しんすわ」
礼を取り、扉の外で待機していた吸血鬼の花嫁に度数が強いものと、甘めで味が異なるワインと果物を数種類をと手配を頼み室内へ戻る。
その数瞬の間にシャルティアは新しく取り出したものも飲み干しており、内心苛立ちながら新たなものを取り出す。
「随分とお早いですね、無効化されるといってもあまり良くないですよ」
「別にどうでも良いでありんしょ、もう今は、こうでもしないとやりきんせんわ」
言うが早いか俺から奪い取った酒瓶の口を爪で切り飛ばし豪快に喉を鳴らしながら一息で飲み干す。
正直これ以上手持ちの遺産を減らしたくなかった俺は短剣に切り分けた果実を突き刺してシャルティアの口元に運ぶ。
「無粋ですが手元にちょうど良いものがなくこちらで失礼します」
「あら女に刃物を向けるなんて、お里が知れるでありんすよ」
これだけ部屋荒らして人の酒を奪い取る勢いで飲み続けてる女が何を言ってんだと思うもぐっと飲み込む。
「たまにはこういった行いもまた一興では?お疲れの時は退廃的な行為も中々癒やされるものですよ」
そう告げればシャルティアは刺さった果実を口に運ぶ。
「甘いわね」
何の感慨もなく一言だけ零しソファーに身体を預けまた大きなため息をついた。
そしてノックがされ吸血鬼の花嫁が酒と果物、その他に気を使ってか色々道具の乗ったワゴンを引いてきたのだが。
「遅いのよ!!!」
普段の可憐な装いとはかけ離れた激しい怒りに顔を歪めたシャルティアが怒号を上げて空き瓶を投げつける、それが頭部に直撃した吸血鬼の花嫁はその勢いで吹き飛び、壁に叩きつけられ鈍い音を立てて床に落ちる。
「シャルティア様陛下が悲しまれますよ」
その言葉に耳元まで裂けた口から歯を覗かせる程に顔を歪ませ血走った目で睨まれる、俺はそれを無視して倒れたワゴンからワインを取ってグラスに注ぐ。
そして吸血鬼の花嫁を回復させワゴンを起こし、散らばったものを積み直してシャルティアの元まで運ぶ。
「陛下は劣等種にも御慈悲を与える御方です、もう少しシモベの方々に手心を加えては?」
その言葉にシャルティアは見る見る表情を歪めていき涙を流し始めていき。
「わ、私だってがんばっでるのに~」
いよいよ感情の行場がなくなったシャルティアはその場で泣き崩れた。