俺の止める言葉を無視しシャルティアは許可を取りアインズの私室にへと入る。
無論俺の状態を見たアインズは絶句し、恋する乙女の様に振る舞うシャルティアは俺の状態など頭にない様だった。
「……夜分遅くこの様な格好で申し訳ありません陛下」
「その声……お前ロータスか!?一体何があった!?」
アインズは即座に俺を回復し、そこで初めてシャルティアは俺の状態を思い出した様であった。
固まったままただでさえ白い顔を更に白くさせていくシャルティアを無視して俺は幻惑の腕輪を外し元の姿に戻る。
「イエ、何モ」
そこまで答えた所で死んだ口唇虫が口内から滑り落ちる、そう言えば頭部を破壊されていたからその余波で死んだか。
「……トリアエズ、エントマ様ニ口唇虫ノ手配ヲオ願イ致シマス」
「あ、ああ分かった……だがしかし本当に何があった」
「エエ、問題ハアリマセンヨ、イツモ通リ調子ニ乗リ過ギタダケデス……タダ陛下、先程オ伝エシテイタコトガアリマシタヨネ」
「ああ、確かに伝言で聞いたが」
「デハ口唇虫ガ届キ次第ソノオ話シヲシマショウ、トリアエズココデハナンデスカラ呑メル場所ニ行キマセンカ?トテモ疲レマシタノデ付キ合ッテクダサイ、シャルティア様モ共ニオ願イシマス」
「わ、わかった……シャルティア、とりあえず第九階層のバーに移動しよう」
「うっ、畏まりんしたアインズ様……」
三者三様別の理由で沈んだ面持ちの俺達はバーへと移動した。
……
「トイウ訳デシャルティア様ニ広報誌ノ執筆ヲオ願イスル運ビトナリマシテ」
「うむ、確かにそれはシャルティア向きの仕事であるな。シャルティア、期待しているぞ」
「はい!是非ご期待くだしんす!このシャルティア・ブラッドフォールン、必ずや至上の成果をもたらすでありんす!」
勢いを取り戻したシャルティアは茸生物のバーテンから受け取ったカクテルを味わう様に飲む、その様子を見たバーテンはその毒々しい頭部から感情を読み取ることはできなかったが小さくガッツポーズをしているのが見え、かなり喜んでいるのだと感じた。
「トコロデコノ様ニ素晴ラシイバーガアルノニ陛下ハアマリ来ラレナイノデスカ?」
「ん?ああ、私は酒を味わうことができないからな……今まで足を運ぶことは少なかったな」
「デシタラコチラヲ」
俺はそう言って幻惑の腕輪を渡す。
「ソチラ幻惑ノ腕輪トイウ課金アイテムデ見タ目ヲ望ンダ姿ニ変エルコトガデキマス」
「ああ、何かそんなアイテムもあったな」
「ソチラ装備シテ変容スルトソノ種族ニ感覚ガ引ッ張ラレル様ナノデス、問題ガナイカイクツカ試験ヲ行ッテカラ陛下ニモオ試シ頂コウト思ッテイタノデスガ……コノ際試シテミテハ如何デスカ?」
「ふむ……それでは折角だし試してみるか」
アインズはそう言って幻惑の腕輪を装備する、すると骸骨の身体が揺らぎ、少し草臥れた人間種の姿に変化した。
そんなアインズの姿にシャルティアは目を見開きこそしたが数瞬の後、うっとりとした表情を見せた。
一般的な日本人男性の顔つきだが美醜については然程問題にはならないのか。
しかしまた驚く程に普通で異常な容姿だな。
整っている訳でも崩れている訳でもない、全てが平均値と形容すれば良いのか……日本人的容姿に馴染みがあることが原因とされるのかは分からないが、あまりに平均的過ぎて全く印象に残らない顔つきだ。
「感覚ニ問題ハアリマセンカ?」
「そうだな、妙な感覚だが問題はないな」
「ソレハ重畳……マスター、偉大ナル陛下ニ相応シクカツ飲ミヤスイモノヲ頼ミマス、味覚ガアルトスルバ久方振リノ刺激トナリマスノデ」
そう注文すればバーテンは感嘆の声を漏らしながら全身を震わせ、数秒後迅速にカクテルをつくり始める。
その姿からは並々ならぬ気迫が感じ取られ、どれ程の熱意を込めているのかが目に取れた。
「お待たせしましたアインズ様、今宵を記念したオリジナルカクテル『始まりの至高』になります」
コリンズグラスには炭酸の泡が浮かぶ紅梅色のカクテルが注がれていた。
アインズはゆっくりとそれを手に取り見つめる、炭酸の気泡が弾ける様子を眺め、グラスを軽く回し、揺らぐカクテルを眺めた後ゆっくりと口に含んだ。
「……美味い、まさに至高の味と言えるだろう、素晴らしいぞクラヴゥ」
「勿体なきお言葉を、アインズ様のお口に合いましたことに至上の喜びを」
問題なく味覚が感じ取れた様子から軽く安堵し、数年振りに味わう感動を覚えるアインズ、その姿に艶めかしい視線を送るシャルティア、そして自らが提供したカクテルを上位者に味わってもらったことに打ち震えるクラヴゥ、三者三様の反応を見る。
「ヤハリ味覚ガ反映サレマシタカ」
「あ、ああ、しかしこれは見た目を変えるだけのアイテムだろう?確か種族専用装備を装備したまま別の種族に見た目を変えるだけのアイテム……」
戸惑いつつも可能性を見出し固まるアインズ。
「エエ、ソノアイテムハコチラダト、変更シタ種族ニ応ジタ感覚ヲ取得スル様ナノデスヨ。先程人間種ノ姿ノママ頭部ヲ破壊サレマシタガスキルニツイテハ元ノモノガ問題ナク発動シマシタ」
「……シャルティア、お前」
顔こそ見えなかったがシャルティアの慌てふためく様子から呆れた表情でも浮かべたのだろう。
「恐ラク種族特性ノ精神抑制ハドウシヨウモナイト思イマスガ、ソチラヲ使用スレバ色々ト楽シメルカト思ワレマス、シカシ長時間ノ使用ハマダ試シテイマセンノデドノ様ナ影響ガアルカハワカリマセン、ソレニ陛下ノ場合変容時ニ接種シタモノガ解除後ドウナルカトイッタコトモ」
「それはそうだな、解除した途端食べたり飲んだりしたものがその場に落ちてしまうことも考えられるか」
「ナノデ解除時ハ注意シテ頂キタク、マア今日ハトリアエズ酒ヲ楽シミマショウ。アチラデソレナリノモノモ飲ンダコトモアリマスガ、ナザリックノモノハマサニ至高ノ味デスノデ」
「……そうか、そうだな、今日は我がナザリックが誇る美酒に酔いしれるとしよう」
「エエ、是非楽シンデ頂キタク……デハマスター何カ果物ヲツマミニオ願イシマス、甘味ハ味覚ノ中デ一番癒ヤシニナリマスノデ」
「畏まりました、すぐにご用意させて頂きます」
クラヴゥはそういうとスキップしそうな程に軽やかな足取りで裏に回っていった。
彼も自らが担当する場所で支配者が楽しむことに多大な幸福を抱いているのだろう、しかし一方で酒の味を楽しむアインズや自らの働きが認められたクラヴゥと比べシャルティアは未だ消沈している様子だった。
「ホラシャルティア様モ楽シミマショウ、今日ハ陛下ガ初メテナザリックノ美酒ヲ味ワラレル記念スベキ日ナノデスカラ」
「そうだな、シャルティア」
アインズはそう言って彼女にグラスを掲げる、シャルティアはそれを見て涙を浮かべたかと思うと恍惚とした表情になりアインズのグラスに合わせる。
軽く優美な音が響き二人はそれぞれ天上の美酒を味わった。
フォロー完了!