「そう言えばぁロータス様のお仕事の方は順調ですかぁ?」
気を許してくれたのか俺に対する喋りが変わったエントマに少し驚いたものの認められたのだと言う思いから淡い喜びを感じた。
「全てが順調、という訳ではありませんが表向きの仕事は順調ですね。現在エ・ランテルの住民間には音楽を嗜むことが流行りはじめまして、魔導国が運営する孤児院に対する関心も高まってきています。異形種と人間種の夫婦としても受け入れられ初めてきており、亜人種や警邏のデスナイトと交流する住民も徐々に増えてきました」
「それは素晴らしいですわね、それで、もう一つの方はどうですか?」
期待の混じった艶めかしい声でソリュシャンに問われるも、そちらについてはまだ結果が出ていないので気まずくなり酒を飲む。
「そちらについてはまだ芳しい結果は出てないですね、やはり種族が違うこともありますし子どもは授かりものですから難しく……一応使用人にも協力してもらい母数を増やすと同時に人間種に擬態するなど色々と試みてはいますが何とも」
「それであればぁ私も協力致しましょうかぁ?」
エントマの言葉に思わず酒を吹き出しむせ込んでしまった、口唇虫に入っていないと良いが。
口内から飛び散った酒を拭き取ってくれるクラヴゥにジェスチャーで礼を伝えるも、変な所に入ってしまったのかむせるのが止まらなかった。
「あら、エントマがそんなこと言うなんて思わなかったわ、どういう風の吹き回し?」
意外そうにするもからかう様に疑問を呈したソリュシャンにエントマは少し不満そうにしながらも答える。
「私としてもぉアインズ様のお世継ぎを早くお世話したいしぃ、それにロータス様と私なら種族も近いでしょぉ?」
「い、いえ今回は異種族同士との交配実験ですから」
「え~ロータス様は私じゃイヤですかぁ?」
エントマが甘える様な声を上げて腕を絡める、何故気を許した瞬間その様な行為に及ぶのかは全く分からなかったが。
「い、いや非常に光栄なことなのですが……あまりにも唐突でしたので少し動揺しておりまして」
「それならぁ良いじゃないですかぁ、子作りしましょ?」
蠱惑的に誘惑してくるエントマに混乱し何も言えなかった。
「貴方がそこまで積極的な態度見せるなんて驚きだわ、結構本気なのね」
ソリュシャンの言葉に更に動揺する、言うままを信じるならば恐らくエントマは他者への関心が他のシモベよりも薄いのだろう。
だからこそ何故そこまで関心を持たれたのかが理解できない。
「そりゃそうよぉ、美味しいご飯持ってきてくれるし、魔導国での働きだってたった数ヶ月で結構な成果じゃない、正直近縁族でここまで甲斐性もってる男なんていないものぉ」
「それで言ったらコキュートス様がいらっしゃるじゃない、何でロータス様なの?」
「そりゃコキュートス様が一番なのは分かってるけどぉ……コキュートス様って結構お固いしぃ、第五階層だとご飯が全部凍っちゃいそうなんだもん」
「それは……まぁ、あの氷河エリアにお住まいだとどこにおいても凍ってしまうわね」
「その点ロータス様だったら甲斐性はあるしぃ、ご飯もいっぱい食べさせてくれそうだしぃ、ちょっと見た目が女の子過ぎるけど、それもちょっと気に入っちゃったのぉ」
蝗人としての姿ですら女性的だったという事実に驚愕しつつ、理由について理解はできた、できたがどうするかという問題があるが。
「女の子過ぎる?」
ソリュシャンは蟲人の雌雄の違いについてあまり理解できていなかった様子から説明すべきかどうか考えているとエントマに立たされた。
「ソリュシャンったらわからないのぉ?ほらほらここ見て!尻尾のここ割れてるでしょぉ?それにぃこの足の模様とかもの凄い女の子っぽいしぃ……ちょっとやらしいけどここも割れちゃってるものぉ、擬態かと思っちゃうくらいなのよぉ」
「そう言われても……ちょっと私にはまだ難しいみたい」
困った様な笑みを浮かべるソリュシャンをにこの身体の雌的な部分を事細かに説明され、俺は感じたことのない羞恥心を覚え、アイテムボックスから布を取り出しせめてもと腰から下を隠す。
「あらロータス様ったら今更恥ずかしがらないでくださいな」
「あそこまでこと細かに説明されてしまうと流石に私としても来るものがありまして、ご容赦ください」
顔を覆う俺とは対象的にソリュシャンは嗜虐的な笑みを浮かべ、エントマは布で隠された俺の下半身を凝視していた。
「でも普段から何も着ていらっしゃらないんですからそこまで恥ずかしがらなくても」
「いや普段は私も服を着ていますよ、確かに外殻で包まれているので必要ないですが、人間種の中で暮らしてますし」
「え~それじゃぁ何で今日は何もお召になってらっしゃらないんですかぁ?」
エントマにそう言われ思わず言葉に詰まるも、ここで理由を話さなければよりあらぬ疑いをかけられそうだと思えた。
「その、色々あって引き剥がされまして」
「え~もしかしてシャルティア様がぁ?何の為ぇ?」
あっさりと犯人を看破され言葉に詰まる、しかしあんまり考えるのにも疲れてしまって俺はアイテムボックスの中から幻惑の腕輪を取り出して人間種に変容する。
あいつらからアイテムを引き継いでいたのは幸運だったな。
変容した姿を見てクラヴゥとソリュシャンが驚く。
「この姿に変容した状態でちょっとした計画を二人で企てていましたところ、褒美の先渡しだと服をひん剥かれました」
「これはこれは……なるほどねぇ納得したわ、確かにエントマの言う通りちょっと女の子っぽすぎるわね」
「私も驚きました、蟲人の違いは正直分からなかったですがこの様な姿でいたとすれば……些か同情を禁じえません、アンデッドでこそないですが人間種にしては生気がありませんからシャルティア様の好みにも合致しますものね」
「何ぃ~?二人共私がちゃんと説明してたのに信じてなかったのぉ~!?」
怒り出すエントマにどこか微笑ましい気持ちを覚えながら席に戻って酒を飲む。
「しかしそのアイテムは見た目を変えるものですよね?それでしたら望んだ姿になることは?」
「いえ、変容が安定するのは他種族に変容する、ということのみを命じた場合ですね、この種族のこの者の姿に、といったこともできるのですが安定性にかけます」
「美醜の基準はそのままに他種族に変えるっていうのも何と言うか不便よね、一体何の目的でつくられたのかしら?」
ソリュシャンの言葉に思わず考えこむも所詮は運営によるお遊びというか、アカウント制限によるクレーム対処の為につくられたアイテムだしな。
別アバターを作成できない変わりに、見た目だけでも種族変更できるアイテムが販売される様になっただけ、そんな都合でつくられたアイテムなのだから深い理由などありはしない。
「相手に本質を伝える為、とかだったら面白いですかね」
「本質ぅ?」
「姿形は違えどわかり合えた相手が居た、しかしその相手が同族になり、美醜によって判断は変わってしまうのか、それとも変わらず信じ続けるのか、そういったことを考えまして」
「それはそれは」
ソリュシャンが嗜虐的な笑みを浮かべる。
「逆でも良いですよね、種族で意見が食い違う相手が同族の優れた容姿を持つ姿に変容して絆されるか否か。どちらにせよ劣等種の愚かさを判別するのに便利そうじゃありません?」
「なるほど~でもそれってちょっと露悪的過ぎじゃないですかぁ?」
「あら私はそういう思惑は好きよ?そう考えるとその性能にも納得できるし」
エントマは否定的、ソリュシャンは肯定的、そう考えるとエントマはカルマ値が中立に近いのか?一定の理解を示してることから理解はできるが回りくどく感じているということは他所を弄ぶことに悦びを見出していないのだろう。
そう考えるとシモベ達はナザリック外に興味を持たない者が多いが、カルマ値が振り切れている者程その性質故ナザリック外に興味を持って貰えるかもしれないな。
もし善性に傾いているシモベが居るならアインズにリストアップしてもらって、魔導国内の業務に協力を打診するのもありか。
そんなことを考えているといつの間にかソリュシャンに後ろから覗き込まれていた。
「どうか致しましたかソリュシャン様?」
「いえ、種族だけを変更するなら身体的特徴もその種族の基準に沿って変更するのかと思いまして」
彼女はそう言うと腰に巻いていた布を引き剥がした。
「いや何をするんですか」
「あらあら結構良いものをお持ちじゃないですか、良かったら私も協力したいのですがよろしくて?」
耳元で囁くと同時に舌をねじ込まれ鼓膜を舐められた。
「あー!ちょっとソリュシャン!私が最初にお願いしてたのに取らないでよぉ!」
エントマが抗議し耳から舌が抜き取られる、あまりに唐突な感触に動揺しつつソリュシャンに引き剥がされた布を巻き直す。
「だってエントマ、私も話してたらなんだか興味出てきちゃったんだもの、それに先程のお礼もありますし……ねぇ?」
そう言いながら粘着質な視線が向けられため息をつく。
「お二方ともとりあえず落ち着いてください、先ずここはバーですのであまりに行き過ぎた行為は控えて頂きたく、クラヴゥ様にもご迷惑ですから」
「そうですね、ここは皆様の憩いの場であり愛を語らうのは構いませんが、流石に常識的な線引きはしていただきたく思います」
クラヴゥの言葉にどこか不満そうな雰囲気の二人に内心嘆息する。
正直いってここまでの事態になることは想定していなかった。
「どちらにせよ陛下のご許可は絶対に必要になりますから先ずは陛下にご相談ください」
「ん~それは確かにぃ~」
「でもアインズ様にご報告するなんて恥ずかしいわ、何とかなりませんかロータス様?」
ソリュシャンの理由のわからない恥じらいに一瞬混乱するも、もしかしたら貞操観念についてもシモベの中でかなり差があるのかもしれないと思い至る。
これもアインズに相談しないといけないか。
「ソリュシャン様、もし私が恐れ多くも陛下のお立場でしたら娘を許可なく孕ませた男などが居たら間違いなく存在を消しますよ」
「あら、随分と苛烈ですわね。分かりました、私達の方でもちょっと考えておきますわ」
「よろしくお願い致します」
何とか乗り切ったと思っているとバーの扉が開きアインズが戻ってきた。
「お帰りなさいませ陛下、体調の方は」
そこまで言って異変に気がつく、飲んでいた時の穏やかな笑みではなく固く唇を結びやや瞳を潤ませている表情から、悪戯は思っていたよりも上手く行きすぎてしまったことが分かった。
「ただいま戻りんす♪」
何かに耐えているアインズとは裏腹に彼の影から出てきたシャルティアは肌にいつも以上の艶があり上気した頬と輝きに満ちたその瞳からバーに居た全員が全てを察した。
「皆すまない、思っていたよりも、気疲れしてしまった様でな、今日はもう、休ませてもらう、ソリュシャン、済まないが頼めるか」
「は、はい畏まりました」
最早自らが楽しむ隙のないアインズの様子からソリュシャンはゆっくりとアインズを気遣いながらバーを後にした。
「へいマスター!輝かしい本日を記念した美酒を頼むでありんす!」
上機嫌で酒を頼む周りが見えていないシャルティアに少し頭を抱え、クラヴゥを一人にする訳にはいかないという思いから俺とエントマは席に座り直した。