結局アインズはその日昼まで部屋から出ることはなかった、担当メイドや業務で関わるアルベドは動揺していたがそれとなく言いくるめることはできた。
しかしそれは長くは持たない、昼食後俺は担当メイドが引き止めるのを無視してアインズの私室に入った。
「お疲れ様です陛下、体調の方はどうですか?」
アインズは何も答えることなく布団に包まったままであった。
しかしシモベたちの手前いつまでもこの状況でいる訳にはいかない、彼が頭まで被っていた布団を引き剥がし、それを止めることができなかったメイドは卒倒した。
「ご容赦を陛下、お休みになるのは構わないのですがタイミングが悪すぎます」
「……ロータス」
アインズはうつ伏せのままこちらに顔を向ける、眼窩を照らす赤い光はいつもよりも弱々しく彼が精神的に疲弊しているのは見て取れた。
「とりあえずひとっ風呂行きましょう、ただ担当メイドの方を卒倒させてしまったので別のメイドを呼び出すのが先ですがね」
俺はそう言ってナイトテーブルに置かれたハンドベルを鳴らす、音が鳴るのと同時に部屋にメイドが一名入室し卒倒しているメイドの姿を見て困惑していた。
「すみませんが本日の担当を交代して頂きたく、私の行いで気をやってしまった様ですので」
「かしこまりました」
「ただこれ以上騒ぎが広がるといけませんので、そちらの方はとりあえず陛下のベッドで休んで頂きましょう」
「そ、そのような!?」
悲鳴を上げるメイドにアインズはゆっくりと起き上がって向き直る。
「良いのだ、今回の件は私の不徳とする所。ロータスなりに私を気遣った故に起きた事故だ、ただ不運にも担当の日にこの様な事態になってしまったのだからその埋め合わせの為の処置だ」
「で、ですがアインズ様!我々の様な者がアインズ様の、その、寝台に……」
「その様に自分を卑下することを私は望まぬ、どの道私は部屋を出るのだからその間フォアイルを休ませる程度であれば構わぬ」
アインズの言葉にメイドは言葉に詰まるも数瞬の内に絞り出す様に答える。
「畏まり、ました」
「すまない、苦労をかけるな」
「いえ!アインズ様におかれましては思うがままお過ごしいただき、それを補わせて頂くのが我々の役目ですので」
労われながらアインズが離れたのを確認するとメイドはフォアイルをベッドに寝かせる、そして青白い顔を浮かべ意識を失ったままのフォアイルを羨ましそうな目で見つめアインズの後に続き、俺達は部屋を後にした。
俺の言動に合わせ支配者然とした振る舞いをした所を見ると、冷静に考えることが出来る程度には回復したか。
……
俺とアインズは若干距離を開けつつも横並びに広い浴槽に浸かっていた。
軽く口を開けたままぼんやりと天井を見つめたままのアインズを見ていると流石に胸が傷んできた。
「すみませんアインズさん、シャルティア様を甘く見ていました」
「いや、良いのだ、覚悟は、覚悟はしていたのだ、ただその覚悟では、足りなかっただけだ」
呆然としたまま万全と答える様子から彼が負った傷の深さが伺いしれた。
「正直まだナザリックを舐めていました、あちらでも苛烈な女性の相手をすることはあったのですが、予想以上でしたね」
「だろうな、シャルティアは、エロゲ好きが性癖と理想を詰め込んで創造した者だからな……あんな行為が存在していたなんて知らなかった、本当、知らなかった……」
それだけ言ってアインズは自らの身体を抱きしめ震え始める、それだけで彼が受けた強烈な攻め苦を想像させた。
「いや本当に申し訳ないです、焚きつけすぎました。頭吹き飛ばされたのでちょっとした憂さ晴らしのつもりだったんです」
「お前……」
アインズは非難の目をこちらに向けたものの諦めた様に視線を戻す。
しばらく無言の時間が続く、浴場は湯口から出てくるお湯が水面を叩く音のみが響いていた。
「……まあそうだよな、一回頭殴られて死んで、今度は頭吹き飛ばされて、その原因が……フフッ」
アインズが笑い始め振り向けばツボに入ってしまったのか必死に笑いを堪えていたものの、やがてそれを抑えきれなくなり大声で笑い始めた。
すぐに精神を抑制されその声は急速にしぼんでいったが。
「初めて見ましたけどそれかなり辛くないですか?」
「ああ、煩わしくはあるが助けられることの方が多いからな、もう慣れてしまったよ」
自嘲気味に言いながらもこちらを見ればアインズはまた笑いを堪え始めた。
「ちょっと笑い過ぎじゃないですか?」
「いや、フフッ、折角転移したのに、フッ、死亡原因が、フハハッ……他人の痴情のもつれだぞ?千年先でも笑えそうだ、フハハハハッ」
精神を抑制されながらも笑い続けるアインズに僅かながら怒りを覚えるも仕方ないかとそれを飲み込む。
「……頃合いを見てまたシャルティア様けしかけますね」
「おいそれは本当に止めろ、滅茶苦茶怖かったぞ、アルベドとはまた別種の恐怖だった」
「ハハッ死の支配者を恐怖させる愛ですか、それはさぞ恐ろしかったでしょうね」
「ホントにあの恐怖は経験した者にしかわからないぞ、ああ、思い出すとまた」
シャルティアとの行為は最早アインズのトラウマとなってしまった様で、また震えだした彼を見て少しだけシャルティアに同情した。
「ま、これを機にお二方の躾にも気を配ってくださいね、正直言ってもう仲間に殺されるのも頭潰されるのも御免です」
「仲間……そうだな、絶対に次がない様に私も留意しておく。それが男としての覚悟なのだろう」
「とりあえず、アルベド様をどうにかしておいてくださいよ、いわばアインズさんの童貞を先に取られていますから」
「ど、ど!……いや、実はそれはまだだと思うのだ」
「は?」
あんだけ絞られた風を装っておいて本番してなかったのかコイツ。
思わず怒りが込み上げそうになるも震え始めたアインズの様子からもっと深刻なものだと察した。
「その、ナニには一切触れられた記憶がないのだ……だが他の部分、文字通り頭の先からつま先までを凄まじい程に、責め立てられ……それに快楽を感じたのはほんの最初だけだった、時間が経つ程に感覚だけがどんどん強まっていき、それでも、それでも決して達することはなく、最後の方は記憶が途切れ-」
「大丈夫ですアインズさん!落ち着いてください!今後それを経験することはないです!忘れてください!」
必死に叫びながらそう告げると徐々に震えが治まっていき目の光が戻ってきた。
あの馬鹿童貞にアレをしたのか、というか薬を使わずに技術だけで?あり得るのかそんなこと。
過去に受けた実験を思い出し思わず背筋が凍った。
今まで散々いたぶられてきたこの俺が経験したことのないものを経験させてしまったことに流石に後悔が募る。
「とりあえず今後はアインズさんが絶対に攻めに回りましょう、シャルティアはそうですね……何か彼女の性癖とかご存知ではないですか?」
「せ、性癖!?あ、いや……うーむ」
「安全の為です、シャルティアの技術は最早兵器です、私も近い拷問を受けたことがありますが話だけ聞けば私が受けたものの完成形の技術を彼女は持っています。慣れ……慣れるかアレ?」
「ご、拷問……ロータスお前前から思っていたがあちらでどんな生活をしていたのだ?」
「製薬企業上層部の実験動物兼愛玩動物です」
「え、ええ……そんな創作上の生活送ってたのかお前……」
引き気味のアインズを無視して聞き出す、あちらの生活など話しても仕方ない。
「いやそんなのどうでも良いですから、少なくともシャルティアの弱点がわからないとアインズさんが壊れますって」
「え、あ、まあ、シャルティアは……その、前にヤツを四つん這いにさせて椅子にしたことがあってそれをかなり悦んでいたが」
「それですアインズさん、とりあえずシャルティアは今後そっち系で行きましょう、次回があれば椅子にして何か喋ろうとしたら尻でも叩いてください」
「雑だな急に!」
「正直今回の一件からあの馬鹿には少しお灸をすえるべきです、アインズさんも男なんですから仕返ししたいでしょ?」
「それは、まぁ……」
俺の言葉にアインズは少し考え込むもトラウマを思い出したのか僅かに震えてから顔を上げる。
「わかった、とりあえず次回からは私が責める方に動こう……安全の為に」
「是非に」
話しがまとまった所で俺は再び湯船に浸かりなおした。