浴場には再び静寂が戻るも程なくアインズが口を開く。
「その、非常に不躾な質問なのだが、お前本当にあちらでその様な生活を送っていたのか?」
気まずそうにそう告げるアインズにどうしたものかと考えるも馬鹿のやらかしの件もあるし話せることは話すことにした。
「そうですね、少なくとも十五歳までと十七歳からこちらに来るまでの記憶はなるべく思い出さない様にしています」
「それ程にか、あちらは確かに希望のない場所ではあったが……まさかお前の様な存在が実際にいたとはな」
「そうですね、自分でも誰かが書き上げた人生なのではと考えることは多かったです」
俺はそう言って錆色の腕を見つめる。
「始まりはよく覚えています、小学校の入学式の前日、家族で夕食を食べに行った帰りでした」
浴槽の縁に身体を預けぼんやりと浴場の天井を見上げる。
「突然でしたね、父も、母も、妹も、一様に皆様子が変わり、気がついたら息をしていませんでした」
「それは……」
「泣きながら車の中で皆の名前を呼んでました、そしたら突然衝撃に襲われ吹き飛んで意識がなくなり、目を覚ませばあちこちが傷だらけで窓のない病室で拘束されていました」
「車に乗っていたのだろう?そんなことありえるのか?」
あちらでの個人向け車両は完全自動運転、だから事故などあり得ない、あれは誰かが作為的に起こしたもの。
「そこからは文字通り地獄でしたね、身体の内外に損傷を故意に作られ、それを治療し経過観察を送るのを六年?ぐらいだったかな……繰り返していました」
「……何の為に?」
「ああ、体質が特殊だったみたいなんですよ、毒物や生物兵器に先天的な耐性を持っていたらしくて、なんか外を生身で適応できるとかなんとか」
「あの世界をか!?」
「ですね、それが原因で実験動物になりました、ただ成長すると話しが変わってきまして」
俺は幻惑の腕輪を装備して人間態になる。
「自分で言うのもなんですけど中々良い顔でしょ?お陰で実験動物の肩書に性玩具が追加されました」
アインズはそれを聞いて何も言えない様子だった。
「でまあそこから何とか隙をついてそいつの上司の愛妾になって学校に通える様になったんですよ、主人の子息の世話係として、ユグドラシルは彼の影響で始めました」
懐かしい青春の記憶が浮かぶ、すがりついて決して手放せないそれは今でも鮮明に思い出せた。
「そこからは人生最高の時間でしたね、全てが輝いていた……学校も、ユグドラシルも、仕事もあったんで寝る時間もつくれなくて二人して移動時間に寝るものだから学校に遅刻することが多かったですね」
「それは私も覚えがあるな、新ダンジョンが追加されれば最速攻略を目指して皆で乗り込み、つくりたいものができれば寝る間を惜しんで皆で素材を集めに行った……方針が合わずに喧嘩を始めた者を諌めることも……美しく、輝きが溢れた日常だった、アレを青春と呼ぶなら私の青春はユグドラシルにあった」
そう語るアインズの顔は髑髏でも分かる程に今までで一番穏やかな顔をしていた。
「ええ、本当に素晴らしかった、でもあそこに我々は戻れません」
「……そうだな、過去は過ぎていくものだ、どれだけ眩しくて欲していても決して手が届くことはない」
アインズはそう言って湯船から持ち上げた手を握りしめ決意を固めた様子を見せた。
俺はそんな決意ができる彼の姿がとても眩しく見えた。
「お互いこちらで幸福になる為がんばりましょう、直近の目標は我々に従わない真なる竜王と僭称する飛び蜥蜴と龍帝とかいう愚物を屠ってそれの素材で新しい武器でもつくるのとかどうですか?」
「それは良いな、こちらの最上位ドラゴンの素材であればユグドラシルのアイテムに負けないものが作成できそうだ」
そう語るアインズは先程の穏やかさに昂ぶる冒険心を抑えきれないといった様子だった。
「まあ始原の魔法の存在もありますから下調べは入念に行いましょう、恐らく龍帝が行使できるアレだけは我々を完全に殺すことができる」
「何度か経験したがそれほどまでに警戒するか?」
「それはそうでしょう、文字通り別世界に居る我々を呼び出せた、なら我々の存在を拒絶できる可能性は高い」
湯船から立ち上がりアインズに手を差し伸べる。
「この世界におけるワールドエネミー、それを倒して初めて私達の未来は始まるのだと思いますよ」
そう告げるアインズは俺の手を眩しいものを見るようにしながらも掴み取った。
「そうだな、ワールドエネミーか、ハハハッ実に良い響きだ、龍帝なぞよりよっぽど良い」
笑いながら立ち上がる彼の目には絶対支配者としての闇と未知を楽しもうとするユグドラシルプレイヤーとしての光が見えた。
「「アインズ・ウール・ゴウン魔導国に栄光あれ」」
指し示した様に同じ言葉を放つ互いの姿がおかしくなって笑い出してしまい、俺はそんな中悪戯心が大きくなっていくのを感じた。
「そう言えばエントマ様に見初められたので娶っても良いですか?お義父さん」
「何ィーーーーーーーーーーッ!?!?!?」
今日一番の叫びが響きメイドが浴場に駆け込んでくるまでそう時間はかからなかった。
第一部終わりです
脳内構想では第三部で終了予定ですが続きは時間と気が向き次弟になります