皮剥ぎ、交配体験、SAN値直送の新鮮な料理が楽しめるよ
デミウルゴスに案内され牧場の見学が始まった。
亜人種の種類の多さには正直驚いたが予想通りここでは人間を家畜として扱っていた。
飼育されている人間を見ればその全てが絶望に染まりきっており、流石にここまで希望を絶たれ恐怖を日常とする人間を見るのは初めてだった。
しかし慣れているとは言えかつての同種族の無惨な姿を見ても特に不快感も同情心も覚えないのは不思議だ。
カルマ値に合わせた道徳心の変質か、元よりあった自分の精神性故かは分からなかったがまだ問題はないだろう。
「飼育している羊は基本的に工芸品の素材としていてね。特に10歳程度の羊が一番品質に優れているのだが、収穫回数が多いと鮮度が落ちてしまうのが難点だね、現在は鮮度を落とさない収穫の効率化を目標としている」
「ナルホド、ヤハリ記憶操作ナドハ難シイノデスカ?」
「そうだね、便利ではあるが私達には少々難しくてね」
できないでなく難しいか。記憶の操作、改竄する技術は既に所有している者がいると見ても良いかもな。
「管理ガ面倒ニナリマスガ格差ヲ導入シテミテハ?」
「ほう格差か」
「ハイ、人間ハ浅マシサト悪知恵ヲ働カセルコトニオイテハ優レテオリマス故。現在ト同様ノ飼育組、食事ガ優遇サレテイル組、食事ト暮ラシガ優遇サレテイル組ニ分ケ、ソレゾレガ飼育環境ヲ観察出来ル飼育場ヲツクリマス、優遇サレル家畜ニハ定員ヲ設ケ家畜ノ行動、意欲如何デ飼育場ノ入レ替エヲ行ッテミテハト」
「なるほど良い案だ、僅かな希望を抱かせそれぞれ競わせる……実に良い」
悪魔は満足そうに尻尾を揺らす、加虐嗜好は強いが人間性への理解が足りない。人間種に興味がないか、もしくは経験の不足からか。
「タダ先ホドモ申シアゲタ通リ管理ガ少々難シクナリマス、逃避シヨウト奇妙ナ信仰ヲ芽生エサセルコトモアリマスカラ」
「ああアレか、どうもさくぱん殿は私より人間種への理解が深い様だね」
「……昔ノ上司ガ得意トシテオリマシタカラ、業務上同行スルコトモ多カッタノデ色々ト学バセテモライマシタ」
「それはとても貴重な経験をしたものだ、もしその方に会えることがあれば是非語り合いたいものだよ」
「エエ、参考ニナル点ハアルカト思イマス」
かつての上司も俺なんかよりこの悪魔との方がよっぽど馬が合うだろう。
「後一点気ニナッタノデスガ羊達ノ餌ハドウサレテイマスカ?」
「餌?ああ雑食だからね、基本的には悲しくも死んでしまった羊の肉を与えることが多いかな」
想像はしていたがやはりと言うべきか。
「アア、ソチラハ早急ニ変更シタ方ガヨロシイカト」
「何故かね?」
「私ノ故郷デハ恒常的ニ同族ヲ食ラウ動物ノ多クハ厄介ナ病ニ侵サレマシタ、知能ガ低下シ狂乱シテ死ニ至ル病デス。罹患シタモノノ肉ヲ食ラウコトデモソノ病ニ侵サレマスノデ、面倒デスガ対策ヲシタ方ガ無難カト」
「ふむ……そうなると残念ですが餌の変更をした方が良いか、いやはや非常に残念だ。研究用以外は餌の変更をしよう」
そう言って肩を竦めるデミウルゴスは本心から落胆した様子であった。
「研究ヲ続ケレバ解決策モ見ツカルデショウ、人間種ハ贔屓サレテイル種族デスカラソウソウ滅ビルコトモナイデショウシ」
「贔屓?」
ああそうか、疑問に思うか。
「マダコノ地ニツイテ詳シクハアリマセンガ人間種ハソレナリニ栄エテイルノデハ?」
「まあそうだね、愚かで脆弱な癖に数だけは多い」
うんざりした様子で答えるデミウルゴスの言葉から近隣地は人間種の支配領域ではないかと推察できた。
その環境で人間牧場を運営していることを考えると既に支配基盤は整え終えていることは確定だろう、全く以て厄介だ。
考えをまとめながら俺は昔考えた私怨の混じった仮説を話す。
「種族トシテ脆弱ナ割ニ栄エルトイウコトハ上位者ニ贔屓サレテイルトハ思イマセンカ?ソノ癖浅知恵ガ働クモノダカラ守ラレテイルコトヲ忘レ、自ラガ優レタ種族ダト勘違イシテイテ質ガ悪イ」
「ふふっなるほど、神に愛されている種族ですか……考えたことはなかったですが中々興味深い話だ」
話が気に入ったのかデミウルゴスは笑いを堪える様子を見せた。
正直身体的に優れている亜人種や異形種がいる世界で栄えている人類など上位者に贔屓されているとしか思えない。
亜人種や異形種に文化形成を行う知能がない可能性も高い、それを考慮しても建造物の品質や飼育している家畜の数から考えると人間種はそれなりの規模の国家を形成していてもおかしくない。
被捕食者がそこまで栄えることができるなど上位者の介入を考えた方が自然だろう。
その後も見学は続いた。回復魔法の実験、ポーションの実験、環境適応実験、亜人種との交配実験。
有用な実験も多いが趣味とも思える無意味な拷問もいくらか行われており、一通り説明が終われば休憩所に案内された。
他の粗末な施設と比べるとかなり整えられており、この休憩所だけ文明レベルが二段階程度は差がありそうに思える。
「さあ座ってくれたまえ、今飲み物と軽食を持ってこさせよう」
「失礼致シマス」
木製の椅子は品質も良く元より重量が増えた身体で腰掛けても軋むことなくしっかりと支えてくれた。
「さて、一通り案内したがどうだね?」
「ハッ、趣味ト実益ヲ兼ネタ素晴ラシイ施設デシタ。モシ叶ウナライツカ研究成果モ教エテイタダキタイモノデス」
そう言うと女の悪魔が芳しい香りを放つよく焼けた肉と飲み物を持ってきた。
こういった料理を食べたことがない訳ではなかった。だが眼の前に置かれた肉は今まで見て食べてきたモノとは比べ物にならない程食欲を刺激されるものだった。
「コチラハコノ牧場デ生産サレタモノデスカ?」
「そうとも、たまにはこういった食事をとるのも良いと思ってね。調理は専門の者に任せているから味の保証はするよ」
そう言いながらデミウルゴスは肉を切り分け口に運んでいく、それに倣って俺も肉を切り分け口へ運び咀嚼する。
―美味い
その肉はあちらで食べた合成肉とは比べ物にならない程美味であった。
「素晴ラシイ味デス、今マデ食ベタキタモノトハ比ベモノニナラナイホド美味デス」
「それは良かった、よく味わってくれたまえ」
俺はしばらくその肉を味わうことしか考えられず、肉がなくなったところでタンブラーに刺さったストローを咥え口内の油を洗い流した。
「素晴ラシイ食事ヲ有難ウゴザイマシタ」
「ええ、気に入ってもらえてなによりだ。あまり食事を重要視していなかったが、こういった娯楽も悪くないね」
そう言ってカップに口をつけるデミウルゴスはとても穏やかな様子だった。
「本日ハ不肖ナル我ガ身ヲ歓迎シテイタダキ感謝致シマス、実ニ幸福デ実リアル一時デシタ」
「そう言ってもらえてなによりだよ、私もさくぱん殿から学ばせてもらったことを活かして仕事に邁進しよう」
「エエ、私トシマシテモデミウルゴス様ノ更ナルゴ栄達ヲ祈ッテオリマス」
「しかし」
カップを置いて笑みを消したデミウルゴスがこちらを注視する。
「さくぱん殿はこれからどうするんだい?正直君の様な実力者はあまり見たことがない、私個人としては我々の下で働いてもらえると助かるのだが」
「大変光栄ナ提案ナノデスガ……コノ地ニ来テカラマダ数時間シカ経ッテオラズ、不敬ダト思イマスガヨロシケレバ支配地ニツイテ教エテイタダケルト」
「……まあ他でもないさくぱん殿の願いだ、我々の支配地について説明をしようか」
デミウルゴスは少し思案したが控えていた魔将に目配せをし、テーブルと同じ大きさの紙を広げる。
俺は広げられた地図を見た瞬間感情の発露を抑えられず体が動いてしまった。
地図には忘れることができなかったものが描かれていた。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの紋章。
俺は運命を呪うと同時に衝撃に襲われた。