転移門を抜けた先は荘厳な空間だった。
両壁にある柱からはアインズ・ウール・ゴウンの紋章が描かれた旗が飾られ、見えない天井から吊るされた巨大なシャンデリアが照らす玉座に魔王は居た。
俺はパンドラズ・アクターの手を借りて跪き支配者の言葉を待つ。
「……お、面を上げよ」
動揺した様な声色が聞こえ、そこに残った人間性が垣間見え安堵する。
「此度ハ不肖ナルコノ身ヲオ招キ頂キ深ク感謝ヲ申シ上ゲマス、私ハサクサクパンダ、数時間前コノ地ニ転移致シマシタプレイヤーデス」
「そうか、さぞ戸惑いもあるであろうが……その、腕はどうした?」
「私ノ境遇ヲ知ッタ配下デアル皆様方ノ心痛ヲ和ラゲル為ノ処置デ御座イマス、私ハ以前アインズ・ウール・ゴウンニ敵対シナザリック地下大墳墓ニ攻メ入ッタ過去ガアリマス故」
「はっ!えっ!?……そうか、あー、し、しかしそれでは不便であろう」
アインズはそう言うとアイテムボックスから宝玉がはめられた短杖を取り出し回復魔法を行使する、数秒も経たず切り落とされた二対の腕が再生され頭を下げる。
「ゴ慈悲アル配慮ニ感謝申シ上ゲマス、此度アインズ様ニオ目通リデキタ幸運ノ返礼ニコチラノ品ヲ」
正直に言えばまだ不安はあったがここまで来てしまえば躊躇うことは愚かだろう、俺は韋駄天の足輪を外し、眼の前に来たアルベドに恭しく差し出した。
「ソチラハ私ガ所有シテオリマスワールドアイテム、韋駄天ノ足輪トイウモノデス。我ガ忠誠ノ証トシテソチラヲ捧ゲマス」
「ワールドアイテム!」
アルベドから受け取った韋駄天の足輪を早速解析するアインズ、非常に興味深そうに韋駄天の足輪の効果を確認している。
「能力ニ癖ガアル為アチラデハ完全ニ扱ウコトハデキマセンデシタガコチラデハ可能カト」
「効果は速度上昇、のみか?また変わったワールドアイテムだな」
「エエ、タダ流石ハワールドアイテムト言ウベキデスカ。上昇値ノ上限ヲ確認デキタコトガアリマセン、周囲ノ知覚ガ不能ニナルホド速度ヲ上昇サセタコトモアリマスガソレデモ上限ニ達スルコトハアリマセンデシタ」
その言葉にアインズは再び興味深そうに韋駄天の足輪を観察する。
「以前ソチラヲ装備シタ状態デソチラノタッチ・ミー様トPVPヲ行イマシタガ、敗北シタ時完全ニ心ガ折レマシタ」
「ほう、たっちさんと!……そう言えばそんな話しを聞いた記憶があるな、やたら素早いヤツがいたとか」
「エエ、恥ズカシナガラ事前ニ色々ト仕込ンデイタノデスガ……ソレデモ真正面カラ返リ討チニアイマシタ」
「フフフ流石我がアインズ・ウール・ゴウンが誇るワールドチャンピオンだ、そうか、君はたっちさんと、フフ」
過去を思い出し思わず力が抜けていき、アインズはそれをとても嬉しそうに穏やかな声で懐かしんでいた。
しかし本人や配下が発する和やかな空気に満たされた中で背後のアルベドの様子には気がついてはいない様だった。
「サテ思イ出話シハコノグライニシマシテ本題ニ入リマショウ」
「ふむ……うむ、そうだな」
アインズは僅かに寂しそうにし、韋駄天の足輪をアイテムボックスに入れて居住まいを正した。
「先ホド申シ上ゲマシタ通り、私ハアインズ・ウール・ゴウンニ忠誠ヲ捧ゲル所存デス。コノ地ニツイテハマダ何モ知リマセンガアインズ・ウール・ゴウンガ存在スル時点デコノ地ニ覇ヲ唱エルノハ容易イコトト確信致シテマスユ故」
「うむ、私としても強者の恭順は歓迎するところ、我がアインズ・ウール・ゴウン魔導国に貢献することを期待する」
「ハッ!アインズ・ウール・ゴウン魔導国の為粉骨砕身尽クシテイク所存デス。ツキマシテハ私ノビルド、戦闘方法ニツイテデスガ」
その言葉にアインズは手を上げつつ首を振る。
「いや、さくさくぱんださんの言葉は有難いがそれには及ばない。まだ我々に思う所もあるだろう」
「ゴ配慮真ニ嬉シク思イマス、シカシ配下ノ皆様方ニモ得体ノ知レヌ私ニ対シテ思ウ所モアリマショウ」
「そうか……それでは聞かせてもらおうか」
「ハッ、戦闘ニオイテハ所謂回避タンクト呼バレル役ヲ勤メテオリマシタ。ゴ覧ノ通リ種族ハ蝗人レベル10、昆虫の戦士レベル10、蟲王レベル10。職業ハ剣聖レベル10、弓聖レベル10、気功闘士レベル10、虫使いレベル10、司令官レベル10、韋駄天レベル10、忍者レベル10とナッテオリ索敵モソレナリニ得意トシテオリマス」
「タンクか、運用は違うが役職としてはアルベドに近いな」
名前を呼ばれアルベドが怒気を孕む、わざとやっているのかと疑問が浮かぶがすぐに振り払った。
「ソウナルカト、他ニ不意打チヤ暗殺ヲ得意トシテオリマスガ、別ノ分野デノ貢献ヲシタイト考エテオリマス」
「ほう、それは何故かね?」
「デキナイトハ申シマセンガ私ハ少々目立ツ種族ト思ワレマスノデ、後ハ私カラプレイヤートアチラニツイテノ情報ガ漏レル可能性モアリマショウ。ソレニコチラデ認メラレル働キヲスル前ニ諜報活動ニ従事スルノハ問題ガアルト愚行致シマス」
「それは尤もな意見だな、私としては貴方を信頼しても良いと思っているが皆に認められる前に要職を任せるのは問題があるか」
アインズは顎に手を当て思案し、思い当たったことがあったのか口を開く。
「そうだ、さくさくぱんださんにはナザリックにおける福利厚生についての提案をしてもらおうか」
「福利厚生、デスカ?」
その言葉にアインズは鷹揚に頷く。
「うむ、実は先日とある国家、スレイン法国と言うのだがそちらへの報復行為が一段落ついてな。活躍した守護者各位への褒美を考えているのだが案がまとまらずに難儀している、ほら褒美を与える者にそういったことを聞いては楽しみが減ってしまうだろう?」
「ナルホド、優レタ働キヲシタ者ニ見合ッタ対価ヲ渡ス、陛下ハ実ニ徳ニ満チタ御方デアラレル」
「世辞は良い、それに上司としては嬉しいことではあるが皆やや働きすぎてしまう所があってな……私としては趣味に打ち込む時間がもう少しあっても良いと思うのだが」
「何をおっしゃいんすアインズ様!魔導国の為に身を捧げることこそ我らが役目!無為に過ごす時間などありんせん!」
おかしな廓言葉を吸血鬼が発せばアインズは困った様な雰囲気を出す。
「……フム、デアレバ幾ツカ提案デキルモノガアリマスガ褒美ノ件モアリマスノデ別室デ会議ヲ行イマショウカ」
「お待ち下さい!」
話しがまとまりアインズが立ち上がった所でアルベドが声を上げる、これは想像こそしていたが余りにも。
「ワールドアイテムを供出したと言ってもまだ私はこの者を信用することはできません!そんな輩をアインズ様と二人きりにするのは憚られます!」
「……アルベド、私はさくさくぱんださんを信用しても良いと先ほど言った筈だ、だがお前らの気持ちを慮って要職には就けない、あくまで相談役だ、それでもまだ不満か?」
苛立ちを隠さないアインズの声に冷や汗が流れる思いだった。
「オ待チヲ陛下、アルベド様ノゴ懸念ハ尤モデス、私ハマダ信用デキナイ点ガ余リニモ多イ存在。偉大ニシテ至高ナル陛下ノ安全ヲ考エルコトハ守護者トシテ当然ノ行イデス」
そう告げればアルベドはこちらを睨む、相変わらず濃密な憎しみが込められていたが戸惑いが見てとれた。
「アルベド様、今ハ亡キ我ガ主人ニ誓ッテ陛下ノ全テニ傷一ツツケナイコトヲオ約束致シマショウ、証トシテ貴女ノ斧ヲ拝借シタク」
何をするか分かったのだろう牧場に居た面々は動揺し、俺は戸惑うアルベドから斧を優しく取り上げると絨毯から離れ磨かれた黒曜石の様な光沢を放つ床の上に立つ。
「皆様方ハ何一ツ間違ッテオリマセン、今カラ行ウノハ必要ナ処置デス」
それだけ告げると俺は呼吸を整え覚悟を決めると自分の両足を切り落とし、次に左腕二本、最後に右腕二本を切り落としその場に崩れ落ちる。
正直できるかは分からなかったが適応されたスキルの恩恵で作業は問題なく行えた。
「グ、ゴ、コノ場ヲ汚シテシマッタコト真ニ申シ訳アリマセン、オ手数デスガ止血ダケシテイタダキタク」
誰もが動かない中俺と同じ蟲人の配下がゆっくりとこちらに歩みを進めた。