リラとともに暮らす生活が幾日も続き、ティナは笑顔を浮かべられるように復調した。
随分と昔のことのように感じられるが、ティナはごくごく普通の村娘として生きてきた。その頃よりはるかに豪勢な食事を振る舞われ、それでいて食っちゃ寝している今の環境に甘えてはならないと、リラの仕事を手伝いたく思い始める。
「リラちゃん。わたし、もう大丈夫だから。お仕事があったら手伝わせて」
そう告げると、リラは少しばかり不安そうな表情を浮かべた後、条件付きながら承諾してくれた。条件とはリラに随伴し、手伝うのみに限る――というものだ。
炊事、洗濯、そして清掃。一般的な城勤めの侍女と似たような作業が主である。ティナはどれも得意としていたが、リラの手慣れ方はティナから見ても群を抜いていた。以前は単独でこなしていたそうだ。最近は給仕隊に任せきりになり、リラはフェルターの副官としての活動に専念しているらしい。
唾王城には現在、ギフトホルダーと給仕隊で二十名以上が生活している。地下牢には亜人が、城外には魔術で洗脳された奴隷傭兵が生活しているが、給仕隊の仕事に彼らの世話は含まれていない――どころか、基本的に接触を禁じられている。
何故、とティナがリラに尋ねると。
「だって、連中には奴隷契約がかかっていないから。みんなが襲われちゃうでしょう?」
と至極もっともな返事があった。
一通り、作業の体験を終えた。リラは満足そうにうなずいていて、ティナは久しぶりに充実感のある喜びを感じた。
それからリラの方に仕事へと向かうことになり、ティナはリラに帯同した。監視という名目がなくとも、ティナはリラから離れたいとは思わなかった。まだ城内の構造に不慣れだからだ。
「……すごく広いね」
「あ、そっか。説明忘れてた。唾王城はね、所属しているギフトホルダーの魔力量で成長するの。厳密には余剰魔力を使って、必要な施設を魔術師型が敷設する。だから不意に構造が変化したりはしない。そして、部屋を増やしたらすぐに地図が各階に伝達されるから、地図を見れば迷ったりしないはず」
リラはちょうどふたりがいた階層の地図を見つけると、ティナに見せてくれた。かなり広いが、構造は単純だ。地図には各部屋の詳細もある。迷う可能性は低いだろう。
「で、今から向かうのがここ」
リラが示したのはアルガナの工房だった。リラの暮らしていた魔導森林の領主だった眷族だとリラからは聞いている。他にもギフトホルダーの人となりや分類などは事前に教えてもらっている。それだけではなく、唾王フェルターとリラが七女神を倒そうとしていることも、そのために何をしているのかも聞いている。
七女神の打倒。
直接的に各国の戦争に関与せず、秩序体系にも組み込まれていない村で生活してきたティナにとってさえ、あまりにも遠大な望みだと思った。
天蓋を割るような、空を砕くような――そんな、夢見ることも難しく、達成してどうなるかも予見し難い。端的に言えば、理解し難い。
だが、ティナはリラに――そして顔を合わせたこともないご主人様、フェルターに従うつもりだった。他に生きる動機もなく、庇護してくれる唾王城以外では、きっとティナには肉奴隷としての生き方しか許されないだろう。
イヌ。
元々リラが自嘲するために名付けた蔑称らしい。ティナともうひとり、ゴブリンの巣穴から救出された女性。イヌが増えたことで、その呼び名を奴隷型とするようリラが決めたのだとか。ただ、当のティナからしてみたら、イヌでも奴隷型でもあまり印象は変わらない。
こんな体質である限り、ティナは雄を狂わせる。
考え事をしていたせいで、リラにぶつかりそうになって、慌ててティナは足を止めた。リラが心配そうにティナの瞳をのぞき込む。曖昧に笑って首を振った。
どうやら目的地に到着したようだ。リラはノックをして名乗ると、すぐに扉は開かれた。
「失礼いたします」
「失礼……いたします」
恭しく頭を下げ、入室の挨拶をするリラを見習って、ティナも試してみる。カチコチで無様だったが、幸い部屋の主もリラも笑いはしなかった。
「リラに――ティナじゃったか? む? 奴隷商の話だと思ったが――違ったか?」
アルガナが顔を引きつらせた。
「待て、リラよ。確かにその娘は我が魔導森林内で推し進めた計画の被害者ではあるが――実行犯はセラニアじゃろ? 調教するなら奴にせい」
「魔導森林の領主だったのですから、領内のギフトホルダーはあなたの手下でしょうに。簡単に部下を売らないでください」
「我は我が一番かわいい」
背を反らして、豊かな褐色の乳房を強調しながらアルガナが言った。
「アルガナ様らしいですが。そもそも領主やら眷族やらのプライドはないんですか?」
「あるつもりじゃったが気が変わった。汝の非道な調教にあんなザマをさらしたからの。否――違うな。領主だの眷族だのは位階に過ぎぬ。ギフトホルダーも、民も眷族も。そして王さえも。その本質は女神の奴隷よ。故に鞍替えはさせられたが、やってることはなにも変わらん」
「それを理解できたのなら、調教したかいがあったというものです」
「それで――奴隷商の話で良いのか? その娘の前で?」
アルガナがティナを見た。本能的に恐怖を覚えるほどの美貌に、ティナは身を強張らせた。相手はティナが暮らしていた領地の主だ。本来、雲の上の相手である。
「ええ。私たちがどのようなことをしているか、知ってもらいたいですし」
「……知ったところで選択肢があるわけでもなかろう? その娘からすればこの城は楽園じゃ。楽園なんてものは歪みを外に吐き出しているに過ぎぬ。領主は民へ。富豪は貧民へ。だからこそ楽園は楽園たり得る」
「ご説諭どうも。ただ、選択肢はありますよ。積極的に関わるか、ただ暮らすだけか。関わるのなら、知っているべきです」
「圧をかけるな、圧を。わかった。話を進めるとするかの。奴隷商について、我の知っている限りで話をする必要があるな」
視線を再びティナに戻し、心なしか楽しげにアルガナは言った。
「奴隷商といっても一般奴隷傭兵や奴隷娼婦とはなんの関係もない。奴隷傭兵は働き先のない連中に最低限の衣食住を提供する代わり、戦地へ徴兵可能な連中だ。こやつらを管理しているのは領地で奴隷商に非ず。多くは男じゃが女もいることにはいる。女は普通奴隷娼婦になる」
自分を襲い、監禁し陵辱の限りを尽くした彼らが、そういった存在だということをティナは今になってはじめて知った。
「奴隷商が売買するのは基本的にギフトホルダーじゃ。名を馳せたギフトホルダーが当然高くなる。仮に東方の領主が、剣姫庭園あたりで売買されても、あまり値はつかぬ。地産地消が一番じゃな。ただ、奴隷商から買ったギフトホルダーは領地への届け出が必須となる。よって、剣姫庭園のギフトホルダーを剣姫庭園内で売買はできない。領地から強制的に没収されるのでな」
「届け出しなかったり、誤魔化したりする人はいないんですか?」
「良い質問じゃぞ、ティナ」
アルガナはティナの頭に手を置き、優しく撫で回した。
「結論から言えばそれはない。奴隷商側からも領地へ届け出がある。結託もありえん。奴隷商からすればそのような真似をする旨味はない。何故なら剣姫庭園のギフトホルダーなら魔導森林でも同等の額で売れる。敵対していたギフトホルダーは奴隷でいてもらった方が都合がいい。仲間にしようとしても、信頼はしきれぬしな。購入者とて巨額を払うほどに富める者じゃ。後ろ暗い真似は避けざるをえんよ」
だいたいティナは話を理解できたと安心する。要はギフトホルダーは出身領近隣の領地で売買するに限る、ということのようだ。
「ここで問題になってくるのがギフトホルダーの定義じゃ。我らはギフトホルダーを『優れた能力を持つ者』――としておる。じゃが、この場合におけるギフトホルダーは『ギフトホルダーだと知られている者』となる。後者の区分けはひどく曖昧であろう? 領地がギフトホルダーと認めた――ではないわけじゃからな。何せギフトホルダーとは国家の重要な戦力。領主やその周囲しか存在を知らぬギフトホルダーもおる。聞いた限りではあの変態体質――リドベダあたりがそうじゃろう。騎士団お抱えの暗殺者。それが、ギフトホルダーだと周知のはずがないからな。その矛盾を晴らすのがこれじゃ」
アルガナは言うと、胸の谷間から一枚の羊皮紙を取り出して、机に広げた。
文字くらいはティナにも読める。知らない顔だが、知っている名前だ。
アウレリア・シルヴェリス。金貨二千枚。
「手配書じゃ。地下でのみ流通している品じゃが、実は領地公認のものとなる。手配書が出回るのはな、領地からしても益があるからの。手配書によってまず、手持ちのギフトホルダーの知名度がわかる。実力や貢献に沿った評価なら問題ないし、妙に金額が高くなっている場合は護衛をつけられる。奴隷狩り――ギフトホルダーを狩るギフトホルダーを牽制できるからの」
「ただ――そうなると困ったことがありますね」
リラがそこで口を挟んだ。
アルガナはティナを見て、リラは言葉を続けない。どうやら、ティナに振られた試験のようだ。しばし考えてから、自信はないが気になる点が見つかった。
「ギフトホルダーじゃなくても、手配されたらギフトホルダー扱いになっちゃう?」
「その通りじゃ。加えて、手配されていなければギフトホルダーも売買できる。こちらは今の我らにとって優位に働くのう。そなたらのような奴隷型を買い集めれば、その中にギフトホルダーが混ざっている可能性がある」
あ、とそこでティナはリラの目的を理解した。ギフトホルダーを集めて、ご主人様を強くしたいというのもあるのだろうが、同時にリラは自分のような奴隷型を庇護したいのだろう。
「さて。ここからが本題じゃ。我は元々売る側じゃったので伝手はある。無論インキュバスを使ってじゃ。さらに奴隷商に怪しまれぬよう、我のインキュバスどもは魔導森林内で公的な身分を与えておる。この時点で魔導森林の奴隷商からは問題なく買える」
アルガナは自慢げにそこでまたも胸を張った。大きな胸部を猫背で隠し気味のティナは、羨ましささえ感じた。
「それだけではない。そのインキュバスを各領へ正式な手順で転居させる。さすれば多方の奴隷商から買い集めることも可能となる」
「鉱山も開いたので随分と資金繰りも楽になりました。アルガナ様。買えるだけ買っていきましょう。それと、現存する限りの手配書も買い集めてもらえると助かります。ハゲに護衛をつける場合、レビア様とカリスタ様が適任――というか、それ以外の方は不適格なのでご注意ください」
「うむ、留意しておこうぞ。何かあれば、すぐに知らせる」
「随分と、楽しそうですね?」
リラが言うとアルガナは艶美に歪めた唇を、舌でゆっくりとなぞった。
「うむ。はっきり言って心が躍っておる。カサンドラの気持ちがよくわかるわ。剣姫も、他の眷族どもも、王も、七女神も――。高慢ちきに我らを睥睨する連中が地べたに這いずる様を想像するだけで濡れてくるわ。――ティナよ」
不意に水を向けられ、ティナは目をぱちりと見開いた。
「そなたはもっと楽しいぞ。我よりはるかに多く、絶景を見れるじゃろう。弱き者を嬲るなど愚の愚。強く優れた超越者どもが落ちるその瞬間こそが至福である」
「ティナに変なことを吹き込まないでくださいね」
と言いながら、リラはリラで、ティナの前では決して見せないような酷薄な笑みを浮かべていた。
一瞬、そんな都合の良い夢を見ていたのだと、ティナは錯誤した。
口を陰茎で塞がれ激しく喉を突かれながら、片足を上げた姿勢で背後から子宮を穿ち抜くように膣も埋められている。
あの地下牢で見た夢の一幕だったのではないか――と思ったのもつかの間。視界を塞ぐ雄の腹が緑色なのを見て、自分の状況を理解した。
オーク。
女性の天敵として名高い亜人だ。
ティナの意識が戻ったと気付いたのか、前後のオークが腰の速度を速めた。意識して膣を締め、丹念に極太の陰茎を舌で刺激する。口内で脈動を感じ、直後に臭い汁が放たれる。オークに満足という概念はなく、すぐに抽送は再開される。だからこの大量の生臭い液体は、食道に落とすしかない。
性器がこすれる湿った音に、肌がぶつかる乾いた音。そこに喉を鳴らす音が加わった。
飲精によって膣がより絞られたためか、膣を犯す陰茎も果ての前兆を伝えてきた。雌の本能は、快楽よりも恐怖を訴える。巨大な陰茎にボルチオを小突かれる刺激は、体には性感を与える。だが、オークの、射精したいという願望より、犯すという意識より、さらに前に出ているのは種付けしてやるという本能だ。
だから、膣内に射精される度に恐怖を抱く。孕ませられる――と。
「むご……っ」
言葉が通じないとはいえ、悲鳴くらいは上げたかったが、口は塞がれている。そんな惨めな音がなるだけだった。
「ティナっ!」
自分を呼ぶ声が聞こえた。透き通った湖にも似た瞳が、声によって即座に想起される。
「待って、待ちなってリラ」
「うるさいっ! 私が引きつけるから早くティナをっ」
ガチャガチャっと音がしているのは、この地下牢の鍵を開こうとしているようだった。
「レビア、片方頼めるかしら? それなら私が片方を磔にしておきますわ」
「もちろん。――リラ、退いてっ」
扉が空いた音がして、その直後に屠殺のときのような、硬い肉を切る音が聞こえた。すぐに鉄の臭い――血の臭いが精臭に入り交じる。口と膣を埋めていた陰茎も引き抜かれ、倒れ込みそうになった体を、誰かが支えてくれる。知っている匂いに、ティナは安堵した。
「ほらっ、出るよっ」
その声にティナを支える誰かは従い、牢の外に出た。背後で鍵が閉まる音がする。
ティナを支えてくれているのは、リラのようだった。リラは肌や給仕服にオークの精液が付くのも厭わずに、ティナを正面から抱きしめてくれていた。
オークを弱らせ、ティナを解放したのはレビアとヴァスカだった。
「ティナ、誰にやられたのっ?」
「わたしの意思だよ……リラちゃん。わたしもね。リラちゃんとご主人様のお役に立ちたくて……」
まだ朦朧とはしているティナだったが、みなが訝しんだのは理解できた。
「フェルターは変態だけどさあ。ティナがブタに犯されるの見て興奮するタイプじゃないでしょ。だったらリラにもしてるはずだろうし」
「そうかしら……いえ、まあそれはそうかもしれませんね。じゃあ役に立つって……?」
イヌが犯されている間は、潤沢に魔力を放出する。だから、イヌは犯されているだけで他のギフトホルダーと同程度にフェルターの力を強める。ティナが教えられた情報を、どうやらレビアやヴァスカは知らないらしかった。
それきり、場に集った面々は沈黙する。暗い地下牢に響きわたるのはオークの呻き声だけになった。痛みに喘ぐだけではなく、報復できる悦びが感じられる声だった。
「ひとまず、治療しないと……」
リラがティナを抱きかかえようとして、ヴァスカが手を貸した。流石はギフトホルダーで、その細腕からは想像もできないくらいの力で、ティナはヴァスカに抱えられる。
地下牢を上がり、唾王城一階のエントランスに出たところで、ヴァスカが足を止めた。
「ティナさんは……」
声に反応してティナが虚ろな目を向けると、そこには悲しそうな目をしたルクレティアの姿があった。唾王城にやってきたのはティナより後だったが、ルクレティアは心身ともの治療に長ける。ティナが日常生活を取り戻せたのはリラだけでなく、ルクレティアの奮闘も大きい。
手近な部屋に運ばれ、寝台に寝かされる。リラが濡れた布で精液塗れのティナの体を拭き取り、ルクレティアがティナの体を診断する。レビアとヴァスカの両名も部屋に控えたままだ。
ティナの思考力は既に戻ってきていたが、彼女は沈黙を貫いた。それがリラを心配させてしまっていると理解しつつも、誰がティナを唆したのか、尋ねられることになる。
「抹香臭い雌豚。ティナを助けられなかったら私直々に調教してやるから」
ルクレティアの首には赤い首輪が嵌められている。ルクレティアは他のギフトホルダーと違い、フェルターに奴隷宣言をしていない。仮に治術を用いる段になれば、首輪を外す必要がある。だからレビアとヴァスカは監視のためにも離れるわけにはいかないのだろう。
「……大丈夫です。僥倖にも体も心も、大過ありません。ティナさん。ちゃんと聞こえていますよね?」
優しく、ルクレティアがティナの頬をなぞる。無言を貫きたかったが、リラがずっとルクレティアを睨み付けていた。観念して、ティナは小さく首肯を返した。
「誰に――とは、聞かない方がいいでしょうね?」
恐る恐るリラに目を向ける。犯人を見つけたら縊り殺しかねない恩人の姿に、ティナは再びうなずきを返した。
だが、そんなティナの庇い立ては、即座に水泡に帰した。
ノックもなく扉が開けられる。
「けけ。犯人、見つけてきたぜ。魔術師型の誰かだろうとは思ってたけどな」
懇願の代わりに、ティナはリラの手をぎゅっと握りしめた。ルクレティアが耳元で「ロザリンドですか?」と小声で尋ねる。ティナは静かに肯定してから、身を起こそうとした。ルクレティアが背中に手を回し、手伝ってくれ、ティナは身を起こすことができた。
リドベダに引き立てられたロザリンドは、入り口でうずくまっていた。両手で橙の髪を押さえつけ、遠目に見ても震えているのが分かる。
ティナがオークに犯されたのは、確かにロザリンドの助言があったからだ。イヌ――奴隷型は魔女の首輪を嵌められたギフトホルダーと同様だ。耐久力は一般人と比較して並外れており、つまりギフトである魔力炉は保有している。
自分の意思でギフトを使えなくとも、魔力を漏出させることはできる。オークによる陵辱を受ければ――それが、ロザリンドがティナに告げた内容だった。
実行したのはティナの意思だ。無力なイヌのティナでもリラやフェルターの役に立てると思ったのだ。それはリラも理解しているはずだった。何故なら唾王城にいるギフトホルダーには無数の制約がある。奴隷契約をした彼女たちは、給仕たちに危害を与えるのは不可能だからだ。
「違う、違う……。リラ様が奴隷型に執着しているなんて……計算外だった。二度としないから……お願いだから売らないで……。役に立つから。何でもするから……」
リラに謝罪しているというより、内心が直接漏れているという風だった。そこで気がついた。おそらくこれはリドベダの自白剤の影響だろう。
憤怒を飛び越えて憎悪に塗れた眼差しをしたリラの手を、ティナは両手で掴んだ。振り返る過程で、リラは笑顔の仮面を被る。怒りも憎しみも、リラはティナに見せようとはしない。だから、きっとリラの深い部分を、ティナには知る余地がない。
「リラちゃん。わたしが、わたしの意思でご主人様やリラちゃんのお役に立ちたかったの」
ティナが言うと、リラは顔をうつむかせて小さく頭を振った。それからリラの手を掴むティナの両手に、空いたもう一方の手を当てて、いつもの笑顔でうなずいた。
「ロザリンド様。何か誤解があるようですのでお伝えしておきますが。アルガナ様やヴェレディア様、不在のカサンドラ様や誓約に突出したセラニア様と比べ、魔術の技能として確かにロザリンド様は劣っています。ですが全てで劣化しているわけではありません。ロザリンド様にしかできないことはいくらでもありますし、たかが金貨のためにあなたを奴隷商に売却なんてもったいなくてしませんよ」
ティナの知る限り、それは嘘ではない。ティナはリラから唾王城所属のギフトホルダーについて詳細を教えられているが、ロザリンドにも高い評価をしていた。
「……もっとも。誤解させてしまったのは私の責任でもあるので、今回の件は不問といたします」
そう告げると、リラはリドベダとロザリンドの退室を促した。
「よかったら、後ほど私の機動教会に足を運ばれてはいかがでしょうか? お話を聞くくらいはできますので」
出て行くロザリンドの背中に、ルクレティアが優しく声をかける。ロザリンドの震えが一際大きくなったのは、きっと首肯を返したに違いなかった。
「私がここを訪れたのは天命かもしれません。唾王フェルターに囚われた皆様の心の支えになれるよう」
両手を祈るように合わせ、ルクレティアは言った。
「天命なんて、良いように受け入れますね。憶えておいてくださいね。あなたが奴隷になっていないのは、フェルター様がお優しいから。私が調教したら一晩もいらない。すぐに奴隷にさせてあげます」
輝くような笑顔でリラは、空恐ろしい発言をした。
ティナがオークに犯されていたのは、たかが半日にも満たなかった。
だから数日後には、ティナは立ち直り、再びリラの手伝いができるようになった。ただ、ひとつだけティナには悩みがあった。
寝間着に着替え、ティナが寝台に腰をかけていると、リラが部屋へと戻ってきた。表情こそ平素とさほど変わらないのだが、妙にテカテカしているというか、満たされている雰囲気がリラから感じられる。ご主人様――フェルターにご奉仕してきたのだろう。ティナの介護があった期間は、時間が足りなかったのか、リラがこの状態になることはなかった。
この状態のリラを見ると、オークからの陵辱を想起してしまい、ティナの体は火照り始める。
これがティナの悩みだ。おそらくは情交を終えたばかりのリラが引き金となって、オークに受けた輪姦が脳裏で目覚めてしまうのだろう。
言葉を交わさない暴力的な情交。はち切れんばかりに肥大化したオークの陰茎によって犯された穴が痛みと快楽を訴える。孕まされると雌の本能が確信する恐怖さえもが蘇る。
逆に言えば、もはや奴隷傭兵による輪姦を思い返すことはなくなった。心的外傷として刻まれたはずの行為は、直近のオークによって徹底的に上書きされたようだった。
「大丈夫? ティナ」
額にリラの手が触れる。リラは心配げにティナを見つめていた。
ティナは小さく首肯を返す。
ティナがこうなる原因について、ティナはリラに伝えてはいなかった。リラがフェルターを強く愛しているのはティナにだって分かった。だからリラがフェルターに奉仕するのを止めるなんてできなかった。ならば別室で暮らせばいいのだが――リラはまだティナの監視が必要と考えている。今のようにまだ復調しきっていない姿を見せては、別室での生活を許してもらえるとは考えづらい。
唯一、この問題を解消する手段を、ティナはひとりで考えついていた。性行為そのものは、唾王城にて珍しいものではない。ただ、ティナが反応してしまうのはリラだけだ。リラと他のギフトホルダーとの違いは、行為をリラ自身が望んでいるという点にある。
ティナには求めて抱かれた経験がない。ずっと犯されてきただけだ。だから、リラが満たされた姿を見て、自分には穢された経験しかないことを想起してしまうのだ。
望んでご主人様に抱かれてみたら、オークへの恐怖も上書きされるのではないか。
ティナはそう考えたのだ。
これには一点、懸念がある。リラがどう思うかがいまいちティナには読めない。リラがフェルターを愛しているのはまず間違いない。ギフトホルダーを抱くのは七女神打倒に必要だから許容できたとしても、ティナが抱かれるのを許してくれるか、ティナにはわからない。
ギフトホルダーたちと違い、ティナはリラを恐れてはいない。ただ怖いのは、リラに嫌われてしまうかもしれないことだけだった。
「リラちゃん。ご主人様は……優しい?」
だから牽制ともつかぬ、曖昧な聞き方をしてみた。
「うん。フェルター様はギフトホルダーとか眷族以外には優しいよ。なんなら今日も、私がフェルター様を犯してきたと言っても過言じゃないくらい。……ティナも犯してみる?」
意外な答えに、ティナは返答に窮した。ティナの真意を試そうとしている気配はない。本心からリラはそう告げているとティナにはわかった。だからこそ余計に、ティナにはリラの思考が読み解けない。
「……あのね。最近はオークのことしか、思い出さなくなったの。だから、ご主人様に抱かれてみたら――その後はご主人様のことしか思い出さなくなるかな……って」
「いい考えじゃない? フェルター様は絶倫だから今から行ってもお相手してもらえるよ。もし嫌がる素振りがあったら、今から伝える魔法の言葉を言えば、フェルター様は従うから」
魔法の言葉とやらを聞いて、それで抱いてもらえるのであれば、確かにフェルターは優しいのだろうとティナは理解した。
ティナがフェルターに抱かれても、リラは嫉妬などはしないようだ。独占欲に類いする感情はないのだろう。フェルターとリラの関係は、どこか歪んでいるようにティナには感じられる。どこが――と明確に指摘はできない。彼らの関係がどのように始まったのか、ティナは知るよしもないためだ。
それに――七女神という天蓋を砕き、彼らはどうするつもりなのだろう。
フェルターとリラの関係について、ティナは始まりも終わりも知らない。だから、無粋な想像をするよりは、ただ見えているものに納得するだけに留める。
ティナはリラに従って、フェルターに抱かれることにした。
フェルターの寝室に入ると、怪訝そうに彼はティナを見た。フェルターは寝台に腰掛けていて、リラを抱いたばかりであるにも関わらず、股間の逸物は猛々しく屹立している。
「あ……」
と漏らしたのは、フェルターが逸物をシーツで隠したためだった。彼の見事な逸物は、オークのそれさえ上回っていて、見ただけでティナは愛液が分泌した。
「どうした?」
尋ねられ、ティナは困る。やっていることは完全に女性側からの夜這いである。はしたないにもほどがあるし、ここからどうしていいのかティナには作法がわからない。
返答もできず、硬直していたティナだったが、沈黙に耐えきれなくなって行動に移った。給仕服を脱ぎ捨てて、下着も脱いで裸体をフェルターに見せつけた。
リラやギフトホルダーには及ばずとも、奴隷傭兵たちが喜んで犯した体だ。絶倫たるフェルターなら、裸体を見せれば抱いてくれるかもしれない――と甘い考えをした。
「……誰かに操られているのか?」
「違います……。ご主人様に気持ちよくしてもらえたら……悪い夢を見なくなるかも……って思って」
ティナはフェルターの目を見ないようにして、前に進み、シーツを剥ぎ取ろうとする。シーツはフェルターが押さえていて、彼は唾王城では出力が無制限になる。よって、びくともしなかった。
「私が――汚いからですか?」
上目遣いにして尋ねると、フェルターが苦しげに呻いた。これが、リラから伝えられた魔法の言葉である。
「リラか……。わかったよ。ただ、俺はティナに望まれたことしかしない。意地悪で言っているわけじゃなくてな。もし無力なお前やリラを壊したら――俺は元の自分に戻ってしまう」
弱々しいフェルターの声に、ティナに悪戯心が芽生えた。リラがフェルターを犯したと言った理由も心底から実感できた。
フェルターの前に膝を突いて、シーツを剥ぐと巨大な陰茎が目の前に現れた。できることなら直ぐさま膣で受け入れたいくらいには、彼女の密壺はいやらしい涎を垂らしていたが、今ではないと雌の本能が告げていた。
乳房で陰茎を挟み込む。豊かなティナの乳房でも、フェルターの肉竿を呑み込むことはできなかった。亀頭に舌を這わせる。射精したばかりなのだろう。青臭い香りに、ティナは自然と頬を綻ばせた。匂い自体は奴隷傭兵やオークと大差ない。だが、求めて手に入れたという経緯が、その匂いを馥郁たるものと変えていた。
そのまま口に咥え、乳房と口の両方で陰茎に刺激を与える。感じる。唾液と先走り汁の他に、リラの愛液だと思われる味があった。リラという友人であり、憧れでもあり、恩人でもある相手の膣をイキよがらせた陰茎が、自分の乳房と口によって性感を受けているという現実が、ますますティナの性感を高めていく。
乳房の谷間で、脈動を感じる。迫り来る奔流を受け止めるべく、ティナは口内に舌を広げた。どくとくと注がれた精液を、舌全体で味わう。今まで飲み干してきた精液とは段違いの、濃厚な汁だった。
「私が――上になります……」
そう言って、ティナはフェルターを寝台の上に押し倒すと、彼の上に跨がった。愛液はもう歯止めを失い、フェルターの腹筋に水たまりを作っている。ティナはそれでも、自分の密壺に我慢をさせて、尻穴に亀頭をあてがい、腰を下ろした。
オークによって拡張された彼女の肛門は、フェルターによってさらに開発された。淫蕩な息を漏らしながら、このまま自分で動けるよう、シーツの上につま先で立つ。拡げた股の密壺からは、絶えず雌汁が溢れ続けている。
「ご主人様ぁ。私の……いやらしいおまんこを見てぇ……」
そう望むと、フェルターは従って、視線を彼女の膣口に向けた。フェルターが言いなりになってくれるのが嬉しくてたまらなかった。
唾王城の主。幾多のギフトホルダーを隷属化し、亜人などとは比較にならない力を持つのがフェルターだ。大陸全土を見渡したとしても、彼に勝る男性がいるとは思えない。そんな相手が無力で穢されるだけだったティナの言葉に従ってくれる。
「んっ……」
肛門で再び脈動を感じる。腰を落として、ティナは直腸の奥にペニスを受け入れた。フェルターの胸板に乳房をのせて、体重をかけていく。自分の雌汁は止めどなく溢れ、互いの腹部を塗らしている。
「ご主人様……出して……」
哀願するようでいて、それはティナから降した命令に等しい。直腸に濃厚な精液が注がれる。リラとの情交を経たばかりで、既に一度ティナの口内に出しているにもかかわらず、精液は枯れる前兆さえ感じ取れない。
雌としての本能が告げる。今なら――孕める。
ティナはフェルターに尻を向ける。精液を飲み干した肛門が窄まる一方で、肉食獣の涎にも似た勢いで膣からは愛液が噴出し、肉竿を求めていた。
シーツを掴んで、ティナは尻だけを高く上げる。
「お尻を掴んで……後ろから犯して……ぇ」
左右の尻肉をフェルターの手が掴む。優しい力加減で、痛みなど欠片も感じることはなかったが、ティナにはわかった。出力制限のされていないフェルターは、このまま力任せにティナを尻肉の割れ目に沿って、真っ二つに引き裂くことも可能だと。それほどの力を持つフェルターが、意のままに自分を犯してくれる。
酷く背徳的で、劣情が加速する。亀頭が膣口にあてがわれる。訪れた快楽は一瞬前の予想を遥かに上回り、びくん、とティナの体が痙攣した。
喘ぎ声を我慢する。密肉と肉竿の擦れる音と、愛液と先走り汁による湿った音、そして、腰と尻肉がぶつかり合う乾いた音――淫靡な旋律を聞き漏らしたくなかった。
「そのまま膣内に――出してっ」
先んじて懇願する。静かな部屋の中で、再び性器同士が音を立てる。やがて三度の脈動を膣襞が感じ取る。密壺が一層締まり、奥まで突き入れられた肉竿から、やはり減じることのなかった精液が子宮に吐き出された。
ペニスが引き抜かれる。一滴たりとも精液を零さぬよう、ティナの膣口は閉じた。
孕んだ――そう雌としての本能が訴えかける。その悦びに満たされながら、ティナは振り返って、まだ堅さを維持しているフェルターの陰茎を咥え込んだ。残った精液を吸い出して、蕩けた目で彼女は味わってから嚥下した。
もう、悪夢を見ることはないだろう。たとえ誰かにまた犯されたとしても、今の快楽に勝るはずがない。二度と上書きされることのない情交を経験したティナは、満足な顔でフェルターに感謝を告げた。
奴隷商から買うといろんな戦火パターンが回収できそうだというライフハック
本筋だけで挿絵容量が溢れそうなのが不安