肌が肌を叩く音が響き、合間を汗や淫水が混じった湿った音が埋める。むせ返るくらいの精臭と雌の匂いが充満した部屋だった。
濃い藍色の髪が無造作に伸びた少女が、無数の男たちに犯されている。男の上に跨がり下が激しく突かれ、背後から尻穴を塞がれている。そんな有様でありながら、髪と同じ色の瞳は細められ、群がる男たちを睨めつけていた。下準備もなく陰茎を咥えさせれば、間違いなく噛みちぎっていたに違いない気丈さである。
イヌ。
彼女は厄介な自分の体質を自嘲混じりでそう名付けていた。
征服欲が満たされるのか、男たちは後背位で犬のように犯すことが多い。だったら自分はイヌでいい。ただし隙を見せたら股ぐらの汚い棒を噛みちぎってやる。
だが、彼女の口は開口具を含まされている。ギフトホルダーではない少女の咬筋力では開口具を破壊できず、口淫に抵抗する術はなかった。
開催を明日に控えた奴隷市場の舞台裏である。各地から奴隷商によって集められた奴隷たちは、下準備にあたる日雇い労働者たちの慰み者となっていた。
他にはギフトホルダーも幾人かが揃っていたが、一番人気はこの藍色の髪をした、無力な娘だった。
奴隷――リラ。
舞台裏だけの人気には留まらない。オークション形式で行われる彼女の、予測入札額は金貨千枚が予想されている。これはギフトホルダーでも名の知れた者でなくては付かない値だった。
理由は単純だ。幾たびの陵辱を経ても消えることのない反抗的な態度こそが、彼女の価値を高め続けている。
奴隷市場に流れてくる奴隷は、程度の差はあれ一定以上の陵辱を受け、飽きた所有者が転売した商品に過ぎない。眼前に陰茎を差し出されれば、自分から咥え込む程度には調教されきっている。現に同じ部屋で犯されているギフトホルダーたちは、嬌声を絶やさず、ただひたすらに肉欲に溺れている。
対し、リラは違った。
「おらっ、射精すぞっ。全部飲みやがれっ!」
口を犯していた男が埒を空け、口内に苦味が広がり、鼻腔に精臭が逆流する。間髪入れずに次の男が頭を掴んで、口を犯し始める。口元を塞がれ、鼻でしか呼吸ができなくなる。口淫には結局抽送が必要になる。先端を咥え込まされた状態なら、鼻での呼吸は可能だ。だから男は彼女の喉に溜まった精液に亀頭を突き込む結果となる。
すると、鼻が塞がれる。そんなことには慣れている。自分の体は窒息如きで死にはしない。誰よりリラがそれを把握していた。自分から精液を飲むくらいなら、死ぬ事もできない窒息の方が遥かにマシだった。
呼吸さえ諦めて、リラは嘲弄するような眼差しで自分の口を犯す男を見上げる。大事な売り物を壊すことなど許されない。口を犯す男はそのまま口内に射精すると、仕方なしに、開口具で口を閉ざせないリラを俯かせ、口から精液を吐き出させた。
直後、びくん、とリラの体は弓なりになって、豊かな胸が存分に揺れる。
痛みはいい。
苦しみだって構わない。
だが、膣と肛門を前後する肉棒は、彼女の体に抗いようのない絶頂を与える。紛れもなく快楽であり、だからこそ不快で耐えがたかった。
「ひゅう、派手にイキやがったなあっ。いいぜえ、締まりも滑りもよお。おら、俺の子種をくれてやるっ」
「ああっクソっ。尻穴もたまんねえっ。もう出ちまうっ!」
分かりやすくイッたリラに、男たちは好き勝手な言葉を投げかける。イッたイカないはお互い様だ。犯す者と犯される者、その両者に引かれた分水嶺は、望んで迎えたか否かに過ぎない。
口も、膣も、肛門も。手や胸の谷間でさえ、男たちはただひたすらに犯し続ける。
「すげえなあ、リラちゃんよぉ。ずっと肉奴隷やってきながら、綺麗なおまんこしてやがるじゃねえかっ」
膣内射精を終えた男と入れ違い、次の男が彼女の性器について語り出す。
ずっと――。
そうだ。
最初にこの身を犯したのは、実の父親。
悪魔の子として実の母に奴隷商へと売られた。
肉体は成長し、伴って飼い主が変わる。その合間は、いつだって奴隷市場における輪姦だった。
売られる前日にも犯されて。
売られた当日には犯される。
自分の体が幾度の射精を促したのか。
幾人に犯されたのか。
ろくに学ぶ環境を与えられなかったリラには、数える手段さえもない。
どうしても自分から腰を振らず、咥え込みもしないリラに、群がる男のひとりが業を煮やした。野太い手が彼女の白く細い首にかかり、力任せに締め付ける。
「いいぜぇ、一層締まりやがったっ。おらっ、いい加減自分から動けやっ!」
ぱんぱん、と肌が合わさる音が響く。他人事のように思いながらも、彼女の膣壁と腸壁はしっかりと陰茎を搾り、抗いようのない快楽が脳髄に奔る。
首を絞める男を、リラは冷ややかに見た。
加虐として、誰しもが首絞めに思い至る。そんなものでリラが屈服するのであれば、遥か昔に理性を溶かした肉奴隷になっている。
結局、彼らは商品を傷物にはできない。
生やさしいと言える行為でしか、彼らにはリラを犯せなかった。
人数だってたかだが三十人ほどだ。精力を回復する手段もない。尻穴から精液を注ぎ込まれてしまえば、リラは死なないし眠ることもない。さらには他にも奴隷はいた。リラの人生において、こんな過ごしやすい環境は珍しいくらいのものだ。
彼らはやがて、汚い白濁汁を出し切って満足したのだろう。リラを含めた奴隷たちを置き去りにして、部屋を出て行った。
気付けば、窓の外は真っ暗になっている。部屋を見回してみるが放心状態の奴隷たちを除けばろくな道具はない。体に付着した精液や体液を手で拭い、床に捨てる。
比較的綺麗な床を見つけて、彼女は寝そべった。板張りの床は冷たくて気持ちが良かった。
眠れはしない。直腸に射精された精液を栄養価として取り込み、彼女の体はあれだけ犯されても回復しきっている。
悪夢の中を蠢くような人生だ。眠れても悪夢しか見れないだろう。美しい夢を見るために必要な記憶が、リラにはひとつだってなかった。
それでも眠りたい。肉体的な陵辱としてはこんな気楽な日は珍しい。だが、明日は誰かに買われるのだ。
反骨心を失わない。そんな理由でリラを高額で買う連中はどいつもこいつも狂っていた。
集団による輪姦。今宵と似たようなものだ。違うのは規模と人数。そして、罪の擦り付けをされ、報復という正当性をもった陵辱者たちに与える。干魃の責任を魔女として負わされ、村の男たちに犯された。ご丁寧に手配書まで偽造され、敵軍の将として晒し台に括り付けられ、半年近くも領土中の男たちの相手をさせられたこともある。
亜人による調教。ギフトホルダーには、亜人を操る者もある。彼女らは金持ちの依頼を受け、奴隷の調教を手伝うのだ。亜人は多様な習性を持つ。オークの報復性やインキュバスの媚薬効果がそれに当たる。何よりリラが忘れられないのは、まだ胸が小ぶりだった頃、ハーキュリーに一晩犯された夜だ。突かれる度に体が裂かれるようだった。あーあー、と自分の悲鳴が雑音のように耳に届いた。痛みに苦しみ、喉が破れんばかりに叫びながら、見上げた星空が網膜に焼き付いている。
畜生による獣姦。これも獣使いや、特別に調教された動物によって行われる調教だ。野犬や豚はまだいい。獣に犯され人間性を否定されても、身体にかかる負荷はさほどではない。馬はキツいがハーキュリーに比べれば大した苦しみではなかった。最悪だったのは魔獣――それもクラーケンだ。クラーケンは多脚の海生生物――大型の烏賊だ。よって犯されるとなると水中に引きずり込まれまず窒息の苦しみを味わわされる。続くのは多脚による三穴の陵辱である。触手には微細な吸盤があるためか、分泌物に媚薬効果があるのかは知らないが、意識が飛ぶほどの絶頂を繰り返させられる。乳房や陰核も同時に刺激され、窒息しながら幾度となく達したあたりで、口内、子宮、直腸が爆ぜる。精莢と呼ばれる部位が刺激によって破裂し、精液が飛び散るのだ。永続的な窒息。断続的な絶頂。不規則な痛苦。三種の苦悶を受け続けながら、時間間隔は消え失せ、やがて自分が何だったのかさえ思い出せなくなっていく。
飼い主による強姦。
もっとも優しげに聞こえるこれを、リラは一番恐れている。無論、ただ単独で犯されるなら楽だ。どれほどの絶倫であるにしろ、人間である限りオーク以上ではあり得ない。誰にも屈服しなかった奴隷。それは壊れない玩具と同義である。少なくとも彼らからすれば。
『こうしないと勃たなくてねえ』
ねっとりとした声で言った脂ぎった男は、火の着いた暖炉にリラの頭を突っ込んで、顔を焼かれ呼吸困難に喘ぐ彼女の尻を掴むと、おっ勃てた陰茎で深々と膣を貫いた。治癒魔術の使い手だった男は、自分の精力とリラの傷を再生しながら、それはもう随分と長い時間楽しんだものだった。
だから、いつになっても売られる夜は怖い。想像できないような調教が待っているかもしれなかったし、二度と味わいたくない苦悶と再会するかもしれなかったし――普通のギフトホルダーなら泣きわめくような行為に、安堵だってしたくなかった。
気丈さなんてもうただの意地でしかなかった。快楽に溺れ奴隷になってしまえば、リラという名前くらいしか残らない。自分がどんな人間なのか証明する材料は、ただ反抗的であることだけだ。世界に犯され抜いたとしても、自分を見失うのだけはいやだった。
自殺はできない。やたら頑丈なリラの体は、多少の失血では死ねない。治療魔術がある以上、美貌を損壊するのも不可能だ。
耐久だけがギフトホルダーに匹敵するこの体は、リラの魂を現世に縛り付ける檻のようだ。
眠って悪夢を見る必要なんてなかった。追想は悪夢そのものだ。
足音が聞こえる。どうやら朝が近づいてきたようだ。交代した労働者たちが、仕事終わりを楽しむために部屋の奴隷を犯しに来たのだろう。
奴隷市場が開催される直前まで、仕事を終えた労働者たちに散々輪姦された。
外から喧噪が聞こえだした。開場が近いようだ。それに伴って風呂場で体を洗わせられた。汚れを落としたリラにムラついた連中に再び犯される羽目になった。
奴隷市場のお偉方が姿を見せ、リラが最初に出品されることになったと声をかけてくる。まだ楽しめると思っていた男たちから不満の声が出た。膣と尻穴から精液を垂らしているリラを見て、お偉方も股間の逸物をいきり立たせて、味見などと理由をつけリラを密壺に陰茎を突っ込んだ。
すぐに射精を終えた小太りの男に、風呂場に連れて行かれ、またも体を洗うことになる。
体を拭いて、風呂場を出る。服はない。オークションにかけられるのもリラは慣れていた。出品される際は全裸と相場が決まっている。裸のまま案内に従って進む。
見慣れた拘束具が見えてきた。一見すると椅子のような器具だ。座ってから両足を広げさせられ、その姿勢で拘束される。つまり、性器が見えるようになっている。頭上には両腕を封じる枷があり、椅子の下部は穴が空いていて、そこから尻がはみ出る構造だ。
「おら、とっとと股開けや。今更恥ずかしがるもんでもねえだろ」
座った彼女の太ももに、男が手をかける。リラが従わないでいると、もうひとり男がやってきて、力任せに足をこじ開けられ、拘束台にセットされた。誰かが口笛で軽妙な音を立てる。
「すっげ、あんだけヤられたのに処女顔負けのおまんこしてやがる」
そう見聞すると、男たちはリラを犯した感想を口々に語り出した。彼女の口や密壺、それに肛門の感触を思い出したのか、あんだけやってもなお股間を腫らしている。
経験から、リラはオークションの目玉商品は最初か最後に出品されると知っていた。吉と出るか凶と出るか。これまでの経験則は当てにならない。どいつもこいつも救いがたい変態ばかりだった。
拘束台を後ろから押されて、舞台袖に連れて行かれる。すれ違う男たちは彼女の無様な姿勢に野卑な笑みを向けていた。
舞台には司会がひとり立っている。観客に向けての挨拶がちょうど終わったところだ。トラブルになる直前まで、男たちはリラを犯すのに成功したらしい。
「さて。本日は目玉商品からのご紹介です。財布の紐は限界まで緩めていただきたい。目玉商品でありながら、彼女には語るべき来歴がございません。なんと――ギフトホルダーでさえないのです。長らくこういった場で司会をいたしておりますが、これほどの稀少な商品を見るのは初めてです。それでは存分にご覧ください。十年以上、奴隷市場を流れながら未だに誰にも媚びたことのない生粋の肉奴隷――リラの登場です!」
司会に言われ、リラは目を剥いて男を凝視する。
ふざけるな。そう叫びたかったが、彼女の口は開口具を嵌められている。分泌した涎が逃げ場を失い、口端から垂れるだけで、声は出せなかった。
拘束台が動かされ、彼女は性器を露出した姿勢のまま、舞台に引きずり出された。観客たちが色めき立つ。拘束台を動かす男は、観客の声に応えるように舞台の先端までリラを押す。怒りの形相で観客たちをリラは睨んだ。こんな姿勢で拘束されたままの睨みなど、価値を喧伝するに過ぎなかった。
最後に司会の男の隣に連れて行かれ、拘束台を押していた男ははけていった。
「見てください。この瑞々しい乳房を。僭越ながら私めが弾力も確かめさせていただきます」
背後に回った司会が、両手でリラの胸を揉みしだいた。
「張りもあって最高です。乳首の色合いも乳輪の大きさも――失礼、これは好みはありましょうが――極上と言えるでしょう。何よりこの豊かさ。ご自慢の逸物を挟むのにこれ以上はありますまい」
司会の下品な戯れ言に、観客たちは沸き立った。
「そして、この表情。お気をつけください。未来の飼い主様。この開口具は伊達や酔狂で嵌められているのではありません。仮にしゃぶらせる際には、治療術師のご用意を忘れずに」
などと言いながらも、司会はまだリラの胸を弄んでいる。
「見てください。それだけの抵抗心がありながら、尋常ではない愛液の量を。蜜壺とは陳腐な言い回しではございますが、この甘い香りは蜜としか形容できません。色合いもまた見事。処女と見紛う桜色の女陰です」
愛液の量はただの体の反応だ。乳房を揉まれるだけで済んだことなどリラの人生には一度もない。自己防衛のためである。司会の言い様ではまるで自分が色狂いのようで、羞恥を覚える。
「最後にこちらの穴もお見せいたしましょう」
その場で拘束台ごと反転させられる。観客を睨むことさえできず、彼女の尻穴に幾多の視線が突き刺さる。
「聞くところによれば開場直前まで作業者たちで楽しんだとされていますが、それでいながらこの肛門のぴっちりとした閉じ具合。未通のようにしか思えません。司会として恥ずべきですが、私も男。この雌の香りに酩酊してしまいました」
言いながら司会はまたリラの拘束台を回し、観客たちとリラは向き合わされた。司会は彼女の裏に回ると、猛った逸物をリラの肛門に当てる。
「入札へ移る前に――尻穴だけでも楽しませていただきます」
これも特段珍しいことではない。目玉商品ならなおさらである。流れ着いた商品である以上、処女であるはずがない。落札者にとっても雌としての振る舞いは知っておきたい。そんな事情から、壇上でこうしたパフォーマンスが行われるのはままあることだった。
「あの閉じ具合でありながらするすると呑み込んでいきます。ふむ……不躾ながら長くは持ちそうにありませんね。皆様方、よく注目を。尻穴を犯された際の蜜壺の反応をご覧ください」
言うと司会は腰を一心不乱に振り始めた。リラは声が漏れるのを抑える。だが、抽送に合わせ、彼女の膣口からは愛液が漏れ出す。二穴三穴は当たり前の境遇だったリラにとって、これも仕方ないことだったが、反応してしまう自分の体が恨めしいのは確かだった。
直腸で脈動を感じる。熱いものが体内に吐き出された。それは沁みるように直腸に吸収されていくのがリラにもわかる。二度、三度と激しい音を立てながら、司会は余韻を楽しむように腰を振り、それから陰茎が引き抜かれた。
またもリラは尻穴を観客たちに向けられる。
「今し方挿入されたばかりなのに、しっかりと閉じています。凶暴な口とは違い、従順にこちらは精液を一滴余さず飲み干します。どうぞ、皆様。彼女の栄養は尻穴から直にお注ぎください」
ひとしきりリラの商品価値を語り終えたと思ったか、司会は入札に移行した。
「開始価格は金貨三百でいかがでしょう?」
金貨三百枚。この時点で並のギフトホルダーより高い金額だ。過去、リラにつけられた額は最高で金貨千枚である。すぐにいくつもの声が重なって、それより高い値をつけていく。
その中に。
「金貨、二千」
という声が混じり、観客たちは一瞬で静まった。
司会も目を白黒させ、声の主を探す。無意識にリラも同じようにした。
三十には満たないが、確かな年齢が伺えない男だけが、ひとり手を挙げたままで残った。上背があり、似合わない黒い貫頭衣を身につけている。
奴隷市場には仲介人が来ていることも珍しくない。領土に奴隷を保持している申請を仲介人の名で申請するのだ。高名で奴隷を所有していると悟られたくない者が多い。得てしてそういう奴の性癖は異常だと、リラは体で知っていた。
「二千、お間違い、ございませんね?」
司会の声は上擦っていた。金貨二千枚はギフトホルダーでも上位の者にしか付かない値だ。それも、奴隷落ちしたばかりで名が知れている場合に限られるはずだった。
「ああ。問題ない。確かめろ」
男は肩にかけていた革袋を差し出す。当然だが、金貨二千枚など持ち歩けるはずもない。奴隷市場でしか使えない――その代わりに大陸全土で使用可能な――特殊合金製の、大きな金貨が革袋から姿を見せた。
男は大きな拍手を受けながら壇上へと向かってくる。
「それではここで一度、楽しみますかな?」
「いや、俺は仲介でね。気難しい相手で、あまり怒らせたくはない。――この娘に合う服をもらえるか?」
観客たちから罵声とは呼べぬまでも、口惜しさが混じった声が聞こえてくる。
拘束台から解き放たれたリラは、仲介の男に手渡された鈍色の服を頭から被る。ひとつなぎのゆったりとした、一般的に奴隷服と言われるみすぼらしい衣装だった。それでも、裸体が隠せた安堵の息を漏らそうとして。
口から開口具が外される。
「これはいらん。帰っていいか? 見ての通り素寒貧でね」
革袋にはちょうど二千枚分しかなかったようで、司会はうなずくしかなかった。
仲介に腕を掴まれ、そのままリラは奴隷市場から遠ざかった。背後で喧噪が再会される。目玉商品を手に入れられなかった彼らは、残る商品を徹底的に吟味するだろう。リラは少しの時間とはいえ、同じ部屋で犯されていた者たちに憐憫は抱かなかった。何故なら連中は揃いも揃ってギフトホルダーだったからだ。
「痛いんだけど」
「離したら逃げるだろ」
それはそうだ。男が進むのは、どうにも街道ではなさそうだった。森の奥へと踏み込んでいく。街道は魔獣や亜人から身を守るために作られた。
「あんた、仲介じゃないでしょ」
「……わかるもんか?」
「即決価格出す仲介なんていない。……で、最初は我慢できたのに、もう発情したの? 犬みたいにそこらで盛るつもり?」
自嘲してリラは笑う。無論、その意図が眼前の男に読めるはずもない。
「人目を避けてるように見えたのか。違う。俺の城に帰るには、こっちが一番近いのさ」
「……城?」
尋ねるが、男は歩き出して手を引くだけだった。力強いが不思議と怖さを感じない。だからこそ、リラは警戒する。もっとも、警戒したとて何が成せるでもなかったが。
すぐに男は足を止めた。早くもリラにもよおしたのかと思ったが、違った。男は耳慣れない言葉を口にした。彼の前に長方形の、扉にも似た形状の輝く輪郭が生まれる。
またも引かれ、そのまま歩を進めざるを得ない。説明が面倒なのか、口下手なのか。男は口数が少なかった。
光の扉をくぐると、そこは別の風景が広がっていた。
目の前には、高さで言えば三階建てほど、面積は仮設だった奴隷市場未満でありながら、城を名乗る最低限度の気品を備えた小城があった。建築様式にリラは詳しくはなかったが、大陸西部のそれに似ているような気がした。
周囲はまばらに木々が生えており、遠景に向かえば向かうほど、樹木は密度を増して森を形成している。
「地底唾王城。俺の城だ」
ただそうとだけ告げて、再び歩かされる。淀みなく進む足は、真っ直ぐに城を目指している。途中、振り返ってみたが先の扉紛いは消えていた。どういう原理かはリラには皆目見当がつかなかったが、仮にこの手を離しても、この空間から出られそうにはなかった。慣れ親しんだ囚われの身になったようだった。
案内などするつもりもないようで、男は無言で進んでいく。
正門を開くと広いエントランスが出迎えた。だだっぴろい面積を赤い絨毯が敷きつめている。左右には二階へと続く階段がある。左右の階段から等距離の位置にある扉をくぐると、廊下につながっていた。広さの割に扉の数が少ない。曲がったのは一度。突き当たった箇所の右だけに、扉があった。
男が扉を開く。促され部屋の中を見ると広々とした寝台がある。家具はその程度で、他には何もない殺風景な部屋だった。
「ここがお前の部屋だ」
背後から声をかけられ、身の危険を感じて、柳眉を逆立て振り仰ぐ。
しかし、男と目が合うことはなかった。リラが振り向くのと同時、男は踵を返して歩き出していた。
そのまま遠ざかる背中をリラは無言で見つめる。男は最低限の案内と、それすら下回る説明しかせずにリラに部屋を与え、そのままどこかへといなくなってしまった。
「……なに」
何を考えているのか些かもわからない新たな飼い主にリラは微かに身震いした。幸い内鍵だったので、中から鍵を閉める。何もない部屋だったので、仕方なくリラは寝台に身を預けた。
洗い立ての麻の匂いしかしない、真っ白なシーツだった。
夜が明けた。
窓から差しこんだ光が、いつの間にか寝入っていたリラを目覚めさせた。部屋に人の気配はない。体を探ってみる。眠っている間に体を弄ばれた様子はなかった。
気味が悪い。リラの率直な感想はそんなものだった。
人生を顧みて、似たような事態を探ってみる。確か、商人の馬鹿息子に買い取られた日が似ていると言えば似ている。
露出の少ないドレスに着替えさせられ、味もよくわからない豪勢な夕食で歓待された。「一目惚れした。正式に妻として娶りたい」――などと優しげに宣い、彼女に驚くほど広い寝室をあてがった。
仮面はすぐに剥がれ落ちた。その日の深夜には、その馬鹿息子はリラの体を背後から押さえ込み、へこへこと腰を振っていたからだ。寒気を覚え、リラは体を抱きしめる。馬鹿息子は言った。「信じられない……。僕が……こんな真似を」などと、本当に苦しげに喘ぎながら、彼女に覆い被さったままだった。まるで、リラに宿る魔性が悪いのだと言いたいように。馬鹿息子は取り憑かれたようにリラを犯し続け、そのまま彼女の中で最後の射精をして、死んだ。
怖かったのは、本当にその馬鹿息子は女を知らないようだったことだ。
実の娘を犯すのも、死ぬとわかっていて犯したくなるのも。
我が身に備わった魔性に責任があるというのなら――。
そこまで思って、リラは頭を振った。
自分の匂いと体温だけが染みついたシーツや毛布に包まれていると、ほんの少し気が楽になる。気まぐれにしろ意図があるにしろ、この僥倖に溺れよう。リラは一日中寝台から降りずに、素晴らしき孤独を堪能した。
翌朝。目覚めたのは差し込む陽光のせいではなく、腹から唸る異音のためだった。体が空腹を訴えている。精液を口からも直腸からも注がれずにこれだけの時間過ごしたのは奴隷になって初めてだったらしい。
――兵糧攻めか?
活力の不足した頭は、そんなことを考えた。お腹が空けば反抗的なイヌでさえ、ちんぽをおねだりに来るとでも? だったらお望み通り餓死してやる。
などと短絡に考えたところで、リラは閃いた。餓死直前こそを、あの男は狙っているのではないか。飢え乾いた女でしか勃たない変態なのであれば、この状況にも平仄が合う。死にかけて動けなくなったところを犯しに来て、そのまままた閉じ込めて――。
「?」
そこでリラの頭に疑問符が湧く。
とことこと歩いて扉に向かう。内鍵を開く。恐る恐るノブを掴んでゆっくり回すと――空いた。
そして、廊下には誰もいない。
そもそもである。リラは閉じ込められているわけではない。少なくともこの部屋からは自由に出ることはできる。
変な発想をさせられた八つ当たりで、リラは怒った。怒りは動力になった。
部屋を出て、探索に向かう。男に会ったらなんのつもりか問い質してやるのだ。
まずはリラの部屋がある二階を入念に探索しようとした。武器があれば儲けものである。
――が、その願いはすぐに断たれた。
外から見れば確かに最低限、城という要諦を満たしていそうだったのだが、実態は違う。とんでもない欠陥建築だ。扉は他に二つあった。どれも廊下の突き当たりである。
つまり。
二階の構造は十字路になっている。リラの部屋以外のふたつの部屋は、狭っ苦しい図書室と炊事場だけだ。本は三冊しかなかったし、炊事場には鍋しかない。面積の大半を壁が埋め尽くしている計算になる。
おかしいのはそれだけではなかった。三階建てのはずなのに三階へ至る階段がなかったのだ。
というわけでリラは階段を降りるしかなかった。
入ってきた正門を見る。鍵は掛かっておらず、普通に開け閉めができた。外に出るか、一階を探索するか。
リラは前者を選んだ。彼女を買った男がいるのであれば、城内の方があり得そうだったからだ。
もちろん、その結果犯されたとしても覚悟の上だ。宙ぶらりんにされたままの方が怖い――などとは口には死んでも出さないが、本心でもある。何がしたいのか、ここはどこなのか。
男に尋ねるべきだと思ったのだ。
一階の構造も単純だった。エントランス正面の扉を開けると、そこは玉座の間となっていた。
玉座には昨日の男が前屈みになって腰を降ろしている。
「……寄るな」
手で制され、リラは足を止めた。遠目に見ても分かる。男の体調は見るからに悪かった。二日前はそんなこともなかったような気がする。だが、前兆はあってだから手を出してこなかったのかもしれないと納得した。
「病気?」
「病ではなく呪いだな。安心しろ、伝染するようなもんじゃない」
では何故、リラが近寄るのを制したのか。リラにはわからなかったが、彼なりの理由があるのだろう。
「そう。……お腹、空いたんだけど、外で探してきていい?」
「……そうか。悪いな。俺が用意するべきだった」
「……いいよ。自分の分くらい、自分で持ってこれるから。……で、いい?」
「かまわん。森にまでは行くな。肉食の獣が出る」
許可はもらった。それで十分だと背中で答えて、リラは玉座の間を出た。扉が閉まる音に振り向いて、つい、彼女は目で男の姿を見てしまった。後ろ髪を引かれるような、そんな気にさせられた。
城の外に出ると、快晴の空が出迎えた。辺りを見回ってみる。多様な果樹が距離を終えて生えている。こういった果樹は気候などで植生が異なるはずだと、二階で見つけた本に記述があったが、リラにはそんなことはどうでもよかった。
スカートをめくって風呂敷代わりにして沢山の果実を集めて城に戻る。炊事場で洗ってから、部屋に持ち込んで食べ始めた。
今回集められたのは四種だ。本を信じれば、甘くて美味しい実。酸っぱい実。不味い実。苦い実。それぞれをひとつずつ食べてみる。確かに舌には異なる刺激がある。だが、体液の味しか知らない彼女にとっては酸っぱい実が刺激が強すぎて食べづらいくらいの違いだった。
翌日、ふと思い立って、彼女は余った果実を食べながら、一日中玉座の間の入り口を監視することにした。夜になっても、男は玉座の間から出てこなかった。嫌がらせ、という建前で、甘い実はひとつだけ、残りは他の実を集めて、扉から差し入れした。
炊事場から持ってきた鍋に入れて置いておいたのだが、翌日には皮だけを残して全てがなくなっていた。
そんな日々がしばし続いた。
図書室に行って、本を読む。果実以外の食べ物も試してみようと思い、調べに来たのだ。魚の釣り方や蜂蜜の捕り方、獣肉についての知識を手に入れた。
「――まったく、何をしているかと思えば。奴めが買ったのはそなたか」
不意に声をかけられる。リラは驚いて咄嗟に本を閉じると、声の出所を探した。狭い部屋だ。すぐに見つかった。不思議なのは忽然と現れたようにしか見えないことだ。扉はリラの背中側にあって、開閉すれば必ず気付く位置にある。
一枚首からストールをかけただけの、褐色の肌を晒した美しい女だった。黄金の瞳は傲然とリラを射貫き、乳房や陰毛を露わにしたまま、傲然とリラを見つめている。
前任というか、先輩にあたる奴隷にはとても見えない。羞恥心が壊れたわけではなく、最初から持っていないような気配があった。
恥じらいは二種の意味を含有している。服を着て生きてきたことによる裸体を晒す抵抗と、自らの体型や肌が美しいと呼べるかの躊躇だ。
眼前の女にはどちらもがない。傲慢とも呼べる立ち振る舞いを見て、リラはひとつの言葉に行き当たる。
「……女神」
「そうだ。唾王フェルターに力を与えた虚空女神――マリマノートだ」
女――マリマノートは肯定した。
唾王フェルターというのが、リラを買った男の名であるらしい。
問題は、虚空女神マリマノートという名だ。
戦争女神アテナ。
魔導女神ヘラ。
知恵女神イヴ。
独裁女神ミカエル。
精霊女神ブリギット。
冥府女神イシス。
廻天女神アスラ。
七女神の名は、この大陸で生きる者で知らぬ者はない。
リラの顔に怪訝が浮かぶ。マリマノートは笑みを深めた。
「フェルターめ。何も説明をしていないのか。そなたが相手では仕方がなかろうが」
マリマノートはフェルターについて、そして、この地底唾王城に関しての説明をし始めた。
ここが大陸地下の亜空間であること。
マリマノートが古に封印された八番目の女神であること。
フェルターはマリマノートと契約し、地底唾王城の王となったこと。
元々フェルターが千年間大陸を彷徨うオークだったこと。
フェルターとマリマノートは七女神を倒す悲願を持つこと。
フェルターには奴隷契約という異能があり、手始めにギフトホルダーを買うために奴隷市場へ向かったこと――などをだ。
説明を受けてリラは混乱する。彼女はギフトホルダーではなかったし、オークションでもそうだと明言されていた。一方で、市場では幾人かのギフトホルダーがいたはずで、最初に競売にかけられたリラを買う理由などひとつもなかった。
「なんで……私を」
「さてな。我がわかっているのは、奴はそなたを抱けん。奴はこの世界の反逆者であり、故にこそ、強者――ギフトホルダーや眷族、それに女神以外を犯せば、奴は元のオークに戻るがゆえだ」
「それは、どうして?」
「奴の千年の旅路は、そなたのように無力な者を犯し、ギフトホルダーや眷族に殺され続けるものだった。奴は並のオークとは違い、殺されても何処かで新生する。何故かは知らぬが、女神の呪いだろう。千年続く強力な呪詛だ。力の大半を奪われた我では解呪はできぬ。だから反転させてなんとか理性を取り戻させた。その代償だ。奴を殺しうる相手を犯す分には問題ない。だが、かつてと同じように無力な者を犯せば、奴はたちどころにかつての姿に戻ってしまう」
十年、無力で犯されるしかなかった自分。
千年、無力な相手を犯さざるを得なかった彼。
正逆だったが、だからこそ、フェルターが抱く世界への恨みは納得できた。
「ただその一方で、奴にはオークの王たる性欲がある。だから、そなたの近くへいけば性欲を持て余す」
――寄るな。
そう、フェルターに手で制されたのをリラは思い出した。
それなら、何故買ったのか。抱けなくても欲しかったのか。同情か。憐憫か。罪悪感と憤懣が同時に湧いた。
リラだって、世界を破壊したかった。犯されながら見上げた夜空。世界を覆う天蓋を破壊しようと無意味に手を伸ばしたことを覚えている。この世界の天蓋とは即ち、七柱の女神だ。
マリマノートとやらを信頼することはできない。結局はこれも女神だ。しかし、今の戦乱を繰り返す世界を壊す一手には、確かに女神の力は必要だろう。その加護を得たフェルターの大事な第一歩をリラは無意識に邪魔をしてしまったらしい。
「もう――お金はないの?」
「まあな。地底唾王城の周囲にあるものはフェルターのものだ。材木や獣肉を売却しても金貨を得るには難しいのだろう?」
うなずく。通常、庶民は金貨を見ることさえなく生涯を終える者もある。
だったら、手段はひとつしかなかった。
マリマノートを置いて、リラは玉座の間へと駆け出した。
扉を蹴っ飛ばして開き、苦悶するフェルターの前に立った。
「私を――もう一回売ってっ! いいから! 奴隷でいいからっ! だから世界を壊して!」
この地底唾王城に売れるものはリラしか残っていない。二千枚とは言わずとも、半分ほどでも取り戻せればギフトホルダーを買える。自分が足を踏み外させた第一歩を取り戻すにはそれしかない。
フェルターの顔には大粒の汗が浮かんでいた。苦しげな荒い息を漏らしている。それは、リラの知る吐息だ。リラが放つ雌の色香に反応する、雄の欲動。オークの王と呼ばれる性欲を、必死に理性で堪えている。それでも、フェルターは首を振った。
それと同時に、空腹を訴える音がした。
与えた果実では足りなかったらしい。当たり前だ。体躯がリラとは違いすぎる。
リラはフェルターの纏う黒色の貫頭衣をめくった。逸物が腰ばきを引き裂かんばかりに怒張していたが、それは彼女の目当てのものではなかった。貫頭衣の下に、フェルターは奴隷傭兵のような最低限の武装を備えていた。腰にある長剣こそ、リラが求めたものだった。
細腕には重すぎる長剣を抜いて、そのままリラは刀身を引きずりながら玉座の間を出る。
自分の非力さにリラは腹が立った。二千枚の対価として彼女にできたのは、果実を集めることくらいだ。犯すくらいにしか役に立たない。
生粋の肉奴隷。
ああ、その評価で適当だ。
何か、栄養価のあるものを食べさせないと。
幸い、目当てのものはすぐに見つかった。蜂の巣だ。剣を置いて、木の枝で蜂の巣をたたき落とした。無数の蜂が彼女の体に針で毒液を注入する。全身に痛みが奔るが、そんな毒液で死ねるほどに彼女の体はやわではなかった。
手でこそぎ集めた蜂蜜を、炊事場からくすねた瓶に集めていく。余った分を舐めてみる。やっぱり味の良さはわからないが、毒液による痛みが引いた。懐に閉まって、次の獲物を探す。
森の奥には肉食の獣が出るという。
それはつまり、その餌になる獣もいるという意味だ。
剣を頼りに、彼女は森に足を踏み入れた。
勝ち取った戦利品が次の獲物を呼び出した。
重低音の唸り声を上げ、褐色の体毛に包まれた巨躯をリラは見上げた。
熊だ。満足に振るえない剣は役に立たない。何も成せずに死ぬ。そんな恐怖が初めてリラに死への忌避感を抱かせた。
「く……来るなっ!」
全力で剣を振り回したが、剣の先端で地面をなぞるだけの、亀の如き緩慢な動きだった。
振り終えた直後、熊は四足に体勢を変え、一瞬で距離を詰めてきた。衝撃で呼吸が止まり、剣を持つ手から力が抜けて彼女の体は数歩分吹き飛んだ。
仰向けに寝そべったリラが目を開けると、熊が右手を振り下ろすところだった。悔しさに歯がみしながら、あれほど望んでいたはずの死を恐れて瞼を閉じる。
衣服が破れる音がしたが、痛みはない。乳房をざらざらとした何かが這い回っている。怯えながらもリラが目を開くと、熊の巨大な頭部が目の前にあった。ひと噛みで絶命するとわかる猛々しい牙を並べ、その舌が楽しそうにリラの胸を舐めていた。
体を反転させられる。爪で器用に衣服を剥がれ、尻肉が森の空気に触れる。両の肉球でリラの細い腰を掴むと、熊の影でリラの視界が暗くなった。
硬くした陰茎が彼女の尻の割れ目をなぞっていく。
嘘だ。リラはそう思った。
調教で獣に犯されたことはある。だが、それは人間の雌を犯すように訓練された獣に限られた。自然に巣くう獣が、人間のリラに欲情するなどあり得ない。
違うのか? 本当は獣でさえ、自分の体は欲情させてしまうのか?
恐怖が胸の奥から溢れ出た。反抗心に濾過されていない悲鳴が彼女の口から漏れた。
「いやっ! やだぁっ! なんでっ! 離せっ! 私は――お前のモノじゃないっ!」
腰は熊によって固定されていて、一切動かせる気配がなかった。頭と上半身を暴れさせるが、熊の陰茎はただ静かに降りていく。
膣口に陰茎が触れる。腰を抱える両手が、脇腹に爪を突き立てる。
貫かれるその直前――鈍い衝撃が肉球を通して彼女の体に伝わった。熊から力が抜けて、彼女は支えを失い、うつ伏せに地面に倒れ込む。
二種の野獣の咆哮が混じり合って聞こえた。彼女が振り向くと、死闘が行われていた。
馬乗りになったフェルターが、熊を殴り続けている。押さえ込まれた熊も鋭い爪を用いて反撃する。互いの血しぶきが森を赤く塗らしていく。
やがて熊は動きを止めたが、フェルターは熊の頭蓋が原型を留めなくなるほどに殴り続けた。絶命を確信したのか、フェルターは立ち上がる。
黒の貫頭衣を脱ぐと、リラの方へと投げてくれた。
「気をつけろ。二度と、ここまでは来るな。……帰るぞ」
落ちていた剣を鞘に納めると、リラに背中を向けたままで言った。
「うん。……あ。熊を運んで。食べるから」
礼を言うこともできないくせに、リラは仕事の手伝いを強要した。面の皮の厚さに我がことながら辟易するが、捨ててしまうのも勿体ない。
フェルターは何も言わずに熊を背中に負うと、そのまま城に向かって歩き出した。
城に着くとの前にフェルターは熊を置いた。
「剣、貸して。解体できないから」
「こっちを使え」
フェルターは背中に差していた短刀を鞘ごと投げてよこす。そして一度も振り返らずに、立ち去ってしまった。
短刀の切れ味は良く、リラの腕力でも肉を切るのに手間はかからなかった。三切れほど取りあえず切ってから、炊事場で調理を始めた。竈に火を点け、短刀で削った木の枝を串にして焼くだけだ。味付けという概念はリラにはなく、炊事場にも調味料の類いはなかった。
十分に火が通ったのを確かめて、一口食べてみる。焼いただけの熊肉は強い野生臭を放ち、食感は硬く噛みきるのも困難で、噛めば噛むほど血生臭さが口内に広がる。ただ、リラはそれを肉の味と匂いとして受け取って、悪くないとひとりうなずいた。
焼けた三切れを鍋に入れて、玉座の間へと運ぶ。
素早く玉座の近くまで走り、鍋を置くとまた走って扉まで戻る。
「食べて。……それで。私を売らないなら、私をここに置いて。給仕くらいなら役に立ってみせるから」
リラに貫頭衣を渡し、革鎧姿になったフェルターは、汗を浮かべながらも小さく首肯した。
それからリラは眠ることを忘れ、熊の解体と保存食の作成に没頭した。もちろんリラにそんな技術も知識もなかったが、図書室に置かれた本からそういった情報を得た。
都合のいい知識があるのに疑念を抱いたが、マリマノートの言葉で氷解した。
「唾王城は成長する。とはいえ、今は人員が少なく魔力も足りぬが故に最低限ではあるがな。その書にはそなたが求め、必要とする知識が刻まれる。人が――特にギフトホルダーが増えれば、部屋や道具も自動的に増える。土地も拡張し、海や山岳、農地なども増えるだろう」
暇なのかマリマノートはリラが作業していると姿を現して、彼女の疑問に答えてくれる。
熊から得られたのは干し肉と毛皮、それに爪を用いた釣り針くらいのものだった。釣り針は魚を数匹釣ると壊れてしまう消耗品で、肉も徐々に減り続けている。
フェルターに食事を十分に与えても、不調は変わらないようだった。結局はリラがいる限り、フェルターは獣欲を刺激され続け、それを抑えるので精一杯で何もできないのだ。
「マリマノート。あんたがフェルターに犯されればそれでいいんじゃない?」
「我は奴に庇護を与えているがゆえな。奴は我を抱いても射精ができぬ。ただいたずらに欲望を刺激するだけだ。奴は一時的にオークの王に戻り、そなたを犯すだろう」
「……私はそれでもいい。そう言ったら?」
「暴走してそなたを犯したと知れば、奴の理性が耐えられまい。納得させられれば違うであろうが」
なんとも上手くはいかないものだ。幾千幾万の男がリラを犯してきたが、フェルターは犯すことができない。結局はぐるぐると回って最初の疑念に戻る。
何故、リラを買ったのか。
干し肉と焼き魚をもって、リラは玉座の間を訪れた。最初は近付く時間を最小限にするよう、パッと置いてさっと立ち去っていたが、最近は違う。
給仕なのだから、と言い訳をする。フェルターに口を開かせ、干し肉や焼き魚を食べさせる。彼は苦しそうに喘ぎはするが、決して逆らわない。その苦しみが自らの放つ芳香で生じているとリラは知っている。下腹が疼く。決して彼はリラと目を合わさない。触れようともしない。
千年、無辜の女性を犯し続けたブタの王。虚空女神によって呪いを反転させられ、女神を犯すための存在になった男は、だからこそ、無力なリラを犯せなくなった。けれど、獣欲を解消しなくてはフェルターはここで立ち止まったままだ。
名案が思いついた。しかし、策の最初のとっかかりで躓く。ふと、自分の服の中に瓶が入っているのに気がついた。蜂蜜を入れた瓶だ。
リラが近くに居続けているためか、フェルターの体が震え始めた。劣情が身を焼いて、熱を帯びた体が外気に寒気を覚えたのだろうか。それとも、今にも襲いかかりそうになる自分の体を制止させようとして、小刻みに揺れているのだろうか。
甘ったるい匂いが玉座の間に広がる。濃密に花畑を凝縮させたような香りだ。知らず、リラの口元は弧を描いていた。怯えるように自分の体を抱いて震えるフェルターに、嗜虐の悦びを感じた。
蜂蜜の匂いがリラの体臭を覆い隠す。雌の匂いが薄れたために、フェルターの瞳に理性が戻る。彼は不思議そうにリラを見た。その好機を逃さず、リラはスカートをたくし上げた。
触れれば痕が残りそうな雪白の肌は、花の香りをした黄金色の粘液に濡れている。蜂蜜を膣から広がるように全身へと塗りたくったのだ。
「……こぼしちゃった。フェルター……」
その名を呼んだとき、何かとても大事なものを亡くしたような、そんな不思議な気持ちを抱いた。マリマノートから聞くまで、彼女の脳はその名を知らなかった。もし何かがあるのだとすれば、それ以前。きっと魂に刻まれた言葉なのだろう。
錯覚――あるいは虚妄だ。
リラとフェルターは対等ではない。彼女はフェルターに買われた所有物であり、それでいて役立たずだ。対等であるはずがない。
いや、だからこそ――か。
「フェルター様……ん。ええと……ご主人様?」
そう呼ぶと、リラはとても落ち着いた。自分は確かに肉奴隷だった。世界でもっとも弱く、雄を惑わす魔性をもって、犯され続けるだけのイヌだ。
意地は今日、今のために張り続けた。自分で、自分の所有者を選べた。
そして、大陸とこの地底唾王城のルールは異なる。弱肉強食の大陸とは違い、この城は下剋上を成すために存在する。
リラは最底辺のイヌだ。だからこそ、オークの王を犯すことが許される。
「ご主人様、もったいないから、リラの蜂蜜、舐めて……」
艶然と媚態を造り、リラは自分の指先で膣口を開いた。
必死に搾り出した、リラとしては会心の出来だと思われた誘惑である。それを見てフェルターは――。
咽せやがった。
「げふっ、ん……いや、待て。馬鹿にしてるんじゃ……ははっ、なくてな」
嘘をつけ。明らかに笑いを堪えている。リラの白い肌はみるみる赤く染まっていった。
頬を膨らませたリラは、ぷい、とフェルターから顔を背けた。落ち着いて自分の行動を省みると顔から火が出そうになる。
「ふんっ。せっかく頑張ったのに。……いいよ。奴隷なんて汚いから舐めたくないんでしょ」
リラは拗ねた。
「……すまない」
今度はフェルターが消沈する番だった。
「舐めるだけで……いいんだな」
彼は真面目な顔でリラを見て、そう言った。
「え? やだ。私が満足するまで、ちゃんと貫いて。ご主人様。我慢するのを、今だけは我慢して。このお城の最下層のイヌとして、私がブタの王様を犯すんだから」
フェルターは穏やかな眼差しをして、それから失笑した。
リラは一歩前に出て、体をフェルターに近づける。フェルターは玉座を降りて跪き、舌を伸ばして、彼女の腹部に触れる。性感帯でもない箇所を舐められて、しかし、リラは小さく吐息を漏らした。リラが塗りたくった順番を知っているかのように、逆しまに彼の舌は螺旋を描く。脇腹、骨盤、太もも――もう一方の太ももに移って、骨盤を上がり、陰毛にこびり付いた蜂蜜をフェルターが吸い上げる。
びくん、とリラは体を一度跳ねさせた。初めて求めて得られた性感に、彼女の体は敏感に反応する。舌がさらに螺旋を進む。膣口の端に触れ、恥丘の回りを舐めとって、陰核に触れる。電流のような快楽に膝が崩れそうになって、リラはフェルターの頭を両手で掴んで引き寄せた。陰核を吸っていたフェルターの口がずれ、膣口とフェルターの口が重なり合う。蜂蜜の代わりに、リラの蜜がフェルターの顔を汚している。
見上げるフェルターの顔面に、リラが騎乗しているような姿勢だ。首の筋肉だけで、フェルターはリラの全体重を軽々と支えている。自重で陰核と膣口がフェルターの顔に推し当てられ、その刺激だけで絶頂に達してしまいそうだった。
望んでなくとも愛液を分泌する、濡れやすい体だと思っていた。違った。分泌量は比較にもならない。洪水のように止めどなく蜜が溢れる。フェルターは健気にリラの愛液を嚥下する。
「舌を……挿れて。舌で……イカせて」
リラがねだると、すぐに滑った柔らかいものが膣壁に忍び込む。粘膜同士が絡み合い、互いの粘液が混ざり合う。舌が膣壁を前後しながら、時折、一点を刺激する。そのたびにリラに電流が走る。膣襞の中でも弱いところを知られているかのようだった。
幾度目か、舌が上下運動を終えたとき、リラの背中が弓なりに反った。いつもの癖で声を抑えてしまう。遅れてこれは自分が望んだ情交なのだと、意識的に嬌声をあげた。
達したリラの膣を、なおもフェルターの舌は上下の抽送を続けている。絶頂で敏感になった膣は、彼の舌技を受け止め、快楽の奔流が脳髄を襲う。
「体を、たっ、倒してっ」
フェルターが仰向けに倒れ、リラは顔面に騎乗したままで絨毯の上に座った。舌に貫かれたままで、リラは体を前後に反転させた。刺激の加わり方が変わってリラは軽くイく。
フェルターの下半身を見ると、ズボンの腰部分がパンパンに張っている。性的衝動を向けられた悦びで、体が熱を帯びる。心なしか愛液の分泌も加速したように感じられた。
前のめりになり、革帯を外して、ズボンを降ろした。押さえつけられていた反動で、怒張が大きくリラの顔目がけて反り返った。慌てて手で受け止める。血管が浮き出た逸物に舌を這わせる。それが最後の一押しになったのか、亀頭から白濁液が爆ぜて飛び出した。髪や顔、それに胸が雄汁で染まる。
フェルターが何かを言おうとしているのを、リラは再び体を起こして、膣口で彼の口を塞ぐ。大人しく舌を上下するようになったところで、彼女は舌の動きに合わせ、フェルターの唾液を搾りあげるように腰を揺らした。そうしながら彼女は、肌にかかった精液を指先で寄せ集め、手酌にする。精臭を鼻腔で感じてから、舌と喉で特濃の液を味わう。喉に引っかかるほどの粘り気があった。
「うふっ。早すぎ。もっと射精せるよね?」
リラは再び前のめりになると、逆さまの姿勢で陰茎を乳房の谷間に埋め、扱き始めた。自分から率先してする初めてのパイズリだ。
「けどすぐに射精しちゃあ駄目。次はおまんこに注ぐの。わかる? ご主人様」
そう告げると、リラはフェルターの陰嚢に舌を這わせた。内側に精液が溜まっているのがわかる。大口を開けて陰嚢を丸ごと含んでみる。溜まりに溜まっておきながら、今も精巣が活動し精液を増産しているのがわかった。
剛直が乳房の谷間で、堅さを増した。上体を起こして、陰茎を解き放つ。亀頭に刺激を与えぬよう留意して、真ん中あたりを指で押さえた。
フェルターの舌を犯していた腰を上げる。中断されたことを不満がるように愛液が彼の顔にしたたり落ちる。つま先立ちになって、膣口を見せつけるように指先で開く。フェルターは視線を落とし、リラを真っ向から見ようとしない。
「ちゃんと、こっち見てぇ」
命じると彼は視線を上げた。掴んだ陰茎がわずかに暴れる。自らの肢体がフェルターの欲求を促せた事実に、リラは恍惚を覚える。腰を沈める。膣襞がフェルターの剛直を咥え込む。奥まで貫かれたところで、肌が重なる。脈動が始まる。これを鎮める必要はない。約束通り、濃厚な白濁液が彼女の子宮に注がれた。
視界が真っ白に染まるくらいの絶頂で、リラは体を痙攣させた。快楽をかみ殺す必要はない。雌の鳴き声が玉座の間に響きわたった。
射精を終えてもフェルターの陰茎は些かも萎えはしなかった。リラは腰をグラインドさせ、再度フェルターの精液を搾り取りにかかる。全身の毛穴からは止めどなく汗が噴き出る。上下するたびに汗は飛び散り、フェルターの肌に降りかかる。子宮に注がれたお返しに、汗を毛穴にしみこませているかのようだった。乳房に一際暖かい汁が垂れた。だらしなく開いた唇の端から、愛液のように唾液が溢れている。
腰の動きに乱れはない。十年間幾度と犯されながらも決して許しはしなかった自分からの求め。汚辱に耐えてきたからこそ解放のカタルシスはひとしおだった。
上体を倒し、両手を絨毯の上に置いて、リラの唇はフェルターの口を犯し始める。自分の愛液の匂いはない。言いつけ通りしっかりと舐めとったようだ。従順な王様に感謝して、リラの腰が加速する。初めてする腰使いでは、相手の快楽を慮る余裕はない。ただひたすらに自分の快楽だけを貪る。上下の粘膜が乱れ重なる。体の相性というものは確かにあるらしい。リラはフェルターと抜群に相性が良かった。ただ貪っているだけなのに、射精に合わせてリラも絶頂を迎える。そのたびにはしたなく唾液が溢れ、舌を経由してフェルターの口内に流し込んだ。
どれほどの時間、そうしていたかわからない。幾人に犯されてもたどり着くことを許さなかった絶頂の果て。全身のあらゆる汁でカクテルを作り、それをどちらかの中に吐き出し続ける。
気が触れそうだった。現実と悪夢が脳内でぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。だが、感じている性楽は絶対的な現実感を帯びていて、現実は此方であると明瞭に把握できた。
「寝台に……移って。けど、私ね。抜きたくないの……わかる? ご主人様ぁ」
色のついた呼気を吐きかけながら、リラはフェルターに甘えた。フェルターが立ち上がる。リラは彼の首裏に腕を回した。この期に及んでもまだフェルターは自分から腰を振らない。その我慢強さに愛らしささえ感じる。リラを犯せばフェルターは壊れるのだと言う。理屈ではわかる。悍ましい調教の中で、自分から求めなかったリラだからこそよくわかった。
だけどリラには関係なかった。ほしいままに彼との情交を楽しみ、その結果、彼が壊れても構わない。フェルターが本能に屈服すれば今度はリラが壊されるだろう。破滅しか待っていない未来であってもよかった。絶頂の果てに体を引き裂かれて死んだとしても、何も後悔はない。残されるフェルターが慟哭とともに亜人に落ちても。それくらい、ただひたすらに身勝手に、リラはフェルターを犯していた。
つながったままで廊下を歩く間、リラは三度絶頂を迎えた。リラの部屋の寝台にたどり着く。体力の限界が近い。どれだけの時間、玉座の間で交わっていたのかはわからないが、先ほど口で呑み込んだ分の栄養は使い切ったらしかった。
「お腹……空いちゃったぁ」
そう告げて、リラは名残惜しく陰茎を膣から引き抜いた。愛液と精液が混じった液が溢れ、シーツを汚す。
「体、支えて」
手を添えてフェルターに腰を掴ませる。自分で尻穴を広げ、フェルターの剛直に向かって、腰を下げていく。お預けを食らい続けた尻穴は、するすると陰茎を呑み込んでいく。膣襞とは異なる刺激がフェルターの陰茎を襲ったのだろう。すぐに一度、直腸に精液が注がれた。
腰を掴むフェルターの手を握って、勢いをつけて上体を起こした。振り向きざまにフェルターの唇に唾液を注ぐ。それから腰から手を離させて、乳房に誘導する。白魚のような細い手が、フェルターの厳つい手の甲に被さり、乳房を揉ませる。そのまま尻を前後させて、尻穴で陰茎を扱く。つい先ほどまで幾度となく貫かれておきながら、餓えた野良犬のように膣から愛液が溢れ出でる。
直腸へ再び精が放たれた。特濃の精液を二回取り込んだことでリラの体力は全快する。尻穴から陰茎を引き抜く。フェルターの方もまだまだ元気だ。陰茎が反り返って彼の腹を打つほどである。
胸を揉ませたままで、彼女は立ち上がり、天を仰ぐフェルターの陰茎を上から膣で迎え入れる。獣のような姿勢で嬌声を吐き出しながら、満足するまでフェルターの陰茎を味わい、子宮に注がせる。
果てはなかった。満足もなかった。様々な体位を試し、粘膜を擦り付け合う。ふたりに限界はなかった。オークだったフェルターの性欲は無尽蔵で、リラはその精液を摂取すればいい。たったふたりで完結した理想郷だ。
生殖という観念がない以上、亜人や獣よりなお原始的で――否、人間的な混じり合いと言えた。にも関わらず、ここにある理性はフェルターのものだけだ。リラから理性は失われている。
「くく。存分に盛っているようだが、いい加減にしろ。もう一ヶ月になるぞ。我が力を与えたのは女神を倒すためだ」
そういえばこいつがいた。リラは恍惚の中に現れた女神を見て、害虫を見たのと同じような気分になった。世界における邪魔者は常に女神だ。それはこの地底唾王城でも同じらしい。
他人に見られて興奮する習性はない。リラは腰を引いてフェルターの陰茎を膣から引き抜く。切なげに膣は喘ぎ、引いた糸を離そうとはしなかった。
だがマリマノートは違ったようだ。彼女はリラから離れたフェルターに跨がり、淫靡に光る蜜肉をフェルターの陰茎に近づけた。
「よせ――」
「問題はない。リラが耐えられる程度にしてやる。それに――いや、我がそれを言うのは無粋か」
好き勝手言って、マリマノートは艶然と笑う。腰を落とし、フェルターを騎乗位で攻め立てる。
フェルターの表情があからさまに変わる。リラとの――一ヶ月?――の交わりを凌駕しているようで、リラの心にわずかな嫉妬が芽生えた。
王と女神の情交は一分ほどで終わった。女神がイッたようには見えないし、フェルターも射精はしていない。女神の愛液で濡れた亀頭は、暴発寸前のように震えている。
「我の膣で扱いてやるとな。こやつはオークの王に立ち戻る。理性は融解し、ただ雌を犯すだけの獣に成り果てる。今宵は一分。一時間ほど味わって見せるがよい」
言いたい放題宣うと、女神は二つ名通り虚空に失せた。
咆哮が室内に響きわたる。驚く間もなく、リラはフェルターに押し倒された。剛直はさらに太さを増していた。力任せに両足を広げられる。彼の目から先ほどまで必死に本能を抑えていた理性が消えているのをリラは知った。そんなに女神の膣はいいものか。自分が崩せなかった理性を一瞬で壊されて、リラはマリマノートに敵愾心を、フェルターに苛立ちを覚えた。
フェルターの剛直がリラを貫く。先ほどより太さを増した。太さと広さ、長さと深さが一致していた相性が致命的にズレた。引き裂かれるような痛みが全身を貫く。子宮に破城槌が如く打ち込まれ、呼吸が止まった。引き抜かれる際には徐々に痛みが消えていく。だが、それは次の痛みへの前振りでしかなかない。
フェルターの腰は加速していく。リラは必死に呼吸を合わせてフェルターの逸物を受け入れた。その甲斐あって、痛みは薄れていく。特濃の汁が膣内に吐き出される。極太によって埋められた結合部からは一滴も漏れ出さず、繰り返される射精はまるで妊娠したかのように下腹が肥大化していく。
そんな中でリラはマリマノートが言い淀んだ言葉の先を知った。
ああ、そうだ。
フェルターには今後、二度とリラを犯せない。フェルターは今、リラを求めているだけである。求められて受け入れたのであれば、それを犯したなどと言わせない。誰にも――フェルター当人であってもだ。
引き裂かれて殺される。それを望んだのは確かだし、それを撤回するつもりはさらさらない。殺されるなら彼であってほしかったし、求められて抱かれ、その果てに死ぬのであれば最良とさえ言える。
それでも――。
咆哮を上げ、杭打つように自分を抱くフェルターに、リラは両手を伸ばした。その手は届かない。物理的な距離は近いのに、遠い断絶が感じられる。千年彷徨った彼に、決して届きはしないのだろう。そう確信できる概念的な距離だった。
やがて、フェルターの目に理性が戻る。腹を膨らませたリラを見て、彼は人間的な咆哮を上げようとして、それをリラは乳房で塞いだ。あと、数分。フェルターが理性を取り戻すのが遅ければそうできたかわからない。それくらいの塩梅だった。どうやらマリマノートの読みは常に正しいらしかった。
「大丈夫。ご主人様には、私は絶対に犯せないから。私は常にご主人様を求めているから」
追想のような夢を見た。
リラの時間は急速に現在に戻る。
裸体のままでフェルターに覆い被さったままで、リラは目を覚ました。フェルターはまだ寝付いている。リラもフェルターもあまり睡眠を必要とはしない。だが、眠れないわけではないので、時折こうしてふたりで眠る。
まるでリラの目覚めを待っていたかのように、リラの股下で彼の陰茎が堅さを取り戻した。
「仕方ないですね。ご主人様は」
リラはフェルターを起こさないように注意して、体勢を変える。
乳房に挟み込んで、寝入っているフェルターの陰茎を鎮めようと思ったのだ。乳房で扱きながら、リラは夢の中にいるフェルターに語りかける。
「ヨダさん、いいなぁって思っちゃったんですよ。ご当人には言えませんけど」
返事などないからこそ、言える話だった。ヨダから猪肉の調理を教えてもらい、それをフェルターに食べさせた夜だった。困ったことにこのご主人は美味いものを食べても表情を変えやしなかった。これまでリラが届けたクソ不味い食べ物を否定することになるのだと思っているに違いない。
「誰かと愛し合えたことがあったら、いいなあって。生まれ変わりがあるとしたら、一回くらいはそんな人生、送れたかもしれないじゃないですか。あはっ、もしも――の話です。だってご主人様。千年間ブタだったんですもの。もしもの話なんだから、浮気くらい許してほしいです」
誰かを愛して。
誰かに愛されて。
そして――永遠の愛を誓って花嫁になる。
それはリラには一生許されない願いだった。
死別だとしても、その後、汚されたのだとしても。
その一度の永遠の誓いをしたことを羨ましく思っても許してほしい。
脈動を谷間で感知する。亀頭を口に含んで、一滴残さず飲み干した。
たぶん次にリラベースの話が進むのは女神ひとり討伐後
ちらちらとある微妙に座りの悪いところはある程度そこで回収されるはず
次は忍者予定
書くの遅すぎてハーキュリーが遠投みたいな伏線になっとる
これの詳細は次々回にはいけるはず