遠く、晴天に円上の石版が浮かんでいる。その一点から地上へ向かう階が垂れ、地上との接点には豪奢で精密な文様が刻まれた、巨大な門がある。
場所は英霊楽土ヴァリアーザの中央付近だ。英霊楽土の領主がこの場所にいるのは領土全域に知れ渡っていた。
東方系の鎧を纏い、腰に刀を佩いた女は空に浮かぶ円盤を見上げた。凛烈な眼差しには歴戦を突破した者特有の凄味がある。ただ立っているだけだが、その背筋には鉄柱でも刺さっているかのように揺らぎがない。構えをとらずともある程度の腕があれば、全方位に隙がないことが見て取れるだろう。
亡領将トモエ。
大陸最東部にある羅刹境国出身のギフトホルダーだ。国を失い、大陸を横断し英霊楽土へと足を踏み入れた。領主を守り切れなかった彼女は、二人目の主を求めるつもりはなかった。冒険者紛いの生活をしながら、ただ流れ続けてここまでやってきた。
彼女が門の前に足を進めると、自動的に扉が開いた。
認められれば扉は開く――領主が住まう天の領域へ入り、謁見が許される。トモエが聞いていた噂通りだ。
開門を見て、トモエの胸には喜びはなかった。仮に開かなくても失望しもしなかったろう。
もはや、トモエには何も残されてはいない。属していた領土は滅び、仲間ともはぐれ、転々と大陸を彷徨った。トモエが旗頭として起ったとしてもかつての仲間はいない。主もいない。領土を失った敗者には正当性だってない。
何のためにここを訪れたのか。自問しながらトモエは長い階段を登っていく。
彼女の心は暗澹とした靄に包まれていて、感情に確固とした輪郭さえなかった。
やがて、階段にも終わりが見えた。地上から見えた円盤の上だ。円周部に柵はなく、高所を苦手とする者なら足も竦もう。トモエの正面には更に上へ向かう階段がある。
その階段をトモエが登る必要はない。階段の上には玉座に腰を降ろす、領主の姿があった。
長い白銀の髪と血を凍らせたような紅瞳の女だ。青空を背にし座り、漆黒の鎧を纏っている。足を組み、口元を緩ませている。品定めをしている途中か、既に終えたのかは不明だった。
眷族のようだが、種別がトモエにはわからなかった。少なくとも、大陸東方では見かけない。
トモエがそう考えていると、先に女が口を開いた。
「ふむ。腕はあると見た。英霊楽土ヴァリアーザが領主――
戦乙女ヘルミーナは名乗ると、トモエに尋ねてきた。
英霊楽土は神馬騎士団を擁している。大陸中部において、乱立する小領土を併呑し続ける強力な戦力だ。騎乗の技術もある。むしろ西部の騎士型の多くが、単一の武器に頼っているのが意外なくらいだった。
武芸百般。それが東方における侍の在り方だ。徒歩騎乗を問わず、刀、槍、薙刀、それに弓矢を達人の域で行使できる。
周囲と比較して強力な領土への仕官は、ギフトホルダーにとって悲願でもある。小領土で産まれ育ち、故郷に義理を通し――そして大領土に敗れ去り、儚く散る。その生き方を愚かとは思わない。トモエとて故郷の領土を失った。主を、友を、民を――全て失ったのだ。
悩む時点で、答えは決まっているようなものだ。一対一で領主に挑める機会などそうはあるまい。
――下剋戦。
一対一に限らない。格上の領主と戦うのであれば、その全ての戦闘が下剋戦になり得る。
部下が少ない好機を突き、軍勢で強襲を仕掛けたとしても例外にはならない。むしろ、このように向き合っての一対一こそが、下剋戦としては稀なものだった。
生き延びたのではなく、死にきれなかった。
大陸を歩き、トモエは死に場を探し続けた。だが、郷愁の気配さえ感じない多文化の風景の中で骨を埋める気にはなれない。だが、故郷付近に戻るのも躊躇われた。
ただひたすら、己より強い相手と刃を交わし死ねるなら――それがいい。
「侍大将、トモエだ。無礼を承知で――最期に全力を試したい」
腰に佩いた太刀を抜く。
「そうか。惜しいな。貴卿なら我が騎士団に相応しいと思えたが。己の死を望むとはな。英傑に至れぬのならば、我が直々に粛清してやろう」
ヘルミーナは玉座から立ち上がると、右手に長柄の槍を具象した。柄も穂先も、ヘルミーナを包む鎧同様に黒を基調としていた。
軽く跳ぶと、そのまま浮遊し、ゆったりと舞台に降り立った。背中に羽のような器官を持ってはいないようだが、浮遊はできるらしい。
刀を構え、トモエはヘルミーナの周囲を回る。どの方向からでも隙を感じ取れない。見事な手並みだ。人生最期に向き合う相手としてはこれ以上は望めまい。
対し、ヘルミーナは回るトモエを眼差しだけで追う。視界の端を越えても、振り返ろうとさえしなかった。
通常ならば背後からの強襲は卑劣と呼べる。だが、相手がわざわざ晒した隙を打たぬのも、それはそれで無礼と言えた。
円を描いていた歩法を、即時に縦に切り替える。一足で彼我の距離を半分に詰め、二足目で太刀をヘルミーナの首筋目がけて突き出した。
甲高い音が鳴る。背後を見やることさえなく、ヘルミーナは槍の石突きで刃先を受け止めた。予想外の技量に、一筋トモエの頬を汗がしたたり落ちる。さらに一歩を踏み込み、袈裟切りにつなげた。ヘルミーナは背を向けたままでそれを受ける。
一合、二合と繰り返すうち、トモエは距離を置いた。
戦乙女。それが二つ名ではなく、眷族の種別だと理解したためだった。
「その槍――否、武装までが五体の内か」
「ふむ? この短時間で気付くとはな。分類においては同じ騎士型だが――専門職に分けられる西方と東方ではやはり違うな。もったいないものだ」
賛辞を投げかけながらも、ヘルミーナの声にはうっすらとした侮蔑があった。
ヘルミーナはトモエの方に顔を向け、手足の延長の如く長槍を優雅に振り回す。武装――つまり、槍も鎧もヘルミーナの体の一部だ。五感を補い、武具でヘルミーナは周囲を覚る。人にない感覚である以上、どのように感じ取れているか定かではない。打ち合った感触では、死角というものが存在しないように思われた。
蔑むような眼差しでヘルミーナはトモエを見る。
「雅典戦国アテナイ。我が英霊楽土の以北は、死の、先へ行く者たちのみがたどり着くのを許される。神非ざる人の子が、神域の戦場に誤って至らぬための門番こそが余である。死を求めるなどという英傑の面汚しよ。我が槍の前に敗れ去り――肉のままで恥辱に満ちて果てるがよい」
恵まれた才覚を持ちながら、敗北を望みしトモエをヘルミーナは否定した。
ヘルミーナの発する威圧感が濃さを増した。悪鬼羅刹が入り乱れる東国の戦場と同質の気配を、ヘルミーナは単独で吐き出している。
冷や汗が浮き出る。トモエは太刀を握ることを僥倖に思った。特殊な感覚で周囲を感知するヘルミーナに対し、矢は必ずや落とされる。長柄の武具では技量で劣る。
構えは八双。頭の右側に太刀を縦にした構えだ。長柄の相手に対し、先手は取れない。左側に隙を晒せば相手の迎撃は二種に絞られる。刺突か、左方から薙いでくるか。点か線。どちらにせよ、トモエにとっては未知の神速の一撃であろう。
それを避け、あるいは耐え、自分にとって最高の一撃を振り下ろす。
惑いも死を望む思考も失せた。ただそれだけに集中し、戦場を駆け抜けた愛刀に力を込める。
ヘルミーナは距離を測るように、剣術であれば正眼に近い構えでトモエを待っている。
呼吸を整える。思考が凪ぐ。ただ敵を斬るためだけの剣鬼と化して、トモエも己の太刀が四肢の延長線になったように、一体化したのを感じた。剣先から爪先まで、心の臓から発する意が等速で奔る。
地を蹴った。飛燕の如き踏み込みを、紫電にも似た一撃が迎する。
死の気配がトモエを掠めて背後へ向かう。頬に熱。擦っただけか、それとも顔半分くらいは持って行かれたか。痛覚が正答を発する前に、トモエは刀を振り下ろそうとして――。
ヘルミーナの体が沈む。全身の筋力と遠心力を用いた一撃を放とうとしている。頬がかすり傷だとそこでようやく気付く。ヘルミーナの予備動作は右側――トモエの無防備な左を狙っているはずだった。その動作からトモエの右側を狙う術はない。感じた死への予測を頼りに、トモエは右側で受けると直感に従った。
直感は正しく、槍の柄はトモエの右半身を狙い横に薙がれた。
受けて気付く。ヘルミーナは右薙ぎをするように見せかけながら、槍を手放した。 ヘルミーナが槍に込めた全身の勢いは槍を手放した時点で失われたはずだ。しかし、受けた一撃は異様なほどに重い。衝撃でトモエは、完全に動きを封じられた。
長槍が五体の一部。そう判じたのはトモエ自身だ。
手足のように槍を操るヘルミーナの武芸を見て、トモエはそれを四肢の延長線であると格下げした。
違う。この魔槍は、単独で推力を持っている。
魔槍の推力のみの一撃で、受けたトモエと拮抗――それどころか押し止めた。
手の痺れが抜ける間もない刹那の間に、ヘルミーナは魔槍を握る。魔槍が放った推力は、トモエ自身が相殺した。
全身の回転によってめまぐるしく視界が巡る中で、ヘルミーナは曲芸のように空中に舞った左手で槍を捕らえ、不安定な体勢から正逆の方向へと一撃を放ったのだ。
左の脇腹に魔槍の柄が打ち込まれる。
耐えきれずにトモエは吹き飛び舞台を転げ、倒れ込んだ。
「見事ではあった。この太刀も良い出来だ。才も剣も揃えながら、死を願うなど恥さらしめが」
ヘルミーナは槍の先端で器用に太刀を跳ね上げると手に取って、倒れたトモエに吐き捨てた。
「……殺せ」
「ほざけ。死の先へは真の英傑がたどり着ける場所。死を望む肉に縛られし者には相応の罰をくれてやる」
ヘルミーナは言うと、魔槍を天に投げた。魔槍は魔力で蒼天に軌跡を描く。空中に浮かぶこの舞台から地表に向かったかと思えば、すぐに魔槍は戻ってきた。
巨大な鳥籠のようなものぶらさげている。
轟音を響かせて、鳥籠が舞台に落下した。鳥籠は牢のようだった。その内側には十名の奴隷傭兵らしき者たちが捕らえられていた。彼らの表情は一様に恐怖に凍り付いている。その理由はトモエにはわからなかった。通常、敗北したギフトホルダーに対し、奴隷傭兵を使う手段はひとつに限られている。
トモエは立ち上がり、ヘルミーナを睨み付ける。まだ、多少なりとも魔力は残っている。太刀を奪われようと、奴隷傭兵如きに好きにされるほどではない。
「弾倉――というものを知っているか?」
ヘルミーナは嗜虐の笑みを浮かべ、トモエに語りかけた。
「確か――連射式火縄の、矢筒だったか」
一度や二度はトモエも見たことがある。連射が利く分、隙を生じにくい銃だ。威力はギフトホルダーの弓に劣る。魔力を込めるのが難しく、弾道の変化も起こしづらい。
「そうだ。この檻は――余の弾倉よ」
ヘルミーナが鳥籠に視線を向けた。その紅の瞳が、深さを増したように思われた。
すると、奴隷傭兵たちは哀訴と呪詛を上げる者に別れた。哀訴はヘルミーナに、呪詛はトモエに向けられている。
「ヘルミーナ様っ! 如何様にも従います! それだけは……」
「ああっ、クソっ! 意味もなく下剋戦なんてやりやがってっ! クソクソクソっ! ぶっ壊れるまで犯してやるからなっ!」
そんな彼らの叫びでさえ、今から始まる宴の前菜であるかの如く、ヘルミーナは微笑をたたえるのみ。ヘルミーナが放出する魔力が増幅していく。先の立ち会いとは比較にならないほどへと。
「くく。手を抜いていたわけではない。死の先へたどり着けぬこの愚かな雄どもを、余の魔力をもってして一時的に英霊たらしめる。これが眷族としての余の異能でな」
ヘルミーナが手を檻へと向けた。その手から光弾が十、緩い螺旋を描きながら放たれた。
高濃度の魔力を込めた魔弾は、ゆったりと奴隷傭兵たちを襲う。何が自らに起きるか、知っているかのように、彼らは怯え、同族を殴り倒してでも、一秒でもそれに接触するのを避けるために離れようとする。
檻は広くなく、ろくに避けることもできないのが実情だった。
光弾を接触した奴隷傭兵は、およそ人が上げたものとは思えない、重低音の咆吼を響かせ、肉が肥大化していく。
眷族は亜人を生み出す。知識としてどころか、トモエとてそれを見たことはある。だが、今から生まれようとしている亜人は、並大抵の亜人とは格が違った。東方における最悪の亜人は童子と呼ばれる鬼であるが、それさえも凌駕しうると思われた。
その最中、空に浮かぶ舞台に、檻がさらに増えているのにトモエは気がついた。弾倉――とヘルミーナが言ったのを思い出す。檻の数は計十個。内にいるのが同数と仮定すれば、その合計は百にのぼる。
「最強の眷族――ハーキュリー。戦争女神アテナから賜れし、余の権能。他の亜人とは格が違う。残存する生命を爆発的に消費し、魔力に変えて動く。よって寿命は僅か半日。故に、その生殖本能はブタとさえも比較にならぬ。その魔力出力は上位のギフトホルダーに匹敵する。光栄に思えよ、トモエ。余がこれを生み出せると知るのは大陸中においても極小だ」
トモエの体が震えだした。
ヘルミーナの言が真実だと仮定すれば、トモエは今から十人の強力なギフトホルダーと無手で戦わねばならない。そして、負ければオーク以上の激しい陵辱を経て、女として生まれたことを後悔するほどの生き地獄を味わうのだ。
「そう怯えるな。弾倉には限りがある。百体と戦い抜いても構わぬし、五日間耐え抜いてもよい。さすれば余が直訴してやろう。女神アテナへと。死の先――眷族化の儀を賜れるよう」
驚きで無意識にトモエはヘルミーナを見た。
「ほう? 知らんかったか? 無論、眷族として生まれ出ずる者もあるが、眷族にはギフトホルダーから昇格する者もある。その差異にさしたる意味はない。眷族化の儀は眷族になる以前の記憶を完全に失うのだ。――奇しくもその者らと同様に」
ヘルミーナの視線を思考が硬直したままでトモエは追った。奴隷傭兵のハーキュリーへの変化が終わったらしい。一際激しい方向が青空を揺るがすと、轟音とともに内側から檻が破砕された。
ハーキュリーの背丈は女性にしては長身のトモエと比して倍以上あり、上腕は彼女の腰回りに匹敵する。そそり立つ剛直はどう見ても赤子より大きく、彼女の未通の性器に入るとは思えない。
ヘルミーナは浮遊し始め、玉座へと舞い戻る。腰を降ろし足を組むと、彼女はその魔性の紅目で、眼下で始まろうとしている狂宴を睥睨し始めた。
十体のハーキュリーがトモエに殺到する。技量もなければ、相手に対する恐怖も感じられない、稚拙な動きだった。咄嗟に横に動いて避ける。横を通り過ぎただけで髪が風圧で跳ね上がった。
二体、三体と襲いかかってくるハーキュリーを、トモエは足さばきで回避する。が、四体目は避けきれなかった。覆い被さろうとするハーキュリーの腕を掴み、渾身の力で抵抗する。しかし、拮抗が精々ではね除けることは叶わなかった。
「ぐ……こ……のぉっ……」
ヘルミーナの一撃による痛みはあった。だが、出力はさほど減衰はしていない。侍大将だったトモエは上級ギフトホルダーであり、そのトモエに匹敵するハーキュリーは確かに最強の亜人と呼ばれるに相応しい暴威であった。
――たかが奴隷傭兵の命ひとつで、これほどの力を生み出せるとは。
自分が下剋戦を挑んだ相手、戦乙女ヘルミーナの恐ろしさにトモエは戦慄を覚えた。立ち会ったトモエにはヘルミーナの単騎での戦闘能力もわかっている。神馬騎士団を創設し周辺領土を併呑、中部全域に広大な領土を要する敏腕を持ちながら、ハーキュリーを生み出す異能を持つ。北部にはこれ以上の怪物が跋扈するのであれば、ギフトホルダーのままでは立ち入るのは不可能だ。
そんな思索が破れる布の音で微塵に打ち砕かれた。状況を解する前に、肌で違和を感知する。背後に回ったハーキュリーが、彼女の衣服を鎧ごと、力任せに引き裂いたのだ。
トモエとハーキュリーの膠着を他のハーキュリーが待つ理由はない。幾本もの太い腕がトモエの体に群がり、残る衣服を剥ぎ取っていく。だが両手を離すわけにもいかなかった。力を抜けば即座に押し倒されるに相違なかったからだ。
直後、左右の太ももに強い力が加わったかと思うと、彼女の体は浮かされた。背後のハーキュリーが彼女の太ももに手を回し、トモエを持ち上げたのだ。
驚愕でトモエは両腕の力が抜け、押し負けてしまう。太ももを持ち上げた豪腕が上がってきて、彼女の両腕にも回る。
「あ……そんなっ」
弱々しい怯えた声がトモエの口から漏れた。応じるように眼前のハーキュリーが極太をそそり立たせる。その前には両足を広げられ、完全に拘束されたトモエの膣が、乾いたままで差し出されている。
亀頭が膣口に触れた。前戯などという観念は、半日後の死が確約され本能のままに動く魔人にはないようだった。
訪れる痛みに耐えるため、トモエは歯を食いしばり――予想を遥かに上回る痛みに、声にもならない絶叫が青空に響きわたった。
皮は引き裂かれ、臓物が掻き回されるような苦悶で、トモエは一撃で意識を飛ばした。だが、気絶していられるのもつかの間だった。
「がはっ!」
色気もへったくれもない声がトモエの喉から放たれる。肛門を貫かれた衝撃で、トモエの意識は強制的に覚醒を促された。
あまりの苦痛にトモエの口からは涎が溢れ、彼女の形の良い乳房に垂れ落ちる。茫漠とした意識が、自然と視線を下げた。二本の剛直で埋め尽くされていると思いきや、処女を奪った陰茎は先端だけしか収まっていなかった。腰を回す手に力が込められる。肛門に突き立った肉棒ひとつで、彼女の下胎は破裂寸前だ。
彼女の腹部にはこれほどの質量を二本も収める容量はない。
前のハーキュリーが腰を突き入れる。下腹が壊れるのをトモエは確信し目を剥いた。しかし、彼女が予見することなど、あらかじめハーキュリーどもも本能で把握しているのか、膣に突き込まれると同時に、肛門を貫いていた肉竿が引き抜かれた。
「あふっ」
子宮が突き上げられ連鎖的に肺が潰されたように、トモエの口から呼気が溢れた。
破壊されなかったのは僥倖でもなんでもない。この地獄のような苦しみが、少なくとも半日は続くのだ。そして、ハーキュリーは今彼女を犯す二体だけではない。残り八体も、トモエを犯すのを楽しみに剛直をそそり立たせ自らの手で扱いている。
意識が飛ぶのを期待するのは無意味だった。これほどの巨根に貫かれて目覚めないのは死体くらいのものだろう。死体になる望みも薄い。トモエの体は頑健で、生半なことでは命を落とすことも許されない。
だらりとぶら下がったトモエの手に、何かが触れた。禍々しい熱を帯びた陰茎だ。ハーキュリーが順番待ちに飽いて、トモエの掌を犯すことに決めたらしい。武芸の修練に費やした彼女の掌は、しかし女性的な柔らかさを残していた。
最後の誇りでトモエは抵抗を試みる。前後の穴を交互に犯され続ける中で、握力は弱まっていた。まるで今、二体のハーキュリーによって力任せに犯されている様を再現するように、両の手で彼女の手を無理矢理に陰茎を掴ませて、陰茎を扱かされた。もう一本の手も同じように陰茎を握らされる。
巨躯に挟まれたトモエの部位で、他に外側に出ているものは両の足しかない。膝裏と足の裏にまでハーキュリーどもは剛直を挟み、擦りつけてくる。
これで計八体が同時にトモエの全身を陵辱している。残る二体が我慢できずに同士討ちでも始めてくれればいいのだが――そんな期待は叶いそうになかった。本能の赴くままに犯しながらも、彼らは彼らで秩序があるのか、残る二体は剛直を撫でつつも大人しく順番待ちに徹している。
彼女の膣内で巨根が震えだした。遅れて、肛門の中でも蠕動が始まる。リズミカルに前後の穴を交互に埋められる最中に、トモエは何が起きようとしているのかを理解した。
「あ……やっ……あふっ、ぐう……孕みたく……ないっ……」
この化け物の子種が自らの卵子を犯す様を幻視する。強靱な精液どもは彼女が宿す命の源に群がり、食い破り、やがて彼女の胎は怪物の揺り籠になるだろう。
トモエにできたのはただの哀訴だけだった。背後のハーキュリーにフルネルソンで拘束された彼女には、自由になる部位はほとんどなく、残る四肢も今は魔人たちの性衝動を励起するために使われている。
膣内で剛直が爆ぜた。子宮に特濃の、粘ついた精液が解き放たれる。射精の快感を味わうように、膣から剛直がゆったりと引き抜かれる。直後、肛門に深々と巨根が突き込まれ、そちらも爆ぜた。
破瓜の血と精液と、ようやく分泌され始めた彼女の愛液で濡れた陰茎が、彼女の膣から抜け落ちた。白い子種が膣からあふれ出す。今すぐ掻き出したいとさえ思ったが、肛門には未だ深々と剛直が突き刺されていて、背後のハーキュリーは彼女に自由を与えてくれない。
溢れ出た精液はほんの僅か。続くハーキュリーが栓をするかの如く、膣を犯し始める。肛門を犯すハーキュリーはそれに合わせて陰茎を引き抜き、トモエから離れた。
体が自由になったかと思えばそんなことはなかった。四肢は未だ犯されたままで、眼前のハーキュリーはトモエの腰を掴んで深々と剛直を子宮に突き立てている。
背後に立ったハーキュリーは、しかしそれでも両足と両腕を同時にロックするフルネルソンを選んで、肛門を犯し始めた。
縋るような眼差しで、トモエはヘルミーナを見た。救いを与えられるのはヘルミーナしかいなかった。しかしヘルミーナは獣の交尾を眺めるように、ただ嘲弄の笑みを投げかけるのみだった。
絶望の暗渠に立ったとき、トモエの下腹から救いの手が現れた。痛みや苦悶に徐々に慣れた彼女の膣は、この尋常ならざる剛直に突き抜かれるのに、快楽を覚え始めた。彼女の膣襞は熟練の娼婦にも勝る手管でハーキュリーの剛直を刺激し始める。
二周、三周と十体のハーキュリーがトモエの体を浮かせたままで、前後の穴を犯し終えた。空は夕焼けの赤に染まっている。トモエからはその景色の違いを理解するような理性は失われていた。
「あっ……イぐっ、また、イぐぅぅぅっ」
度重なる絶頂を受け、彼女は次第に自分から腰を振り始めていた。もはや抵抗の余地などなかった。しようとする意思もなければ、彼らの剛力に逆らうほどの魔力もない。
寝そべったハーキュリーの上に跨がり、トモエは陰茎を迎え入れる。腰を掴まれまるで天を犯すような勢いで、焼けた鉄杭じみた剛直がトモエを揺らす。
背後からもう一体が彼女の肛門に陰茎を突き立てた。散々に開発された彼女の下腹部は、二本の剛直を受け入れる下地ができている。下と背後から力任せに犯されて、彼女は乳房を揺らしながら、自分でも腰を振った。数時間に及ぶ輪姦で、トモエは各々のハーキュリーの癖さえ把握できていた。少しでも快楽を貪り、絶頂に達する時間を増やさないと、思考が元の自分に戻ってしまう。
怪物の肉奴隷と化した今の己を見つめれば、トモエは壊れてしまう。その思考そのものが既に壊れた思考だった。
淫乱な娼婦に落ちた彼女を、しかしハーキュリーたちはそれでもなお犯す。極太を彼女の唇に当て、力任せに口蓋を開くと喉を犯し始めた。両手は既にそれぞれで陰茎を扱かされている。体を捻らせ、空いた乳房に陰茎を挟み込み、トモエの乳房を握りつぶすようにして、扱く者もあった。
外から与えられる信号は全て快楽に変換された。
口を犯していたハーキュリーが埒を開け、躊躇なくトモエはその白濁を飲み干した。
「あはっ、もっと……もっとっ! 私を……犯してぇぇぇっ」
真っ白になった思考の中で、彼女はさらなる陵辱を望む。心底に眠っていた罪悪感。見捨てた輩、守れなかった主、そして、蹂躙された領土をトモエは思う。
半日。たった半日、この魔人どもの相手をするだけでその罪が濯がれる。たとえ自分が壊れたとしても、嬉しいとさえ感じられた。
夕焼けに染めていた残照が落ち、夜の帳が頭上を覆う。一体、また一体とハーキュリーが倒れていく。その巨躯は光を帯びて魔力に転換されるようにして虚空に失せていく。
最後の一体に跨がり、トモエは激しく腰を振った。肛門を埋める者もなく、ただ膣でしか快楽を摂取できない。幾度となく弓なりにのけぞりながら、ただひたすらに腰を上下させる。二度、三度と膣内に射精が繰り返されると、最後のハーキュリーも夜空に溶けていった。
雲上の舞台に、白濁に染められたトモエが倒れ込む。
絶頂を繰り返した余韻で、トモエは頬を赤く染めたままで淫らな吐息を繰り返す。
――終わった……?
自らが演じた痴態から目を逸らし、陵辱が終わったのにトモエは安堵した。
見上げた夜空に、流星にも似た燐光が奔った。それは彼女に向かって降ってくる。頭上でそれが静止したとき、ヘルミーナの魔槍だと見て取れた。
両手を広げ、歓喜してトモエは迫り来る死を迎え入れる。
だが、魔槍は彼女を突き刺すことはなく、ただ魔力の突風を浴びせるだけだった。粘ついた白濁液は全て風圧で吹き飛び、汚れは膣と直腸の内側だけに残された。
魔槍は彼女の脇の下を通って背中を通ると、更にもう一方の脇の下に入る。胸を張らされる姿勢だ。拘束にはなっていないのだが、何故だか抵抗は叶わなかった。魔槍はそのまま浮かび上がる。そして、彼女を運んでいく。
残る、檻の前へと。
奴隷傭兵たちの、獣欲と憎悪に塗れた眼差しが彼女の裸体に突き刺さる。檻が開くと、槍は彼女から離れ、石突きで彼女の背中を押すと、トモエは盛った奴隷傭兵たちの前に投げ出される。
もはや、トモエには、奴隷傭兵に抵抗する力も残されていなかった。
「ああ、クソがっ。次は俺たちがああなるんだよっ!」
ひとりがトモエに覆い被さる。ハーキュリーに開発された膣に、奴隷傭兵の陰茎が突き込まれた。剛直で緩まされたかと思いきや、彼女の膣はしっとりと濡れて陰茎を咥え込み、十分な刺激を与えたようだった。それは同時に、彼女にも十分な快楽を与える。
弾倉。ヘルミーナはそう告げた。檻に囚われた奴隷傭兵たちの明日は、ああして魔人に成り果て虚空に失せるのみなのだ。トモエが仮にヘルミーナに打ち勝てれば、彼らには解放される可能性があった。しかし、トモエは惨敗し、奴隷傭兵たちの死刑台送りを早めたというわけだ。
「いいぜぇ、ギフトホルダーのおまんこってのはすげえなぁっ! あんなのにヤラれておきながらしっかりと締め付けてきやがる。緩むことを知りさえしねえっ」
「おい、体ぁ、持ち上げろっ、ケツが使えねえじゃねえかっ!」
「ちっ、仕方ねえなあ。時間はたっぷりあんだぜ?」
「ざけんなっ。仕置きしてえのはテメエだけじゃねえんだよっ!」
「あ……いやっやだぁ……! 許してぇっ」
男たちの純粋な憎悪を肌で感じ、怯えからトモエは許しを乞うた。まだ、檻は八つが残されている。計九十人。魔人十体とどちらかが辛いのか、トモエは直感的に判じた。肉体的な苦悶は間違いなくハーキュリーたちの方が苦しかろう。だが、奴隷傭兵たちに犯されるのは精神が悲鳴を上げるものだった。
本来であれば何百人いても相手にならない、刀の錆が奴隷傭兵だ。そんな連中に一切の抵抗もできず、ただひたすらに精のはけ口にされる。
彼女の哀訴はただ、男たちの陰茎を硬くするだけだった。既に彼女を犯し始めていた男がそのまま背面に倒れ込み、トモエの体を屹立させた。下から彼女を揺らし、淫靡にトモエの乳房が揺れる。その体に男たちは群がり始める。
檻の男たちが果てきると、またも魔槍が彼女を拉致しに訪れる。
魔槍は次の檻に彼女を押し込み、犯される彼女の悲鳴で股間を腫らしていた男たちがまたも彼女に殺到する。
夜が白み、朝を迎え、そして青空が全天を支配する。
白濁に穢れた肌が、日差しによって浮かび上がる。獣のように背後から犯され、雌として下から突き上げられ、全身で男たちに許しを乞うて、精を貪る。
溢れる涙に、陵辱を和らげる効果はなく、ただ苛烈さを増すだけだと知りつつも、もはや、トモエには、涙腺ひとつ制御することはできなかった。