宵闇の中、辺境の街道を静かに馬車が走る。
幌馬車は絵に描いたような清貧さを纏っている。車輪や御者台の整備は丹念に成されていて、二頭の馬の毛艶も良い。華美を求めないこの辺りの気風によく見合ったものだった。
場所は大陸中央、天命聖国メギドの南部――狂信聖地レコン。領土間の関所を抜け、レコン内の何処かの都市に戻る途中なのだろう。
天命聖国は同じ女神を崇めながら、異なる教義を持つ領土が集まる国である。
無論、他国同様に内紛はある。しかし、外部に異なる女神が存在する現在、大陸で比較的平穏な地を上げるとなれば、天命聖国に相違なかった。
亜人は大半が掃討され、教義さえ守れば奴隷傭兵も衣食住は凌げる。土地の住人たちも同様だ。逆に経済的な争いも厳しい戒律が止めるため、名誉や貨幣による出世は見込めない。
義務を全うするだけで、生き長らえられる極楽。
権利さえ全て奪われ、感情を捨てるしかない地獄。
外しか知らぬ者と此所しか知らぬ者では、どちらが正しいかの判断は難しい。少なくとも駆ける幌馬車で談笑を交わす者たちは、前者だと信じているに違いなかった。
街道の外から、赤い影が躍り出る。影は馬車よりも速く地面を駆け、音もなく馬車と併走を始めた。
闇に紛れる黒のフードから明るい赤毛が覗いている。空に浮かぶ満月にも似た黄金の瞳は、既に獲物を見つけた歓びで昂ぶっている。白い太ももが闇夜の中でさらに素早く地面を踏みしめる。
速度を増した少女は、音もなく跳躍すると、次の瞬間には馬車を引く馬の上に立っていた。押し殺した悲鳴を上げ、馭者が手綱を引いて馬車が止まる。
酷薄に口端を持ち上げ、少女は腰に帯びていた短刀で馭者の頸動脈を掻き切った。
馬が止まったのに気付いたのだろう。幌馬車から善良そうな男が顔を出すと、恐怖に顔を歪めた。
「おう、全部、置いてきな」
たったいま血を吸ったばかりの短刀を舌で拭うと、彼女は凄惨に笑った。
男は震えながらも、彼女の指示に従い、馬車から荷物を出そうとする。
その背後に音もなく近付くと、少女は馭者の血と自身の唾液で濡れた短刀を、男の首に当てた。
「聞こえなかったか? ――全部、だ」
少女が言い直す。男は荷物を馬車から降ろすのではなく、自分たちが馬車から降りるのだとそう理解したようだった。同年代の、人の良さそうな中年の婦人が姿を見せる。
馬車に乗り込まない少女に疑念を浮かべた夫妻は、互いを見つめ、それから衣服を脱ぎだして、まとめてそれも馬車に投げ込む。身包みを剥がされた夫妻は、全裸のまま地面に座り込み、神に祈る。
満足そうに少女が、背を向け、馬車に向かってゆっくり歩き出したとき。
「女神様――ありがとうございます」
夫妻は、少女に財産を奪われた不幸を嘆くのではなく、生き延びた幸運に感謝した。
少女は音もなく跳んだ。無音で接地した場所は夫妻の背後である。短刀を抜き放ち、背後から男の首に刃を走らせる。驚いた女が振り向いたとき、既に彼女の首にも斬線は通っていた。
約定を反故にされ、崇める女神の恩寵さえ足蹴にされた罪なき夫妻の死に顔をみて、少女はくつくつと声を漏らし、やがて大笑した。
追剥ゼヌゼ・ロゼイン。
誰かに従うような性分ではなかった彼女は、大陸中を放浪し、今はこの地で今のような蛮行で路銀を集めていた。
「やべえ場所だと聞いてたが――悪くないじゃないか」
七国の南部を踏破した彼女は、狂信聖地についてそう思った。彼女はあまり都市部での生活を得意とはしていない。故に狂信聖地でも辺境に住まうのだが――盗賊型であるゼヌゼには亜人や魔獣は戦うには厄介な手合いである。この地では亜人は唯一を除きほとんどが駆逐されている。
元来治安が良いためか、辺境にギフトホルダーが派遣される事態が珍しく、よって、この地はゼヌゼにとって住み心地が良かった。
馬に乗り、馬の尻を短刀で刺す。痛みに嘶きを返した馬が、疾走を開始する。馬は荷物引きには都合が良いが、駆けるのであれば自分の足が勝る。目的地につけば食料に替えるだけだ。
街路から馬車が離れ、やがてゼヌゼがねぐらにしている洞窟が見えてきた。馬を食肉に変え、荷物を下ろし、幌馬車を薪割りにする。
火を起こして肉を焼き始めた。火が通るまでに戦果を検める。
「今日もしけてやがんな」
狂信聖地に唯一の欠点があるならそこだった。この地の住人は欲がない。交易でも物々交換ばかりだ。少量の銀貨と銅貨に、慎ましい宝石のついたペンダントが夫妻の持ち物で、商売で得た品物らきものは羊皮紙や絹、わずかな香辛料や塩くらいのものだ。わずかな葡萄酒や麦は狂信聖地側のものと銘柄が違う。取引先で得た品だろう。
行きの馬車の場合は土地産の葡萄酒やエール、蜂蜜に多少の粗織物があるくらいだ。やはり金目のものには出会えない。
ゼヌゼは考える。この生活でも飢えることはない。しかし、奪う者として、戦果が乏しいのはやはり不満が残る。それはあくまでも心の飢えでしかなかったが、もとより理性など養った経験のないゼヌゼには死活問題である。
満腹になったゼヌゼが寝そべり、まだ思考を続けようとしたとき。
大気が液体になったかと思うほどに、粘り気を感じた。
咄嗟に彼女は五感を総動員し、気配の元を探る。
気を抜いていたとはいえ、彼女は盗賊型のギフトホルダーだ。魔術が届くような範囲にまで接近されれば流石に気付く。
重みを増した大気は彼女の体に執拗に絡みつく。違う――とゼヌゼは間違いを悟った。大気が変化したのではない。自分の体が重いのだ。
何者かの襲撃――だが、彼女の探知能力は周囲に警戒すべき対象を認識していない。
「ごきげんよう。賞金首のゼヌゼさん」
声をかけられ、心臓が跳ね上がった。咄嗟に彼女は首を巡らせる。その動きも普段のゼヌゼからは考えられないほどに鈍い。
振り返ったその先ではひとりの女が、慈悲深い笑みをたたえていた。
白銀の髪は闇夜の中でも神聖さを謳うようだ。水色の瞳は無垢なほどに澄んでいる。体を覆うは髪と同じ白銀の鎧。破城槌でさえ防げるだろう巨大な盾には精緻なレリーフが刻まれている。肌にも鎧にも、そして盾にさえも一切の破損はない。
「修道騎士オリヴィア・クレアライトですわ。重ねた罪、裁きに参りました」
名乗ると、一層に笑みを深めた。騎士型なのは間違いない。では、この脱力感の正体は何か。
「天命聖国が誇る独裁領域。いかがですか? 魔術を含めた異端の業――異能を打ち消し、所持しない者は単純に魔力出力が減退する、我が女神のギフトです」
「ち、そんな便利なもん持ってやがるのか。道理で誰も近付かねえわけだぜ」
腰帯につけたベルトはオリヴィアの死角にある。ゼヌゼは両手を挙げて降参の意を示した。
「にしても……気配が探知できなかったのは何でだ? 死んでからも気になって迷っちゃあいけねえ。冥土の土産に教えてくれよ」
「我が女神の元には土産など必要ありませんよ。――ですが、まあ。そのくらいでしたら。独裁領域は遮断効果と効果範囲が反比例の関係にありますので。ニンジャ――シノビでしたか。彼女らとは比較的懇意にしておりますので。ゼヌゼさんの根城を探ってもらい、広げた独裁領域であなたを先に包みました。近付く度に強度を上げていけば、私より強力な盗賊型以外はこうして捕縛可能です」
なるほど、とゼヌゼは納得した。そうであれば隠れ潜む盗賊型や魔術師型にとって、この国は入ってはならないと言うのも頷ける。外に漏れていないのは知った者は誰ひとり逃げおおせてはいない。オリヴィアもゼヌゼを逃がしたり生きて帰すつもりは毛頭ないというわけだ。
オリヴィアは楚々とした雰囲気でゆったりと歩いてくる。鎧の重みなど一切気にする様子もなく、ゼヌゼへの警戒など微塵も感じられない。
あと一歩の距離に入ったところで、ゼヌゼは片手を下ろした。大盾が災いし、オリヴィアの視界からゼヌゼの右手が隠れたためだった。短刀を握る。どう来たとしても、頸動脈を断ち切ってやる。ただそれだけにゼヌゼは全神経を集中させ――
視界を盾が覆った。
次の瞬間には、全身を激痛が襲った。
「何を……すんだよっ!」
「いえ、独裁領域を張り続けるのは随分と消耗しますので。こうして、まずはあなたの全身の骨を折って、魔力を枯渇させようと思いまして」
ギフトホルダーは傷の回復が早い。ただし、その際に多量の魔力を消耗する。治癒術より非効率的な回復であるためであるらしい。魔力の消耗は疲弊につながり、普通の女性並みの腕力まで落ちる。だが完全に零にはならない。常に大気に舞う魔力を吸っているためだ。これを枯渇状態と呼び、死ににくいだけの奴隷が生まれる。確かめたことはなかったが知識では知っていた。
全身を苛んだ激痛が不意に和らぐ。平行して微弱な治癒術をオリヴィアはゼヌゼにかけていたらしい。力加減に失敗したとしても、相手が死なないようにだ。
「さて。罪なき民を百人以上も惨殺した罪の改悛。僭越ながら私がご協力させていただきます」
今さっきまで加虐をしておきながら、透き通った声色でオリヴィアは告げた。
ゼヌゼはこのとき、まだ自分の立場を理解しきってはいなかった。
彼女が人生で殺したのは千人を遥か越える。どうやらオリヴィアが把握している殺人数はこの狩り場に移ってからのものらしい。
「わっ、わかりましたぁ。アタシめの罪をオリヴィア様の手で清めてくださいませぇ」
そうへつらって、ゼヌゼは地面に顔を擦りつけた。刑罰を軽くするならなんでもやる。靴を舐めろと言われたら犬の真似してべろべろと舐める。心底から彼女が罪を悔いた――そうオリヴィアが判断したそのとき、ゼヌゼはこの地を後にする。二度とここには足を踏み入れず、また惨殺を繰り返す日々に戻る。
伏せた彼女の首に、冷たい何かが嵌められた。
頭を上げる。すると、四つん這いをするゼヌゼとオリヴィアの間に、鎖があった。手で首に触れる。首輪だ。
「罪人ですからね。こうして引き回さざるを得ません。その姿勢の方が良ければ、そのままでも構いませんが――」
オリヴィアが鎖を引く。四つん這いでなんとか追いすがる。ゼヌゼはなんとか立ち上がって、そのまま彼女の後を進む。
しばし歩いた後のことだった。街路沿いを歩くふたりの前方に、集団が現れた。遠目でもわかる。ゼヌゼも幾度と見たことがあったからだ。
天使巡礼。
天使と呼ばれる亜人は天命聖国の全域を決まったルートで巡回している。町や村はそのルートに合わせて存在するらしいことは、ゼヌゼも初期の調査で把握していた。
天使には階級が存在するが、ゼヌゼが知っているのは今遭遇した連中のみ。最下級の天使人形である。身体の構造は人間といささかも変わらない。強いて言うならば若く、均整の取れた体つきのものしかいない点が特徴と言える。だが、街路を全裸で彷徨う連中など彼ら天使人形以外にはあり得まい。
「天使様は孕ませるべき相手を知り、子種を注いで胎に天使を授けてくださいます」
ゼヌゼもそういった慣習があることは知っていた。夫を持とうが処女であろうが天使が逸物をいきり立たせれば、身を捧ぐ必要がある。少なくとも狂信聖地に住まう女性は、それを忌避しはしない。
気持ちの悪い風習だ――とゼヌゼは思ったが、口には出さない。そして、彼女はオリヴィアの真意をまるで理解できていなかった。
オリヴィアが天使たちに近寄る。当然、鎖でつながれているゼヌゼもそちらへ向かわざるを得なかった。数歩の距離まで近付いたとき、天使たちが一斉に逸物を膨張させた。
「――っ!」
その様にゼヌゼは怖気を感じた。少なくともこれまで天使たちと遭遇した際には、彼らはゼヌゼに興味を示してはいなかった。薄気味悪くは感じていたが、それだけだ。殺しても無表情のまま果てるだけで、奪うものは何一つ持たない彼らを殺す理由がゼヌゼにはなかったからだ。
「あら、まあ。天使様たちに認められるなんて――罪人にしては幸福ですね。ゼヌゼ」
「……アタシじゃなくて、アンタかも知れないだろ……?」
ギフトホルダーであるオリヴィアも同時に襲われれば、彼女が天使たちを撃退してくれる。その可能性に縋るしかゼヌゼにはなかった。
オリヴィアは慈しむような笑顔をたたえたままで、ゼヌゼから離れた。鎖の長さの限界まで。そして、天使たちが誰に反応したのかは明らかだった。一体もオリヴィアへとは向かわない。
「天使様はギフトホルダーの場合、適した相手に子種を授けてくださいます。強き者は更に上位の天使様のものですから」
オリヴィアはさらに説明を加えた。その眼差しはどこか夢見る少女のような無垢さがあった。ゼヌゼが見えたのはそこまでだった。
地面に押し倒され、群がる天使たちが彼女の衣服を剥ぎ取っていく。性器が露出させられ、夜風が膣口をなぞる。布地で押し込めていた乳房が跳ねながら外気に触れた。
「や、やめやがれっ……このっ」
四肢を暴れさせ、ゼヌゼは抵抗する。しかし天使たちは無表情に彼女の手を掴み、地面に押し付けた。両足は左右に広げられ、閉じていた膣口が無理矢理に拡げられ蜜肉が月明かりに照らされる。そんな彼女に一体の天使が覆い被さり、硬くなった陰茎を彼女の性器にあてがった。
「ざっけんな! クソ天使どもがっ! やめろっ! やめろよぉっ」
怒りに塗れた表情を浮かべ、ただ罵倒を挟みながら拒絶を口にすることしかできない。ゼヌゼの言葉は、天使たちに影響を与えなかった。止まるでもなく、そして、興奮することさえなかった。
「あがっ!」
破瓜の傷みにゼヌゼは声を上げた。天使たちは沈黙を貫き、静まった闇に彼女の声だけが響く。血で滑りが良くなる。天使の忌まわしき肉棒が、彼女の秘肉に侵入してきた。急くでもなく、さりとて、焦らすでもなく。一定の速度で彼女の蜜肉を分け入り、やがて太ともに天使の肌が触れる。根元まで挿入れきったらしかった。
「ぐっ……」
そのまま天使は腰を動かし、陰茎を引き抜きはじめた。カリが彼女の膣口を一際広く拡張し、そこで反転して腰を前に出してくる。
抽送により蜜肉は熱を帯び始め、ゼヌゼは性楽が這うように脳に上がってくるのを自覚した。
「んっ……くそっ!」
思わず出た甘い吐息に、彼女は悪態をつく。子種を放つべく彼女に覆い被さっている天使は、無言どころか息も荒げていなかった。性器と性器を絡ませた摩擦で、天使は射精を促されているだけだ。性楽を感じる機能はないものと思われた。
「ん……っ、くそっ……あっ、……く、……あっ、このっ」
一方でゼヌゼは快楽を感じ始めている。自分の体にさえ裏切られた気分になり、合間に悪罵を織り交ぜるが、それもある種の喘ぎのようだった。
肉棒が彼女の膣内で蠕動を始めると、熱い液体が彼女の子宮に注がれた。通告もなければ前兆も直前で、ゼヌゼには膣内射精に異議を唱える猶予さえ与えられなかった。
呆然としながら、ゼヌゼは視線を下げる。だが、豊かな胸部に阻まれ、自分の陰部に本当に精液が注がれたのかを視認はできなかった。
「あ……」
とだけ声を上げたのは、陰茎が引き抜かれたからだ。
「ぐっ」
すぐに他の天使が彼女の蜜壺を淫棒で埋め立てる。最初の天使と同じ、ただ一定のリズムでの腰振りだ。天使たちに個体差などほとんどない。よって、二体目も同じく沈黙を貫き、彼女の声だけが静寂を乱す。
「あっ、あっ、あっ」
性器の潤滑には、既にゼヌゼの愛液も協力している。閉じては押し広げられる感覚には、疼きに似た快感が伴う。だが、絶頂にまでは至らない。振り子のように一定の間隔しかない天使の肉棒は、ゼヌゼを昂ぶらせきることはかなわなかった。
誘うように揺れる乳房も、撫でるのは夜風だけだ。二人目の天使が彼女の膣内に埒を開け、三人目が即時穴を埋める。どの肉棒も大きさには大差がなくて、調子も完全に一定だ。
だから彼女は絶頂の手前で、ただ淫靡な喘ぎを続けるだけで、その先にはたどり着けない。
それは十人目が彼女の膣内に子種を注いでも変わらなかった。
やがて、体位が変えられた。獣のような四つん這いで、ゼヌゼはひたすらに子宮に子種を注がれる。乳房は生まれてくる赤ん坊のものだと思っているのか、乳房が虚しく跳ねている。
背後から獣のように突かれる。その無様さを感じてはいるが、しかしどうしても最後の断崖を乗り越えられず、彼女は絶頂には届かなかった。
「あっ、あっ、あっ」
せめてあともう少し、速かったり大きかったり、乳房にでも刺激を加えてくれれば達せそうなのに、性楽の表面張力は予想外に頑強で、どうしても彼女はイケなかった。最初こそ犯されて絶頂する屈辱を恥じる自意識も残っていたが、いつの間にかこのまま一生、寸止めにされ続けるのではないかという恐怖にすり替わっていた。
四つん這いでただ突かれているゼヌゼの前に、陰茎が差し出された。無意識にゼヌゼはそれを咥え込む。自分が奉仕すれば、天使たちも応えてくれるのではないかと思い、ゼヌゼは拙いが真摯な舌技で、天使の肉棒を舐め上げた。
やがて、口の中にも精液が放たれる。吐き出すなどという選択肢は浮かびもしなかった。嚥下する。空いた口を、次の天使が埋める。天使たちが子種を注ぐだけでなく、彼女を犯す歓びを知ったのだと誤認した。
天使たちはただ、やがて孕む母胎に栄養を与えているに過ぎなかった。
口を塞がれ、喘ぎ声は消え失せた。天使の下腹部で視界も閉ざされると聴覚が冴え出した。聞こえてくるのは膣と肉棒、それに淫水に寄る湿った音と、互いの肌が弾き合う乾いた音。咥え込んだ陰茎をねぶる唇と舌が奏でる濡れた音だった。
口と膣にペニスを咥え込み、ゼヌゼはついに自分で自分の乳房を弄った。孕まされながらの自慰行為。こうでもしなければ狂い死にしそうなほどに絶頂を求めていた。
激しく力強く乳房を揉みしだいて、乳首を執拗に責め立てる。想像さえしたこともなかったが、自分を犯すのであればそうするべきだと、ゼヌゼは思いながら自らの手で最後の断崖を乗り越えた。
前後から肉棒で貫かれているため、背中を強張らせて絶頂を表現した。達して寸止めの生き地獄から脱すると、ゼヌゼは再び犯されている怒りと屈辱を抱けるようになった。
慰みものでさえない。天使たちは彼女に子種を恵んでいるだけであり、ゼヌゼの媚態にはいささかも興奮していない。やがてゼヌゼは気付く。天使たちが射精に至るまでの抽送は回数が決まっていた。彼女の蜜肉が淫らに締め付けようが弛緩していようがおそらくは同じなのだ。
それなのに、彼女の体の方は一定のリズムでただ突かれ続けるだけで、再び昂ぶりを覚えていく。犯されながら、達するには自分で自分を犯さねばならない。寸止めを繰り返されるのと、自ら果てる屈辱。ゼヌゼは迷いなく後者を選ぶ。
やがて空が白み、彼女を日差しが照らし出した頃。
天使たちは彼女が孕んだと確信したのか、彼女を解放した。力なく倒れ込んだ彼女に一瞥も残さず、ただ立ち去っていく。再び巡礼に戻るのだろう。
「さて、ゼヌゼ。望外の幸運に感謝を。それでは罪の改悛のため、私の教会へと向かいましょうか」
どうやら、一晩かけた天使たちによるゼヌゼへの陵辱は、罰でさえなかったらしい。
「ああ……その前に」
オリヴィアが倒れ込んだゼヌゼの残った衣服を剥ぎ取る。一糸まとわぬ姿で、ただ首輪だけがオリヴィアの持つ手綱につながっている。
「罪人の歩き方はそのくらいの方が良いでしょう」
加虐に興奮するでもなく、ただ慈悲であるというようにオリヴィアが言った。ゼヌゼは家畜のような醜態に激しい屈辱を覚えたが、それでも生きることを優先した。
全裸のまま、天使に注がれた精液を蜜壺から溢れさせ、四つん這いでオリヴィアについていく。
犬のような姿勢で、長い距離を歩いた。街路が終わり、町が見えてくる。
オリヴィアがゼヌゼに視線を合わせ、犬の目線でも町が見えることを確かめてから、
「さあ。あそこが私の教会のある町です」
と告げた。
「……こんなままでアタシを連れていったら、変な噂が立つんじゃねえか?」
街路でもすれ違う旅人は確かにいた。だが、町ともなれば人数が違う。野外を全裸で、犬のように歩かされて連れ回される。その姿を衆目に晒すなど、ゼヌゼにとって屈辱などという領域を越えたものだった。
「いえ、いつものことですので。ご心配は不要です」
こともなく言うと、オリヴィアが歩き出す。鎖が引っ張られ、ゼヌゼは大人しく着いていくしかなかった。
この町は比較的大きな部類だ。近くで狩りを続けていたゼヌゼは町のことを調査済みだった。狂信聖地では教会を中心に町が広がっていく場合が多いらしい。教会の責任者はギフトホルダーで、町の広さはギフトホルダーの能力と比例関係にある。
狩りで得る収穫の問題から、中規模の町を選んだが、それが間違いだった。独裁領域は相手の魔術や異能を無効化し、魔力出力を減退させる。オリヴィアはそういった説明をした。減退ということは消去ではない。なのにゼヌゼはオリヴィアの独裁領域で完全にギフトを喪失した。おそらく、独裁領域を張る側と入った側の魔力出力で綱引きが行われるのだろう。ゼヌゼよりオリヴィアの方が強力なギフトホルダーだったため、出力で劣るゼヌゼはオリヴィアの独裁領域内で魔力出力が喪失する。逆に、相手の方が出力で劣るのであれば、独裁領域を張られても脱出は可能というわけだ。
思考に耽り、恥辱を紛らわせていたゼヌゼだが、解答が出そろったところで意識が周囲に向いてしまった。老若男女、町の住民がオリヴィアが引き連れる裸の女に目を向けている。
女からは侮蔑を、男からは好奇が感じ取れた。それが事実かどうかはゼヌゼにはわからない。少なくとも女は彼女を見ようとせず、男は歩を進めるたびに揺れるゼヌゼの胸部や、未だに膣口から天使の精液を垂れ流す彼女の性器に関心があるものと思われた。
秘部に突き刺さる視線を嫌悪し、ゼヌゼは無意識に膣に力を込めた。周期的に鳴っていた地面に液体が落ちる音が止まる。膣口を引き締めたことで精液の溢れが止まったのだろう。屈辱に表情を歪めたゼヌゼを見て、オリヴィアの足が止まった。
「どうしましたか? ゼヌゼさん。あなたは贖罪のための巡礼の最中です。そのような堪えがたい顔をされていては改悛の意思がないと見なされてしまいますよ? あなたの罪はこれから清められるのです。でしたら――嬉しそうに笑ってはいかがですか?」
オリヴィアが脅しているのか、ゼヌゼにはわからない。だが、今のゼヌゼはオリヴィアの癇癪ひとつで命を失う立場だ。耐えがたい屈辱であっても、死ぬよりはマシだ。生きてさえいれば、オリヴィアを同じ目に合わせることも可能だろう。
顔が熱い。オリヴィアが声をかけたことで、さらに町民の視線が彼女の全身に突き刺さる。犬の歩き姿勢。四足獣には持ち得ぬ豊かな双丘。体毛のほとんどない彼女の秘部と肛門は、日差しに照らされて露出している。
顔を真っ赤に染めながらも、なんとかゼヌゼは笑みを浮かべることに成功した。オリヴィアは満足したのか、歩みを再開する。その後ろを飼い犬のようにただゼヌゼは凝固した笑みを浮かべて付き従った。
やがて教会にたどり着く。人影がまばらになったのにゼヌゼは安堵し、狂信聖地の名を冠する地の教会であることに思い至る。その中には祈りを捧げにどれほどの住民がいるのか。そして、ゼヌゼに対しオリヴィアが提示する贖罪とは何か。想像して背筋が寒くなる。
だが、ゼヌゼの推測とは裏腹に、オリヴィアは正面扉ではなく、裏口へと向かった。少なくとも、祈る住民たちに手込めにされるようなことにはならなそうだ。
裏口の階段を降りていく。人目がなくなり、羞恥が薄れた代わりにゼヌゼの心を恐怖が満たしていった。
たどり着いたのは蝋燭だけを照明とした暗い地下室だった。鉄さびの匂いが鼻腔をつく。鎖や用途のわからない鋼鉄製の器具が置かれている。ぐつぐつと煮えたぎる音が聞こえてくる。
部屋の中央にまで連れてこられると、オリヴィアが鎖の先端を壁に嵌める。オリヴィアはゼヌゼから離れ、テーブルの上で何かを見繕っていた。かちゃかちゃと甲高い音は不気味というよりももはや暴力的にさえ聞こえた。
「……何を……するんだ」
沈黙に耐えかねて、ゼヌゼは尋ねた。オリヴィアは振り返り、穏やかな笑みを浮かべる。表情に見合わない長く鋭利な針にゼヌゼの目線は吸い付けられた。
「百人以上もの罪なき人々をゼヌゼさんは殺してしまいました。その罪を購うには、それ以上を産むのが一番でしょう」
「そんなの、何年かかるって言うんだ」
「いえ。天使様の子種であれば、半月にひとりは産めますよ。この部屋にも天使様は巡礼にいらっしゃいます。天使様が訪れる地こそが教会――引いては町が広がる条件ですから」
ゼヌゼは絶句した。夜ごとこの地下室を訪れる天使たちに孕まされ、奪った命の数だけ天使の子を産む。それがオリヴィアの言う贖罪の正体であるようだった。
そして、ゼヌゼは口に出せなかった。その針は何に使うのか。聞いてしまえば身の毛がよだつような答えが、オリヴィアの口から出てきそうだった。そんなゼヌゼの内心を慮る様子は微塵もなく、微笑を浮かべてオリヴィアは針をゼヌゼの視線に合わせた。
「ただし、その際に淫らに雄を誘惑するようなことがあってはありません。ですから懐胎に不要な器官は潰します。目は縫い合わせ、鼻は焼き潰した後で蝋で埋めます。口は栄養摂取が必要なので残しますが、声帯は不要ですので切っておきます。戒律で刃物が使えないため、焼き切ることになりますね」
脅すような素振りは一切オリヴィアには見られない。確定事項をただ伝えているだけという様子だった。そして、実際にゼヌゼの体を破壊することに葛藤も抵抗もないことが伺える。
オリヴィアがゼヌゼに向かって歩いてくる。ゼヌゼは震えながら背後に逃げる。すぐに壁にぶつかる。怯えるゼヌゼをゆったりとオリヴィアが追い詰める。その目には嗜虐的な歓びの色はなかった。崇める女神が下した戒律に従っているだけだ。ゼヌゼには理解不能のその思考は、この領土に名付けられた狂信という言葉こそ相応しい。
「暴れるのであれば、先に手足を潰しますよ? 見えますか? あの竈にかけられた壺は鉄をも融解させます。切断が難しいので、四肢はあれで骨まで溶かすのが一番です。大丈夫。四肢がなくなり五感を失っても、天使様は変わらず子種をお恵みになってくださいます――」
五感と四肢。どちらを先に失うかなど選べるはずがない。
「な……なんでもしますから。それだけは許して……ください……」
眦から涙が零れ落ちる。
「役に、役に立つよ、アタシ。だから……」
「では、百人産みましょう。私があなたに求めるのは贖罪のみです」
全く話が通じない。一歩オリヴィアが足を踏み出し、ゼヌゼの喉から粗悪な呼吸が漏れた。
そのとき、地下室の扉が開け放たれた。救いの主かもしれないとゼヌゼは淡い期待を抱いた。仕立ての良い服を着た、巨躯の男だった。
「どちら様でしょう?」
オリヴィアが警戒して誰何の声を上げた。
「フェルターという。商人でね。どのようなものがこの辺りで需要があるか調べていたんだが。そんなとき――オリヴィアさんだったか。あんたがあのゼヌゼを裸で連れ歩いているじゃないか。そいつがこの町でどんな罪を犯したかは知らないが、他国でも手配を受けていてな。確実にゼヌゼの手で殺された人数だけでも三百は越える。発生頻度から考えると、千人以上やっていてもおかしくない」
救いの主などではなかった。男――フェルターはオリヴィアが裁こうとしているゼヌゼの罪を重ねたに過ぎなかった。恨めしげな眼差しでゼヌゼは男を見やったが、男の方は全裸でつながれたゼヌゼに好色な視線を返すだけだった。
「それはそれは――貴重な情報をありがとうございます。他に、何かありますか?」
酷薄な視線を一瞬だけゼヌゼに向けた後、普段の笑みに戻してオリヴィアがフェルターに尋ねた。フェルターは革袋を懐から取り出す。十分な重みが詰まっていると見て分かった。
「金貨で三百ある。寄付は募っているだろう? それでその罪人の体を味わわせてくれ。それで、俺がそいつの体を気に入ったら――追加で七百出す。ゼヌゼを俺に売ってくれ」
合計で金貨千枚。追剥を繰り返したゼヌゼでも見たことのない金額だ。オリヴィアは笑顔を保ったままで沈黙した。彼女にとっても金貨千枚は大金であるに違いない。土地を任されたギフトホルダーは武力暴力ではどうにもならない金銭に苦慮する。それはこの狂信聖地であっても同じだろう。
「わかりました。逃がされると困りますので私はここで見晴らせていただきます。これは姦淫に非ず。贖罪の一環です。ただし、罪人を引き取るのであれば責任が発生いたします。最後に私からフェルター様ご自身にそのお覚悟を問い質します。それで良いですか?」
「ああ、構わねえよ。寄付金だ。確認してくれ」
フェルターが差し出した革袋をオリヴィアが受け取る。ゼヌゼの前で、彼女の今後の人生にまつわる重大な決定がなされた。オリヴィアがこんな取引に乗るような人間には思えなかったが、これはゼヌゼにとって好機だった。
見も知らぬ男に犯されるのは屈辱ではある。だが、それを拒絶すればオリヴィアの拷問が待っている。四肢と五感を潰され、ただ天使の子を産み続けるだけの肉塊になるくらいなら、男に媚びるくらい何でもなかった。
気に入られ、買われ――裏切り、殺す。それが、今この瞬間からのゼヌゼの目標になった。
フェルターが服を脱ぎ、全裸になる。その股間では、思いも寄らぬほどの大きな逸物が屹立していた。小柄なゼヌゼはその肉棒の大きさに青ざめた。そんな彼女の頭に、フェルターが手を乗せてきた。
「わかるか? ゼヌゼ。俺に気に入られなきゃ、ここからは出られないってわけだ。懸命な奉仕を期待すんぜ?」
ゼヌゼの前で、フェルターが寝そべった。剛直が彼女の蜜肉を待ちわびてギンギンにそびえている。ゼヌゼは男に全身全霊で奉仕すると誓った。だが、自分の膣内に巨竿が収まるのかどうかは別問題だ。裂けてしまえば男は彼女を買ってくれないかもしれない。だから、身長に腰を落としていく。自分の乳房が邪魔で、陰茎の位置を確かめるのが難しかった。手を伸ばして亀頭を掴む。滴る先走り汁が、指を塗らした。
蹲踞の姿勢で、ゼヌゼは膣と亀頭を合わせることに成功する。後はゆっくりと腰を落としていく。ゼヌゼが覚悟のために深い呼吸をしたときだった。
フェルターが彼女の両足を浮かせた。
「ひゃぅっ!」
支えるものを失ったゼヌゼの体は、当然の帰結として落下する。肉棒が蜜肉をかき分けるのに手を貸したのは、彼女自身の体重だった。天使たちの陰茎とは比較にならないフェルターの剛直は、彼女の膣肉を強引に押し広げ、奥まで埋め尽くした。
「たはっ……」
子宮口が陰茎に穿たれ、ゼヌゼの口からは間抜けな声とともに涎が漏れた。口元を拭い、ゼヌゼは呼吸を整えた。
「いいのか? そんな悠長な様で。飽きて帰っちまうかもしれないぜ」
言いながらフェルターがゼヌゼの尻肉を揉みしだき、片側を掴んで引っ張ると、露出した肛門を指で弄り始める。
ただの脅しだとはわかっている。いくらなんでも金貨三百枚で、相手はギフトホルダーだ。その僥倖を味わいもせずに立ち去る理由がない。しかし、ゼヌゼには従うしかなかった。
胸板に手を乗せて、ゼヌゼは腰を前後に振り出した。陰核が男の陰毛に擦られて、刺激がゼヌゼの体を襲う。下半身の揺れに伴い、乳房が質量を喧伝するかの如く、ゆったりと縦横に揺れた。
「あっ……く……気持ち……良いっ」
思わず言葉が漏れた。天使による陵辱とは違い、今は彼女なりに性楽を求めて自分から腰を振っている。その上でフェルターの指先が尻を弄ぶ刺激も加わる。羞恥も屈辱も今は必要ない。ただ、性楽の限界を求めてひたすらに雌の本能に従った。
爪先を立て、腰を縦に動かし始める。愛液と先走り汁が潤滑を促して、剛直を蜜壺は咥え込み、そして吐き出す。乳房が踊る。相変わらずフェルターは彼女の尻に執心しており、豊かな胸は虚空で撓むだけだ。仕方なく彼女は自分で乳房を揉みしだく。
乳房の中で、快楽の種が逃げ惑う。これが弾けてしまえば、更なる昂ぶりを覚えられると確信できた。だが、彼女の手は小さく、反して乳房は大きく。揉む度に、種が乳房の中を逃げ惑い潰せない。
「お……っぱい……揉んでぇ、お願いだ……からっ。あひんっ!」
前屈みになって、艶やかな吐息をフェルターにかけながら、彼女はねだる。蜜壺の刺激がそれで変じて、彼女は軽く達した。フェルターは彼女の哀願に応えず、手で太ももを抱え込むようにした。ゼヌゼが腰を上げ、カリが膣口を広げた直後。
「んっ……ああああぁっ、はぁぁ」
一息に子宮口まで巨竿が突き込まれた。性の虜そのものの蕩けた顔で、甘い吐息をゼヌゼは吐き出す。彼女の膣内で陰茎が蠕動を始めた。濁流のような勢いで、射精が始まる。
爆ぜる精液が促したかのように、彼女は体を大きく反らした。気が触れるほどの絶頂を覚えたが、しかし乳房に埋まった快楽の種は未だ弾けない。
「しゃあねえな。ご褒美をくれてやるとするか」
フェルターが彼女の乳房を両手で荒々しく揉みしだき始める。彼女の手より遥かに面積が広く、力強い掌による圧力。太ましい指先が、彼女の乳房に沈む。愛撫と呼ぶには乱暴なもみ方だが、それがゼヌゼの体を昂ぶらせる。
付け根から乳肉を扱くように揉まれ、快楽の種は前方へと逃げていく。揉むというよりはもはや絞るような有様で、彼女が孕んでいれば間違いなく母乳が溢れるはずだった。
かりっ、とフェルターが乳首を噛んだ。そのとき、快楽の種は乳首にいて、だから弾けた。
「ん……ごぉぉぉぉっ!」
絶頂に達したばかりの膣が埋められたままで快楽の種が弾け、意識を喪失するほどの快楽がゼヌゼの全身を駆け巡った。喉から溢れたのは喘ぎなどいう領域を越えた、雌の遠吠えだった。
呆然としたままのゼヌゼは、体勢を変えられた。オリヴィアに引っ張られていた際と同様の、犬のような四つん這いだ。衆人環視で歩かされた記憶が蘇る。
「ひがっ」
羞恥の記憶が脳を満たしたままでゼヌゼは悲鳴を上げた。指先で広げられた肛門に、陰茎が突き立ったからだった。記憶と現実が混濁する。
住民たちの視線が柔肌に突き立つ。そのままで、彼女は今、未踏の直腸を深々と男に抉られている。腰を掴まれ背後から激しく尻を責められる。腰と尻肉が派手な音を地下室に響かせ、合間には湿ったいやらしい音が鳴る。重い地下の空気が、敏感になった彼女の乳房を愛撫した。舌を口内から押し出して、焦点の合わない瞳でゼヌゼは羞恥と屈辱によって味を足された快楽を堪能する。
腸内で再び陰茎が蠕動を始めた。迫る濁流に、彼女は一層舌を突き出す。それはまるで、腸内に吐き出された精液を口で呑もうとするようであった。
フェルターが彼女の身を起こす。種が弾けて敏感になった乳房を揉みながら、その谷間に陰茎を差しこんだ。先端が彼女の胸を穿つ。そのたびに乳首が男の腰を掠めて電流にも似た刺激が走る。膣から力が抜けて、たっぷりと射精された精液が床に垂れた。
胸の狭間で陰茎が爆ぜ、三度目でも一切量を減じない白濁の汁が放たれる。
「ほらよ。次はテメエでやってみせな」
フェルターが寝そべり、肩を掴んでゼヌゼの短躯を引き寄せた。言われた通り、ゼヌゼは豊満な乳房でペニスを挟み込む。彼女の巨乳を縦断し、亀頭が乳房から顔を覗かせた。乳房で陰茎を扱きながら、彼女は雄臭を鼻腔から吸い込む。淫らな息づかいが亀頭を刺激させると同時、彼女は肺腑の中でも雄を味わう。舌で精液を舐めとると、口で咥え込んだ。
蕩けた目で上目遣いにして、自慢の乳房でペニスに圧力をかける。四度目の射精を喉で受け止めると、口内が白濁汁が満ちているのを見せつけ、許可を得てから嚥下した。
「ご主人様ぁ。ゼヌゼをぉ、一生の、肉奴隷として買い取ってぇ」
甘えた声でねだる。それは今の彼女にとって、確かな本心ではあったが、彼女は気ままで秩序に背く追剥だ。数日後には自分が肉欲に溺れたことも忘れて、獣のように自分を抱いたフェルターを殺すだろう。だから多少の恥など受け入れられる。ゼヌゼにとって、自分の命より高いものは何ひとつなかった。
「はっ、いいぜ。じゃあ、ゼヌゼ。動くなよ」
言われると、虚脱したように体が動かなくなった。フェルターが彼女の肩を引いて、体が横に倒れる。性楽による放心状態で倒れ込んだように見えるが、ゼヌゼの体は本当に動かなかった。
「というわけで。オリヴィアさんよ。ゼヌゼは買い取らせてもらうぜ」
フェルターが闇に覆われた部屋の一隅に声をかけた。
「ええ。わかりました。では、罪人を引き取る責任として――片腕をいただきましょう。それだけの覚悟があれば、私も懸念なく彼女を引き渡せます」
オリヴィアがフェルターを招いたのは、ぐつぐつと煮えたぎる壺の前だった。
「こちらに手を入れて、宣誓を。入れた腕はなくなってしまいますが、ゼヌゼがその分働くでしょう。そうですね? ゼヌゼ」
狂気じみた内容とは裏腹に、オリヴィアの笑顔は無垢で清廉に見えた。だからこそ、悍ましささえゼヌゼは感じる。一瞬の希望が地に伏した。性楽に喘ぎ、男に全力で奉仕させられ、そのうえで――ゼヌゼが至る結末には変化はない。
それがゼヌゼが追剥として、無辜の民に対して行っていたものと同種だった。違うのは、そうする根源だけである。ゼヌゼは奪う快楽のため、オリヴィアは純粋な信仰のためだ。オリヴィアにはゼヌゼを断罪したいのではなく、ただ贖罪させたいだけなのだ。
「お……お願いっ。どんなことでもするからっ。アタシ、あんたの肉奴隷だ。あんたのケツだって舐めるっ。右腕の代わりになるっ。だからお願いっ! アタシを――解放してくださいっ」
眦から涙が溢れて痛い。たとえどんな善人であろうと、肉便器ひとつと片腕一本では釣り合わない。縋り付いて今すぐさらなる奉仕をしたいとさえゼヌゼは思ったが、生憎彼女の体は動かなかった。
「仕方ねえな。腕一本、高い買い物ってわけだ」
フェルターは右腕をオリヴィアに差し出した。一瞬、オリヴィアがたじろいだように見えたが、彼女自身が言い出したために撤回も難しいのだろう。
ゼヌゼは心底からの感謝をした。本当に右腕の代わりくらいしてやる。そう誓うほどだ。せめて――明日までは。
「素晴らしい。それほどの覚悟があれば私も安心です」
オリヴィアがフェルターの背後に回り腕を掴む。オリヴィアの膂力は並外れている。もはやフェルターはこの時点で腕を失ったに等しかった。彼女は躊躇いなくその腕を煮えたぎる壺の中に沈み込ませた。
「ぐっ」
男の呻き声が聞こえた。じゅう、と肉が焼ける音がしたかと思うと、脂が溶けた匂いがわずかにゼヌゼの鼻をついた。ただそれだけで、フェルターは二の腕の半ばから先を失った。
「そして、こちらの腕は、私を寄付で懐柔しようとした罰として、いただきましょう」
言うとオリヴィアがフェルターの左腕をも煮えたぎる溶液の中へとつけ込んだ。
ゼヌゼが愕然としたのは、オリヴィアがそうしてフェルターにも罰を加えようとしたことではなかった。最前、喪失したはずのフェルターの右腕が、肉がせり上がって既に形を成していたためだった。四肢が再生する男など、ゼヌゼにも、そしてオリヴィアにも埒外だったようで、オリヴィアはフェルターに背を向け、ゼヌゼを見た。
オリヴィアの背後から、フェルターが懐から取り出した首輪をオリヴィアの首に巻き付ける。その瞬間、オリヴィアは地面に崩れ落ちた。
「な……にが。これは――独裁領域?」
混乱して目を白黒させるオリヴィアだが、どうやら体を動かせないようだった。そんな彼女の鼻先に、ゼヌゼを散々抱いておきながら萎えもしないフェルターの陰茎が突き出された。
「まったく。清廉な騎士様かと思えば。流石に契約違反じゃねえか? あんたの戒律じゃあどうなっているかは知らんが――生憎俺は女神なんぞ信仰していないんでね。俺なりの罰を加えさせてもらうぜ」
そう言って、フェルターはオリヴィアの鎧に手をかけた。