ベクトル付与で異世界最強~ホロメンハーレムしながら学生性活 作:とも667
幽世でも事件は止まりません。
ある日の通学路。ユウマはいつも通り、恋人達と喋りながら登校していた。
「あっ、そういえば……ユウマくん」
「ん? どうした、AZKi?」
「明日からゴールデンマンスだけど、どこ行く? ユウマくんとどこか行きたくて……」
そう言われて、ユウマが困惑する。ゴールデンマンス……ユウマにとっては、聞き覚えのない単語だ。
「……ごめん、忘れてた。なんだっけ、それ?」
「えっ? 忘れてたって……ユウマくん、変なところで抜けてるとこあるよね」
「悪いな……説明頼めるか?」
ユウマは素直にフブキに尋ねた。そう言われたフブキが、説明を始める。
「簡単に言えば、祝日がずっと続いて、明日から一ヶ月休みになるの。だから、ゴールデンマンス」
「え、ウィークも超えてマンス!?」
「そうだよ。昔はウィークだったんだけど、時が経つにつれて、どんどん祝日が増えていって……最後にはひと月丸々休みになったんだって」
ユウマは改めて、自分の常識とこの世界の剥離を実感する。ユウマのいた世界では、外国でなら一月ほどの長い休みがあると聞いたことはあったが……まさかこの世界にもそんなものがあるとは、思ってもみなかった。
「まぁ、夏休みみたいなもんか」
「夏休みもちゃんとあるけどね」
「あるのかよ……休みの多い学校だな」
ともかく、明日から一ヶ月休みだということを知り、ユウマは歩きながら予定を考える。
「あてぃしも、ごしゅじんとどこか行きたいな……」
「もちろん、みんなで行きましょう!!」
「そうだな……じゃあ、どこか旅行にでも行くか?」
ユウマがそう言うと、その場の全員が喜んだ。
「ホント!? やった、ユウマくんと旅行……!!」
「どこに行く? よかったら私が案内するよ!!」
「えへへ……楽しみだなぁ、ごしゅじんと旅行だ……いひひひ」
話している間に、学校に着いた。そして時間が経過し、昼休みの時間。フブキがユウマに、旅行先を提案する。
「ユウマくん、ひとつ旅行先の提案なんですが……いいですか?」
「ん、なに? どこか行きたいところある?」
「よかったら……幽世に行ってみませんか?」
幽世。前に調べた中にあった、異世界のひとつだ。
「いいけど……パスポートがいるだろ?」
「そこは大丈夫です、三日もあれば発行できますし……実は幽世、今がお祭りの時期でして」
「お祭り……いいな。行ってみようか」
ユウマはそう言って、みんなにもその旨を伝える。
「わかった、じゃあパスポート申請しないと……」
「幽世……だ、大丈夫かな? 妖怪とかいるらしいけど……」
「大丈夫さ。俺が守ってあげる」
ユウマがそう言うと、あくあは顔を赤くする。
「……ありがとう」
「もう、相変わらずの女たらしですねぇ……」
「恋人を守るのは当然のことだろ?」
そう言いながら、昼休みが終わって……帰り道。ユウマはひとつ気づいたことを、フブキに言ってみる。
「なぁ、フブキ。もしかして、お前の故郷も……」
「お、気づきましたか? そうですとも、白上は幽世出身の狐です!! あっちに友達もいるから、そろそろ会いたいと思ってて……旅行もできて一石二鳥だと思いまして!!」
「そうか……異世界に行くのは初めてだ。どんなところなんだろう……」
ユウマは行く前から想像を膨らませる。気分は海外旅行だ。
「今回は白上がエスコートしますから、楽しみにしててください!!」
「あぁ、楽しみにしとく。じゃあ、またな」
「バイバイ、フブキちゃん」
「はい、また明日ー!!」
フブキに見送られながら、あくあとユウマは家に帰り……三日後。ユウマとあくあは、待ち合わせ場所のゲートターミナルで、二人を待っていた。
「……ここから異世界に行くのか?」
「うん、身体検査を受けた後にゲートを通って、異世界に行くんだ」
「へぇ……あ、AZKiとフブキだ。おーい」
そこにAZKiとフブキが、キャリーバッグを持って走ってきた。
「ごめん、待った?」
「今来たところ。じゃあ、行こうか」
「うん。私も幽世は初めてだから、緊張するな……」
AZKiがそう言いながら、みんなで受け付けへと向かっていく。パスポートを提示して、どんどん進む。
「これがゲート……大掛かりな装置だな」
「まあ、次元間を移動するからね……あ、私たちの番だよ」
「幽世行きの皆様は、こちらにどうぞ」
ユウマ達はそう言われて、椅子から立ってゲートに向かう。チケットを提示すると、改札が開いた。
「じゃあ、白上は先に行きます!!」
「怖くないよ、思い切って飛び込んでね!!」
「行こう、あくあ」
「う、うん」
ユウマとあくあが、ゲートを潜った。すると、二人は浮遊感に襲われて、二人の目の前の景色が一瞬で切り替わる。
「うぉぉっ、これがゲート……魔法ってすごいな」
「ここが幽世……なんか、そんな感じしないね」
「まだここは改札口ですからね。外に出ればすぐわかりますよ!!」
フブキにそう言われて、ユウマ達は外に出る。すると……そこに広がっていたのは、一言で言って『和』であった。立ち並ぶ旅館や土産屋、紙芝居に駄菓子屋……そびえ立つ山々には、お寺や神社が立っている。
「わぁぁぁ……!!」
「すごい景色……これが幽世!?」
「皆さん、幽世へようこそー!! 白上は皆さんを歓迎しますっ!! ……あれ、ユウマくん?」
しかしユウマだけは、声を上げなかった。目の前の景色を、ただ呆然と見つめるだけ。その光景が、ユウマには懐かしかったから。
「……すごく、綺麗だ……」
「でしょ? えへへ、そんなに綺麗でしたか?」
「うん……来てよかった」
帰る時に言うセリフを、ユウマはもう言ってしまった。それ程までに、ユウマは感動している。
「もう、気が早いですって!! ほらほら、前夜祭やってるみたいですし……行ってみましょう?」
「お祭り……よし、行ってみるか」
「……それでは、はじまりはじまり」
そこでふと、紙芝居がユウマの目に留まる。『人斬り鬼とお侍さん』……そう書かれていた。
「むかしむかし、あるところに。人を斬りつける悪い鬼達がいました。そいつらは人間が嫌いで、通りかかった人達をひたすら斬っていました」
「……物騒な話だな」
「しかし、そこで一人の侍が通りすがりました。もちろん侍は、鬼に斬りかかられましたが……侍は傷を負いながらも、その鬼達を倒しました」
ユウマが思い出したのは、『桃太郎』だった。この世界でも、そういう話があるんだな……とユウマは思っている。
「鬼達は侍に許しを請いました。それを哀れんだ優しい侍は、鬼達に住む場所を与えてあげました。こうして幽世に平和が戻ったのです、めでたしめでたし」
「ユウマくん、どうしたの? 行きましょうよ!!」
「あ、ごめん。今行くから」
フブキに呼ばれて、ユウマはお祭りの屋台へと向かっていった……そして、それを見つめる影がふたつ。
「……あいつ、ここまでやるの?」
「ごめんね、余のために……」
「いいんだよ。ほら、行こう?」
そう言って、二つの影もお祭りのほうへ歩いていった。
一方、前夜祭会場にて。提灯や屋台の並び立つ光景を見て、ユウマはそれだけで嬉しそうだ。あくあはその中でも射的を見つめている。その中でも、特に大きな猫のぬいぐるみに、あくあは目を惹かれているようだ。
「あ、ごしゅじん……あてぃし、あれやりたい!!」
「いいよ。一回いくらですか?」
「一回三発、200ジオだよ。……はい、まいど」
ユウマはコルク銃を受け取って、あくあに手渡す。
「頑張れよ、あくあ」
「う、うん……!! 当たれっ!!」
──パスッ。
「……あ、あれ取れないやつだ」
フブキがそう言って、ぬいぐるみを見る。そうとは知らず、あくあはぬいぐるみに二発目を撃ち込んだ。やはり、ぬいぐるみは落ちない。
「な、なんで……?」
「……取ってやる。あくあ、俺に貸してみな」
「う、うん!!」
ユウマも昔、取れない商品に三発撃って無駄にしたことがあったので、気持ちはよくわかった。だから……コルクを装填する時に、前方への強いベクトルを与えておく。
「……行け」
──ズダンッ!!
「なっ!?」
「や、やったぁぁっ!!」
あくあは、両手を挙げて喜んでいる。店員は、まさか落とされるとは思っておらず……困惑の色を隠せない。当然だ、『ベクトル付与』はユウマだけの特権なのだから。
「兄ちゃん、すげぇな……あれを落とすとは。はいよ」
「ありがとうございます。ほら、あくあ」
「ごしゅじん、ありがとう……!! 大事にする!!」
あくあは、猫のぬいぐるみに頬ずりしている。喜んでいる様子を見れば、ユウマも取った甲斐がある。
「……ユウマくん、もしかして?」
「あぁ、バレたか……こうでもしないと、落ちそうになかったからな」
「でもまぁ、あくあちゃんは喜んでますし……良しとしましょう!!」
ユウマはそれに、笑顔で頷く。子供の頃のリベンジができたような気がして、ユウマ自身も気分がよかった。
「あ、焼きそば売ってますよ!!」
──ジュウゥゥ……
「わっ、美味しそう……!!」
「人数分買うか。すみません、四人前」
「はいよ!!」
ソースと野菜のいい香りが、ユウマ達の食欲を唆る。そして差し出された、白い箱に入った焼きそば……見覚えのある形に、ユウマの頬が緩む。
「いただきます……ん、美味しい!!」
「屋台のご飯って、なんだか……いつもより美味しいですよね!!」
「あぁ、こういうのは雰囲気込みで美味しくなるからな……」
ユウマ達が焼きそばを食べながら、お祭り会場を回っていると……フブキの目の色が突然変わる。
「あ、ミオ!!」
「えっ……フブキ!? 帰ってきたんだ!!」
「会いたかったよ~!!」
黒髪から生えた耳と、白黒の尻尾。ユウマはフブキが言っていたことを思い出して、言った。
「友達ってこの人のことか、フブキ?」
「あ、紹介します!! この人は大神ミオ、白上の友達ですよ!!」
「はじめまして、ウチは大神ミオです。もしかして、あなたがフブキの……?」
ユウマはそれに頷いて、自己紹介を返す。
「申し遅れました。僕は上村ユウマ、見ての通り人間です。フブキの彼氏をやらせてもらってますよ」
「聞いたよ、フブキをベルシリカから守ってくれたんだよね。ありがとう、上村くん」
「いえ、可愛い子がいたから守っただけですよ。可愛い子が死ぬのは世界の損失です」
ユウマがそう言い切ったのを見て、ミオが笑う。
「ふふっ、そうだね。フブキは可愛いもんね?」
「はい。僕にはもったいないくらいです」
「ちょ、ちょっと!! ストップ!! こんなところで可愛い連呼しないで……!!」
フブキは二人に可愛いと言われすぎて、照れてしまった。それを見て、二人がまた笑顔になる。
「うわっ、すげぇ!! これで何匹取ったんだ!?」
「……この音、金魚すくいか?」
「あ、ウチちょっとトイレ!! みんなはお祭り、楽しんでてね!!」
そう言ってミオは、ユウマ達とは逆の方向へと走っていった。ユウマ達は、その達人を見に来ている。
「……わっ、すげぇ量。紙も破れる気配がない」
「ふぅ……ありがとうございました」
「すげぇな、お嬢ちゃん……金魚足さねぇとな」
綺麗な銀髪に、赤いメッシュの入った長い髪に鈴の装飾が一対。大きな二本の刀を背負った、和服の人。顔は、鬼の面を被っていて見えないが……ユウマはその人に、思わず声をかけた。
「あ、あの……」
「ん?」
「すごい腕前ですね。尊敬します」
ユウマの素直な賞賛。それを受けて、その人が言う。
「……ありがとう」
「行っちゃった……不思議な人だったな」
「ん? あっちからも声が……?」
ユウマはそれに耳を澄ます。すると、さっきとはみんなの声色が違うことに気がついた。
「どけぇぇ!! 人間共ォ!!」
「うわぁぁっ、鬼だ!! 鬼が出たぞぉ!!」
「鬼? 鬼って言ったら……」
あの時聞いた、紙芝居に出てきたものだ。実在したのかと、ユウマが内心驚く。そこで、鬼達がユウマ達の前に姿を現した。角が生えている、和服で刀を持った男の二人組だ。
「なんだ、お前らは!?」
「あれ……思ってたより、普通の人間だな」
「そうとも、我らは人間だ!! 人間として扱われるべきなのだ!! それを貴様らは……!!」
それを聞いてユウマは、話が通じないことを理解する。どちらにせよ、このお祭りを邪魔させる気はユウマにもない。
「なにを言いたいのか知らんが、この祭りを邪魔させるわけにはいかないな」
「そうですよ、今はデートの最中なんですから!! 邪魔しないでください!!」
「邪魔をするというのなら……押し退けてでも進むぞ!!」
そう言って、目の前の二人が刀を構えた。ユウマはため息を吐いて……言い放つ。
「後悔するぞ」
「なにを馬鹿なことを!! 喰ら……ごふっ!?」
──ズガァッ!!
「遅いな……もらった」
ユウマはベクトルを乗せた拳で、斬られるより先に目の前の鬼人の顔を殴った。その威力に男がたまらず怯む。そこにユウマは、続けて腹部にも拳をぶち込んだ。
「がはぁぁぁっ!!」
「お、おのれぇぇ!! ……なにっ!?」
「鍔迫り合いってやつさ」
殴り飛ばした鬼人の刀にベクトルを与え、奪い取る。刀が浮くという異様な光景に、鬼人は驚いているようだ。
「馬鹿な、なんだこの力は……!? これも妖術か!?」
「生まれつきなんだ、悪いな……おらぁっ!!」
──ズゴォッ!!
──バギャアッ!!
「がふっ!? ごふぅぅっ!!」
続けて、その鬼人の顔面にも拳を叩き込んだ。さっきと同じように、鳩尾を狙って拳を打ち込み……吹っ飛ばした二人が重なって倒れる。そこにユウマが刀を浮かせて、鬼人二人に切っ先を向けた。
「こ、この……うっ!?」
「動くな。大人しくお縄につけ、テロリスト」
「くっ、くそぉっ……!! 我らが消えても、鬼人の憎悪は消えんぞ!!」
そこで警官が来て、二人を縛り上げた。
「ご協力ありがとうございます。お名前は?」
「上村ユウマです。ただの旅行客ですよ」
「ありがとうございました、それでは」
鬼人の二人は恨めしそうにユウマを見ながら、警官に連行されていった。
「はぁ……魔王軍といい鬼人といい、テロリストはどの世界でも一定数いるんだな」
「すげぇな、あの人……鬼人の二人組を一人で……」
「もしかして童話のお侍様?」
周囲からの好意的な声に、ユウマは嬉しそうにしている。
「どこに行っても人気者だね、ユウマくん!!」
「称えられてると思うと、結構いい気分だな」
「白上もやろうと思ったけど、必要なかったね。じゃあ仕切り直して、お祭り楽しもう!!」
それに頷いて、ユウマは一日中お祭りを満喫した。
「はぁー、楽しかったね……ごしゅじん!!」
「ああ、とっても……ありがとう、フブキ」
「どういたしまして、明日は綺麗な景色でも見に行きましょうか!!」
その夜は、ユウマが予約した旅館に宿泊した。懐かしの和室に、ユウマの気分がまたよくなる。
「……みんな、それは!?」
「ユウマくん、どうかな? 着てみたんだ」
「浴衣があったので、三人で着てみました!!」
「ごしゅじん……似合ってるかな?」
三人の浴衣姿を見られて、ユウマは大満足だ。
「超似合ってる……そのまま立ってて、写真撮るから」
「あ、はい!!」
「えへへ、ユウマくんだけの撮影会だね?」
その日は、浴衣美少女三人の撮影会をした後、就寝となった。そして次の日……ユウマ達はフブキに連れられて、山の方へ向かっていた。
「この上からいい景色が見られる……んだよな?」
「うん、保証します!!」
「人が沢山いるね、そんなにいい景色なんだ……」
頂上に到着して……人混みから出て景色を見下ろす。すると……
「うわぁぁぁ、絶景だ……!!」
「ひ、人混み……うぅ……」
「あっ、あくあちゃんが……」
人混みが苦手なあくあは、人混み酔いでダウンしている。ユウマはそんなあくあをお姫様抱っこして、笑いかけた。
「大丈夫だよ、あくあ。ほら、綺麗だぞ」
「あっ……えへへ……」
「またやってる、女たらしめ~……」
景色を楽しみながら、ユウマ達は頂上で団子を食べ始めた。あれだけいた人も、段々と減ってくる。
「あ、人少なくなってきたね」
「ピークは過ぎたみたいですね、もう夕方ですし」
「……ん?」
ユウマが目を向けた先に、昨日の金魚すくいの人がいた。鬼の面を被った人だ……しかし昨日とは違い、その隣には狐の面を被った黒髪の人がいる。
「あっ、昨日の人だ。景色を見に来たんですかね」
「多分な。俺達もそろそろ降りるか?」
「そうですね、お腹も空きましたし」
そう言ってユウマ達が、暗くなる前に山を降りる。そして、山の麓で……ユウマ達全員が、殺気を鋭敏に察知した。
「……なんだ?」
「昨日の鬼人……いや、多分違うな」
「見つけたぞ、グルルル……」
聞こえてきたのは、獣の鳴き声だった。それを聞いたユウマが、フブキに尋ねる。
「……妖怪ってのはこんな感じなのか、フブキ?」
「妖力を感じない、絶対に違う……来るよ!!」
「ガウゥッ!!」
──ガキンッ!!
硬質な音が鳴り、さっきまでユウマ達がいた場所を獣の牙が噛み砕く。狼のような生物……それが複数。
「なんだ……? 魔物とも気配が違うな」
「……あれ見て!! 魔王軍のバッジ!!」
「ということは、お前も幹部とかの類か?」
ユウマが尋ねると、狼の一匹が答える。
「如何にも。我が名は
「お前らもしつこいな。そんなに俺を仕留めたいのか?」
「当然だ。最重要排除対象を、放っておくわけがあるまい」
最重要排除対象。そう聞いて、ユウマが不敵な笑みを浮かべる。
「そりゃあいい……俺の目が黒いうちは、みんなが狙われないってことだろ?」
「ここで貴様を殺せば済む話!! 死ね、上村ユウマ!!」
ユウマはそれを聞いて、リュックから水を取り出した。
「こういうことになるだろうと思って、チャクラムや銃以外は持ってきたんだ……はっ!!」
「グハァッ!?」
「……やけにあっけないな」
ユウマがそう言ったが、次々に狼が森の中から姿を現す。
「こいつら、何匹いるの……!?」
「物量攻めってわけか……甘いな」
「かかれぇっ!!」
ユウマに狼の群れが殺到する。しかし、ユウマはあくまでも冷静だ。水に手を突っ込み……大量の水の刃を、敵に向かって投げつける。
「消えろ」
「ギャアァァァッ!?!?」
「……甘いな」
「グギャッ!?」
ユウマの死角から来ていたバーゲストに、水の弾丸を打ち込んで穴を開けた。バーゲストは手も足も出ない現状に憤慨している。
「な、何故だ……どうして!? これだけの数をただ一人で……!?」
「悪いな。俺にも守るものがあるんだよ」
「ユウマくん……」
後ろにいる三人を見ながら、ユウマが一歩前に出る。そして、もう一発打ち込もうとしたところで……
「バーゲスト。やめておけ、現在の我々が勝てる相手では無い」
「ッ!? バートリーか!?」
「バートリー……?」
背の高い、西洋の紳士のような服装の男。第一印象はそれだった。ユウマは、バートリーに水の弾丸を打ち込んだが……バートリーはそれを、コウモリと化して躱した。
「おや、いきなり物騒だな。挨拶をしに来ただけなのだがね……申し遅れた、私は魔王軍六魔将の
「ご丁寧にどうも。お前ら流の挨拶を返しただけだよ」
「まぁいい……いずれ戦うことになるが、タイミングは今ではないからな」
そう言って、バートリーが笑う。ユウマは逃がさないとばかりに、水を構え直した。
「なんだなんだ?」
「あれって魔王軍!? こんなとこにも来たの!?」
「待て、あれは……昨日のお侍様だ!! 助けに来てくれたんだな!!」
それを見て、バーゲストが舌打ちする。
「チッ……ここまでか」
「引き際のようだな……また会おう」
「逃がすか……!!」
ユウマは手鏡で自分を浮き上がらせて、二人を追う体勢だ。しかし、バートリーは不敵な笑みを崩さない。
「ならば、これならどうかな?」
「えっ……!?」
「どこに撃って……なにっ!?」
バートリーが、炎の魔法を見当違いの方向へと撃つ。しかし、その方向には……上から降りてきたであろう、さっきの狐の面の人がいた。
「ミオちゃん、危ないっ!!」
「えっ、ミオって……!?」
「ぐぅっ……!!」
──パキン。
魔法が鬼の面に命中して、鬼の面が砕け散る。ユウマはそれを助けに入ろうとしていて……二人を逃がしてしまった。
「ッ、くそっ……大丈夫ですか!?」
「あやめちゃん、大丈夫!? あ、血が……!!」
「かすり傷だから、余は大丈夫……あっ」
その素顔が、大衆の面前に晒された。白い肌、綺麗な赤い眼……頭から伸びた、鬼人の角。そして何より、可愛らしいその顔。女の子であることがわかって、ユウマはあやめへの心配を一層強めた。
「女の子、だったんだ……怪我してますよ、すぐに治療しないと!!」
「き、鬼人だ……あいつ、鬼だったんだ!!」
「えっ? 何言って……うわっ!?」
ユウマが言い切るより先に、大衆はあやめに物と暴言を投げつけ始めた。ユウマは咄嗟に、それを庇う。
「化け物め!! 死ねぇぇ!!」
「くたばれ、鬼め!!」
「お侍さん、そいつを退治してくれ!!」
ユウマは大衆の行為の意味がわからず、大衆を止めようとした。しかし、大衆は目の前の鬼人へと、理不尽な憎悪を向け続ける。
「ま、待て!! 落ち着け!! なんでこの人を……!!」
「鬼は人間の敵!! この世にいるべきじゃないんだ!!」
「生かしてもらえてるだけありがたいと思え!!」
ユウマ達はそれを聞いて、絶句した。
「まさか、昨日の鬼人が言ってたことは……」
「酷い……待って、やめて!!」
「何やってんだ、さっさと殺しちまえよ!!」
ユウマの目には、そう言いながら物を投げる大衆がとても醜く映った。だから、ハッキリと拒絶する。
「嫌だね。間違ってるのはお前らだ、恥を知れ」
「なんだと!? お前……!!」
「みんな、俺に掴まれ」
そう言って、ユウマは全員の手を自分に集めた。あやめとミオにも、ユウマは手を伸ばした。
「このぉぉっ!!」
「早く、俺の手を!!」
「……うん」
二人の手を掴んで、ユウマは全員で空に浮き上がる。そして、高速で飛行し始めた。
「逃げんな!! この臆病者共が!!」
「ユウマくん、あれは……」
「大丈夫だ。絶対に、何とかする」
ユウマはそう言い切って、大衆が追いつけない遠くの、広めの野原に着地した。ユウマは念の為持ってきていた、回復薬を差し出す。
「とりあえず、これ飲んでください。回復薬ですよ」
「……大丈夫。変な匂いはしないよ」
「ありがとう……」
あやめが回復薬を飲むと、傷がすぐに塞がる。ミオが仮面を外して、ユウマを見た。
「とりあえず、ありがとう。助かったよ」
「ミオ、どういうことなの? 何があったの?」
「……みんなには話しても良さそうだね。いいかな、あやめちゃん?」
あやめが頷く。そして、ミオがユウマに向き直る。
「この子は百鬼あやめ……若いけど、鬼人のまとめ役をやってる、しっかり者だよ」
「……すみません。何も知らずに、鬼人を攻撃してしまって」
「いいの。放っておいたら、お祭りが滅茶苦茶になってた……ああいう人達を抑えるのが、余の役目なのに……」
あやめは責任を感じているようだ。その様子にミオが、労いの言葉をかけた。
「あやめちゃんはよく頑張ってるよ、ウチが保証する……」
「ミオちゃん……」
「あの、どうしてあの人達は……あなた達に攻撃を?」
AZKiが尋ねると、ミオは重々しい口調で言う。
「『人斬り鬼とお侍様』……幽世では、有名な童話だよね。でもウチは、自分の目で真実を見た」
「真実……?」
「鬼人が悪で人間は被害者……そんなのは、真っ赤な大嘘」
ミオはそう言い切って、それから真面目な顔で言った。
「加害者は、人間の方なんだよ」