※この作品はR-18です。

黄金と黒墨   作:Abeeeta

3 / 3
2話から間が開きまして申し訳ございません、3話でございます。

それはそうと未だにR-18シーンがゼロってどういうこっちゃ……とツッコミたい皆様、もうしばらくお待ちください(土下座)


毒液と墨液

アル・ダハブ=アルカティアは貴族家の邸宅の門前で逡巡していた。その悩みの種は普通なら迷う暇もなく解消する程度の悩み──昨日盗みに入り、失敗した家を訪問するか否か──である。普通は失敗した犯行現場に赴く理由など無いに等しい。

 

しかし、彼は屋敷の主人である黒鳥の某から客だと勘違いされ、果てにはまた来て欲しいとせがまれていた。腹芸を疑ったが、あの素直さでは無理があるだろう、と疑念も一瞬で霧散した。

 

「さて……ここでずっと呆けてる訳にもいかねぇってな。どうするか……」

 

と、悩む素振りを見せているものの、アルの中ではもう答えは半ば出ているようなものである。ただ、己の盗賊団以外の人間──鳥は言わずもがなだが──と親しい間柄、という距離感で接する機会にあまり恵まれず、単純に距離感を測りかねているだけである。

 

「あんまり待たせるとあいつが首を蛇みてぇに長くしちまいかねないからな……そろそろ入るとするか」

 

軽い身のこなしでひらりと金属製の門を乗り越え、音もなく敷地内に着地すると、盗賊は玄関のベルを鳴らした。カランカラン、と音が響き来訪者を報せる。アルは暫く玄関先で佇んでいたが、某は来ない。

 

「ああ、そういや明日来るとは言ったが何時(いつ)行くとは言ってなかったってな。留守にしてるのかもしれねぇ、上がって待つか」

 

帰ってきた我が家に上がり込む様な自然さで扉の鍵を解放して侵入した。盗賊が生業なものだから、さしたる罪悪感も今更覚える事はない。

 

「へぇ、前回は大して玄関を見なかったが花なんて活けてるのか。意外と世話も行き届いてるな」

 

等と玄関に飾られた花瓶とそこを彩る黄色い花を眺め、ふと視線を廊下に移す。相変わらず質の良い絨毯に、しかしアルは異変を見つけ出した。絨毯の毛並みは乱暴に掻き回されたかのように荒れ、所々に黒い染みを作っている。

 

アルは不吉な予感を覚えた。そうしろと迫られた気がして絨毯の染みを注視すれば、インクを零しながら歩いた様に黒い斑紋が道を作っている。辿る道中に数枚落ちていた黒い羽は一度しか見たことはないが、確実にかの黒鳥のものだと判るそれだった。

 

「玄関のありゃあ争った形跡か?何が目的であいつと喧嘩なんて……そうだ、あいつは無事か?」

 

斑紋の道は屋敷の寝室まで続いていた。寝室を守る扉は微かに開いていて、その隙間の向こうから微かに音が聞こえて来る。覗き込めば、清潔感のある寝台の上に腰掛けた黒鳥が黒に染まった己の服を、痛々しい声を漏らしながら脱ぎ捨てる様子が見えた。

 

次に某がその手に包帯を取った辺りで、アルは何故だか辛抱ならなくなって寝室に入り込んだ。

 

「……え?……ある?きてたの?」

「おい」

「ごめんなさい おれ ある きてたの きづかなくて……」

「おい」

「ある……?おこってる?おれ わるいこと した……?」

 

驚きの感情が滲み出る声が震え始め、涙声の様に変わった辺りでアルはやっと某の声が耳に入っていなかった事に気づく。

 

「……っ、ああ、すまねぇ。いや、お前は悪くないってな。某が怪我してるみてぇで心配になっちまった。怖がらせちまって悪かったな」

 

表情の抜け落ちた顔を解し、しゃがみ込んで目線を某より低くしながら謝ると、黒鳥はほっ、と肩の力を抜き笑った。

 

「いいよ。ちょっと びっくり したけど……ある おれ しんぱい してくれて ありがとう」

 

救急箱を大きくした様な中身の箪笥から取り出した包帯や塗り薬、ガーゼ等で怪我の処置をしている某に、アルはひとまず命に別状は無さそうか、と安堵する。

 

「それで、なんでそんな怪我なんてしちまったんだ?普通にしてりゃ負わない位には酷い傷だが……」

 

次に気になるのは怪我の理由だ。アルが尋ねると某は少しの間思い出すように考え込んでから語りだした。

 

「きょうの あさ にんげん おれのいえ きた。にんげん いつもと おんなじ きらきら ほしい いってた。にんげん きぞく?って しごと なんだって。えらいって いってた」

 

黒鳥は貴族についてよく分かっていない様だ。自分も貴族なのにいいのか、という疑問は一度置いておき、アルは話に耳を傾ける。

 

「でも ある きらきら ただで あげる よくない いってた。だから 『おれの ともだち きらきら ただで あげちゃ だめ って おしえて くれた。だから きらきら あげる できない ごめんなさい』って いった」

 

黒鳥は不器用な手つきで腕の包帯を結ぼうとしているが、片手だけでは上手くいかない様子だ。アルが手を貸してやるとありがとう、と笑顔を咲かせるが、そんな表情と裏腹に「でもね」と暗い声で話の続きを語りだす。

 

「にんげん おこってた。いままで ただなのに きゅうに ただ だめ なんて ひどい って いってた。それで おれ たたかれた」

「待て、そりゃあつまり……」

 

アルは自分の顔が引き攣るのを感じた。黒鳥を殴りつけた貴族への嫌悪感からか思わず拳を握り込む。そして、自分が装飾品は普通無料で譲り渡すものでは無いと発言した事が某を傷付ける事態に繋がった──この事実にアルは酷く己を責めた。

 

「……すまねぇ。俺がお前の事情も知らないくせして高説を垂れちまったせいでお前を怪我させちまった」

「あやまる なんで?ある わるくない おれ あるのせいって おもってない」

 

唇に血が滲む程に噛み締め頭を下げたアルに某は驚いたようだ。批判する心積りではなかったと両翼を忙しなく上下させ弁解する。拙い舌も普段と打って変わって駆け足になっている様に思えた。

 

「そ、そうか。まぁ、お前がそう言ってくれるならそう思う事にするってな、ありがとよ」

「よかった!ある かなしそうな かお してたけど もとどおり なった?」

「おうよ。某のお陰でほら、この通りってな」

 

口角を上げてニカッと笑顔を見せてやるアルに、黒鳥もほっと安堵の息を吐いた。

 

「ただし!お前の看病は俺にさせて貰うぜ。確かに、俺のせいじゃねぇ、って某が言ってくれたのはありがてえ。が、それで怪我が治る訳でもねぇだろ?なあに、子分を看病してやった事だって何度もある。心配無用ってもんよ」

「……いいの?」

「おう、もし負い目がどうとか気になるなら昨日の茶の礼ってことにしといてくれ。飯作ってくるから安静に寝てな」

 

台所と食材は使わせて貰うぜ、と言い残して男が出ていった扉を、黒鳥は琥珀の瞳をぱちくりとさせながら見つめていた。

 

少し経ってからアルが同じ扉から戻ってきた。ほんのりと湯気の立つ木の椀と銀の匙を「ほら」と某に手渡すとそこらの椅子を引き寄せて腰掛ける。

 

「勝手が分からなくて時間かけちまってすまねぇな。食欲がないって訳じゃないだろうが、気づかねぇうちに口を切ってるかもしれん。ミルク粥ならもし口に怪我があっても食べやすいだろ」

 

優しい香りの漂う粥に黒鳥の唾液腺は既に決壊し、口内に泉を作っていた。それをごくりと飲み込み同時に「いただきます」と匙で粥を掬い口に運んだ。

 

「……おいしい……」

「そうか、そりゃ良かった!作った甲斐があるってもんよ」

 

ほうっ、と漏れた溜息にアルが上機嫌そうに反応する。アルが話しかけてくるが、某は粥を啜る手を止めずにくぐもった声で応じた。

 

「それが空になったらそこの棚の上にでも置いといてくれ、後で俺が片付けるからな。ただ、その前にちっと出かける所があるから待っててくれ」

「うん、わはった(わかった)。ある あひあとう(ありがとう)」

 

礼を言う某に微笑んで「そんじゃ行ってくるってな」とアルは部屋を出ていった。

 

某の邸宅から暫く歩き、適当な路地裏に入ると、カトラスをいつでも抜ける様に柄に手を掛ける。

 

「さて……俺のダチを殴りつけた糞貴族を探すとするか」

 

アルの眼差しは、屋敷で見せたそれとは打って変わって鋭く冷えきっていた。




しれっと某くんの裸がアルさんに晒されてますが同性+異種族の羽毛に覆われた身体なのでまだ特に何もありません。


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