※この作品はR-18です。

【ダイジェスト版】「助けてノノえもん!」シーズン1〜3   作:春画屋@二次創作R18

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連載版の最終回後編を、設定を分かりやすくするなど、大幅に加筆修正した結果、分量が増えてしまい、さらに分割しました。
最終回(中編)、約10000字です。


[終]- 7:あなた(主人公)の知らないハッピーエンド(中)[★90]

 

・主人公は『アロナちゃん』の存在を設定ごと忘れていた

・主人公は『シッテムの箱』を所有せず、存在も付随する設定も忘れていた

・主人公は『シャーレの先生』に関する設定の大部分を忘れていた

・主人公はそれらについて、深刻な記憶の欠損だとは感じていない

・主人公は『連邦生徒会長』の存在をはじめとする数々のこの世界の異常に気付いていない

・こ(・)れ(・)ら(・)の(・)事(・)実(・)は(・)全(・)て(・)、「主(・)人(・)公(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)都(・)合(・)の(・)い(・)い(・)こ(・)と(・)」だ(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)——

 

 

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 何とか涙をこらえようとするノノミに代わって、アロナ——正確には『手乗りアロナちゃん』というらしい——が俺に続けて説明する。

 

「先ほども言ったように、あなたは自身が強く望むことによって、元の世界——『現実世界の日本』——に、帰ることができます。そしてもう一つ……「あなたがこ(・)の(・)世(・)界(・)が(・)心(・)底(・)嫌(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)時」、あなたは強制的に元の世界に戻されることになっています」

「強制的に?」

 

 割と適当に考えたことが当たってしまった。しかし、この世界が心底嫌になるのが条件? って、どんな状況だ、それは。ここキヴォトスが銃弾飛びかう危険な場所だからって、ノノミのおかげとはいえ特に問題なく暮らせているんだし、別に帰ろうとは思わないんだから、「この世界が心底嫌になる」なんてこと、そうそうないと思うんだが……。

 

 ……うーん、そうだなあ……。例えば、痴情(ちじょう)のもつれ……ユウカがマシンガンを乱射し、ノノミがミニガンで応戦、セリカとシロコがそれに味方して、ユウカの方にはゲーム開発部が参戦、アリスのレールガンが辺り一帯を破壊……うん、なかなかの地獄絵図だ。それだと俺もこの世界から逃げたくなるかもしれない……などと、のんきなことを考えてみる。流石に、そんな話じゃないか。「心底」ってのが、どの程度の話を言っているのか分からないが。

 

「そしてここからは、通常の『ブルーアーカイブ世界』とは異なる形に変化している、今の、こ(・)の(・)『ブルーアーカイブ世界』の構造について話さなければなりません」

「通常とは異なる?」

「はい。「プレイヤー」の数だけ無限に存在する、通常の『ブルーアーカイブ世界』とは異なる、特殊な形をした、こ(・)の(・)『ブルーアーカイブ世界』について……です」

 

 説明によると俺が今いるこ(・)の(・)世界は、『現実世界』とは違う「異世界」であることは間違いないらしい。そしてそれは、「ゲームの中」の『ブルーアーカイブ世界』と分類されるそうだ。「ゲームの中」ではない世界もあるんだろうし、「ゲームの中」のタイプの『ブルーアーカイブ世界』も、ブルアカをプレイしているプレイヤーの数だけ、理論上は無限に生成されているのだという。

 

 ということは、その中の一つであるこ(・)の(・)『ブルーアーカイブ世界』に関して言えば、俺専用の『ブルーアーカイブ世界』と表現しても、そう間違ってはいないんだろう。もちろん「現実に」存在するひとつの世界である以上、俺が私物化していいとか、そういう意味ではない。で、こ(・)こ(・)は通常の「ゲームの中」のタイプの『ブルーアーカイブ世界』とは、かなり異なっているそうだ。

 

 まあ、『俺』が「プレイヤー」であることで、他のプレイヤーのものとの違いは当然あるんだろう……と思ったが、それだけではないようだ。こ(・)の(・)特殊な世界は「通常型」とは構造から完全に違っていて(何故なのかはまだ聞いていない)、「ゲームの中」の世界に来て「主人公」となった『俺』と、かなりダイレクトに結びついているのだそうだ。重要なキーワードは、『俺』が作り出す「世界観」。そして『先(・)生(・)』。

 

「——というわけで、こ(・)の(・)世界は現在、あなたの無意識にある「願望」を基(もと)に成立しています。『先(・)生(・)』はその望みを汲(く)み上げ、それが実現可能な「世界観」をデザインします」

「「世界観」ねえ」

 

 俺の作り出す「世界観」……アビドスのおじさん(ホシノ)とそんな話をした時に、「エロゲーみたいな世界じゃない?」「だよね」なんて酷い会話をしたが、まず間違いなくそんな感じなんだろうなあ……。パンツが見えちゃっただの、うっかり胸を揉(も)みしだいちゃっただの、そういうラッキースケベの数々は、俺が無意識に望んだから起きたってことなんだろうし。うーん、そんな自分でもアホみたいだと思う話は、確認のために聞きたくない……。

 

 とはいえ、字面(じづら)はともかく、銃弾は飛びかうけどギャグ補正で誰も死にはしないし、王道の学園ラブコメ(俺は生徒じゃないが)的なエロゲーの世界ですよ、ってことなら、少なくともおじさんあたりは納得するだろう。平和で楽しい世界を維持してくれるなら、何でもいいよって言ってたし。

 

 何しろエロゲーって言っても、治安が最悪でそこら中で誰かがレイプされてるようなヤバいのじゃない。せいぜい、浮気したとかで俺がミニガンを持ったノノミに追っかけ回されたり、お仕置きされてる程度のものだ。そう考えたら、黒服も好きそうだな、この世界のノリ。

 

「……そして、『先生』がデザインした「世界観」を実現するために、こ(・)の(・)『ブルーアーカイブ世界』と一体化して、世界にあまねく存在している『シッテムの箱の中の少女』が新たな因果を生み出し、『あなた』にとって「都合のいい状況」や「縁(えん)」*1を作ることで、世界の流れを改変します。あるいは、あなたの直接の願いを聞き、『シッテムの箱の中の少女』の力を具現化させることが出来る、ノノミさん——『十六夜(いざよい)ノノミ』がそれを叶えます」

 

 ノノミがこくんと頷(うなず)いて、それを肯定する。

 

「その、俺の願いを直接具現化させるっていう最後の方法で、ノノミが「じゃじゃ〜ん! 『手乗りアロナちゃん』ですよ☆」って出す形で、さっきお前も生まれましたよ、と。そういうことだな? おかげで、だいぶ助かってるよ」

「はい。『シッテムの箱の中の少女』は、世界と一体化したことにより大きな力を得ることができましたが、その代わりにこうして誰かと会ったり話したりするような、直接干渉(かんしょう)する手段を失いました。そういう意味では、この場を解決する以上に有意義な存在として私は生まれたと思います」

 

 いや、本当に助かってる。何しろ、ノノミが言えずにいた事情ってのは、全部代わりにこいつが説明してくれそうだ。ただの端末に過ぎないとか言ってたけど、十分頼もしい。ちょっと説明の仕方が小難(こむずか)しいのが難点だが。

 

 それにしても、さっきから気になっているんだが、『シッテムの箱の中の少女』なんて、えらく持って回った言い方だが、ブルアカにそんなもん出てきたっけか……? こいつのオリジナルってことなんだろうけど、そいつは、いわゆるブルアカに出てくる『アロナちゃん』とは違うんだろうか*2。後で聞いてみるか。

 

 しかし、まあ……。「主人公」であろう、俺だけじゃなく、ノノミもこ(・)の(・)世界にとって特別な存在なのは分かっていたが、ただの男女間トラブルが、いきなり神話みたいな壮大な話になってしまった。『俺』、もしくは『先生』ってのが実は創世神で、ノノミはその巫女(みこ)さんとか? そんな感じか? 何でそれがノノミなのかが分からんが。ていうか、俺にとっての「ご都合主義」ってやっぱりあったんだな。ノノミに頼んだの以外は、俺が意識して起こしたことじゃないみたいだけど。

 

「ちなみに……今『先(・)生(・)』って呼んだのは、『俺』のことじゃないな? 『俺』の望んだ「世界観」の通りに世界をデザインするとか言ってた、この世界における「神様」みたいな存在のことだよな? おそらく、『俺』が来て代わりに「先生」になる前に、『シャーレの先生』をやってた奴……『先(・)生(・)』って、そいつだろ?」

「はい。『先(・)生(・)』は『先(・)生(・)』です。現在は『シャーレの先生』ではなく、この世界からもいなくなってしまいましたが、私にとっての『先生』はその方です。現在の『シャーレの先生』ではあっても、『あなた』が『あなた』であるのと同じ意味で。わかりにくい表現だとは思いますが……」

「いいよ、多分そいつのこと、周りに聞いて知ってっから。俺は自分の前に担当してたってことで、『前の先生』って呼んでるけどさ。そういう存在とは知らなかったが……ああそう、『先生』ね」

 

 初めて具体的に『前の先生』のことを聞いたわけだが、「やっぱ存在したんじゃん」とか、「やっぱ俺より偉くて、ちゃんとした先生なんじゃん」とか、醜(みにく)いひがみ根性で、つい少しだけ言葉が荒くなってしまう。知らない内に『俺』のための「ご都合主義」を起こしてくれている、日頃お世話になっている神様みたいな存在らしいので、そんな態度を取っちゃいけないのは、わかっちゃいるんだが。

 

 しかし、今はこの世界にいないって、じゃあどこにいるんだ? 単に俺の前に「先生」をやってただけの存在じゃないみたいだし、『俺』のためにわざわざ「ご都合主義」なんてものを作ってる理由もよく分からない——

 

「『先生』は……私にとって大事な『先生』です。とてもお世話になった、恩人です」

「あ、そうなんだ……。へぇ……」

 

 ノノミがそれこそ、尊敬する『先生』あるいは『恩師』を思い浮かべるような表情で遠い目をするので、イラっとしてしまった。いかんいかん、大人気(おとなげ)ない。キヴォトスにまともな人間の成人男性なんていないから、ノノミの口から初めて他の男の話を聞いたとはいえ……。ダメダメ、大人、大人。俺は大人なんだから。

 

 そもそも、ここまでの話がどう関係するのか分からないが、ノノミが抱え込んでいた言えない「事情」ってのを聞いてやって、楽にしてやるのが目的なんだ。大事な話なのは分かるが、この話、それに関係あるのかね。

 

「確かに聞いてみると、因果を生み出してとか、この世界全体に関わるようなデカい話ばっかりだよな。しかも、どんな世界に変わるかで一番大事なのは、俺の無意識の願望で作り出す「世界観」、と。つまり、そういう存在である「主人公」の『俺』が、そのことを自覚しちゃまずいって話? 意図的にそのレベルのことを出来るようになるのは、あんまり良くないんだろうけどさ」

「いえ、ここまでの話は「知って」しまっても……まあ、良くはないんですが……」

「でも俺、この世界が何となく俺に都合よく動いてたのは知ってたぞ? 『シャーレの先生』っていうブルーアーカイブの「主人公」的な存在を中心とした「ご都合主義」みたいなのがあるってことは。今日聞いた話だって、ああ、やっぱりそうなんだってのが多いし」

「うーん……。それも本当は良くないのですが……。すみません、もう少しだけお話を聞いてもらえますか?」

「ああ、悪い。話をさえぎっちゃったか」

 

 ここまでの話を聞いて、ヤバいことって言ったら一つ思い当たる。俺のヤキモチで、『先生』とやらが死んでしまうことだ。そりゃ、神様みたいな奴が死んだらまずいだろ。……なんて、まあそれは冗談だけど。あー、我ながら、男の嫉妬は醜いな。よくない、よくない。

 

「では、あなたがこ(・)の(・)世界に対して持つ「世界観」の変化が、大きく世界のありようにも影響してしまうとして、それにはあなたの願望が、無意識のものでも反映されてしまうのは分かりますか? 具体的に何かを望むのではなくても、です。これは、あなたに何か責任を押し付けようとか、そういうことではないのですが……」

「? どういうことだ?」

「例えば……今、あなたの目の前でノノミさんが泣いています。それを見たあなたは、「悲しませたくない」という感情を持つでしょう。それはこの世界に少しの「悲劇性」をもたらします——」

 

 うん? ……それは、俺が何かしら強い感情を抱けば、それに関係する願望を通して、この世界全体に影響を与えるって話か? 無意識の内にでも? そんな話……。

 

「そんなこと言われたって、常に平静を保つなんて出来ないぞ。修行僧じゃあるまいし。目の前で女の子が泣くなんてこと、生きてりゃあいくらでもある……そりゃノノミに関しては、多少話は違うけど」

「もちろん、これはあくまで理屈上の話です。ですが、「心」の問題という意味では同じです。例えば、泣いていたのが知らない子供なら、かわいそうだとは思っても、すぐに忘れてしまうかも知れません。ですが、それがノノミさんで、今のような深刻な理由なら話は違うはずです」

「そりゃ、まあ……」

 

 ちらっとノノミを見る。少しは落ち着いたものの、まだしゃくりあげて泣いている、その姿を見れば、何とかしてやりたいと思う。誰かに何か言われても、俺はこの状況で平然としていられるような人間じゃない。だから、こんなことになってるんだし。

 

「目の前にある「事実」が、あなたにとってどれだけ重いものなのか、相手があなたにとってどういう存在なのか、それはあなたにしか……あなた自身にも分からないはずです。ノノミさんの話は一例に過ぎませんが、どんな些細(ささい)な「事実」であれ、あなたにとって重大なものであれば、それは残酷に、ストレートにあなたの心を揺らします。「事実」をいくら小さなものだと思おうとしても、防ぐことは出来ません……」

「そりゃそうだ……。メンタルのコントロールなんて、何をやるにしたって一番重要で、一番難しいもんなんだ。そんなに思い通りにいくわけがない……。そこをどうにかしろってのか?」

「いえ、そういうわけでなく……」

 

 アロナの声が暗いものになっていくのを聞きながら、ここに至って俺は「俺の願望がもろに世界に影響を与える」ことの重大性に気付いた。世の中が暗くならないよう、何かショックなことがあっても、無理して明るく見せることなら出来る。でも、そんなのは見せかけだけのものだ。それが世界に影響するのなら——責任を押し付けるわけじゃないとか言っていたが、そんなもん嫌でもプレッシャーになる。

 

「「ゲームの中」のタイプの『ブルーアーカイブ世界』には、「物語(ストーリー)」が大きく影響します。あなたが望んだ、エッチでバカバカしくて、笑うしかないような平和な物語は、そういった少しの悲劇で悲しく切ないものへと変わってしまいます。「ラブコメディ」は、容易(たやす)く「悲恋の物語」へとジャンルを変えてしまいます。おそらく、この話を聞いている今も。あなたを「主人公」として、ノノミさんや、この世界そのものが起こしてきた「ご都合主義」は、マイナス方向にも働くんです。エッチでバカバカしい事象ではなく、悲劇をもたらすような「すれ違い」、「誤解」、「別離」……そんな悲しい事象を頻発(ひんぱつ)させるようなものに変わってしまうということです*3。もちろん、これは例として、「悲恋の物語」と呼べるような「世界観」になった場合の話ですが……」

 

 いつかの、『柴関ラーメン』でのことを思い出す。確かに、何かのショックで打ちのめされている時に、「炙りチャーシューをトッピングで頼みたいなあ。屋台じゃ出来ない? じゃあ、ノノミに頼んで店を直してもらおう」「じゃじゃ〜ん! これでお店も直って解決ですよ☆」なんてノリで、そんな「おいおい」ってツッコみたくなるような事象を心底望むなんて、無理だろう。今だって、そのテンションはちょっとキツい。むしろ、不謹慎なことはやめろ、と思ってしまう。それがマイナス方向の望みになってしまうのだろう。

 

 そして、俺が「世の中、そうそう上手くはいかない」とか「理不尽なことばっかりだ」なんてネガティブなことばかり考えていれば……例えば、借金がさらに増えるとか、誰かが危険な目にあうとか、アビドスにはろくなことが起きなくなるかも知れない。ちょっとしたことでゲヘナ風紀委員会や便利屋と敵対したり、柴関ラーメンのような被害が出たり、そんなことが頻発するようになる。それがアビドスだけじゃなく、ミレニアムや他の学園、キヴォトス全てが同じような影響を受けてしまうってのか……。

 

 いや、でもマイナスに見える変化が全て悪いことだけか? ブルーアーカイブのメインストーリーの通りに、『前の先生』の時にセリカが拉致されたことが実際にあったと聞いている。結果論で言えば、それは「先生」との距離を縮め、最終的にはプラスの事象になったはずだ。セリカが酷い目にあってトラウマになったようなこともない。そもそも、どんなに危険なものであっても、この世界が『ブルーアーカイブ』をもとに生まれた世界なら、そのストーリーが「バッドエンド」に終わるは(・)ず(・)が(・)な(・)い(・)んだ。あれは、そ(・)う(・)い(・)う(・)ゲームなんだ。

 

「楽しい「ラブコメディ」じゃなく、「悲恋の物語」に変わってしまったからって、そんなにダメな話か? コントロール出来ないにしたって、どんな形であれ、俺が望む形で生み出される「世界観」なら、俺が許容出来る範囲内にしかならないだろう。よっぽど俺の心がぶっ壊れるような事件でも起きなければ、そこまで酷い「世界観」にはならないんじゃないか? 何か危険なことが起きても、後から考えればみんな「あれも今になってはいい思い出だね」って思える程度の「世界観」にしか。そりゃ、誰からも苦情が来ないってことはないだろうが」

 

 そう。結局最後は、みんな笑顔になり、感動できるようなエンディングにたどり着く、むしろそうならないことが不可能な、そんなゲームだ。何しろ選択肢が出たって、どれを選んでもストーリーは変わらないし、変えられない。最後は全部ハッピーエンドだ。……確か、そうだった……はずだ。

 

「その通りです。「ゲームの中」のタイプの『ブルーアーカイブ世界』を「物語」として考えるなら、その定義は「『先生』と『生徒』という二つの概念が存在すること」であり、それを満たす限りでどんな物語も許容され、全ての物語は等価値です*4。「明るい物語」、「笑える物語」、「エッチな物語」、「悲しい物語」、「暗い物語」、誰かが肯定的にとらえても、否定的にとらえても、そこに優劣はないんです」

「その理屈は分かる。戦いばかりでも陰惨(いんさん)なものじゃなく、それを先生や生徒みんなで乗り越えるような「明るい話」、逆に、いくら平和でもみんなギスギスして、疑心暗鬼になるような「重い話」、真面目な奴には怒られそうだけど、どうしても笑っちゃうような「楽しい話」。どれもとらえ方次第では、誰かにとっては価値のあるストーリーだし、誰かにとっては見るのも嫌なストーリーになるだろう。だから、どれにだって同じように価値があり、本質的な違いは全くない……そういう話だな? 周りに言わせると、そこまで極端に考えるのは俺ぐらいらしいが」

「そう、なのでしょうか……? 『先生』は同じ考え方だと思いますが……」

「そうなのか? なら、そいつも変わってるっていうか……」

 

 まあ、そうでなければ、俺の願望が何でも「ご都合主義」でかなう世界なんて作らないだろう。自分は「場」を用意するだけで、あとは俺が自由に行動するのに任せる。キヴォトスの人間に関しても、その人が自由に作り上げた物語をどうとらえるかはその人次第であって、他人が口出しできるものじゃない——そんな考え方をしているなら、俺のものに近い。完全にではなくても、その程度までは一致しているから、今のこの状況があるはずだ。

 

 ついでに言えば、より多くがより良いストーリーを作れるように、せめて良い「場」を用意してやりたい……なんて甘いことまで考えるのは、それこそ俺だけなのかも知れないが。

 

「だったら、極端な言い方をすれば、俺がどんな「世界観」を生み出そうが大して何かが変わるわけじゃない、だから責任を押し付けるつもりはない、そういう話か? あまり俺が言っていいことじゃないのかも知れないが……」

「そうです。もちろん「世界観」の話を全く無視するわけにはいきませんが、今、ノノミさんとあなたにとって問題になるのは、『あなた』が『現実世界』に帰還する条件のことだけなんです。二つの条件、すなわち「帰りたいと強く望む」——これは、この世界に満足しきってしまい、自然にそう望む場合なども含みます——と、「この世界が嫌になってしまうこと」の基準は、その「物語」や「世界観」を、『(・)あ(・)な(・)た(・)』が(・)ど(・)う(・)と(・)ら(・)え(・)る(・)か(・)、ど(・)う(・)感(・)じ(・)る(・)か(・)なんです。『あなた』はどんな世界を望んでもいいですし、『あなた』は望むだけその世界にいて構いません。そして『あなた』がそ(・)の(・)世(・)界(・)——そ(・)の(・)物(・)語(・)が(・)本(・)当(・)に(・)嫌(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)ら(・)、い(・)つ(・)で(・)も(・)帰(・)っ(・)て(・)い(・)い(・)、そういうことなんです」

「嫌になったら、いつでも、ね……」

 

 ——つまり、このキヴォトスでの生活を、ブルアカの「ストーリー」みたいなものだと考えれば、俺が元の世界に帰る手段は二つ。ここでの生活に満足し、ちょっとした旅行にでも行ってきた気分で、さて帰るか、と「強く望む」場合。それから、「やってられるか、こんなクソゲー!」とキレて「心底嫌に」なり、やめたくなった場合。後者の場合は、「もうこんな世界にいたくないでしょう? 今すぐ帰れますよ——何なら、勝手に送り返してあげますよ」ってことだ。親切のつもりなのか知らないが、それは余計なお世話だ。

 

「要するに、俺が「世界観」を維持できなければ、この世界はどんどんその影響をうける。そうやって世界を巻き込んだ挙句(あげく)、いずれ「強制帰還」が発動して、俺は元の世界へ……ってことか」

 

 ノノミが申し訳なさそうに頷いた。

 

 確かに、こんなデカい話が出てくるとは思っていなかったし、迂闊だったかも知れない。俺が帰るとか帰らないとかってだけだったはずの話に、この世界のありようなんてものが関わってきて、しかも俺はそれをコントロールできない。

 

 こんな話じゃ、ノノミが言いにくかったのも当然だし、一人で抱え込んできてつらかっただろう……そういう話なのか? なら、当初の目的は果たした。いくらか楽に……なっていないようだが……。

 

 だが、この「強制帰還」のシステムの狙いは、そう悪いものじゃないように思う。俺が「世界観」を悪化させてしまい、止められなくなったとしても、それが最悪のものになる前に自動的に『俺』を元の世界に帰してしまえるなら、それがストッパーになる。同時に、「心底嫌になっている」以上、横暴(おうぼう)ではあっても俺に対する配慮にはなる。二つの問題を一度に解決出来るシステム、俺も同じような手段を取ることは多い。俺が帰ってしまった後のことは、おそらくフォロー出来る前提なんだろうし。

 

 そういう保険がかけてあるなら、俺は「世界観」を維持できる限り、この世界にとどまることが出来るんじゃないか? こんな裏事情、聞かないに越したことはなかっただろうが、「知った」ことが問題になるって言っても、二人があそこまで警戒するほどの話じゃないように思う。今聞いた話をまるごと消去して、忘れてしまう必要だってないんじゃないか……そう思った。

 

 ——だが、俺は甘かった。俺が「知って」しまうこと——あるいは、「知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)ことを思い出す」ことの危険性は、その程度のものじゃなかった。

 

「————っ!」

 

 突然の、脳を貫かれるような激痛。

 

 「忘れていた」こと——おそらく「思い出してはいけないこと」が、いくつも頭に浮かぶ。さっきまで存在すら完全に忘れていた『アロナちゃん』の姿や、『シッテムの箱』、それに『物語(ストーリー)』や『ジャンル』といった、『ブルーアーカイブ』というゲームの世界観において重要な意味を持つキーワードが、俺の記憶を刺激したのだろう。Vol.1、Vol.2、Vol.3、Vol4、最終編、俺の記憶から欠けていた部分が全て補完された『メインストーリー』の全体図が脳裏に浮かぶ……。

 

「……ですが、本当に問題になるのは、そこではないんです。普段のあなたの心の振れ幅に関しては許容範囲で……先生⁉︎」

「思い出した……「本当の物語(ストーリー)」……「本当のブルーアーカイブ」……何で忘れていた……?」

 

 痛みではなく、俺が激しいショックを受けるような、無数の『ブルーアーカイブ』の欠片(かけら)が……いくつものテキスト、いくつものスチルが突き刺さり、俺の感情を激しく揺さぶる。さっきのたとえ話どころじゃない。こんなもの、平静でいられるわけがない。俺が思い出さないように本当に隠していた本命は、こっちか——!

 

 赤い空、爆煙、血、血……。『俺』の『ブルーアーカイブ』の「世界観」ではありえなかったものの数々……。

 

 見ると、アロナが焦(あせ)っている。そしてノノミも。てことは、やっぱりこれ、思(・)い(・)出(・)し(・)ち(・)ゃ(・)い(・)け(・)な(・)い(・)やつなんだな? しかし、それを理解していても記憶の解放を止められない。くそ、頭が……っ!

 

「先生!」

 

 ノノミが取り乱している。何かが起きることを心配しているからか? 単純に俺のことを心配している? いや、あの目はもっと他の何か……? ノノミが大事だと考える何か——

 

 ——そこまでだった。俺に考える余裕はない。アロナが何か叫んでいる。そうだ。今はまず、状況を把握しないと……!

 

 

 最終回:あなた(主人公)の知らないハッピーエンド(後)へ続く——

 

 

*1:
ここでは詳しく説明されていないが、主に「誰かと誰かが出会うこと」、もしくは「誰かと誰かが出会いにくいこと」を、世界の因果を調整することで、「縁」として実現している。

*2:
ここでは詳しく説明されないが、『アロナちゃん』とは「連邦生徒会長」の要素を含む「何か」であるという『拡大解釈』により、本来のものより力を増大させている。シーズン3などでまた出てくる。

*3:
「縁」等がこの場合、マイナスに働くということ。この例で言えば、「すれ違ってしまうような状況」、「誤解を生むような状況」、「別離につながりかねない状況」が生まれやすくなる。

*4:
二次創作で例えれば、「先生」が存在し、一人以上の「生徒」がいれば、全て「ブルーアーカイブ」物語の二次創作である、と定義するようなものである。こ(・)の(・)世界を「主人公を中心とした「ブルーアーカイブ」の物語」ととらえれば、エロゲーだろうがコメディだろうがシリアスだろうが、どんなジャンルの物語でも成立するということ。詳細は設定まとめなどを参照。

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