【ダイジェスト版】「助けてノノえもん!」シーズン1〜3 作:春画屋@二次創作R18
最終回(中編)、約10000字です。
・主人公は『アロナちゃん』の存在を設定ごと忘れていた
・主人公は『シッテムの箱』を所有せず、存在も付随する設定も忘れていた
・主人公は『シャーレの先生』に関する設定の大部分を忘れていた
・主人公はそれらについて、深刻な記憶の欠損だとは感じていない
・主人公は『連邦生徒会長』の存在をはじめとする数々のこの世界の異常に気付いていない
・
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何とか涙をこらえようとするノノミに代わって、アロナ——正確には『手乗りアロナちゃん』というらしい——が俺に続けて説明する。
「先ほども言ったように、あなたは自身が強く望むことによって、元の世界——『現実世界の日本』——に、帰ることができます。そしてもう一つ……「あなたが
「強制的に?」
割と適当に考えたことが当たってしまった。しかし、この世界が心底嫌になるのが条件? って、どんな状況だ、それは。ここキヴォトスが銃弾飛びかう危険な場所だからって、ノノミのおかげとはいえ特に問題なく暮らせているんだし、別に帰ろうとは思わないんだから、「この世界が心底嫌になる」なんてこと、そうそうないと思うんだが……。
……うーん、そうだなあ……。例えば、
「そしてここからは、通常の『ブルーアーカイブ世界』とは異なる形に変化している、今の、
「通常とは異なる?」
「はい。「プレイヤー」の数だけ無限に存在する、通常の『ブルーアーカイブ世界』とは異なる、特殊な形をした、
説明によると俺が今いる
ということは、その中の一つである
まあ、『俺』が「プレイヤー」であることで、他のプレイヤーのものとの違いは当然あるんだろう……と思ったが、それだけではないようだ。
「——というわけで、
「「世界観」ねえ」
俺の作り出す「世界観」……アビドスの
とはいえ、
何しろエロゲーって言っても、治安が最悪でそこら中で誰かがレイプされてるようなヤバいのじゃない。せいぜい、浮気したとかで俺がミニガンを持ったノノミに追っかけ回されたり、お仕置きされてる程度のものだ。そう考えたら、黒服も好きそうだな、この世界のノリ。
「……そして、『先生』がデザインした「世界観」を実現するために、
ノノミがこくんと
「その、俺の願いを直接具現化させるっていう最後の方法で、ノノミが「じゃじゃ〜ん! 『手乗りアロナちゃん』ですよ☆」って出す形で、さっきお前も生まれましたよ、と。そういうことだな? おかげで、だいぶ助かってるよ」
「はい。『シッテムの箱の中の少女』は、世界と一体化したことにより大きな力を得ることができましたが、その代わりにこうして誰かと会ったり話したりするような、直接
いや、本当に助かってる。何しろ、ノノミが言えずにいた事情ってのは、全部代わりにこいつが説明してくれそうだ。ただの端末に過ぎないとか言ってたけど、十分頼もしい。ちょっと説明の仕方が
それにしても、さっきから気になっているんだが、『シッテムの箱の中の少女』なんて、えらく持って回った言い方だが、ブルアカにそんなもん出てきたっけか……? こいつのオリジナルってことなんだろうけど、そいつは、いわゆるブルアカに出てくる『アロナちゃん』とは違うんだろうか*2。後で聞いてみるか。
しかし、まあ……。「主人公」であろう、俺だけじゃなく、ノノミも
「ちなみに……今『
「はい。『
「いいよ、多分そいつのこと、周りに聞いて知ってっから。俺は自分の前に担当してたってことで、『前の先生』って呼んでるけどさ。そういう存在とは知らなかったが……ああそう、『先生』ね」
初めて具体的に『前の先生』のことを聞いたわけだが、「やっぱ存在したんじゃん」とか、「やっぱ俺より偉くて、ちゃんとした先生なんじゃん」とか、
しかし、今はこの世界にいないって、じゃあどこにいるんだ? 単に俺の前に「先生」をやってただけの存在じゃないみたいだし、『俺』のためにわざわざ「ご都合主義」なんてものを作ってる理由もよく分からない——
「『先生』は……私にとって大事な『先生』です。とてもお世話になった、恩人です」
「あ、そうなんだ……。へぇ……」
ノノミがそれこそ、尊敬する『先生』あるいは『恩師』を思い浮かべるような表情で遠い目をするので、イラっとしてしまった。いかんいかん、
そもそも、ここまでの話がどう関係するのか分からないが、ノノミが抱え込んでいた言えない「事情」ってのを聞いてやって、楽にしてやるのが目的なんだ。大事な話なのは分かるが、この話、それに関係あるのかね。
「確かに聞いてみると、因果を生み出してとか、この世界全体に関わるようなデカい話ばっかりだよな。しかも、どんな世界に変わるかで一番大事なのは、俺の無意識の願望で作り出す「世界観」、と。つまり、そういう存在である「主人公」の『俺』が、そのことを自覚しちゃまずいって話? 意図的にそのレベルのことを出来るようになるのは、あんまり良くないんだろうけどさ」
「いえ、ここまでの話は「知って」しまっても……まあ、良くはないんですが……」
「でも俺、この世界が何となく俺に都合よく動いてたのは知ってたぞ? 『シャーレの先生』っていうブルーアーカイブの「主人公」的な存在を中心とした「ご都合主義」みたいなのがあるってことは。今日聞いた話だって、ああ、やっぱりそうなんだってのが多いし」
「うーん……。それも本当は良くないのですが……。すみません、もう少しだけお話を聞いてもらえますか?」
「ああ、悪い。話をさえぎっちゃったか」
ここまでの話を聞いて、ヤバいことって言ったら一つ思い当たる。俺のヤキモチで、『先生』とやらが死んでしまうことだ。そりゃ、神様みたいな奴が死んだらまずいだろ。……なんて、まあそれは冗談だけど。あー、我ながら、男の嫉妬は醜いな。よくない、よくない。
「では、あなたが
「? どういうことだ?」
「例えば……今、あなたの目の前でノノミさんが泣いています。それを見たあなたは、「悲しませたくない」という感情を持つでしょう。それはこの世界に少しの「悲劇性」をもたらします——」
うん? ……それは、俺が何かしら強い感情を抱けば、それに関係する願望を通して、この世界全体に影響を与えるって話か? 無意識の内にでも? そんな話……。
「そんなこと言われたって、常に平静を保つなんて出来ないぞ。修行僧じゃあるまいし。目の前で女の子が泣くなんてこと、生きてりゃあいくらでもある……そりゃノノミに関しては、多少話は違うけど」
「もちろん、これはあくまで理屈上の話です。ですが、「心」の問題という意味では同じです。例えば、泣いていたのが知らない子供なら、かわいそうだとは思っても、すぐに忘れてしまうかも知れません。ですが、それがノノミさんで、今のような深刻な理由なら話は違うはずです」
「そりゃ、まあ……」
ちらっとノノミを見る。少しは落ち着いたものの、まだしゃくりあげて泣いている、その姿を見れば、何とかしてやりたいと思う。誰かに何か言われても、俺はこの状況で平然としていられるような人間じゃない。だから、こんなことになってるんだし。
「目の前にある「事実」が、あなたにとってどれだけ重いものなのか、相手があなたにとってどういう存在なのか、それはあなたにしか……あなた自身にも分からないはずです。ノノミさんの話は一例に過ぎませんが、どんな
「そりゃそうだ……。メンタルのコントロールなんて、何をやるにしたって一番重要で、一番難しいもんなんだ。そんなに思い通りにいくわけがない……。そこをどうにかしろってのか?」
「いえ、そういうわけでなく……」
アロナの声が暗いものになっていくのを聞きながら、ここに至って俺は「俺の願望がもろに世界に影響を与える」ことの重大性に気付いた。世の中が暗くならないよう、何かショックなことがあっても、無理して明るく見せることなら出来る。でも、そんなのは見せかけだけのものだ。それが世界に影響するのなら——責任を押し付けるわけじゃないとか言っていたが、そんなもん嫌でもプレッシャーになる。
「「ゲームの中」のタイプの『ブルーアーカイブ世界』には、「
いつかの、『柴関ラーメン』でのことを思い出す。確かに、何かのショックで打ちのめされている時に、「炙りチャーシューをトッピングで頼みたいなあ。屋台じゃ出来ない? じゃあ、ノノミに頼んで店を直してもらおう」「じゃじゃ〜ん! これでお店も直って解決ですよ☆」なんてノリで、そんな「おいおい」ってツッコみたくなるような事象を心底望むなんて、無理だろう。今だって、そのテンションはちょっとキツい。むしろ、不謹慎なことはやめろ、と思ってしまう。それがマイナス方向の望みになってしまうのだろう。
そして、俺が「世の中、そうそう上手くはいかない」とか「理不尽なことばっかりだ」なんてネガティブなことばかり考えていれば……例えば、借金がさらに増えるとか、誰かが危険な目にあうとか、アビドスにはろくなことが起きなくなるかも知れない。ちょっとしたことでゲヘナ風紀委員会や便利屋と敵対したり、柴関ラーメンのような被害が出たり、そんなことが頻発するようになる。それがアビドスだけじゃなく、ミレニアムや他の学園、キヴォトス全てが同じような影響を受けてしまうってのか……。
いや、でもマイナスに見える変化が全て悪いことだけか? ブルーアーカイブのメインストーリーの通りに、『前の先生』の時にセリカが拉致されたことが実際にあったと聞いている。結果論で言えば、それは「先生」との距離を縮め、最終的にはプラスの事象になったはずだ。セリカが酷い目にあってトラウマになったようなこともない。そもそも、どんなに危険なものであっても、この世界が『ブルーアーカイブ』をもとに生まれた世界なら、そのストーリーが「バッドエンド」に終わる
「楽しい「ラブコメディ」じゃなく、「悲恋の物語」に変わってしまったからって、そんなにダメな話か? コントロール出来ないにしたって、どんな形であれ、俺が望む形で生み出される「世界観」なら、俺が許容出来る範囲内にしかならないだろう。よっぽど俺の心がぶっ壊れるような事件でも起きなければ、そこまで酷い「世界観」にはならないんじゃないか? 何か危険なことが起きても、後から考えればみんな「あれも今になってはいい思い出だね」って思える程度の「世界観」にしか。そりゃ、誰からも苦情が来ないってことはないだろうが」
そう。結局最後は、みんな笑顔になり、感動できるようなエンディングにたどり着く、むしろそうならないことが不可能な、そんなゲームだ。何しろ選択肢が出たって、どれを選んでもストーリーは変わらないし、変えられない。最後は全部ハッピーエンドだ。……確か、そうだった……はずだ。
「その通りです。「ゲームの中」のタイプの『ブルーアーカイブ世界』を「物語」として考えるなら、その定義は「『先生』と『生徒』という二つの概念が存在すること」であり、それを満たす限りでどんな物語も許容され、全ての物語は等価値です*4。「明るい物語」、「笑える物語」、「エッチな物語」、「悲しい物語」、「暗い物語」、誰かが肯定的にとらえても、否定的にとらえても、そこに優劣はないんです」
「その理屈は分かる。戦いばかりでも
「そう、なのでしょうか……? 『先生』は同じ考え方だと思いますが……」
「そうなのか? なら、そいつも変わってるっていうか……」
まあ、そうでなければ、俺の願望が何でも「ご都合主義」でかなう世界なんて作らないだろう。自分は「場」を用意するだけで、あとは俺が自由に行動するのに任せる。キヴォトスの人間に関しても、その人が自由に作り上げた物語をどうとらえるかはその人次第であって、他人が口出しできるものじゃない——そんな考え方をしているなら、俺のものに近い。完全にではなくても、その程度までは一致しているから、今のこの状況があるはずだ。
ついでに言えば、より多くがより良いストーリーを作れるように、せめて良い「場」を用意してやりたい……なんて甘いことまで考えるのは、それこそ俺だけなのかも知れないが。
「だったら、極端な言い方をすれば、俺がどんな「世界観」を生み出そうが大して何かが変わるわけじゃない、だから責任を押し付けるつもりはない、そういう話か? あまり俺が言っていいことじゃないのかも知れないが……」
「そうです。もちろん「世界観」の話を全く無視するわけにはいきませんが、今、ノノミさんとあなたにとって問題になるのは、『あなた』が『現実世界』に帰還する条件のことだけなんです。二つの条件、すなわち「帰りたいと強く望む」——これは、この世界に満足しきってしまい、自然にそう望む場合なども含みます——と、「この世界が嫌になってしまうこと」の基準は、その「物語」や「世界観」を、
「嫌になったら、いつでも、ね……」
——つまり、このキヴォトスでの生活を、ブルアカの「ストーリー」みたいなものだと考えれば、俺が元の世界に帰る手段は二つ。ここでの生活に満足し、ちょっとした旅行にでも行ってきた気分で、さて帰るか、と「強く望む」場合。それから、「やってられるか、こんなクソゲー!」とキレて「心底嫌に」なり、やめたくなった場合。後者の場合は、「もうこんな世界にいたくないでしょう? 今すぐ帰れますよ——何なら、勝手に送り返してあげますよ」ってことだ。親切のつもりなのか知らないが、それは余計なお世話だ。
「要するに、俺が「世界観」を維持できなければ、この世界はどんどんその影響をうける。そうやって世界を巻き込んだ
ノノミが申し訳なさそうに頷いた。
確かに、こんなデカい話が出てくるとは思っていなかったし、迂闊だったかも知れない。俺が帰るとか帰らないとかってだけだったはずの話に、この世界のありようなんてものが関わってきて、しかも俺はそれをコントロールできない。
こんな話じゃ、ノノミが言いにくかったのも当然だし、一人で抱え込んできてつらかっただろう……そういう話なのか? なら、当初の目的は果たした。いくらか楽に……なっていないようだが……。
だが、この「強制帰還」のシステムの狙いは、そう悪いものじゃないように思う。俺が「世界観」を悪化させてしまい、止められなくなったとしても、それが最悪のものになる前に自動的に『俺』を元の世界に帰してしまえるなら、それがストッパーになる。同時に、「心底嫌になっている」以上、
そういう保険がかけてあるなら、俺は「世界観」を維持できる限り、この世界にとどまることが出来るんじゃないか? こんな裏事情、聞かないに越したことはなかっただろうが、「知った」ことが問題になるって言っても、二人があそこまで警戒するほどの話じゃないように思う。今聞いた話をまるごと消去して、忘れてしまう必要だってないんじゃないか……そう思った。
——だが、俺は甘かった。俺が「知って」しまうこと——あるいは、「
「————っ!」
突然の、脳を貫かれるような激痛。
「忘れていた」こと——おそらく「思い出してはいけないこと」が、いくつも頭に浮かぶ。さっきまで存在すら完全に忘れていた『アロナちゃん』の姿や、『シッテムの箱』、それに『
「……ですが、本当に問題になるのは、そこではないんです。普段のあなたの心の振れ幅に関しては許容範囲で……先生⁉︎」
「思い出した……「本当の
痛みではなく、俺が激しいショックを受けるような、無数の『ブルーアーカイブ』の
赤い空、爆煙、血、血……。『俺』の『ブルーアーカイブ』の「世界観」ではありえなかったものの数々……。
見ると、アロナが
「先生!」
ノノミが取り乱している。何かが起きることを心配しているからか? 単純に俺のことを心配している? いや、あの目はもっと他の何か……? ノノミが大事だと考える何か——
——そこまでだった。俺に考える余裕はない。アロナが何か叫んでいる。そうだ。今はまず、状況を把握しないと……!
最終回: