【ダイジェスト版】「助けてノノえもん!」シーズン1〜3 作:春画屋@二次創作R18
約12000字。
【前回のあらすじ】
先生(主人公)も、自分がこの世界に来たせいで他人の人生を変えちゃったかも、と思えば一応悩む。そんなわけでホシノに会いに来たのである。
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教室に私が入って来たのに気付いて顔を上げ、「彼」はスマホを閉じた。
「久しぶりじゃ〜ん、先生。何の用事? うへ〜、愛の告白だったりしたら、おじさん困っちゃうな。ノノミちゃんに怒られちゃうよ〜」
「ないない。それは絶対ないから」
私の笑えない冗談は、あっさり流された。相変わらず、「彼」——『先生』は私に異性としての興味はないらしい。あっても困る。それにしても、久しぶりだ。他の学園での仕事が増えて忙しいらしく、彼がアビドスに来ることはかなり少なくなっていたのだけど。
「で、何の用〜? 何かあったの?」
「いや、ちょっと重い話……いいか?」
「? いいけど?」
この人には珍しく、神妙な顔をしている。といっても、能天気なこの人のこと、よくも悪くもバカバカしい悩みなんだろうけど——
「もし俺がこの世界に来たことで、運命とか何かが変わって、
「仲良く……なれた
私は眉をひそめた。
——まさか、本当に何かあった? もっと仲良くなれたはず、出会えるはずだった、って……今いる方の先生は面識がないはずだけど、『トリニティ』のヒフミちゃんか、それとも『ティーパーティー』の誰かのことを言ってる?
カイザーPMCが兵力を集め、アビドスと大規模な戦闘になるかも、って話になった時に、『トリニティ』が動く気配があったらしい、と
そう考えれば、『ティーパーティー』にしてみれば、おそらくは先生とノノミちゃんの力でこの世界が改変された結果、カイザーPMCとの戦闘が発生しなかったのは誤算だろうし、私たちも『トリニティ』との接点を失ったことになる。それを「もっと仲良くなれたはずの人」なんて、何だかほのぼのした表現をするものなのかはわからないけど。
「……先生が言ってるのって、『トリニティ』の誰かのこと?」
「へ? トリニティ?」
「あ、違うの」
自分で重い話だとか言っておいて、緊張感ないな、この人。この反応からすると、『トリニティ』は的外れだったみたいだけど。
それにしても、どういう人なんだろう、この人。普段
進んで話題にするようなことじゃないから直接聞いたことはないけど、どうやらこの人、キヴォトスの人間じゃない自分以外は、どんなドンパチをやっても死なないと思っているらしい。私たちにとって「ヘイローが破壊される」ことは、
悪い人だとは思わない。他の「大人」とは違うのもわかる。それでも「大人」だ。私たちとは違う。そんなこともあって、私は今でもそのズレを完全には許容できずにいる。
「だったら、例えば世界が改変されなければ繋がりが出来たとして、ゲヘナなら『風紀委員会』や
「いや、「勢力」とか「接触」とか、そんな殺伐とした話じゃなくて……」
「違うの?」
「えーと、例えば……おじさんが何かヤバめの悪の組織に捕まって危険な目にあってるのを、何やかんやあって対策委員会のみんなと一緒に俺が助けに行って、助けてもらったおじさんが「きゃー、先生大好き!」みたいな感じで抱きついてきたりとか」
「頭、腐ってんの⁉︎」
ちょっと、くらっとした。いや、冗談じゃなく、頭がフラフラする。いやいやいや、何だそれ。流石に表現の問題だろうけど、私が「きゃー、先生大好き!」とか言って抱きつくって? ノノミちゃんじゃあるまいし、何言ってんだ、この大人は。
「大体、「ヤバめの悪の組織」とか「何やかんやあって」とか、ふわっとしすぎでしょ! ていうか何その、捕まったお姫様を王子様が助けに来ました的な安直な話は!」
「俺だってそういう風にしか知らないし、もしそういうことがあったら、俺とおじさんの距離が縮まるのは確かだろ⁉︎ この世界に俺が来る前の話だけど、確かセリカをヘルメット団から救出した時はそんな感じだったはずだ!」
「あ、あれは、セリカちゃんが割とチョロ……あーいや」
「今、何言おうとした? チョロいって言おうとした?」
「いや、そのー。って、私と仲良くなったかもしれない、って先生のことだったの⁉︎」
「俺じゃ不満か⁉︎」
何か深刻に考えてたのがバカらしくなってくるぐらい、ポンポン言葉が出てくる。いや、この人のペースに巻き込まれちゃダメだ。言い方がバカバカしいだけに、その分言ってることは本当みたいだし、一応確認はしておかないと。
「何? そういう展開になる可能性があったわけ? 何か変わった、っていうのがカイザーPMCとの件があった頃の話なのは合ってる?」
「そうそう。あそこら辺のことを、えー……最近思い出したんだけど、ゲームの方の『ブルーアーカイブ』ではそんな感じになってた、らしい」
「はあ……そうなの。ゲームのね」
そうだ。あまりにピンとこないので忘れていたけど、目の前にいる先生——『今の先生』と呼んだ方がいいかもしれない。彼は、私が最初に会った先生——こちらは便宜上、『前の先生』と呼んでいる——とは別人で、「キヴォトスの外」のさらに外から来たという。ノノミちゃんがいつの間にか、ご都合主義としか思えないような不思議な道具を出せるようになったこと、「主人公」(ってことなんだろうけど)である先生を中心に、この世界が「先生の都合のいい世界」に変わりつつあることを根拠にすれば、信じていい話だと思っている。今も、それを前提に話をしていたし。
——それにしても、ゲームねえ……。確かにこの人は、『ブルーアーカイブ』とかいうゲームの中の世界っていう形で、この世界を外から観測していたらしいけど……。
「そのゲームがどれだけこの世界を反映しているか知らないけど、確実なのかな、それ。怪しくない?」
「うん、だから「仮に」の話なんだけどな」
「なら気にしてもしょうがないんじゃない? 第一、「ゲームで助けに行くことになってたから来ました」って言われてもさ。それも、話を聞く限りラストで私が助かるのまで確定なんでしょ? もちろん感謝はするけど、感動までするかって言われると……」
「そこは同感。俺はゲームのストーリーをなぞるつもりもないし。ただ、こうだったかもしれない、ってのを知っちゃうと……」
「どっちにしても私は、「あり得た展開」の「事実」部分はともかく、感動するとかしないとか、「ストーリー」としては興味がないよ。私が今生きている世界はここだけで、「もし」はあり得ない。先生が元いた世界からはどう見えるのかわからないけど、それが私にとっては全てだよ。わざわざ教えてくれたのに申し訳ないけど」
「達観してるねー……。それはそうなんだろうけど」
「本当に「もし」をやり直せるなら、そんな嬉しいことはないけどね。でも、私が一番会いたい人ともう会えないのは、過去にもう確定したことだから。先生とは関係ないよ」
「あ、悪い……。そうなのか」
「ヘイローを破壊された」者は絶対に
「まあでも……一応聞いておくけど、もしそんなことになったら、先生は助けに来てくれるよね?」
「行かないわけないだろ……。そりゃ行くよ」
「ノノミちゃんがいれば大体どうにかなりそうだもんね。そんなのアリか〜? みたいな、とんでもない道具なんか出してもらっちゃって」
「確かにそれだと、笑いは取れるかもしれないけど感動はしなさそうだな……」
「それより先生、ノノミちゃんとうまくいってんの? おじさん、そっちが心配だよ。そんな暗い顔してたら振られるよ?」
「いや、そっちも悩んでるんだけど……」
悩んでる? 最近ノノミちゃんはものすごく機嫌がいいので、よっぽど先生と何かいいことでもあったんだろうと思っていたんだけど。
「何か悩み?」
「上手くいきすぎてて怖い……」
「……何言ってんの?」
思わず真顔で突っ込んでしまった。
「俺、どうしてこんなにノノミに愛されてるんだろう?」
「何? 先生、のろけに来たの? それ、私、聞かなきゃいけない? おじさん、そこまで暇じゃないんだけど?」
「本当に悩んでるんだよう!」
「ええ……めんどくさ……」
周りから見たって若干引くほど
「好かれてるんならいいじゃん」
「だって俺、ノノミに好かれるようなこと何もしてないよ⁉︎」
「そりゃ、先生が気付いてないだけで何かあったんでしょ」
「だって俺がこの世界に来て、初めて会った時からもうノノミの好感度、MAX振り切ってたよ⁉︎」
「あーそー、はいはい、そうなんだ」
「いや、元の世界でも、職場の後輩とか同僚のOLとかその辺にはそこそこ好かれたし、こっちの世界に来てからもそういうのは一応わかるんだ」
「あー……。先生、事務仕事とか得意なんだっけ? 確かにそこだけ見てるとしっかりした有能な年上に見えるし……。セリカちゃんとかシロコちゃん見てても、単純に年上の男の人への憧れとかってあるみたいだしねえ」
私には理解不能だけど。
「そういうのがノノミちゃんに関しては、何も覚えがないって話? それにしたって、「そういう」関係になるまでには何かしらあったんでしょ?」
「そこ、
「うん」
別に聞きたくもなかったし。そもそも、この人がこっちの世界に来て『前の先生』と入れ代わったのって、正確にはいつなのかが今だによくわからないんだけど。ノノミちゃんとああいう関係になる、少し前あたり……なのかな?
「俺がこの世界に来た時の話な。俺、前の世界で住んでた部屋でだらだらブルアカやってたんだけど、寝落ちかなんかしちゃったらしくて。で、起きたらこの対策委員会の教室にいて、目の前にはノノミがいたんだけど」
「あ、この世界で最初に会ったのってノノミちゃんなんだっけ」
「うん、そう。で、本物のノノミだー! すげー! とか思ったんだけど、ゲームのキャラがいるとか非現実的すぎるし、よくわかんないけどきっと夢かなんかだと思って」
「まあ、そりゃそうだよね」
「とにかく、夢なら覚める前に思いを遂げなきゃ、って思って」
「うん? 思いを……? うん」
「その場でノノミに、おっぱい触らせてくれって頼み込んで」
「え、何してんの……」
「そのまま頼み込んでヤらせてもらって中で出しちゃって避妊もしてなくて」
「はあ⁉︎ 初対面の女子高生相手に何してんの⁉︎ いやマジで何してんの⁉︎」
初めて会ってその場で? 嘘でしょ? 酷い酷いとは思っていたけど、この人の貞操観念どうなってんの? エロゲーじゃないんだから。まあ、今更と言えば今更ではあるけど……それにしても、
「先生が頭おかしい(失礼)のは再確認したけど、ノノミちゃんもちょっとおかしいっていうか、そこですんなりエッチなんてさせてあげる?」
「だろ? まあその時は、さすがノノミ、ゲームで知ってる通りの女神だ、癒しだ、ママだ、ってことで納得したんだけど」
「その納得の仕方もどうなのよ。そっちの世界の人って、『ブルーアーカイブ』ってゲームのキャラを何だと思ってんの?」
仮に夢か何かだったとして、ゲームのキャラが目の前にいて、普通そこでいきなりエッチしてくれとか頼む? ……いや、ノノミちゃんの話はともかく、この人なら言うか。バカだから。
「でも、初対面っていってもノノミは俺のことを「先生」って呼んでたし、俺がどこから来たのかとかも説明したけど、結局信じたんだか信じてなかったんだか。てことはつまり、『前の先生』が「ノノミ! セックスさせて!」とか唐突におかしなことを言い出したと思って、それでさせてくれたってことなのでは……?」
「いや、その通りなんじゃないの? 初対面でいきなりそんな事させてくれる、って話よりは」
「やっぱりそうなのかあああああ!」
頭を抱えて
「それにしても、今さらじゃない? 前もそんな話したような……」
「いや、おじさんならわかるだろ? 最近のノノミの、浮かれっぷりというか舞い上がりっぷりというか、彼氏出来たての女子高生じゃないんだからっていう……」
「それ、私も聞きたいんだけど、何かあったんじゃないの? きっかけというか」
「あったのか? 心当たり……なくはない……いや、そうか……?」
「でも、結果的にノノミちゃんが嬉しそうならいいんじゃない? 何か問題あるの?」
「俺が一番信用してないのは、ああいう燃え上がる恋愛感情なんだ。ああいうの、冷める時は一気に冷めるんだから」
「んじゃ、先生はどういうのが理想なのさ」
「……何となく流れでセックスして、そのまま何となくだらだら関係を続けて、妊娠したら「しょうがない、覚悟を決めないと」みたいな……」
「地獄に落ちろ☆」
あんまり酷いんで、逆に笑顔になってしまった。よし、これノノミちゃんと別れさせよう。もう、他のこととかいいや。
「胃が痛い……。ごめん、ちょっと飲み物飲んできます……」
「帰ってこなくていいよ〜」
「ノノミが来たら、相手してあげてて……」
「はいはい、わかったからとっとと行ってきて」
何しに来たんだろう、あの人。いや、私に気をつかって来てくれたのは知ってるけど。……まあ確かに、『トリニティ』とどうとか、そういう深刻なことで悩むよりいいんだけど。本来私が守りたいのは、こういうバカバカしい平和な日常なんだし……。
それにしても、ノノミちゃんが来たら一応、いろいろ考え直すように言った方がいいかもしれないな、まったく。いい加減、聞いておいた方がいいかもしれないこともあるし。
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なんていうか、先生が帰ってくるより前に教室に来たノノミちゃんに話を聞いて、私は絶句した。いろんな意味で絶句した。
「えーと、酷い言い方していい?」
「はい☆ 大丈夫ですよ」
「つまり、ここ最近のノノミちゃんは、正真正銘、彼氏が出来て付き合いたてのバカップルだったってことで間違いないってこと?」
「はい☆」
酷い言い方したのに、
で、何があったか簡単にまとめると、やっぱりノノミちゃんは今いる方の先生が何者なのか知っていたし、その事を隠してきたけど、やっと正真正銘「先生」ではなく、外の世界から来た「彼」自身に告白(なのかな?)が出来たと。
「うへ〜、それを先生の方だけすっかり忘れてるとは、もったいないというか何ていうか……。でも、その、先生が知っちゃいけないこととか、そういうのって何なの? そんなにまずいこと?」
先生には、知ってしまってはまずいこと、もともと知っていても、思い出してはいけないことがいくつもあるらしい。それが、誰にとって都合が悪いのかは知らないけど*1。そして、それらのほとんど全てを知ってしまった日の記憶を、今聞いたノノミちゃんの告白と一緒に消してしまったという。ノノミちゃんのこの喜びようを見れば、二人にとっても簡単に消していい記憶じゃないだろうし、そこまでするほどの重要な事実で、先生が知らないとすれば……
「例えば……「ヘイローを破壊することは可能」だってこととか?」
「はい。多分……一番まずいのはそれだと思います。でも、少なくともこれからのこの世界で、実際に誰かのヘイローが破壊されることはないと思います。
「この世界のもとになっている『ブルーアーカイブ』っていうゲームでは、そういうことはないから?*2」
「はい。私も『ブルーアーカイブ』というゲームの『メインストーリー』はほとんど知らないのですが……もし起きるのなら、それはこの世界がどうなったとしても避けられない事実ですし、それなら流石に警告ぐらいはされていると思いますし」
私は、ノノミちゃんから聞いた情報を、既に自分が推測していた事と合わせて、整理しながら聞いてみた。
「この世界は、常に「主人公」である先生の望むように、都合のいいように変化している。つまり、誰かのヘイローが破壊されそうになっても、先生がそんなのは嫌だ、って強く望めば、ノノミちゃんが「じゃじゃ〜ん☆」って何か不思議な道具を出して、助けてあげられる。もしくは、何か「都合のいいこと」が起きて、「
「はい。先生が、「ヘイローが破壊されるなんてあり得ない」と思い込んでいる限りは。ですが、破壊されることがあり得る世界だと知っていれば、気持ちにブレーキがかかってしまいます。人の生死のような、安直に変えてはいけない——少なくとも先生がそう考えるような重い事象に対しては、強い変化を望むことが出来ず、「都合のいいこと」が起きにくくなってしまいます」
「でも、今ノノミちゃんが言った通りなら、ヘイローが破壊されるっていう最悪の事態はこの世界では起こらないんでしょ? 冷たい考え方だろうけど、仮に先生に何も出来なくても、それは本来先生が責任を感じることじゃないし、死んでてもおかしくないような大怪我、ぐらいまでなら許容……出来るわけないか、あの先生に」
ただでさえ、私が先生ともっと仲良くなれたかもしれない、そんな
「目の前で自分の生徒が危ない目にあったりすれば、自分の責任じゃない、なんて簡単に割り切ることは出来ないと思います。怪我の大小ですとか、経過には先生の気持ちの持ちようが影響するのは事実ですし……。そして一度罪悪感にとらわれたら、先生の気持ちと一緒にこの世界はどんどん悲しく、暗いものになってしまいます。恐ろしいことが起きやすく、止めにくい世界に。何が起きても、最終的な結末がどうやっても同じになるとしても、みんなが望んだから得られるようなものではなく、誰にとっても後悔しか残らない結末になってしまうような……」
ノノミちゃんの言葉に、真っ先に「あの事」が思い浮かんだ。……「事実」より思い。あんな救われない思いは、誰にもさせたくない。……私はしたくなかった。
「ただでさえ、ゲームの『ブルーアーカイブ』をプレイするのとこの世界で暮らすのには、感覚的にかなり違いがあるみたいですし……」
「だって、聞いた限りだとそのゲーム、本を読んでるみたいな感じだもんね。私たちの見た目そのままのグラフィックと、私たちが
「はい。私が初めて会った時に、そんなようなことを言ってました。現実的に考えれば二次元と三次元とで違う存在なのに、見た瞬間、間違いなくそうだと認識するみたいです。ゲームとこの世界自体、そんな関係みたいです」
例えば、私たちがこの世界にある絵本の中の世界に入ってしまったとして、挿絵や本文の描写ででしか知らなかったキャラを、すぐにそれと認識できるようなものだろうか。子供の頃、そういうお話をいくつか読んだ事がある。
…………。
……初めて会った時に言ってた、ねえ。
「ごめん、ちょっと話の腰を折るけど聞いていい? あの先生、こっちの世界に来てノノミちゃんと初めて会った時に、その場で今からエッチさせて欲しいとか、とんでもないこと言わなかった?」
「あ、はい。あはは……流石にあれはびっくりしましたけど……」
「そっか。一応、びっくりはしたんだ。おじさん、何だか安心しちゃっ……」
「でも、もし会えたらいずれは……♡ って思ってましたし☆」
「あっ、そうなんだ。だよね〜、好きな人だもんね〜」
安心しかけたけど、ノノミちゃんもやっぱりおかしいのはよくわかった。……あれ? 「もし会えたら」ってどういう……
「ホシノ先輩」
「え? ああ、ごめん。話、続けようか」
「はい。ホシノ先輩は、どう思いますか? この事を話した時、先生は平和ならそれがいい、記憶をなくした後は、言わなくていいって言ってくれました。でも、確かにそうかもしれませんが……」
「何で? 実際みんなそういう世界の方がいいに決まってるし、私もそう思うけど」
「何だか、この世界を先生に
「…………」
……確かに、過程が違っても「事実」としての最終的な結果が保証されてるのなら、世界全体から見れば先生の存在は小さい。私だって救われるべくして救われ
先生一人に責任を負わせるべきじゃないし、先生に依存するのは危険でもある。だとすれば、「誰か」が『シャーレの先生』の「世界観」以外の何か超常的な力も使って、
……そこまで先生に配慮しているのに、本人の意思を無視してまで、嫌がりそうだからと「本当のブルーアーカイブ」を必死に隠すのを、少なくともノノミちゃんが「ご機嫌取り」と感じてしまうのは、あながちおかしな話ではないのかも知れない。
「そういう罪悪感で、一度は教えちゃったってことか……」
「はい。私の気持ちだけで決めていい事ではないのもわかっていたのですが、つい……」
私はノノミちゃんではないし、男女の心の機微はわからないけど、これだけ先生が大好きで相思相愛の仲だったら、確かにそれはつらかっただろう。嫌われるのも嫌だろうし、隠し事をするのはもっと嫌だろうし。一度は言えない事を吐き出した方がいいっていう先生の判断は、多分正しかったと思う。……この世界の真実を教えたら、先生に嫌われる、か……。そうかも知れない。例えば、私の中にある闇……。
「それに先生の場合、それ以前の問題がある気がするんです。誰かのヘイローが破壊されるかもしれない状況があるとしたら、そこには「その人のヘイローを破壊しようとする誰か」がいるはずです。そういう悪意がこの世界に存在する事自体、先生には……」
「……そうだね。でも、そういう事があり得るのがこの世界の真実なのは間違いないし、そこまで隠し通さなきゃいけないほど、あの先生は弱くないと思う。言うべき時は言うべきだし……でも、必要がない間は私も教えたくないな。先生にはあんな感じでのほほんとしていて欲しいよ。少なくとも、一回は許してくれたわけだし」
「ありがとうございます、ホシノ先輩」
「ノノミちゃんにお礼を言われる事じゃないよ。おじさんだって当事者だしさあ〜」
ふと思った。
「……先生が望んだら、ヘイローを破壊された人も生き返ったりするのかな」
「それは……ないと思います。先生はそういうことはしてはいけないと思うでしょうし、無理してもそれを本当に望むことは出来ないと思います。ごめんなさい」
「いや、こっちこそ。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「……会いたかったですか?」
「……本音を言えばね。でも、会いたいとかそういうことじゃない。やっぱり、死んだ人が生き返るなんて軽々しく起きていいことじゃない、私もそう思う。もう一つ聞いていい? ノノミちゃんにいろいろ教えたり、世界を動かしてるのってもしかして……」
「はい。『先生』です。最初にキヴォトスの外から来て、シャーレの顧問になって、アビドスで私たちと一緒にいた、あの『先生』です」
「やっぱり、そうなんだ」
『前の先生』としてうっすら覚えていた、『先生』の記憶がいくつもはっきり蘇ってきた。今いる先生とは明確に違う『先生』の記憶が。うまく言えないけど、『先生』が考えそうなやり方だなって、そう感じていた。回りくどいけど、その分やわらかくて、ふわっと全部を包み込むような……。
「『先生』はもうこの世界にはいないの?」
「おそらく、いないと思います。ただ、私たちを置いて行くわけではないと……、少し形が変わったとしても、いつも生徒のみんなと一緒にいて、見守っていると言っていました。意味はよくわからないのですが……」
「謎かけか、解釈なのかな。キヴォトスってそういう言葉遊びみたいなの多いし」
「会いたい、ですか? 『先生』に」
「ううん、いいよ。この世界にいないんだったら、どこかでやらなきゃいけない事があるんだろうし」
ただ、少しだけ思ってしまっただけだ。どこかに捕まっている私を、無茶して助けに来る——そんな姿は、何だか『先生』ならよく似合う気がするな、と。そんな『先生』の姿なら見たかったかも、そう思ったら、不意に懐かしくなっただけだ。でも、『先生』と会えなくても、私は今のこの世界でいい。
「会いたければ、きっと会えますよ。あの人がちゃんと、ホシノ先輩の望みを叶えてくれます。じゃあきっと、本人は気付いてないかもですが、そのために今日は来たんですね☆」
「へ? 先生が?」
私が、ノノミちゃんの言葉の意味がよくわからず戸惑っていると、「今いる方」の先生が帰ってきた。その顔をじっと見る。
「……何で俺の顔をずっと見てんの?」
「まあ、こっちの先生も悪くないかなって」
「あっちと比べんの、やめてくんない……?」
「ごめんごめん」
まあ、一番の人は会えなくても、二番目の人にはいつか会えるかもしれない。だったら気長に待とう。そう思った時だった。
「それじゃ、
「え? 先生、その呼び方……?」
戸惑う私を、先生が何事もなかったかのように見る。でも『前の先生』がそう呼んでいたように、「おじさん」ではなく「ホシノ」、と私を呼んだその声は、何故かとても懐かしかった。すぐ目の前に、先生ではなく『前の先生』がいるみたいに。でもノノミちゃんも、先生本人も気付いてないみたいだし、聞き間違い……? そう思った瞬間、先生に懐かしい姿がだぶった。そして、先生の目を見て私は確信した。
——なんだ。ずっと前からそこにいたんだね、『先生』。
いつも優しそうな顔をして、すぐ無茶をして、書類仕事の苦手な——あの『先生』がそこにいた。気のせいじゃない。すぐに元の『今の先生』に戻ってしまったけど、きっといた。何で今まで気付かなかったのかはわからない。どんなご都合主義が働いて、今会えたのかもわからない。でも、そんなことはどうでもよかった。『先生』に会えたことは、予想していたのより、ずっとずっと嬉しかった。
「先生、また来なねー!」
「来るけど、今度はおじさん、あんまりいじめないでね〜」
「それじゃ、ホシノ先輩。また☆」
——「あなた」が『先生』を連れてきてくれたんだね。『先生』と一緒に、私が思いつきもしなかった、こんなにささいな願いを叶えるために。
夫婦のようにして、二人は行ってしまった。その姿を見ながら、私はこの世界に、これ以上望むものなんてないな、と思っていた。