【ダイジェスト版】「助けてノノえもん!」シーズン1〜3 作:春画屋@二次創作R18
「ふんふふんふふ~ん♪」
今日もアビドス高等学校は平和なようです。私、
「ノノミ先輩!」
「アヤネちゃん。どこか、ご用事ですか?」
「はい。図書館にちょっと資料を探しに……。あ、先生、来てらっしゃいますよ」
「そうなんですか? ふふっ、それはいいタイミングで来ちゃいました☆」
「今は他に誰も居ませんから、二人っきりになれますよ。よかったですね、ノノミ先輩」
「もうっ、からかわないでください!」
そんなに先生と二人きりの時の私は嬉しそうなのでしょうか? アヤネちゃんだけでなく、他のみんなにも言われてしまいます。でもそれは、しょうがないですね。先生が来ていると聞いただけで、こんなにはしゃいだ気分になってしまうんですから♪
教室に着いた私は、元気よくドアを開けます。
「せんせー! ノノミ、来ました!」
「あ、ノノミ」
そこにはアヤネちゃんが言った通り、先生が。こちらを振り向いた先生は、重そうな書類の束を抱えています。そして、机の上には書類の山。整理している最中だったのでしょうか?
「よし、ノノミが来たんなら終わりにして、少し休憩にするか。んっ……」
先生は書類を机に置くと、少し伸びをしました。また身体をほぐしてあげた方がいいでしょうか? すぐ無理をしてしまう方ですから。
「先生、お片付けなんてそんな、せっかく来てくださったのに……」
「暇だと落ち着かないんだよ」
「それにしたって、シャーレのお仕事もあるんですから。でも、ありがとうございます☆ それじゃ、コーヒー
「ん、ありがとう、ノノミ」
教室のコーヒーメーカーは、少し古いかも知れませんね。今度お買い物に行った時に、見てみましょうか。先生はミルクと、砂糖は二つでしたね。確か、少し甘い方がお好きだったはずです☆
さて、淹れたコーヒーを飲みながら先生と休憩です。ふふっ、誰も来る様子はありませんし、今日も二人だけでゆっくりお話が出来ちゃいますね……♪
「あ、あの、先生? 今日の調子はいかがでしょう? 昨日はちゃんとお休みに……?」
そう聞きながら、何だかもじもじしてしまいます。いつも聞いていることなのに、やっぱり何だか恥ずかしいですね☆
「ああ、今日の調子? うーん……少し寝不足かなあ」
「あまりよく寝られなかったんですか? また、お仕事でしょうか」
「仕事も遅くまでやってたんだけどね。フォローしてる絵師さんの新着通知が来てたから、つい寝る前にチェックしちゃって、それでせっかくだから寝る前に一回スッキリしておくかーってネットで画像を漁り始めて、気付いたら明け方……って感じ、かな?」
「まあ……何だかお身体が心配ですが……。ところで画像って、またエッチな画像ですか? 本当にそういうの、お好きなんですね☆」
「そりゃ、健康な成人男性だしね? しょうがないっていうか」
「うんうん、いいと思います。私、エッチな男の人って好きです!」
「いや、そこまで話を合わせなくても……」
「本当のことですよ☆」
大人の男性なんだから当然、ということもありますが、話を聞いていると何だか、大人なのにちょっと子供みたいで……男の人っていうよりエッチな男の子って感じがして、可愛らしいと思ってしまいます。甘えさせてあげたり、して欲しいことを何でもしてあげたくなっちゃいます☆
「ちなみに、どういう女の子がお好きなんですか? みんなアニメとか、ゲームのキャラなんですよね?」
「とりあえず、胸が大きい子かな」
「やっぱり、そうですよね。わ、私も一応それは、それなりに自信があるのですが……どうでしょう……?」
「うん。ちょうどノノミみたいに大きい子……そういえばノノミの画像、好きみたいだよ、『
「本当ですか⁉︎ 嬉しいです! あっ、でも、生活のこととか、こういった話を勝手に聞いてしまうのはまずいでしょうか? やっぱり、嫌われてしまいますか……?」
「別に気にしなさそうっていうか、『彼』は自分で説明する手間が省けていい、とか言うタイプだからなあ。一応、「見る」のは私がいいって言った時だけにした方がいいと思うけど」
『彼』——キヴォトスの外の、そのさらに外。こことは全く別の世界に居るという『あの人』のことは、私と先生だけの秘密です。二人きりの時にしか『あの人』の話は聞けません。だから、こうして今日のあの人の話を聞けるだけで嬉しくなってしまいます。あの人のことなら何でも知りたくなってしまうんです☆
「それにしても、やっぱりブルアカのキャラの画像、好きだよなあ、『彼』。こっちの子たちが知ったらみんな微妙な気分になりそうな……。キャラ関係ない、シチュ系の画像とかならともかく。あ、それも普通はダメか」
「シチュ……ですか? 他にもいろいろあるんです?」
「そうだね。特定のキャラじゃなくても、スーツみたいにかちっとした服装の子の画像とか、そういう子がシャツのボタン三つか四つ外してはだけてる画像とか、胸の谷間が見えてるところの画像とか。それから、服を着替えているところなんかも……」
「??? えっと、よくわからないのですが……。服が重要、と言うことでしょうか?」
「服も重要だけど、恥じらってるか恥じらってないかでも全然違うし、人によっては嫌な顔をされてるのがいいっていうのもあるし、難しいところだね。本人がここにいたら喜んで語ってくれると思うんだけど」
「嫌な顔をされるのがいい、というのもあるんですか? 奥が深いんですねえ。私も少し勉強してみた方が良いのでしょうか」
「ノノミの場合は、それだけ胸が大きかったら彼的には何も問題ないんじゃないかな。あとは、ママーって呼ばれても怒らないこと」
「あっ、それは自信あります! 私も甘えて欲しいです!」
うんうん、服装も大事みたいですが、育児書を読んでみるのも良さそうですね☆
「私はとにかく、ヒナとかイオリとかちっちゃい子が好きなんだけどなあ。自分と身長差がある相手がいいというか何というか、こう——」
「先生のそういうお話はあまり聞きたくないので、結構です☆」
「ええっ⁉︎ 酷い!」
「それに、そういうのは最近ホシノ先輩が警戒してるので、ほどほどにしてくださいね☆」
「嘘っ⁉︎ 警戒されてんの⁉︎」
「だって先生、視線とか結構露骨ですよ? ホシノ先輩はあまりそういうのは気にしませんけど……」
「知らなかった……。気をつけよう」
先生は、ホシノ先輩みたいな——他の学園の子はよくわかりませんが——ああいう女の子が好みのようです。『あの人』は、実際に自分が付き合うとしたらどんな女性が好みなんでしょう? 大人ですから、付き合っている女性とはエッチなこともちゃんと最後までしたいでしょうし……。年下の、私みたいなまだ子供でも、相手にしてもらえるでしょうか? やっぱり、
「黙っちゃったけど、また彼のことを考えてるのかな?」
「え? あ、いえっ、そのっ、べ、別にあの人のことばかり考えているわけでは……」
「はは、顔に出てるよ、好きな人のことしか頭にないって」
「そ、そうでしたか? でも、あの人はすぐ無理をしてしまうので、疲れていないか、怪我したり病気になっていたりしないか、毎日心配になってしまって……」
「前はそれと同じようなことを言って、私の心配をしてくれたのにねー。流石に寂しいというか、ちょっと嫉妬——」
「先生はいいんです! 先生には他の子がいっぱいいるんですから、そっちに心配してもらってください。それに、わかっているのに反省しないのは、自業自得ですよ!」
「すいません! はぁ……ノノミにこんなに厳しいことを言われる「先生」なんて、無限に存在する『ブルーアーカイブ』の中でも私だけじゃないかなあ……」
「無限に存在する『ブルーアーカイブ』……ですか」
先生は、『あの人』の存在を見つけてしまった私だけに、特別にこの世界の成り立ちを教えてくれました。私たちの住むこの『キヴォトス』だけでなく、先生が来たという『キヴォトスの外』まで含めた世界全体を、『ブルーアーカイブ』と呼ぶのだそうです。そして、『あの人』はこの世界の住人ではなく、『現実世界』——この世界を「ゲームの中」として観測することから、そう呼ぶのだそうです——の『日本』という国に住んでいる人で、この『ブルーアーカイブ』のプレイヤーなのだと教えてくれました。
『ブルーアーカイブ』は、ゲームとしてそれをプレイしているプレイヤーの数だけ、いえ、理論上は無限に存在する世界なのだそうです。そして、プレイヤーの分身であり、主人公でもある「先生」や、別世界の私たちである「生徒」も、その数だけ存在するそうです。ですから、『
しかし、どれだけ密接で不可分な関係であっても、私とあの人の人生は交わることはありません。別々の世界に生きる私たちが出会う事は、
もちろん、私が『あの人』の存在に気付いたのも本来はあり得ないことです。何故そんなことになったのかは先生にもわからないそうです。ですから、私が先生を通じてあの人を「見る」ことが出来ることも、私の存在自体もあの人は知りません。『現実世界』の人は私たちを、全ての『ブルーアーカイブ』に共通して描かれる、ゲームのキャラとしてしか知りません。あの人は、『ブルーアーカイブ』の『十六夜ノノミ』は知っていても、今ここにいる「私」を知る事はないのです。どんなに私があの人のことを想っていても、永遠に。
「プレイヤーのことを知っていて、好きになってしまったキャラがいる『ブルーアーカイブ』なんていうのも、きっとここ一つだけですよね☆ ずっと片想いですけど……あはは」
「ノノミ、私たちはゲームの中のキャラなんかじゃないよ。彼らの住む世界とは少しばかり世界の構造や成り立ちが違って、向こうからは「ゲーム」という概念を通じてしか観測できないだけなんだ。便宜上『現実世界』と呼んでいるけど、あちらの世界もこちらと大差はないし……」
世界というものはどこも、その世界で信じられているほどに「現実的」ではないそうです。あちらの世界でも、説明は出来ても感じることは出来ないことはたくさんあるのだとか。死後の世界、輪廻転生、魂と肉体……そういった、もともと科学の範疇にない神秘だけではないのです。特殊な状況、場においては、有と無が同時に存在したり、時間が伸び縮みしたり……理論上はあり得ても、感じることも、信じることも出来ない現象は『現実世界』にいくらでもあるそうです。
この世界における『シャーレの先生』も、似たところがあるそうです。「先生」の周りでは、まだ解明されていない『ブルーアーカイブ』の法則に従って、不思議な現象がいくつも起きます。ですがそれは、私のように既に知っている人間は別として、気付くことの出来る人間はほぼ居ないそうです。何かヒントや手がかりがあれば、頭のいい人なら理屈ぐらいはわかるかも知れませんが、それでも感じることも事実だと信じることもおそらく出来ないだろう、先生はそう言っていました。
何故なら「先生」は個人としての誰かではないからです。『シャーレの先生』は人の姿をとってはいますが、本質的にはこの世界、つまり『ブルーアーカイブ』そのものの一部であり、構成要素の中でも一番重要な
「——とまあ、そういったこと自体は紛れもない事実なんだ。だったらノノミは、『先生』である私を——
「思いません。先生は『キヴォトスの外』から来た「大人」で、他の世界と繋がっていたり、少し周りで不思議なことが起きるかも知れません。でも、私たちと同じ人間です。私の大事な『先生』です」
「ありがとう、ノノミ。言ってみれば、みんな同じなんだ。キャラや設定という枠組み、肉体という器、形は違っても、そこに宿る我々自身はみんな等価値だ。私はそう考える。特殊概念であるとか一種の特異現象であるとか、『シャーレの先生』というのはいろんなアプローチが出来る存在だから、もし黒服やヒマリあたりが一つ上から観測出来たら、面白い解釈をしてくれるかもしれないけど」
「難しいお話ですね……」
「ただの哲学だよ。趣味というか、私は個人的にこういう話が好きなだけで。生きていく上では、物事は難しくとらえず、シンプルに考えていいんだ。特に「彼」なんかは極端だから、こういう理屈はよくわからないとか言って、全部聞き流してしまいそう……ああ、胸を触ってから、「この感触は、本物のノノミだ!」とか言いそう」
「ふふっ。それ、何だかあの人らしくていいですね☆」
「そう思えるほどに、ノノミは彼のことをよく知っているんだね」
「そうですね。会ったこともなくて、これからも会うことはないのに、何だか不思議な気分です☆」
私はクスクス笑ってしまいます。それを見る先生も、いつものように優しく微笑んでいます。そうですね、もし会うことが出来たら、彼はどう思うでしょう。目の前にいるのが、ゲームのキャラとして知っている『十六夜ノノミ』だって信じてくれるでしょうか。「エッチなことが出来れば何でもいいよ!」なんて言いそうですね☆ そんなことを想像してみるだけで楽しくなっちゃいます♪ もし会えたら、どんなことをして差し上げましょう、どんなことをさせてあげましょう……♡ なんて☆
「会ったことがなくても、芽生える気持ちはある。確かに、ずっと片想いのままかもしれない。それでも、本当の恋をすることが出来た生徒がいるこの『ブルーアーカイブ』を、私は誇らしく思うよ。ありがとう、ノノミ」
「そんな! 私の方こそ先生にいろんなことを教えていただいて……! でも、これは本当に、恋、なのでしょうか? 一度も会うこともなく……」
「そうだね。もしかしたら違うのかもしれない。私にもわからない。きっと、実際に会ってノノミ自身が確かめないとわからないことなんだろうね」
「はい……」
先生はいつも、「私も実際にはしたことがないんだけど」と前置きをしてからこう言います。恋愛というのは一人では出来ないもので、二人で同じ時間を共有し、一緒にいることで作りあげていくものなのだと。だったら本当は、この想いは無駄なのでしょうか。別々の世界で暮らし、会うことも出来ず、存在を知ってもらうことすらできない、私のこの想いは……
「でも、きっと会えるよ」
「え?」
「先のことは誰にもわからない。ノノミが、別の世界の人間を知ることが出来た。感じることが出来た。そして、好きになることが出来た。そんな奇跡が起きた『ブルーアーカイブ』なら、何が起きてもおかしくない。なら、いつかきっと彼と会うことも出来る。私はそう思うよ」
「はい」
「だから、いつ彼に会っても大丈夫なように、ノノミもいつも心の準備をしておかないとね」
「……はい!」
先生は、こうやって私を勇気づけてくれます。先生だって、何かに絶対の保証をすることは出来ません。それでも、私のこうした想いが無駄ではないと、それを持つこと自体が良いことなのだと教えてくれます。その意味を教えてくれるのです。
少し迷ってから、私は思い切ってずっと気になっていたことを聞いてみることにしました。
「あ、あのっ、先生! その、あの人には今、恋人ですとか、好きな人なんかは居るんでしょうか。もちろん、結構モテる方なのは知っているのですが……先生? あら、先生? あの、何でそんな答えにくそうな顔を……?」
「…………」
「な、何か私、聞いてはいけないことを聞いてしまったでしょうか? やっぱり今も、誰か素敵な女性が……」
「いや、フリーだよ? フリーだから、付き合うとかそういうのじゃなくて、ちょっと手を出してるだけ。職場の子に」
「…………」
「…………」
「えっと……職場に居づらくならないといいですね☆」
「そこはほら、彼、そういう立ち回り上手いから」
先生は、あはは、と乾いた笑いをします。モテる方というのは、お付き合いするつもりがない女性ともエッチしてしまうものなのでしょうか。そこが気になるのですが、それは先生もいつも答えてくれません。
「でも、今はいないんですか? 確か少し前に……」
「それ、この前二股をかけてたのがバレて両方に振られたんだよね」
「…………あっ、なるほど☆」
「うん、本人はね、片方は浮気のつもりだったんだけどね?」
「ふふっ、あの人らしいですね!」
「でしょう? 大人っていろいろあるしね? 彼も大変っていうか。こっ、この話、そろそろやめようか! アロナー⁉︎ 彼、まだ帰ってこない⁉︎」
先生は机の上に置いてあったタブレット端末『シッテムの箱』を手に取り、アロナちゃんを呼び出しました。先生はこういう話になると毎回こうやって誤魔化します。どんな素敵な人であっても、あの人の恋人や結婚相手になる女性がとても大変なのは、私にも少しわかって来ました。人生って大変なんですね! うんうん☆
こんにちわ、先生! と元気よくディスプレイに現れたアロナちゃんが、私を見て少しビクッとしました。シッテムの箱のこと、そしてその中にいるメインOSのアロナちゃんのことは、基本的に生徒のみんなは知らないからです。そういえば、アロナちゃんとシッテムの箱の関係も、先生とこの世界の関係に似ているかもしれませんね。
「すみません、ノノミさん。先生だけかと思ったので、つい……」
「別に気にしてませんから、大丈夫ですよ☆ アロナちゃん」
「アロナ、今日のカフェの生徒一覧、スケジュールの配置リストをお願い」
「はい!」
「プレイヤー」であるあの人がゲームにログインした時に備えて、先生は生徒のみんなの居場所のチェックを始めます。
「メグにカンナにサクラコに……。ん、ナギサも実装されたか……ミカは確か……。うーん、トリニティはやっぱり厳しいか……」
「シャーレに所属の子もだいぶ増えましたねえ。『シャーレの先生』には距離ですとか移動時間なんかは関係ないそうですけど、皆さんと会う時間だけでも大変なのでは……」
「そうだね。同じ時間を過ごしても、私はみんなの何倍も動いているから疲れやすいし。でも、出来るだけ多くの子と交流してあげないといけないし、何の制限もないわけじゃないしね」
「大丈夫ですよ、先生! 毎回きちんと、フォローしてあげないといけない生徒さんを選んでくれているじゃないですか!」
「そうだね。それにちゃんと毎日ログインしてくれるし。向こうも立派な先生で助かるよ。私は基本的に誰にでも会いに行けるけど、彼が決めてくれないと行けないから」
シャーレの先生、なんて言ったって、無力なんだよなあ……そう小さくぼやいたのを聞いてしまいました。先生は、万能ではありません。先生にも出来ないことはたくさんあります。それでも先生は、生徒のために出来ることは何でも、精一杯やってくれます。そして、きっと全て何とかしてくれる……生徒はみんなそう信じられる。だって先生は、『ブルーアーカイブ』の『先生』なのですから。
「えーと、あとレポートが必要な子に、足りないオーパーツ……あー、もう、何でブルーアーカイブってこんなにややこしいんだ⁉︎ スキップチケットかなんか使って、戦闘すっ飛ばせないかなあ!」
「先生、落ち着いて。あんまりイライラしちゃダメですよ☆」
「そうですよ。ノノミさんもいますし、別に今やらなくても……あ! 誰か来ました!」
アロナちゃんが隠れると同時に、先生がシッテムの箱の電源を切りました。ホシノ先輩が来たみたいです。いつものように、のんびりした顔であくびをしています。
「あれ〜? 先生来てたんだ〜。って、ノノミちゃんと二人だったの? うへ〜、おじさんお邪魔しちゃったかな〜?」
「もう、ホシノ先輩まで。別に先生は私とそういうのでは……」
「ホシノ、眠そうだね」
ま〜ね〜、と答えて、ホシノ先輩はお昼寝をすると言って教室を出て行ってしまいました。やはり、あんまり先生と二人きりでいるのが多いのはまずいのでしょうか。本当に誤解されてしまいます。
「ホシノ……お昼寝……寝顔見に行ったらダメかなあ。あと写真も撮って……」
「先生、女の子の寝ている姿なんて見ちゃダメです! 本当に嫌われちゃいますよ!」
「疲れてるんだよぅ! ちっちゃい子が無防備にあどけない顔で寝てるところ見たい! 写真に撮って保存したい!」
先生は素晴らしい方なのですが、こういう時だけちょっと心配になってしまいます。あの人のようにエッチすぎるのも人によっては問題なのかもですが、先生の場合、変質し……いえ、これ以上は考えないことにしましょう☆
と、いけません! ホシノ先輩が戻って来てしまったようで……いえ、激しい音をたてて扉を開けて入って来たのは、セリカちゃん——?
「先生、来てるんだよね⁉︎ アヤネがヘルメット団が襲撃に来たって! 指揮取ってくれる⁉︎」
「セリカちゃん、そんなに慌てちゃダメだよ〜。シロコちゃんは先に向かっているっていうし、ゆっくり落ち着いて行こ〜」
「ホシノ先輩は、いっつもそうやってのんびり!」
「ん〜、おじさんこれからお昼寝しようと思ってたんだよねえ。まあ、大丈夫、大丈夫〜」
そう言ってまだあくびをしていても、ホシノ先輩はしっかりショットガンにシールドを装備して、出撃する準備は万端です。セリカちゃんももちろん、ちゃんとサブマシンガンを携帯しています。
「んじゃ、先生。私たちは先に行ってるから、のんびりついてきてね〜」
「のんびりじゃダメでしょ! 先生、私たちは先に行ってるから!」
そう言って、セリカちゃんは相変わらずなホシノ先輩と行ってしまいました。遅れてはいけません。私も教室の壁にかけておいた、無骨なミニガンを手に取ります。大型マシンガンは私の力でもズシリと重く、金属の表面は冷たくひんやりしています。これから戦闘に行くのだと思うと、私の心はそれに集中していきます。
「先生!」
「わかってる! アロナ、戦闘予定区域の地形データの収集と、弾薬、補給物資の確認。それから、みんなのパラメータ、スキル、ヘルメット団の方は識別データその他!」
「はい、先生! 戦闘区域到達までに完了しておきます!」
——ったく、メインストーリーに絡まなくてもこれなんだから、やっぱり恋愛どころじゃないんだよな……
出撃しようとする私の後ろで、先生がそんなことをつぶやくのが聞こえました。そう。平和な日本で暮らすあの人がこのキヴォトスに来ることは、それだけで不幸なことかも知れません。先生と同じで、少なくともあの人には私たちと違ってヘイローはなく、一歩間違えればすぐに死んでしまう世界なのですから。
「ノノミ。『ブルーアーカイブ』というものには本来、恋愛というものはないと教えたね? 少なくとも『メインストーリー』上には用意されていないし、『シャーレの先生』への想いは絶対に叶わない。
「『メインストーリー』の進行の妨げになるから……ですか? そして、『メインストーリー』を進めるための存在である『シャーレの先生』も、自分の意思とは関係なく、進行を妨げるような行動を取ることは出来ない……」
「うん。おそらく世界は
私は、はい、と力強く
「私がいつも言っていること、覚えているよね? それを守るのは、ノノミが考えているよりずっと難しいかもしれない。それでも大丈夫だね?」
「……私、先生といる時の穏やかな時間が好きです。でも、あの人のことを考えると、ドキドキするんです。ワクワクするんです。一目会って話をするだけでも嬉しいって、そう思うんです。だから、大丈夫です!」
「いい答えだね! じゃあ、今日やるべきことをやりに行こう!」
「はい! 先生!」
そう言って私は先生と走り出しました。先生が言うのなら、いつか本当にあの人に会えるかもしれない、そんな希望を胸に。いつか来るかも知れない未来のために。今を生きるために。
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今日もアビドス高等学校は平和です。対策委員会のみんなが来る予定はないので、教室に先生と二人きりです。あの人は最近、少し荒れ気味だそうです。お仕事は相変わらずきついようですが、それ以外にもいろいろと忙しかったり、つらいことがあるそうです。心配です。やっぱり先生に聞いてみることにしましょう。
「あの、先生。……先生?」
「……『後日談』……『最終編』が全て……『大人のカード』を……今なら……」
「先生? 最終編、ですか? それは何の……?」
先生は目を閉じて、難しい顔で何か
それから先生は私の方を向いて、いつものように優しい笑みを浮かべました。
「ノノミ、聞かれたらみんなに伝えて。私はみんなを置いていくわけじゃないって。少し形が変わったとしても……みんなと一緒に……見守って……るか……。……れから、彼を信じ……。任せ……上手くいく……。……忘れずに……」
「先生、お声が……? 何ておっしゃって……」
先生の言葉は途中から途切れてしまい、全ては聞き取れませんでした。目の前が少しチカチカします。それから、身体が少し歪んだような不思議な感じ。そして——
何分か、何時間かが過ぎて……いえ、一瞬だったのかもしれません。何かが起きて……いえ、何か起きたでしょうか? おかしいですね。先生が何か言っていたような……。
あら? 先生はさっきまで大事な『シッテムの箱』を手に持っていたような。今は持っていませんが、教室の中にも見当たらないようですし……。どこかに置きっぱなしなのでしょうか? それに、どうしたんでしょう?
「どうなさいましたか、先生? そんなに驚いたお顔をして……」
先生はその質問には答えず、私の胸をじっと見ています。珍しいですね、先生が私の胸を、こんな風にちょっとエッチな目で見るのは。先生は何かを納得した様子で、私の肩をつかんで言いました。
「ノノミ、落ち着いて聞いてくれ」
「はい、どうしました? 先生」
「俺はこの世界の人間ではないんだ。メタ的な意味で」
「え? メタ……?」
「だから、いつここからいなくなってしまうかわからない。消えてしまうかもしれない。そもそもこれは、俺の願望が具現化されたただの夢なのかもしれない」
「えっと……?」
何を言ってるのかちょっとわかりませんが、先生は混乱して、動揺しているようです。まずは落ち着いてもらわないと。
「ああ、なるほど。うんうん、そうなんですね☆」
一度話を合わせようと、私は笑顔を作ります。そんな私に先生は、必死な顔で……
「だから、頼みがあるんだ。ノノミにエッチなことをさせてくれ!」
「は……?」
……エッチなこと⁉︎
エッチなこと? 先生が、私に? あまりに予想外の発言に、私は固まってしまいました。先生はちょっと変わった方ですが、いきなりこういうことを言い出す人では……。って、あら? この世界の人間ではない? エッチなことがしたい? それって……それってもしかして……でも、そんなはずは……。いえ、間違いありません。流石に、本当に初対面でこんなことを言うとは思ってもみませんでしたが、あの人ならあり得ます。そして、あの人しかいません。そう、
「頼むっ! それだけが心残りなんだ! でないと成仏できないんだ! 夢からさめるわけにはいかないんだ! 少しだけでいいんだ!」
「だ、大丈夫ですよ、先生。大丈夫です。よく分かりましたので」
「わかるのか?」
もちろん、わかります! 言われてみれば、確かに『先生』とは少しだけ雰囲気が違うみたいです。本当に会えるなんて……! こんなに私の想像通りの人だなんて思わなくて、ちょっとだけびっくりしてしまいました☆ 少しの違和感はいつのまにか消えてしまい、もう先生はいつも通りの先生にしか見えません。それでも、あなたが
「エッチなことがしたいんですよね? うんうん、構いませんよ☆」
「そっ、そうか!」
——『先生』、言われたことも、教えていただいたことも、全て覚えています。言いつけをきちんと守ります。好きな人に、大事なことを全て教えてあげられないのは心苦しいですけど……。
「先生はだいぶお疲れなんですよね。私にエッチなことをして癒された後は、ぐっすりお休みになるとよろしいかと〜☆」
「……うん、そうだな」