【ダイジェスト版】「助けてノノえもん!」シーズン1〜3 作:春画屋@二次創作R18
設定の説明とか多めです。
約8500字。
「ヒナ、いるかー?」
「あ、先生。どうぞ中に入って」
部屋に入った先生はあくびをしながら、
「ヒナは最近、働きすぎてないかー? 俺は働きすぎで眠い」
「私も気をつけているのだけど、つい……」
「んじゃ、寝るかー」
「そうね」
「枕、新しいのを買ったのよ」「そうなのか」などと少し会話をすると、二人はすぐに寝てしまった。
一時間半ほどが経ち——
「あー、よく寝た……ヒナ、起きたか?」
「ふぁ……うん。ぐっすり寝て、疲れも取れたみたい。やっぱり少し働きすぎだったかしら。あの、先生、「アレ」を作るのはやっぱりやめてしまったの?」
「「アレ」って……俺が直々に声を吹き込んで作ることになってた『先生ASMR』のことか?」
「そう。安眠できそうだと思ったのだけど」
ヒナに聞こえないよう小さく、自分の声のASMRだとかどっからそんなキチガイじみた発想が出てきたんだろう……と
現在『シャーレの先生』をやっている彼が、以前の自分——要するにそれが『前の先生』なわけだが——への印象を生徒たちに聞いたところ、その評価は真っ二つに分かれた。いわく、「真面目で立派で優しくて、書類仕事が苦手だったりすぐ無茶をするけれど、とにかく理想的な先生」。いわく、「ヤバい。とにかくヤバい。性癖が特殊過ぎて引く。通報した方がいいかも知れない」。両極端すぎて、もはや同じ人間のことを言っているとは思えない。
最近の彼の一番の心配ごとは、前者のイメージしか持っていない生徒に後者のことがバレることだ。なまじ憧れていたりしたら、ドン引きするのは間違いないとして、下手したら泣くかも知れない。それでその変態から距離を取るようになるのはいいことだけどな、と。
ヒナからこの『先生ASMR』のことを聞いた時も、彼はめまいがして倒れそうになった。自分の声で、しかもそれをASMRにして生徒を寝かしつけようとは、それも何かの特殊性癖なのか。人気声優気取りかよ。そんなもん作りたいなら、せめて自分で作ってからどっかに行け。誰が書いたのか台本も用意され、エンジニア部やらヴェリタスやらも乗っかってきて、高音質な専用プレイヤーまで作ろうとしていたのを必死で止めた時の悪夢が蘇ってくる。何がよしよし、ナデナデだ。
「いやな? それを作るとか言い出した時の俺は、ちょっとどうかしてたんだと思うんだよ。ほら、こうやって一緒に寝た方がヒナもぐっすり眠れるみたいだし。……それ作ろうって言い出した頃、俺に何かされた覚えとかないよな?」
「? 別にないけど……え? それ、先生の話よね?」
「ないならいいんだ。なに、俺は疲れると奇行に走ったりするから一応聞いただけだ」
とりあえず、ヒナにその変態からの直接的な被害はなさそうで良かった……と胸を撫で下ろす。『先生ASMR』などというものを欲しがる時点で何か調教でもされたのかと心配したが、一応純粋に
「んじゃ、俺は帰るから」
「また来てね」
そんなわけで、来て即二人して昼寝を始め、起きた後もそれだけで先生は帰ってしまった。毎回こうなので、ヒナも慣れた様子だ。
見送るヒナのスマホが鳴った。名前を見ると、
「誰……?
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「一応連絡先は教えていたけど、まさかあなたから呼び出されるとは思わなかった」
「いきなりごめんね〜。何かまずかったりした?」
「いえ、今は特に何も起きていないし……」
呼び出されたヒナは、ホシノと二人でD.U.の喫茶店に来ていた。
「空崎さんて……あ、「ヒナちゃん」とか呼んだ方がいい?」
「ヒ、ヒナちゃ……? べ、別に構わないけれど……いえ、ごめんなさい。ちょっとそれは」
「そっかー。おじさんのことは「ホシノちゃん」って呼んでもらおうかと思ったんだけどな〜」
「ホシノちゃんって……。ま、まあ善処する……わ」
「空崎さんって、先生とは仲良いの?」
「先生って、先生、よね? 別に悪くはないし、いい方だと思うけど。なぜ?」
「いや〜、もしかして隠れて先生と付き合ってたりするかな〜とか」
「ごふっ! け、けほっ……! つ、つ、付き合う⁉︎」
「あはは〜。流石にそれはないか〜」
せき込むヒナを前に、ホシノはのん気そうに笑っていた。
「冗談冗談。じゃあ、結構会ったりしてる?」
「そうね……。先生は風紀委員会とか他の部活もあるし、ゲヘナにはよく来るみたいね。私のところにも個人的に……べ、別にそれは、付き合うとかそういうのじゃないけど」
「そうなんだ。来て何してんの? 遊びに来るだけ?」
「来て、昼寝してるわ。私と二人で」
「は? 昼寝?」
「昼寝が終わると帰るわね。今日も……」
「待って。昼寝だけして帰るの?」
「こっちに来る時は、ほとんどそう。少ししゃべったりはするけど」
「何してんの、あの先生」
ツッコミを入れつつも、「まあ、あの先生だからなあ」で片付ける。彼がおかしな行動を取るのはいつものことだ。
「ヒナちゃんはそれでいいの? そんな、来たのに寝るだけって」
「助かってるわ。私は休むのが下手だから、寝不足になることが多くて。しっかり寝て休んでいるつもりの時も、先生が来る時にはやっぱりすぐ寝てしまうし。先生は自分も疲れている時が多いし、私のところで寝る時間を確保出来ると丁度いいって」
「酷い理由だなあ……」
「それに先生と一緒に寝ると安心して、いつもよりよく眠れるっていうか、癒され……あ」
「は⁉︎ 一緒に寝てんの⁉︎」
「いや、違う。今のはなしで」
「何かされてない⁉︎」
「先生の話よね? 先生って私に何かするような人だと思われてるの?」
閑話休題。
「添い寝はやっぱりまずいのかしら……?」
「いや、お互い何も意識するところがないなら、うん」
とりあえずあの先生の場合、自分が何かしてしまいそうな相手ならそもそも添い寝自体しないだろう、ホシノはそう判断した。あんまり深く考えたくなかったというのもある。
「まあ、私もお昼寝は好きだしね〜。先生と添い寝かあ。ゲヘナの風紀委員長さんも、結構可愛いところあるんだ」
「や、やめて……。言われるとどんどん恥ずかしくなる。口がすべった……」
「いや、確かにあの先生、能天気というか何にも考えてなさそうっていうか、癒されると言えば癒されるし……あ、これ一応、悪口じゃなくて褒めてるつもりなんだけど」
「わかるわ。先生の顔を見ると何だか安心する。平和なんだなって」
そう言ってから、ヒナの顔が少し引き締まり、真剣なものになった。
「そろそろ本題に入りましょう、
「本題? って、何?」
「アビドス対策委員会の委員長のあなたが、ゲヘナ風紀委員長の私を一人で呼び出して、何もないってことはないでしょう? 順調すぎるほど順調とはいえ、今はエデン条約の調印式も控えている。でも安心して欲しいのだけど、風紀委員会は現在、アビドスに対して敵意は持っていない。むしろ、何かあれば協力体制——」
「いや? おじさん、ヒナちゃんと先生の話でもしながら、仲良くなりたいな〜なんて思ったぐらいで」
「本当に?」
「そうだねー。しいて言えばさっきの話……今後もあの先生がボケボケ〜っとしていられたらいいなあ、っていうか、あの人がマジな顔しなきゃいけないようなことが起きたり、しんどそうな顔してるのを見るのはやだなあって。ヒナちゃんも、私と同じように考えてたらいいなあ、ってのを確認しに来たぐらい?」
「? だから、そうなるかもしれない何かがあるってことなんじゃ……」
「逆なんだよね〜。あの人がのん気にしていられる内は、何も起きないっていうか。ま、こんな言い方じゃわかんないだろうけど」
「…………?」
この『ブルーアーカイブ』世界は、本来は『現実世界』のプレイヤーでありこの世界に来て『先生』となった人物の、潜在的な願望と連動するような形で、彼に「都合よく」動いている——正確に言えば世界が変わっているというよりは、「彼」を主人公とした「物語」が書きかわっている——。その為、彼が平和な展開を望む限り、ブルーアーカイブの『メインストーリー』は改変され、そこで起きる事象を抑え込むことが出来る。
彼が平和な展開を望み続けられるよう、彼の中のゲーム『ブルーアーカイブ』の記憶の大部分は、本人の了解のもと消去されている。それを知り、維持しようとしている数少ない内の一人が小鳥遊ホシノである。この事実を多くの人間が知ることは、彼——つまり先生——の記憶をいたずらに刺激することになるだろうと判断し、ホシノは情報を口にするときも最小限で済ませようと心がけているのだが……
——そもそもあの先生のせいで、この世界が先生が都合よく女の子たちとエッチしまくる、「エロゲーの世界観」になってるとか言いたくないんだよね……。潜在的にしても、もうちょっとマシな願望持てなかったかなー。ゲヘナの風紀委員長さん、あんまりそういう話に免疫なさそうだし。思ってた以上にあの先生のこと美化してるみたいだし。
こう思うのもいたしかたない。
「ところで変な話だけど、連邦生徒会長が居なくなったことってあったっけ? 覚えてる?」
「『連邦生徒会長』? すぐに思い出せる範囲ではなかったと思うけれど……正式に代行を置くにしても、連邦生徒会長が居ないとなればニュースにはなるだろうし。そんなこと、あった?」
「だよね。連邦生徒会長がいきなり居なくなったりしたら、混乱が起きて大変なことになる。そんなことが起きていたら、流石に覚えているはずだと思うんだけど」
「連邦生徒会長が……そう、思い出した。そんなことが一度あったような気がする。ただ、そんなに大ごとにはならなかったような……。いつのことだったかしら。あれは……先生がキヴォトスに来た頃? いえ、何かおかしい。記憶が曖昧でよく思い出せない。そもそも何で、これ程までに完全に忘れてた……?」
ヒナは
「じゃあさ、一時期いなかったとして、連邦生徒会長はその後いつ帰ってきたと思う? その辺私も全然思い出せなくて、一応調べてみたんだよね。そうしたら全然記録には残ってないし、いつの間にか
「いたことになっている? それはどういう……」
現在このキヴォトスには、『メインストーリー』の開始時には既に失踪していたはずの『連邦生徒会長』が存在している。——ただし、単なる「概念」として。
このブルーアーカイブ世界の構造について、以前に
厳密に言えば、『現実世界』と同じく「縦×横×高さ」に、過去から現在を経由して未来へと続く時間軸を加えた、異世界としての『ブルーアーカイブ』は、言わばプログラム言語によって記述された四次元空間のようなものであり、ゲームそのものとはかなり違う構造を持つ。
しかし、そのような情報を書き込む……上の例で言えば、プレイヤーが読めるような形で連邦生徒会長の存在と行動を書き込めば、連邦生徒会長が
実際はそこまで単純なわけではないが、伝達役である連邦生徒会の
子供
この仕組みを完全に理解する者は、この世界において神に等しき存在である『前の先生』しかいない。当然、小鳥遊ホシノも手がかりをつかんだに過ぎない。しかし彼女は、それ以上追求しようとは思わなかった。
「言っておくけど、調べても何も出てこないよ。何も出てこないし、何もわからない。しいて言えば、連邦生徒会長がいてくれて良かったなあ、っていうぐらい。そうでしょ? いなかったら何が起きてたかわからないし、シャーレも先生も、こんなにのほほんとはしていられなかっただろうし」
「先生と連邦生徒会長の間に、何か関係があるってこと? 確かにシャーレは連邦生徒会長の直轄だけど……」
「調べて私にわかったのはね、連邦生徒会長を
「……その存在が何者なのかを含めて、全てを知った上であなたが出した結論がそれ、って考えていいの?」
「全ては知らないよ。ただ、そう信じられるものを見つけたってだけ。そうしたら、無闇にピリピリするよりも先生と過ごす時間を大事にしないともったいないなって思ってね。さっき聞いた限りでは、ヒナちゃんもそうかな、って思ったけど」
「そう……ね。私は特に、先生に気を
ヒナは先生と昼寝する時のことを思い出す。大きな背中。たくましい身体。いい匂い。安心できる存在感。疲れている時に、ヒナが一番欲しいもの。
先生は、他に用事がなくても自分のためにわざわざゲヘナに来てくれる。そんなに暇を持て余しているわけではない、それぐらい分かっている。自分にとっては、先生がそこにいてくれる、それだけでいいのを分かってくれる。長くは居られなくても、その分まめに来てくれる。こっちの方こそ来てくれるたびに、先生は昼寝だけでいいのかって聞きたくなる。そして自分と一緒に、同じ時間を使って先生も疲れを取ってくれるのを嬉しく思う。
寂しくない、それが自分にとって、どれだけありがたいものか。
「あのさ、さっきも言ったけど、本当にいいの? わざわざ来たのに昼寝だけして帰るとか、先生に何か言っておこうか?」
「いいのよ。私はそれがいいの」
「そっか。ごめん、余計なこと言った」
「構わないわ」
もう一つ。その自分と先生の関係は、自分たち二人しかわからない、そんな秘密を先生と共有した気分になれるのを、ヒナは嬉しいと感じる。
「信用する。それが何かはわからないけれど、あなたが「先生と同じように」信じているものなら、私も信じようと思う。それに私だけじゃなく、イオリやチナツやアコにとっても先生との時間は大切なものだと思うし」
「なら良かった」
「ただ、私はどうしても心配性だから、あなたにいろいろ聞きたくなってしまうかも知れないけど」
「うん。私だって、必要以上にピリピリしないってだけで、最低限の警戒もしないわけじゃないから。そっちからも、何かあったら連絡して欲しい」
「わかった」
そこでヒナは少し考え込んだ。
「……そうね、またこうやって、お茶に誘ってもらえる? 何もなくても普通に、友達として。先生と一緒の時間だけじゃなく、こういう時間も私の息抜きになってくれると思うし。その時は私が
「本当? じゃあ、そうさせてもらおうかな〜。いやー、アビドスはみんな金欠でさー」
あはは、と笑うホシノを見ながら、「こうやって一人友達が出来たなら、それも先生のおかげかしら」、ヒナはそんなことを思った。そして、
「じゃあ、また今度。ホ……えっと……」
「? 何?」
「ホ……ホシノちゃ……ん」
「ごめん、そんな無理しなくていいから」
ホシノは、真っ赤な顔でぷるぷる震えるヒナの肩をポンポンと叩いた。頑張ってみたが、下の名前呼びするのはまだちょっと難しいと実感したヒナであった。
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「んっ……!」
ヒナと別れて一人になったホシノは、伸びをした。そして、こう呟いた。
「本当は自分も気にしないのが一番なんだけどね。ただ、もしかしたら『先生』やノノミちゃんたちだけじゃ、この世界を維持するのはキツいかも、って」
そこで言葉を切って、頭を振った。
「ううん、そうじゃない。余計なことかも知れないけど、こうしていると『先生』の手伝いをしているみたいな気になれるんだ。それで、少しでも力になれたら嬉しいなって。もしこの世界に『先生』が戻ってきて、またちゃんと会えたら、その時に褒めてもらえるといいんだけど」
そう言って照れくさそうにしてから、澄んだ青空を見つめる。
「——今も、どっかから見てる? 先生」
なんて、別に今いる方の先生が嫌なわけじゃないんだけどね、そう小さく呟く。ノノミからこの世界の構造を教えられた時に、それに刺激されたのか蘇ってきた記憶がある。懐かしい人の記憶。
——アビドスで遭難しかけて、シロコちゃんに背負われてきたダメな大人。対策委員会のみんなの指揮を取って、一緒に戦ってくれた人。少し無茶をするから、みんなが心配していた先生。いつもニコニコしながらみんなのことを見守ってくれて、たまに「生徒は可愛いな」とかを通り越して、何か性的な目で見てるような気がしてヤバそうな……あれ?
多少美化してしまっている自覚はあるが、イメージが壊れそうなので最後の部分は考えないようにして、ホシノは『先生』との思い出に思いを馳せた。うんうん、人間、完璧すぎるのも良くないもんね。
不意に、スマホにモモトークが届いた。
「誰? あー、今いる方の先生か。今はこっちの先生のことを考える気分じゃないんだけどなあ」
ブツブツ言いながら、いい感じにひたっていたのを壊されて少し不機嫌そうに、ホシノは届いたモモトークを見た。文面はこうだった。
『おじさん、安眠用に俺の声で作った『先生ASMR』みたいなのがあったら欲しいもん?』
ホシノは即、『そんな気持ち悪いもん、欲しいわけないでしょ。バカなの?』と返信した。
「全く……。あーあ。なーんか、こっちの先生がこういうバカだから『前の先生』が恋しくなるのかなー。ていうか、自分の声でASMR作るとか、どっからそんな発想出てきたの。相変わらずわけわかんないな、あの人は」
そんなわけで今日もキヴォトスは、「そりゃ、いるわけないけどさ。欲しがられても困る、っていうかこっちも軽く引くけどさ。思いついたの、俺じゃなくて『前の先生』なのに」と、今の先生が少しだけ傷ついたりはしたけれど、おおむね平和であったとさ。どっとはらい。