九鬼家極東本部———。川神の地における事業の拠点となる高層ビルは現在、非常に重たい空気に支配されていた。
屋上で手を伸ばせば星空に届く、そう思わせるほどに立派な建造物を、今だけは誰も目にしようとはしない。
ただ事ではない。そう、一般人から見ても分かってしまう程の空気が滲み出ている。
その空気を生み出す原因となっている場所が最上階のオフィス。そこは九鬼の血縁と従者部隊十位以内の限られた者しか入ることが許されないVIPルーム。
秘密裏の会合や会議などに使われるその部屋にて、川神全土を賑わせた騒動についての会議が行われていた。
「要するに、項羽は今大人しくしてるのかい?」
銀髪の老婆———マープルが尋ねる。額を抑えて、大きくため息を吐くのはこれで何度目だろうか。ことがことであるだけに、焦燥に歪んだ顔の皺は深みを増していた。
彼女だけではない。この場にいる全員が似たような顔色を浮かべて、緊張の空気を作り出していた。
多忙である当主の帝を除いた、局、揚羽、英雄、紋白の九鬼一家。
項羽のストッパーとして、最強執事のヒュームとクラウディオ。序列一位で英雄の側近であるあずみ、そして緊急で呼び出されたゾズマ。
そして清楚と同じくクローン組である義経達。
今回起きたことは、九鬼財閥全体に大きな衝撃を生んだために、錚々たる顔ぶれが集結していた。
この騒動の原因となった一人の少女の周囲を取り囲み、空間には重苦しい緊張が漂う。
そんなプレッシャーの中心に立つ葉桜清楚は、投げかけられたマープルの言葉に小さく頷いた。
「うん。初めて覚醒したから、はしゃいじゃったみたい。今は大人しくしてる」
ペコリと代弁して謝る様は、悪さをした妹の代わりに謝りに来た姉と言ったところか。
今の所、項羽が暴れる心配はない。そう受け取ったマープルは特大のため息を吐いて、ソファーに体重を預けた。
最終手段として、九鬼財閥全戦力を項羽にぶつけることも考慮していたのだが……。なんとあっさりした幕引きだろうか。
「あの項羽がよく大人しくなったもんだ」
「ユウくんとモモちゃんが、頑張ってくれたから」
「ふははははは!そうか!さしもの西楚の覇王も、現代の龍虎相手には敵わなかったと見えるな」
腕を組み、深く納得したように頷いたのは揚羽。
寧ろ、そうでなければ困るというもの。あの最強の二人が揃ってでも止められなかったら、本当に終わりだろう。
武神とそのライバルの実力を理解している者達も、暴走した項羽を鎮めたという清楚の話に疑問を抱くことなく、同意を示すのだった。
だがそこに一つの不安要素も残る。
心配そうに、義経が清楚に寄り添った。
「清楚先輩、身体は大丈夫なのか?」
「うん、どこも痛くないよ」
戦ったのは項羽とはいえ、川神百代と水城ユウを同時に相手にしたのだ。どのような結果であれ、無傷で済むはずがない。
軽く両手をひらひらと回し、心配ないとアピールする清楚の身体には傷一つない。いつもと変わらぬ文学少女の姿を見せた。
項羽の覚醒と共に溢れた膨大な闘気。ヒュームが反応を示し、武神を殴り飛ばすほどの力は、肉体の強度と自然治癒までも高めていた。
外傷的問題は見受けられないことに、義経はほっと胸を撫で下ろし、他二人も張り詰めていた肩の力が抜けていく。
これで一件落着……とまではいかないだろう。下手をすれば、武士道プラン自体が頓挫仕掛けたのだから。
二十五歳を迎えたら公表する予定だった葉桜清楚の正体が公に知れ渡ったとなると、今後のプランも大幅に変更しなくてはいけなくなる。
最高責任者のマープルにも、厳しい注意勧告が置かれることとなった。
さらに問題はもう一つある。
それを切り出したのは、ヒュームだった。
「水城ユウに対する扱いはどういたしましょう?そもそも、あの小僧が封印を解かなければこんなことにならなかった」
師であり、厚い信頼を置く従者に揚羽が答えた。
「無論、何もない。そもそも、元はと言えばこちら側が強引に彼を清楚の護衛に指名したのだからな。今回の件は不問とする」
「ただし、護衛は続けてもらうよ。項羽が覚醒しちまった以上、対抗できるストッパーは側に置いておきたいからねぇ」
「水城様一人では、負担が大きすぎるかと。九鬼からも、従者を派遣することを提案致します」
「ゾズマはどうだ?ヒュームのように、生徒として3-Sに転入させるというのは?」
「それでは、九鬼財閥全体のスケジュールを大幅に変更する必要がありますな」
「何より零、一、三、四位が一ヶ所に集まるというのも、パワーバランスに問題が……」
「なら、後方で待機している李とステイシーを側に就かせましょう」
「現状打てる最善は、それぐらいなものか」
流れるように話し合われていく、今後の対応。
パンッ!と局が手を叩いて空気を切り替えた。
「よし、これにて項羽の件は一区切りとする。後々のことは、様子見と共に決めていくとして解散だ。特に清楚、お前はゆっくり休むといい」
局の鶴の一声に、従者達は一礼する。
所々しこりは残るものの、そう言った部分も今後の話し合いで埋めていけばいい。そうそれぞれが考えていくことで、今回の件は一旦の着地を迎えた。
本部を覆っていた空気も徐々に和らいでいく。
解散する人の流れに乗って、清楚も重たい身体を引きずって自分の部屋へと戻るのだった。
緊張から解放されたからか、その足止まりはどこか浮ついているのは気の所為ではないだろう。大丈夫といったが、外傷がないだけでその中身には重大な疲労を抱えていた。
ただいま……。と、か細い声で部屋の中に入る。フラフラと吸い込まれるように、清楚はベッドへと横になった。
いつも行っている肌や髪の手入れをする余裕もない。今はただ、身体の隅々まで満たすような睡魔に委ねたい。
だが、そんな静寂も束の間のことだった。
(奴ら、完全に騙されていたな。俺が大人しくしているなど、ありはしないというのに)
イタズラが成功した子供のような高笑いが、頭の中でこだまする。それはこの部屋にいる何者かではなく、清楚の中……もう一人の彼女自身の声。
清楚の脳内から直接語りかけてくる姿無き声は、腹を抱えて笑っていた。
「はぁ、緊張した〜……。もう項羽ったら、何度も出てこようとして……」
(奴らはこの俺に向けて、ずっと闘気を飛ばしていたんだぞ?殴り飛ばしてやりたかった……!)
「出てきたとしても、返り討ちに合うだけだと思うよ?もう身体が限界なんだから……」
深いため息を吐きながら、枕に頭を埋める。
心の中には、もう一人の自分が同じように横になっているのが感覚で分かる。
「みんなに嘘ついちゃった……」
項羽は、疲れて眠ってなどいない。川神百代と水城ユウによって鎮められたわけでもない。
目的のために妥協して、清楚の中に宿っていた。肉体を乗っ取るわけでもなく、彼女は彼女として共存しているのだ。
本当ならこんな事、ちゃんと皆んなに打ち明けなければいならないのだが。
それが出来ないのは……。
(凄かったろう?ユウとのセックスは!)
じゅわ……意識した途端、股が湿り気を帯びる。
想起するのは、水城ユウとの濃密な情事。
初めての異性との交わり。それも相手は、想いを寄せる彼。顔を思い浮かべるだけで、身体が火照りだすのが分かる。
その内容は決して、ロマンチックな愛のあるセックスであるとはいえない。しかし、それすらも顧慮出来ないほどに、この身で受け止めた優れた雄は刺激的であり魂を夢中にさせた。
項羽もそれを知っているからこそ、こうして茶化すのだろう。そう……。この身は既に、女としての喜びを教え込まれてしまっていた。
もう、誰もが焦がれる清楚な文学少女には戻れない。度し難い快楽が忘れられず、こうして一人自分を慰めている。
「にしたって、やり過ぎだよ。私の身体で、それに……ユウくんにだって……」
(ふっ、お前もノリノリだったくせに)
「あ、あれは!」
(取り繕わなくてもよい。俺はお前、清楚は覇王。感じている想いも快感も、全て共有される)
「うぅ……!」
顔が湯でダコのように真っ赤になる。確かに、途中からは自分も乗っかっていたのは確かだが……。
ユウの煮えたぎったザーメンが、子宮を中心として全身に馴染むように広がっていくあの感覚を我られず、背筋が震える。
同じ肉体を共有する清楚も、当然感じていた。やはり自分も女、はっきりと嫌だったとは言えない。
(まぁ、あれは俺も予想外だった。まさかユウの肉棒があれほど桁外れとはな……)
「あれ、また……やるの?」
(当たり前だ。お前も感じただろう、ユウのイチモツがどれ程までに優秀なのかを。あれは国宝として讃えられるべき代物だ)
「……」
確かに、それは否定出来ない。
あの益荒男に突かれる度に、自分の中にあった常識が塗り替えられていくのを感じた。
九鬼よりも、同じクローン達よりも優先すべき、愛と肉欲に塗れた関係。
口では項羽のことを咎めたはずなのに、欲しいとせがむ自分がいる。
(なんだったら、次はお前が表でヤッてみるか?手助けは惜しまんぞ、何せ清楚は覇王なんだからな!)
両頬を叩き、清楚は声を掻き消す。
強引に話を終わらせて、頭まで布団を被った。目を瞑る瞬間、視界にやれやれと肩をすくめる項羽の姿を見た気がする……。
「ッ……」
蒸し返されたからか、下腹部が疼く。身につけた下着から、とろみを帯びた湿り気を感じるのは気のせいではない。
よかったか?よくなかったか?
そんなの決まっている——————よかった。
項羽が表だったとはいえ、感覚は全て共有されていた。初めて見た男性器の、あまりの雄々しさに言葉を失った。
そこから漂うすえた臭いは強烈で、何度思考が愉悦に満たされたことか。
女にとって一世一代の純潔を捧げた痛みは、想像を絶するものだった。しかし……相手がユウであることは別に問題なかった。
この身に受けた快楽は饒舌に尽くしがたく……。後半からは、項羽の意思と同様に性への欲求に酔いしれていたのも事実。
要するに、清楚もまたハマっていたのだ。
けど、あれは一時の雰囲気に流されていただけであって……。そうやって自分に言い聞かせるも、正直な我が身が難い。
全身が火照って仕方がない。眠気とは違う感覚が、頭をぼーっとさせる。
水城ユウくん、君をまた味わいたい……。その欲望が、葉桜清楚の心身を蝕み始めていた。
「やっぱりダメ……こんなの……」
この身は既に女として、男を求めている。
それも、ただの男では決してない。性別的分類の頂点、水城ユウという漢に。
欲求に抗えぬ弱い自分を律するように唇を噛み、必死に堪えようと試みる。
だがその手は下腹部へ、次第に撫でるように下へ下へと……。ヒクヒクと物欲しそうに疼く陰唇に、自らの指を挿入するのだった。
「ユウ……くぅん……」
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かつてない大騒動に見舞われた川神。
しかし、そこは毎度トラブルが舞い込む武の聖地。騒ぎに大小はあれど、今日も今日とで日常という名の非日常がやってくるのは、抗えない。
そして、それが大きな話題であるならば話題となるのは必至。いつも通り登校する生徒達の間では、既に葉桜清楚を中心とした話で持ちきりになっていた。
「驚いたよな〜、葉桜先輩の正体があの西楚の覇王だったって!」
「知ってる。今朝ニュースで報道されてたから」
「今でも信じられないかな……。あんな清楚な人の正体が、武将だなんて」
「俺様、絶対文化系だと思ってたのよ〜。つーか、ファンの連中も大騒ぎだぜ?中には、信じねぇ!って奴もいるし」
「じゃあ屋上見てくれば?あの破壊跡見たら、もう信じるっきゃないもの」
「直接見てはいないが、凄まじい戦いだったようだな……。確か、まゆっちのところにユウ先輩が来たのだろう?」
「はい。レプリカでは勝てないと、私の真剣を借りに……。あんなにも焦った先輩を見るのは、初めてでした」
『急いで駆けつけたら、床に突き刺さった刀だけが残ってた死亡フラグ感半端なかったんだぜ』
「でも、モモ先輩も合流して倒せたんだよね?」
「倒せた〜……って、言っていいのかは微妙なところだけどな。詳しくは説明できないんだ」
「いや……。それだけの情報で十分ヤバさは伝わってくるよ、姉さん」
項羽は川神の誇る二大巨頭によって鎮められた。これだけで覇王がどれほどの存在なのか……。理解するのに十分な説明だろう。
報じられた事実を聞いて、素直に驚く者もいれば、彼女の正体を含めて信じたくない!などと言った頑なな声も上がっている。
普段の文学少女のイメージもあるが、なにより目撃情報が少ないというのが理由だ。
常識からあまりにも乖離した戦闘故、一般人どころか並の武人ですら立ち会えなかった。更に、途中起きた項羽の行方不明も否定意見に拍車をかける。
視覚的情報から得られる確信がないため、イマイチピンと来ないのが現状であろう。
しかし、未だ修復途中の戦闘跡と、戦った百代本人がそう言うのであれば、一応は事実なのだろうと飲み込む者もいた。
正式に発表されても、酷くあやふやな面が目立つ。
そんな台風の目とも言える、話題の本人は……。
「あ、清楚先輩だわ」
何事もなかったかのように、通学路に姿を見せた。
風に靡く長髪に、花のいい香り、可憐な顔立ち、上品なオーラ、清楚を絵に描いたような存在感と、どこをどう取っても武将の遺伝子から作られたクローンだとは思えない。
やはり、清楚ちゃんは清楚ちゃんだ。
相変わらずの美しさに、男達は意外な正体など頭の片隅に追いやり見惚れることを優先する。
そして、相変わらずその隣を歩くボディーガードにも、しっかりと嫉妬の視線も。
「悪いお前ら、ちょっと外す」
と、百代が風間ファミリーの中から離脱する。
次の瞬間には、誰もの視線の先にいる清楚とユウの輪の中に出現していた。
「清楚ちゃ〜ん❤️」
「モモちゃん、おはよう」
「普通に登場しろっての」
「まあまあそういうなよ。昨日はあ〜んなに、三人で燃え上がった仲だろ?」
身を寄せ合い、二人のみに聞こえる声は、わざとらしく悦に上擦っていた。
ユウは苦い顔で百代を睨み、清楚は顔を赤く染め俯く。その口から、ポツリと小さな声が溢れでた。
「昨日……だけじゃないよね?」
二人の肩がピクリと揺れた。
確信を持つのはそれだけで十分。百代がニヤニヤと彼の肩をつつき、苦々しいユウの顔はさらに深みを増す。
二人が……いや、百代がユウにナニをしたかなど、分かりきっている。
うっとりと、愉悦に染まった顔で彼女は自慢げに語り出した。
「ふっ、鋭いな清楚ちゃん。朝摘み食いしてな〜。いやー、朝勃ちが凄いのなんの!」
なんと品のない……。だが咎める気持ちよりも、小さく喉を鳴らして清楚は聞き入ってしまう。
朝勃ち……ユウくんの、朝勃ちッ……。なんて甘美な響きなのだろう。頭の中で、そのワードが何度も反響する。
ギュッと、スイスイ号のハンドルを握って欲が表に出ないようにしているが、同士にはお見通しだ。
中身が違えど、同じ男をその身で味わったのだから。饒舌に語る笑みに、深みが増していく。
そんな朝っぱらから自分を犯したライバルに、ユウは鋭い視線を飛ばした。
「この野郎ッ……これさえ、なければ……!」
今にも飛び出して殴りかかりそうな、怒りの気迫。だがそれが出来ないのは、股間に生じる痛みと快感が行動を阻害しているからだ。
何事かと、清楚は問う。
「これ、って?」
「川神流、空気握力。気のマーキングを施して、遠距離からアイアンクローを喰らわせられる技だ。これを……」
「あ……」
そこからの説明はなくとも、全てを理解した。
あれ程の屈辱。川神院や九鬼の関係者に訴えてもいいものを、それをせずに大人しくしているのは、つまりそういうことなのだ。
ズクッ、ズクッ……。ユウのズボンの股間部が、百代の手の動きに連動して盛り上がっていく。
性器を人質にされ、抵抗できない彼を見て……。これには流石の清楚も同情の目を向けた。
「更には防音防臭のいつでもどこでもセックスルーム、っていう結界を開発してな?子宮にも結界を張って、避妊はばっちりしてある」
なにそれ、教えて欲しい!……と、口から溢れ出そうになったのは内緒だった。
朝の爽やかな通学路に似つかわしくない、苛立ちと淫靡な欲望が飛び交う。
そう、誰も知らない……三人だけの秘密。
その圧倒的な強さと美貌から羨望の眼差しを向けられる武神、川神百代。
清楚という文字が具現化したような美しさから、多くの男子を虜にした文学少女、葉桜清楚。
この二人が昨日、一人の男にあのようなことをしたとは……。誰も、夢にも思うまい。
その事実を誰にも打ち明けられぬまま、水城ユウは今日も学園へ登校する。
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人から聞かされるのと、直接この目で見るのとでは、印象に大きな差が生じる。
九鬼からの正式な発表と、暫く封鎖となった屋上の惨状、そして川神百代の証言から、騒動の詳細は事実であると大多数は認識している。
だが、所詮は自己完結した認識でしかない。
清楚ちゃんが大暴れするなんて、そんなバカな……。と、3-Sのクラスは割と呑気していた。
「驚いたな〜。まさか清楚ちゃんの正体が、項羽のクローンだったなんて……」
「でも、意外と力持ちだったり違和感あったよな」
「ま、正体がどんな英雄であれ……。清楚ちゃんは俺達の清楚ちゃんだよ」
「うん……。迷惑かけてごめんね、みんな。でもたまに、カッとなったら出てきちゃうかも」
「ははは、そりゃ怖い」
清楚のクローンが意外な英雄で驚いた、ぐらいなものでクラスの空気はそれほど乱れてはいなかった。
これと言った彼女に対する印象や見方に変化はなく、いつも通りの3-Sがそこにあった。
これも、葉桜清楚の人徳と言ったところか。
見てもいない項羽の危険性よりも、クラスメイトとして毎日のように接している文学少女のイメージの方が彼ら彼女らにとって印象付けられている。
そんな静けさが、不気味という形となってユウの首筋を撫でる。変わりなき日常が、より恐怖を煽って仕方がなかった。
その原因となっているのが他でもない、清楚だ。
昨日起きた出来事は、気軽に流せるようなものではない。だというのに、驚くほどナニもなかった。
護衛として一緒に登校する時も、いの一番に———昨日は項羽がごめんね!と、謝ってきた。
あの時、項羽は清楚もノリノリだと言っていたが……。やはりあれは偽りの言葉だったということなのか。
どんな形にせよ、友達の純潔を奪ってしまったのは変わりない。気丈に振る舞い取り繕っているといえど、多少の気の乱れは出てくるはず。
平常運転だからこそ、不穏を感じてならない。
更に項羽が宣言した覇王国子孫繁栄プロジェクトとかいうふざけたプランもあって、正直なところ護衛なんてもう辞めたかった。
それができないのは、やはり項羽に対する危険性だ。本気の武神さえも屠った覇王を止められる者など限られている。
また昨日のように暴れられたら、今度こそ取り返しが付かなくなる。だからこうして側にいるのは、護衛というより監視の面が強い。
消去法で、ユウがやるしかないのだ。
「ユウくん」
「ッ…………!」
心の安らぐ、鈴の音のような声。だが今の水城ユウにとって、それは何よりも危機感を煽る死の音色だった。
俯いていた顔が、飛び起きるように上がる。
目の前には、今現在頭を悩ませている美少女の、柔和な笑みがそこにあった。
「項羽のことなんだけど……。お話、いいかな?」
「あ、ああ……わかった」
ぎこちない返事に、清楚は微笑みを深くして頷いた。しかしすぐに真面目な表情へと切り替わり、二人して教室を出る。
「ごめんね、こんな時に」
「問題ねぇ……って言ったら嘘になるな。正直堪えてるけど……。項羽は大人しくしてるのか?」
「大人しい……。っていうより、駄々こねてる感じかな。出たい出たーい、って」
「暫くはそのまんまにしてほしいんだが……」
もうあんな地獄はごめんだ……。
はっきり言って、項羽という存在そのものが危険に直結する。いつ爆発するかも分からない爆弾を抱えるのは、ユウとしては遠慮したいところ。
清楚がそれをどう捉えているのかは定かでないが、彼女は困ったように笑うだけだった。
やがて、校舎の視聴覚室近くへ到着した。
休み時間にこんな場所に生徒が利用するはずもなく、周囲には誰もいない。秘密の会話ができる場所に移動した瞬間……。
「清楚……?」
吸い込む空気に、冷気が混じる。
この感覚をユウは知っている……。覇王の覚醒の瞬間、膨大な気が世界そのものに影響を及ぼした。
今起きているものは規模こそ小さいものの、確かにこの場の空間を一変させていた。
まさか……。振り返った時にはもう遅かった。
「んぅ゛ッッッ!?」
呼吸が止まる———。
強制的に肺が収縮し、息ができない。
眼前に迫るのは、艶めかしくも妖艶な美貌。唇を尖らせて、ユウの唇を奪った。
文学少女とは思えない強烈な強襲によって、なす術なく床へと押し倒された。
蹂躙が始まる。伸びた赤い舌が口内を侵食し、蛇のように蠢く。絡み合う舌により、唾液が喉を通り体内へ流れ込んでいく。
振り払おうにも……力が強い。
視界いっぱいに広がる清楚の目は赤く染まっておらず、今このキスを行っているのは、項羽でないことがわかる。
それが最も、絶望を抱かせる真実だった。
やがて皮膚に紫電を纏わせながら彼女は口を開き、 じゅるり……と、淫らな水音を立ててユウは息苦しさから解放された。
わずかに離れる両者の間で銀色のアーチが架かり、空気を求め荒い呼吸を繰り返す。
「ぷはッ……せ、清楚⁉︎」
「ごめんね、嘘ついて。本当は……コッチなの」
震える視界の中。ユウにまたがったままの清楚は、妖しく瞳を光らせながら自身の唇を舌先でなぞると、熱い吐息を漏らした。
その笑みが何を意味するかを、ユウは知っている。
コッチと、示されるものに触れる。股の間、ズボン越しでもわかる生暖かさと、ぐにゅりと形を変える軟らかな肉感。
文学少女とは程遠い、恍惚に表情が歪んでいく。
「はぁ……すごい❤️また勃ってもいないのに、こんなにおっきい……❤️」
熱を帯びる股座、その中央で男根は今なお沈黙を貫いている。だというのに、巨根並の存在感は性的興奮を大いに煽る。
下腹部に発情を孕み、股に擦り付けるように腰を前後する。ズボン越しの絶妙な刺激がユウを襲った。
だが、それを気にしていられないほど、今目の前で起こっている現象に驚愕を隠しきれずにいた。
あの清楚が……たった数秒でここまで乱れるなんて……。まるで別人だ。
考えうる可能性の中で、最悪に直面した。せめて、彼女が項羽を抑えてくれればと思っていたのに……。
「じょ、冗談だろ清楚ッ⁉︎あれは項羽の嘘で、お前はまともだと思ってたのに……!」
「うん、正直今も罪悪感でいっぱいだけど……。ごめんね、この味が忘れられないの」
理性よりも常識よりも罪の意識よりも、女の性を選んだというのだ。
そうさせてしまうモノが、ここにある。
予想されていた最悪を肯定するように、ボタンを外していく清楚。指をブラの隙間に忍び込ませると、そのまま豊満な胸元を露わにした。
たぷん……と、柔和な音が鳴る。
たわわに実った果実のように揺れる双丘は、白い肌とは対照的に赤い先端で存在感を強調していた。
そこにはもう、清楚な文学少女などいやしない。
男を惑わす表情は蠱惑的だ。うっとりとした瞳で恋慕の相手を見下ろし、腰を浮かせてユウのズボンのチャックを下ろし、陰茎を取り出した。
視界に収めた途端に深まる、淫靡な笑み。これは紛れもない……。昨日百代と項羽がしていたものと同じ、雌の顔だった。
既に湿り気を帯びている頂点へ顔を近づけて……ちゅ❤️先端に軽く口付けた。そのままキスをした状態で口を開けていき、味わうように咥え込む。
「じゅるるるるッ……れろぉ……❤」
唾液で濡れた口内がペニスを包み込み、舌が絡みつくように這いずり回る。
淫らな水音を立てながら顔を上下させ、陰茎に唾液を塗りたくっていく。
「ズルいよモモちゃんッ……。一緒に住んでるから独り占めできるなんて。私だって、ユウくんの朝勃ちちんぽ欲しいのに❤️」
その眼はもう、発情に染まっていた。
昨日のように項羽に意識を乗っ取られていないにも関わらず、清楚という少女は男根を欲している。
すっかり出来上がった顔で舌を突き出し亀頭を舐め回す顔は、皆んなの知る葉桜清楚の面影を微塵も残していない……変態だ。
「そんな……そんなことがッ、あるわけ……!」
否定しようにも、目の前に広がる破顔した女の顔が真実を告げる。これは項羽の策略などではなく、清楚自身が望んでしていることなのだと……。
カウパーを舐めとる口は三日月に笑っていて、瞳は慈しみを持って細められる。大好きな人に快楽を提供しようとする、利己的な慈愛に満ちた眼差しだ。
もはや否定する余地すらない……。現にユウはこの舌使いに翻弄され、限界まで怒張した陰茎から蜜が止めどなく溢れている。
(くそッ!なんで上手いんだよ……⁉︎)
ねっとりと舐る舌に纏わりつく唾液が、ローションのように滑りを加速させる。分泌されたとろみを帯びた生暖かい感触が、先端から根元まで満遍なく塗りたくられていく。
なんと言ってもその舌使いだ。口腔と舌の感触の配置が的確で、陰茎全体を余すことなく快楽の海へ引き摺り込む。
強引に絶頂へと導くのではなく、硬く閉じられた意思を解きほぐすように。イかせようとしてくる愛撫とは違うもどかしさが、嫌にじっとりと蓄積されていく。
いつの間にこんなこと覚えたんだ⁉︎と問いただしたくなるほど洗練された舌技に、強制的に高められる射精欲を抑えられない。
悶える声とちんぽから伝わるリアクションを感じ取り、清楚は嬉しそうに微笑む。
ちんぽへ吐息を吹きかけると同時に、心から欲する望みを口にする。
「だ・し・て❤️」
「あ゛あ゛あ゛あ゛…………‼︎」
先日、散々項羽と百代によって搾り取られたというのに……。清楚の顔面へ、ありったけの精が発射された。
自ら舌を突き出し、放水されたザーメンを臆することなく受け入れる妖艶なる様が情欲を掻き立てる。
「はぁん❤️ユウくんの味……」
カウパー液と混ざり合ったそれは喉に絡みつく濃厚な味わいで、女の身と心を昂らせた。
ゆっくりと喉を鳴らして嚥下する、爽快ない飲みっぷり。朝一ということもあり、粘度も量も上々だ。
じゅるっ❤️れろぉッ!んちゅッ❤️
亀頭を舐め回し、尿道に残ったザーメンも吸い出していく。どんな薬よりも効く媚薬だ。
ちゅぽッ……❤音を立て亀頭から口を離し、立ち上がる。たった一発の吐精で満足するはずもなく、その目は淫らに爛々と輝きを帯びる。
「次は、こっちね❤️」
ユウを跨ぐように膝立ちすると、スカートをたくし上げる。股間部がすっかり濡れた下着を下ろし始めた……その時だった。
「ぐぁぁッ‼︎」
突如、ユウの股間に電流が走った。
ギュゥゥッ……!握りしめられるような激痛と、微かな快感が背筋を海老反りに仰け反らせる。
清楚は触ってもいないし、何もしていない。いきなりの彼の身に振り掛かった異常に驚き、目を大きく見開いていた。
この場にいない者……。
第三者による、遠距離からの股間への攻撃……。
こんなことができるのは、一人しかいない。
「百代が……呼んでる……ッ‼︎」
百代「川神流奥義!空気握力!
へ〜イ、ユウカモ〜ン❤️」シコシコ