※この作品はR-18です。

真剣で肉欲に溺れなさい!S 覇王ルート【完結】   作:寝坊助

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黛の味 前編

 

 

 

 

 いつからだろう。

 一人の武人としてだけでなく、あなたに見てもらいたくて剣を振るうようになったのは。

 それを打ち明けた時、受け入れてくれるのか。それとも不純と切り捨てられるのか。

 私はなによりも、それが怖い。

 この引っ込み思案、人付き合いの悪さ。風間ファミリーのメンバーに加入できてから、少しは改善されたと思っていた。

 しかし、友情と恋愛とではまるで違う。人の心に近づくという点は似通っているのに、踏み出し方を間違えれば、この関係が崩れてしまうのではないか。

 そう思うと、切り出そうにも切り出せない。

 この心の弱さが、今では別の意味でもどかしい。

 あのお方の前で、恋においても武においても全力投球な川神百代の姿勢が羨ましく思える。

 あの人の積極性が、少しでも私にあれば……。

 

「はぁ、はぁ……せんぱい……ユウ先輩」

 

 このような、悶々とした夜を送ることもないというのに。 

 恋に悩む一人の少女、黛由紀江は自室で一人、自らを慰めていた。

 まだ齢十五歳という年齢でありながら、そのスタイルは胸も尻も既に女性として完成されつつある。

 風間ファミリーの中でも、百代に次ぐ実力とスタイルの持ち主だ。女らしいまろみを帯びた身体に、不釣り合いな剣の修行で培われた筋肉が薄い脂肪を纏っている。そのアンバランスさが、なんとも言えないエロチシズムを感じさせていた。

 豊満な胸を、自らの手で揉みしだく。寝具を着たままで、下着の上から秘所を指でなぞる。

 既にその女陰は湿り気を帯び、指の動きに合わせるように、彼女の口からは甘い吐息が漏れ出す。

 このところ毎晩のように続く自慰のお陰か、その肉体はより敏感に、より感じやすくなっていた。

 初めは恐る恐るなぞっていた指の動きも、今では素早いものへと変わり、秘所からぐちゅぐちゅと淫靡な音を奏でている。

 すっかり敏感になった乳首は、布に擦れるだけで快感が走る。しかし、この程度の刺激ではもう満足できない。由紀江の脳裏に浮かぶのは、一人の青年の姿だ。

 あのお方に……。いつか先輩に抱かれる時を……。そんな夢想をするだけで、軽く達しそうになる。

 あの逞しい腕に抱かれ、あの厚い胸板に顔を埋め、そして……そして……!加速する妄想に合わせて、指の動きも激しさを増す。

 一度火がつけば、後はもう止まらない。

 

(あぁ……ユウ先輩……)

 

 心の中で想い人の名を呼び、一際高い声を上げながら身体を仰け反らせた。同時に、掌は粘度の高い液体に塗れる。

 満足感とも虚無感とも言えない感情が去来し、やがて少女は虚ろな目で天井を見つめた。

 愛しい人の名を小さく呟いて……。

 

「ユウ……せんぱぃ……❤️」

 

『お盛んだなぁ、まゆっちよぉ』

 

「その声は松風⁉︎いつからそこに……!」

 

『ずっと近くにいたぜまゆっち。ったくよぉ、マブダチのオイラの存在を忘れちまうぐらい、お熱だったみてぇだな』

 

「うぅ、松風……。私は自分が情けないです。いつまで経っても想いを告げられず、時間だけが過ぎていき、こうしてはしたなく想うことしかできない自分が……」

 

『それだけじゃ、ねぇんだろ?』

 

「流石は松風。なんでもお見通しですね」

 

『言ってみ?おじさん話聞こか?』

 

「はい、実は私……見てしまったんです。ユウ先輩が……モモ先輩と、葉桜先輩と……その……行為を行っているところを!」

 

 捻り出すように叫び、由紀江は固く拳を握りしめた由紀江の瞳には雫が浮かんでいた。

 数日前のことだ。後輩として、剣士として、異性として敬愛する水城ユウを偶々目撃した。

 これはチャンス。鍛錬で汗を流し、手料理で距離を縮める作戦をいざ決行しようと後を付けた。

 そこで、見てしまったのである。

 人目のつかない校舎裏で、憧れのあのお方が川神百代と葉桜清楚の二人と熱烈なキスを交わしている光景を。更にはそれだけではなく……そのまま二人の手は、彼の下半身へと伸びていった。

 その一部始終を見て以来、恋する少女の心は千々に砕けた。敬愛する先輩方がそのような関係だったなんて……。いや、むしろ自分が知らなかっただけで三人はずっと前から付き合っていたのかも……。

 

『ユウっちも隅におけねぇなぁ。両手に花たぁ、男の中の男だぜぇ』

 

「それだけではありません!他にも、マルギッテさんや梅先生、矢場先輩や九鬼のメイドさん達とも……!何人もの女性と関係を持っています!」

 

 この変化は、項羽覚醒事件以降からだ。

 誰にでも分け隔てなく接するその人柄、鍛え抜かれた肉体に精悍な顔つき。おまけに成績優秀で品行方正ときた。

 女性から慕われるのは当然といえよう。

 由紀江もその一人であるのだから、彼に魅了される女の気持ちはよく分かる。

 尊敬や憧れと言った感情のみではなく、いつしか異性として意識するようになっていた。

 あの人に女として見られたい。あわよくば、この純潔をあなた様に捧げたい……。そんな不純な想いまでも抱き始めていた折、目の当たりにした光景は、彼女の心に深い衝撃を落としたのである。

 

『そこまで目撃しておきながら、一人でオナニーに耽ってる意気地のなさは流石にオイラでもどうかと思うぜ』

 

「引かないでください松風ぇー!」

 

 弱々しい慟哭がこだまする。

 こんなことならいっそ襲ってくれたほうが楽だった。ユウ先輩に押し倒されながら身体の隅々まで暴かれ、まるで野獣のようにがっつく先輩に、昼夜を問わず愛し尽くされる……。

 そんな妄想で自らを慰めるのが、彼女の精一杯であった。

 これはこれである種の悦楽に陶酔できるのだが……妄想程虚しいものはないだろう。

 由紀江は思う。いっそ自分が性に奔放なビッチだったらと。

 

『えぇい追ちつけまゆっちー!これはある意味チャンスだと捉えるんだまゆっちー!』

 

「ちゃ、チャンスですか?」

 

『おうともさ。ユウっちが女好きプレイボーイだと分かった今、恋敵を出し抜くなんて必要性はなくなったんだぜ?』

 

「そ、それはつまり……‼︎」

 

 刹那、黛十二段の娘に雷が落ちる。

 まさに目から鱗、晴天の霹靂であった。

 

『突撃だまゆっちー!堂々と告ってハーレムの一員となり、ギシギシあんあんな関係になっちまうんだぜー!』

 

 間髪入れずに、松風が叫ぶ。

 その声を背に由紀江は立ち上がった。

 涙で枕を濡らし、オナニーで布団を濡らす彼女はもういない。開いた瞳には、もう迷いも不安もない。あるのはただ一つ、恋する少女としての純粋な想いのみだ。

 この機を逃してはならないと、全身の細胞が活性化されていくような感じがする。

 気のせいなのかもしれない。でもそんか感じがする。

 

「もう迷いはありません!今こそユウ先輩に告白します!」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーー

 

 

ーーー

 

 

 

 ……とまぁ、それができれば苦労はしないのである。

 壁超えの実力者でありながらメンタルはゴミカスの黛由紀江は、いざ告白するとなると二の足を踏んでしまう。

 そもそもの話、二人きりになる機会がない。

 まず登校時。

 基本的に護衛として葉桜清楚と共にある。そこに高確率で百代も加わり、左右を陣取るからまるで付け入る隙がない。

 この時点で既に三人だけの領域が構築され、他人が入り込む余地などない。どうやら、恋の女神というものは彼女に微笑みどころか嘲笑をくれたらしい。

 ターゲットの両脇を固めるのは、学園の二大マドンナと名高い川神百代と葉桜清楚だ。二人とも容姿端麗で、スタイルも抜群。まさに美男美女である。

 由紀江を筆頭に、手を出そうとするファンも意中の相手に近づこうとするも、彼女らが靡くはずもなく。

 けしからん登校風景を朝っぱらから見せつけられると言う地獄を味わっていた。……そのショックたるや、筆舌に尽くし難い。

 告白などできる筈もなく、黙々と時間だけが進んでいく。

 

(緊急事態です松風!飛車と角に阻まれて、王手へ行けません!)

 

『ゲームやアニメでもよくあるよね〜。中ボスの方が、あれ?ラスボスより手強かったんじゃね?ってやつ』

 

(中ボスがバグレベルじゃないですかそれ⁉︎)

 

 とまぁ、このザマである。

 かくなる上は放課後だ。ここぞとばかりに機会を狙うが、学年も違えばクラスも異なる。

 基本的に三年の三人組で行動しており、暇さえあれば人気のない場所に移動して……。

 

「ふーッふーッ❤️ぢゅるるる、くちゅ❤️ぷちゅ、ちゅ❤️ちゅッ❤️ずろろ……❤️」

 

「レロッ、レロぉ❤️ぢゅる〜っ❤️ぢゅるっ❤️ぢゅる〜っ❤️ヂュルッ!」

 

「ユウ、ユウ……❤️」

 

「ユウくん、私にも……もっとぉ❤️」

 

 ……と、まぁこんな具合だ。

 人目につかない校舎裏で、三人の美女が一人の男を挟んで濃厚なキスを交わしている。その背徳的な絵面は、思春期真っ只中の女子学生には刺激が強すぎるだろう。

 しかし由紀江は違う。クソ雑魚メンタルのクセに、一丁前に性欲だけはあった。

 憧れのあのお方の淫靡な姿を目にし、彼女は興奮していた。はしたなく頬を紅潮させ、スカートの下に手を忍ばせて昂っている。

 ああ、あの輪の中に是非私も……!

 その一心で剣聖の娘は物陰で自慰に耽る。

 昂る身体。欲する快感。しかし、由紀江が求めているのはこのようなものではない。

 恋慕する男の生の肉を、この身で受け止めたいのだ。

 脳内で、あのお方が自分の尻をスパンキングしながら犯してくれるイメージが湧き起こる。だが、そんな事をしても何の意味もないと分かっていた。

 理想を求めても結局は虚しいだけ、より絶頂までの道のりは遠のくばかりである。

 以前であれば、鍛錬に誘うなり手作り弁当を渡すなりチャンスはいくらでもあった。しかし、それも百代や清楚との密接な絡みに遮られて空回りに終わってしまう。

 淡い期待を持っても打ち砕かれるだけだ。だが同時に、想いはより強くなっているのもまた事実。

 心が千々に砕けた今だからこそ、深層心理下では慕い続けている自分がいる。

 いつの間にか、手の動きが早くなっていた。より強い快感を求めて一心不乱に手を動かす。

 そうして、一際大きな波に身を委ねようとしたその時だった……。

 

「おい」

 

 突然、背後から声をかけられる。

 心臓が止まりかける。劣情に身を委ね、自らを慰める悦に陶酔していた心は、そのたった一言に現実へと引き戻された。

 驚愕に、全身が大きく跳ねる。

 恐る恐る背後へ振り返ると、そこには今まさにこの胸を苛んでいる想い人の姿があった。

 

「ユウ……せんぱい……どうして……?」

 

「気配で居場所がだだ漏れだ。ここ最近、俺のことつけ回してただろ?」

 

 黛由紀江、一生の不覚。

 普段の彼女であればこのような失態は犯さない。しかし、恋は時として人の正常な判断力を曇らせる。

 いつの間にか、気配を潜ませることを怠っていた。

 羞恥心に全身が茹で上がる。

 憧れであると同時に、今は最も会いたくない人物との対面。よりにもよってこんな所を見られるなんて……。羞恥心と絶望感が、重くのしかかる。

 終わった……。情事を物陰から盗み見て、それをおかずにしていたなどと……。幻滅の二文字が、頭を締めた。

 

「も、モモ先輩方は……?」

 

「ノビちまった」

 

 ほれ、と。背後へ顎でしゃくる。

 そこでは、先程までユウを左右から挟み込み、濃密なキスを交わしていた女先輩二人が、制服をはだけて倒れていた。

 百代は壁に背を預けており、清楚はうつ伏せで沈んでいる。両者とも顔から脚まで赤面し、薄く開かれた唇から涎が垂れていた。

 共通しているのは、二人の狡猾としている顔。

 それ程までの愉悦を味わったということだろう。

 なんと羨ましい……!自分も、あんな風に水城ユウからの寵愛に溺れることができたなら……!そう、羨望の眼差しをつける。

 

(あ……)

 

 そして気づいた。

 この状況。今、黛由紀江が心から望んでいた意中の彼と一対一の場であることを。

 今までの経緯も忘れて、胸中で期待が高まる。鼓動は激しく脈打ち、ともすればこの人に聞こえてしまうのではないかと懸念するほどだ。

 

「あの!ユウ先輩!私、おはなしが……!」

 

 逸る気持ちを抑え、勢い任せに言葉を発しようとする。

 だが、その先の言葉を紡ぐことは叶わなかった。なぜなら……改めて対面した水城ユウは、酷く焦燥していたからだ。

 外傷らしきものは何一つありはしないものの、それは表面だけの話。内面は最早、瀕死というべきか。

 瞳に正気の光がない……。元気がないというよりかは、魂を失っていたと表現した方が正しい。

 いつもの張った背筋は曲がり、項垂れた肩は弱々しさすら感じさせる。明らかに参っていることが、目に見える形ではっきりと理解できた。

 同じ剣の道を歩む敬愛する先輩に、由紀江は恐る恐る……この目で見たあることを尋ねた。

 

「お二人方だけでは、ありませんよね?その、交際していらっしゃるのは」

 

「ああ、そうだな。他にもいるぜ」

 

 答えは重い吐息とともに吐き出された。

 若干、淡白に見える肯定に心臓はキュッと縮み上がる。

 嘘や冗談を言えるような人じゃない。

 周囲は二股などと噂しているみたいだが、本当は……。意を決して、先よりも気持ちを込めて質問を投げる。

 

「マルギッテさん、ともですよね?」

 

「ああ、付き合ってるよ」

 

 それだけではない。

 

「その……。多くの女性と、経験が?」

 

「ああ。あるよ」

 

 言い淀むこともせず、間をおかずにあっさりと。

 男として最低な発言だ。縊り殺されてもおかしくはない。その答えを、由紀江はすんなり受け入れていた。

 ショックなのはショックだ。驚きもしている。

 意中の殿方が既に交際し、しかも複数の女性と身を重ねているなんて……。こうして改めて聞くと胸が張り裂けそうなのに、いつものように心は乱れない。

 何故なら、由紀江は既に全てを目撃しているのだ。理解した上で、答え合わせをしているに過ぎない。

 当然ショックなのは違いないが、疑問の空白に正解がハマることで、気持ちは寧ろ軽くなった。

 

「軽蔑したか」

 

「えっと……驚き、ました……」

 

「なんなら、殴ったっていいんだぜ?こんな女の敵」

 

 自嘲気味な笑み。

 怒るなり罵るなりしてくれれば、どれだけ楽だろうかと思っているユウに、由紀江は身振り手振りを交えながら慌てて否定した。

 

「そ、そんな事しません!それでも私は、ユウ先輩を剣士として尊敬しています!」

 

 真摯な眼差し。その曇りなき瞳には、いつだって水城ユウの姿が映っていた。

 軽蔑なんてとんでもない。失望もない、悲しみもない……。私はただ、確認をしたかっただけなのだから。

 その言葉にユウは、軽く肩を落とした。

 本当によくできた後輩だ。しかし、寧ろその優しさは今の彼にとっては毒だった。

 

「はは、ありがとよ……」

 

 水城ユウは察していた。黛由紀江が今、自分にどのような感情を向けているのかを。

 憧憬と異なる、もう一つの熱い感情の眼差し……。これまでのパターンから、もうお決まりの流れと言ってもいい。

 

 ———つい最近の記憶が蘇る。

 

 バーに連れられて、勧められるがままにありったけ川神水を飲んだあの日の夜。

 初めての川神水だった事もあり、一度飲めば味を占め、夢中で喉を鳴らした後……そこから先のことはもう正直あまりよく覚えていない。

 酔いが脳を侵犯し、ぼやけた視界で二つの肌色が跳ねているのが見えた。耳鳴りに混じるのは、二人の女の艶かしい声。

 何事か理解しようにも、浮いた頭ではまともに脳は働かず……そのまま朝を迎えた。

 目が覚めた時には、見知らぬホテルのベッドの上。全裸で寝そべり、左右には寝息を立てて腕に抱きつく二人のメイド。

 いや、メイドという服を脱ぎ去り、女となったステイシーと李の姿を瞳孔が映した。

 まさか……。一目で全てを察した。

 起き上がった二人は顔を見合わせ、

 

『わり、ユウ。ウチらもハーレムに入れてくんね?』

 

『ごめんなさい……。しかし、この味を知ってしまったら……もう』

 

 紅潮させて擦り寄ってくる。

 理解するのに、かなりの時間を有した。

 現実を飲み込むにはあまりにも衝撃的だったからだ。認めたくないと、頭を抑えるユウに向けられるのは、うっとりと垂れた発情の瞳。

 極上の雄を前にして、その魅力に取り憑かれた雌は下品に舌を突き出しすり寄ってくる、無理矢理二回戦を強制させられた……。

 

『ヤッベ❤️ヤッベ❤️ユウのモンスターペニスヤッベェ❤️Oh❤️Oh YES❤️YESYESYES‼︎イグッ、まだイグ❤️イッちまゔぅ〜ッッッ❤️』

 

『もっと、もっとください❤️あなたの益荒雄をどうか、このホトに❤️』

 

『Fuck!Fuck me❤️Fuck me PleasePlease!Woohoo❤️❤️❤️』

 

 ああ、もうダメだ……。そう、心は限界を迎えた。

 後輩も、同年代も、更には教師でさえ……。本来なら、このような不順異性交遊を罰するべき大人達さえも頼りにはならない。

 マルギッテ、梅子、弓子、李、ステイシー……。多くの女に想いを寄せられていると分かった今、彼女もそうなのだろうと、鈍感なユウも流石に大体の察しはついた。

 

「要するにあれか、黛も俺のこと……」

 

「はい……。ユウ先輩がどんな人であっても、あなた想うこの気持ちに、揺らぎはありません」

 

 黛由紀江の想いは揺るがない。

 彼女の中で、水城ユウという人物が占めている割合は想像以上に大きかったらしい。

 それ程にこのお方は特別な存在であった。

 赤く染った顔を俯かせながら、それでも目はしっかりと合わせる。

 憧れの人に交際相手が複数いる事実は確かにショックではあった。しかし、全てを知ったからこそ、後腐れもなくこの気持ちを打ち明ける決心ができた。

 簡単に割り切って、身を引いてはあげられないのが恋というもの。ここで勇気を持って前に進めなければ一生後悔すると、彼女の乙女心が背中を押す。

 この気持ちに嘘偽りはなし。

 だから今、全てを伝える。

 両の目が決意に染まった時、それは覚悟を持って決行されたのだった。

 

「お慕い申しております、ユウ先輩」

 

 どのような複雑な交際関係を持っていようとも、あなたの全てを愛します。

 ですのでどうか、この気持ちを受け入れて下さい。

 乙女がそう高らかに宣言すると、ユウは長〜いため息を吐いて、頭を掻きむしる。

 

「はぁ〜、ったく。どいつもこいつも」

 

 以前、項羽は言った。お前は自分がどれだけ優れた雄か自覚しろ———と。

 優れた雄、とはなんなのだろう?俺はただ、悔しいから百代に挑み続けてきただけだ。

 鍛錬にかまけて成績が落ちたから、勉学にもちゃんと励んだだけだ。

 友達に頼まれたから、一緒に調べただけだ。

 なんら珍しくもなければ、特別なことでもない。人としてごく当たり前が、女達の目にどう魅力的に映ったのだろう。それは今でも全く分からない。

 この三つの条件をクリアすれば、島津でもモテるんじゃねーの?そう思うぐらいだ。

 前に翔一に言われた、目を合わせた女を惚れさせる技の方が、まだ信憑性はある。

 信じられないが、信じるしかない。

 なにせ目の前には、火が出そうなぐらい真っ赤にした顔で、告白の返事を待っている後輩がいるのだから。

 飛び出そうなほどに眼球を開き、帯びた眼光には真剣と書いてマジと読む熱意が込められている。

 本気で恋をしている、その心を無碍にできるような鈍い男ではなかった。

 

「いいぜ。お前の気持ち受け入れる。で、ナニをして欲しいんだ?」

 

 分かりきっているが、一応聞いてみる。

 すると、途端にしおらしくなる由紀江。

 もじもじと指を絡めて、俯き加減に……。

 

「ユウ先輩の……ご、ご寵愛を」

 

 その一言に、ユウは歩を進める。一歩ごとに男の存在感が増していき、由紀江の鼓動はより大きく、早くなる。

 想い人の吐息が聞こえるほど近づいた時、彼の腕が伸びてきて……そのまま身体を引き寄せられた。

 されるがまま、唇を奪われる。

 突然のことに目を白黒させる由紀江だが、すぐに状況を理解すると恍惚に顔を弛緩させて抵抗せずに身を委ねた。

 

(あぁ……)

 

 そんな幸せを胸一杯に感じながら、剣聖の意識は男への愛に溺れるのだった。

 

 

 

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