※この作品はR-18です。

真剣で肉欲に溺れなさい!S 覇王ルート【完結】   作:寝坊助

4 / 34
葉桜清楚の謎

 

 

 

 

 

 

 

 単にボディーガードと言っても、その役目は学園の中だけの話ではない。寧ろ、登校中や放課後など外出の際が最も危険といえよう。

 ここは川神。奇人変人変態が跋扈する武の聖地。

 トラブルなど日常茶飯事。一匹の変態を見つけたら周りに三十匹いると思え、という教えはあながち間違いではない。

 ただでさえ、クローンなどという金の卵なのだから。九鬼家の敵対組織、中には昨日のような輩がちょっかいをかけてくることだってある。

 よって、葉桜清楚の護衛は登校と下校中にも及ぶこととなっている。

 ほんの少しでも護衛対象の身を害することが起きようものなら、首が跳ぶ。

 そんな気の休まらない登校途中、ユウは———

 

「正直なところ、葉桜の問題は一朝一夕で暴けるもんじゃねぇな」

 

「やっぱり、そう思う?」

 

 朝方、登校時間———二人は多摩大橋を歩く。

 朝独特の爽やかな空気の中、風を纏って文学少女が自転車で現れる。

 自転車を押しながら歩く様も、なんと絵になることか。同じ登校中の男達は、その容姿に魅せられていた。

 しかし、表情筋のゆるみきっただらしない顔はすぐにしかめ面へと変わる。その原因は、柔和な笑みを浮かべる彼女の隣にいる男子生徒に他ならない。

 ユウは昨日のことを考えながら、隣を歩く清楚を横目に見やる。

 自転車スイスイ号に乗る美少女の隣にて、護衛は顎に手を置いて「ああ」と応える。その表情は、難しそうに眉間に皺が寄っていた。

 

「何せヒントが無さすぎる。偉人なんて星の数ほどいるからな。どこから手をつけていいかわかんねぇよ」

 

 ある後輩からの受け売りだが、まず正体を突き止めるには何にせよ情報が必要だ。

 いつの時代、どこの国の人間なのか。武将なのか文化人なのか、そこから切り詰めていかなければ調べるものも調べられない。

 

「私としては、清少納言か紫式部あたりなんだろうな〜って、気はするんだけど」

 

「やっぱ、義経達と同じ平安時代の人間って可能性がでかいか。それに英雄っつってもジャンルあるし。武将なのか、文化系なのか……」

 

「武将は除外でいいんじゃないかな?」

 

「いやぁ、分からんぞ。葉桜、意外と力あるし」

 

 規格外な弁慶や義経がいるせいで基準がぼやけてしまうが、清楚は相当の力を持っている。

 現に今も、昨日の戯れ合いで小突かれた肩がズキズキと痛む。

 

「何だかおかしいの。川神に来てから、力が溢れてくるような……」

 

「そう落ち込むなって。何せ情報が少なすぎるんだから、身近な特徴から紐解いていこうぜ」

 

 などと、なんと仲睦まじいやりとりだろうか。

 会話の内容は聞き取れないが、シュンっ、と表情を落とす清楚をユウが笑い慰める。

 見方によれば、いいとこのお嬢様と従者。

 もしくは、付き合いたてのカップル。

 もしくは、美女と野獣。

 この仲の良さで、出会ってからまだ数日だというのだから距離感のエグさが目に見える。

 その可憐な容姿と清楚な立ち振る舞い、川神の地では希少な慎みのある美貌は、大勢の男子生徒の胸を射抜いた。すっかり葉桜清楚の虜となり、既に百代と二分するファンクラブまで出来上がっているほどに。

 どうにかしてお近づきに、あわよくば……と。花の青春を送る男達が、そのような欲望を持つのも致し方ない。

 そんな彼女の定位置に収まった水城ユウに、血に染まった眼光を向けるのはさも必然といえよう。

 

「ヂグジョー!なんなんだよあれズル過ぎんだろ⁉︎みんなが仲良くなりたい清楚先輩を独り占めとか!」

 

「くそッ、位置が悪い!水城先輩が邪魔でいい構図の写真が撮れねぇよぉ〜‼︎」

 

「お前らみたいなのを寄せ付けないためなんだろうな……。凄い、効果抜群だな。まるで虫除けだ」

 

「俺様が虫だって言いてぇのか大和ゴラァ⁉︎」

 

「同学年で、同じクラスで、実力者で、邪な感情がないもの。ボディーガードとしてピッタリだわ、ユウ先輩」

 

「……しょーもない」

 

 憤怒、嫉妬、殺意……。ドブ水の方がまだ綺麗に見える。負の感情が凝集された視線を向けられようとも、本人はどこ吹く風のように清楚と会話を続けている。

 そこに一切の緊張もない。

 襲撃の警戒などしておらず、清楚と一緒に学園へ向かう姿勢は側から見ればあまりにも呑気。

 護衛に費やす集中力は毛ほども見られない。常に気を張り巡らせるのは無駄だとでもいうのか、思考力は彼女の正体について費やされていた。

 こんな時にトラブルでも起きたら———

 

「いっただ———ギィべぁッ⁉︎」

 

 そんな心配は無用だった。

 登校中、男の子と会話をする女子生徒。気の緩んだ無警戒の隙を狙ったひったくりは、悲鳴を上げてアスファルトへ叩きつけられる。

 バイクを走らせ、背後から通り過ぎざまにバックを奪い取るはずが。横から放たれた神速の裏拳がヘルメットを砕き割り、一撃で男の意識を刈り取った。

 悪意や敵意を持って制空権に入ろうものならば、オートで発動する容赦無い排除が待ち受ける。

 これでも壁超え。無手であろうとも、大抵の襲撃は拳一発で事前に潰せる。あとは周囲に潜んでいた九鬼家の従者達がひったくりを回収し、二人は何事もなかったかのように学園へ向かう。

 常識を超えた反応速度、対応力、そして……

 

「拳でヘルメット砕けるもんだっけ?」

 

「俺様はできるぜ!……集中して、何発か殴れば」

 

「先輩一発だったぞ。しかもノールックで」

 

「ほら、ガクト行って来なよ。昨日、先輩に決闘を申し込んで、護衛を代わってもらうんだ〜!って言ってたじゃん」

 

「お、おおおおうとも!行くぞ!俺様は!葉桜先輩を射止めるために!……けど、もぉ〜ちょい筋トレしてからにぃ〜、しよっかなぁ〜。ウォーミングアップウォーミングアップ……」

 

 味方であれば頼もしく、敵対すればこれほどまでに厄介だとは……。アタックするにしたって、隙がなさすぎる。

 なにせ大戦では、たった一人で川神百代を相手取った男なのだから。敵意を持ちはすれども、実際に挑むとなると……冗談ではない。

 もしも嫉妬に狂って突撃しようものなら、先のひったくりの二の舞となった自分のIFが頭の中に思い浮かぶ。

 あまりにも人並外れた護衛の強さを目撃して、清楚狙いの男達は縮み上がる他なかった。

 九鬼があの男を護衛に雇った理由を、しみじみと思い知らされるのだった。

 

 そんな守護者の前に立ちはだかれる者など、それこそ同じ強さかそれ以上の力を持った存在だけだろう。

 そう、まさに彼女のような。

 

「空から美少女参上‼︎」

 

 爽やかな登校に現れる、一陣の風。

 隕石と見紛う存在感と威力を持った人の形が、天空より飛来した。

 質量と落下速度を考えれば相当な勢いだが、その足が地についても揺れや振動は発生しなかった。

 ファサッと言う擬音を立てて、軽やかに二人の前へと着地する。

 

「おいお〜い、朝っぱらから随分とお熱いなお二人さん。ユウよ〜、私は失望したぞ〜。義経ちゃんに清楚ちゃん……。まさか、お前という男がここまで女タラシだったとは」

 

「女タラシよりタチの悪い奴が目の前にいる」

 

 彼女は登校中、ユウと清楚が仲良く会話している姿を目撃するや、ニィッと白い歯を見せて笑った。

 その笑みが意味するもの、それは……。大切な宝物を取られたという憤慨。そして、面白そうだから自分も交ざっちゃえ〜の遊び心。

 つまりは、いつも通りの悪ノリと牽制だ。

 清楚は突然の来訪者に驚きつつも、同学年の友達に顔を綻ばせて挨拶した。

 

「おはよう、モモちゃん」

 

「おはよー清楚ちゃん!こいつにナニかいかがわしいことされなかったか〜?暗闇に連れ込まれて、野獣のようにくんずほぐれつされなかったか〜?」

 

「野獣はお前だろーがよ」

 

 一方ユウは飛来者、川神百代を見るなりゲンナリとした顔になっていた。

 またいつものちょっかいか。そう言わんばかりに、冷めた眼差しを突きつける。

 朝からテンションの高い野獣を追い払おうとするものの、百代はまあまあと言って当然の用にライバルの横に並んだ。

 相変わらず意地の悪いニヤニヤした笑みで、馴れ馴れしく肩に手を回し顔を近づける。

 その距離は互いの息が感じられる程近く、女慣れした者ならキスも辞さない距離。

 周囲から黄色い声が上がる。川神学園の生徒は勿論、遠目で目撃した義経達までも。

 最も近くにいる清楚も、両手を口元にやり顔を赤らめて二人の動向を見守っている。

 ユウだけが、呆れた顔で百代をジト目で見据えていた。

 今度は何だ……。訴える視線に、彼をグッと引き寄せて耳元で囁く。

 

「お前なぁ、それはないんじゃないのか?私のアプローチには気づかないクセに、他の女の子をとっかへひっかえ。あれか?もうヤッちゃっていいのか?実力行使」

 

「何の話かわからねぇが、勝負なら受けて立つぞ?」

 

「シャラップ!お前って奴はほんともー!精神修行に、女恋心を学ぼうを付け足せ!」

 

「精神修行が必要なのはお前だろーがよ!」

 

 まるで決闘前の猛獣が毛を逆立てるように、威嚇するようにして二人は睨み合う。交差する瞳には、対抗心の炎がメラメラと燃えていた。

 が、その一触即発のムードをたった一声が打ち砕いた。

 

「あ、あの!」

 

 龍虎の激突に割って入るには、何と清らかなか弱い声だろう。それでも、ユウと百代にはしっかりと届いたようだ。

 声の主の方を見やる。

 彼女はまさに蛇に睨まれた蛙……。ならぬ龍虎に睨まれた兎であった。がしかし、勇気を振り絞り美しい双眼で両者を捉える。

 まるで天災を鎮める巫女のように。

 

「……二人は、付き合ってるの?」

 

 恐る恐る、そして紐解くような質問。

 その質問が投げかけられた途端、百代はこれでとかと眼を輝かせた。

 違う!そう叫ぼうとしたユウの口を塞ぎ、これ以上ない無邪気な笑みで自慢げに答える。

 

「お、やっぱそう見えちゃうか?参ったな〜、マジ参ったな〜。私達ラブラブカップルみたいってさ、ユウ〜❤️」

 

「マジで参るわ。お前はいい加減、元のメンバーのところに帰れぇ‼︎」

 

 とうとうユウの怒りが爆発する。

 肩を組んでくる腕を掴み、回転を加えた一本背負で遥か向こう側へと投げ飛ばした。

 アスファルトに叩きつけるのではなく、離れたところで此方の様子を見ている風間ファミリーに向けてテイクアウト。

 本来ならばこの程度の技、簡単にすり抜けることができるのだが、「今回はこれぐらいにしてやるか……」と呟き撤退する武神。

 そこは川神院の跡取り娘。

 華麗に身を翻し、何事もなかったように着地。その紅い眼光はユウ……。ではなく、葉桜清楚を捉えていた。

 

「ふっ」

 

「ッ⁉︎」

 

 ほんの一瞬、交差する視線。

 誰にも気づかれない、武神の怪しい笑みは清楚の肩をビクリッと震わせた。

 その反応に満足すると、百代はユウに視線を移し、またニヤリと笑う。

 そして、そのまま踵を返して走り去った。

 嵐のように現れては過ぎ去っていく武神を見送りながら、ユウは深いため息を吐く。

 

「ったく、朝っぱらから無駄な体力を……。悪いな葉桜、朝から騒がしくて。慣れてくれ」

 

 もう、こういうのは受け入れるしかない。そう疲れ切った顔で振り返るユウの言葉に、清楚ははにかんで頷くのだった。

 ついさっき、激しい気のぶつかり合いが生じたとは思えない程に、周囲も登校を再開する。

 これが川神の日常なのだと。

 清楚もまた安堵の息を漏らした。

 だがしかし……。肩を組み、身を寄せ合う二人の姿は、未だに脳裏に焼きついたままだ。

 

(そっか、モモちゃん……好きなんだ)

 

 絡み方はアレだが、あれでも百代なりのアプローチなのだろう。

 川神大戦で見た、拮抗したぶつかり合いの記憶が蘇る。どちらも決して譲らない攻防、まさに対等と言える二人の関係は、対抗心や信頼の領域を超えていた。

 ぞんざいな扱いではあるが、百代を見るユウの目は、他よりも気安い。これぐらい乱暴に扱っても、こいつは何ら問題はないという現れなのだろう。

 

「いいなぁ……」

 

 誰に言うでもない独り言は、喧騒の渦の中へと消えていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーー

 

 

ーーー

 

 

 

 

 クローン編入から二日目。

 未だに見物に来る生徒は減らず。清楚の麗しい姿を目に焼き付けようと、できるならお近づきになれるきっかけを得ようと、教室の窓の向こう側には人だかりがずらずらと。

 その光景はさながら、動物園のパンダ。

 人のエゴで檻に入れられ、飼育されている動物達もこんな気持ちなのだろうか。

 その人だかりに、時折、他のクラスだけでなく別学年からも見物人が来るのだから驚きだ。

 中には如何わしいことを妄想し、鼻の下を伸ばしている男子生徒もいる。

 これだけ大勢いれば、問題の一つや二つ出てきようものだが……。考えるだけで実際に事を起こす者は一人としていない。

 なぜなら、彼女の隣には常に最強の護衛が控えているのだから。

 川神大戦での大立ち回りも記憶に新しく、一定の距離を保ち、彼女の領域を侵さないことを心掛ける。

 それがファン達による暗黙の了解だった。

 だが、やはり妬まずにはいられない。

 楽しそうに会話し、眩しい笑顔を向けられるあいつの位置が俺だったらな〜と、そんな妄想を浮かべるぐらいは自由なのだから。

 

「やっぱり、名前にヒントが隠されてると思う」

 

「私の名前?」

 

 ああ、と向かい側の席に座る清楚の受け答えに頷き、ユウは続ける。

 

「顔だったり、髪型だったり、外見的特徴以外で人を表すものは名前だからな。葉桜清楚って名前も、何か意味があるのかも」

 

 知的で上品で、彼女にはお似合いの名前だ。

 それにこの川神という土地には、武士娘という戦国の世を駆け抜けた侍達の魂を受け継いだ少女達がいる。

 それは力や血筋だけでなく、同じ名をつけられることも珍しくはない。

 クローンもそれと似たようなものなのではないか。ユウはそう考えていた。

 

「名前ってのは基本、親が子にこうあって欲しいって付けるもんだ。葉桜の名前も、英雄に因んでるんじゃないかってな」

 

「水城くん、凄い……。私、ずっと調べてたのに自分の名前のことは考えたこともなかった!」

 

 目をキラキラさせ、尊敬の眼差しを向けながら清楚はユウに言う。

 盲点も、盲点。少し頭を捻れば考えつく発想だというのに、どうして気づかなかったのだろう。

 義経と似た清楚の純粋な瞳に見つめられて、へへ……と照れくさそうに指で鼻を擦る。

 

「身近にあるからこそ気づきにくいってやつだな。俺もテレビのチャンネル変えようとリモコン探してたら、手に持ってたって時あるし」

 

「君にとって私の名前=リモコン的な扱いなの?」

 

「話戻すぞ」

 

「聞きましょう」

 

 どこか不満そうに言う清楚に、ユウは咳払いをして話題を戻す。

 

「義経達もそうであるように、葉桜清楚って名前も英雄と無関係じゃないと思うんだよ。多少ぼかしてるだけで、アナグラムだったり、伝承に因んでたり」

 

「葉と、桜……。そして清楚。やっぱり、この三つの単語に関わりが深いのかな」

 

「植物系と関係してる偉人は割といるか。でも清楚がどこから来てるのか分からねぇな」

 

「すっきりと清らかなさま……。少なくとも、戦国大名ではないことは確かだね」

 

「う〜ん、清楚、せいそ、セイソ……。清楚かぁ」

 

(な、名前呼び⁉︎)

 

 いや、わかっている。意図的ではないことは。

 だけど普段が苗字呼びなだけに、こうも名前を連呼されるのは慣れないというか、新鮮というべきか。

 だから物申すことも言えない。不整脈を起こす胸に手を当てて、顔を見せないように俯くのだった。

 でも、割と満更でもなかったりして……。

 当然、そんな二人のやりとりは周囲のクラスメイトや見物にきた生徒には丸わかりなわけで。

 

『おい、水城が清楚ちゃんを名前呼びし始めたぞ⁉︎』

 

『しかも連呼してやがる……!もうそんな関係に⁉︎』

 

『諦めるな!よく見ろ、清楚ちゃん顔を真っ赤にして怒っている。嫌がってるんだ!』

 

『お前こそよく見ろふし穴。完全に口元ニヤついてんじゃねーか』

 

『あんな美少女を独り占めしてる奴がいるらしいぜ?許せねぇよなぁ⁉︎みんなで袋にしちまおうぜ!』

 

『お前が行った後でな。言い出しっぺの法則』

 

 なかなかに醜い争いを繰り広げる、アホな男どもの茶番劇を他所に、ユウは気にせず思考に没頭する。

 お得意の認識排除というやつだ。野次馬の存在は意識から消し去り、清楚の名前について苦慮し続けている。

 そして、その思考は一つの答えを導き出した。

 

「清楚、せいそ……せいしょ……せいしょー……せいしょう……清少……。やっぱり、大穴は清少納言か」

 

「無理矢理なダジャレで決めるのやめてね」

 

 正体判明はまだまだ遠い。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーー

 

 

ーーー

 

 

 

 

 当初の思っていた通り、清楚のクローンの捜査は難解を極めた。

 本人は文化系と断言しているのだが、ユウからしてみれば彼女の身体能力は完全に武将寄りの見解だった。

 矛盾したスペックを持ち合わせている。ジャンルを決める時点から、既に手詰まりの状況だ。

 今分かっているキーワードを駆使して、国や人物の歴史や史実の小説などを読み漁り、内容を確認しながら地道に該当しそうな偉人を探す。

 取り敢えず基本的な指針はこれでいこうと、話は一応纏まりを見せた。

 だが、それでもまだ情報は足りない。名前や外見的特徴だけでなく、次は内面的な特徴を模索してみる。

 好みや美的感覚も反映されているかも知れない。

 

「好物はなにがあるんだ?」

 

「杏仁豆腐かな、学食でもよく食べてるし。子供の頃、おやつによく出てたの。だから好きになっていった感じかな」

 

「飲み物は?」

 

「おいしいお水、寝起きに飲むの。他にあえていうなら、お茶とかも好きだけど……」

 

「色は?」

 

「藤色、とか?」

 

「得手不得手なことって、あるか?」

 

「歌うのはあまり得意じゃないけど、聴くのは好きだね。恥ずかしながら、芸術関係がちょっと……」

 

「川神に来る前はどこで暮らしてたんだ?義経達とは、育てられ方に何か違いあったのか?」

 

「特にないかな……。私や義経ちゃん達は、小笠原諸島で育てられたの。だから、自然とのびのびって感じだったなぁ」

 

「環境も、特徴はないか……」

 

 好みや趣味から、偉人の伝承と照らし合わせようと思ったが、そう上手くはいかない。

 何か取っ掛かりがあればいいのだが……。と、考えていたのだが。

 腕を組み、頭を捻るユウ。

 教室の時もそうだったが、一度やると決めたらとことんのめり込むタイプだ。

 その様子を眺めていた清楚の唇は、軽く弧を描いていた。

 

「ありがとう、水城くん。こんなに親身になってくれるなんて思わなかった」

 

「言っただろ?俺も興味がある、って。それに、ハードル高けりゃ高いほど、突き止めたいって気持ちになる」

 

「そっか、水城くんって、そういう人だもんね」

 

 自然と頬が綻ぶ。

 長年に渡って辛酸を舐められ続けようと、打倒武神に心を燃やしている彼は、直面した問題が難解であればあるほどに、やる気を出すタイプだ。

 出会ってから日は浅いものの、水城ユウがどんな男の子なのか、清楚は理解を深めていた。

 不思議な気分だ。

 自分の正体を調べているのに、積もっていくのは彼の情報と親近感ばかり。空振りになったとしても、その一挙手一投足を興味深いと目が見入ってしまう。

 声も仕草も、目が離せなくなるのだ。

 

「清楚の感情値が、とても喜びで満たされています。楽しい時間だったのでしょう。礼を言います、水城ユウ」

 

「もう、スイスイ号ってば。勝手に感情チェックして……」

 

 下から聞こえた人工音声。それは、清楚が押している電動自転車から発せられたものだった。

 九鬼から譲り受けた最新式、多目的電動自転車スイスイ号。その発言に窘める清楚も、頬を赤らめているのを自覚する。

 

「乗り手の体調チェックは、基本と心得てください。私と清楚は、パートナーなのですから」

 

「これ……。ホントに自転車なんだよな?」

 

「スイスイ号はできること多いからね」

 

「そうかぁ」

 

 それだけ言って、ユウは形だけでも納得したように頷き、深く考えるのをやめた。

 いちいちツッコムの無駄だ、そう顔に書いてある。ロボットやクローンまで創り上げたのだ、今さら高性能自転車如きで驚くほどのものではない。

 

「清楚、良いのですか?」

 

「うぅん」

 

 スイスイ号に催促されて、清楚はあるものを両手でギュッと握った。視線は幾度もソレとユウの顔を行き来し、おずおずと伺うように。

 

「水城くん、これからも頻繁に情報共有したいから、その……。番号、交換しない?」

 

「ん?ああ、それもそうだな。いいぜ」

 

 えらくあっさりと了承してくれた。

 こっちはかなり勇気を振り絞ったのだから、もうちょっと照れてくれても……。と、そんな不満が頭を過るが、今はこれで良しとしよう。

 

「清楚の番号データを半径二メートルに送信中です。赤外線を受信モードにしてお受け取りください」

 

「九鬼の技術力ってすげー」

 

 スイスイ号に促されるままスマホを取り出して、連絡先を交換する。これでいつでも彼と連絡が取れるようになった。その事実に胸が弾み、思わず笑みが溢れてしまいそう。

 

「それが私の番号。よろしくね、みず……」

 

「どうした?」

 

 再び言い淀む。

 頻繁にどこか様子がおかしい挙動を見せる清楚を心配したのか、ユウは歩を止めて振り向いた。

 誰とも分け隔てなく会話する清楚が、たまにこうして口籠ることもある。誰に対してか、は想像に難くないだろう。

 幸いにも、ユウは清楚が言い淀んだことを気にする素振りは見せなかった。

 対して清楚は、深呼吸を一度深く吸って、もう一度深く吐いてを何度か繰り返し、意を決して告げる——————。

 

「えっと……。名前で、呼んでも……いいかな?」

 

 消え入りそうな声。後半からは上手く言い切れなかったが、名前で呼んでも……その言葉の羅列だけは、確かにユウの耳に届いた。

 これも彼女なりに勇気を振り絞った行動。どんな返事がきても受け止める心構えをしていた清楚だったが、彼からの返事は実にあっさりしたものだった。

 

「別にそれぐらい。確認取る必要ねぇよ」

 

「それじゃあ、改めて……。よろしくね、ユッ……ユウ、くん」

 

「ああ、よろしくな清楚」

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ーーーーーー

 

 

ーーー

 

 

 

 

「それじゃあ、ユウくん。また明日」

 

「ああ、また明日な」

 

 今日の護衛も無事に終了する。聳え立つ九鬼のホテルに清楚が入っていくのを見守って、ユウは身体を伸ばす。

 今日も特に何事もなく終わったな〜……。と、呑気な感想を抱きながらホテルに背を向けた。

 帰ったら鍛錬、百代との模擬戦、あと川神院にある歴史書も物色してみよう。

 今後の予定を組み立てながら、歩く。

 見上げると、空はすっかり黒に染まっていた。

 既に月が昇っている時間帯。それでも周囲が昼同然に明るいのは、煌びやかな街の灯りによるものだろう。そんな夜道をのんびり歩いていく。

 ……そんな時だ。

 

「よぉー、今日もご苦労だったなナイト様!」

 

 バシンッ!と背中を叩かれた。

 襲撃などではなく、ただの挨拶程度の戯れと同時に放たれた声は、カラッとした女のもの。言葉遣いは乱暴で男勝り。

 その声の持ち主が誰なのか、ユウには既に分かっていた。

 振り返れば案の定、見知った二人組がいた。

 

「ステイシー、その態度はあまりにも失礼です。本来なら、私達がするべきだった護衛を請け負ってくれているのですから」

 

「ファーック!硬えこというなよ李。こんなもんただのスキンシップだっつーの!なぁ?」

 

「ええまぁ」

 

 百代のに比べたら。然程の気に触れるようなもんじゃない。……そう答えると、金髪のメイドはほれ見ろと悪戯に笑い、黒髪のメイドは小さく息を吐いて肩をすくめた。

 九鬼家従者部隊と呼ばれる武道派メイドの二人。彼女らも水城ユウと同じく、九鬼から葉桜清楚の護衛を仰せつかっていた。

 役割としてはユウが近くで、李とステイシーはある程度の距離を取って見守ると言ったフォーメーションだ。

 強引に決められたとはいえ、同じ対象を守護するチーム。一日が終わると、たまにこうしてステイシーがちょっかいをかけにやってくる。

 

「今朝の活躍見てたぜぇ。最初はこんなガキがぁ?って思ったが、いい働きするじゃねーの」

 

「あのマープル様の直々に指名なのですから、当然でしょう。武神に匹敵する実力者……。伊達ではありませんね」

 

 二人して、水城ユウに対する評価は高かった。

 そんな彼女らの会話の中に出てきた、聞き覚えのある名前にユウはピクリと反応を見せた。

 

「マープルって、清楚の保護者ですよね?」

 

「ああ、武士道プランの最高責任者だぜ?最近の若者が〜とか、嘆かわし〜とか。いちいち間に触ること言ってくるファックなババアだがな」

 

「ステイシー、その発言はバレたらただではすみません。それに、九鬼家以外の人間に情報を与えるのは……」

 

「いいじゃねぇか。こいつも半分九鬼家みてぇなもんだろ⁉︎」

 

 相当不満が溜まっていたのか、吐き出しながらステイシーはユウの肩に腕を回して抱き寄せた。

 意図的か、はたまた無頓着なだけか。

 分厚いメイド服越しでも分かるその豊満なバストが、むぎゅっとユウの胸板と密着して形を変える。

 本人は何ら気にせず、聞いてくれ〜と寧ろ密着して愚痴を吐き出し始めた。

 

「無理矢理護衛なんてやらされてよぉ、鬱憤たまるよな〜。分かるぜ〜。あのババア、自分は全部知ったふうに周りをこき使うくせに、謎が多いの何の」

 

「それって、清楚の正体とか……?」

 

「おおよ、九鬼の中でもトップシークレットでな。あたしらも知らねぇんだけど、凄え厳重に隠してんだ。怪しいだろ?」

 

「ステイシー」

 

「へいへい」

 

 これ以上は看過できない。

 李の眼光に鋭利が浮かんだのを見て、彼女は反省の色の見えない返事でユウを解放した。

 

「厳重ねぇ……」

 

 呟く声に、興味の色が混ざる。

 清楚が帰って行った九鬼のビルに、視線だけを向けた。やはりというかなんというか、九鬼は清楚の素性について身内にさえも徹底しているらしい。

 何故そこまでして隠すのか。疑問は深まるばかりだった。

 

「やめてぇならそう言っていいんだぜ?どーせお前は巻き込まれなんだからな」

 

「いや、いいですよ別に。十分楽しいし」

 

「それは葉桜清楚の正体を探ることですか?」

 

 無表情で、ストレートに聞いてきたのは李だ。

 ああ、やっぱり護衛の二人には丸わかりだったか……。直球過ぎるその物言いに、特に驚きもせずユウは頷いた。

 はぐらかすつもりはない。どうせバレたらバレたで……。と諦めている部分もある。

 何より、今日で確信を得た。彼女らが知っているとなると、上司のマープルって人にもこの事はバレてると見て間違いない。

 それなのに何も動きがないということは……。暴かれるとは思っていないのか、それともただ放置しているだけか。

 何にせよ、咎められないのなら好きにやるだけだ。

 

「それもあるけど、あいつと一緒にいるのも悪くないんですよね。それに中途半端は苦手だ。一度首突っ込んだからには、何の英雄なのか暴かなきゃ気が済まない」

 

「要するに、惚れたか?」

 

「はは、よく分かんねーなそういうの」

 

 笑って流す。

 色恋沙汰には今まで無縁で生きてきた。

 いつだって、これだと決断したことを途中で投げ打ったことは一度たりともない。百代との勝負もそう、清楚の正体もそうだ。

 どれだけかかるか分からないが、できるまでやり続ける。非効率的とか、不器用なやり方とかよく人から言われるけど、やっぱりこの生き方が水城ユウにはしっくり来る。

 

「んじゃ、俺は稽古あるんで帰ります。お疲れっしたー」

 

「おーう、ロックな夢見ろよ〜」

 

「お疲れ様です」

 

 ステイシーは手を振り、李は丁寧な一例をして、同じ人間を護衛するチームメイトを見送った。

 

 

 

 

「なかなかロックな男じゃねぇの。川神って、女が強いって聞いてたが、ああいうのもいるもんなんだな」

 

「揚羽様からも、お墨付きを貰っていましたから」

 

 水城ユウが護衛に指名され、それを知らされた時の話……。いくら腕が立つといっても、無関係な学生を護衛につけるのはいささか不満の意見が出た。

 その部下からの進言に、九鬼揚羽は問題ない!と断言したのだ。

 

『あやつが隣にいるのならば、心配はない。実力も中身も、下手な従者より信頼に足る男だ。あやつなら、上手くやるだろうよ』

 

 結果は、その言葉の通り。今回の働きもあって、二人の懸念は解消された。不審者は事前に撃退、その実力と知名度から邪な感情を向けてくる生徒は近づくことすらできない。

 それでもしつこく絡んでくる輩には、超スピードを持ってして清楚を連れてその場から離脱。初速なら百代をも超える速さに、追いかけるどころか認識すらできるはずもなく。

 それでもしつこいようならば……

 

「あいつを嗤ってるチキン共は、脳みそファックなんじゃねーの?」

 

「結果だけを見て、その人物の全てをヒョーカする人間はどこにでもいます。ヒョーガない事です」

 

「さーて、働くか〜」

 

 

 

 

 

 

 






取り敢えず、ここまでがプロローグです
ユウと清楚、二人の物語の始まり
けどエロシーンはまだまだ先になります
もう少し待っててください


作者「いや〜、正月だから時間がたっぷりあるっていいね。執筆に余裕がある!」

天の声「もう少し有意義に使えよ…」


誤字脱字があれば、報告お願いします
お気に入り登録・感想・評価など、反応を頂ければ幸福の絶頂であります
モチベーションにも繋がりますので願いいたします



前作程の暴走はありませんが、大和との【修羅場】見たいですか?

  • 見たい
  • 見たくない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。