覇王覚醒を楽しみにしていた読者の皆様
誠に申し訳ありません
心よりお詫び申し上げます
ここから一気に物語を動かすつもりでしたが、やっぱりこれがないと『マジ恋』って気がしなくて急遽ねじ込んだ風間ファミリーサイドです
夜、とある場所に存在するビルにて。
見た目は廃ビルのようだが、入り口と内部は綺麗に清掃されており、人の気配が窺える窓からは明かりが漏れていた。
風間ファミリー 秘密基地
源義経達歓迎会の企画を依頼され、見事に成功させた直江大和の所属するこのグループはまさに今、祝杯を上げていた。
義経達はいないが、これはいわばパーティの二次会。全員が好みの飲み物が入ったグラスを手に立ち上がっていた。
「はーい、今週お疲れ様でしたーっ」
「「「「「「「「乾杯〜!」」」」」」」」
リーダー翔一の号令と共に、メンバー全員がグラスを同時に打ちつけた。ガラスの重なる音が部屋中にこだまする。重なった衝撃で内部のジュースは溢れ、床や壁に飛び散ってしまう。
だがそれを気にする者は誰もいない。
今日の金曜集会は週末の無礼講。大きな一仕事を終えた彼らは、全員が晴れやかな顔をしていた。
今日は成功の宴。
乗り越えた仲間達との、労いと祝いの場だ。
中心に設置されたテーブルには小腹を満たす菓子類と、梅屋のサービスで貰ってきた豚皿などの摘む程度の食材。川神大戦での祝いと比べたら、なんとも質素で味気ないラインナップだ。
だが今回はこれでいい。腹は既に、歓迎パーティで出された料理で十分に膨れているから。
今回の集会は歓迎会成功の打ち上げと、この七日間における近況報告の側面が大きい。
それはそれとして、はしゃいでしまうのが風間ファミリーの性。まだパーティの熱が冷め切っていないのか、翔一と一子を筆頭に皆んな依然として、今日の成功を喜び合っていた。
川神大戦の打ち上げを思い出す。因縁のSクラスとの全面戦争、敵陣営には武神。最悪の戦力差に、結束力を駆使して勝利を収めた宴を。
あの時は、疲労で一足先に川神院で眠りについた百代は欠席していたが、今回は違う。
誰一人として欠けることのないフルメンバー、風間ファミリーの本来の形でこの激動の一週間についての出来事を口々に語り合う。
「歓迎パーティはお陰様で成功したし、ほんとお疲れ様でした」
「いやぁ、今週は色々あったね!マジマジ!」
はしゃぐ翔一の言う通り、この七日間は一日たりとも色褪せることなく、いつも以上に濃い日々が続いた。そこに多くの意義と変化を齎した。
東西交流戦での、西方十勇士との戦い。
源義経達クローンの出現による、世界の激震。
そして百代のクラスに転入してきた手練れの登場。それらを起爆剤として、川神の街にはかつてない波紋が広がっていく。
それは、風間ファミリーにも少なからず影響を及ぼしていた。
百代は新たなるライバルの出現に一喜一憂している。武においても、恋においても……。
由紀江は、今日のパーティであの九鬼紋白と電話番号を交換できたらしい。まだ友達とまではいかないが、これからどんどん話していこうと意気込んでいる。実に建設的だ。
さらには卓也も、演劇部に入るとのこと。
なんでも以前、依頼で売春組織を懲らしめる際、作戦として行った女装が上手くいったことに自信がついたらしい。
新たな自分の指針を見つけたようだ。
朗報に百代も快くエールを送り、京はさりげなく普段から女装をするようにと促している。
その瞳には、ピンクの腐の感情が灯っていた。
「明るい話題が多くてめでたいなぁ」
クリスがしみじみと、この一週間の感想を呟いた。
だが、全てがそうとは限らない。
中には、失敗や挫折を味わった者もいる。
「ガクトはその香水の効果でたの?」
「お前どうでもいい事はよく覚えてるのな。全然だめだよ畜生!……オォォォ…………。ちらっ」
「そのまま泣き叫んでろ」
「うわぁんっ!」
せめて少しでも癒しを。そう期待を込めた一瞥は、無慈悲な一言に葬られた。
悲しみに暮れ、逞しい身体が床に倒れ込む。
大和に借金してでも大金を叩いて購入した香水は、ものの見事に効果を発揮しなかったらしい。
努力の方向性を変えればモテるんだがなぁ……。と、自業自得であるがその悲惨な姿を気の毒に思う。
そう、方向性を変えられれば……の話。
「クソゥ!これも全部、水城ユウ先輩って奴の仕業なんだぁ!」
「ガクト、それは流石に言いがかりだよ」
「うるへぇー!言いがかりも愚痴も吐きたくならぁ!そもそも俺様は、葉桜先輩のボディーガードを諦めたわけじゃねぇ」
まだ諦めてなかったんだ……。至極どうでもいいことで、風間ファミリーの心が一致する。
話題といえばやはり、葉桜清楚とその護衛である水城ユウは外せない。
誰もが憧れる高嶺の花、文学少女にボディーガードがつくのは至極当然。むしろ妥当だった。
彼女を守る権利を有する男として、水城ユウに白羽の矢がたったのは打って付けだろう。
だが同時に羨望と嫉妬も抱いてしまう。あの美しい少女を守れる立場にあるという、その幸運な男を……。
そして、ここは川神。学園生徒も多種多様な業の者の巣窟。中には、岳人のような未だに葉桜清楚の護衛を狙い続ける者も存在する。
自称ナイスガイな彼に、諦めという文字はない。故にこうして、仲間達に愚痴を溢しているのだが……。
そんなメンバーの想いを、ため息混じりに代弁したのはクリスだった。
「いい加減諦めろガクト。お前ではユウ先輩には勝てん」
「ユウ先輩がいなくても、岳人じゃ無理でしょ」
「うん、無理無理」
「応援くらいしてくれたっていいだろうが⁉︎俺様にだって、一つくらいはあの人に勝てるところあらぁ!」
「どこがだ?そもそも学年が違うんだが」
「学力も必要ですよね。Sクラスにならないと」
「なにより実力だ。せめて壁超えてほざけ」
「直ぐに内面が顔に出るってのもアウトだよね。葉桜先輩の匂い嗅いで、鼻の下伸びてたし」
「ナチュラルに脱ぎ癖とかあるからな」
「思考回路が女と筋肉を占めてるからなぁ」
「顔がダメよね。並んだ時につり合いが悪いわ」
「例えばそう、桜の木の下にプロテインが置いてあるって感じ」
「お前ら言い方ってもんがあるよなぁ!?」
モテない男の嘆きが部屋に木霊する。
ダメ出しにしたってこれは酷い。
半分罵倒も混じっている。
おかしいな?俺達は仲間のはずだが?
筋肉では防ぐことはできない、非物理的な口撃が島津岳人の魂を直接攻撃する。
何をどう転んでも、葉桜清楚のボディーガードに相応しくないというのは満場一致であった。
「うぅ……。俺様の筋肉は、あの人のために鍛えたといっても過言ではないのにぃ……」
「よし、そこまで言うなら耐久テストだ。耐えてみろ。か〜わ〜か〜み〜……」
「すいませんでしたぁ!」
百代が突き出した掌に、気が凝縮されていく。基地内であるため、多少威力をおさえてあるだろうが、その脅威はメンバーなら誰もが知っている。
肉体美を見せつけるポージングの屈強な身体は、技をかけようとした瞬間、文字通り光速の速さで土下座を繰り出した。
膝を折り、ゴツゴツに盛り上がった筋肉がコンパクトな丸の形へと縮こまる。まるでアルマジロだ。
掌の気を霧散させ、ほらな?と鼻を鳴らす百代。
「ユウだったら正面から真っ二つにしてたな」
「武器がない時はどうするのかしら?」
「あいつのスピードダッシュ知ってるだろ?気を溜めてる瞬間を狙って、懐に潜り込んでボディーブローだ。んでもって、内臓パァン」
「素手でヘルメットを粉砕していましたしね」
『ヘルメットの九十九神が全裸で逃げ出してたのをオラ見たぜ』
岳人の他にも葉桜清楚の護衛を狙う者は多い。
だが、水城ユウより適任な者がいるのかと問われれば、それは否だろう。
あの男にはその実力があり、何より葉桜清楚本人からも全幅の信頼を寄せられている。
正に適材適所。
故に男達は、今日も今日とて妄想するだけに終わるのだ。いつか自分が、あの護衛役を奪い取ってやると意気込みながら。
「要するに、葉桜先輩のボディーガードはユウ先輩以外務まらないということだな」
一名を除き、再び全員の心が一つとなる。
腕を組み、頷くメンバーの空気は納得と言う感情に満たされていた。
「会って日も浅いのに、凄い仲良しよねあの二人」
「いつも一緒にいるよね。でも護衛だからって、あんなに距離が縮まるもんかなぁ?」
「いんや、ひょっとするとありゃもしかして……」
卓也の疑問に、翔一が首を捻る。
いつものロマンを求める彼ならばこの手の話に対して、わかんね。と一言で終わるだろう。
だが、ある一つの話題となれば話は別だ。冒険家を目指すその冴え渡る勘は、人間関係の微細な変化を読み取った。
そう、彼もまた青春に生きる若者だからだ。
ゆっくりと開く瞼。その瞳が意中の相手に向けられ、熱い視線を受けた彼女はニヤリと笑った。
「お、気付いたかキャップ。そう……LOVEだ」
「うそだぁぁぁ、ガッ⁉︎」
聞き捨てならない。現実を否定するように起き上がった筋肉は、神速の一手によって再び床に沈む。
そして話は続けられる。
ファミリーの空気は既に、百代の放ったカミングアウトによって驚愕と緊張に染まっていた。
あの葉桜清楚が……。その可憐な美貌と、清涼な雰囲気で学園の男達を魅了し、百代と二分するファンクラブまで結成されている美少女が。
薄々予想はされていたものの、恋慕に落ちていたとは。しかもこの短期間によってである。
「にしたって堕ちるの早すぎない!?」
「これもあいつの魅力の成せる技か……。あぁん!いい男なのは分かるが、もどかしいぞぉ!」
モテない男子とは別の嘆きが打ち上がる。
武神と言われようと、そこは女。
恋する乙女の顔となり、不満を隠しきれない。だが妙に納得してしまうのも事実、それほどまでに彼は魅力的な男なのだから。
誰よりも付き合いが長く、アプローチを仕掛けてきた百代の悲痛な叫びを聞き、心中察するにあまりある。
だが二人……。同情するメンバーとは異なり、不服そうに口を尖らせていた。
またあの先輩は、女を惚れさせたのか……。軍師とリーダーは顔を顰めた。
いったいこれで何人目なのだろうか。
すぐ思いつくだけでも、川神百代を筆頭にメンバーの由紀江と、弓子、マルギッテ。果てには教師の梅子まで。
それだけに飽きたらず、最近は九鬼のメイド二人と会話をしているところも目撃されている。
それが下心なしの無自覚なのだから、恐ろしくもあり不満も感じるというもの。
「そもそも、私と言う女がいるだろう⁉︎何年もアプローチして、なんで一度も靡かない?」
「先輩の場合、アピールっていうよりいじられてる認識みたいだから……」
「やはり、川神大戦の後に条件取り付けて実力行使に乗り出すべきだったか……?」
「………………姉さん?」
「んん!……いや、なんでもない。まぁ、負けるつもりなんてないがな。恋も勝負も無敗を貫くのが、この私だ!」
「おお!お姉様が燃えてるわ!応援してる!」
「ワン子〜、お姉ちゃんの恋を応援してくれるんだなぁ〜。いい娘だなぁ〜、ホントかわゆいなぁ〜」
「うみゃぁ〜!……あ、そうだわ!」
頭をこねくり回されて、嬉しそうに笑っていた一子が突然声を張り上げた。
姉の手付きが記憶のどこかに触れたのだろうか。何か閃いたようで、その瞳を爛々と輝かせている。もし耳と尻尾があれば、ぴょこんと屹立していただろう。
「アタシ今朝、多摩大橋で走り込みをしてたのよ!そしたら、自転車に乗ったオジサンが背後から来てさ……」
それは、川神一子が体験したある出来事。
変態の高い出現率を誇る多摩大橋で起きた、これもクローンとともにやってきた“変化”の一旦であった。
レッグラリアートでその不審者を川に叩き落とした、九鬼財閥の従者の言葉を思い出す。
———礼には及びません。今の人は粛清されて当然ですから。もちろん彼は川から引き上げますので、それもご心配なく。
———これからは、九鬼財閥が街の治安をより良くしていきます。これもミス・マープルの偉大なる計画、第一歩……。
「だって!ミスマープルって何?」
「あ〜、それ私知ってるぞ。なんでも、クローンの保護者的な婆さんらしい。ユウから聞いた」
「偉大なる計画ってなんだ」
「武士道プランのことだろう?」
「それにしては何かひっかかるな」
「偉大なる計画。葉桜清楚が正体を隠している謎……。なんだか、モヤモヤしている案件は全て繋がっている気がしてならない」
手に持っていたグラスをテーブルに置き、顎に手を置いて軍師は思慮に浸る。
今の所、武士道プランは良い影響を及ぼしているのが現状だ。しかし、光があればまた影もある。計画の齎す結果が、全ていい方向へ繋がっているとは思えなかった。
軍師として仲間のため、街のために今のうちに可能性を考慮しておく必要がある。
武士道プランの責任者であり、クローンに深く関わっているらしいミス・マープル。
そして葉桜清楚と水城ユウの関係。
今まで不明瞭だったそれらが繋がり、一つ一つが大きな陰謀を孕んでいるように思えてならない。
いったいこの街で何が起きようとしているのだろうか……。今のままでは想像もつかない。
謎多き計画の存在に、首を傾げて考え込んでしまう。だがその空気を打ち破ったのは他でもない、さっきまで床に潰れていた岳人であった。
頭を悩ませる大和の肩に、太い腕が乗せられた。
「まぁそう難しいことばっか考えんなよ、大和っち。可愛い女の子が続々と転入してきたんだ。これから始まる夏に向けて、神様が用意してくれた粋なプレゼントだよなぁ」
……と、やや斜め上の回答をする。
さっきまでボロクソにやられたというのに、何という復活の速さだろうか。
流石は水城ユウ曰く、グロテスクボディ。どれだけぐちゃぐちゃに叩き潰されようと、復活して戻ってくるのは、鍛えた肉体は伊達ではない証拠だ。
「お互いアダルトな夏を過ごせるよう頑張ろうぜ!」
岳人はそう言って、大和の肩を叩いた。
この打たれ強さも、彼の美点といえば美点か……。大和は内心呆れながらも、それもそうかと思い直すのだった。
「……夏……か」
呟き、スマホに目を落とす。
人脈と情報を何よりも是とする直江大和にとって、命と同等の価値を持つ人生の核。その中に、新たなる人間との繋がりが付け足されていた。
「……今週だけでアドレス帳がかなり追加されたなぁ」
激動だった実りの大きい一週間だった。
多くの人と出会った。歓迎会では不死川心やマルギッテとも色々会話して距離を縮めた気がする。
「これから始まる本格的な夏、か」
岳人の言葉は、想いの他大和の心に熱を灯していた。訪れた変化を疑念視していたものから、高揚するものへと変わっていく。
「俺は、誰とどうしたいのかな……」
風間ファミリーの皆……。
新たに川神にやってきた面々……。
どう生きるか、どう過ごすか。
直江大和が取るべき道は……。
(姉さん……)
やはり、この人しかいない。
尊敬し、愛してやまない姉、川神百代。
彼女との関係を改めて見つめ直すことこそ、己の歩むべき道に違いない。
ずっと追いかけてきたあの背中に並び立つ、そのためにフラれてからもめげずに功績を積んできたのだから。
川神大戦では知力で勝利した。
東西交流戦でも、情報戦を制し相手の大将を追い詰めた。
今回の歓迎パーティもそうだ。人脈という十八番をフル活用し、短い準備期間ながらも最高の出来栄えに仕上げた。
その甲斐あって、九鬼紋白とのパイプを得ることができた。義経達はからも、強い関心を得られたと実感している。……古傷を抉られることはあるが。
そうだな、うん。川神大戦だとフラれたけど、これだけ立て続けに有能ぶりを見せつけたんだ。
それは、想い人にもいずれ伝わるだろう。
ああは言っているが、姉さんの中で着々と直江大和の存在は大きくなっているに違いない。
今こそ、川神百代攻略オペレーションを開始するべきだ。
しかも一番の障害である水城ユウは、あの葉桜先輩といい雰囲気ときた……。
ギュッと、両の拳に力が入る。
ニヤつきそうな顔は必死に鉄仮面を被り、体温が上昇してしまうのは仕方がないというもの。
———来てる。熱い何かを感じる。
———すごい一体感を感じる。
———今までにない何か熱い一体感を。
———風……。なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺ほうに……!
この感覚を、直江大和は知っている。
川神大戦の時もそう、東西交流戦の時もそうだ。勝利の策が軌道に乗り、無数の歯車が見事にハマった、軍師として史上の快感が全身を巡る瞬間に等しい。
あらゆる全てが、自分の掌である感覚……。ああ、今にも喜悦が胸から突き破ってきそうだ。
前回はフラれてしまったが、次はそうはいかない。このビッグウェーブを逃さない手はない。
彼女を、直江大和の魅力で堕とす時がきたのだ。
やがて対等となり、並び立つその立ち位置は舎弟から、パートナーへ。パートナーから、恋人へ。恋人から……夫婦へ。
「っぷはー!美味いもう一杯!」
「うぉ⁉︎大和すげー飲みっぷりだな!」
「これが飲まずにいられるか!ガクト、お前のいう通りだ!俺達の夏はこれから始まるんだ!」
葉桜先輩、俺は応援しますよ!
その魅力で水城ユウを堕としちゃってください!
風は自分に吹いている、それを実感しながら———金曜集会は、遅くまで行われるのだった。
次回、ガチで覇王覚醒です
天の声「それ言って目的通りになった試しねぇけどな。R-18なのに全然エロにいかねぇし」
う、うるへぇ!
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前作程の暴走はありませんが、大和との【修羅場】見たいですか?
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