試験会場に着いた王我が廊下を歩いていると何やらトラブルが起きているようだった。
「あ、受験生の天道王我君ですか?」
試験官の女性教師が声をかけてきた。
「ええ、そうですが…何がありましたか?」
王我は「何か」ではなく「何が」と訊いた。
「それが実技試験担当が試験で事故を起こしてしまって失神してしまったんです。あ、怪我は大したことない軽傷なんですけど…ただ試験官がいないと試験が行えなくて私はデータの計測があるので離れられなくて…」
「私がやろう」
困っていたデータ計測担当の試験官の前に現れたのは長い黒髪を1本で結んだ美女だった。
「織斑教諭!」
試験官がその名を呼ぶ。
彼女の名は織斑千冬。
地上最強(ブリュンヒルデ)の異名を持ち、その名の通り世界最強のIS操縦者と言われている。
「私が代理で彼の試験官を務めます」
「え、ですがさすがにそれは…」
試験官が答えを渋る。
さすがに地上最強(ブリュンヒルデ)を生徒にぶつけるのは酷だと思ったのだろう。
「私は構いませんよ」
「ちょっと!」
試験官が止めようとする。
「どちらにせよ担当の試験官がいない以上は仕方ないでしょう」
「それは…」
それを言われてしまえば試験官は何も返せない。
「話はまとまったようだな。ではまず実技試験で使う機体を選べ」
「…こちらの3つの機体から選んでください」
試験官がタブレットを渡して画面を見せる。
試験用に選べる機体は3種類の量産型。
日本製で防御力に特化した打鉄、フランスのデュノア社製のラファール·リヴァイヴ、そして日本のシルバーキングス製のジン。
王我はジンを選んだ。
ZGMF-1017 ジン。
全身装甲で武装はブロードソード状の重斬刀、アサルトライフルの重突撃機銃。
打鉄とラファール·リヴァイヴの後に製造された第二世代後期の機体。
「ほう…では私は打鉄で相手をしよう」
千冬も機体を選んだ。
打鉄。
見た目は武者鎧のようで武装は近接用ブレード『葵』とアサルトライフル『焔備』。
試験官はもうどうにでもなれという気持ちだ。
◇◇◇
闘技場の訓練用のアリーナでISを装着した王我と千冬が向かい合っていた。
「この試験はISを操縦できるかどうか判断するものだ。制限時間は5分。どちらかのシールドエネルギーが0になるか制限時間が0になるまで行う」
千冬が試験内容は説明する。
ちなみにシールドエネルギーとは操縦者を保護するための不可視のシールドバリアーのエネルギーであり、ISの試合ではこれが0になると敗北となる。
「質問はあるか?」
「いいえ」
「では始めるぞ」
「ええ」
短い会話が終わる。
アリーナのスクリーンに制限時間と双方のシールドエネルギーが表示される。
試合開始までの5秒間のカウントが始まる。
5…4…3…2…1…0になり試合開始のブザーが鳴った。
ジンと打鉄のアサルトライフルが同時に火を噴く。
バババババと距離を取りながらお互いに撃ち合う。
千冬の回避力は言うまでもないが、王我も全く引けを取らない。
「動くか」
王我はそう呟いて重斬刀を構えて前進した。
「面白い」
千冬も『葵』を構えて応戦しようとする。
2人のブレードがぶつかり火花を散らす。
当たっては離れを繰り返す。
「やるな」
力をセーブしているとはいえここまで戦っている王我に感心する千冬。
「ならこれはどうだ!」
千冬はステージを一段階上げた。
王我が距離を取ってアサルトライフルを連射してきたのでその銃弾の雨を高速で躱しながら迫っていく千冬。
王我は後退しながら連射を続ける。
「(誘導されている)」
千冬は王我が闇雲に当てようとせず行き先を誘導しようとしていることに気づいた。
「(フッ、生意気な奴だ)」
千冬はあえて乗っかることにした。
王我が急降下したのでそれを追う。
地面スレスレで王我はバックを始めた。
千冬も地面スレスレで急降下してすぐ前進する。
王我は千冬の機体ではなく足元の地面を撃った。
アリーナの土が舞い上がり土煙を起こす。
「(目眩ましか)」
千冬は王我の次の狙いを読んだ。
土煙の外側からジンの重斬刀の突きが勢いよく放たれる。
千冬はそれを躱したと思ったが肩の装甲を掠めてしまう。
「ムッ!」
少し眉を動かした千冬はすれ違いざまにジンの右腕を切り裂く。
ここまでの受けたダメージでは王我の方が多い。
千冬は後方に急スピードで方向転換して斬りかかる。
その反応と動きは明らかに受験生相手のレベルを超えていた。
王我は背中を向けている。
このまま斬られればシールドエネルギーは尽きてしまう可能性も高い。
絶体絶命。
その時、王我の体の奥底で何かが弾ける音がした。
後ろを振り返らないままスラスターを噴射してムーンサルトのように縦回転して千冬の背後を取った。
「っ!」
千冬はすぐに振り向き際に斬りかかってくるジンの重斬刀を防ぐが王我は刃を滑らせて打鉄の横っ腹に打ち付ける。
「なにっ!」
千冬が驚くのも束の間、王我の左手にはいつの間にかアサルトライフルが握られていて引き金を引こうとしていた。
このまま撃たれるかと思ったその時。
ブーと試合終了のブザーが鳴った。
シールドエネルギーはお互いに同じ。
引き分けだった。
「おっと…俺としたことがはしゃぎすぎたか」
王我がそう口にした。
一人称が俺になっていることからこっちが素なのだろう。
2人は同時に地面に着地する。
「これで実技試験は終了だ。合否は後日通知される」
千冬は何とか冷静を装って対応する。
「ありがとうございました」
王我は礼をしてからその場を去った。
「(あれが世界で2人目の男性操縦者か)」
千冬がそんな感想を抱いていると、
「織斑先生!」
アリーナに緑色のショートカットで巨乳の童顔の女性が入ってきた。
かなり怒っている。
彼女の名は山田真耶。
千冬と同じIS学園の教師である。
普段は温厚で優しい…のだが、
「何ですかさっきの試験は?明らかに受験生相手のレベルを逸脱しています!」
どうやら真耶は途中から観ていたようで千冬が本気になっていたことに憤慨しているのだ。
「あれは…すまない。彼の実力の高さに思わず引っ張られてしまった」
千冬は素直に謝罪した。
「謝る相手が違います」
「そうだな。行ってくる」
千冬は足早にその場を去った。
◇◇◇
入学試験も終わったので着替えて王我は正門から出ようとしていた。
「天道王我!」
「何でしょうか?」
王我が振り返る。
追い付いた千冬が王我の前に立つ。
「先程の試験では大人げない真似をしてしまった。申し訳ない」
千冬が頭を下げて謝罪する。
普段の彼女の態度を知っている者なら仰天である。
「…謝罪は受け取ります。ですが再試験とかはなしでお願いします。私も疲れているので」
「分かった。ありがとう」
謝罪を受け取ってもらったことに礼を言う千冬。
「では失礼します」
王我が踵を返して歩いていく。
正門を出てすぐの道路には一台のリムジンが停車していた。
後部座席のドアの前に1人のメイドが立っていた。
「お疲れ様です。旦那様」
メイドが一礼した後、ドアを開ける。
「帰るぞ。ノクト」
「Yes」
そう応えたメイドの名はノクト·リーフレット。
黒髪ショートカットで瞳の色はエメラルドのような緑で、表情の変化は薄い。
左手の薬指にはエメラルドの指輪がはまっていた。
王我がリムジンに乗ると既に1人の少女が乗っていた。
「試験はどうでしたか?兄さん」
そう問う彼女の名は天道愛莉。王我の妹である。
髪の色は王我と同じ銀髪で長さはセミロング、瞳の色は王我と違ってグレーで、身長は低く可愛らしい外見である。
ノクトも乗ってリムジンが走り出す。
「思ったより楽しめたよ。この俺と引き分ける相手に会えるとはな」
「兄さんでも勝てない相手がいるんですか?」
「ああ、さすが地上最強(ブリュンヒルデ)の名は伊達じゃないな」
「…どうして地上最強(ブリュンヒルデ)と戦うことになっているですか」
愛莉が兄にジト目を向ける。
「愉快なトラブルがあってな。まあ、勝負は引き分けだからこれで不合格ならそれはそれでいいさ」
「No、男性操縦者である旦那様を不合格にする理由はないと思います」
ノクトが横槍を入れる。
「分かっている。冗談だ」
「Yes、知っています」
ノクトが僅かに微笑んだ。
「お前も休日に悪いな。シグナム」
王我が運転手に声をかける。
「いえ、私は大丈夫です」
そう応えた彼女の名は八神シグナム。
桃色の髪のポニーテールで、凛々しい顔をした20代の美女である。
「なんにせよ…しばらくは退屈せずに済みそうだな」
王我はそう言って窓の外を眺めたのだった。
ほとんど千冬視点になってしまった。
天道愛莉
原作:最弱無敗の神装機竜 アイリ·アーカディア
ノクト·リーフレット
原作:最弱無敗の神装機竜
八神シグナム
原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ