リンネは部屋でルームメイトのフーカと一緒にいた。
今夜は王我を呼んで待っているところだ。
そこでリンネは待機形態となっているシャイニングガンダムのネクタイピンを撫でて自身の過去を思い出していた。
◇◇◇
リンネとフーカは孤児だった。
親の顔も知らず施設で育った。
3年前、2人はそれぞれ別の里親に引き取られ、リンネはファッションメーカー『ベルリネッタ·ブランド』の社長夫妻に引き取られた。
養子のリンネは彼とその家族に温かく迎え入れられた。
都内の中学校に通わせてもらい、並外れた身体能力ですぐに注目を集めた。
事件はある日、突然起きた。
注目を浴びるリンネを疎ましく思う3人の女子が彼女に嫌がらせを始めたのだ。
肩をぶつけられたり、靴を隠されたり、落書きをされたりなどがあった。
最初は誰が犯人か分からなかったが現場のすぐ近くで陰から笑っている3人組を見て確信した。
しかし、周囲の人間には事を大きくしたくなくて話せなかった。
その内、飽きてやめるだろうと思った。
だが、その考えは裏切られた。
トイレにいる時に携帯に電話がかかってきて出た。
「お義母さん、どうしたの?」
電話をかけたのはリンネの養母だった。
「リンネ、お父さんが…お父さんが倒れて救急車で運ばれたの!」
「お祖父様が!?」
リンネの養祖父は彼女にいつも優しくしてくれていた。
しかし、ステージ4の癌を患っていて医者もお手上げで自宅療養で長いベッド生活を送っていた。
「行かなきゃ」
リンネはすぐに病院に行こうとした。
「どこ行くの?」
出口に立ちはだかったのはあの3人組だった。
「ごめんなさい。急いでいるの」
リンネはその脇を通りすぎようとする。
「無視してんじゃないわよ!」
リーダー格の女子がリンネの腕を引っ張りトイレの奥へ戻し、他の2人が両腕を拘束する。
「生意気なのよ、あんた」
リーダー格の女子が近づいてくるとリンネの首元に視線を移す。
視線の先には養母からもらった宝石を装飾したネクタイピンがあった。
「ふん!こんなもの!」
リーダー格の女子はリンネのネクタイピンを無理やり取ると便器に投げ捨てて流した。
「っ!」
それを見たリンネは大切なものを奪われて涙を流した。
「さあて、今度はあんたを「どうするおつもりですか?」っ!」
その時、入り口の方から声がした。
リーダー格の女子がバッと振り向くとそこには銀髪の美少女がいた。
「あんた、たしか隣のクラスの天道…」
「犯罪の現場は押さえました。証拠も」
銀髪の美少女はこれ見よがしに録音レコーダーを見せつける。
「犯罪って…あたしたちはちょっとふざけてただけで…」
「いじめは立派な犯罪ですよ。そんなことも分からないほどお馬鹿なのですか?」
「なんですって!」
リーダー格の女子が録音レコーダーを奪おうとしてくる。
「はぁ…ノクト」
名前を呼ばれて彼女の背後から現れた黒髪の美少女がリーダー格の女子の腕をおさえ後ろ手にして拘束する。
「くっ…この…離せ!」
銀髪の美少女は暴れるリーダー格の女子を無視して視線をリンネを拘束している2人に移す。
「まだ抵抗を続けますか?」
その冷たい眼差しを受けた2人は恐怖で手を離した。
「お行きなさい。早く」
「え、あっはい…ありがとうございます!」
リンネは深く頭を下げてから走り去った。
「こんなことをしてただですむと…」
「それはこちらのセリフです。未遂とはいえ私に手を出したと兄さんが知ればどうなるでしょうね」
「天道…あんたの兄って…はっ!」
「今頃お気づきになりましたか?フフッ…」
リーダー格の女子を見下ろす彼女…天道愛莉はまるで女王のような笑みを浮かべた。
◇◇◇
病院に辿り着くとちょうど手術が始まる前のようだ。
「リンネ!」
「お義母さん!お祖父様は…」
「これから手術があるわ。きっと助かる」
リンネの養母は何とか安心させるように声をかける。
「お祖父様…」
「大丈夫よ」
声が聞こえて振り向くと手術衣を着た女医がいた。
彼女はリンネに目線を合わせて屈むとこう言った。
「私、失敗しないから」
「…お願いします!お祖父様を助けてください!」
「ええ、もちろん」
女医はそう言って微笑んだ。
「シャマル先生、そろそろ」
助手に呼ばれて女医は手術室に入った。
◇◇◇
手術が始まってから1時間が経過した。
祈るように手を組んでいると手術中のランプが消灯した。
手術室のドアが開いて女医が出てくる。
「先生、お祖父様は…」
リンネが女医に駆け寄って訊く。
「大丈夫。腫瘍は根治したわ」
それを聞いてリンネは安心して涙を流した。
「よかった…よかったっ…」
泣き崩れて膝をつくリンネ。
「オペは終わったか?」
現れたのはリンネと同い年くらいの銀髪の美少年だった。
「理事長、いらしてたんですか?」
「ああ、これをこいつに渡しに来たんだ」
そう言って取り出したのはリンネが着けていたネクタイピンだった。
「それ…」
「拾った。お前のだろ」
「はい。でもどうして…あっ」
ネクタイピンを受け取ったところでリンネは気づいた。
少年の服がところどころ濡れていることに。
きっと下水道からわざわざ探したのだろう。
「ん?まだ臭うか?」
少年は服の匂いを嗅いで確認する。
「フフッ…ちょっと」
リンネは涙を流しながら笑った。
「あの…ありがとうございます」
「フッ、糞にまみれるくらいどうということはない。それとご苦労だったシャマル」
「はい。理事長」
「あの…理事長って…」
「この病院の名前は?」
「天道大学病院…あっ」
「そういうことだ。じゃあな」
そう言って銀髪の美少年…天道王我は去った。
これがリンネと王我の出会いである。
「ありがとう」
最後にリンネはそう言った。
◇◇◇
それから1ヶ月後、養祖父が退院して自宅にいると来客がきた。
来客は王我だった。
「あ、この前の…」
彼の顔を見たリンネはなぜか胸がドキドキした。
「よぉ、じいさんも元気そうだな」
「わざわざいらしてくれたのかい?」
「うちの子会社の身内なんだ。当然だ」
「ありがとう。だがそれだけじゃないんだろう?」
「さすが元社長だな。今日はあんたの孫娘に用があって来た」
「私?」
話を振られると思っていなかったリンネは首を傾げる。
「ああ、単刀直入に言えばスカウトしに来た。うちの会社に」
「まさかシルバーキングスに?」
目を見開いて驚く養祖父。
「IS適性判定Aだったんだってな。だからうちのテストパイロットとしてスカウトしようと思って。もちろん本人の意思は尊重する。強制された意思なんて無意味だから…」
「やります」
王我の話を遮ってリンネが答えた。
「リンネ…」
「お祖父様を救っていただいた恩を返したいという気持ちもあります。それに私はこの人についていきたい。強くなりたいです」
そう答えるリンネの眼からは強い意思が表れていた。
「そうか。じゃあ後日連絡するから親とも話し合え」
「はい!」
リンネは喜んで返事した。
王我は部屋を出る前に立ち止まってリンネの方に向いた。
「ああ、それもお前をいじめた3人だがな…退学したよ。自主的にな」
そう言って含みのある笑みを浮かべた後、王我はその場を去った。
「リンネ」
「はい」
「言いたいことははっきりと言葉にしなさい」
「お祖父様…ごめんなさい」
リンネはいじめのことを相談しなかったことは謝った。
「いいや、私の方こそ気づいてやれなくてすまなかった」
「いえ、私の方こそ…」
「いやいや私が…」
それからしばらくリンネと養祖父の謝罪の応酬は続いた。
その夜、リンネは養父母に相談してシルバーキングスのスカウトを受けることを承諾してもらった。
というかノリノリだった。
後日、王我が直々迎えに来て本社に連れていかれるとそこのトレーニングルームでコーチのジル・ストーラに出会い、そしてフーカに再会した。
ジルのトレーニングは過酷で嘔吐もした。
それでも確実に強くなっていくのを感じた。
王我に流派·東方不敗を教えられフーカはゴッドガンダムを、リンネはシャイニングガンダムを専用機として渡された。
リンネはシャイニングガンダムの待機形態に自身のネクタイピンを選んだ。
家族や王我との思い出がつまった大切なものである。
ジルのすすめで格闘技の大会にも出場し優勝、世界大会にまで行ってチャンピオンにもなった。
『破壊神リンネ』という異名は納得いかなかったが。
インターミドルも三連覇してIS学園に転校して現在に至る。
◇◇◇
「フフッ…」
「どうかしたんじゃ?リンネ」
自室で過去を思い出して笑っているとフーカに声をかけられた。
「なんでもないよ。フーちゃん」
「そうか?ならよいが…」
「それよりそろそろ王我さんが来る頃だよ」
「そうじゃな。楽しみじゃ」
2人が楽しそうに話しているとノックの音がした。
「「来た!!」」
2人がドアに駆け出して開けると王我がいた。
「よぉ」
王我はそう言って夜の挨拶をした。