「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散」
午前の実習が終わり、昼休みとなった。
「それで兄さんは今日はどうして中庭で昼食なんですか?」
愛莉が王我に訊く。
中庭にいるのは王我、愛莉、ノクト、フェイト、はやて、直葉、フーカ、リンネ、セシリア、そしてシャルルとなかなかの大所帯だった。
「俺じゃなくセシリアに聞け。今回の主催者にな」
「セシリアさんに?」
「僕もいいのかな…」
シャルルは困ったような顔をしていた。
「こほん…呼んだのは王我さんだけだったのですがまあいいでしょう。今日は王我さんにわたくしの手料理を食べて欲しいのですわ」
わざとらしく咳払いして手に持っているバスケットを開けると中にはサンドイッチが並んでいた。
「どうぞ…」
セシリアが上目遣いで王我にバスケットを渡す。
王我はサンドイッチを掴んで食べた。
「あむっ…んっ…うん…まずいな」
「ガーン」
王我の感想にセシリアはショックを受けた。
「す、ストレートだね…」
シャルルが苦笑いする。
「最低ですね」
「Yes、さすが旦那様。鬼畜です」
愛莉とノクトが非難する。
「こういうのは…あむっ…ちゃんと言わなきゃ…あむっ…意味ねぇんだよ」
「アハハ、文句言いながら食べてる…」
フェイトが苦笑いする。
「食べ物を粗末にするつもりはねぇからな。フードロスは世界でも問題になってるからな………はやて」
「なんや?」
「こいつに料理を教えてやれ」
「ええよ」
はやては即答で承諾した。
「はやてさんが?」
「はやての料理は滅茶苦茶うまいぞ。うちではオカンて呼ばれてることもある」
「誰がオカンや。セシリアちゃんもそれでええか?」
「え、ええ…よろしくお願い致しますわ」
はやてがツッコミを入れてからセシリアに訊ねると、セシリアは戸惑いながらも受け入れた。
「それより早く食べよう。お昼休みなくなっちゃう!」
「そうじゃ。お腹ペコペコじゃ!」
直葉とフーカが弁当箱を開けるとそのボリュームは運動部男子並だった。
「お二人とも…すごい量ですわね…」
女子が食べるとは思えない量にセシリアは圧倒されていた。
「運動するならこれくらい食べないとね!」
「ごはんはパワーの源じゃ!」
2人はバクバクと弁当を食べている。
「いつもこんな感じなの?」
シャルルが王我に訊ねる。
「こんなもんだ」
結局、王我はセシリアのサンドイッチを完食した。
◇◇◇
午後の実習の前、シャルルがトイレに行った後、男子更衣室に入ると先に王我がいて着替え終わっていた。
一夏はまだ来ていないようだ。
「シャルルか」
「早いね」
「ああ」
王我はロッカーを閉めると、
「…この前、本で読んだんだが…」
「ん?」
「名はその存在を示すものだ。それが偽りだとしたら…それは存在そのものが偽りということになる…って内容なんだがどう思う?」
「え、えっと…ちょっと僕には難しすぎて分からないかな…」
シャルルは困ったような反応で返す。
「そうか…すまない。忘れてくれ」
そう言って王我は更衣室を出てステージに歩いていった。
1人更衣室残ったシャルルの表情はどこか苦しそうだった。
◇◇◇
その夜、シャルルの部屋は王我と同室になった。
一夏が自分の時は反対してたのになんでシャルルはいいんだと抗議していたが学園側からは軽く流された。
「俺のベッドは窓側でお前はドア側だ。俺は夜はだいたいラボにいるから好きにしろ」
「ラボ?」
何のことだろうと首を傾げるシャルル。
「あれだ」
王我が窓の外に見える大きな建物を指差した。
「俺のラボ」
「え、ラボってもっと小さいものじゃ…」
「一部の土地を俺が買い取った」
「…」
やることが規格外過ぎて言葉を失うシャルル。
「…アハ…アハハ…すごいな…」
そう呟くシャルルの表情はすぐれない。
「どうした?顔色が悪いぞ」
「そ、そんなことないよ!大丈夫大丈夫!」
シャルルは慌てて手を振ってごまかす。
「そうか。じゃあ俺は行くから」
そう言って王我は部屋を出た。
残されたシャルルは部屋に置いてある王我の荷物に一瞬、視線が動いたがすぐに首を横に振ったのだった。
◇◇◇
翌日の放課後、直葉が竹刀袋を持って席を立ち上がった。
「行くのか?」
王我も席を立って訊く。
「うん。本当は昨日行くつもりだったけどタイミングがなかったから…それで王我さん、見てもらえますか?私の成長を」
「いいぞ」
王我は直葉のある一部分を見る。
「そっちじゃないです!///」
直葉は胸をかばって後ずさる。
「分かってるよ」
「むぅ…」
直葉はジト目で王我を睨むが、すぐに気を取り直して教室を出た。
向かった先は1年1組。
「すみません。篠ノ之箒さんはいますか?」
「私に用か?」
箒が席を立って出迎える。
「お願いがあります」
「お願い?」
「私と試合をしていただけますか?」
「試合だと?」
箒が怪訝な目をする。
「お前は専用機持ちだろ。生憎私は専用機を持っていない。勝負には…」
「あ、すみません。ISではなく剣道の試合です」
直葉は背中の竹刀袋を見せる。
「剣道…なんだ…分かった。受けて立とう」
「ありがとうございます」
「なんだ箒、剣道やんのか?」
箒の後ろから一夏が口を挟んできた。
「ああ…そうだ。お前も来い。最近たるんでいるようだからな。よく見て学ぶといい」
「いや俺は…」
「いいな?」
箒が鋭い目で一夏を睨む。
「…はい」
一夏は肩を落として返事した。
「よし。そうと決まればいくぞ」
「はい」
直葉と箒は剣道場に向かい、一夏はその後ろをとぼとぼついていった。
◇◇◇
剣道場に着くと王我が外で待っていた。
「よぉ」
「お前も見学か?」
箒が訊ねる。
「ああ、直葉がどうしても見て欲しいと言うもんでな」
「そこまでは言ってないです」
王我の言葉を直葉が否定する。
「まあいい。すぐに準備して始めるぞ」
「はい」
直葉と箒は防具を全て着て竹刀を片手に向かい合う。
「ひとつ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「私のこと、覚えてますか?」
「?…いや」
直葉の問いに箒は少し考えた後、答えを返した。
「そうですか…始めましょう」
「ああ」
「なら審判は私がやろう」
その声と共に現れたのは千冬だった。
「千冬ねごがっ!」
「織斑先生と呼べ。何度言わせれば分かる」
名前を呼んだ一夏の顔に千冬の出席簿が飛んできた。
「バカは放っておいて。どうだ?」
「「お願いします」」
2人は千冬の審判の自薦を受け入れた。
「よし」
千冬は審判の位置に立つ。
「両者、礼!」
千冬の号令に2人は礼をしてから竹刀を構える。
王我は直葉側、一夏は箒側で正座している。
「はじめ!」
試合開始の合図と共に攻撃を仕掛けたのは直葉の方だった。
「っ!」
その速度に箒は驚き、なんとか竹刀で受ける。
「(速い…それになんて重さだ…)」
箒も己の実力に自信があるが、直葉は全く引けを取らない。
箒は竹刀を弾いて距離を取り、強く踏み込んで前に出る。
「せえいっ!」
気合いの声と共に放たれた上段斬りは直葉に止められた。
箒はそこから中段斬りに切り替えるが、直葉は避けながら胴打ちを放つ。
「(抜き胴っ!だが…)甘い!」
箒は直葉の一撃を下段斬りで上に弾いた。
直葉は弾かれた反動を利用して上段斬りを放つ。
「(この構え…どこかで…)ぐっ!」
箒はなんとか竹刀を横に構えて受け止めるが、重い一撃に押され始める。
「くっ…はあっ!」
箒は竹刀を弾きつつ後退。
「はぁ…はぁ…(さっきの構え…この気迫…この女、たしか名前は…桐ヶ谷…直葉……桐ヶ谷?)」
箒は息を切らしながら目の前の相手に既視感を感じていた。
「そうか。思い出したぞ。桐ヶ谷直葉」
試合中にも関わらず箒が話しかける。
本来なら止めるべきだが非公式なので千冬もあえて止めない。
「やっと思い出してくれましたか」
「ああ、去年の全国大会の準々決勝で闘った相手。桐ヶ谷直葉」
「そうです」
「そうか…すまなかった。忘れていて…」
箒は去年の全国大会で優勝している。
ただ、それは一夏と会えなかったり、姉のせいで私生活が滅茶苦茶になったりとストレス発散も含まれていたので箒自身、対戦相手のことは覚えていなかった。
「いえ、私があなたにリベンジを挑んだのはあの日の私を超えたことを確かめるためです」
そう言って両手で竹刀を構える直葉。
「(隙がない…)」
箒も同様に構える。
一瞬の静寂の直後、両者が同時に前に出た。
「「せいやっ!!」」
パアンッ!パアンッ!
竹刀を打つ音が二度響く。
先に打ったのは、
「一本!」
千冬が手を挙げたのは直葉の方だった。
「ふぅ…」
直葉が息を整える。
2人は最後に向かい合う。
「「ありがとうございました」」
礼で始まり、礼で終わる。
和の心を大切にする2人。
「強いな」
箒は素直に直葉を讃えた。
「ありがとう」
直葉もその言葉を正面から受け止めた。
「でも私より強い人がいますよ」
「ほう…誰だ?」
「王我さんです」
そう言って王我を差す直葉。
「なに?」
「マジかよ!?」
それに対して箒と一夏が驚く。
千冬は黙ったまま王我を見ている。
「私を鍛えてくれたのはシグナムさんなんですけど…」
「シグナムって…世界大会で優勝したあの八神シグナム…」
「はい。王我さんはそのシグナムさんより強いんです!」
直葉はまるで自分のことのように自慢げに話す。
「なんだと!?」
箒は再度驚く。
箒も剣道をやる者として八神シグナムのことはテレビなどで試合を見ている。
その実力はまさに圧倒的で、千冬と互角レベル。
闘えばどっちが勝つかは分からない。
そのシグナムを王我は超えていると直葉は言っているのだ。
「直葉、前にも言ったろ。俺の剣はお前とは違う」
王我が正座からスッと立ち上がる。
「どういう意味だ?」
箒が口を挟む。
直葉の実力はさっきの試合で十分知った。
だが王我の今の言い方は上から目線に感じられて怒りを感じた。
「はぁ…お前は体で知った方が分かりやすいタイプだな。直葉、竹刀を貸せ」
「でも防具は…」
「いらん」
王我は直葉から竹刀を受け取って生身で箒と向かい合う。
「どこからでもかかってきていいぞ」
竹刀を下げて待つ王我。
明らかに隙だらけだ。
「舐めた真似を!」
箒が斬りかかろうと一歩踏み出したその瞬間………首が切られた。
「っ!」
バッと反射的に後退する箒。
「はぁ…はぁ…」
手で首を触るが何ともなかった。
「なんだ…今のは…」
箒は何が起きたのか分からなかった。
「どうしたんだ箒?」
一夏も同様の反応…といっても外から見てる分、箒以上に理解はできていないだろう。
「(一瞬だが奴の竹刀が真剣に見えた…幻覚?)」
「今度はこっちからいくぞ」
「っ!」
王我の言葉に箒が構え直す。
「秘剣…つばめ返し」
王我が一歩踏み出し左から中段斬り。
箒はそれに合わせて竹刀で返そうする。
その時、左の中段斬りと同時に右の中段斬り、上段斬りの3つの剣撃が放たれた。
「なっ!ぐっ!」
箒は左の中段斬りを防いだものの右の中段斬り、上段斬りの攻撃を受けてしまった。
「…私の負けだ」
箒は潔く敗北を認めた。
「つばめ返しって…たしか佐々木小次郎の技だよな」
一夏が歴史の知識から絞り出す。
「同時に三本の剣…そんなことが…」
目の前の現実を疑う箒。
「まあ、修行の賜物とだけ言っておこう」
王我は竹刀を肩に担いで言った。
『秘剣 つばめ返し』。
王我が前世でFateのアニメを見ていたのでその知識を活かして再現した。
とはいえ本来なら鍛練だけでどうにかなるような技ではないがそこは王我センス。
「…私もまだまだだな」
「落ち込むことはない。俺とお前達の剣は違う」
「そうだ。それはどういう意味だ?」
箒は聞きたかったことを思い出して質問する。
「お前達のように己と向き合うのが剣道なら、相手をいかに殺すかが剣術。それが俺とお前達の剣の違いだ。まあ、俺も言葉足らずだったのは謝っておこう」
「剣道と剣術…」
王我の言葉を反芻する箒。
同じ意味に聞こえて違う言葉。
どう解釈するかは人それぞれだが、箒にはその言葉の一端が理解できたような気がした。
「どちらが正しいかを論じるつもりはない。ただお前はお前の道を進めばいい」
「…そうだな。感謝する」
箒は王我に向いて礼をする。
これで終わりと思いきや、
「…殺すってどういうことだ?」
一夏がヌッと立ち上がった。
その声色はいつもと違って低い。
「お前ももう知っているだろう。俺は軍人だ。必要があれば敵は殺す」
「何言ってんだ!人を殺すってことがどういうことか分かっているのか!」
静かな剣道場に一夏の怒鳴り声が響く。
「やれやれ…平和ボケがいることを幸せと思うべきか嘆くべきか…」
王我が呆れた声を出す。
「無視すんじゃねぇ!答えろよ!」
一夏が我慢の限界に達して殴りかかる。
「よせ、織斑!」
千冬の制止の言葉も今の一夏には届かない。
「直葉、持ってろ」
「え、うわっと!」
王我が直葉に竹刀を投げ渡して、直葉が慌ててキャッチする。
「王我ぁっ!」
拳を振るう一夏に対して王我は片手で受け止めてから受け流してから後ろ手に拘束する。
「離せっぐっ…」
暴れる一夏の首に王我は手刀を打ち込んで気絶させた。
「一夏!」
箒が駆け寄ってきたので王我は彼女に一夏を渡す。
「やれやれ…これもあなたの教育ですか?織斑先生」
「すまん。私もこいつには手を焼いている。手間をかけさせてすまない」
千冬は頭に手をやりながら謝罪する。
やはり1組ではかなりの問題児のようだ。
「まあ、いいですけど…帰るぞ直葉」
「あ、はい!箒さん、今日はありがとうございました!」
「ああ、こちらこそ」
箒は胸に一夏を抱いたまま直葉にお礼を返したのだった。