7月初旬の週末の土曜。
王我、愛莉、ノクト、直葉、シャル、ラウラは現在高度10000mの上空で飛行中のプライベートジェットの機内にいた。
なぜかと言うと今日はフランス、その翌日はドイツにいくためである。
フランスへ行く理由は王我がシルバーキングスの社長として子会社であるデュノア社の社長のアルベール·デュノアに会うためであり、ドイツへ行く理由は先日のVTシステム事件の謝礼としてパーティーに出席して欲しいとお願いがあったためだ。
セシリアの時と違って今回の件は内密に出来る限度を超えているのだ。
外出届も学園に提出済みだ。
10時間のフライト時間を終えてシャルル・ド・ゴール国際空港に到着した。
「俺とシャルがデュノア社に行く。他は観光でも好きにしろ」
そう言って王我とシャルは自動運転のタクシーでデュノア社に向かった。
既にアポも取ってあるので到着後、エントランスから応接室に案内された。
秘書がノックをすると中から返事が聞こえたのでドアを開ける。
「はじめまして…ではないな」
「ええ、ですが改めて…デュノア社の社長、アルベール·デュノアです。今後ともよろしくお願い致します。天道社長」
アルベールがお辞儀をして王我を出迎える。
「父さん…」
応接室に入ったシャルが声をかける。
「シャルロット…」
アルベールが複雑な表情を浮かべる。
なにせシャルをスパイとして送り込んだ張本人なのだ。
どういう顔をすればいいのか分からないのだろう。
「感動の再会…といきたいところだが俺達は明日にはドイツに行かなきゃならない。用事を済ませるぞ」
王我がソファに座り、シャルが続くと秘書がコーヒーを出す。
「シャル、俺はコーヒー嫌いだから全部飲んでいいぞ」
王我はそう言ってカップをシャルの方へ移す。
「申し訳ありません!すぐにお飲み物を淹れ直します!」
機嫌を損ねさせてしまったと思ったのか秘書が慌ててカップを下げようとする。
「いやいい。用事はすぐに終わる」
王我が手で制すると秘書はアルベールの顔を伺う。
「天道社長がおっしゃっているんだ。下がっていい」
そう言われて秘書は大人しく退室した。
「前置きはなしで今日は仕事を依頼しに来た」
「社長自らですか?」
「ついでだ」
王我がそう言って取り出したのはある企画書だった。
「とりあえず読め」
「分かりました」
王我の言う通りアルベールは企画書を読み始めた。
「これは…新型ISの開発企画?機体名は…『ジンクス』」
「こっちで作ろうと思ったんだが、ちょっと手が回らなくてな。せっかくだからそっちで作ってもらおうと考えたんだ。得意だろ?…量産型」
「しかし、うちの会社では…」
「とりあえず初回はこっちから予算を出す。売上も8:2でそっちが8でいい。予算は無駄遣いするなよ。うちには優秀な経理部がいるからな」
「そのようなことは決して!」
アルベールは両手と首を横にブンブン振って否定する。
「冗談だ。うちがフランスにも手を伸ばしているのは知っているな?」
「はい。もちろんです」
「ただフランスとかイタリアはどこも全身装甲のISを作らないからな。美女や美少女の顔を隠すなんて考えられないってな」
「確かにそういう風潮はあります。特に企業にとってはパイロットもPRの一部ですから」
「そこに全身装甲のISを開発する企業が現れたらどうなると思う?」
王我が悪い顔をする。
「風当たりは強いでしょう」
アルベールは苦い顔をする。
全身装甲の機体など作ればフランスで孤立してしまうだろう。
「だが性能で勝ればフランスで一番の企業になれる」
「なるほど。天道社長は我が社の量産性を評価しているもいうわけですか」
アルベールは王我の意図を理解したようだ。
「第二世代型は時代遅れなんて世間から評価されているようだが、それで現役で使われているってことは高い汎用性と量産性があるってことだ」
王我はデュノア社のラファールを高く評価している。
そもそも文句があるなら使うなという話だ。
「確かにこのジンクスという機体は高い機動性と汎用性があります。完成すれば第三世代…もしかしたら第四世代と呼ばれることもあるかもしれません」
アルベールは企画書をめくって話す。
「まあ、そもそも俺は世代でカテゴリー分けしたことはないけどな」
王我は作りたいものを作っているだけで、周囲の評価など何とも思っていない。
「一応返事を聞いておこうか?」
「もちろん受けさせていただきます。必ずや完成させてみせます」
アルベールはシルバーキングスからの初仕事を快く受けた。
だが話はこれだけではなかった。
「シャル、少し席を外してくれ」
「分かった」
シャルは言う通りに応接室を退室した。
本当なら父親と話したいだろうが王我の仕事を邪魔しないように一切口を挟まなかったのだ。
「あの…まだなにか?」
戸惑うアルベールに王我はテーブルの上にある小さな装置を置いた。
「妨害電波の装置だ。盗聴対策にさっきの会話から使っていた。範囲は狭いがこの部屋くらいなら問題ない」
「なるほど」
王我の用意周到さに納得するアルベール。
「シャルの話だ」
「シャルロットの?」
「あいつをスパイとして学園に送り込んだことだが…あれはフェイクだろ?」
「っ!」
王我の言葉にアルベールの目が見開く。
「まず男性知識が浅すぎる。男の上半身を見ただけで赤面するようじゃスパイとしてはお粗末だ。演技なら大したもんだが。男装も制服にハイネックで喉仏を隠して胸はサラシで巻いているだけ。それから名前だが…偽名を使うならデュノアの方だろ。簡単に足がついたぞ」
「…」
王我の推理にアルベールは黙りこくった。
「狙いはシャルか?」
「…はい。我が社が経営難に陥っていたのは存じ上げていると思いますが…それでもラファールのデータは貴重でそれを狙う他企業も多い。特に国内では。シャルロットを人質にしようとする者も多いでしょう」
「最初、俺はスパイの話にたどり着いた時にこう思った。親が子供の尻拭いをするのはまだてめぇのケツを拭けねぇガキだからだ。間違ってもその逆はあっちゃいけねぇ。…だが、シャルを人質にされるリスクを考えているってことはあんたはシャルを大切に思っているんだな」
「当然です!…あっ、失礼しました…」
アルベールは思わず立ち上がってテーブルを叩きつけてしまい、すぐに落ち着いて座り直す。
「それからデュノア家でも妻をはじめ愛人の娘であるシャルを疎ましく思う者も少なくなく排除しようと考えている者もいます。とはいえ現状では手がなく…」
「それで学園に送り込んだってわけか」
「はい…」
アルベールが申し訳なさそうに肩を落とす。
ISが普及して女尊男卑の世界になったとは聞いたが、ここまで立場が弱いとは。
「心配するな。デュノア社はうちの子会社だ。その身内であるシャルに手を出す奴は俺が許さない」
ヤクザの親分みたいなことを言う王我。
「まさか、そのためにうちを買収したのですか?」
「ジンクスの件もあるがな」
アルベールは驚いた。
たった1人の女の子のためにそこまでする男がいるとは誰も思わないだろう。
「話は以上だ。ああ、それとシャルには秘密にしておいた方がいいだろう。あんたは辛いだろうがわざわざ嵐の中に放り込む必要もないからな」
「ありがとうございます」
王我が妨害電波の装置を持ちポケットに入れて席を立ちそう言うと、アルベールも席を立ち頭を下げてお礼を言う。
大人の抗争に子供のシャルを巻き込むわけにはいかない。
「本当に…ありがとうございます…」
アルベールの顔は見えないが声からして涙ぐんでいるのが分かる。
王我は何も言わなかった。
「…少し時間をやる。親子で思い出話でもすればいい」
王我が応接室のドアを開けるとシャルがいた。
「王我…」
「2人で話してろ」
「うん!」
シャルが応接室に入り、王我が退室してエントランスで待つことにした。
30分ほどしてからシャルがエントランスに戻ってきた。
「話せたか?」
「うん。ありがとう…王我」
「気にするな」
2人は自動運転のタクシーで今日泊まるホテルに行った。
愛莉達も夜にはホテルに来て一緒にディナーを食べて寝た。
なお今夜はヤッていない。
明日はドイツだ。