ベルリンでの激闘の夜が明けて朝がきた。
本来なら王我達は学校に行かなければならない日なのだが事情が事情なので学園に連絡して休んだ。
学園側も1週間は公欠扱いにしてくれるとのことだ。
ドイツの都市はシュトラールズントから南下してベルリンまで崩壊状態で現在はまず市民の住む場所と食事を整えるために仮設住宅の建設と食糧の配給を優先的に行われており、ベルリンではドズルがエプロンを着て配給に参加するというシュールな光景が見られた。
ちなみにあれだけの襲撃があったのに市民にも兵士にも死傷者は1人もいなかった。
国外のニュースではベルリンの奇跡ともベルリンの悲劇とも報道されている。
それでも市民達はやはり崩壊した都市を見て気を落としていた。
すると、ギレンが壇上に立ってベルリン市民と中継を通してドイツ全国民に対して演説を行った。
「国民よ!崩壊した街を見て絶望したか?何もかも失ったと?否!断じて否だ!何故なら我々は生き残った!あの絶望的な昨日を乗り越えて今日を生きている!ならば明日も生きられる!我々は負けない!我々は屈しない!我々はドイツ人だ!誇り高きドイツ人だ!ドイツは滅びぬ!ドイツは永遠に不滅だ!さあ、国民よ!下を向くな!顔を上げろ!ドイツに栄光あれ!」
ギレンが拳を高く掲げると国民達もそれに続いて「ドイツに栄光あれ!」と高らかに復唱した。
この演説が後世にも語られる伝説の演説となった。
伝説といえば王我がステラを助けた時に抱き合ったあの場面は報道用ドローンにも映っていて、その美しい愛の形は美談とされて、何人もの画家が描き上げてコンクールを行って最優秀賞が美術館(奇跡的に無事だった)に飾られることになった。
王我の許可も取ってある。
そのステラが今どうなっているかというと、まず検査したところ彼女は薬物で超人化された強化人間ということが判明した。
なので王我が保護者として日本で引き取ることになり、治療して薬物を抜いていくことになった。
今はそのミーティングをオンラインで行っている。
ステラは王我と離れるのが嫌だそうなので腕に抱きついている。
空間ウインドウに映っているのは2人。
1人は八神シャマル。
王我の部下でもあり、大学病院の院長と自衛隊の軍医を兼業している。
ついた異名が『絶対に失敗しない医者』。
病院にいるのか白衣を着ている。
もう1人の名はラクス·クライン。
ピンク色のロングヘアーでその美貌と歌声は全世界の人が魅了されるだろう。
彼女は沖縄県宮古島でシルバーキングスが建設した児童保護施設の館長を務めている。
主に親のいない子供を育て、社会に出ても通用するように教育して自立させている。
白いワンピースを着ていて、バックには宮古島の美しい海が見える。
「というわけでステラをまずシャマルのところで長期的な治療を施して、治療が終わり次第、一旦ラクスのところで預かって欲しいんだが」
《私はもちろん大丈夫です。ステラちゃんをまずは薬の成分を抜いて普通の人間に戻してあげないと危険ですから》
《わたくしも構いませんが、ステラさんはどうなのですか?》
王我の提案を承諾したシャマルとステラの意思を伺うラクス。
「やっ!ステラ、オウガといっしょがいい!」
ステラは嫌がって王我の腕に強く抱きついた。
《あらあら、どうしましょうか王我?》
頬に手を当てて困った様子を見せるラクスの仕草はなかなか様になっている。
「…ステラ」
「オウガ…」
王我が名前を呼ぶと、ステラは寂しそうな瞳で見上げる。
「ステラも俺と会えなくなるのが辛いのは分かる。俺も辛い。だけどステラがこれから生きていくためには大事なことなんだ」
王我はステラの頭を撫でながら諭す。
「でもステラ…」
「大丈夫。定期的に会いに行くよ」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「オウガだいすき!」
ステラが王我の首に抱きつく。
見た目はともかく中身は幼い子供なのだ。
「それとステラの治療が終わったらご褒美をあげよう」
「ごほうび?」
ステラが可愛らしく小首を傾げる。
「海と魚が好きと言ってただろ。だから沖縄の水族館で働けるようにしておくよ」
「すいぞくかん?」
水族館を見たことがないステラは頭にハテナマークを浮かべる。
「魚がいっぱいいるところだ」
「おさかな!やる!ステラ、がんばる!」
ステラは両手の拳を胸の前でギュッと握り締めた。
《では決まりですわね》
《ステラちゃん、待ってるからね!》
「うん!ステラ、がんばる!」
画面の向こうで手を振るシャマルにステラは手を振り返す。
ミーティングが終わり、空間ウインドウが閉じた。
◇◇◇
ドイツ国内、ある森の中。
そこにいたのはキシリア、タリア、アーサー、直葉、シャル、ラウラだった。
シャルとラウラは負傷していたが歩けるくらいには回復している。
なぜそんなところにいるのかというと、ドイツの情報部に森の中に怪しげな建物があると報告が上がったのだ。
「よろしいのですか?我々まで同行して」
タリアは部外者の自分達が同行するのはまずいのではないかと口を挟む。
というのもドイツ側から同行をお願いされたのだ。
「これからの戦いのためにも見せておいた方がいいと兄上が仰っていた」
「はぁ…それで」
タリアは後ろを歩く直葉とシャルに視線を移す。
『ミネルバ』のアーサーとドイツ軍のラウラはまだ分かるが、直葉とシャルは別だ。
強いて理由あげるなら王我の部下的な立場といえる。
つまり戦力として数えている。
「ここにはいったい何が?」
「それは実際に見た方が早い」
建物の中に入る。
電気は通っていないようで照明がつかない。
懐中電灯を持って歩き進んでいく。
内部の構造からして何かの研究所のようだ。
奥の部屋に入っていく。
「ここで何が…」
アーサーが何か言いかけた時、足元で缶のようなものを蹴ってしまいカラカラと音が響く。
「うわっ!…なんだ…ただの缶か…」
安心して懐中電灯を横のガラスケースに向けた。
その中には恐ろしいものが入っていた。
「うわあぁぁぁぁ!!!!」
アーサーが悲鳴を上げる。
そこには人間が入っていた。
10歳くらいの幼い子供が壁に寄りかかっている。
息をしていないことから既に死んでいる。
子供は1人だけではなかった。
いくつものガラスケースが並んでいてその中に子供の死体が何体も倒れていた。
「なんなんですか!これは!…うっ…うえぇっ!」
アーサーが何が起こっているのか分からず大声を上げた後、あまりにショッキングな光景に嘔吐した。
タリアが足元に落ちていたタブレットを拾う。
タブレットは内蔵バッテリーで電源がついた。
「ここは人体実験の研究所のようね。子供を拐って、あるいは造って兵士として育てている」
タリアが操作している画面をみんなで横から見る。
「造って…」
シャルは敵のアルファが言っていたある言葉を思い出す。
…戦って敵を殺す!それだけだ!そのために私らはそのために…そのためだけに造られたんだからな!…
「造られた兵士…あ、この人」
シャルがタブレットの画面を指差す。
そこにはアルファとベータのデータが映っていた。
「人造人間…それもクローンね」
「この人達と交戦しました。たしかアルファとベータと呼び合っていました」
シャルが交戦した時のことを報告する。
「アルファ…ベータ…ガンマ…オメガ…デルタ…シグマ。クローンは1体だけじゃないみたい」
「人造人間…私と同じ…」
ラウラは他人事ではないことに呟く。
彼女も造られ兵士として育てられた。
違いがあるとすれば千冬と王我に出会えたことだろう。
「キシリア少将、ここはまさか…」
ラウラがある仮説に辿り着く。
「ああ、ここは…ドイツの負の遺産だ。父上…前首相のデギンが現役の時に活動していた研究所だろう。入り口にザビ家の家紋があった」
キシリアがラウラの仮説を結論として肯定する。
ラウラはデギンが現役の時に造られ手術を施された。
ギレンはそれに関与しておらず、ギレンを恨むのはお門違いだ。
それにラウラは自分の生まれを否定しない。
王我がそれを肯定してくれたから今さら恨みもない。
「っ!この子…」
タリアが画面をタップすると出てきたのはステラのデータだった。
「強化された人間ということは分かっていたけど…まさかここで…」
「ひどい…」
直葉が怒りを必死で抑えたような表情をする。
ステラは兵士として造られたわけではない。
幼い頃に拐われ、何も分からず教育されて戦わされていた。
「恐らく父上と昨日の襲撃犯は手を組んでいた。だが何らかのトラブルがあり研究所は放棄、中もほったらかしだったというわけか」
キシリアが状況から経緯を推察する。
「それで…どうするのですか?」
タリアはこの件をどう処理するのか訊ねた。
「それは兄上が決めることだ。とりあえずここは現場保存して調査を続行する」
「分かりました。ほらアーサー、帰るわよ」
タリアは床で嘔吐していたアーサーに声をかける。
「は、はい…艦長…」
アーサーは青ざめた顔をしながら研究所を出た。
後日、ギレンに報告してこの件は全て包み隠さず公表することになった。
人造人間や強化人間のことも、主導していたのがデギンだったことも、そのデギンと今回の襲撃犯が繋がっていたことも、ドイツの闇を全て明らかにした。
普通の政治家なら隠蔽するだろうが、ギレンは逆に国民には誠意で示すべきだと考え公表した。
当然、国外のニュースは大荒れ。
ギレンを非難するものもあった。
逆に国内では高評価だった。
ギレンの誠意ある態度とリーダーシップに惹かれる者が多かった。
大荒れといえば王我。
彼がデストロイのパイロットであったステラを救出したことを糾弾する意見も少なくなかった。
シルバーキングスも大暴落…と思ったのだが、
「各国の反応はどうだ?」
『ミネルバ』の個室で王我はオンライン通信で副社長のミオリネに聞いていた。
ちなみにステラはベッドでスヤスヤ眠っている。
《思ったより損害は少ないわ。イギリスとドイツは今まで通り、イタリアとフランスは元々少ないし減ってないわ》
ミオリネが各国の契約している会社の国名を読み上げていく。
《中国とアメリカは様子見、中国は多分あのチャイナドレス女の仕業でしょうね。アメリカは分からないけど》
ミオリネがチャイナドレスと呼ぶのは多分、王留美のことだろう。
《明らかなリアクションをしてきたのは韓国とロシアね。契約解除を申し出てきている》
「ならそうしろ」
王我は即答で韓国とロシアを切った。
《来月の売上見積もりは2割減といったところね》
どうやら王我の作った人脈が会社を救ったようだ。
「そうか。中国とアメリカだが、まだ様子見でいい。近い内に状況が変わるだろう」
《それって勘?》
「勘だ」
《あんたの勘って悪い方に当たりやすいじゃない》
「まあ、今回は大丈夫だ」
《ならいいけど》
「株主は?何人離れた?」
《0よ》
その報告に飲んだ水を吹き出しそうになった。
《ニュースであんたが女の子を助けた映像があったでしょ。あれを見た株主達が、さすが社長!一生ついていきます!って》
「もはや信者だな」
王我は呆れた声を出す。
《報告は以上よ》
「分かった。もう切っていい」
《ええ》
そう言ってミオリネは通信を切った。
「…0か」
株主の狂信っぷりにさすがの王我も身震いした。
◇◇◇
そこはある研究所、ラボだった。
しかし、その場所を知る者はこの部屋の主以外誰も知らない。
ベッドの上で1人の女性が寝そべっていた。
頭には白いウサミミのカチューシャ、服はピンク色のブラジャーとショーツのみで、スタイルも良く、豊満な胸が呼吸する度に上下に動いている。
彼女の名は篠ノ之束、王我と同じくISコアを作れるこの世界に2人しかいない重要人物の内の1人である。
ベッド脇に置いておいた携帯から着信音が鳴った。
「やあやあやあ!久しぶりだねぇ!ずっとず~~~っと待ってたよ!」
《…姉さん》
電話の相手は束の実の妹、篠ノ之箒だった。
「うんうん。用件は分かってるよ。欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、代用無きもの、箒の専用機が。もちろん用意してあるよ。最高性能にして規格外仕様。そして、白と並び立つもの。その機体の名前は………『紅椿』」
通話を終えた束は携帯をベッドの上に放り投げた。
視線をパソコンの画面に移す。
そこにはドイツが襲撃されたニュースが映っていた。
画面が切り替わり、戦場で抱き合う王我とステラが映る。
束は左手に持っていたある1枚の写真を見た。
それはある砂漠の国で撮った写真。
青い翼を広げる1機のIS。
「フッ…フフ…フフフ…アッハハハ!」
彼女は誰に聞かれるわけでもなく笑い声を上げた。
ベッドのシーツは何かの液体が染み込んでいて、彼女の乳首はブラジャーの下でプックリと勃起している。
ショーツは濡れて太ももやシーツに垂れている。
「ああ…早く会いたいなぁ…フリーダムのパイロット君」
恍惚とした顔で、恋する乙女のような瞳で束は写真を大事そうに抱き締めるのだった。
ガンダムといえば演説、演説といえばギレンといっても過言ではないかも。
次回は『ミネルバ』組のエロ回となります。
八神シャマル
原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ
年齢:不詳
職業:医者
国籍:日本
補足:絶対に失敗しない医者
ラクス·クライン
原作:機動戦士ガンダムSEED FREEDOM
年齢:20
国籍:日本
役職:児童保護施設の館長