王我とシャルのデートがあった土曜日。
ラウラは1人部屋で悩んでいた。
今度の臨海学校で着ていく水着のことだ。
一応学校指定のスクール水着があるが、果たしてそれでいいのだろうか。
悩んだ末、1人ではどうにもならないとISのプライベート·チャネルを開いた。
◇◇◇
ドイツ国内軍施設。
そこではIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ·ハーゼ』…通称『黒ウサギ隊』の訓練が行われていた。
眼帯をした黒ウサギが部隊章であるこの隊は隊長のラウラをはじめ全員が肉眼へのIS用補佐ナノマシン移植者である。
元々、ラウラの眼帯は機能制御装置だったのだが、今では全員が肉眼の保護と部隊の誇りとして眼帯を装着していた。
彼女達もベルリンでの戦闘に参加していた。
目立たないが陰で国のために尽力していたのだ。
「何をしている!現時点で37秒の遅れだ!急げ!」
そう怒号を飛ばしているのは副隊長のクラリッサ·ハルフォーフ。
年齢は22、部隊の中では最高齢で、10代が多い隊員達を厳しくも面倒見よく牽引する『頼れるお姉様』。
その専用機『シュヴァルツェ·ツヴァイク』にプライベート·チャネルが入ってきた。
「…受諾。クラリッサ·ハルフォーフ大尉です」
《わ、私だ…》
「ラウラ·ボーデヴィッヒ隊長、なにか問題が起きたのですか?」
《あ、ああ…とても重大な問題が発生している…》
ただ事ではないと思ったクラリッサは訓練中の隊員へハンドサインで訓練中止·緊急招集と伝える。
「部隊を向かわせますか?」
《い、いや…部隊は必要ない。軍事的な問題ではない》
「では?」
《王我のことなのだが…》
「ああ、天道空将ですか。先日、初体験を終えたと」
クラリッサがプライベート·チャネルをしながら筆談で隊員に伝える。
「おおお~!」と十数名の隊員達が盛り上がる。
ちなみにこの部隊でラウラは人間関係の多大な問題を抱えていたのだが、先日のVT事件の直後に好きな男ができたという相談をクラリッサに持ちかけた時から全てのわだかまりが解けて消えた。
さらに先日の初体験の報告も受けていて乙女達の興奮はMAXだった。
《それでその…水着なのだが…》
「ほう、水着!そういえば来週は臨海学校でしたね。隊長はどのような水着を?」
《う、うん?学園指定の水着だが…》
「何を馬鹿なことを!」
上官相手に暴言を吐くクラリッサ。
《!?》
幸い、ラウラはそこは気にしていなかった。
「たしかIS学園は旧型スクール水着でしたね。それも悪くない…悪くはないでしょう。男子が少なからず持つというマニア心をくすぐるでしょう。だがしかし、それでは…」
拳を握りしめるクラリッサ。
ちなみにクラリッサは処女である。
《そ、それでは…》
ラウラが唾を飲む音が聞こえる。
「色物の域を出ない!」
《なっ!》
ラウラに雷が落ちた衝撃が走った。
「隊長は確かに豊満なボディで男を籠落というタイプではありません。ですが、そこで際物に逃げるようではダメなのです!」
サラッと酷いことを言うクラリッサ。
もう一度言うが、クラリッサは処女である。
《な、ならば…どうする?》
「フッ、私に秘策があります」
言葉に熱が入り、目がキュピーンと光るクラリッサ。
お気づきかもしれないがこの副隊長は頭のネジが吹っ飛んだポンコツ処女である。
◇◇◇
週明け、ついに迎えた臨海学校初日。
クラスごとに分かれたバスの中で王我は愛莉の隣に座っている。
クラスメイト達は窓から見える海の景色にテンションが上がっているが、王我は見慣れているのでノーリアクション。
「愛莉の水着楽しみだな~」
「去年と同じですよ」
「楽しみだな~」
「聞いてます!?」
王我のボケにツッコミを入れる愛莉。
走り続けたバスが到着したのは旅館前。
「それでは、ここが今日から3日間お世話になる『花月荘』だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
1年をまとめる千冬が注意を促すと、生徒達が「よろしくお願いします!」と旅館の従業員に挨拶した。
「はい。こちらこそ、今年の1年生も元気があってよろしいですわね」
着物姿の女将が丁寧にお辞儀をした。
年齢は30代くらいで大人の雰囲気を漂わせている。
「あら、こちらが噂の…」
女将の視線が王我と一夏に向けられる。
「ええ、まあ…今年は2人男子がいるせいで浴場分けが難しくなって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな…それにいい男の子達じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「感じがするだけですよ。挨拶をしろ馬鹿者」
千冬が一夏の頭をグイッと押さえる。
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします(何で俺だけ…)」
「ウフフ…ご丁寧にどうも。清洲景子です」
女将の景子が丁寧にお辞儀をする。
「不出来の弟でご迷惑をおかけします」
「あらあら、織斑先生ったら弟さんにはずいぶん厳しいんですね」
「いつも手を焼かされていますので」
口元に手を当てて笑う景子の言葉に千冬が言葉を返す。
「1年2組の天道王我です。3日間、よろしくお願いします」
王我が前に出て挨拶をする。
左胸に手を当ててお辞儀をする仕草はまるでホストのようだ。
「あらあら、こちらもご丁寧にどうも///」
一夏の時と同じ言葉だが、その反応は違った。
頬に手を当てて照れるように微笑んでいる。
周囲は「またか」と思った。
「あらいけない。それじゃあみなさん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用になさってくださいな。場所が分からなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」
景子の案内で旅館の中に入る一同。
「なぁなぁ、王我君」
はやてが王我を呼ぶ。
「なんだ?」
「王我君の部屋はどこなん?部屋割りの一覧に書いてなかったで」
その質問に周りの女子が聞き耳を立てている。
少し離れた場所では一夏も本音に質問されていた。
「俺は山田先生と同室らしい」
「山田先生と?」
「ヴィレッタ先生に確認した。山田先生の希望らしい。本来なら2組担任のヴィレッタ先生と同室にするべきなんだろうが…」
「王我君やからな…」
はやての一言に王我の女達がうんうんと頷いた。
万が一、旦那と子供がいる人妻に手を出したらまずいと思ったのだろう。
真耶は自ら生け贄となったのだ。
「織斑、お前の部屋はこっちだ。ついてこい」
一夏が連れていかれたのは千冬と同じ部屋だった。
「王我君、ついてきてください」
「分かりました」
王我も女子達と別れて部屋へ招かれた。
ドアの張り紙には『教員室』と書かれている。
中は2人部屋で広い間取り、外側の壁が一面窓になっている。
「男子は時間交代で大浴場を使ってもらいます。深夜や早朝に入りたい場合は部屋の風呂を使ってください」
「分かりました」
「あ、私と一緒に入るというのも…」
「いいですね」
「え、あっいや…そんな…でも王我君がいいなら…///」
「先生、冗談です」
「え、あっ…そ、そうですよね!私ったら生徒相手になんてことを…///」
真耶は赤くなった顔を両手で隠す。
「そ、それでは私は他の先生との連絡と確認があるので失礼します!」
その場にいることが恥ずかしくなった真耶はダッシュで部屋を飛び出した。
「…先生が走っちゃダメだろ」
誰もいなくなった部屋で呟く王我。
「…海でも行くか」
着替えを持って別館に向かう王我だった。