臨海学校 2日目。
早朝に真耶は眠りから覚めた。
「ん…んん…あれ?私…」
瞼を開いて眼鏡をかけて横を見るとそこには浴衣姿の王我が同じ布団で寝ていた。
「……っ!///」
そこで真耶は全てを思い出した。
彼女は酒を呑んでも記憶が残るタイプだった。
「わ、私…生徒になんてことを…教師失格です…」
昨夜の情事の感覚を全て覚えている。
「でも…気持ちよかった…」
王我の寝顔を覗く真耶。
酒に酔っていたとはいえあの告白は真耶の本心だ。
自身の身体も心も全て王我に捧げたのだ。
「またしたいな…」
王我に寄り添う真耶。
こうして王我の愛人はハマっていくのだ。
「いけない!」
真耶は職務を思い出す。
今日は午前中から夜までISの各種装備試験運用とデータ取りがあるのだ。
そのための準備も教師の仕事がある。
「王我君、朝ですよ。起きてください」
着替えてから王我の肩を揺すって起こす真耶。
同室の生徒が遅刻なんてしたら真耶の責任にもなる。
「ん…」
王我の目が覚めていく。
「おはようございます」
「ああ…おはよう」
その金色の瞳を見た瞬間、心臓がドクンッと跳ねるが今は教師としての仕事を全うすることにした。
「着替えて朝食に行ってください。その後、集合なので遅れないでください。私は仕事があるので先に失礼します」
このままこの場に居続けるとまたシたくなってしまうので足早に部屋を出た真耶。
真耶の背中を見送った王我はスマホにメールが受信されていることに気づいて開く。
「…なるほど」
その内容を確認した王我はそう呟いた。
◇◇◇
「全員、集まったか!」
千冬の声に「はい!」とISスーツを着た生徒達から返事が聞こえる。
一瞬、王我と真耶の目が合って、真耶が頬を赤らめるがすぐに気を引き締める。
現在の場所はIS試験用のビーチで四方を切り取った崖に囲まれている。
ドーム状でIS学園のアリーナに似ている。
「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に動け」
千冬の号令でそれぞれ移動を始める。
「篠ノ之、お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
「お前には今日から専用…」
「ち~ちゃあああん!」
千冬がまだ喋ってる途中で誰かが砂煙を上げながら走ってきた。
「…束」
「やあやあ!会いたかったよ!ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ…ぶへっ!」
飛びかかってきた束さんの顔面を片手で掴む千冬。
「うるさいぞ…束」
「ぐぬぬぬ…相変わらず容赦のない愛アンクローだね!」
拘束から抜け出した束が箒に向く。
「やあ!」
「…どうも」
箒の返事はどこかよそよそしい。
「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかな。おっきくなったね、箒ちゃん…特におっぱいが!」
ガンッ!
「殴りますよ」
「な、殴ったな!親父にも殴られたことないのに!」
日本刀の鞘で殴った箒に返す束。
ガンッ!
「二度も殴った!」
箒と束のコントが繰り広げられる。
「え、えっと…この合宿では関係者以外…」
「んん?珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら一番はこの私をおいて他にいないよ」
「え、あ…はい!そ、そうですね…」
真耶が口を挟むが束の反論に負けてしまう。
「おい束、自己紹介くらいしろ。うちの生徒達が困っている」
「え~めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ!はろ~終わり」
束はそう言ってくるりんと回った。
ポカンとしていた一同も篠ノ之束だと気づいてザワザワしだす。
「はぁ…もう少しまともに出来んのかお前は。そら1年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」
束の相手をしながら周りをよく見ている千冬。
「こいつはひどいなぁ。らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」
「うるさい黙れ」
「え、えっと…あの…こういう場合はどうしたら…」
「ああ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」
「わ、分かりました」
「むむ…ちーちゃんが優しい。束さんは激しくジェラシー…このおっぱい魔神め!誑かしたな~!」
束が真耶に飛びかかって胸を鷲掴む。
「きゃああ!な、なん、なんですか!」
「ええい!よいではないか、よいではないか!」
「お、王我君!助けてください~!」
そこで真耶は王我に助けを求めてしまった。
「はぁ…なにやってんだ」
そう口にした王我は束の背後に立っていた。
束の襟首を片手で掴むと上に放り投げた。
「のわっ…とっ!」
束は空中で一回転してから着地した。
体操なら10.10.10のスコアが出るだろう。
「束さん、金メダル~!」
何だか楽しそうな束。
「王我君~…」
王我の近くで真耶はへたり込んでいた。
周囲からも王我に視線が集中している。
「王我君って言った?」
「下の名前?」
「ってことは…」
「ええ!ヤバいヤバい!」
「さすが王我様!」
女子達はキャッキャッ楽しそうに騒いでいる。
真耶が近くの千冬ではなくわざわざ王我に助けを求めたことからどういう関係なのかある程度察してしまったのだ。
「手を止めるな!」
そこへ千冬が一喝したことでみんな作業に戻る。
王我の周りには専用機持ちが集まっていた。
束は王我の目を見ると近づいてきた。
「昨日もちょっと会ったけど…改めて初めまして…フリーダムのパイロット君」
束は王我をそう呼んだ。
その意味は何だか別の意味が含まれていた。
「…フッ」
すると、王我はいきなり束の胸を下から揉み上げた。
「やんっ♪」
束はちょっと嬉しそうに胸をかばって下がる。
あの篠ノ之束にセクハラした男は王我だけだろう。
「王我さん!」「王我!」
セシリアとシャルが同時に身を乗り出す。
「そんなに触りたいなら私の胸を…え?」「そんなに触りたいなら僕の胸を…え?」
セシリアとシャルが顔を見合わせる。
そんな2人を王我はスルーした。
対して束の視線は王我からフェイトとはやてに移っていた。
「君達…名前は?」
「フェイト·テスタロッサです」
「八神はやてです」
束に名前を聞かれて自己紹介する。
「フェイトちゃんにはやてちゃんね…」
そんな2人に束がゆっくりと近づいていくと突然両手でフェイトの胸を揉んだ。
「え、ちょ、今度はこっち!?」
「ん~何だろう。初めてなのにこの懐かしい感じ…それにこのおっぱい!」
「分かります!?うちと王我君が育てたんですよ」
3人の爆乳トリオが楽しそうに抱き合いながら百合っている。
「それで…頼んでおいたものは?」
箒がややためらいがちに訊ねる。
「おっと…それは既に準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」
本来の用事を思い出した束はフェイト(若干涙目)の胸から手を離して天を指差した。
ズズーン!っと激しい衝撃と共に金属の塊が砂浜に落下してきた。
前側がプシューと開いて中身が現れる。
「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを…」
そこで言葉を切った束は王我の顔をチラッと見た後、
「束さんお手製で最高傑作のISだよ!」
なぜか言い直して宣言した。
真紅の装甲に身を包んだその機体は動作アームによって外に運び出される。
「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!私が補佐するからすぐに終わるよん!」
「…それでは頼みます」
「堅いよ~おっぱいは柔らかいのに…」
「早く始めましょう」
「ん~まあ、そうだね。じゃあ始めましょうか」
ピッとリモコンを取り出してボタンを押す束。
紅椿の装甲が開いてパイロットを受け入れる状態に入る。
自動的に膝を落として乗り込みやすい姿勢になった。
「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるからあとは最新データに更新するだけね。さて、ピッ、ポッ、パッ♪」
束はコンソールを開いて指を滑らせて、空間ウインドウを6枚展開させて膨大なデータを見ていく。
「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるからすぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備をつけておいたからね!お姉ちゃんが!」
「それはどうも」
アピールする束に対して箒の態度は素っ気ない。
「ん~ふ、ふ、ふふ~♪箒ちゃん、また剣の腕前が上がったねぇ。筋肉のつき方を見れば分かるよ。やあやあ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」
「…」
「えへへ、無視されちゃった。…はい、フィッティング終了~超早いね~さすが私」
無駄話をしながら束は手を止めない。
紅椿が箒の体格に合わせて微調整されていく。
両腰には1本ずつ日本刀型ブレードが納刀されている。
「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ…いっくん、白式見せて」
「え、あっはい」
束が一夏を呼ぶ。
「(…来い、白式)」
空中に光の粒子が発生し集まって輪の形になり、全身の幾重にも重なって形成していく。
「データ見せてね~うりゃ」
束が白式の装甲にブスリとコードを刺すと空間ウインドウが展開される。
「ん~不思議なフラグメントマップを構築してるね。なんだろ?見たことないパターン…いっくんが男の子だからかな?」
「束さん、そのことなんだけど…どうして男の俺と王我がISを使えるんですか?」
「ん?ん~どうしてだろうね。私にはさっぱりぱりだよ。ナノ単位まで分解すれば分かる気がするんだけど…していい?」
束の視線が一夏に固定される。
君も分解するけどね、と目が言っている。
「いい訳ないでしょ」
「フリーダムのパイロット君はどうかな?」
束の視線が王我へ移る。
「アホ言え」
あくびしながら返す王我。
目の前にあの束がいて、第四世代型のお披露目なのに興味なさげ。
正直、この場から離れたいがまた真耶に助けを求められても面倒なので仕方なくとどまっている。
「にゃはは、そう言うと思ったよん。ん~まあ、分かんないなら分かんないでいいけどね~そもそもISって自己進化するように作ったしこういうこともあるよ。アッハッハ!」
「ちなみに後付装備が出来ないのは何でですか?」
「そりゃ、私がそう設定したからだよん」
「え…ええ!?白式って束さんが作ったんですか!?」
「うん、そうだよ…って言っても欠陥機としてポイされてたのをもらって動くように弄っただけだけどね~でもそのおかげで第一形態から単一仕様能力が使えるでしょ?超便利やったぜブイ。でね~なんかね~元々そういう機体らしいよ?日本が開発してたのは」
「馬鹿たれ。機密事項をベラベラとバラすな」
千冬が束の頭をベシンっと叩く。
「いたた…は~ちーちゃんの愛情表現は今も昔も過激ね」
「やかましい」
もう一発叩く千冬。
「コホン…こっちはまだ終わらないのですか?」
箒が咳払いして話に入る。
「ん~もう終わるよ~はい、3分経った~あ、今の時間でカップラーメンが出来たね。惜しい」
「んじゃ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」
「ええ、それでは試してみます」
プシュップシュッと連結されたコードが外れていく。
箒が瞼を閉じて意識を集中すると次の瞬間、紅椿は猛スピードで急上昇した。
その余波で砂が舞い上がる。
箒は200m上空まで上昇していた。
「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
《え、ええ、まあ…》
箒の戸惑った声がオープン·チャネルで束に届く。
「(おっそ…)」
紅椿の機動性を見た王我の感想はそれだった。
「じゃあ、刀使ってみてよ~右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん」
束から武器データを受け取った箒は2本同時に刀を抜く。
「親切丁寧な束お姉ちゃんの解説つき~♪雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出し連続して敵を蜂の巣にする武器だよ~射程距離はまあ…アサルトライフルくらいだね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど紅椿の機動性なら大丈夫」
束の解説に合わせて箒が突きを放つ。
同時に周囲の空間に赤色のレーザー光がいくつもの球体が現れて、順番に光の弾丸となって雲を穴だらけにした。
「(ファンネルと対して変わらねぇな)」
王我の感想は冷めたものだった。
「次は空裂ね~こっちは対集団仕様の武器だよん。斬撃の合わせて帯状に攻性エネルギーをぶつけるんだよ~振った範囲に自動で展開するから超便利。そいじゃこれ打ち落としてみてね。ほ~いっと」
束が十六連装ミサイルポッドを呼び出して一斉射撃。
「箒!」
思わず一夏が叫ぶ。
《やれる!この紅椿なら!》
箒は右脇下に構えた空裂を一回転するように振る。
赤いレーザー光が帯状の広がってミサイルを全弾撃墜した。
「ふわぁ…」
退屈そうに王我があくびをする。
似たようなことはデスサイズヘルやダブルオーライザーも出来るので珍しくないのだ。
「すげぇ…」
一夏はのんきに感心していた。
その時、
「た、た、大変です!お、おお、織斑先生!」
真耶が慌てて千冬に声をかける。
「どうした?」
「こ、こ、これを!」
真耶がタブレットの画面を見せると、千冬の表情が曇る。
「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし…」
「そ、それが、その…ハワイ沖で試験稼働していた…」
「シッ、機密事項を口にするな。生徒達にも聞こえる」
「す、すみません…」
「専用機持ちは?」
「ひ、1人欠席していますがそれ以外は…」
千冬と真耶が小声で何か話している。
明らかにただ事ではない雰囲気だ。
「そ、そ、それでは、私は他の先生達にも連絡してきますので」
「了解した…全員、注目!」
真耶が走り去って、千冬が大声で生徒達を振り向かせる。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。専用機持ちは全員集合しろ!以上だ!」
「はい!」
着地した箒が気合いの入った返事をする。
「ねえねえ、フリーダムのパイロット君」
すると、束が王我の腕をツンツンしてきた。
「何だ?」
「ちょっと話があるんだけど…いいかな?君とそっちの3人にも」
束が指差したのはノクト、フェイト、はやての3人。
「ふむ…」
王我が顎に手を当てて考える。
「織斑先生」
「何だ?」
千冬に近づいて声をかける。
「少し外れてもいいですか?ノクトとフェイトとはやても一緒に。大事な話があるみたいなんで」
王我が一瞬、束の方に視線を移す。
「いや、しかし…」
千冬の方も何か切羽詰まった状況に追い込まれているのだろう。
「話はイヤホンを通して聞いておきます。あとそっちに愛莉を置いてください」
「…分かった」
千冬は王我の提案に渋々聞き入れた。
◇◇◇
海の近くの崖の上。
サスペンスドラマなら犯人が追い詰められていく場所。
そこに王我、ノクト、フェイト、はやて、そして束の5人が立っていた。
王我達は片耳にイヤホンをかけている。
「話って何だ?」
「まずはこの写真を見て欲しい」
束が1枚の写真を見せる。
それはとある砂漠の国で撮られた青い機械仕掛けの天使…ちょうどストライクフリーダムをダウングレードしたようなISだった。
王我の表情に変化はない。
「これはね。1年前にサウジアラビアで撮った写真なんだ」
束の口調は先程の紅椿のテストの時のようなふざけていたものとは違って真剣なトーンだった。
「現地でね」
「…なるほどな」
「王我…」
フェイトが心配そうに口を挟むと王我が手で制する。
「こいつに誤魔化しは通用しない。もうほぼ確信している」
「このIS、フリーダムのパイロットは…君だよね」
束がまるで犯人特定したような顔をする。
「…ああ」
王我がそう答えたその瞬間、束が王我に抱きついた。
フェイトとはやてが驚いた表情に変わる。
「ああ…会いたかったよ。束さんの運命の人…」
束はまるで夢が叶った乙女のように呟いた。
王我が背中をポンポンと優しく叩くと我に返ったように離れる。
「あの日に撮られた画像データや情報はネットも全て削除したんだが…」
「これで撮ったからね」
束が取り出したのはチェキだった。
撮影してすぐに現像できるカメラである。
「またレトロなものを…」
呆れた声を出す王我。
「最初は衛星映像かドローンで撮影しようと思ったけど、直感的に現地で撮った方がいいと思ったんだ。誰にも見つからないようにステルス性のコートを着てね」
「それで?」
「うん。束さんはね、あの日、あの場所で何があったのか聞きたい。当事者から直接…ね」
そう言ってウインクする束。
「なるほどな」
王我は納得した。
この件は国家機密に相当する。
セシリア達、他国の代表候補生が万が一にも聞いてしまって本国から命令されたら話さざるを得なくなる。
だから当事者の4人だけ呼び出したのだ。
本来なら外部の人間に話してはいけない内容だが王我だけは例外だ。
「いいだろう。話してやる。あの日、何があったのか」
王我は話す。
1年前、サウジアラビアで起きたとある事件の話を。