1年前の春、サウジアラビアでISを使ったテロ事件が発生した。
公には出来ないので各国に秘密裏に救援を求めたが貴重なISを失うことを恐れた各国はどこも尻込みしていた。
ある国を除いて…
◇◇◇
『シルバーキングス』本社。
当時の本社は長崎ではなく東京にあった。
その社長室で王我(当時14歳)が仕事していると、
「社長、日本IS委員会の徳川代表からお電話です」
副社長のミオリネが報告してくる。
仕事中なので一応丁寧語。
王我はカーテンを閉めて空間ウインドウを開くと、
「つなげ」
王我が指示を出すとミオリネが言う通りにする。
空間ウインドウの画面に映されたのは日本IS委員会の代表、徳川である。
《急な連絡で申し訳ない。天道社長》
「用件は何だ?」
日本IS委員会の代表にも態度がでかい王我。
《実は今、サウジアラビアがテロリストの襲撃に遭っている。自国だけでは対処が難しいので藁にもすがる気持ちで他国に救援を求めているそうなのだが…》
「どいつもこいつもビビっているってわけか」
《まあ、そんな感じだ。我が国も助けたいのは山々だが自衛隊の戦力を海外に集中するわけにもいかない。そこで…》
「なるほど。大体分かった」
徳川の言いたいことを王我は理解した。
石油輸出国のサウジアラビアに恩を売りたいが自衛隊の戦力を分散して防衛力の低下は避けたい。
それで政府から徳川に王我の説得を頼まれたのだろう。
要は『シルバーキングス』の力を借りたいのだ。
「条件がある」
《条件?》
「長崎の佐世保基地と沖縄の全基地の独立指揮権が欲しい。もちろん全権だ」
王我はなんと交渉を持ち掛けてきた。
普通なら即断る内容だが、徳川は少し考えた後、
《…防衛大臣と総理に相談がしたい》
「15分待つ。その間にこちらも準備だけは進めておく」
《分かった》
そこで一旦、通信は切られた。
◇◇◇
ここからは後に徳川から聞いた話である。
日本IS委員会、その会議室に徳川を含めて10人の委員が集まっていた。
「あり得ません!いくら大企業の社長といえど民間人に軍事力を与えるなど!」
委員の1人が怒号を飛ばす。
「しかし、今私達はその民間人に頼らざるを得ない状況に追い込まれている」
それに対して徳川は冷静に返す。
「くっ…」
「とにかくまずは防衛大臣と総理に連絡を」
報告·連絡·相談。
社会人として出来て当たり前のことである。
防衛大臣と枢木スザクの父…枢木ゲンブ総理に通信をつないで状況を報告して相談した。
《…佐世保と沖縄》
ゲンブが呟く。
《…なるほど。彼の狙いが分かりました》
空間ウインドウの先でホログラムの地図を出していた防衛大臣が言った。
「それは…」
《時間がないので簡潔に言うと中国と韓国への牽制ですよ。近年スクランブル発進が増えていますしね。そこの防衛力を強化したいのでしょう。自らの手で》
防衛大臣の推理は的確で分かりやすかった。
《とはいえ民間人に軍事力を渡すのも何かと問題が多い》
「では…」
《1つ提案がある。受けるかどうかは彼次第だ》
総理はそう口にした。
◇◇◇
《条件だが承諾しよう。ただし…》
再び王我に通信をつないだ徳川がそう口にした。
「成功報酬としてだろ」
王我が先回りする。
《ああ、それと民間人に基地を与えるのは国としても体裁が悪いのであなたには形だけでも軍に入ってもらう。階級は航空自衛隊空将だ》
「2人追加してもいいか?」
《構わない。許可ももらっている。階級は…》
「それは実力を見てもらってからでいい」
「社長、準備が出来ました」
話の途中でミオリネが口を挟んだ。
「ああ、じゃあ行くか」
《やはりあなたも出るのですね。以前、IS適性があると聞いた時は驚きましたよ。それも機密にして欲しいとまで。知っているのは我が国と同盟国のイギリス、ドイツの一部の人間くらいか》
「来年の春には俺の他に適性者が現れる」
支度をしながら王我が答える。
《それは勘か?》
「勘だ。俺の勘は当たるんだ。主に悪い方だがな」
《そうか…天道王我》
徳川が名前を呼んだ。
「何だ?」
《幸運を祈る》
「ああ」
そう言い合って通信は切られた。
「飛行機は?」
「プライベートジェットを用意したわよ。一番速いの」
「よし。俺とノクト、フェイト、はやてが行く。愛莉は…」
「ここに置いとけば?状況もリアルタイムで確認したいだろうし護衛ならスレッタに頼むわ」
「なら安心だな。じゃあ、行ってくる」
王我は手を振って会社を出た。
◇◇◇
まずプライベートジェットで東京から長崎へ、このプライベートジェットは超音速の特別製で通常2時間かかるところを数十分で辿り着ける。
そして、長崎空港から佐世保基地へ移動。
基地には既に連絡がいっている。
王我達4人は『ミネルバ』に乗ってサウジアラビアへ向かった。
今はブリーティングルームで作戦会議している。
王我達4人、艦長のタリア、副艦長のアーサー、パイロットのルナマリアが集まっている。
『ミネルバ』はシルバーキングス製なので当然ここにいる者は王我のことは知っている。
ちなみにタリア、ルナマリア、メイリンはこの時には既に王我と肉体関係にある。
テーブルの上には衛星映像で入手したサウジアラビアの地図が3Dホログラムで建物や地形はもちろん人がどこにいるかも映し出されている。
「目標を確認しておこう。まずは基地や重要拠点の防衛、敵の捕縛、できなければ撃墜、軍艦を墜として退路を塞ぎ、そして人質の救助」
王我が説明する。
「問題は人質の救助ね」
タリアが口を挟む。
「敵が人質を盾にするなんてことは…」
「それは最終手段だと思います。人質を使うということは後がないって言ってるのと同じですから」
アーサーの意見をフェイトが冷静に否定する。
「とはいえ早い段階で助けておくことに越したことはないと思います」
上官のタリアがいるので丁寧な口調のルナマリア。
「となると場所を特定する必要があるな」
はやてが問題点を指摘する。
「サーモカメラに切り替えてくれ」
王我が指示を出すとテーブルの上にホログラムマップがサーモグラフィーに切り替わった。
「ここだな。やけに密集している」
王我が指差したのはある建物の屋内で点々とした温度のある物体が密集した場所だった。
「となると作戦はこうだな。まずフェイトがミラージュコロイドで先行して人質の救出。見張りがいるだろうがまあ、問題ないだろう」
「うん。大丈夫」
そう言って頷くフェイト。
「はやては軍艦を墜として退路を断て」
「分かった」
はやては頼もしい返事を返す。
「俺は敵のISの相手をする。ノクトは追撃だ」
「Yes」
「ルナマリアはミネルバで待機だ」
「ちょ、私だけ留守番!?」
ルナマリアが不満気な態度を取る。
「ミネルバを空けておく訳にはいかないだろう。という作戦でどうだ…艦長?」
まだ軍役についていない王我はこの場の最高指揮官であるタリアに問う。
「ええ、問題ないわ。その作戦でいきましょう」
「艦長!」
「ルナマリア、文句言わない。何事にもプランBは必要よ」
「…了解」
上官に言われてしまってはもはや何も言えないルナマリアは渋々従った。
「ではこれより作戦準備に入りヒトサンマルマルに作戦を開始します。一旦、解散」
タリアの号令で各々、作戦準備に取りかかった。
パイロットはISスーツを着て格納庫で待機。
『ミネルバ』が作戦区域に接近すると第一戦闘配備に移行した。
まず1人目はフェイト。
《ハッチ解放、射出システムのエンゲージを確認、カタパルト推力正常、進路クリア。デスサイズ、発進どうぞ》
「フェイト·テスタロッサ、デスサイズいきます!」
デスサイズヘルカスタムが発進直後、ミラージュコロイドで姿を消した。
《続いてウイングゼロ、発進どうぞ》
「八神はやて、ウイングゼロいきます!」
次にはやてがウイングゼロカスタムを発進させて、白い機械仕掛けの翼を羽ばたかせながらレーダーに探知されないように上昇飛行した。
《続いてフリーダム、発進どうぞ》
「天道王我、フリーダム出る!」
王我は腕と脚は白、胴体は黒、背中には青いウイングパーツが5対10枚あって翼を広げている機体で出撃した。
ZGMF-X10A フリーダム。
青き翼の天使が戦場に近づいていく。
《続いてジャスティス、発進どうぞ》
「ノクト·リーフレット、ジャスティス発進します」
最後にノクトが赤の全身装甲、背中にバックパックのようなものがあり、盾を構えるその姿は赤い騎士をイメージさせる機体で出撃した。
ZGMF-X09A ジャスティス。
フリーダムの兄弟機として開発されたISである。
たった4機のISが今、戦場に入る。
これが悪夢になることを敵はまだ知らない。
◇◇◇
王我が上から状況を見ると、テロリストのISパイロットの1人が最終防衛ラインを突破しサウジアラビア軍の司令本部の前でビームライフルの銃口を向けていた。
「いいタイミングだ」
今にも放たれそうなビームの光に司令本部の全員が死を予感しただろう
自分達の人生も国もこれで終わるのだと。
だが次の瞬間、王我が敵の真上から緑色のビームを降り注ぎ、ビームライフルを破壊した。
「なにっ!」
敵パイロットは突然のことに驚いた。
王我が真上から急降下して機体の腕パーツが切断した。
敵パイロットは一旦後退して距離を取った。
「なんだあいつは…」
突然現れた不明機に思考が止まりかけた敵のパイロットにの褐色肌の女リーダーのリベルはすぐに指示を出す。
「何を呆けている!さっさと撃ち落とせ!」
《了解!》
リベルの指示に部下が応えると、10機でビームライフルやマシンガンで一斉射撃する。
王我の体の奥底で何かが弾ける音が響く。
上昇飛行しながら躱すと敵のIS10機をマルチロックオンして両肩から赤いビーム、両腰から黄色のレールガン、右手のビームライフルから緑色のビームを一斉に撃ち放った。
それらは10機のISの腕や脚のパーツ、武装、スラスターなどを正確に撃ち抜いた。
「ば、バカな!」
リベルは口を大きく開けて驚いた。
つい数十秒前まで優勢だった。
それが一瞬で10機戦闘不能に追い込まれた。
これでテロリストのISは残り5機。
「くそ!なんなんだお前は!」
リベルより後方にいた部下の1人が突撃していく。
フリーダムに一矢報いようとしたのだろう。
しかし、その望みは叶わなかった。
斜め前方から飛んできたジャスティスのビームブーメランによって部下の機体の片腕が切り飛ばされてさらに高速で向かってきた新手にシールドタックルされて吹っ飛ばされて、体勢が崩れたところに新手の機体の両肩から緑色のビームが放たれて撃墜された。
これで残り4機。
「くっ…」
唇を噛み締めるリベル。
「こうなったら人質を使って…」
人質の見張りにはISを3機つけてある。
しかし、そこには死神がいた。
◇◇◇
フェイトは人質が囚われている建物へ侵入した。
人質は100人くらい。
見張りは3人。
フェイトは攻撃のためにミラージュコロイドを解除して奇襲を仕掛けた。
「な、なんだ貴様は!?どこから現れた!」
突然、現れた死神に敵が虚を突かれる。
「う、撃て!」
見張りの1人がマシンガンを発射して、あとの2人もそれに続く。
しかし、フェイトのスピードが速すぎて全く当たらない。
回避しつつ鎌で3機のマシンガンを全てバラバラに切り裂く。
これで人質が流れ弾に当たる心配はなくなった。
敵3人はビームサーベルに武器を替えて攻撃してくるがフェイトは真上に飛んで躱した後に回転させたビームの斬撃を3機の中心に放って切り裂く。
敵のパイロットは勝ち目のない相手にパニックになり通信で助けを求める。
「隊長!黒い…死神が…いやあぁぁぁ!!!」
「助けてください!隊長!」
「死にたくない!…」
《おい!どうした?何があった!》
部下の悲鳴に通信相手のリベルの焦った声が聞こえる。
フェイトは容赦なく鎌の三撃で敵のシールドエネルギーを全損させてISを強制解除させた。
「今だ!」
人質の中の何人かがテロリストにのしかかる。
ISなしでは多少鍛えたところで所詮女の腕力では数人の拘束を解くことはできない。
フェイトは残りの人質に無言で出口を指差す。
パアッと笑顔になった人質達は脱出した。
王我達は正体を隠さなければならないので素顔はもちろん声を聞かれることも禁止されている。
◇◇◇
これで残るISはリーダーのリベルただ1人。
「撤退だ」
後ろに方向転換して速度を上げたその時、制圧した港の軍艦から通信が入った。
《隊長!空から巨大なビームが降ってきて軍艦が次々と沈められています!》
「なにを…っ!」
リベルは港より遥か上空を見上げた。
そこにはウイングゼロカスタムが大型ビームライフルを両手で構えて下に照準を合わせていた。
「また天使…こんのぉっ!」
リベルがウイングゼロカスタムにビームライフルを向ける。
届くかは分からない。だが計画をここまでズタズタにされた彼女は怒りを爆発させるしかなかった。
引き金を引くその直前、アラートが鳴った。
後方に振り返るとフリーダムがマゼンタのビームサーベルを抜いて迫っている。
回避は間に合わない。
ビームライフルを右腕のパーツごと切断した後に背中を蹴って真下に落とした。
「うあぁぁぁ!!!」
リベルは地面に激突し数十メートル滑ってやがて止まった。
「ぐっ…私はこんなところで!」
起き上がろうとしたリベルの機体の左腕、右脚、左脚を青い翼の天使が一発ずつ順番に撃ち抜いて彼女の抵抗力を奪い戦闘終了。
この件は日本とサウジアラビアの間で極秘扱いとなり、王我にも秘匿義務が課されたが場合によっては話してよい特例が認められた。
ただし、相手は選ぶ。
さらにネットワークにあがった画像や映像のデータは全てアイが自動的に削除した。
それと『シルバーキングス』の本社は東京から長崎の佐世保へ移転となった。
もちろん本当の理由は秘密のため、会見で王我は理由を質問されてこう発言した。
「カステラが美味いから」
こうしてサウジアラビアで起きたテロ事件は幕を閉じた。
フリーダムが舞い降りたシーンは脳内BGMで『Meteor』がかかっています。