「これがあの日の真実だ。満足か?」
語り終えた王我は束に問う。
「うん!すっごく面白かったよ!」
束はキラキラした目で感想を口にした。
「私はね、あの日あの時に戦場に舞い降りるフリーダムを見て一目惚れしたんだ。何て美しいISなんだろうって。そして、君がパイロットだって知って君のことも好きになった。私は生まれて初めて…恋をしたんだよ」
そう語る束の表情は天才科学者、ISの生みの親とは違う1人の恋する乙女のものだった。
「…なるほど。俺のラボにドローンを飛ばしたり、ハッキングを仕掛けてきたのはお前か」
王我の言葉にフェイトとはやてが目を見開いて絶句する。
「うん!ごめんね、君のことが知りたくてつい。それにしてもドローンは壊されるしハッキングはカウンター食らうし束さんのプライドはズタボロだよ…」
束が分かりやすく肩を落とす。
IS学園にある王我のラボは迎撃システムがある上にハッキングなどはアイが対処してくれる。
アイの防御力が束の攻撃力を超えたのだ。
「それで?」
王我が続きを促す。
「あ、そうだった。私ってISの技術が認められて世界中から狙われてこれまで逃げてきて、まあ最初はそれなりにそれも楽しかったんだけどそれもワンパターンで飽きてきて…何よりこれからは君のそばにいたい。君の役に立ちたい。だから…助けて♪」
束はニコッと笑ってそう言った。
王我は少し考えた後、
「つまりうちに入社したいってことか?」
「That's right!(その通り!)」
王我の問いに束が親指をグッと立てて答えた。
予想外の展開にフェイトとはやてが驚く。
それも当然の反応だろう。
あの篠ノ之束が誰かの下につくことなど信じられない。
「バニーガールは間に合ってんだよな…」
王我の一言にフェイトの肩がビクッと震えた。
それは何故かこの場にいない直葉も一緒だった。
王我は少し考えた後、
「いいだろう」
「「いいの!?」」
さらに王我の答えに驚く2人。
「ただし条件がある」
「何かな?」
「俺からのスカウトはなしだ。ちゃんと面接を受けて合格しろ。ふざけたら長崎の海に沈めるからな」
「OK!分かった!ありがとう!」
束はパアッと花開いたような笑顔を浮かべて喜んだ。
夢が叶った子供のようだ。
「あ、あとね!紹介したい子がいるんだ!」
「そこに隠れている奴のことか?」
「なんだ~気づいてたんだ。サプライズにしようと思ったのに残念。もういいよ!出てきて!」
束が木陰に向かって声をかけると、姿を現したのはラウラと同じ銀髪で黒いリボンのツインテールで白と青のゴスロリ系ドレスを着ていて、目を閉じている美少女だった。
「紹介するね!くーちゃん!」
紹介というのにあだ名で呼ぶ束。
「クロエ·クロニクルです」
クロエは礼儀正しくお辞儀する。
「1つ聞くぞ」
「はい」
「日常生活に支障はないんだな?」
王我はクロエが目を閉じていることを指摘した。
「はい」
「ならいい」
「聞かないのですか?」
「必要ない」
「ありがとうございます」
王我とクロエの会話はそこで一旦収まった。
「それで?」
王我は続きを促す。
「うん。あのね…私が受かったらこの子の面倒も見て欲しいんだ」
「うちは託児所じゃねぇぞ」
「お願い~!」
束が拝むようなポーズをする。
「はぁ…歳は?」
王我がクロエに訊く。
「16です」
「ならIS学園に通え」
「はい。王我様」
いつの間にか主従関係が生まれてしまった2人。
「とりあえず現状の問題が解決してからだな」
「あ、そうだ!私行かなきゃ!じゃあね~!」
そう言うと束はピューとその場を走り去ってしまった。
残されるクロエ。
「保護者があれでいいのか?」
「束様ですから」
クロエは束の行動に慣れているらしい。
◇◇◇
少し遡って王我が過去の話をし始めた頃、旅館の一番奥の宴会用の大座敷·風花の間で専用機持ちと教師達が集まっていた。
王我の代理で愛莉も同席している。
「では現状を説明する」
証明を落とした室内で大型の空間ウインドウが展開する。
「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ·イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視区域より離脱したとの連絡があった」
千冬の説明に皆険しい表情に変わる。
一夏だけは現状を把握しきれていないようだ。
「(アメリカとイスラエル…ということはイランとの戦争に備えてでしょうか…)」
愛莉が考える。
イランとイスラエルは数年前まで戦争していて現在は停戦状態となっている。
アメリカがイスラエルに、ロシアがイランに軍事支援を行っていて大国同士の代理戦争とも言われていた。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。50分後、学園上層部からの通達により我々がこの事態により対処することとなった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要を専用機持ちに担当してもらう」
「(学園から?)」
愛莉が疑問を抱く。
国防の問題なら自衛隊か海上保安庁が対応するのが常識。
学生のしかも他国の代表候補生も巻き込むなど下手すれば国際問題になりかねない。
万が一死亡なんてしたら責任を取らされるのは日本だ。
ベルリンの時が異例中の異例だったのだ。
「(今回もその異例に入ると?…暴走しているのはどちらなのでしょうね)」
内心で皮肉を口にしながらその優れた頭脳をフル回転させて、今はまず話を聞くことにする。
「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」
「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
セシリアが挙手する。
「分かった。ただし、これらは2か国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」
「了解しました」
千冬の忠告に愛莉がまた疑問を抱く。
「(おかしい。そもそもこちらはアメリカとイスラエルの尻拭いさせられている状態。にも関わらず要求してくるなんて…何か別の思惑が働いている?)」
アメリカとイスラエルは日本に対して要求できる立場ではない。
そもそも暴走というのも日本の領空に侵入するための口実かもしれない。
何より問題なのがこの場でこの異常事態に気づいている者が少ないことだ。
生徒で気づいているのは愛莉、直葉、リンネの3人ぐらいだろう。
とはいえこの場でそのまま発言するのは悪手。
ここはまだ動かないことにした。
空間ウインドウに『銀の福音』のデータが表示される。
簡単に説明すると広域殲滅を可能としたオールレンジ攻撃の特殊射撃型で攻撃力と機動力に特化している。
「このデータでは格闘性能とスキルが未知数です。偵察は行えないのですか?」
ラウラが意見を出す。
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は時速250km超えるとある。アプローチが1回が限界だろう」
「(いえ、ダブルオーかデスサイズならトランザムで充分対応できる。けどここは恐らく…)」
「1回きりのチャンス…ということは一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
真耶の発言に箒や鈴音などの視線が一夏に集中する。
「え?」
「一夏、あんたの零落白夜で墜とすのよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!お、俺が行くのか!?」
「「当然」」
箒と鈴音の声がハモる。
「織斑、これは訓練ではなく実戦だ。無理強いはしない」
「…いや、やるよ。俺がやらなくちゃダメなんだ!」
千冬が忠告するが、一夏は戦うことを選んだ。
「(別に彼がやる必要性はないのですが…ただ学園側は兄さん達に介入されることを嫌がっている)」
ノクトは軍人ではなく『シルバーキングス』所属の企業パイロットだが、王我とフェイトとはやては自衛隊に所属している。
IS学園と自衛隊にはある溝がある。
まずISを学ぶ教育機関はIS学園だけではない。
自衛隊の訓練学校でも学ぶことができる。
ただし、こちらは日本国籍を持っていなければならない。
そして、その進路の多くは自衛隊である。
訓練学校出身とIS学園出身の実力は訓練学校出身の方が上である。
その結果にIS学園は不満を抱いている。
加えて、ここ最近の事件のほとんどは王我が解決していることに学園の上層部は面白くないと思っている。
そこで今回の事件。
学園の上層部は一夏に事件を解決させて自衛隊にマウントを取るつもりなのだ。
何とも子供みたいな理由である。
「(生徒に対処させることに織斑先生、山田先生、ヴィレッタ先生あたりは止めそうですが彼女達も雇われの身、上の意向には逆らえないのでしょう)」
ブリュンヒルデや日本の元代表候補生も組織に属している以上、仕方ないのだろう。
「(しかし、私の同席を認め、兄さんに会議を聞かせていることは織斑先生のせめてもの抵抗なのでしょうね)」
現在、愛莉はスマホを通話状態にして忍ばせて、王我に会話を聞かせている。
千冬、真耶、ヴィレッタ以外の教師は知らない。
学園に報告する危険性があるためだ。
「(さて、兄さんならどう考え、どう動くか?私の役目は100点+aの答えを導き出すこと)」
愛莉の武器はその頭脳。
王我にチェスで勝ち越すほどの戦術で、王我の思考を読みさらにその先の答えを導き出す。
「それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、この場の専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」
「それなら私が…」
セシリアが名乗り出ようとしたその時、
「ちょっと待った~!」
バンッとドアを開けて現れたのは束だった。
「ちーちゃん、ちーちゃん!もっといい作戦が私の頭の中にナウ·プリンティング!」
「天道達はどうした?」
「置いてきた!」
「はぁ…出ていけ」
頭を押さえてため息をつく千冬。
「それより聞いて聞いて!ここは断·然!紅椿の出番なんだよ!」
「なに?」
「紅椿のスペックデータ見てみて!パッケージなしでも超高速移動ができるんだよ!紅椿の展開装甲を調整して…ほいほいほいっと…ホラ!これでスピードはばっちり!」
束が空間ウインドウを操作して説明する。
「(展開装甲…ってなんだ?)」
一夏が疑問を抱いているとそれが顔に出ていたのか、
「説明しましょ~そうしましょ~展開装甲というのはだね…この天才の束さんが作った第四世代型ISの装備なんだよ!」
「第…四!?」
「は~い!ここで心優しい束さんの解説開始~いっくんのためにね。へへん、嬉しいかい?まず第一世代というのはISの完成を目標とした機体だね。次が後付武装による多様化…これが第二世代。そして第三世代が操縦者のイメージ·インターフェイスを利用した特殊兵器の実装。空間圧作用兵器にBT兵器、あとはAICとか色々だね。…で第四世代というのがパッケージ換装を必要としない万能機。はい、いっくん理解できました?先生は優秀な子が大好きです」
指を1本ずつ立てながら解説する束。
「は、はぁ…え、いや、えっと…」
一夏は第四世代型の完成に話がついていけない。
「チッチッチ、束さんはそんじょそこらの天才じゃないんだよ。これくらいは3時のおやつ前なのさ!具体的には白式の『雪片弐型』に使用されてま~す!試しに私が突っ込んだ~!」
「「「え!?」」」
一夏、箒、鈴音が驚く。
「それで上手くいったのでなんとなんと紅椿は全身のアーマーを展開装甲に、してありま~す!システム最大稼働時にはスペックデータはさらに倍プッシュだ!」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!え?全身?全身が雪片弐型と同じ?それって…」
「うん。無茶苦茶強いね。一言で言うと最強だね!…『シルバーキングス』を除けばだけど」
最後の部分だけ目を逸らす束。
「スペックの倍増…おお!ハイパーモードやトランザムみたいなものか!」
ポンと手をつくフーカ。
「フーちゃん…」
話の腰を折ったフーカに哀れみの目を向けるリンネ。
「うう…いいの!私のとはコンセプトが違うから!ノーカウント!ノーカウントなんだ!」
手をブンブン振り回して否定する束。
「まあ、そもそも兄さんの会社はISを世代で分けていないので問題ないと思います」
束をフォローする愛莉。
「ありがとう~!いい子だね~よしよし!」
愛莉に抱きついてワシャワシャと頭を撫でる束。
「ちょ、離れてください!」
顔に脂肪の塊を押し付けられてイラッとした愛莉が束を引き剥がす。
「もう…照れ屋さんだな。あ、ちなみに紅椿の展開装甲はより発展したタイプだから攻撃·防御·機動と用途に応じて切り替えが可能。これぞ第四世代型の目標である即時万能対応機ってやつだね。にゃはは、私が早くも作っちゃったよ。ブイブイ」
束の解説が終わると、一夏や箒と各国の代表候補生か黙り込んでしまう。
それも仕方ない。
イギリスやドイツは『シルバーキングス』の恩恵を受けているものの、中国とフランスなど各国は多額の資金、膨大な時間、優秀な人材の全てをつぎ込んで競っている第三世代型ISの開発。
それが無意味となってしまったのだから。
「…束、言ったはずだぞ。やりすぎるな…と」
「そうだっけ?えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~あ、でもほら…紅椿はまだ完全体じゃないし、そんな顔しないでよ。まあ、あれだね。今の話は紅椿のスペックをフルに引き出したらって話だからね。でもまあ、今回の作戦をこなすくらいは夕食前だよ!…それにしてもあれだね~海で暴走っていうと10年前の白騎士事件を思い出すね~」
ニコニコの束に対して痛いところを突かれたような顔をする千冬。
『白騎士事件』。
開発当初は評価されなかったISが一変して絶賛されたきっかけである。
「いや~世界があんなにバカだとは思わなかったね。ウフフ、私の才能を信じないくせに神様を信じてるなんて偶像崇拝もいいところだよ。束さんは実像なのにね。でもまあ、それで私のらぶりぃISはあっという間に広まっていったんだよね。女性優遇は…まあ、どうでもいいんだけどね。私はね~でも隙があれば誘拐·暗殺っていう状況はなかなかにエキゾチックだったよ。ウフフ♪…それももう終わりだけどね」
「…ん?どういう意味だ?」
最後の一言だけ引っ掛かった千冬。
「秘密~」
王我との約束をここでは喋らない束。
「しかし、それにしても~ウフフ…白騎士っ誰だったんだろうね~?ね?ね、ちーちゃん?」
「知らん」
「うむん、私の予想ではバスト88㎝の…」
ゴスッ!
続きの言葉を言う前に千冬がタブレットの側面で束の脳天を叩いた。
「ひ、ひどい…ちーちゃん、束さんの脳は左右に割れたよ!?」
「そうか…よかったな。これからは左右で交代に考え事ができるぞ」
「おお!そっか!ちーちゃん、頭いい~」
漫才を繰り広げる2人。
「あの事件ではすごい活躍だったね。ちーちゃん!」
「そうだな。白騎士が、活躍したな」
話の内容的に白騎士=千冬だが、彼女はそれを否定している。
「話を戻すぞ。…束、紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」
「7分あれば余裕だね♪」
「よし。では本作戦では織斑、篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする」
「あ、あの…専用機持ちがこんなにいるんだし全員でかかれば…」
おずおずと手を挙げる一夏。
専用機持ちは1組に5人、2組に6人、3組に2人、4組に2人(1人欠席)で総勢15人いる。
すると、愛莉が手を挙げる。
「それはやめておいた方がいいかと、ただ数を増やしただけの雑な連携は自分や味方を危険に晒します。私達はアベンジャーズではないのですから。ですのでここはまず、織斑さんと篠ノ之さんが第一陣、その他の1組のメンバーが第二陣、2組が第三陣、少ない3組と4組が合同で第四陣。エネルギーが少なくなったり戦闘続行不能となった者から撤退し補給と整備が終わり次第、戦線に復帰するというのがいいと思います」
愛莉が千冬の作戦に+aを加えてきた。
作戦とは1つあればいいというものではない。
プランA、プランBと複数のプランと立てておくのがセオリーだ。
とはいえこの作戦は王我の目的のためのカモフラージュである。
特にスレッタを出撃させてしまえばすぐに決着がついてしまう。
「いい作戦だ。では作戦開始は30分後。各員、直ちに準備にかかれ」
千冬がパンと手を叩くと、教師陣がバックアップに必要な機材の設営を始めた。
「手が空いている者はそれぞれ運搬など手伝える範囲で行動しろ。作戦要員はISの調整を行え。モタモタするな!」
各々が動いていく。
リンネなんて重い機材を1人で持ち運んでいる。
一夏は1人、何をしていいか分からなかった。
「ええと、俺は何をしたら…」
「白式のセットアップを済ませておけ。あとエネルギーは満タンにしておけよ」
「りょ、了解」
それぞれ準備を進めている。
愛莉は自然に部屋から退室するとスマホを取り出して、
「というわけです。聞いてましたか?兄さん」
《ああ、ありがとう。愛莉》
「なんですか?」
《愛してるよ》
「バッ、もう…切りますよ!」
他の教師陣にバレないように小声で言い返した後、愛莉は通話を切った。
◇◇◇
「可愛い奴だ」
王我はイヤホンをポケットにしまった。
「ほんでどうするん?ほんまに手出さんの?」
はやてが口を出す。
「そんなわけないだろ」
「でもここの空域は王我の管轄じゃないよね?」
フェイトの言う通り、戦闘空域となるのは東京の自衛隊の管轄で、王我が指揮権を持っているのは佐世保と沖縄のみである。
「だから学生として参加するんだろ?それに俺の目的は『銀の福音』じゃない」
そう言って王我は3人にスマホの画面を見せる。
それはメールに添付されていた衛生画像だった。
「今朝、アイからデータを送られてきた。進路からして恐らくフィリピンあたりだろう。で、このままルートだと…」
「『銀の福音』とぶつかる」
フェイトが続きを口にする。
「これを利用しない手はない」
「…王我君、悪役みたい顔してるで?」
はやては王我にジト目を向ける。
「フッ、ヒーローごっこはどっかのバカにやらせておけばいい。こっちは政治をさせてもらう」
王我がそう言うと、そこへ1機の輸送機が飛んできて着陸してきたのだった。
国防関係の知識で間違いがあれば独自設定と思ってください。