すみません。
午前11時半。
7月の空は晴れ渡っていて容赦のない陽光が降り注いでいる。
「来い、白式」
「行くぞ、紅椿」
ISを同時装着する一夏と箒。
「じゃあ箒、よろしく頼む」
「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが今回だけは特別だぞ」
作戦の性質上、一夏が箒の背中に乗る形になっているのだが、箒の機嫌が妙にいい。
「それにしても、たまたま私達がいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことはない。そうだろう?」
「ああ、そうだな。でも箒、先生達も言っていたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦は何が起きるか分からない。充分に注意して…」
「無論、分かっている。フフ、どうした?怖いのか?」
「そうじゃねぇって。あのな、箒…」
「ハハッ、心配するなお前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」
箒は専用機が手に入って嬉しいのか先程から浮かれていて、まるでおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
一夏は不安を抱えたまま、箒の紅椿の背中に乗った。
《織斑、篠ノ之、聞こえるか?》
千冬がオープン·チャネルで通信してくる。
《今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ》
「了解」
一夏が応答する。
「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいでしょうか?」
《そうだな。だが無理はするな。お前はその専用機を使い始めてからの実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出るとも限らない》
「分かりました。できる範囲で支援します」
箒の返事はやはりどこか浮かれていた。
《…織斑》
千冬がプライベート·チャネルに切り替えて一夏に通信を繋ぐ。
「は、はい」
《どうも篠ノ之は浮かれているな。あんな状態では何かを仕損じるやもしれん。いざという時はサポートしてやれ》
「分かりました。ちゃんと意識しておきます」
《頼むぞ》
そう言うと、千冬はオープン·チャネルに切り替えて号令をかけた。
《では、始め!》
作戦が開始された。
箒が一夏を背に乗せたまま、一気に上空500mまで上昇した。
「暫時衛星リンク確立…情報照合完了。目標の現在位置を確認。一夏、一気にいくぞ!」
「お、おう!」
箒が加速する。
「見えたぞ!一夏!」
ハイパーセンサーの視覚情報が目標を映し出す。
『銀の福音』はその名の通り全身が銀色で、頭部からは巨大な一対の翼が生えている。
「加速するぞ!目標に接触するのは10秒後だ。一夏、集中しろ!」
「ああ!」
スラスターと展開装甲の出力を上げる箒。
「うおおおっ!」
一夏は『零落白夜』の発動と同時に『瞬時加速』を使って間合いを一気に詰める。
「(いける!)」
光の刃が『銀の福音』に触れるその直前、
「なっ!」
『銀の福音』が最高速度を維持したまま反転して後退の状態で身構えた。
「(一度体勢を立て直して…いや、このまま押し切る!)」
相手が反撃する前に決着をつけようとする一夏。
だがその瞬間、一夏は背筋がゾクッとするような嫌な予感を感じた。
グリンッと『銀の福音』がいきなり機体を一回転させて、『零落白夜』の刃を僅か数㎜の精度で避けた。
「くっ…あの翼が急加速しているのか!?箒、援護を頼む!」
「任せろ!」
箒に声をかけながら『銀の福音』に再接近する。
何度も斬りかかるが紙一重で回避されてしまう。
敵はまるで踊っているかのようだ。
『零落白夜』の残り時間も少ない。
一夏は早めに決着をつけようとする。
その焦りを『銀の福音』は見逃さなかった。
装甲の一部である銀色の翼を広げるとそこには砲口が一斉に開かれた。
次の瞬間、いくつもの光の弾丸が放たれた。
「ぐっ!」
その弾丸は高密度に圧縮されたエネルギーでちょうど羽のような形をしていて、装甲に突き刺さった次の瞬間に爆発した。
「(なんて連射速度だよ!)」
『銀の福音』の主武装であろう爆発するエネルギー弾丸。
その連射速度は恐るべき速度だった。
「箒、左右から同時に攻めるぞ。左は頼んだ!」
「了解した!」
一夏と箒は弾丸を躱しながら二面攻撃を仕掛ける。
しかし、『銀の福音』はそれを躱しながら反撃。
「一夏!私が動きを止める!」
「分かった!」
箒が2本の刀で突撃と斬撃を交互に繰り出す。
腕部展開装甲が開いて、そこから発生したエネルギー刃が攻撃に合わせて自動で射出する。
機動力と展開装甲による自在の方向転換、急加速で『銀の福音』との間合いを詰めていく。
『銀の福音』も防御に回り始める。
「はあああっ!」
一夏が刀を握りしめる。
だが、『銀の福音』が翼の砲口全てを開いて、36発の全方位一斉射撃を放った。
「やるな!だが、押し切る!」
箒が弾丸の雨を紙一重で躱して攻撃して隙を作った。
千載一遇のチャンス。
しかし、一夏は突然方向転換して『銀の福音』とは逆方向に加速した。
「一夏!?何をしている!」
「船が!くそなんでこんなところに…密漁船か!?」
一夏の視線の先には1隻の漁船がいた。
「犯罪者だぞ!放っておけ!」
「でも…それでも守らなきゃ!」
その時、『銀の福音』が密漁船に気づいて光のエネルギー弾丸を放った。
「間に合えぇぇぇ!!!」
一夏が加速するが距離的に間に合わない。
弾丸が密漁船に到達するまであと10mとなったその時。
一夏の真横を7基のビットのようなものが通りすぎた。
それらは密漁船の周囲に集まるとビームバリアのようなものを展開して密漁船を弾丸から守った。
「何だ!?」
一夏が後ろに振り返る。
1機のISが向かってきていた。
「眩しい!」
その機体は太陽の光で反射して、一夏は思わず目を瞑る。
「いいタイミングだ」
「王我!?」
王我の声と共に現れたIS。
それは黄金の機体だった。