海に墜落した一夏は箒によって助けられ、近くの小島に運ばれた。
少し離れた空中では今も王我と『銀の福音』が交戦中である。
一夏のISは解除されてISスーツのみ、箒は紅椿を装着している。
「一夏…一夏…頼む。目を覚ましてくれ…」
箒の目から涙が溢れる。
「箒!」
そこへ甲龍を纏った鈴音が飛んできた。
「鈴…」
「一夏は!?」
「それが目を覚まさないんだ…」
「どいて!」
鈴音は着陸すると仰向けで倒れている一夏の呼吸を確認、顎を上げて気道を確保してから迷わず人工呼吸した。
「っ!」
人命救助の為とはいえ、箒はショックを受けた。
「一夏!あんた、こんなところで死んだらぶっ殺すわよ!」
人工呼吸と心臓マッサージを交互に繰り返す鈴音。
「私のせいだ…」
「はぁ?」
突然、そんなことを呟いた箒に思わず鈴音が手を止める。
「私は強くなったと思っていた…力が手に入って、これで一夏と共に戦えると…だけど違った!私は…」
パシンッ!
箒の頬に鈴音の平手打ちが当たった。
「泣き言いってんじゃないわよ!そんな暇があったら今できることをやりなさい!」
「鈴…」
落ち込む箒に鈴音が活を入れる。
「…すまない。何をすればいい?」
涙を拭った箒が鈴音に訊く。
「心臓マッサージをお願い。あたしよりあんたの方が力あると思う」
「分かった」
小柄で体重の軽い鈴音より剣道で筋肉もある箒がやった方がいいと判断したのだろう。
ところがここで箒は何を思ったのか拳を振り上げた。
「え、ちょっと…あんた、あたしの何を見てたの?それはヤバイって…」
鈴音の顔色が悪くなっていく。
「思いっきり叩けばいいのだろう。起きろ一夏!」
「ちょっと、バカ~!」
「フンッ!」
箒は拳でハンマーのように一夏の左胸に叩きつけた。
一夏の体が反動で跳ねる。
ドックン!
その時、一夏の指が微かに動いた。
◇◇◇
ザァ…ザァン…
さざ波の音を聞きながら一夏は飽きもせず少女を眺めていた。
その歌は、その踊りは、何故だか一夏を懐かしい気持ちにさせる。
「…あれ?」
ところが、気がつくと少女の歌は終わっていた。
踊りもやめて、ジィッと空を見つめている。
一夏は不思議に思って座っていた木から離れて少女の隣へ向かう。
ザァ…ザァ…と波打ち際までやってきた一夏を涼しい水が濡らす。
「どうかしたのか?」
声をかけるが少女は動かない。
一夏も空を眺めると、少女の声が聞こえる。
「呼んでる…行かなきゃ」
「え?」
隣に視線を戻すと少女の姿はなかった。
「あれ?」
キョロキョロと左右を見るが人影は見当たらない。
歌も聞こえない。
ザァザァ…ザァザァ…と波の音だけが聞こえる。
「う~ん…」
一夏は仕方なく木に戻ろうと体を反転させる。
「力を欲しますか?」
声が聞こえた。
「え…」
急いで振り向くと波の中で膝下まで海に沈めた女性が立っていた。
その姿は白く輝く甲冑を身に纏った騎士さながらの格好だった。
大きな剣を自らの前に立て、その上に両手を添えている。
その顔は目を覆うガードに隠されて下半分しか見えない。
「力を欲しますか?何のために?」
「ん?ん~…難しいことを訊くな~。そうだな…友達を…いや仲間を守るためかな」
「仲間を…」
「仲間をな。なんていうか世の中って結構色々戦わないといけないだろ?単純な腕力だけじゃなくて色んなことでさ。そういう時に、ほら不条理なことってあるだろ。道理のない暴力って結構多いぜ。そういうのからできるだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う…仲間を」
一夏は饒舌に喋りきった。
「そう…」
女性は静かに答えて頷いた。
「だったら行かなきゃね」
「え?」
一夏は背後から声をかけられる。
振り向くと白いワンピースの少女が立っていた。
人懐っこい笑み、無邪気な顔で、ジィッと一夏を見つめている。
「ほら…ね?」
一夏の手を取り、ニッコリと微笑む。
「ああ」
一夏が頷いたその時、変化が現れた。
「な、なんだ?」
空が、世界が、眩いほどに輝きを放ち始める。
その真っ白な光に抱かれて、目の前の光景が徐々にぼやけていく。
夢が…終わる。
◇◇◇
一夏が墜落してから実はそれほど時間は経っていない。
彼の体が発光して浮いたように起き上がり、全身をISの装甲が次々と装着されていく。
その武も以前のものとは変わっていた。
両腕にはレールカノンが装備されている。
『二次移行』だ。
一夏の目がゆっくりと開いた。
「一夏…一夏!体は…傷は!?」
声を詰まらせる箒。
「おう。待たせたな」
「よかっ…よかった…本当に…」
「なんだよ。泣いてるのか?」
「な、泣いてなどいない!」
グシグシと目元を拭う箒に一夏は優しく頭を撫でる。
「心配かけたな。もう大丈夫だ」
「し、心配など…」
強がる箒。
「そうだ。これやるよ」
「え?」
一夏は箒にあるものを渡す。
「り、リボン?」
「遅くなっちまったけど誕生日、おめでとうな」
「あっ…」
「それ、せっかくだし使えよ」
「あ、ああ…」
「じゃあ、いってくる。…まだ終わってないからな」
一夏は飛翔して『銀の福音』の元へ向かった。
「遅いぞ。ノロムラ」
「織斑だ。それより何だあいつの姿。俺が言うのもなんだけど…」
「見りゃ分かるだろ。もう第二ラウンドは始まってるってことだ」
「なるほど…それじゃ、いくぞ!」
王我と一夏の共闘というまさかの組み合わせ。
「リベンジマッチだ!」
一夏は右手のレールカノンを構えて発射、『銀の福音』が躱した先に左手のレールカノンを発射。
そのスピードは凄まじく直撃を受けた『銀の福音』は吹っ飛ばされる。
《邪魔な奴》
「誰だお前は!」
ハマーンの声を聞いた一夏が問う。
「ただのアバズレだ」
王我がビームライフルを構えて発射。
『銀の福音』は右へ左へ躱す。
「お前が黒幕か!」
一夏は右手に『雪片弐型』を構えて斬りかかる。
それを躱した『銀の福音』を左手の新兵器『雪羅』で追った。
白式の第二形態の装備『雪羅』は状況に応じてタイプが切り替えられる。
白式の左手の指先からエネルギー刃のクローが展開される。
「逃がさねぇ!」
1メートル以上に伸びたクローが『銀の福音』の装甲を斬る。
王我との戦闘で敵もかなり動きが鈍くなってきている。
『銀の福音』はエネルギーの翼を大きく広げて、さらに胴体から生えた翼を伸ばして一斉掃射が始まった。
「そう何度も食らうかよ!」
一夏は避けようとせず、左手を構えて前進。
『雪羅』が変形して光の膜が広がって『シールドモード』に切り替わり、『銀の福音』の弾丸シャワーを打ち消す。
これはエネルギーを無効化する『零落白夜』のシールド。
エネルギーの消耗は激しいが完全に攻撃を無効化できる。
「うおおおっ!」
大型四基のウイングスラスターが装備された白式·雪羅は『二段階瞬時加速』が可能。
『銀の福音』のスピードにも充分追いつける。
『銀の福音』は翼を自身に巻きつけ始めて、球状になってエネルギーの繭にくるまれた状態に変わる。
その後、翼を回転させながら一斉に開き、全方位に嵐のようなエネルギーの弾丸シャワーを降らせる。
「はっ!箒…鈴!」
一夏の意識が真下に逸れる。
しかし、それは杞憂だった。
王我がその間に入り、『ヤタノカガミ』によって跳ね返した。
「なにやってんのよ!余計な心配してないでさっさと片付けちゃいなさいよ!」
「鈴…分かった!」
一夏は右手の『雪片弐型』と左手の『雪羅』からそれぞれ『零落白夜』のエネルギー刃を作り出して『銀の福音』へ迫った。
◇◇◇
『銀の福音』と戦う一夏の姿を見て箒は立ち上がった。
「行くのね?」
「ああ」
「そう。残念だけどあたしが手助けできるのはここまで」
「そうか…」
箒は視線を鈴音から一夏へ切り替える。
「(私は共に戦いたい。あの背中を守りたい!)」
その時、箒の願いに応えるように紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出す。
「これは…」
機体のエネルギーが急激に回復していく。
《絢爛舞踏、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス構築…完了》
「まだ戦えるのだな?ならば…」
箒は着けていたリボンを解いて、一夏からもらったリボンで髪を結ぶ。
「いくぞ…紅椿!」
赤い光に黄金の輝きを放った真紅の機体は夕暮れの空を裂くように駆けた。
◇◇◇
それをモニタリングしていた束は、
「ひゃっほ~!おめでとう、箒ちゃん!いや~お姉ちゃんてして鼻が高いよ!」
妹の成長を喜んでいた。
◇◇◇
「ぜらあああっ!」
白式の『零落白夜』のエネルギー刃が『銀の福音』のエネルギーの片翼を切断する。
しかし、二撃目は躱され、失った片翼が再生する。
「くっ!」
白式のシールドエネルギー残量も20%になり、あと3分ほどしか稼働できない。
「くそ!このままじゃ…」
一夏の焦りが加速しようとしている。
「一夏!」
「箒!」
「これを受け取れ!」
紅椿の手が白式に触れる。
その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走り、一度視界が大きく揺れた。
「ほう…」
その現象に王我が感心する。
「な、なんだ?エネルギーが…回復!?箒、これは…」
「今は考えるな!いくぞ、一夏!」
「お、おう!」
2人は改めて『銀の福音』を見据える。
《させるか!消えろ、俗物!》
『銀の福音』からエネルギーの弾丸が放たれる。
しかし、その弾速は非常に遅く空中に浮遊している。
まるで蛍の光のように漂うそれは一夏達の逃げ道を塞ぐ。
「…ここだな」
そこへ王我が突っ込む。
「王我!」
一夏が叫ぶ。
王我はアカツキの『ヤタノカガミ』で弾丸を弾いて、弾丸同士をぶつけて爆発させた。
《愚かな。弾丸は防げても爆風は…っ!》
強敵を撃破した勝ち誇るハマーンだったが、その反応は急変した。
爆風の風向きが変わり始めたのだ。
中心を包囲するように徐々に竜巻が発生する。
その中心には王我がいて、ビームサーベルを連結させて風車のように回していた。
《なんだと!?》
ハマーンの驚いた声が聞こえる。
「フンッ」
王我はそのまま竜巻を『銀の福音』へ飛ばす。
回避しようとする『銀の福音』だが、竜巻に引き寄せられて避けきれず、直撃を受けた。
《チッ》
舌打ちしたハマーンは機体を全力で加速させて竜巻から抜け出す。
そこへ王我が投擲した実体シールドが飛んでくる。
《舐めるな!》
ハマーンが実体シールドを蹴り飛ばすと次の瞬間、『銀の福音』の翼…エネルギーのほうではなく本体の方にビームサーベルが突き刺さっていた。
スパークが発生し爆発。
片翼だけになった『銀の福音』は何とか飛行を続けている。
そこへ王我がビームサーベルで斬り込む。
『銀の福音』は直前で躱した。
「そこだ!」
箒がエネルギーの刃を横一線に放つ。
《そんな攻撃が当たるか!…ぐっ!》
回避したハマーンだったが次の瞬間、『銀の福音』の背中にエネルギーの刃が直撃した。
箒が放ったエネルギーの刃を王我が『ヤタノカガミ』で反射したのだ。
「ここだぁっ!」
体勢を崩した『銀の福音』に、『雪片弐型』のエネルギーを最大出力まで高めた一夏が両腕で振り下ろしてくる。
《まだだ…まだ終わらんぞ!》
反撃しようとするハマーン。
「1つ、お前に教えてやろう」
王我が口を開いた。
次の瞬間、超遠距離からビームが飛んできて、『銀の福音』の最後の片翼を貫いた。
それは離れた小島に待機していたノクトのケルディムが、『トランザム』状態で放った狙撃だった。
王我はこのためにノクトを待機させておいたのだ。
「バカも使いようだ」
王我はそう口にした。
「おおおおおっ!」
一夏の渾身の一撃が『銀の福音』の胴体を捉える。
《チッ…次はこうはいかんぞ。俗物!》
ハマーンの最後の一言と共に、『銀の福音』のシールドエネルギーが全損し解除されてパイロットが海へ落ちていく。
「しまっ…」
「ったく、ツメが甘いのよ…ツメが」
鈴音が海面接触ギリギリでパイロットをキャッチした。
「終わったな」
「ああ…やっとな」
一夏は箒と肩を並べて空を見た。
青空は既に夕空に変わっていた。
アカツキの黄金の機体は夕日に照らされて、幻想的で美しい。
「いや、これからだ」
「…え?」
王我の口にした一言を一夏は一瞬、理解できなかった。
密漁船を包囲していたビームバリアを解除すると、今度は『銀の福音』が倒されて喜んでいる密漁者達をドラグーンの砲口を向けて包囲する。
「お、おい!」
一夏が吠えるが、事態はさらに急変する。
一夏達…いや正確には『銀の福音』のパイロットの元へ何機ものISが飛んできた。
その機体はグフイグナイテッド。
もちろんドイツ機ではなく日本の機体(国旗が入っている)。
事件はまだ終わっていなかった。