騒動から一夜明けた臨海学校組は最終日なので撤収作業に入っていた。
昨日、ノクト達がクロエをまず千冬に紹介して事情を説明した。
部外者の扱いに千冬も最初は渋っていたが、束の知り合いだし子供を見捨てることは出来ず、とりあえず編入は後回しで2組と合流させることにした。
2組の女子は初めは戸惑っていたが、王我の知り合いだと説明すると秒で受け入れた。
特に直葉と1組のシャル、3組のフーカは可愛がった。
委員長気質の千鶴も面倒を見てくれる。
そして、撤収作業も終わり、帰りのバスの時間となった。
「花月荘の皆さん、3日間お世話になりました」
千冬がお辞儀をすると、
「「「「お世話になりました!」」」」と生徒一同もお辞儀をした。
クロエを2組のバスに乗せて出発した。
「楽しかったね~」
「最後は何か監視されてちょっと憂鬱だったけど…」
「王我様も途中でいなくなっちゃったし…」
生徒達はそれぞれの感想を口にする。
今回の臨海学校は大満足というわけにはいかなかった。
それは千冬も同じだった。
「(今回の件で学園の方にも既に調査が入っているだろう。授業もしばらくは休みになりそうだな…さて、私はどうなることか…)」
自分に下される処分をおとなしく待つことにした。
◇◇◇
一方、お台場基地。
王我、カレン、束の3人は起きてシャワーを浴びて、時間もないので着替えて、部屋はそのままで退室した。
余談だが掃除担当の男性士官と女性士官一組が部屋の匂いに当てられておっ始めたのは別の話。
準備が整った3人が格納庫へ向かうと、キサカが輸送機に乗って待機していた。
今日の予定はまず佐世保に向かい束を降ろし面接、その後、沖縄へ行ってアカツキの返却、翌日東京に戻り終了。
格納庫に現れた肌艶の良いカレンを見て男性士官達は昨日はお楽しみだったのだろうと想像がついた。
「いいな~空将、あのデカパイ揉みまくったんだろうな~」
「俺も揉みて~」
「しょうがねぇ。仕事終わったらおっパブ行くか」
「お、いいっすね。行きますか」
「最近、新しいとこ見つけたんだよ。しかも本番あり」
「マジっすか!違法じゃないっすよね?」
「合法合法」
「先輩、一生ついていきます!」
ゲスな会話だがカレンに向けられていないだけまだマシだろう。
アロハシャツの王我、ビジネススーツに眼鏡をかけて髪をアップにまとめた束(面接のため)、紅いISスーツを着たカレンと部下のISパイロット2人が護衛として輸送機に乗る。
「それじゃ頼むよ。カレン」
「はい。兄さん」
兄のお願いにカレンが応えて後部ハッチが閉じて輸送機が発進した。
その後に戦闘機が3機発進して、輸送機を守るように前と左右に陣取って飛行する。
パイロットの1人には玉城もいる。
◇◇◇
輸送機は太平洋の上を飛行して長崎へ向かっている。
束は窓に張りついて外の景色を眺めている。
カレン達ISパイロット3人はエネルギー温存のため、輸送機の中で待機している。
王我は暇潰しにスマホを弄っている。
このまま何事もなく…とはいかなかった。
輸送機内部で突然、アラートが鳴り響いた。
「どうしたの?」
カレンが操縦席に近づいてキサカに問う。
「所属不明の機体が4機…このサイズはISだな。こちらの領空に接近している。このままだと侵入されるぞ」
「警告は?」
「もうやっている。だが何度やっても反応がない」
「仕方ない…第一戦闘配備!」
隊長であるカレンが指示を飛ばして現場の緊張感が一気に高まる。
「ハッチ開けて」
「了解」
カレンの命令を聞いたキサカが後部ハッチを開ける。
「あんた達は2人の護衛を。私は所属不明機の相手をする」
「「了解!」」
カレンの命令に2人のパイロットが従う。
「そういうわけだから、おとなしくしていること。いいわね?」
カレンは王我と束に釘を刺す。
「ああ、手は出さねぇよ。この空域で俺の指揮権はないからな」
「分かってるならいい」
そう言ってカレンと他2人が後部ハッチから飛び出した。
「紅蓮!」
カレンの体が紅い光に包まれて、それが晴れると彼女のISが装着された。
紅蓮 特式
ナイトメアシリーズの機体で、まず目につくのがその刺々しい紅いボディの全身装甲で全て燃やし尽くすような真紅のカラーリングをしている。
右腕の主武装『輻射推進型自在可動有線式徹甲砲撃右腕部』は高周波で熱を生み出して対象を爆発させる電子レンジのような機能がある。
背部には八枚羽のエネルギーウイング『飛翔滑走翼改』が展開されている。
ちなみに部下のISはナイトメアシリーズの量産型の無頼、いかにもロボットという外見でバランスの取れた機体である。
「よっしゃ~いくぜ!」
玉城が気合い充分で戦闘態勢に入る。
敵は4機、ラファールを改造したような機体で顔はバイザーのようなもので隠れている。
《輸送機のパイロットに警告する》
突然、所属不明のパイロットが音声通信を繋いでくる。
恐らく隊長格だろう。
《そちらに篠ノ之束博士が搭乗していることは分かっている。おとなしく渡してもらおう》
「音声通信…しかも変声機も使わないとは…」
王我が小馬鹿にしたように笑う。
《篠ノ之博士、あなたには分かるはずだ。自分のいるべき本当の場所が》
「だってよ?」
王我は隣の束に問いながら窓の外の所属不明のISをスマホで撮る。
「やだよ~だ!誰がいくもんか!」
束はまるで子供のように言い返す。
その答えが相手に聞こえたのかどうなのか。
《抵抗するなら力ずくで連れていく!》
敵の隊長の言葉と共に4機がこちらに向かってくる。
「させるもんですか!」
カレンと他2機も迎え撃つ。
「俺らも忘れんなよ!」
玉城が機関銃を連射する。
「愚かな。通常兵器でISに勝てるとでも?」
敵の1人が嘲笑する。
機関銃の銃弾はISのバリアーに阻まれる。
「フッ、それはお前のエネルギーが残っていたらの話だろ」
その戦闘を観察していた王我がスマホを操作しながら言った。
「正体を隠したいならおとなしく全身装甲にすればいいものをバイザー1枚とはな。オシャレ志向のお国柄か…となるとフランスかイタリアあたりか…」
「おーくん、さっきから何してるの?」
束が横からスマホの画面を覗き込む。
「あのパイロットの正体を調べてる。やっぱ遠いな…拡大して…」
王我は画像を拡大して顔部分をアップにする。
ただ距離が遠かったため、拡大するとモザイクみたいになってしまう。
さらに操作して切り替えるとパイロットのモザイク顔がパズルのように分割される。
「音楽が欲しいな…アイ」
《何でしょうか?マスター》
スマホからアイの音声が聞こえた。
「アイって…ああっ!君だな!私のハッキングを邪魔してたのは!」
アイの音声を聞いた束が身を乗り出す。
《はい。私は宇宙一のスーパーAIドル、アイちゃんです》
「(…何かこいつ、最近自我が芽生えてないか?)」
王我が訝しげな目をする。
「むむっ…私だってみんなのアイドル、束ちゃんだぞ!」
《笑止。ご冗談を(笑)》
「むっか~!今度は絶対にハッキングしてやるんだからな!」
《返り討ちにしてやります》
「うるせぇよお前ら。アイ、何か適当に音楽かけろ」
《Yes、マスター。ではトップガンの『デンジャー·ゾーン』を》
♪デンジャー·ゾーン(トップガンより)♪
王我は音楽を聞きながらスマホの操作を再開する。
モザイクのパズルをまるでパズドラのように合わせていく。
窓の外では未だ戦闘が続いている。
そして、すぐにパズルは揃った。
「ああ~こんなに顔を出しちまって…知らねぇのか?耳の形ってのは指紋と同じで、同じものが2つねぇんだよ。アイ、検索をかけろ」
《Yes、マスター》
王我の命令でアイが敵パイロットの耳の形を参考に膨大なデータから検索をかける。
《検索終了。対象者はフランスの正規軍パイロットです》
「わお、正規軍とは大胆だね~。傭兵か非正規くらい使ってくるかと思ったけど…」
「余程外部にはバレたくないんだろ。とはいえフランスからここまで飛んできたとは思えねぇ。となると母艦がいる…潜水艦か」
王我はデータを紅蓮特式に送った。
「は?データを受信?…何なのよ」
カレンは戦闘中にも関わらずデータを開く。
カレンの腕なら片手間で済む相手だ。
「…チッ、そういうこと…何よ…手は出さないけど口は出すってわけ?全機に命令!撃墜から捕縛に切り替え!」
「「「「「了解!」」」」」
カレンの命令に5人が応答する。
「さて、暇になったし、後は任せるとするか」
王我はスマホでゲームを始める。
ゼビウスのような縦スクロールのシューティングゲームで全10ステージ、強化アイテムと回復アイテムなし、残機1機のみ、一度でも当たればステージ1からやり直し、しかもステージ8から敵の弾幕の密度が東方ゲー並になるという鬼畜クソゲーで中にはスマホを床にぶん投げた者もいるのだがクリアタイムが世界ランキングに乗るのでこれが一部のゲーマーに人気なのだ。
ちなみに王我のプレイヤーネームは『天道王我』本名で登録されており、ランキングも1位。
正体がバレるのかと思われるがこの方が逆になりすましだと思われバレないのだ。
王我は余裕でステージ5までクリアする。
「面白そう!やらせて!」
「ああ」
王我は束にスマホに渡す。
束はステージ6からゲームを再開する。
王我は窓の外を眺めながら、
「束」
「おっと…なに?」
束はゲームを続けながら返事する。
「ISを開発した時、通常兵器に何発耐えられるかテストしたか?」
「もちろんしたよ。一通りね…さすがに核兵器はシミュレーションでやったけど」
「だよな…さて、フランスはどうかな?」
窓の外では戦闘が続いていた。
「オラオラオラ!」
玉城が機関銃を撃ち続ける。
「だから…効かないって言ってるでしょうが!」
フランス軍のパイロットがビームライフルで応戦する。
玉城は機体をひねらせて回避、その後態勢を立て直して機関銃を連射。
「だから効かないって…あがっ!」
機関銃に対して回避もしなかった敵は突如、背後から砲撃の直撃を受けた。
「くっ…この攻撃は…IS!」
玉城に集中し過ぎて他の攻撃が疎かになってしまったことを反省した敵は玉城を無視してISに集中することにした。
「…ISのシールドエネルギーのMAXの数値を10000、機関銃のダメージを1と仮定した場合、単純に機関銃を1万発当てれば撃墜できる」
「でもそれは現実的に厳しい」
輸送機の中から戦闘を見て呟いた王我の言葉を束が紡ぐ。
「シールドエネルギーを削りきる前に通常兵器の方が負けちゃうからね」
「だが、ダメージは0じゃない。1でも受けていることは確かだ」
「だからISと連携して攻撃すれば」
「十分に戦える」
2人の仮説を証明するように戦況は動き始めていた。
「オラオラオラ!」
玉城は機関銃を撃ち続ける。
「…鬱陶しい」
敵は機関銃を機体で受けながら顔を歪める。
「これでも食らえ!」
玉城がミサイルを撃つ。
敵はバリアーで防いでスルーする。
爆発が起きるが機体は無傷。
だがその直後に敵は再度砲撃を受けた。
「ぐっ!バカな…また…」
敵は距離を取ってダメージを確認する。
「これは明らかにISによる攻撃…まさか!」
そこでようやく気づいた。
先程の爆煙を目眩ましにさっきのISが砲撃してきたのだと。
戦闘機とISによる連携攻撃に敵は翻弄されていた。
「こんのっ!」
敵は自衛隊のISに向けてビームライフルの銃口を向ける。
「させるかよ!」
玉城が再度ミサイルを撃って、ビームライフルの銃身に当てた。
ISのアーマーはバリアーで守られているが、武器はその限りではない。
肩や腰などアーマーと一体化しているならまだしも手に持つ武器はまた別物だ。
故に通常兵器でも狙いが良ければ、
「ビームライフルが!」
このように破壊することが出来る。
「よっしゃ!見たか!俺の超ファインプレー!」
コックピットでガッツポーズする玉城。
しかし次の瞬間、敵のバルカン砲の攻撃がスラスターをかすめて煙を吹く。
「嘘だろ!?マジかよ~!」
玉城は断末魔を上げながら、このままでは戦闘続行不能なので近くの基地に着陸しに戦闘空域を離脱する。
「バカ…」
横目で見ていたカレンが呆れた顔をした後、すぐに気を引き締め直して目の前の敵に集中する。
敵は4機、その内1機は武器を損傷。
「一気に片付ける!誘導して固めて!」
「「「「了解!」」」」
カレンの指示に4人が応答する。
戦闘機は機関銃で、ISはビームライフルで追い込んでいく。
「くっ!なぜ分からない!お前達はISの技術を独占しようとしている!それが世界の混乱を招くということを!」
敵の隊長が喚き散らす。
「彼女は日本人よ!日本にいて何が悪いの!」
カレンが強く言い返す。
彼女は日本人の母とイギリス人の父の間に生まれたハーフだが、日本人としての誇りを持っており、今もこうして日本を守るために戦っている。
「あんた達みたいに勝手に人の国に乗り込んでくる方がよっぽど迷惑よ!」
カレンは紅蓮特式の右腕からブレードを伸ばして高速で斬り込んで4機の右腕を破壊した。
「は、速い!?」
敵は目で追うことすらできなかった。
「ウェルダンにしたいところだけどミディアムくらいで許してやるよ!」
カレンは4機をマルチロックオンして、機体の右手を開く。
すると、右腕の主武装『輻射推進型自在可動有線式徹甲砲撃右腕部』から高周波で熱を生み出し敵のISの武装とスラスターを爆発させた。
「バカな!こんなことが…うあぁぁぁっ!」
敵は4機共全て海へ墜落していった。
「よし。回収は近くの海上自衛隊に任せて私達は任務を続行する」
「「「「了解!」」」」
カレンと他2名のISパイロットは輸送機に帰投、戦闘機2機は引き続き輸送機の横を飛ぶ。
「ああっ!ゲームオーバー!」
ちょうど束のゲームも終わったようだ。
「あんた達、何やってたのよ…」
カレンが呆れた目を向けてくる。
それに対して束がスマホの画面から顔を上げてカレンを見つめる。
「な、何よ?」
「さっきの言葉、響いたよ」
束が真剣な顔で口にした。
束は嬉しかったのだ。
カレンが自分のことを日本人だと言って守ってくれたことが。
10年前の白騎士事件で彼女は世界中から狙われた。
海外だけでなく日本からも。
でもこの国は変わった。
束のことを都合のいい科学者としてはなく1人の日本人として見てくれたのだ。
そのことが何より嬉しい。
「そうか…私はもう逃げなくていいんだね…」
「当たり前だ」
束の言葉に王我がそう口にした。
「…うん!」
それに対して束はとびっきりの笑顔で返した。
◇◇◇
その島の名は『監獄島』。
太平洋にある国際的犯罪者を収容しておくための収容所。
島の周りは海に囲まれ警備も厳重、脱獄不可能と言われる島だ。
しかし、その島が今襲撃を受けて看守達も倒されていた。
その通路を歩いているのは金髪でISスーツを着た美女、亡国機業の幹部のスコールだった。
彼女が向かう先は収容所の一番奥の牢獄、その中に収容されていたのは褐色肌でドレッドヘアーの女、リベル。
かつてサウジアラビアでテロを起こし、王我に敗北して捕らえられた犯罪者。
「誰だ?」
リベルがベッドの上で仰向けに寝転がりながら問いかける。
「久しぶりね。リベル」
「っ!あなたは!」
スコールの声を聞いたリベルがベッドから飛び起きて檻に近づく。
「またあなたの力を借りたくなってね」
「…何をすればいい?」
リベルの問いに対してスコールは口元を緩ませてある写真を見せる。
それはIS学園で撮られたストライクフリーダムの写真だった。
「フリーダムっ…」
リベルが檻を強く握りしめる。
あの頃から見た目が変わっているが、彼女にとってフリーダムは怨敵そのもの。
その目は憎悪に満ちていた。
「そして、そのパイロットがこの男」
スコールは写真を少しずらしてもう1枚の写真を見せる。
そこに写っていたのは王我だった。
「天道王我。彼がフリーダムのパイロットよ」
「フリーダムっ…あいつだけは殺す!」
リベルがさらに檻を強く握り締めると少し歪んだ。
「体は鈍っていないようね。あなたには彼を抹殺して欲しい」
「ああ…やってやる…フリーダムをぶっ殺してやる!」
「そう言うと思ったわ」
スコールはそう言うとISを装着した。
『ゴールデン·ドーン』。
彼女の専用機で全身金色のカラーリング、サソリのような尻尾、両腕から両肩にかけて装備された炎の鞭『プロミネンス』。
その炎の鞭で檻を叩き切った。
檻の中からリベルが出てくる。
収容所の外に出ると悲惨な光景が広がっていた。
建物は燃え、警備員や看守は亡国機業のパイロットにほとんど殺され死体がそこら中に転がっている。
まるで地獄だった。
嵐が吹き荒れて雷が激しく鳴る中、
「待っていろフリーダム…必ずお前に復讐しに行くからな!ハハハハハッ!」
リベルは高らかに笑う。
この日起きた監獄島の襲撃及び脱獄事件は世間の混乱を防ぐために隠蔽されたのだった。