篠ノ之束拉致未遂事件も無事カレン達の活躍により解決。
容疑者4名は近くの海上自衛隊によって回収され基地に連行された。
また母艦の捜査も行われたが、敵の進行方向·ISのシールドエネルギー残量から計算するとフィリピン領海である可能性が浮上、後日の話になるが外務省を通してフィリピン側に問い合わせたがそのような事実はないとの返答。
フィリピンという国は貧富の差が激しく犯罪者も多く、犯罪の温床となっている。
金のためなら汚いことにも手を出す。
今回もフランス軍から金を受け取り協力したのだろう。
しかし、外交問題となるとかなり面倒なことになってくる。
そこは政治家の腕次第といったところだろう。
◇◇◇
フランス軍の襲撃以来、何事もなく王我と束を乗せた輸送機は佐世保基地に着陸した。
カレン達はここで補給を行い、王我と束はシルバーキングスの本社に向かう。
次の出発時間は2時間後。
「ん?」
本社に向かう途中、束はふとある光景が目に入る。
敷地外でプラカードを持って何かを訴えている集団がいた。
プラカードには『男はISを使うな!』『天道王我は辞めろ!』『シルバーキングス反対!』と書かれていた。
「ああ、あれか…まだいたのか」
「女性権利団体だよね」
王我と束は歩きながら話す。
「時代錯誤もいいところだよね」
「雑魚が何を言おうがどうでもいいことだ」
2人の意見は辛辣だった。
シルバーキングスの本社が東京にあった頃は彼女達ももっと人数が多かった。
しかし、佐世保に本社を移してからはその数は減少した。
最初は数百人いたが徐々に100人、数十人、今では10人ほどしかいない。
その理由は人口の多い東京ならまだしもここは長崎。
例えば東京から来る場合、交通費もバカにならない。
繰り返し往復すれば出費もかさんでくる。
学生は学校があり、社会人は仕事がある。
それらを疎かにした者の中で、ある学生は受験を失敗し、ある社会人は仕事を無断欠勤してクビになった。
さらに家庭のある人間は家事や育児を怠り、夫からは度々地方へ行く妻の浮気を疑われ、離婚を突き出され、親権裁判でも敗けて子供と離れることになった者もいた。
そのため、今でもここに集まっているのは暇な地元民または学生でもない仕事もしていない無職の女達。
そんな社会不適合者が何を言ったところで世間には何も響かないだろう。
本社にクレームの電話をしてもAIの対応に切り替えられ、ネットで批判してもアイが自動的に通報してくれる。
女性権利団体の行動は世間でも問題になっており、関わりたくない人間も多い。
中には友人や恋人が女性権利団体の一員と知って縁を切る者もいる。
王我と束は女性権利団体を無視して本社に入った。
「社長、おはようございます!」
「おはようございます!」
社員が王我に気づいて挨拶すると他の社員もそれに続く。
「おはよう。面接希望1人連れてきた。別室で待機させておけ」
王我は受付の女性に指示する。
他の社員も束のことは事前に連絡を受けているが実際に目の前にすると驚く者が多い。
「分かりました。人事部に連絡して案内させます」
「ああ。俺は一つ仕事があるから後で行く」
王我は社長室へ、受付は人事部へ連絡して束を別室へ案内させた。
◇◇◇
社長室。
その椅子に座る王我、副社長の席に座っているミオリネ、そして王我の目の前には1人の真面目そうな女性社員が立っている。
「呼ばれた理由が分かるか?」
「いえ、分かりません」
20代くらいの女性社員が答える。
「単刀直入に言おう。本日付でお前を懲戒解雇処分にする」
「そ、そんな!なぜ私が!」
懲戒解雇通知書を出した王我の宣告に反論する女性社員。
「うちの会社のデータ盗んだだろ?」
「何を根拠に…」
「これが他社の奴にUSBを渡した時」
王我が写真を手裏剣のように女性社員の足元に投げる。
そこにはバーで男にUSBを渡してる女性社員が映っていた。
「っ!」
「これが防犯カメラに映ってた夜中に会社でUSBにデータを移してた時。もちろんお前が知らないカメラだ。うちは17時あがりだってのにわざわざ残ってるとはな」
写真をもう1枚女性社員の足元に投げた。
「あとこれ、探偵に調べさせたら東大卒ってのも嘘だったな」
調査報告書も女性社員の足元に投げた。
彼女は足元の写真や調査報告書を慌てて拾い上げる。
「いや、これは…ちがっ…」
「うちに入って1ヶ月、真面目に働いているように見せていたようだが甘かったな」
「そんな…いったい」
「いつからだって?最初からだよ。お前が面接に来て履歴書を出した時から違和感はあった。だからあえてうちに入れて泳がせたんだよ。そして、ついに尻尾を出した」
「あ、ああ…」
「不正競争防止法違反、窃盗罪…これは明らかな犯罪行為だ。既に警察にも通報してある。今頃、ここに向かってるだろうな」
「っ!」
それを聞いた女性社員はバッと勢いよく立ち上がって社長室を飛び出した。
「ミオリネ」
「分かってるわよ!」
ミオリネも社長室を飛び出す。
「そいつを捕まえて!スパイよ!」
副社長の声に社員達がスパイを捕まえようとするが、スパイは軽やかな身のこなしで社員達の頭を飛び越え、さらに階段では手すりを足で滑り降りて、やがて1階まで到達したことからかなり訓練されたスパイのようだ。
それを王我は上の階の手すり部分から見ていた。
スパイが逃げたというのにゆっくり歩いて余裕の様子。
その手にはボタンが1つだけのリモコンが握られていた。
王我はそのボタンを押した。
「このまま逃げきれば…あぁっ!」
会社のビルを出たスパイは突然、体が痺れて三段くらいの階段を転げ落ちた。
「あ、あっ…なにが…」
スパイの体がピクピクと小さく痙攣している。
「お前が出勤する前にロッカーの制服の裏に超小型のビリビリマシンを付けといたんだよ。このリモコンで電気が流れるようにな」
スタスタと足音を鳴らして歩いてきた王我がリモコンを見せびらかす。
「なん…だと…」
スパイが驚いて目を見開いたその時、アーアーアーとパトカーのサイレンが鳴り響き、現場に到着した。
「そんな…」
「警察がここまで到着する時間とお前が出口に来る時間を計算して通報した」
「通報を受けて駆けつけました。佐世保市警です」
警察官がパトカーから降りて敬礼した。
「泥棒が出たと聞きましたが…」
「ああ、それだ」
王我が顎でスパイを指すと、警察官がスパイを取り押さえる。
もう電気は流していない。
「離せ!触るな!」
「暴れるな!10時30分、窃盗罪で逮捕!」
抵抗するスパイを押さえて警察官。
騒ぎを聞いた他の社員が続々と出口に集まる。
「っ…フフ…アハハハ!」
すると、スパイが突然抵抗をやめて笑い出した。
「これで勝ったと思ってるな残念ね。あんたも写真で見たなら分かるでしょ?私はもうUSBを渡してある。あんたの会社は終わりよ!」
スパイは最後の悪あがきとばかりに喚く。
それに対して王我は、
「…フ…フハハハハ!」
笑った。
「ハッ、おかしくなって笑うしかないわけ?」
「ククク…お前にいいことを教えてやろう」
王我がスパイに近づく。
「危険です。離れて…」
警察官が制止しようとするが、王我が片手で逆に制する。
王我はこの街で有力な権力者とも言える。
市長や知事も顔色をうかがうほどだ。
警察官はスパイを拘束したまま押さえる。
「お前がデータを移したUSB、あれにはうちのデータなんて入ってないんだよ」
「バカな、確かにデータは全て移して…」
「表示バグだよ。うちのアイはセキュリティ対策も完璧だからな。データを移したと思わせて実際には入っていない…いや、1つだけ差し替えて入れてある」
「お前、いったい何を…」
スパイがそう呟き、王我は彼女の耳元に口を近づけた。
「ウイルスプログラムが入ったファイルだよ。それを開くとPCのデータを全て削除されるってやつだ」
「っ!」
そこでスパイの表情が驚愕に変わった。
「ロックマンって知ってるか?エグゼの…ああ知らないか…まあいいや…よかったな。お前は実際にはほとんど何も盗んでいない。まあ、未遂でも犯罪だから数年は刑務所だろうが、お前の会社はお前が渡したUSBで自滅することになる」
「この…お前はどこまで!」
スパイの表情が怒りに変わる。
「データを一元管理していればまとめて削除、バックアップも取っているだろうがもしもデータを取るためにバックアップ用のUSBを差し込んだままにしていたらそっちも削除される。せいぜい祈るんだな、バックアップが残っていることを」
王我はそれだけ言って踵を返す。
「このガキ!許さない!絶対に許さない!」
スパイが喚き散らすがもう王我が振り返ることはない。
パトカーに乗せられ警察署に連行されていく。
◇◇◇
同じ頃。
国内10位のIS企業の社内。
シルバーキングスに潜入していたスパイから渡されたUSBを研究者が差し込む。
バックアップ用のUSBもすぐにデータをコピーするために差し込んである。
「これで…俺達がトップに…」
夢が広がる研究者達。
しかし、その夢は打ち砕かれることになった。
「なんだ?ファイルが1つだけ?まとめてあるのか?」
研究者の1人がファイルを開く。
すると、デスクトップに口の開いた黄色いキャラクターが現れた。
「パ、パパ、パックマン!?」
黄色いキャラクターがデスクトップのファイルを1つずつ食べて削除していく。
「え、えっ!なんだよ!どうなってんだよ!」
「まさかウイルス!?」
「おい、早くなんとかしろ!」
「ダメだ!操作できない!」
研究者達が慌て始める。
操作できず、データも食われ続けてどんどん消えていく。
「はっはっ、はっ…くそ!どうすればいいんだ!」
研究者の1人がキーボードを叩く。
「こうなったら!」
別の研究者がPCのコードを抜いた。
画面がブラックアウトする。
「はあ…はあ…これでとりあえず残りのデータは守れるだろう」
強制終了。
データが破損するリスクはあるが、今の彼らにはこれしか思いつかなかった。
「おかしい。ウイルス対策のアプリは入れてたはずだよな?」
「ああ、だけど何も引っ掛からなかった…」
「もしかして新型のウイルス?」
「いったい誰が…まさかあの女が?」
研究者達はスパイを疑い始める。
「…ダメだ。連絡がつかない…」
「…とりあえずもう一度起動してデータを確認しよう」
「ああ…」
研究者達はコードを差し直してPCを起動する。
デスクトップの画面になるとそこには…何もなかった。
「え、何で!?さっきはまだ残っていたのに!?」
研究者達がうろたえる。
王我が用意したウイルスプログラムはかなり厄介なもので電源を切ってもネットワーク上に残っているデータを食ってしまうというものでしかも役目を終えると自動的に消滅して証拠を残さない。
「バ、バックアップは…嘘だろ!?バックアップまで消えてる!」
「なんてことだ!」
こうして国内10位のIS企業のデータは全て削除。
発注、売上、納品書、請求書、顧客情報、ISの設計図、社員の給料データなど全てだ。
後日の話になるが、まず受注済みの注文のISが作れないため発注者から納品が遅れていると電話が殺到、キャンセルも発生、中にはお披露目の予定も組んでおり台無しになって訴訟問題にまで発展している。
社員の給料も払えなくなり、企業は倒産、顧客からの訴訟に追われていた。
ちなみに社長は混乱の中で雲隠れした。
顧客に説明しようにも当然スパイのことは明かせず、データが消えてしまったと説明するしかなかった。
残酷だがビジネスの世界は戦場なのだから仕方がない。
◇◇◇
スパイを片付けた王我は社内に戻る。
他の社員もそれぞれ仕事に戻った。
そして、束の面接がついに始まる。
「篠ノ之さん、お待たせしました。面接室へご案内致します」
「はい」
人事部の社員に誘導されて束は別室を出る。
先程、騒ぎがあったことは物音で分かっているがあえて部屋を出ず何も聞かない。
今日は真面目モードなのだ。
「どうぞ。皆様、中でお待ちです」
人事部の社員はそれだけ言ってその場を立ち去った。
ここからは束1人。
ドアは電子ドアなのでノックをする必要はない。
インターフォンがあるのでボタンを押すとブザーが鳴る。
「面接希望の篠ノ之束です」
《どうぞ》
インターフォンから音声が聞こえると、電子ドアが開く。
「失礼します」
入室して束は一礼。
面接室には社長の王我、副社長のミオリネ、そして各部署の部長が揃っている。
全員、手元のタブレットで束の資料を確認している。
部屋の中心にある椅子の横に立つ。
「お座りください」
ミオリネに促されて束は着席。
進行は副社長のミオリネがするようだ。
「自己紹介をお願いします」
「篠ノ之束、24歳です。技術開発部志望です」
簡潔だが分かりやすい。
彼女が博士号を取得しているのは知っているし資料にも記載してあるのでわざわざ言う必要はない。
「弊社を志望した理由は?」
「私が御社を志望した理由は、御社が製造する商品を拝見して感銘を受け、私の技術を活かしてみたいと考えたからです」
志望理由を話す束。
その態度にはいつものようなふざけた様子は1㎜もない。
「質問してもよろしいですか?」
そこで挙手したのは技術開発部の部長のマリエル·アテンザ、緑色のショートカットで眼鏡をかけていて白衣を着た女性だ。
「はい」
「技術開発部長のマリエル·アテンザです。篠ノ之さん、あなたのことは存じております。その上でお聞きしますが弊社のISのコンセプトとあなたのISのコンセプトは異なるのではないでしょうか?」
マリエルは束に質問した。
シルバーキングスのISは兵器だということを重点に置いている。
一方、束には宇宙へ行くという夢があり、ISはその手段の1つであり、そのコアにはそれぞれ自我があるらしい。
束はISを自分の子供のように想っている。
「確かにおっしゃる通りです。ですが、私はここで学んだ技術を自分の糧にしていきたいと考えています。その為に私が持つ技術を存分にここで活かしていきたいです」
束はマリエルの質問にそう返した。
「…分かりました。ありがとうございます」
マリエルは束の答えを聞いて質問を終えた。
「社長」
「ああ…篠ノ之束」
「はい」
「…合格だ」
「はい…え?」
束は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「能力的には問題ない。ただ、お前の社会性を見ておきたかった。この面接をまともにやれるのかどうかということをな」
つまり束の合格はほぼ決まっていた。
しかし、もしこの面接で束がいつものようにふざけた態度を取っていたら社会性なしと判断して不合格にするつもりだったのだ。
「会社ってのは1人でやるものじゃない。上司、同僚、部下がいる。商品を作るのだってチームがあって皆でやっていくものだ。1人がスタンドプレーしてたら滅茶苦茶になるだろ」
そう言う王我をミオリネは横目で「お前が言うな」的な視線を送る。
「というわけで仕事は追々説明していくとして、お前はマリーの下につくことになる。マリー、色々教えてやれ」
王我はマリエルの愛称マリーの名で呼ぶ。
「はい…っと言っても私が篠ノ之さんに教えられることなんてあまりないと思いますけど…」
「いえ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します」
束が頭を下げる。
「いえいえ。私なんて全然…」
マリエルは両手を振って謙遜する。
「制服は後で支給する。ああ、それと公式な場でないなら無理に敬語を使う必要はない。無駄に堅苦しいのは嫌いだからな」
王我が席から立ち上がりそう告げる。
事実、ミオリネは度々、王我のことを「クソ社長」と罵っているが公式な場では控えている。
「この後の予定は、俺と一緒に沖縄へ来てもらう。アカツキの返却が済んだら東京のIS学園に戻る。お前も一緒にな。マリーとはオンラインで連絡を取れ」
「分かりま…分かった!」
束は手を挙げて応えた。
それからは王我は社長室に戻り支度、束はミオリネにロッカールームへ案内されてシルバーキングスの制服を支給された。
「おお、これがシルバーキングスの制服!かっこいい!」
シルバーキングスの制服は白を基調としており、左胸には銀の王冠のエンブレムが入っている。
ビシッと決まってスタイリッシュなのがこの制服の特徴。
「これで私も会社の一員なんだ!これでちーちゃんに無職って言われないで済むぞ!」
束は嬉しさのあまりクルクルと回っている。
「嬉しいのは分かったから…もう出発の時間が迫っているの。あなたはエントランスで待ってなさい。私は社長を呼んでくるから」
「わっかりました!」
束は敬礼するとロッカールームを飛び出した。
そうして、ミオリネが王我を呼びに行って束とエントランスで合流。
その足で佐世保基地に移動してキサカの輸送機に乗った。
カレン達も同乗している。
そして、佐世保基地から輸送機が出発した。
「ねえ、おーくん」
「何だ?」
「病院にはあのステラ?って子がいるんでしょ?会わなくていいの?」
束はニュースで見たステラが佐世保の病院に入院してたことを聞いていたため王我に質問した。
「ああ、ステラならもう退院して今は沖縄の宮古島の保護施設にいるよ」
「そっか…じゃあ沖縄に行ったら会えるね」
「そうだな」
そう言って王我は窓の外を眺める。
「(ステラ…)」
彼は自分が救った少女のことを考えていた。
沖縄までもうすぐ。
マリエル·アテンザ
原作:魔法少女リリカルなのはシリーズ
所属:シルバーキングス 技術開発部長
愛称:マリー