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今回は長めですみません。
戦闘開始から約2時間が経過した。
「ここは通させないわよ!」
M1アストレイのパイロット、アサギが目の前の無人機ISに向かって言い放つ。
無人機ISはコマのように回転させて襲いかかってくる。
「アサギ!」
「無茶しないで!」
マユラとジュリがアサギに近寄る。
「マユラ!ジュリ!」
アサギも2人に気づく。
「いくよ!」
「「「せーの!」」」
3人は実体シールドを横並びに合わせて1つの盾にすると、回転攻撃を仕掛けてくる無人機ISは上に弾き飛ばして、ビームライフルを1人一発ずつ撃ってコアを撃ち抜き撃墜した。
「はぁ…はぁ…何とか倒したけど…」
「いったい…」
「どんだけいるのよ~!」
3人の数十m向こうの正面には無人機ISが何十機も残っていた。
◇◇◇
那覇基地 ラボ。
束とエリカはバンシィと戦闘中の王我の映像をモニターで見ていた。
「おーくん!」
苦戦している王我を見た束が思わず声を張り上げる。
彼女の中では王我という存在は無敵で絶対に負けない人だと思っていた。
頭の中で最悪のイメージが思い浮かび必死に振り払う。
「まずいわね。フリーダムのエネルギーもそろそろ限界に近いわ」
エリカが冷静に状況を分析する。
王我が墜とされるなんてことがあれば戦況は一気に不利になる。
『絶望』という二文字が浮かび上がろうとしていたその時。
《エリカ·シモンズ、篠ノ之束》
エリカが持つタブレットからアイの音声が聞こえてきた。
《お願いがあります》
「お願い?」
エリカが聞き返す。
《マスターを救うために力を貸してください。私もマスターと共に戦わせてください》
「戦わせてって…まさか…」
エリカはアイの意図を察した。
《私はマスターに作られました。そして今、私のマスターは危機に陥っている。マスターを救いたい。マスターの役に立ちたい。マスターと共に私は戦いたい》
AIであるはずのアイが己の意思を示した。
《プログラムでしかない私がこのような結論を出すのはあり得ません。これは恐らくバg》
「違うよ!」
アイが言いかけた言葉を束が遮った。
「確かに正常ではないかもしれない!でもこれは君が考え出した答えだ!」
AIを含めてプログラムとは本来受動的にしか機能しない。
命令Aに対してできるかどうかを答えBが出す。
例えば自動ブレーキも目の前に障害物があると感知してそれに対してどうブレーキをかけるかを実行する。
プログラムに意思はない。
こうしたいという欲求はない。
だが、今のアイには…
「君には『心』がある!」
そう断言する束の目は少女のようにキラキラしていた。
機械に心があるのか。
それは彼女の研究テーマの1つでもあった。
束製のISコアに人格があるのではないのかという仮説はあるがまだ完全に観測はできていない。
しかし、今目の前に自ら思考し判断するAIがいる。
束が求めていた答えがそこにあった。
「それはバグなんかじゃない!進化だよ!」
《進化…心…これが…心…》
アイはひとつひとつの言葉を噛み締めるように呟く。
「私が君を大空へ羽ばたかせてあげる!」
「私も手伝うわ」
束とエリカがアイの願いを受け入れる。
《…ありがとう》
アイのその言葉はタブレットからではなく2人の背後に立つフェネクスから発せられた。
◇◇◇
王我とリベルの戦闘は未だ継続していた。
ストライクフリーダムの『スーパードラグーン』も既に2基破壊されている。
海面スレスレで飛行しながら『アームド・アーマーBS』の紫色のビームを避ける王我。
ビームは海面の水を蒸発させる。
王我もビームライフルで応戦するがバンシィの『アームド・アーマーVN』のクローはビームコーティングされていて弾かれるためダメージを与えるには至らない。
そして、ついに『アームド・アーマーVN』のクローの先端がストライクフリーダムの機体に迫る。
王我は機体をひねらせて回避し浮島に着地。
しかし、無理な体勢で躱したためバランスが僅かに崩れて次の動作が一瞬遅れてしまう。
「お前のような奴がいるから世界はぁっ!」
雄叫びと共にリベルがビームサーベルを振り下ろす。
「チッ」
王我はそれを急上昇で回避。
だが、リベルも上昇と同時に膝蹴りを入れた。
強い衝撃が機体に伝わってくる。
「ってなぁおい…」
王我から苛立ちが零れる。
さらに体勢が崩れたこの隙をリベルは逃さなかった。
右手の武装を即座にビームマグナムに切り替える。
その速度はシャルを上回る。
リベルが引き金を引くとスパーク光を帯びたビームが放たれる。
「(回避は…無理か!)」
王我は回避が間に合わないと判断してビームシールドで受けた。
直撃には至らなかったもののシールドエネルギーが大幅に削られてビームシールドも割れて吹っ飛ばされた。
ビームマグナムはエネルギー消費が激しく5つに連結したエネルギーパックを1発撃つごとに1つ消費してしまう。
既に2発撃っているため残り3発分。
そして、今錐揉み回転しているストライクフリーダムに向けてリベルはビームマグナムを構える。
「(これで終わりだ…フリーダム!)」
引き金が引かれるかと思ったその時。
「っ!」
攻撃接近のアラートがバンシィに鳴り響いた。
射撃を中断しバックして回避した後、バンシィがいた場所にビームが直撃して浮島が爆発する。
「何だ!?」
ビームを撃った者を確認するリベル。
現れたのはアカツキとは違う金色のIS。
「フェネクス?パイロットは誰だ?」
《私です。マスター》
「アイ?なぜお前が…命令した覚えはないぞ」
王我はフェネクスが起動している理由を一瞬で見抜いた。
フェネクスのスピードに普通の人間では耐えられない。
なら人間ではないアイには関係のないことだ。
問題はアイが王我の命令もなしに動いたことだ。
《これは命令によるものではありません。私が考え私の意思で実行したことです。私はマスターと共に戦いたい。マスターの役に立ちたい。マスターと共にありたい》
アイが自身の考えを王我に説いた。
彼女が話す度にフェネクスの金色の眼が点滅する。
「…いつの間に人間のようなことを口にしやがる。自我を持たせたつもりはなかったが…いいだろう。俺の役に立て」
《Yes。それとマスター》
「何だ?」
《今のマスターは冷静ではありません。らしくしてください》
「………フッ…フフッ…フハハハハ!!!」
アイの意見を聞いた王我が突然笑いだした。
「何がおかしい!」
激昂したリベルは『アームド・アーマーBS』を発射する。
しかし、フェネクスが前に出て背部に装備されたシールドファンネルを展開して防御する。
「俺としたことが少々敵のノリに付き合いすぎたようだ。アイ、一瞬任せる」
《Yes、マスター》
アイが応え、王我がゆっくりと後退して雲の中に消える。
「待て!」
リベルが追おうとするがアイがそれを阻む。
「邪魔だ!」
リベルがビームサーベルを抜き、アイもビームサーベルで応戦し鍔迫り合いになりぶつかり合う。
「そこをどけ!」
押し込もうとするリベル。
「がっ!」
しかし、別方向からシールドファンネルが直接ぶつけられ吹っ飛ばされる。
「何なんだよ…お前はあぁっ!」
リベルが叫びが戦場に木霊する。
◇◇◇
那覇基地 ラボ。
「はぁ…はぁ…」
その床で束は息を切らしながら座り込んでいた。
「何とか間に合った…」
「お疲れ様」
疲れている束にエリカが声をかける。
「さすがの天才の束でもあの短時間でアイちゃんのプログラムをフェネクスに移すのはきつかったよ」
苦笑しながら答える束。
「でも…まだ終わりじゃない」
立ち上がりそう口にする束。
「私にはまだやることがある」
「あなた…」
束の目を見たエリカは何かを感じ取った。
◇◇◇
雲の中に入った王我は考える。
「(相性が悪いなら手持ちを変えればいい。要はポケモンと同じだ)」
雲の中から緑色の光が漏れ出る。
そして、雲をX状に切り開いて現れたのはストライクフリーダムではなくダブルオーライザーだった。
♪Ash Like Snow(機動戦士ガンダムOOより)♪
「ダブルオーライザー、天道王我…目標を駆逐する」
「フリーダムゥゥッ!」
機体が代わってもリベルはそう呼ぶ。
彼女にとって王我=フリーダムであり機体が代わろうとそれは関係ない。
《マスター》
「いくぞ、アイ」
《Yes、マスター》
王我とアイが並ぶ。
「トランザム!」《NT-D、起動》
ダブルオーライザーの機体が赤く発光し、フェネクスが青い光を放つと共にデストロイモードに変形してガンダムタイプとなる。
シールドファンネルを翼のように展開するその姿はまるで青い不死鳥のよう。
フェネクスはビームサーベルを抜いて光のような速さで、ダブルオーライザーも『GNソードⅢ』を構えフェネクスには及ばないものの恐るべき速さでバンシィに接近する。
「殺す!」
リベルも『アームド・アーマーVN』を振りかぶって突撃する。
「フリーダム!」
左腕の爪でダブルオーライザーを切り裂こうとする。
だが、その攻撃は空を切った。
直撃したかと思えたが『トランザム』による残像だった。
「なっ!?」
リベルが目を見開いて驚愕する。
王我はこう考えていた。
ストライクフリーダムとバンシィではパワーが違うし接近戦では向こうに分がある。
ならばスピードで翻弄すればいい。
どんなに強力な攻撃でも…
「当たらなければどうということはない」
その言葉と共に背後からバンシィを斬った。
「がっ!」
攻撃を受けてリベルがよろめく。
スラスターの一部が損傷して機動力が半減する。
「なめるな!」
リベルが振り向きざまに『アームド・アーマーVN』を振り回す。
しかし、そこにダブルオーライザーの姿はなかった。
その直後、さらに機体に衝撃を受ける。
フェネクスがビームサーベルで斬って通り過ぎていった。
「まずはその爪から剥がしてやる」
王我はバンシィの『アームド・アーマーVN』に狙いを変える。
「くそ…予測AI起動!」
リベルが2人の動きを読もうとする。
斜め前方から迫るフェネクスを『アームド・アーマーVN』でバラバラに粉砕しようとする。
だが、フェネクスは直前で機体を捻らせて躱し、ビームサーベルでバンシィの横っ腹を斬った。
「ぐっ!」
《私に予測で勝とうなんて2万年早いです》
「フッ、どこでそんなセリフ覚えた?」
《ウルトラマンの作品を初代から最新作までを二千倍速で視聴しました》
「愚か者が。作品とは等倍で見てこそ価値がある。後で最初から見直せ」
《Yes、マスター》
「いったい何の話をしているんだお前ら!」
「ただの特撮トークだが?」《ただの特撮トークですが?》
「ふざけるなぁぁっ!」
リベルはそう吠えて『アームド・アーマーVN』を振るう。
2人はそれを躱すと、アイは背後からビームサーベルで、王我は正面から『GNソードⅢ』で挟み撃ちでバンシィの爪を破壊する。
「貴様らぁっ…っ!…ぐふっ!」
リベルが怒りのボルテージが上がったその時、彼女の様子が急変して吐血した。
バンシィの顔の内側が血塗れになる。
『NT-D』はパイロットの身体への負荷が大きくて5分しか持たず、それ以上は命に関わる。
さらに『予測AI』システムは脳への負荷がかかるため、乱用は危険なのである。
王我とリベルの決着はそう遠くない。
◇◇◇
那覇基地 ラボ。
「さてと…私もそろそろ行こうかな」
そう言って束が立ち上がった。
「行くって…あなた、まさか…」
エリカは束の考えに気づく。
「そのまさかだよ」
「正気?彼らはあなたを狙っているのよ」
「だとしてもここで黙って待つことはできない。おーくんと一緒にいたいなら守られるだけのお姫様ではいられない」
束の決意は固い。
「…止めても無駄みたいね。…いってらっしゃい」
エリカはそう言って微笑んだ。
「うん。行ってくる!」
束は制服を脱いでピンクのISスーツ姿で外の滑走路へ飛び出す。
作業している隊員達が何事かと一瞬視線を向けるがすぐに自分の作業に戻る。
「私は…もう逃げない!」
束は走りながら右手首に装着している『X』のブレスレットを天に掲げる。
「エックス~!」
直後、束の全身がX状の光に包まれて、その光が空へ飛んでいった。
◇◇◇
カレンとベータ&シグマの戦闘は未だ継続していた。
「しぶとい」
「さっさと墜ちろよ。赤いの!」
ベータとシグマは撃墜されないカレンに苛立っていた。
「チッ!」
カレンも同様に舌打ちした。
近接攻撃と防御のシグマと狙撃のベータのコンビネーションによって徐々に追い詰められていた。
シールドエネルギーももう半分を切っている。
カレンの意識がほんの一瞬を逸れたその隙を…
「そこ!」
ベータが見逃さなかった。
狙撃用ビームライフルでカレンを狙い撃つ。
「っ!」
カレンは機体を横にステップ移動させてそれを躱す。
しかし、その先にシグマがビームブレードを振りかぶろうとしていた。
「(やばっ!)」
回避も迎撃も間に合わない。
絶体絶命のピンチ。
シグマの勝利を確信した笑みが見える。
カレンに凶刃が振り下ろされるかと思ったその時。
一筋の光線がシグマに伸びてきた。
「っ!」
シグマは直撃する寸前でカレンから距離を取って躱す。
「なんだ!?」
「どこから?」
シグマとベータが疑問を口にする。
戦場に現れたのは四本角のガンダムタイプ、背中には4枚のリフレクターが折り畳まれていて、キャノン砲が取り付けられている。
GX-9900 ガンダムX。
「あんなの知らねぇぞ!」
「新型?」
シグマとベータは動揺が隠せない。
ガンダムXはカレンの隣に並ぶ。
「助けに来たよ」
「っ!…あんた、何で…」
カレンはパイロットの正体に驚く。
カレンは助けたのは束だった。
この機体は王我から渡された束の専用機である。
「今の声…」
「ベータ、知ってんのか?」
「なに言ってるの?あれは篠ノ之束だよ」
「はあっ!?マジかよ!」
ベータの答えにシグマが驚く。
ベータは今回の作戦のために束のことも調べてある。
束が表に出たことは少ないが10年前、ISの技術を発表する時に声明を出したことがある。
あの特徴的な声は一度聞いたら忘れられない。
◇◇◇
亡国機業母艦。
「篠ノ之束…これは好機ね」
ベータの言葉を傍受していたスコールは笑みを浮かべた。
「無人機をベータとシグマのところへ集中させなさい」
スコールは部下に指示を出す。
「(これで沖縄を落とせなくても博士さえ手に入れれば勝ったも同然)」
彼女は勝利を確信した。
◇◇◇
「獲物がそっちから来たとはこいつはラッキーだぜ!」
「生け捕りにして連れていく」
目の前の束にシグマとベータは闘志をみなぎらせて向かってくる。
束とカレンも左右に分かれて応戦する。
「何でこんなところに来たのよ!あいつらは狙いはあんたでしょ!」
「それは私が…日本人だからだよ。自分の国がこんなことになってるのに黙っていられないよ!」
束はそう言い放って右手に持つ射撃武装『シールドバスターライフル』を構えて撃つ。
「そんなものが!」
シグマが特殊ビームシールドを展開してガード。
「通用するか!」
ベータが後方から狙撃する。
それに対して、束のライフルの形が銃から盾に変形すると、ベータの狙撃を防いだ。
「何っ!?」
「パクリかよ、おい!」
ベータが驚き、シグマは苛立ちを露にしながらビームブレードで前に出る。
束も近接武装『大型ビームソード』で応戦する。
「はあっ!」
束が雄叫びと共に『大型ビームソード』を振り抜く。
鍔迫り合いの状態からシグマは押し返される。
「くっ!何てパワーだよ!」
先程までカレンを追い詰めていたのに束の参戦によって逆に追い詰められていた。
「シグマ、離れて!」
ベータがその言葉と共に両肩の四連装ミサイルポッドを束に向けて発射する。
しかし、その攻撃は届かなかった。
カレンが『輻射波動』で全て撃ち落としたからである。
「ありがとう」
束は素直にお礼を言った。
「このままジリ貧よ。突破口を見つけないと」
「考えがある。時間を稼いで」
「分かった」
カレンは即座に応答した。
戦場では一瞬の判断の遅れが命取りになることがある。
それを承知でこの博打に乗ったのだ。
カレンが前に出て、束が後ろに下がる。
「サテライトシステム、起動!」
束はガンダムXの背部に折り畳まれている4枚のリフレクターを展開して『X』を形成。
両手で巨大なキャノン砲を構える。
地球の外、月面近くには『シルバーキングス』が打ち上げたある衛星が浮かんでいる。
それは月の観測のためでもあるが、月のエネルギーをチャージするためのものでもある。
「夜明けだけど月はまだそこにあるよね!」
衛星にチャージされている月のエネルギーがマイクロウェーブとしてガンダムXのリフレクターに送信される。
「何をする気だ?」
「何かやべぇぞ、あれ!」
危機感を感じたベータとシグマはガンダムXを止めようとする。
「させるか!」
しかし、カレンが立ちはだかり『複合誘導飛燕爪牙』を乱射して2人を足止めする。
「くそ!」
「近づけない…」
シグマとベータは同時に歯噛みする。
そうしている間にも束の準備が整った。
「カレン!」
「分かってるわよ!」
カレンは範囲型の『輻射波動』を放つ。
「チッ!」
シグマは特殊ビームシールドを展開して防ぐ。
2人は連携のために前がシグマ、後ろがベータで縦に並んだ陣形を組んでいた。
だが、ワイドレンジで放たれた『輻射波動』からベータを守るためには前で防御するしかない。
連携のための陣形が仇になってしまったのだ。
その時、ベータのさらに後方から亡国機業の無人機ISが迫っていた。
「(増援!ここさえ耐えれば勝てる!)」
勝ち誇った笑みを浮かべて未だ効果が続く『輻射波動』を防ぎ続けるシグマ。
「これで終わりだ!…サテライトキャノン、発射!」
束はキャノン砲を構えて月のエネルギーをチャージしたビームを撃ち放った。
直径数mに及ぶ巨大なビームがシグマの特殊ビームシールドに直撃する。
「ぐっ、うおぉぉぉぁ!」
カレンの『輻射波動』と束の『サテライトキャノン』を特殊ビームシールドで受けて耐えるシグマ。
「ブレイク…シュゥゥゥゥゥゥゥト!」
束の叫びと共についにシグマの特殊ビームシールドが撃ち破られ、シグマは巨大な光に呑み込まれた。
「ハハッ…何だ…弱ぇのはあたしの方だったって訳か…」
シグマは笑いながらそう言って爆散して跡形もなく消えた。
「シグマ!」
シグマのおかげで回避する余裕ができたベータは何とか生き残った。
それでも『サテライトキャノン』の余波だけで機体の損傷は相当なものだ。
しかも、被害はそれだけではない。
増援に来ていた無人機ISも巻き添えを食らって全滅した。
「くっ…」
このままじゃ自分もやられる。
そう考えたベータは四連装ミサイルポッドを発射した。
束が『シールドバスターライフル』で、カレンが『複合誘導飛燕爪牙』で撃ち落とす。
その爆煙を利用してベータは退却した。
『サテライトシステム』の起動が終了してガンダムXのリフレクターも元通りに折り畳まれる。
『サテライトキャノン』は1日1回しか撃てないほど使用するタイミングが限られるのだ。
「一応、礼を言っておくわ。ありがとう」
「どういたしまして!」
カレンのお礼に束は元気な声で返した。
◇◇◇
亡国機業母艦。
「シグマ機、シグナルロスト!ベータ機、撤退してきます!」
部下の報告にスコールは一瞬思考が停止した。
「(シグマがやられた?ベータも撤退?まずい…このままでは私の立場が…下手をすれば幹部から降格ということも…)」
彼女の頭に浮かんだのは己の保身だった。
「(いや、まだよ。まだバンシィがいる…天道王我さえ墜とせばまだチャンスは…)」
だが、スコールの期待はまもなく裏切られることになる。
◇◇◇
バンシィの頭部の中でリベルは『NT-D』と『予測AI』の反動によって血を吐き、目からも血を流していた。
もはや目の前は真っ赤に染まってろくに見えていないだろう。
それでも王我の姿だけは何とか目で追おうとしていた。
「フリーダム!妹の仇!」
リベルの妹が死んだのはサウジアラビアの国内情勢によるもなのだが、彼女にとってフリーダム=妹の仇と認識してしまっている。
だが、いくら叫んだところで現実は非情だ。
『トランザム』を発動したダブルオーライザーと『NT-D』を起動したフェネクスのスピードを前に何も出来ることはなかった。
『アームド・アーマーVN』は破壊され、右足·スラスター·左腕の装甲が損傷してボロボロだ。
「このっ!」
最後の悪あがきとばかりに『アームド・アーマーBS』を乱射しようとするが、それもダブルオーライザーの『GNソードⅢ』によって切断される。
「フリーダムゥッ!」
リベルが怨嗟の叫びと共にビームサーベルを振ろうとするがアイがビームサーベルで背中の装甲に切り裂いて中断させられる。
「貴様らぁっ!」
リベルが怒り叫ぶ。
《よろしいのですか?私に意識を向けて》
「…っ!」
リベルが強烈な気配を感じて前方の上空を見上げる。
視界が真っ赤でも見える。
ダブルオーライザーの姿とその両腕の刃から天へと伸びる光の刃が。
「トランザム…ライザァァァァァッッ!!!!」
赤き光の刃がリベルへと振り下ろされる。
リベルはサイドステップで躱そうとするが、スラスターが一部損傷しショートしたため完全な回避には至らない。
「おのれぇぇぇ!フリーダムゥゥゥッッ!!!」
怒りの叫びを上げた直後、彼女の右半身は機体ごと赤き光の刃に焼き切られ、そして残った左半身は海へ墜落した。
『トランザム』の限界時間に達したダブルオーライザーは赤い光を失って元に戻る。
バンシィの撃墜を確認した王我とアイはその場を離れて移動を開始する。
◇◇◇
亡国機業母艦。
「バンシィ、シグナルロスト!」
「(そんな…バンシィが…負けた!?…)」
部下の報告にスコールは目の前の現実を受け入られなかった。
シグマはやられ、ベータは撤退、頼みの綱だったリベルもやられた。
無人機ISと軍艦だけで沖縄の防衛を突破することは不可能。
この母艦も安全とは言えないだろう。
「(こうなったら…)」
スコールに迷っている時間はなかった。
◇◇◇
『アークエンジェル』ブリッジ。
「本艦はこれより前進し、敵艦隊を討つ!」
マリューの号令と共にアークエンジェルが前進する。
「ゴッドフリート、ってぇっ!」
アークエンジェルから放たれた緑色のビームが10隻以上いる敵艦隊の内の1隻を貫き撃沈させる。
「この、よくも!」
敵艦の内の1隻の艦長が仲間をやられたことに怒りを覚える。
艦隊の主砲の照準がアークエンジェルへ向けられる。
だが、砲撃が放たれることはなかった。
別方向から放たれたビームと波動によって艦隊の主砲が破壊された。
「何だ!?…どこから…」
敵艦の艦長がモニターを確認する。
そこに映っていたのは紅蓮特式とガンダムXだった。
無人機ISが迎撃に出るが当然相手になるわけもなく次々と撃墜される。
「どうして…こんな…」
敵艦の艦長は呆然としていた。
勝てるはずの戦いだと思っていた。
それが今は敗戦の危機に晒されている。
「くそ…ミサイル発射!1機でもいい!奴らを撃ち落とせ!」
敵艦からミサイルが数十発放たれる。
だが、1発も届くことはなかった。
全弾またも別方向からのビームによって撃ち落とされたのだから。
それをやったのはダブルオーライザーとフェネクスだった。
さらにクサナギとエターナルもこの戦闘区域に集まりつつある。
「そんな…スコール様、どうすれば…」
敵母艦の部下がスコールに指示を仰ごうと振り返ると、そこに彼女の姿はなかった。
「スコール様?…スコール様!どこにいるのですか!」
周囲を見渡すがスコールの姿はない。
「ゲートが開放されて潜水小型艇が発進しました!」
「まさか…スコール様が…そんな…」
彼女は潜水小型艇に通信を繋ぐ。
「スコール様!どうしてこんな…あんまりです!お願いします!私達を見捨てないでください!私達は…スコール様に忠誠を誓って……戻ってきてください!スコール様!」
スコールの部下…副艦長は涙ながらに訴える。
「スコール様!」
再度、彼女は呼びかける。
沈黙があった。
彼女にとっては長く感じるほどの。
そして、ようやく沈黙が破られた。
《…あなた達はもう用済みよ》
スコールからの通信はそれで切れた。
その言葉は彼女達を絶望に落とすのに十分だった。
「敵機、来ます!」
「て、撤退!全艦、撤退だ!」
その判断はあまりにも遅すぎた。
ガンダムXがまっすぐこちらに向かってきて、『シールドバスターライフル』を構える。
「沈めぇっ!」
束は引き金を引いた。
「いやあぁぁぁっっ!!!」
敵母艦のブリッジはビームによって焼かれ炎に包まれて、やがて撃沈された。
◇◇◇
水深50m地点 潜水小型艇。
その船内にスコールは1人操縦していた。
バンシィが撃墜された時点で退却は間に合わないだろうと察したスコールは部下を置いて1人潜水小型艇で脱出した。
潜水小型艇に全員は乗れない。
誰を乗せるなんて揉め出したら逃げる時間がなくなってしまう。
ベータには合流ポイントの座標を送っておいた。
そこへ移動中、スコールはリベルに会った時のことを思い出していた。
◇◇◇
当時、亡国機業の戦力を増やすために各国を回っていたスコールはサウジアラビアである人物を見つけた。
それがリベルだ。
若く、国に対して不満を持っていて、ISの素質もあるだろうと見抜いたスコールは彼女をスカウトすることに決めた。
しかし、普通に声をかけても意味はないだろうと考え、彼女の妹であるラプラスに目をつけた。
ある朝、街に出かけたリベルを見送ったラプラスにスコールは近づいた。
「可哀想にね」
「お姉さん、だあれ?」
「私?私はただの旅人よ」
ローブを纏ったスコールはそう答えた。
「旅人?」
「ええ。色んな国を渡って、あなた達のような境遇の子達もたくさん見てきたわ。でも最期は悲惨なものよ。あなたのお姉さんもそう。彼女1人だけならもっと楽に生きられたでしょうけどあなたを食べさせるために無理をしている。このままじゃ…」
「私のせい…私さえいなければ…お姉ちゃんは生きられる?」
「そうね。でもそれは旅人の私が決めることじゃないわ。決めるのはあなたよ」
スコールはそう口にした。
まるでラプラスを誘導するように。
「私…お姉ちゃんに生きて欲しい」
その夜、ラプラスは夕飯を食べることを拒んだ。
たった1日、たった1食であっても彼女達のような境遇の人間には大きな問題だ。
餓死するには十分な理由だ。
そして、妹の墓の前で泣き崩れるリベルにスコールは近づいた。
彼女の妹を間接的に殺したのにその姉の憎しみや恨みを国に向けさせて自らの駒へと変えた。
これがスコールとリベルの出会いの真相である。
◇◇◇
「なかなか使える駒だったのに残念ね」
潜水小型艇の船内で彼女はそう呟いた。
◇◇◇
午前8時。
亡国機業の軍艦は全て例外なく撃沈された。
綺麗な沖縄の海が残骸なとで汚れてしまい、ゴミの回収や掃除などが大変になるだろう。
そして、まだ終わっていないことがある。
この戦闘で亡くなった士官達への哀悼だ。
街は無事だったが、自衛隊側の被害も0ではなく殉職した士官もいる。
ベルリンの時とは真逆である。
並べられた遺体収納袋の前で知事のウズミ、王我を含めた自衛隊の士官達が黙祷し哀悼の意を捧げていた。
黙祷を終えて少し経った後、束が口を開いた。
「あの…すみませ」
「謝らないでください」
束の謝罪をウズミが遮った。
束とて理解している。
自分が謝罪したところで死者は戻らない。
それでも今回の戦闘の原因の一端は自分にある。
せめてその想いだけでも口にしたかった。
それをウズミは拒んだ。
「彼らがあなた1人のために戦ったと思っているならそれは自惚れが過ぎます。彼らはこの街を、この国を、そして愛する者を守るために戦い死んでいった。それをどうか忘れないでいただきたい」
ウズミは束に振り返り、そう口にした。
「…はい」
束はウズミの言葉を深く胸に刻んだ。
それから、県民を自衛隊の誘導のもとシェルターから解放しそれぞれの街に戻した。
戦闘が終了し、沖縄の防衛が達成されたこともニュースで流れ、人々に安心と安堵を与えた。
家族や友人などと連絡を交わし喜びを分かち合った。
こうして、およそ3時間にも及んだ沖縄防衛戦は終了した。
ベルリン編と沖縄編は劇場版の総集編に出来るレベル。
(自画自賛乙)
沖縄編は一応これで完結。
次回は後日談含めてアークエンジェル組2人+カガリとのエロ回となります。