今回は長めで国内·世界情勢が大きく動きます。
翌朝 8時。
沖縄から出発まで1時間前に迫る中、王我は最後に宮古島の保護施設に訪れていた。
「寂しくなりますわね」
ラクスが寂しげに言った。
「オウガ、行っちゃうの?」
ステラが泣きそうな顔をしている。
「また会えるさ」
王我がステラの頭を撫でる。
「オウガ!」
ステラが王我に抱きつく。
王我もステラを抱き締める。
「水族館で働くんだろ。楽しみにしてるよ」
「うん…」
ステラは1秒でも長く王我を感じようとする。
十分堪能した後に王我から離れる。
王我はどこか物欲しそうにしているラクスに視線を移す。
「ラクスもどうだ?」
王我が両手を広げる。
「ではお言葉に甘えて…」
ラクスも王我に抱きつく。
「どうかお気をつけて」
「ああ」
心配するラクスに王我はそう応える。
ラクスは王我との抱擁を解くと、
「チュッ…」
王我の頬におまじないをするようにキスをする。
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃい!」
ラクスとステラが最後にそう挨拶する。
「ああ、行ってくる」
◇◇◇
それから1時間後。
王我と束は輸送機で佐世保基地に戻ることになっている。
その見送りをウズミカガリ、キサカ、マリューや何人かの士官がしてくれている。
「あなたのこれからのご活躍とご無事を祈っています」
「ありがとうございます」
先頭のウズミの握手に王我が応える。
「フェネクスは本社へ輸送するそうだね」
「その方が都合が良さそうなので」
そう会話を交わしてから握手を終える。
「博士もお元気で」
「はい。知事も」
次に束に手を差し出して、束はそれに応える。
「天道社長」
仕事モードのカガリが前に出て手を差し出す。
王我が握手に応える。
「色々大変だろうが身体を壊さないようにな」
「ああ、そこら辺は愛莉やミオリネに管理されそうだ」
「まったく…」
王我のジョークにカガリが笑みを浮かべる。
握手を終えた王我はウズミ達の後ろにいるマリューに一瞬視線を移して口角を上げる。
マリューも同じように小さく笑みを浮かべる。
「行こうか」
「はい」
王我と束が輸送機に乗ると、エンジンがついて機体が離陸し始める。
「天道社長と篠ノ之博士に敬礼!」
カガリの号令に全士官が応える。
バッと一斉に敬礼する光景は圧巻だった。
王我と束は窓からそれを眺めて、束は笑顔で手を振っていた。
輸送機が発進して、佐世保基地へと向かっていく。
「おーくん」
「何だ?」
「私、おーくんに出会えてよかった。おーくんに出会えたからこんな素敵な人達に出会えた。私の知らないことがこの世界にまだまだいっぱいあるんだって分かった」
「そうか」
「おーくん…ありがとう!」
束は幸せそうな笑顔で王我にお礼を言った。
◇◇◇
1時間後。
午前10時に何事もなく佐世保基地に到着して、本社にフェネクスの輸送も完了した。
王我は社長室へ、束は技術開発部のオフィスへ移動した。
「おかえり」
社長室でミオリネが出迎える。
王我はデスクの椅子に腰かける。
「これから東京に帰るんでしょ?」
「ああ、その前に用事を済ませてから…」
王我が何かを言いかけたその時、社長室の電話から着信音が鳴った。
「私が出るわ。…はい、シルバーキングスの」
まずはミオリネが電話に出る。
「はい。少々お待ちください」
ミオリネが一旦、保留にする。
「IS学園の織斑先生から」
ミオリネが王我に報告する。
「分かった」
王我が受話器を取って外線ボタンを押す。
「天道です」
《織斑だ。すまない、携帯の番号が分からないから会社にかけるしかなかった》
「学園の緊急連絡先に登録されていたはずですが」
《いや、それが今学園には資料が残っていないんだ》
「…何がありましたか?」
王我は『何か』ではなく『何が』と訊いた。
「そうだな。順を追って話そう」
◇◇◇
話は3日前、王我が束と共にお台場基地に向かった日まで遡る。
臨海学校組がバスで学園に戻ってくると正門前に人だかりが出来ていた。
「な、何だ?」
一夏は何が起きているか理解できていなかった。
バスの進行方向には誘導係のような人が誘導灯を振って正門前から外れて裏口の地下駐車場へ誘導していた。
バスを降りるとスーツを着た眼鏡の男が立っていた。
千冬は生徒達をバスに残し、まずは自分がバスから降りた。
「あなたは?」
「はじめまして。東京地方検察庁特別捜査部の早見と申します。まずは地下駐車場に誘導させていただいたことについては正門前にマスコミが集まっているため、パニックを防ぐためであることをご理解ください。さて、本日よりIS学園に対して家宅捜索を実行させていただきます。令状も出ています」
早見が家宅捜索の令状を見せる。
「学園内の全資料、データ、機材の押収。こちらは既に実行中です。それから寮内もこれから調べさせていただきます」
「寮も!?」
「部屋も調べられるってこと!?」
「プライバシーの侵害よ!」
早見の通告にバスから顔を覗かせた女子達が反発した。
「こんなことが許されるのかよ!」
一夏も同様の反応を見せた。
「やめろおまえ達。彼らは法に則ってやっている。我々に拒否権はない」
「その通りです。捜査を妨害した場合は公務執行妨害に当たりますので気を付けて下さい。ちなみに寮の捜査は女性検察官のみで行われ、本人の立ち会いも許可されています」
「分かりました」
「それからISの専用機に関してなのですが、こちらは国家機密扱いなので各国大使館の許可を得ての捜査となります。許可が下りたのは日本以外に中国、ロシア、イギリス、ドイツ、南アフリカ共和国の5ヶ国です。まあ、ロシアと南アフリカ共和国の代表候補生は現在不在ですが…」
「(少ないな…)」
千冬は各国の非協力的な姿勢に納得半分不満半分といった気持ちになる。
「それとそちらの生徒である天道王我さんの寮部屋なのですが本人不在ですが…」
「でしたら私が代理で立ち会わせていただきます」
話を聞いていた愛莉がバスから降りてきた。
「妹の私なら兄さんも納得するでしょう」
「ありがとうございます。では私は仕事に戻らせていただきます」
早見はそう言って地下駐車場から去っていった。
「生徒は荷物を持って寮に戻れ。該当する専用機のパイロットはこちらに集合しろ」
千冬が生徒に指示を出す。
許可が下りていないフランスの代表候補生であるシャルを除く専用機のパイロットが千冬のところへ集合する。
シャルは少し気まずい思いをしながら寮へと戻る。
国の意向であるため、本人にはどうしようもない。
デュノア社はシルバーキングスの子会社だが、シャル本人はフランスの代表候補生であるため、それが枷になることもある。
「千冬姉!こんなのおかしいだろ!まるで俺らが犯罪者みたいじゃないか!」
一夏が感情を露にして千冬にぶつける。
「織斑先生だ。学園の教師が犯罪に加担したんだ。我々にも疑いが向けられるのは当然のことだ」
「でも…」
「一夏、その辺にしておきなさい。あたし達にはやましいことなんて何もないんだから堂々としておけばいいのよ。ここで駄々をこねたってしょうがないわ」
「鈴…」
大人の発言をする鈴音に一夏は何も言い返せなくなる。
「(凰、この短期間で随分成長したな)」
鈴音の成長に千冬は感心する。
記憶にある鈴音はもっと感情的な子供だったが、臨海学校を通して精神的に大人になった。
◇◇◇
現在。
「その後、学園内の資料等は全て押収され、寮内の捜査も終わった。固定電話だけは残されたから苦情の電話が鳴り止まなかったよ」
愚痴のように漏らす千冬。
その声から疲れが感じられる。
「苦情?」
「これよ」
王我の疑問にミオリネがタブレットをデスクに置いて映像をみせる。
《速報です。アメリカの新型ISが日本の領空に侵入したとの情報が入りました。IS学園は独断でなんと学園の生徒を戦闘に参加させたとのことです。これらを計画し逮捕された3名の教員は全員女性権利団体のメンバーで、学園側も事実を知りながらこれを放置していたとのことです。アメリカ人のパイロット、ナターシャ·ファイルス容疑者は海上自衛隊によって拘束、現在は警察庁に移送されて事情聴取を受けているとのことです》
ニュースの画面が切り替わり、教員3名とナターシャの顔と実名が公開されている。
ちなみにナターシャの顔が出た途端、ネットでは「美人」「金髪外人エロい」「ヤらせてくれ」とキモいコメントが溢れていた。
さらに画面が切り替わり、IS学園の正門前のリポーターが映る。
《私は今、IS学園の正門前にいます。東京地検が家宅捜索を行っており、検察官の方々が学園から次々とダンボールを運んでいます》
映像には検察官が車にダンボールを載せているところが映っている。
《番組がIS学園に取材を申し込んだところ、今は何も話せない、後日会見を開きますと断られました。続報が入り次第お知らせ致します》
そこで一旦、映像が終わる。
《これが3日前のニュースだ》
通話中の千冬がそう言った。
王我はミオリネに視線を移すが、彼女は澄ました表情をしている。
恐らく報告するほどのことでもないと判断したのだろう。
実際、報告されたところでどうしようもないのでミオリネの判断は正しい。
《家宅捜索は2日間にかけて行われた》
「週刊誌にも出てるわ」
ミオリネが2日前の週刊誌をデスクに置く。
表紙には水着を着たグラビアアイドルが写っている。
王我がページを開く。
「へぇ、バスト100cm超えの期待の新人グラビアアイドルねぇ」
王我がグラビアアイドルのページを眺めていると、ミオリネがバッと週刊誌を奪い取りページをめくって「フンッ!」と勢いよくデスクに叩きつける。
記事には『暴かれるIS学園の闇』『生徒を私兵として利用か』『テロリスト教師』など見出しが大きく書かれていて、ニュース同様に容疑者3名の顔と実名が晒されている。
小さいが密漁船の記事も載っている。
「まあ、週刊誌の記事なんていちいち気にしててもしょうがないですけどね」
《そうだな》
王我の一言に千冬が同意する。
千冬も『ブリュンヒルデ』と呼ばれて取材も何度か受けて、あることないこと書かれたこともあるのだ。
《そして、2日前にあのニュースが出た》
「沖縄ですか…」
《中継映像にフリーダムが映っているのを見た。お前もその…色々大変だったみたいだな》
千冬はあまり深くは聞かない。
軍事や政治に関わることは話せないことも多いだろう。
「これが昨日の記事」
ミオリネが別の週刊誌のページを今度は開いた状態で見せる。
IS学園の不祥事もビッグニュースだったが、沖縄戦の記事は一夜にしてそれを上回り、特大の見出しを飾ることになった。
今、国内ではこの2つのビッグニュースが世間を騒がせている。
《それと昨日、保護者説明会が行われた。そろそろニュースに…》
千冬が言いかけたところでミオリネがテレビをつけるとちょうどその保護者説明会についてのニュースが流れていた。
《先日、判明したIS学園の問題ですが昨日保護者説明会が行われたとのことです。番組は説明会に参加した保護者の方から録音した音声データを入手しました》
ニュース番組のキャスターが原稿を読み上げると、画面が切り替わり、IS学園の外観をモザイク化した背景と字幕が映る。
《えぇ、まずはこの度、保護者の皆様にはご心配とご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした》
IS学園の学園長が謝罪の言葉を述べる。
《それでは改めて説明会を始めさせていただきます。今回、当校の教員3名が起こした事件に関しまして我々学園側は一切関与していないことを主張します》
学園の上層部の判断は責任の押し付けだった。
その発言に学園長の隣に座っている千冬が顔には出していないが内心で 「(まさか、ここまで…)」と驚愕している。
《当校の専用機のパイロットを戦闘に参加させたのはあくまで現場の判断でありますが、状況が差し迫っていたため仕方のないものだも思われます》
学園長はそう説明するが、千冬は学園側からの連絡と指示によって動いたし、自衛隊や海上保安庁もいたため状況もそこまで差し迫っていなかった。
とはいえここで否定すれば余計な混乱を招いてしまう。
後出しで意見を口にしても意味がない。
《質問いいですか?》
学園長が説明を終えたところで保護者から手が挙がる。
《ど、どうぞ…》
学園長はたじろぎながらも返す。
《なぜ生徒を戦闘に参加させたのですか?自衛隊とかに任せるべきでは?》
《それは…自衛隊の到着を待っていては間に合わない可能性があったのかと…》
嘘である。
『銀の福音』の進路と速度では自衛隊や海上保安庁でも十分対応可能であった。
学園はそれより前に出て横取りしようとしたのである。
《仮にそうだとしたら先生方が対処すべきでは?生徒を危険に晒す理由はなんですか?》
《えっと…当校の専用機のパイロットは大変優秀なので、そちらの方が確実なのではないかと…》
《つまり、生徒が怪我をしたり命を落としても構わないってことですか!》
保護者の語気が強まる。
他の保護者も《ふざけるな!》《子供を何だと思ってんだ!》と怒号が飛び交う。
《み、皆様落ち着いてください…決して生徒のことを蔑ろにしたわけではなく…》
《…少しよろしいですか?》
学園長が弁明しようとしたところで、1人の女性の保護者(シングルマザー)が立ち上がった。
《私には娘がいます。今年入学した1年生です。IS学園を受験すると娘から聞いた時、私は最初反対しました。あんな恐ろしいもの、人を傷つけられるものを扱う学校に娘を通わせたくないと。でも、娘が私に言ったんです。「あの憧れの織斑千冬さんのいる学校で学べるなんてこんな幸せなことはない!」って。私は娘と娘が憧れた学校を信じて受験することを認めました。でも、それは間違いでした。ニュースを見た時、私は心臓が止まりそうになりました。娘は無事なのかどうか分かるまで気が気でなかった。娘と電話が通じて無事と分かってどれだけ安心したか。…私はもうこの学校のことが信じられません。失望しました。子供を戦場に向かわせるような学校に娘は通わせない。子供に!武器を持たせて戦場に行かせるような母親に私はなりたくありません!…はぁ…お時間を取らせてすみませんでした》
女性は言いたいことは全て言って席に座った。
すると、他の保護者から拍手が次々と上がる。
「よく言った」「ありがとう」と保護者の心の中で思っていたことを代弁してくれたことに感謝の意思を示している。
女性の言葉を聞いた千冬が立ち上がる。
《お、織斑先生?》
学園長が驚く。
《貴重なお言葉、ありがとうございます。…私には弟がいます。手のかかる弟ですが大事なたった1人の家族です。でも私は彼を戦場に向かわせてしまった。姉として家族としてではなく教師として…いえ教師としても失格でした。保護者の方々や世間の皆様にはすぐに信用を取り戻してもらうことは難しいと思います。ですが、少しずつ少しずつこれから学園がより良い方向に、生徒達が安心して学べる、保護者の方々が子供を安心して通わせられるようなそんな学園に変えていきたいと私は考えています。…この度は私がいながら生徒を危険に巻き込んでしまい大変申し訳ございませんでした》
千冬は最後に保護者全員に頭を下げた。
音声はここで終了した。
《以上が保護者説明会で録音された音声の内容になります》
番組のキャスターが切り替える。
その後も番組では専門家のような人やコメンテーターがコメントでIS学園を批評していた。
ミオリネがそこでテレビの電源を切る。
ネットやSNSでは「お母さんの言葉感動した」「これから頑張って」「応援してます」「私達が味方だよ」と保護者の言葉に賛同する人がいる一方、「ISを否定するな」「ISは女性の象徴」「それでも女か」とどうやら女性至上主義のコメントもありかなり荒れている。
「そちらも大変だったみたいですね」
《ああ。だが私もあの日のことは反省しているし後悔している。生徒を危険に巻き込むべきではなかった。私が出ていれば良かったと》
千冬は学園側の人間だ。
雇われの教師では断れる立場にはなかった。
それでもクビだろうが何だろうが自分が動けばよかったと千冬は後悔している。
《…すまない。話を続けよう。お前の補習についてだが…》
「ええ、4日休んでますからね。その分の…」
《いや、1日だ。家宅捜索が行われた日から学園は休校状態だからな。それと学園に戻ってくるのは少し後にした方がいい。お前が来たらまた騒ぎが大きくなる可能性がある》
マスコミも王我に話を聞こうとするだろうと千冬が配慮したのだ。
《あと家宅捜索についてもう1つ。お前のラボなんだが東京地検があそこも捜査したいらしい》
「ああ…あそこは学園とはまた別の私有地になってますからね」
学園にあるラボは王我が学園の土地から一部買い取った場所なので検察も勝手に捜査はできないのだ。
「そうですね。いくつか条件があります」
《何だ?》
「立ち会いには織斑先生と愛莉をつけてください。それから機材などの持ち出しは禁止で」
《分かった。私が話をつけてこよう》
「はい。…アイ、東京地検の人がラボに来たらセキュリティレベルを1に下げろ」
《Yes、マスター》
王我はスマホに呼び掛けるとアイが答える。
「それじゃ何日かしたら学園に戻ります。ちょうど用事も出来たので」
《分かった。…ああ、最後に…その…束は元気か?》
千冬は最後に親友の近況について気になり訊いてきた。
「そうですね。元気過ぎるくらい…ああ、でも最初に会った時よりはおとなしくなった方ですかね。敬語も使いますし」
《あの束が…敬語…だと?》
電話の向こうで千冬が衝撃を受けていた。
「まあ、その内会った時に話してみたらどうですか?」
《そ、そうだな…メールの件もあるしな。それじゃ切るぞ》
「はい」
そう言って通話が終了した。
「…メール?」
王我は最後の一言が気になったがすぐに忘れることにした。
◇◇◇
とある場所。
薄暗い地下のような部屋に円卓があり、スコールとホログラムで映し出された5人、亡国機業の幹部が勢揃いで座っていた。
ホログラムの内1人はスコールの対面に座っているハマーンだ。
スコールの斜め後ろには茶髪ロングの美人でスコールが最も信頼する部下で同性の恋人のオータムが立っている。
「ベルリン、沖縄…あれだけの戦力を投入しておきながら失敗するなんて無様な結果ね」
ホログラムの内1人、ハマーンの左側に座っている金髪の女がスコールを非難する。
「仕方がないわ。あそこまでの戦力があるとは思ってなかったもの。上官思いの部下がいて助かったわ」
スコールは部下が上官思いで奮闘してくれたと言うが、実際は部下を見捨てて逃げた卑怯者である。
しかし、その真実を知る者はスコール以外いない。
生き残ったベータにも合流地点に来るように命令しただけなので何も知らない。
「しかし、人造強化人間を2体失い、デストロイとバンシィも墜とされた。この失態は重い」
スコールの左側に座っている身長190cmほどある長身で緑髪の女がスコールを追い立てる。
「それを言うならハマーンもそうでしょ?」
スコールが言い返す。
「何を言ってやがる?ハマーンはIS学園とアメリカを混乱させて陥れた。だがお前はどうだ?何の成果も出してねぇ」
スコールの右側に座っているブラウンの髪の女がスコールの反論を論破する。
「そもそも幹部の器じゃないのよ、あなたは」
「なんですって!」
金髪の女の言葉にオータムがキレる。
「控えろ俗物」
それを制したのはハマーンだった。
「何を…っ!」
オータムはハマーンに言い返そうとしたが、ホログラム越しに彼女の眼を見た瞬間、その圧力に押されて何も言えなかった。
「我々幹部に上も下もない。それぞれが保有する戦力の範囲内なら誰が何をしようと咎める必要はない」
ハマーンの言葉にスコールは内心唇を噛み締める。
幹部に上下関係はないというが、明らかに組織を掌握しているのはハマーンだ。
それがスコールのプライドを刺激している。
「(バカにして…)」
いつか殺してやろうと思うスコールだった。
「彼女の言う通りだ」
そう言ったのはやや濃いめの紫色の特徴的な髪型をした亡国機業幹部で唯一の男。
当然、ISは使えないがカリスマ性と知略でここまでのしあがってきた。
「今さら責めたところで意味はない。我々は我々のやり方でやればいい。他の幹部が被害を被ってなければそれでよかろう」
彼の意見に4人はとりあえず納得した。
「スコールもそれでいいかな?」
「ええ」
彼の助け船に彼女は乗っかった。
「ではこれで解散とする」
ハマーンの一言でホログラムが1人ずつ消えていった。
「スコール…」
オータムが心配するように声をかける。
「このままでは終われないわ…このままでは…」
スコールは静かに拳を握り締めた。
◇◇◇
千冬との電話を終えた王我は技術開発部の部屋に入った。
「おーくん、おーくん!」
奥から会社の制服の上から白衣を羽織った束がハイテンションで駆け寄ってきた。
「何あれ!あんなの初めて見たよ!凄いよ!革命だよ!」
束の目はキラキラ輝いていた。
「うちが開発中の新型のISだ」
束の肩を抱きながら機体の前に立つ王我。
目の前には3機のISがあり、現在進行形で開発中である。
「進捗はどうだ?」
王我がマリエルに訊く。
「1番機が90%、2番機が70%、3番機が50%です」
「そうか。1番機は準備が出来次第、俺がテストする」
王我はスマホで時刻を確認する。
「これから出かける。戻るまでに準備を完了しておけ」
「分かりました」
王我の指示にマリエルが答える。
「お前も残ってマリーを手伝え」
「了解しました!」
束がピッと敬礼する。
王我は一旦、着替えてから会社を出たのだった。
◇◇◇
とある地下研究所。
その研究室では何人もの研究員が作業していると、1人の男が研究室に入ってきた。
「驚きだな。まさかあの状態で生きているとは…」
その男の名は天道力也。
王我と愛莉の実の父親でシルバーキングスの前社長だった男だ。
王我によって社長を解任され追放された後、彼は組織を作り上げ自分の研究所を持つまでになった。
その彼が視線を向ける先には培養カプセルがあり、その中にある人物が入っていた。
その人物とは…リベルだった。
王我によって右半身を焼き切られ海に落ちた。
力也とその一味によって密かに回収されていた。
脳も肺も半分しか残っていないにも関わらず彼女の命はまだ絶えていなかった。
「バイタルは?」
「低いですが0ではありません」
力也の問いに研究員が答える。
「そうか。しかし、こんな拾い物をするとは王我には感謝しなければな」
その名を口にした瞬間、培養カプセルの中からゴポポッと音がした。
「……ス…」
「ん?」
「…ロス…」
「主任!被験体が何か発しています!」
研究員の慌てた声が響く。
「バカな。発声機能が生きているというのか!?」
力也が信じられないものを見るような目をする。
リベルは脳も肺も喉も半分失いながら声を発している。
「なんという生命力だ…」
「…リ……ム…コ…ロス…」
「何だ?何を言っている?」
力也は培養カプセルに耳を当てる。
「フ…リ…ダム…コロス…」
「フリーダム殺す…ハハハ!奇遇だな。私も同じだよ。奴を殺したくて殺したくてたまらない!」
力也の高笑いにリベルは血走った左目で睨む。
力をよこせと言わんばかりに。
「ちょうどいい!DG細胞の準備を始めろ!こいつはいい実験体になる!」
力也は嬉々とした笑みを浮かべて研究室を出た。
「…フリーダム…ヲ…コロシテヤル…」
培養カプセルの中でリベルは怨念を育てていたのだった。
法的知識は自信ないので間違っていたらすみません。
そして、あのクズが帰ってきてしまいました。