※この作品はR-18です。

愛妻サキュバスの疑似NTR   作:大鑑舟平

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①愛妻サキュバスと夜の悩み

 

「あっ♡ あっ♡ あなたっイイ♡ きもちイイですっ♡」

 

「ううっ、俺も……もうだめだ……」

 

「ああっ♡ またでちゃうのですか? わたし、まだおなかペコペコなので……いっぱいくださいませ♡」

 

「イ、クッ……!」

 

「わたしも……♡ あっ……♡ おちんちんドクドクしてます♡ すっごくおいしいですよお♡」

 

 

 ギシギシと軋む音が薄暗い空間に鳴り続ける。

 寝室のベッドの上で、俺は愛する妻に組み敷かれていた。

 互いの性器が深く繋がった結合部には、どちらが由来かも分からない白濁液がべっとりと付着している。

 ぐちょぐちょに濡れそぼった妻の肉穴は極上の快楽を与えてくれ、俺は既に何度も精液を搾り取られていた。

 彼女の方も時折ひくひくと身体を震わせているところを見るに、俺と遜色ないくらいに感じているようだ。

 夫婦となって以来数え切れないほど身体を重ねているが、全く飽きることはない。

 

 まあ、当然か。

 ちらりと妻の顔に視線を送る。

 快感にとろりと蕩けている美しい顔。

 その額には琥珀色の角が一対生えていた。

 一心不乱に柳腰を振る背後には、靭やかな尻尾がゆらゆらと揺れている。

 なにせ、俺の妻はサキュバス。

 愛する男と睦み合い、その子種を胎内で受け取ることを至上の幸福だと感じる、人ならざる美しい淫魔なのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 本日の夫婦の営みを終えた俺たちは、身体中に付着した汗や白濁液を落とすために浴室へ向かった。

 バスチェアにちょこんと座った妻の豊満な肉体は、俺の手でボディソープを塗りたくられて泡まみれになっている。

 コトが終わった後にこうやってお互いに洗い合うのもまた、俺たち夫婦の楽しみな時間だ。

 

 そんな至福の時にも拘らず、妻の表情は少々冴えない。

 むむむと形の良い眉をひそめ、何事か考えているようだ。

 ややあって、くるりと俺の方へと向き直り口を開いた。

 セックスの最中は口調が崩れるくらい可愛らしく甘えていたが、落ち着いた今は普段のクールで貞淑な妻に戻っている。

 

 

「本日も愛情の込もった精液をたくさん注いでいただいて、ありがとうございます」

 

「いや、こちらこそありがとな。超気持ちよかったぞ」

 

「まあ、なんて嬉しいお言葉……。ただ、ここ最近少し気になることがありまして……」

 

 

 感激するように、小さくにこりと笑う妻。

 しかし、すぐにその喜色は引っこみ真剣な表情に変貌する。

 

 

「数ヶ月前から、あなたが一度の吐精でお出しになる精液の量が徐々に減少していると感じているのです」

 

「そうか?」

 

「ええ。以前はこう、どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅーー!!という感じだったのですが、今はどぴゅぴゅーという感じです」

 

「フィーリングすぎてよう分からん」

 

「そんなあ」

 

 

 無表情のままがっかりと肩を落とす妻。

 その乳房にこびり付いた行為の残滓を丁寧に剥がしながら、俺は話を続ける。

 

 

「つまり、まだ満腹じゃないってことか? そんなら今からでも続きするけど」

 

「大丈夫です、回数でカバーしてもらいましたから。でもこのままだと、近い将来足りなくなるのではないかと不安で……わぷっ」

 

「ほら、泡流すから前向いてろ。その時は何百回でも抱いてやるから心配するなって」

 

 

 レバーを切り替え、シャワーノズルから温水を噴出する。

 びくんと小さく跳ねた妻の柔肌を掌で優しく擦る。

 肌を覆っていた大量の泡が、音を立てて流れていく。

 

 すべすべとした妻の感触を楽しみながら、密かに先程投げられた指摘を胸の中で反芻する。

 精液が少なくなった、か……。

 確かに、近頃射精の勢いが悪くなったとは感じていた。

 ただの勘違いだとは思っていたが、妻の方もそう思っていたとは。

 夜の生活の不満は、精液を糧とするサキュバスにとっては死活問題だ。

 即急に解決しなくては、深刻な事態になりかねない。

 しかし、原因がまるで分からない。

 身体機能そのものに問題があるとは考えにくいからな。

 

 

「それなら、魔術を使えばいいんじゃないか?」

 

「もちろん使っております。でも、あまり効果が感じられないのです」

 

「そりゃ……困ったな」

 

 

 サキュバスは、精力を原動力にして様々な魔術を行使することができる。

 その多くはR指定の必要なエロエロ魔術で、ベッドの上において絶大な効力を発揮する。

 例えば、催淫の魔術は術者への劣情を誘引し、萎えた陰茎をたちどころに回復させる……といった具合に。

 こういった魔術を使えば、性生活に不満が生まれるなんて無いはずなのだが……。

 

 それに、サキュバスに惚れられた男は例外なく精力が爆増する。

 自分の愛した男が精力不足で苦しむ事がないように、彼女たちの祖先が組み込んだ加護が今まで脈々と受け継がれているらしい。

 その効果は抜群で、齢90を超える老人が若々しい淫魔妻を孕ませた、なんて話も聞くくらいだ。

 俺も妻と結婚した頃は獣のように盛っており、溢れ出る獣欲のまま襲いかかり彼女をギブアップさせたこともあった。

 つまり俺の生殖能力は元々十二分にあったし、仮に今は悪化しているとしても、淫魔たる妻がその気になれば即座に解決できるはずなのだ。

 

 

「むむ……」

 

 

 ならば、この不調は精神的な何かが原因となりそうだ……。

 そこまで考えた時、ふと脳裏にある事柄が思い浮かぶ。

 

 

「あっ」

 

「どうかしました?」

 

「い、いや、なんでもない……」

 

「そうですか」

 

 

 怪訝な顔をする妻を誤魔化し、彼女を洗う手に集中する。

 まさか『あれ』のせいじゃないだろうな……。

 とても妻には言えない秘密を胸中にしまい込み、夫婦の触れ合いに意識を戻していった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 転機が訪れたのは、精力不足を指摘されてから数日後。 

 職場から帰宅した俺は、凄まじい重圧を放つ笑顔を浮かべた妻に迎えられた。

 何か言葉をかけようにも、この表情を前にしては口を噤む他ない。

 金縛りにあったように固まる俺の身体に、妻の腕がゆっくりと近づいてネクタイをぐいっと強く掴んだ。

 そのまま無言でリビングに連行され、食卓に広がる数々の品物を見せつけられる。

 

 

「あなた。これは一体何ですか?」

 

 

 出会った頃から変わらない筈の慇懃な口調から、抑えられない激情が伝わってくる。

 氷のように冷たい声色で糾弾され、テーブルの上に鎮座する物体に恐る恐る視線を向ける。

 …………なんてことだ。

 

 

「その様子だと、どうやら覚えがあるようですね」

 

「その……これは……」

 

「言い訳は要りません。今ここで、この悍ましいものについて説明してくださいませ」

 

 

 思い出すまでもない。

 そこに並べてあるのは皆、俺がよく知っている品々だった。

 

 

『サキュ妻のイケない欲求』

 

『経験したのは夫だけ! 欲求不満なカラダを持て余す清楚人妻サキュバスを寝取って中出し10連発!』

 

『淫乱妻と昼下がりの情事 ダウナーサキュバス人妻との浮気エッチASMR 大容量180分』

 

 

 本やディスクなど様々な媒体に記録して販売された、大量の淫魔との逢瀬。

 しかも揃いも揃って人妻もの。

 とてもじゃないが、サキュバスの妻を持つ男が所持するに相応しいブツだとは言えないだろう。

 決して妻に見つからないように、秘密の場所に隠していたはずなのに……。

 

 

「どうやってこれを……」

 

「掃除中にです。物置き小屋の奥深くにあのような隠し部屋があるなんて考えもつきませんでしたよ」

 

 

 何てことだ、あそこが見つかってしまったのか。

 最近は妻との営みが順調で、利用する機会も無かったというのに。

 腕を組んでじろりと睨みつける妻に俺は萎縮する。

 誤解してはいけないが、妻は決してこの手の本やビデオそのものを嫌っているわけではない。

 以前別ジャンルのアダルトビデオが発見された時には、あなたの性的嗜好がもっと知れて嬉しいとむしろ喜んでくれたのだ。

 

 だが、これはさすがに事情が異なる。

 性癖というのは、パートナーとの間で満たせる範囲のものであれば良いスパイスになるだろう。

 しかし、もしそれが不可能だったら?

 夫婦の関係性にヒビを入れかねないようなものだったら?

 今回白日の元に晒されたのは、正にそういう質の性癖だった。

 

 サキュバスは浮気を極端に嫌う。

 彼女達が求めるのは、自分と相性が寸分狂わず一致する極上の精力を持つ男。

 それ以外には興味を持たない。

 手に入れた男は、絶対に誰にも渡さない。

 

 だから、サキュバスと身体を重ねる男は、お互いに深く愛し合う生涯の伴侶となる覚悟を持つ必要がある。

 彼女達は、一夜の火遊びで終わるような割り切った関係では決して満足してくれないのだ。

 

 例えば、サキュバスと全く無関係の男性がこの手の背徳的な品を楽しんでいたとしても、彼女達は笑って許してくれるだろう。

 世の中広いしそんな人もいるよねーと理解してくれているからだ。

 しかし、もしもその男が自らのパートナーであれば話は変わる。

 そんな嗜好を抱いているのは、自分の妻を見知らぬ誰かに差し出したい、もしくは妻のいる身でありながら見知らぬ女を抱きたいという欲望が潜んでいるせいだと判断されるからだ。

 

 そんなの許されるわけがない。

 当然、彼女たちは怒り狂う。

 激情のまま夫に襲いかかり、その身体で以て歪んだ性癖を矯正しようとする。

 かつて、未成年や人妻にまで食指を広げて数多の女を哭かせた未曾有のヤリチン男がいたが、弱々しいロリ淫魔と結婚して以降ピタリと女遊びが止まった、なんて実話もあるくらいだ。

 どんなに大人しく見えても、彼女たちは皆溢れんばかりの愛と力を秘めている。

 それは俺の妻も例外ではない。

 

 

「それで? あなたはいかなる理由があってこのような物を所持していたのですか?」

 

「それは……えっと……」

 

「歯切れが悪いですね。言えないような内容なのですか?」

 

「うう……すまない……」

 

「……ああ。最近精液の量が減っていたのもそのせいだったのですね。もしや飽きられてしまったのではと私が心を痛めていた折にも、あなたはこんな忌まわしいものにお熱でいらしたのですか」

 

「ち、違う! お前に飽きたなんて、そんなわけがないだろ!」

 

「その言葉をどう信じろというのですか……! ただでさえあなたの精力の低下に悩んでいたのに、こんな……こんなものまで……み、みせられて……!」

 

 

 怒りを通り過ぎて涙をはらはらと流す妻の姿に、胸を締めつけられるような罪悪感を感じ、何と言ったものか頭を抱える。

 決して俺は妻を誰かに抱かせたり、見知らぬ女を抱いたりしたいわけではない。

 自らの難儀な性癖を説明したいのだが、上手く話せる自信がないのだ。

 もう直接連れていって確かめてもらうしかないか。

 

 

「その……隠し部屋のコレクションは全部覗いてみたかい?」

 

「もちろんです。揃いも揃って背徳的なものばかりで呆れましたよ。どれだけ溜め込んでいらっしゃるのですか」

 

「そうか。なら見せたいものがあるから付いてきてくれ」

 

 

 怪訝な顔をする妻の手を取り、住居の隣にある物置き小屋へと足を向ける。

 雑多な品の数々に満たされた空間を掻き分けながら奥に進むと、妻に暴かれた隠し部屋の入り口が開いていた。

 中は数畳ほどの広さで、中央の机と椅子がまず目につく。

 さながら、ネカフェの個室をより簡素にしたような空間だ。

 

 机上には動画や音声再生用のノートパソコンが置いてあり、部屋の両脇には簡易な本棚が設置してある。

 そこには本来なら俺のコレクションがぎっしりと詰まっているはずだが、今は妻の手で根こそぎ抜き取られていた。

 嫌な物を見つけた瞬間が思い起こされたのか、妻の表情が一気に険しくなる。

 

 

「それで、このような所に私を連れてきて何を説明なさるつもりですか」

 

「ちょっと待ってくれ……」

 

「早くしてくださいませ。もたもたしてると、反省不足と見なしてこの場でぶち犯しますよ」

 

 

 末恐ろしいことを口走る妻に戦々恐々としながら、目立たないよう床に作った隠しスペースを解錠し、僅かな逡巡の後にその蓋を一気に開け放った。

 そこにあったのは……。

 

 

「私の……写真?」

 

 

 愛する妻の写真を入れたアルバムが収納スペースに溜まっている。

 その種類も選り取り見取りだ。

 見合い写真として渡された、美しい佇まいで微笑を浮かべたもの、結婚式で幸福に満ちた笑みを浮かべるもの、新婚旅行で腕を組みながら自撮りしたもの……。

 中には、プレイの一環として情事の途中に撮影したものもある。

 

 こんな物なら、わざわざ隠さなくてもいいじゃないかと思う者もいるかもしれないが、それではダメなのだ。

 俺しか知らない愛する妻の姿が誰かの目に触れるなんて、耐えられない。

 だから万一を考えて、勘のいい妻ですら気づかないような最も厳重な場所に保管していたのだ。

 俺の本当のオカズは、あの倒錯的な内容の本やディスクなどではなくこの妻なのだから。

 

 

「なるほど……そういうことでしたか」

 

 

 サキュバス由来の鋭い感性を備えた妻も、その意図を理解してくれたようだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 俺があんな内容の物ばかり集めていたのは、決して妻への心が揺らいだからではない。

 誌面や映像の中で嫌がりながら抱かれるサキュバス達を、妻と同一視したことなど1度もない。

 もちろん、彼女らを嬉々として抱く竿役の男達に自分を重ねることもだ。

 

 俺がこの部屋でしていたのは、息抜きの自慰行為。

 最初のうちは、忙しくて夜の営みができなかった日の劣情をこっそり発散するための場でしかなかった。

 しかし妻の与えてくれる極上の快楽を知った身となっては、手や性具で満足することなど不可能だった。

 妻のことを考えながら擦るのが最も快いが、当然本物の感触には足元にも及ばない。

 

 なにか刺激になるものはないか、と色々なオカズを探している最中にふと目に留まったのが、サキュバスを題材にしたあるアダルトビデオのパッケージ。

 

 

『私、あなたの上司にNTRれました──貞淑だったサキュバス人妻が堕ちるまで』

 

 

 バカバカしい、どんな生物よりも一途なサキュバスが寝取られるわけ無いだろ。

 そう一笑に付したはずなのに、胸の内に生まれた小さなざわめきがどんどん大きくなっていく。

 普段なら確実にスルーしていたであろうそのビデオには、無性に惹き寄せられるような何かがあった。

 この劇物を見たいという衝動を抑えられなくなった俺は、恐る恐るビデオを購入して再生する。

 

 メーカー名やタイトルロゴが表示されるのをどきどきしながら見送った後、いよいよ本編が始まる。

 PCの液晶画面に映し出されたのは、商品説明で示唆されていた通りの苛烈な凌辱。

 健気なサキュバス妻を襲う悪辣な狼藉だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 この作品の主役は、お見合いで知り合った夫と甘い交際期間を経て結婚したサキュバス妻。

 大企業に勤める夫と暮らす彼女は、ささやかな幸せを享受していた。

 しかし、その幸福は突如として終わりを告げる。

 それは、ある日酔い潰れた夫を抱えて、脂ぎった中年上司が2人の自宅に訪れた時のこと。

 

 上司にお礼を告げて倒れた夫を甲斐甲斐しく介抱する貞淑な人妻に、盛りのついた中年男の魔の手が伸びる。

 私は君の夫を評価する立場にいるんだぞと、社内の重要なポストを盾にサキュバス妻に関係を迫ったのだ。

 初めは拒絶した妻も、出世レースで遅れをとったと毎日のように悩んでいた夫の姿を思って心を揺さぶられる。 

 

 嫌悪感と献身のせめぎ合いに苦悩するサキュバス妻に追い打ちをかけるべく、中年上司は捏造した夫の浮気写真を見せびらかす。

 その汚い手に握られた、夫の不貞を嘯く偽りの証拠に大きなショックを受ける妻。

 信じていた夫への失望と愛情の狭間で千々に乱れる妻の胸に、豚のように太い手がそっと伸びた。

 

 場面が変わって、初めて咥える夫以外の肉棒に懸命な奉仕を行う妻。

 汚らわしい種を突然口内に発射されむせ返っていると、夫婦のベッドの上で横になれと抑圧的な声色で命じられる。

 この強欲な男は、美麗な人妻の全てを自分のものにする気なのだ。

 

 やっぱりいやです、それだけはできませんと最後の抵抗をする妻に、お前の旦那もこうやって愉しんでいたぞと卑劣な毒が盛られる。

 暫しの沈黙の後、ごめんなさいと蚊の鳴くような声で呟きながら、美しい淫魔はベッドの上へ横たわり力なく足を開いた。

 

 種明かしされたのは全てが終わった後だった。

 呆然とする妻はパシャリと鳴った音から逃れることができず、本当の不貞を捉えた証拠を握られてしまう。

 夫の愛を疑ってしまった自らへの憎悪でぼろぼろと涙を流す淫乱妻に、これからもよろしく頼むよと欲に塗れた声をかけて去る下衆。

 これから彼女を襲う暗澹とした未来を予感させる真っ暗な部屋に、さめざめと啜り泣く声がいつまでもいつまでも響いていた……。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そこで作品は終了し、画面は暗転してエンドロールが流れ出した。

 ふぅ〜と大きく息を吐いて、先程見たばかりの凄惨な記録を思い出す。

 

 そんなことで所帯持ちサキュバスが身体を許すわけないだろとか、まだ凌辱パートなのにすっかり蕩けて甘々な言動に堕ちたサキュバス女優と必死にそれを軌道修正しようと慌てる中年男優の様子から、2人の本当の関係が察せられて微笑ましく思ったとか、ツッコミどころはあるものの終わってみれば中々見どころのある作品だったといえる。

 女優のサキュバスは一般的には格別の美人といえるだろうし、プロポーションや艶声もおそらく最上級なのだろう。

 

 しかし、昂奮するかと言われればそんなことは無かった。

 既に俺には何よりも大切な妻がいるのだ。

 彼女以外に劣情を催すことなど絶対に無いし、彼女以外の誰かに催されることも無い。

 それを実感できただけでも、このビデオを買ったかいがあったな。

 

 そう思い直し、いつものように自らを慰めようと妻を想いながら肉棒を握りしめた瞬間、びりりと背筋に快楽が走った。

 

 なん、だ、これは!?

 

 上手く働かない頭を必死に動かして、その原因を探る。

 性感に翻弄されつつも、自身の心情を客観的に解釈することである1つの推察が浮かんできた。

 

 先程の映像では、イヤイヤと首を振りながら望まぬ男に抱かれて、それでも感じてしまうサキュバスの後ろ暗い情事が映っていた。

 架空のものとはいえ、その姿には仄かな憐憫と嫌悪を感じさせられた。

 翻って自分の立場を顧みると、世界一美しいサキュバス妻が揺るぎない愛と何一つ不満のない性生活を与えてくれる。

 しかも、彼女は映像の中の淫魔とは違って他の男に股を開くことは絶対にない。

 その幸せが本当に得難いものであるという実感を、対照的な地獄を見た今になってようやく俺は心で理解できたのだ。

 

 ……ああ、そうか。

 

 俺はフィクションの中の不幸なサキュバス夫婦を垣間見ることで、幸福に満ちた妻との日常の有り難さを体感し、途方もない安心感を得ている。

 その落差に、どうしようもなく昂奮してしまっているのだ。

 だから、こうしてシコシコと耽る手が止まらない。

 

 

「もう……でるっ……!」

 

 

 慌ててティッシュで押さえた亀頭が、ドクドクドクと大きく脈動する。

 妻との情事の際とそう変わらない量の精液が溢れ出てくる。

 ……クセになるかもしれないな。

 自慰とは思えない満足感に息を吐きながら、俺は汚液の後始末に取りかかるのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「へんたい」

 

「うぐぅ……」

 

 

 全てを白状し平謝りした俺に向かって、妻はジト目で睨み冷たい一言を投げかける。

 先程までの怒りや悲しみこそ霧散したものの、俺の性癖が余りに倒錯していた事実に呆れ返っているようだ。

 

 あの後自分の性癖に気づいた俺は、自らの幸せな結婚生活とできるだけ対極にありそうな作品をせっせと収集した。

 こそこそと隠れて淫蕩に耽るのが習慣となった俺の精力は日に日に増していき、ついに自慰をした翌日のまぐわいでは妻を抱き潰せるほどに成長した。

 ここ最近は仕事に余裕が生まれたお陰で、妻と毎日欠かさず交わる時間を確保できており、俺の密かな趣味も随分ご無沙汰になっていたのだが……。

 まさかそれが精力低下を引き起こしているとは、考えもつかなかった。

 

 

「想像だけじゃ足りなくなって、こんなにたくさん私の写真を用意なさったなんて……。まったく、お猿さんでももう少し慎みがありますよ」

 

「その……幸せな記憶は幾らあってもいいと思って……」

 

「黙りなさい。このド変態」

 

 

 ついにドの付く変態になってしまった。

 妻はまだ溜飲が収まらないようで、ぐちぐちと文句を言っている。

 しかし実のところ、俺に寝取りや寝取られ願望がないと分かって安心したからか、内心かなり喜んでいるようだ。

 落ち着かない様子で角をくりくり弄っているし、靭やかな尻尾はゆったりと上下させている。

 妻が嬉しい時無意識に出すサインだ。

 

 

「つまり最近の不調は、あなたの拗れまくった性癖を発散する機会が無かったことが原因だったのですね」

 

「ああ、その通りだ。それで、これどうしようか……?」

 

「その劇物にまだ使用価値があるのですか? まさか私に知られてなお、架空の淫魔の不幸をダシにするおつもりで?」

 

「……いいや、もうそんな気にはとてもなれないな。コレクションも全部処分するぞ」

 

「流石にそこまでしろとは言いません。集めるのにも苦労されたでしょうし。たまにご覧になるくらいならいいですが、使うのは絶対許しませんよ」

 

「それはもちろん。でも、これからどうやって精力を増やせばいいんだろうな……」

 

「…………」

 

 

 夫婦不仲という差し迫った問題こそ解決したものの、根本的な問題は棚上げになったままだ。

 コレクション無しで、どうやって妻を満たせれるだけの精力を確保すればいいのだろうか。

 

 

「……あなたはどうしたいですか?」

 

「どう、ってのは……」

 

「そのご性癖を治すのか、そのままでいるのか、どちらがお望みかとお聞きしたのです」

 

「…………」

 

 

 妻が言いたいのは、つまりこういうことだろう。

 この拗れた性癖そのものを矯正して、倒錯的な本やビデオが無くても甘々ないちゃラブエッチで最高の快楽を得られる身体になりたいのか。

 それとも、今のままの性癖で何とか興奮できるシチュエーションや性感帯を探したいのか。

 

 妻がどっちを選びたいかなんて聞くまでもないのに、大切な選択肢をこちらに与えてくれる優しさが胸に沁みこんでくる。

 それに俺も応えなくっちゃな。

 

 

「絶対に治すよ。お前を満足させるために」

 

「承知しました」

 

 

 それだけ言うと、妻は黙り込んでしまった。

 目を閉じて何かをじっと考えているようで、あれを使えば……いやでも……などと時折小さく呟いている。

 

 暫くしてゆっくり目を開けた妻は、羞恥に塗れた真っ赤な顔できっぱりと言い放った。

 

 

「分かりました、私も覚悟を決めます。元はといえば、あなたの変化を察していながら今まで座して何もしなかった私のせいでもあります。夫の夜の悩みを解決できないなど、サキュバス失格です。あなたが恥ずかしい本心を明かしてくれたのですから、今度は私が応える番です」

 

「おい、何を……」

 

「3日間、時間をください。私が必ず、あなたの拗れに拗れた性癖を壊してさしあげますので」

 

 

 そう宣言した妻の瞳は、迷いを払って小さく燃えているかのように見えた。

 

 

 

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