※この作品はR-18です。

【俺の女は】ハイスクールハックアンドスラッシュの世界に転生したけど、なんか質問ある?【俺のもの】   作:笛吹き用

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第十話 割高だけどデリバリーって便利だよね

 

 4/23 (土) 8:45

 

 

「ぐあっ……!」

 

「はい、次。気ぃ済むまでどんどん打ち込んで来たらええで? どうせ当たらへんしな」

 

「くっ、糞がぁぁぁ!! しぇあっ、ッ、がぁ! 痛てぇ、痛てぇよぉ!」

 

「はい。手も足も悪い。何より刀を抜く時の『意』の隠し方が悪い。そんな全身で「抜くぞ! 今抜くぞ!」主張してくるやつなんて初めて見たわ。なんでそんなわかりやすいねん、あほか自分。ホンマ基本が全然なってないわ。そんなんやったらいくらクラスチェンジして動きそのものが速くなってもなんも意味あらへんで?」

 

「ちくしょう……。くそぉ……。なんでお前みたいな陰キャ相手に【剣士(ブレイダー)】になったこのオレが負けるんだよぉ……」

 

「そんなん当たり前やん。自分、せいぜい剣術の修行始めて数年やろ? 俺なんて二歳になる前には道場で木刀握らされて、四歳なった後しばらくして禅の修行始めさせられて、五歳の誕生日の翌日には真剣使って修行してたんやぞ? ドアホ、年季が違うわ」

 

 というわけで脇差を餌にまんまと道場に誘い込まれた京介くんに「俺の脇差見たいんだったら最低限の剣の扱いの腕、見せてくれない?」と言って道場にあった居合道で使う刃を持たない模造刀である居合刀を渡し、俺自身は道場の壁にかかっていた木刀を手に立会い稽古を始めたのだが、最初はいつもどおりの笑顔だった彼も俺に打ち据えられ続けるとだんだんと化けの皮が剥がれ始め、途中から普段の外面を完全にかなぐり捨てひどい形相を浮かべ暴言を吐きながら俺に襲い掛かってきたが、だから何だというのか。ひたすらこちらを殺す気で立ち向かってくる狂犬じみた少年を怪我しない程度の力加減で打ち据え続ける。

 

 そうして開始から約一時間後立会い稽古は、俺が残心したまま道場の床に小さな水溜まりを作るほどの汗をかいて泣き言を言いへたり込む京介くんを見下ろすという結果に終わった。

 

 まぁ、予想通り彼が【戦士(ファイター)】系の【剣士(ブレイダー)】のレベル10〜30でも、俺は【職人(クラフター)】系とはいえレベル60。なので最低でも2倍、最大なら6倍なので流石に基本的に俺のが強いんだが、それを差し引いてもお粗末と言わざるを得ない。

 

 正直な感想としては、「二重の意味でやっぱこんなもんだわな」であった。

 

 一つは剣術そのものの腕前。前から見てて思ってたんだけど、コイツが習ってたのはおそらく林崎甚助重信公を開祖とする居合術の何処かの流派のはずなんだけど、とにかくコイツの剣はうるさい。手も足も、そして何より人を斬ろうとする『意』がうるさい。

 

 大概居合というか抜刀の修行は実剣を使う古流剣術の修行において基本中の基本だから、俺もやらされたしやってたし今も暇を見てやってるけど、その観点から見た時なんというかコイツの居合は心技体の技にあたる『型』こそ最低限できているけど、心技体のバランスが悪すぎて正しい居合の『構え』になってないんだよな。その結果、居合を抜く瞬間がうるさくて簡単にいつ抜くか読めるから俺に抜く前に撃たれるか、抜いた後打たれ続けたわけだ。

 

 居合において相手に抜く瞬間を見抜かれるってのは致命的で、そんなことになるのは技術もあるけど文字通りの心身の練りが足りてないから読みやすいわけで。仮にレベル差がなくても同じ結果になったと思う。

 

 二つ目はやっぱりコイツは『人斬り』予備軍だってこと。たとえ今手に持っているのが刃のついてない居合刀とはいえ、普通の人間はそんなもん他人に向けて思いっきり打ち込むことなんてできないんだが、初手から嬉々として抜いて斬りかかってきたからな。

 

 確かにそれができるなら第一階層のゴブリン、コボルトに苦戦する理由もない。だってあいつら殺意がやたら高いだけで身体能力そのものは小学生だし、武器持った高校生が負けるわけがないんだから。それでも多くの学園生が第一階層ですらつまづくのは、人間の社会で生きるために必要で幼少期から植え付けられた『暴力はいけません』や『他人を傷つけてはいけません』といった常識が邪魔をするからだ。

 

 その枷がないコイツの、人間相手に武器を振るうことへの躊躇の無さは一つの才能だし、そういう意味ではコイツ、確かにこの学園向きの人材だわ。俺とダンジョンダイブした時も比較的動けてたし、躊躇もしてなかったなと今更ながら思い出した。伊達にGW前にクラスチェンジした逸材ではないということである。

 

 ただそれは裏返せば普通の社会なら排斥されて当然の異常者の証明。

 

 いわばコイツは幼い子供が100円ショップで買える発泡ウレタン製のおもちゃの剣を振るう感覚で他人に居合刀という『刀の形をした金属製の武器』を振れる人間なのだ。それどころか下手をすれば居合刀の代わりに真剣渡してても同じことしてくる可能性すらある頭のイカれ具合である。これをサイコパスと言わずいったいなんという。

 

 流石に学園に入る前からここまでイカれてはいなかったと信じたいが、もし万が一そうだったのなら学園への隔離待ったなしの正真正銘のサイコパスである。その場合、コイツの頭の中は『斬る=楽しい』でその結果としての『斬った=死んじゃった』は仕方ない、なんだろうなぁ。

 

 ちなみに古流の剣術の修行というやつは、究極的には意識して斬る斬らないをきちんと制御できるサイコパスを作り出すことを目的とした修行であり、エリカに俺が昨日やらせていたゴブリン討伐も『枷』を外す意図をもってやらせたことだ。だが、きつい言い方をするといかに早く人や生き物を殺すストレスに慣れる訓練をするかがこの学園で生き残るために必要であり、逆説的にこの学園で本当の意味で生き残っているのは必要であれば躊躇なく他人を殺せる人間なのだ。

 

 そんなイカれたやつしか生き残れない地獄のような学園だが、外の世界に比べて何もかも悪いというわけでもない。その数少ない良いことの一つが、外の普通の社会でこういうやつに言うこと聞かせるのは結構手間がかかるし大変なんだが、ここならすこぶる簡単だということだ。

 

 ーー単純に相手より強ければええからな。

 

「立ちぃ」

 

「ひっ……!」

 

「京介くん、朝、俺の脇差(かたな)を見たい言うとったな? んで、俺は道場で見せたるってゆうた。ええで? 嘘は言わん、今から見せたるわ」

 

 ーーただし、見えるかどうかはお前次第やけどな。

 

 後ろから首根っこ捕まえて無理矢理立たせた俺は、震えながらなんとか自分の足でその場に立った京介くんからちょうど一歩分距離をとって向かい合い「ええか? 絶対に動いたらあかんよ?」と声をかけて彼が一息ついて止まったその刹那、腰から脇差を彼の額めがけて抜き放った。

 

 一閃が通り抜けた後、はらりと落ちたのは京介くんの前髪が数本。そして額にうっすらと赤い線を一筋だけ残してすぐさま納刀した。

 

 瞬間、膝からドスンという音を立てて崩れ落ち気絶した京介くんに(・)は(・)聞こえないだろうが忠告。

 

「見えたか? ……なんてな。というわけで俺の脇差は諦めぇ。あとあやかとエリカになんかしたらお前、今度はこんなもんじゃ済まさへんからな? ……そう彼に伝えておいてくれますか? 湊(みなと)さん」

 

 俺が道場の入り口を振り返るとそこにはブルブルと全身を震わせながら立つ一人の美少女の姿が。ワンレンロングの黒髪と細めのメガネがその怜悧な顔立ちにとても合っている長身正統派スレンダー美少女であり、京介くんの取り巻き第一号というか正式なパートナーである湊(みなと)さんである。おそらく既に【隷属】済みの彼女はご主人様が心配であとをつけてきたんだろう、もう随分前から道場の入り口からこちらの様子を伺っていた。そんな彼女に今の一連の出来事はあまりにショッキングなシーンだっただろうが、悪いのはちょっかいかけてきたコイツなので許してもらうしかない。

 

 木刀と居合刀を元の場所に戻し、道場の真ん中で崩れ落ちたままの京介くんを放置して俺は彼女へと近づいた。ビクリと反応する彼女はもしかしたらこれから自分が犯されるかもしれないと恐れているのかもしれなかったが、当然俺にそんな気はなくただ彼女の傍を通り過ぎるだけだった。

 

「後始末と伝言、お願いしますね?」

 

 ただ、だから俺がそう言って彼女の脇を通り過ぎた後、彼女は小さく震えた声で「は、はい……」と答えた声だけが道場に妙に響いた。

 

 あー、委員長系眼鏡っ子スレンダー美人とかあんなサイコパスにはほんと勿体ない。勿体なさすぎるけど、蓼食う虫も好き好きだし、人のモノに手を出すとかありえないし、あれで学園ではエリートだし、せめて京介くんが彼女を大事にしてくれることを祈ろう。そう考えた後、まぁ、さすがの京介くんもあやかとエリカという高嶺の花を両取りしてる俺にだけは言われたくないか、ということに気づいて苦笑いした。

 

 にしても、あれで少しは大人しくなればいいけどなぁ。もしダメならクラスメイトを斬り殺し始める前に他のやり方考えないとダメかとため息が出た。日本中探しても間違いなくそんなことを悩まなくちゃいけない高校はこの学園だけである。

 

 そんなことをつらつらと考えながら道場を後にした俺はぼちぼちと歩いて【教室棟】へと戻ることにした。

 

 その最中穏やかな春の日差しを感じ、そういえば今は春なんだよなぁ、今年は桜も見てない気がするなぁと感じた時に、今日の今の今まで感じていなかった自分自身の異常にようやく気づいた。

 

 あれ? これ、俺おかしくなってたか? さっきの話もよく考えなくても普通に脇差見せてもよかったか? 流石に乱暴すぎたか? まぁ、アイツの扱いはあれが残当だしそれ自体はいいけど。とはいえ、そんなことを思いつかないほどに思考が短絡的になりすぎていたことに気づいて愕然とした。

 

 そしてこれが【瘴気やられ】か、と思い至った。少しづつ精神を【瘴気(みあずま)】に蝕まれていておかしくなっていたんだろうなぁ。通りであやか助ける時にも死ぬほど追い詰められてる女の子相手に『エロ同人漫画にありがちなシュチュエーションやってみたい!』なんて死ぬほどバカみたいなことしたわけだ。

 

 罪悪感と羞恥心に身悶えする。穴があったら入りたいがないので我慢して【瘴気やられ】について知ってることを思い出していく。

 

 この【瘴気やられ】と呼ばれる現象、どうなるかの詳細に関しては記述があったかなかったか定かじゃないが、原作小説でも存在自体は仄めかされている。あんまりダンジョンに連続で入りすぎると良くないっていう感じで書かれており、実際異常な勢いでダンジョン通いを続ける主人公たちですら基本二日に一回しかダンジョンには入らない。

 

 一方、【ゲーム】の方ではこの連続のダンジョンダイブというものが明確に精神に関わる【存在強度】というパラメータにダメージを与えるとされており、この数値がゼロになると死ぬとされている。

 

 これが通称【瘴気やられ】と呼ばれている現象で、これに関しては授業でも口酸っぱくひなちゃん先生に注意された。極めて危ないので過度なダンジョンダイブは禁止です、と。

 

 俺はその危険性を知識として知っていながら俺はそのゲームの知識を丸呑みして計算してるからまだ大丈夫大丈夫と無視をしていた。早く強くならないと不安で仕方なかったから我ながら無茶なチャートを組んでやってきた。そうして今の結果そのものにはそこそこ満足してはいるんだけど、こういう形で無理が出たわけだ。

 

 そりゃ、四月四日のファーストダイブから数えて今日でちょうど二十日経ったけど、そのうち十五日ダンジョンに入ってるもんなぁ、俺。そりゃ頭や精神の一つや二つおかしくなるわ。

 

 で、昨日あやかとエリカにあれだけ優しくしてもらったからそれがリセットされ、おかげでようやく少し春を感じる余裕が出たのかな? 眩しい日の光を感じながら、そう思った。

 

 そう思うと二人にはどれだけ感謝してもしきれないなぁ。もっと大事にしないと、そう決意を新たにして、胸ポケットから入学祝いにもらった機械式の懐中時計を取り出し時間を確認するとまだ十時になったところだった。

 

 さて、どうすんべ? と小首をかしげて考える。今から授業に出るのは流石に面倒だし、かといって他に何かをするには次の予定があって動きづらい。そんな微妙に空いてしまった久々の何をするでもない時間を癖でああでもない、こうでもないとどう有効に使おうか頭を働かせ始めたのだが、こういう無理なスケジューリングをしようとする癖が自分を過度に追い込む悪い癖につながるんだなと気づいたので一旦考えるのをやめ、深呼吸を一つしたらなんだか眠くなってきたのでいっそのこと空の下で時間までうたた寝でもしようと良さそうな場所を探すことにしていざ学園探検へ。

 

 そうしてしばらく歩いていたら【庭園】に辿り着いた。そこには手入れの行き届いた気持ちのいい西洋式の庭園が広がっており、ベンチもいくつか設置されている。学園の青姦スポットとして有名な【庭園】だが、この時はたまたま誰もいなかったので俺はこれ幸いとベンチに寝っ転がって目を閉じた。

 

 鳥の声が聞こえる。太陽の日差しがちょうどいい感じ。悪くない。

 

 その気持ちの良さにうとうととし始めた矢先、気配を感じた。それもよく知った人の気配である。さすがにこのままの状態で会うのはまずいと思い目を開いて失礼のないようにベンチから立ち上がって出迎えることにした。最低限の身だしなみと思い、手櫛で髪を直しネクタイも締め直す。

 

 そうして待っているとしばらくして俺のところにやってきたのは出るところはしっかり出ているのにすらりとした体つきをパンツスタイルのスーツで包んだショートボブの美しい女性だった。

 

 その顔立ちそのものの若々しさは一見キャリア数年目の若い女教師にしか見えない。が、それ以外の表情、切長の目の中の濡れた瞳、怪しげに口元を彩るほくろ、成熟した大人のボディーラインなど、とにかく溢れ出る色気を隠そうともしていないその佇まいは彼女が二十代の小娘などではないことを見る人間に強制的に悟らせてくる。

 

 つまりエロい。とんでもなくエロい。

 

 それでも普通の学校に紛れていれば普通の『年齢不詳だがとんでもなく美人でエロい女教師』で通るかもしれない。しかし腰から下がるあまりにも優美な『糸巻太刀拵鞘』に包まれた太刀の存在が、彼女が普通の教師などのはずがないとこれ以上なく雄弁に語っていた。

 

 刀身二尺六寸四分(約80.0cm)、反り2.8cm、元幅2.9cm、先幅1.4cm、刃紋に沿ってその名の由来ともなっている特徴的な三日月形の打ちのけを持つ天下五剣の一振り。その写し。

 

 

 ーー久遠寺宗介作【三日月宗近(みかづきむねちか)写し“神刀眉月(まゆづき)”】

 

 

「おはようございます……、由里(ゆり)先生」

 

「はい、おはようございます坊(・)っ(・)ち(・)ゃ(・)ま(・)。気持ちよさそうにおやすみのところ、起こしてしまい申し訳ございません。ですが流石にこのような場所で堂々とサボられてしまっては、一応学園教師の立場としては声をかけざるを得ませんので……。ご容赦くださいませ」

 

 そういって恐縮しながら折り目正しく頭を下げる由里(ゆり)先生に俺も慌てて頭を下げる。謝罪の言葉を返そうにも、慌てたせいなのかこの人の前だからなのか、思わず標準語ではなく口調が実家にいる時と同じになってしまった。

 

「そんなこと言わんといてください。サボっとった俺が悪いんですから……。お恥ずかしいところをお見せしました」

 

「いえいえ、私から見ても見事な立会い稽古でしたよ? 未熟者相手に木刀を用いて相手をあれだけ打ち据えながらろくに怪我もさせなかったのは生半可な高段者相手の稽古よりも難しいこと。それに最後の抜き打ちも実にお見事。この婆(・)、とても感動いたしました」

 

 ヤベェ、バレてーら。やっぱり見られてたか、さっきの立会い。

 

 そう思って内心冷や汗を流す俺のことなどまるで気にせず、思わずといった具合に俺の頭を撫でてくるどこからどう見ても妙齢の女性にしか見えない由里先生の、彼女からすれば当然の子供扱いに気恥ずかしくなってきた俺は本題について切り出した。こんなふうに接触してきたのだ、人払いは完璧のはずだがそれでも学園内で彼女ほどの人がわざわざ俺にコンタクトを取ってきた事実が既に怖い。絶対ただのサボりの注意が目的のはずがない。

 

「……それで実家から何か伝言でもあるんでしょうか? 由(・)里(・)お(・)婆(・)様(・)」

 

「はい、お察しの通りでございます。若様と旦那様からご伝言がございます。GW中のできるだけ早い時期に先代様と先々代様が坊っちゃまとの面会のため学園を訪問されますので、坊っちゃまのご予定はどうか伺うようにと承ってまいりました」

 

 申し訳なさそうに微笑む由里お婆様。どう見てもぱっと見二十代にしか見えないこの女性は、俺の剣術の師匠の一人であり、現役(復帰三回目)の学園教師にして【到達者】と呼ばれる学園最強戦力の一角であり、そして祖父の学園時代からの伴侶(パートナー)の一人であり、妾の一人であり、そして血の繋がった実の祖母(正妻)ではないにしろ俺にとっても祖母の一人である女性の告げた言葉に俺は思わず天を仰いだ。

 

 ……面倒ごとがまた増えた、と。

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

 しばらく既にぶち壊れて久しい今後の予定(脳内チャート)について思いを巡らせた後、『五月一日を避けてくれるのであればいつでも良い』とだけ伝言を頼み、「まだお眠いのでしたらこの婆の膝でよろしければ膝枕して差し上げましょうか?」と言って揶揄ってくるお婆様に丁重にお断りして逃げるように【庭園】を後にした俺は、さすがにもう別の何処かで二度寝する気はなれず、少し早いが待ち合わせ場所である学食へと足を運んでいた。

 

 流石にまだ授業時間真っ只中のため、食堂には生徒の姿はほとんどない。しかも他の場所だと大概の場所で聞こえてくるセックスする男女のまぐわる音が聞こえてこず、純粋にスピーカーから流れるBGMが聞こえる。さすがの学園内も本当の意味でどこでもセックスをしていいわけではなく、この食堂を含めたいくつかのパブリックスペースでの性行為は暗黙の了解でご法度となっている。

 

 なので落ち着いた気持ちであやかたちを待てるわけだ。とりあえず早めに到着した優位性を生かして奥の方にある目立たない六人掛けのテーブル席を確保した俺は、軽く腹を満たすために五種のサンドイッチ盛り合わせ(大)とミルクコーヒー(LL)、さらに付け合わせにツナサラダと三日月型のフライドポテト(大)を頼んでそれらをつまみながら、さて、まずはあやかとエリカに提案する選択授業のパターンから考えるか……と思い、備え付けの紙ナプキンをメモがわりにあーでもないこーでもないと色々考え始めた。

 

 やばい、どんなゲームでもそうだけどスキルとかクラスとか装備とかそういうものの【構成(ビルド)】を考えるのってどうしてこんなに楽しいかね? ゲームではなくもはや現実となったこの世界においてもこの楽しさだけは変わらんなぁと夢中になって紙ナプキンに次々とアイデアを書き散らかす。

 

 そしていつの間にあれだけあったはずの食い物がなくなり、人が増え始め、ザワザワとした喧騒と腹ペコたちの熱気で学食がいっぱいになってきた頃、ようやく待ち人たちがやって来た。

 

 あやかとエリカを先頭にやってきた大貴くん……たち一行なのだが、思った以上に人数が多い。あやか、エリカ、大貴くんの他にクラスメイトらしき女子が六人もいる。

 

 その彼女たちなのだが周囲の視線がすごい。しかも男子だけじゃなく女子からも視線がすごい。

 

 まず一人目。推定170cmぐらいの身長で爆乳の子がいた。いや、あれは爆乳じゃないな、超爆乳だ。そら周りの人間もみんな見てるわけだ。いくらスタイルのいい美女美少女揃いの学園といえどなかなか見ることがお胸にメロン二つくっ付けたバストサイズ推定1m超えは流石に誰もが驚く。しかも実りに実ったその超爆乳に反して顔立ちは可愛らしい幼顔で、しかもウエストはくびれて尻も安産型というそのお姿に俺は内心でありがたやと手を合わせた。

 

 ただ彼女を見た瞬間、なぜだか他の学園の女の子には感じたことのない違和感を感じた。正体の掴めない違和感に関して俺は僅かにおかしな感情を覚えた。無理矢理言語化すると……、傷ましい、か? 見てはいけないものを見ているようなそんな感覚。

 

 それに対して二人目の子は対照的にそんなことを一切感じさせない貧乳の子で、身長150cmに満たない小柄でスレンダーな体付きのちょっとつりあがった目がめっちゃかわいい勝ち気そうなツインテールの少女だ。彼女を見た第一印象はずばり『メスガキ』。くっそ生意気そうで、わからせプレイが死ぬほど似合いそう。お願いだ、どうかツンデレであってくれと祈らずにはいられなかった。

 

 そんな対照的すぎる凸凹美少女のツーショットが、普通の美女美少女には慣れきった学園の皆さんの目も引いたわけだ。

 

 さらに他の女の子たちもみんなかわいい子揃い。

 

 三人目、美乳で太眉が似合う目鼻立ちのはっきりしたショートカット美人。

 

 四人目、巨乳のどう考えても日本人の血入ってませんよね? ってブロンドの女の子。

 

 五人目、超爆乳の彼女がいるせいで目立たないがしっかり爆乳で、俺の好みのど真ん中ストレートなふんわり系眼鏡美少女。さらに六人目の大貴くんの背中に隠れていてよく見えないおさげの女の子と、加えて正統派美少女のあやか(美乳)と金髪黒ギャルのエリカ(巨乳)が一塊でやってきたんだからそりゃ目を引くわ。

 

 というか、こんなに印象に残るキャラしかいないうちのクラスなのに、俺は今の今までほぼ全員知らんかったのか? そりゃ顔と名前くらいはちゃんと名簿で見てたけど、もしかして個人で認識してたのは三人くらいしかいなかった? これ俺やばくない? ぼっちすぎない? いや、どんだけ必死だったんだよホント。マジでこの二週間ちょい、ダンジョンのことしか見てなかったのがよくわかるわ。我ながら怖い。

 

 あと単純にミスった。こんなことになるならこんな目立つ場所で合流するんじゃなかったと焦る俺だが今更仕方ない。というかこんなにくるなんて考えてなかったから普通に席が足りない。どうするかな? と考えているとあちらも俺に気づいたらしい。

 

「お待たせしました、達郎さま。ご指示通り、大貴さんたちをお連れしました」

 

「ダーリン、おまたーーーーーーー!! 大貴ちたち、連れて来たよー! およ? 京介ちは? 一緒じゃなかったん?」

 

「あやか、エリカ、ありがとう。ご苦労様。京介くんとはもう別れたよ。それで大貴くん、だよね? 俺に話ってなにかな?」

 

 俺がそう話を促すと大貴くんは大きく深呼吸を一つした。

 

 さてはて、先にオハナシをした一見好青年の京介くんは人斬り予備軍サイコパス野郎だったが、この善人そうに見える大貴くんは何を言ってくるやら。もしかしてハーレム自慢か? それならさすがに俺はキレるぞ? 主に羨ましさで。

 

 そんなことを考えながら、武者震いなのか、それとも勇気を振り絞っているのか、小刻みに震えている大貴くんの言葉を待つ。

 

「あのね、達郎くん。彼女たち、クラスメイトの中でまだ今週ダンジョンに行けてない女の子たちなんだ。昨日の出来事見てたよ。君、強いんだよね? お願い、何人かでいい。今週だけでいいんだ。どうか彼女たちをダンジョンに連れて行ってあげてもらえないかな?」

 

 決然と顔を上げ一気にそう言い切って、全力で頭を下げてくる大貴くん。あれ? おかしいな? この学園でクラスメイトなんてあやふやな関係の他人のために全力で頭下げれるとか普通にすごくない?

 

 OH……、【悲報】善人そうな大貴くん、普通に聖人だった。【朗報】

 

 さっき学園スタンダードのひでぇの見たばっかりだから落差がやばい。あと自分の心が卑しくて嫌になる。大貴ハーレムとかいってすんませんでした! むしろ貴方みたいな聖人こそハーレム作ってください! 

 

 それはともかく俺も入れて全部で九人か。ともかく詳しく話を聞かんとどうにもならないけど、こんな目立つ場所で話すことでもない、か。

 

 

「とりあえず呼び出しておいてなんだけど、まずは場所を変えようか? ここだと落ち着いて話もできないし」

 

 

 そうみんなに言った俺は学食のカウンターにパーティセットのケータリングの依頼をするべく席をたつのだった。

 

 金で罪悪感の免罪符が買えるのなら安いもんよ……。そう思いながら。

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 4/27(水) 18:30 第一講堂

 

 

「まず、今回の説明の趣旨について説明します。一言で言うと、この学園で今後『生き残るために』は何が重要なのか? その観点から私なりに考えたことを説明していきますので、この中にもし『私が天に立つ』とか『学園王に俺はなる(ドン)!』とか考えている人がいたらあんまり今回の話は役に立たないと思うのでお帰りいただいた方がいいと思います」

 

 俺がそう言っても席を立つ奴はおろかクスッと笑ってくれる奴もいない……。全員俺に真剣な視線を向けたまま、熱心にメモを取ろうとしてやがる。くそぉ、ここは圧倒的なアウェーだぜ。

 

「ではまず、レベル別の攻略の目安を考える前に私が考えるパーティ構成の基本について話していきます。えーと代表して京介くん」

 

 俺が最前列にいた京介くんにそう声をかけるとその場で勢いよく立ち上がった京介くんが背筋を伸ばして答えた。

 

「はい!」

 

「京介くんが自分を含めて今から六人パーティを組むとします。そのとき何を考えてそうするのかを含めて教えてください」

 

「え? あ、はい。じゃあまず俺でしょ? 次に湊(みなと)でしょ?」

 

 うん、いい流れだ。そこで俺が割り込む。

 

「うん、京介くん。なぜ湊さんなのかも含めてお願い」

 

「はい、だって湊がいないとダンジョンの中でムラムラしたときセックスできないからです」

 

 そのあまりにもストレートな一言に途端に講堂内に笑い声が起こる。京介くんの隣に座っていた湊さんが羞恥心で顔を赤くして下を向きながら京介くんのことをペチペチ叩いている。可愛らしさに萌えた。

 

 それはさておき講堂内を見渡すと何人かの女子が嫌悪感を浮かべて京介くんの方を見ていたんだが、気持ちはわかるけどこの場合正解は京介くんで間違っているのは彼女たちであり、そしてあまりにも正直なその回答は俺が望んだ回答そのものだった。

 

 苦笑いしながら続きを促す。

 

「はい、京介くん。じゃあ湊さんの次は誰を選ぶ?」

 

「はい、えっと誰でもいいんだよね? じゃあ達郎さんと、そこにいる乾(いぬい)組の梅吉(うめきち)と壬(みずのえ)組の大助(だいすけ)。あと一人は別に誰でもいいかな? こんな感じです」

 

 そう答えた京介くんに俺の視界の端で例の鶏くん(仮)こと三平(さんぺい)くんが愕然とした顔をしていた。ナチュラルに親分にハブられちゃったね、可哀想に。

 

「……パーティメンバーを選んだ理由は?」

 

「えっと、まず俺は選ぶんだから俺は絶対に入るでしょ? だったらパートナーの湊がいないと困るし、あとは知ってる中で強い人から順番に入れた感じです」

 

 うん、俺自身が入ってること以外は予想通りだわ、ありがとう京介くん。

 

「はい、京介くん。どうもありがとう。座ってください。さて、他の人で自分ならこうするって言うのはありますか? あくまで理想論で構いません。どなたか京介くんの『基本は自分も含めて強いやつから順にパーティメンバーを決める』という考え以外の人いますか?」

 

 静まりかえる講堂内。わかっていたことだが内心で一つ舌を打つ。

 

 正解を知っているあやかやエリカが『こいつらマジか……』って顔をして周囲をうかがい、さらにもう一人本来生徒たちに正解を教える立場であり、最後部でビデオカメラを回しているひなちゃん先生が自らの教育の敗北に頭を抱えているが、それ以外の人間はこの答えに疑問を抱いていないようだ。

 

 この時期の学園生なんてこんなもんだとはわかっていたけどなぁ、と内心クソデカため息を漏らした俺はこの場の全員に告げた。

 

 

「ということは私の基準では皆さん0点。全員落第だということです」

 

 

 俺がそういうと全員から非難轟々の感情のこもった「えーーーー!!」っという声が返ってきた。バラエティ番組かな? なんて高校生らしい反応だろうか。しばらくその声を聞いたあと、右手をあげて声を上げるのをやめさせた。それでも講堂内いっぱいに燻る不満感。

 

 だが大丈夫だ、安心しろ。全部今から論破してやるから。

 

「はい、それでは何がダメだったか、私自身はどういう基準でパーティの編成を行うのか? をこのあと具体的に説明していきますね。その前に自分の答えを全否定されてしょんぼり落ち込んでいる京介くん、君は先ほど私が望んだ答えを言ってくれたので花丸をあげます」

 

 本当に理想通りの回答かついい意味で最高にダメな回答だったよ! ありがとう! と口には出さず京介くんを褒めてあげる。道化にしたからさすがに何のフォローもなしは可哀想だ。

 

「え? ありがとうございます!」

 

 すると嬉しげな顔に戻った京介くんに「お前人間変わりすぎだろ」と小さくツッコミを入れながら、俺は一個づつ彼ら彼女らの問題点を指摘していくことにしたのだった。

 

 




感想、評価気が向いたらよろしくお願いします。

独自設定

食堂料理のデリバリー

極めて良心的な価格で運営されている食堂の料理とは違い、かなりの高額設定されているものの一部高レベル倶楽部からなどの希望があるので取り扱っているサービス。このときや達郎が頼んだのはデリバリーパーティーセット十五人前、しめてお値段五万銭である。

独自じゃない設定じゃない現実のお話。

日本刀の写し 

本歌(オリジナル)を尊敬して、玉鋼で作られる複製品とのこと。
なお、三日月宗近の写しも現実に存在するそうです。
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