※この作品はR-18です。

【俺の女は】ハイスクールハックアンドスラッシュの世界に転生したけど、なんか質問ある?【俺のもの】   作:笛吹き用

12 / 39
独自設定入ります。詳細は後書きにて。


第十一話 最高に冴えたたった一つの解決策

 学園の特別教室棟地下に存在する【工房(ファクトリー)】だが、その内部は一つの大きな【工房(ファクトリー)】というわけではなく、その内部には用途ごとに無数の【工房(ファクトリー)】が存在する。

 

 そして俺が今メインで使っているのが【工房(ファクトリー)】の中でもかなり奥の方に位置する【第三刀鍛冶師用武器工房】という中規模サイズの【工房】であり、【職人(クラフター)】以外は滅多に足を踏み入れないその場所は現在合計九人の人間が集まってちょっとしたパーティ会場になっていた。

 

「達郎さま、こんなにたくさん……。ありがとうございます、いただきますね。あっ、みんな、何を飲む? 私いれるから言ってね」

「あやち、ウチ、コーラ! うわ、やばこれうっま! ダーリン、このフライドチキンマジでうまい! ダーリンも食べて食べて!」

「あやか、ありがとう。俺もコーラ。うん、わかったからフライドチキンを俺の口にグイグイしてくるのはやめてね、エリカ。ちゃんと今から食べるから。ああ、みんなもドンドン食べてね。足りないようなら追加頼むから」

「ありがとうございます、達郎くん。すごい……、ねぇ、大貴くん。全部でこれいくらぐらいするの?」

「僕にもわからないよ、千歳(ちとせ)ちゃん。でも、この学園の常識を考えたらかなり高いはず……」

「これボク達も本当に食べていいのかな……、どう思う? ゆみりちゃん」

「え〜と、達郎くんもこういってくれてるしいいんじゃないかな? 美園(みその)ちゃん。せっかくだからアンナちゃんも佐和子(さっ)ちゃんもいただきましょ?」

「……うん、メルシー(ありがとう)、達郎クン。いただきます」

「は、はい! ありがとうございます! い、いただきます!」

「すごいすごい、こんなにたくさんのサンドイッチ! フライドチキン! オードブルセット! ピザまで! ポテトもサラダもこんなに……。ジュースだって何種類あるの? 学園に来てからずっといつもお決まりの一番安いメニューばっかりだったからこんなの久しぶり! ……じゃない! ゴホン、た・つ・ろ・う、だったわね! いい心がけじゃない。ちゃんとこの美亜子(みゃーこ)様をもてなそうとたくさんお料理を用意したこと、褒めてあげるわ!」

 

 というわけで大貴くんの話を聞くために場所を衆人環視の場ではない【工房(ファクトリー)】に移したわけだが、まぁ昼食抜きは辛いだろうとデリバリーした豪華なパーティセットを前にしたらみんなはしゃいでしまうのも当然。こうなりゃ話どころじゃないよね。

 

 最初は遠慮していたようだったけど、こういう時にエリカの明るさは最高の突破口を開いてくれる。誰か一人が食べ始めてたら自分達が食べないのもおかしな空気になるから、みんな最初は遠慮がちに食べ始めたものの、一度食べ始めればそこは成長期真っ只中で食欲旺盛な高校生。あっという間にドンドンと料理を口に運んで嬉しそうに食べてくれた。やっぱ美味いものは正義である。これだけ喜んでもらえるなら流石の俺でも昼飯代としては安くない金額を出して頼んだ甲斐があったというものだ。あとやっぱり誰かと一緒にワイワイ食うとこっちの食も進む。

 

 うん、やっぱりこのたまごサンド、ツナサンド、ミックスサンドのサンドイッチうまいわ。今度また頼もう。

 

 どうしても【工房】に籠り切りになることが多い【職人】は食事をおそろかにする人が多い。俺自身もそのタチだからよくわかる。そのためだろうか、【工房】各部屋に備え付けてあるタブレットを使えば【学園内内部通信網(イントラネット)】経由で注文できることを、これまでも数回お願いしていたから知っていたからこそ、食堂で直接この場所を指定したデリバリーサービスをお願いできたわけだ。

 

 それはそうとしてワイワイガヤガヤと楽しそうにご飯を楽しむ女子がたくさんいる景色とかホント新鮮だわ。

 

 大勢での食事には実家で慣れてたけど、あくまでみんな家族親戚だった上にやっぱり行儀作法の教育の場でもあったからこういう学生のガヤガヤ感はなかったし、かといって中学の頃は俺自身のボッチ気質だけじゃなく家の格とかもあって敬遠され気味だったせいか、こんなふうに集まれるたくさんの友達はいなかったし……。

 

 学園祭の打ち上げとかも、ガチお坊ちゃんお嬢様中学だったからホテルのパーティフロアを借りて上品な感じでおしまいとかそんなんだったからなぁ。

 

 む、このピザ美味いな。チーズトロトロじゃん。早く食わないと美味い時間逃げちゃう。

 

 いや、俺の趣味の一つが食い歩きなんだけど、そっちはどっちかというと一人でウロウロして良さそうな店を見つけたり、家帰る途中にチェーン店に寄って食べたりとかのいわゆる孤独のグルメしてたから、こういう学生特有の感じ結構憧れてたんだよね。前世? 聞くんじゃねえよ。

 

 そうしてみんな食べてたんだが、元々十五人前頼んでたからな。流石に彼らには多かったらしい。ただ元々俺一人で五人前以上は食うつもりで頼んだので何も問題はなく、テーブルに残っていた食い物を俺が残飯処理よろしく全部平らげていると、大貴くんが心配そうな顔をして俺に聞いてきた。

 

「……達郎くん、お腹大丈夫?」

 

「ん? いや、まだまだ全然いけるけど?」

 

 何を心配してるのかがわからんかったので普通に返して最後に残ったポテトを口に放り込むと、大貴くんが化け物でも見るような顔で俺のことを見てきた。

 

 嘘だろ、男子ならみんなこんなくらいは食うだろ! と言いたかったが、口の中に食い物が入ってるのに話すことはできず反論はできなかった。

 

その後、「ごちそうさまでした」と俺が手を合わせたら、みんな慌てて俺に向かって「ごちそうさまでした」といったので「よろしゅうおあがり」と返すと全員がキョトンとした顔で俺の顔を見るもんだからこっちの方が困惑した。

 

 え? 通じない? やっぱり「お粗末さまでした」じゃないとだめ?

 

 それはそうと……。う”ぅ、やば、コーラ飲みすぎた。ちょいトイレに……。……ゲップ。

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

「あらためて達郎くん、こうして場を設けてくれてありがとう」

 

「いえいえ、お気になさらず。で、彼女たちをダンジョンに連れて行けばいいんだね? とりあえず今日はもう入る予定がないから明日ならいいけど……。ただこれからずっとって言われたら『うん』とは言えない。こっちにも都合があるからね」

 

「ありがとう。助かるよ。それに明日だけで大丈夫。僕が来週末までに頑張って強くなればなんとかできるようになるはず……だから」

 

 決意を込めた口調でそういう大貴くん。それをただの強がりだなと俺は見てとった。仕方ない、あまりこういうのは柄じゃないんだけど少し手助けするか。

 

「大貴くん、差し支えなければ教えてくれ。君が目指しているのはなんだい?」

 

 俺がそう尋ねると大貴くんは苦しそうな笑顔で言う。

 

「……クラスメイトのダンジョンダイブに向いていない子がどうにか週一日のノルマをこなせるようになることかな。この学園ってさ、ただ生きていくだけで大変だよね。しかもノルマの週に一回のダンジョンダイブができないとそのうちどこかに連れ去られて酷いことになっちゃうんでしょ? そんなの無いよって思うけど、変えたくても僕にはなんの力もない。でもさ、せめて自分の目に映る範囲、クラスメイトくらいはみんな笑っていてほしいって思うのはそんなに贅沢かな? そう思って京介くんのような他の強そうなクラスメイトにも週に一度でいいから、まだ行けてない娘をダンジョンに連れて行ってあげてほしいって掛け合ったんだけど……」

 

「駄目だった、と」

 

「うん。でも無理もない。僕も何度かダンジョンに入って大変さは身に染みてる。本当は僕だって自分のことだけでまだまだだ」

 

「そうだね、足手まといを連れてのダンジョンダイブはよっぽど自分が強くないと自分自身を殺すからね」

 

 俺がそう冷徹にはっきり言うと、あやかとエリカを除く居並ぶ女子たちがショックを受けたように俺を見るが軽く一瞥すると全員が下を向く。一方、ショックを受けなかったあやかとエリカはそりゃそうだよねという苦笑いを浮かべており、そのこと自体がいかに現状の認識がきちんとできているかいないかの差となって現れていた。

 

 俺のパートナーであり既にクラスチェンジを済ませた二人さえ戦力的な意味では『現時点で』は戦力にはなっていないのだから、まぁ、あやかとエリカに関しては第三段階職相当でレベル60の俺が基準であり、求められる基準が違いすぎるせいではあるのだけど。

 

 ただ悪くないのが、ここにいる女子全員が自分達が『現時点で』お荷物なことを自覚していることだ。これがそれを理解していない面倒極まりない自意識過剰な馬鹿女たちだったらこの時点で見捨ててたからな。

 

 あえて厳しい顔のまま口を閉ざすことで考える時間を稼ぐ。

 

 ふむ、大貴くんの希望に対しての感想は、比較的理想と現実のバランスが取れていて助かった、という感じかな。もし大貴くんが無制限の博愛主義者で助けたいと思ってる範囲が学年全部とか、学園そのものとか言われたら流石に付き合いきれなかったが、この目標なら決して不可能な範囲じゃないし、おそらくテストケースという名の『学園側のお目溢し』もある程度期待できる。

 

 実際、原作小説内でもクラス単位で『男子全員に女子全員が絶対服従する代わりに固定のパートナーは作らない』というシステムを作り出したクラスがあり、そこは学園からテストケースとして要観察扱いされていた。

 

 だからもし今回大貴くんが望むような『クラスメイトに落ちこぼれを出さないクラス運営の新しい試み』の形がうまくいけば、おそらくそれもテストケースとして学園側から見逃される可能性は高い。ただ、こういう大貴くんのような考えの持ち主に関してはおそらく過去に同じような発想に至った学園生は山ほどいたはず。発想自体はお花畑でも別に独創性があるわけでもなく、むしろ当然出る発想だからだ。そしてそれがことごとくうまくいかなかったのは現状の学園を見れば明らかである。

 

 理由は簡単で自分の利益を優先するのが人間の業であり、そのぶつかり合いにこういう善意は簡単に飲まれてしまうからだ。

 

 ただ俺は既にこの提案に乗り気になっていた。渡りに船、と言っていい。何故ならこの学園がこういう地獄だと事前に何もかも知りながらそれらに目を瞑ってこの三週間、何もしなかった、できなかった俺にとってはせめてもの罪滅ぼしになる。そう思ったからだ。

 

 その一方で自分自身の理性が警鐘を鳴らした。『まだまだ自分自身足りていないことばかりなのに、他人のために時間的、作業的なコストをあまりかけてはいられない』という理性の声も無視できなかった。ただでさえあやかとエリカを抱えてしまったのに、これ以上余計なものを背負うの余裕など今の自分にはないだろうという至極冷静で冷徹な声。その声を無視することは俺にはできない。だからこそ、これからの会話を基にその間を擦り合わせて妥協点を見出す必要があった。

 

 鞄からボールペンとノートを取り出し本格的に思考を巡らせ始める。やり方自体は簡単なことだ、俺個人のチャートではなくクラス単位のチャートを組めばいい。

 

 まず目標設定をどうするか? あまり高すぎず、そしてそれが達成できればあとは各自の自己責任でがんばっていける。そんな目標がいい。そうしばし考えて俺は真っ白なページにペンを走らせた。

 

 ーーいかにクラスメイト全員を早い段階で第一段階にクラスチェンジさせるか?

 

 テーマは決まった。ならば次は現状の情報収集だ。

 

「大貴くん、聞いていいかな? 今レベルは?」

 

「……6、だね」

 

 なるほど、絶妙な数字だわ。この時点でレベル6は実は結構頑張っているレベルだが、ただ同時に第一階層で自分は大丈夫でも足手まといが多くいればそちらは守りきれない。そんなレベルだ。

 

「他の子たちは?」

 

 千歳ちゃんいいよね? と大貴くんがお下げ髪の千歳さんに確認を取ると頷く千歳さん。その自然なやりとりに、なるほど彼女が大貴くんのパートナーで女子側のまとめ役かと俺は納得した。

 

「千歳ちゃんはレベル4だよ。他の娘たちは……察して欲しいかな」

 

 よし、なら少なくても千歳さんは大貴くんに任せられる。明日二人を連れて行ってそのままパワーレベリングしてクラスチェンジさせればいい。これでマイナス二人。さらに既にクラスチェンジ済みの俺とあやかとエリカでマイナス三人。ここにはいない人間だが京介くんは【剣士(ブレイダー)】で問題なしだし、さすがにアイツもパートナーの湊さんの面倒くらいは見るだろうしさらにマイナス二人。あと、あの鶏くん(仮)もクラスチェンジ済みだろうからマイナス一人。それならあとは残り三十二人のことを考えればいい。

 

 さらに大貴くんから情報を引き出し何をすべきかを絞り込む。

 

「じゃあ、男子も含めてこの娘たちみたいに自分達だけじゃダンジョンに行けない、生きて帰ってこれない娘たちって後どれぐらいいる?」

 

「自分達だけじゃ行けないって子たちで大体クラスの半分ぐらいだね。安定して帰ってこれるのは達郎くん、君と京介くんのパーティーぐらいだよ」

 

 くそ、思ったより男子が頼りない印象だな。できれば最低でも大貴くんの意思に賛同するまともな人材が一人二人欲しい。

 

「じゃあ、大貴くんの考えに賛同してる男子の仲間はいるかい?」

 

「ううん、最初は雄二くんと浩二くんの二人がいたけど、今はもう無理だっていってその二人は二人で組んで頑張ってるよ。まずは自分が強くならないと話にならないって言ってた」

 

 朗報! やる気はあったけど一旦現実を優先したという判断もいい。それなら俺が少しテコ入れすればクラスチェンジもすぐだろうし、その後も使える人材になるだろう。さらに最低でも女子二人くらいは任せられるか。マイナス四人で残り二十八人。

 

「ありがとう、ちょっと考えさせて」

 

 俺がそういうと大貴くんはキョトンとした顔をした。まぁ、彼からすれば俺が明日ここの女子たちを連れていくって約束はできてるわけだからもうお話はおしまいってことだろうし、こういうことを考えてるわけじゃないって思うだろうな。だけど、あやかとエリカの二人はそうじゃない。俺が何か別の、そうクラスメイトをどうにかする方法を考えていると察したのだろう、興味深げに俺の方に近づいてきて俺の隣に座りメモの内容を見たあやかとエリカが「達郎さま!」、「ダーリン!」と叫んで俺に抱きついてスリスリしてきた。

 

 二人のしたいようになすがままになりながら計算を続ける。ここまでは既にクラスチェンジした人間と来週中にはクラスチェンジできる人間、そして彼らが面倒を見ることができるパートナー枠で仮に固定しよう。

 

 残り二十八人。ここからは来週以降、つまりGW突入以降じゃないとクラスチェンジできないだろうクラスメイトをどうするかだ。このメンツに関しては週に一度、ダンジョンダイブに連れて行ってもらった程度でクラスチェンジできるとはとても思えない。

 

 仮に大貴くんたちペアに俺がテコ入れしてあと、今週、安全に連れて行けるのを一度に男女一人ずつ、ダンジョンダイブが週に三回と仮定してマイナス六人で残り二十二人。このメンツが一度のダンジョンダイブでクラスチェンジできるとはとても思えない。同じく雄二くんと浩二くんだったかな? その二人にも取引をしてその結果、週に一回二男女一人ずつ助けてくれると仮定してマイナス四人。合わせて残り十八人。

 

 いずれはこの中から自立する奴が出てくるはずだから、再来週以降はどうとでもなる。ただ来週がきついな。

 

 ……だめだ、どう考えても頭数が足りない。来週だけとはいえ残り十八人の面倒を俺が見るのは流石にきつい。

 

 くそ、最初からここにいる女子の戦力化も視野に入れるしかないか。

 

「ごめん、女子のみんな。聞きたいことがある」

 

「何よ!」

 

 俺の問いかけに威勢よく応えたのは小柄なツインテールの彼女だった。名前はたしか美亜子(みあこ)ちゃん。

 

「最初のハードル、そうだな、具体的にはレベル5以上になったら自分でゴブリンやコボルトと戦っていける自信のある子っているかな?」

 

「そんなのわかるわけないでしょ! みんなあんなのと戦うのなんて怖いに決まってんじゃない! でもそんなの実際にはそうなってみないとわかんないわ! あんた馬鹿でしょ! あっ、みんな何すんのよ!」

 

 あんた馬鹿と言われて思わずクスリと笑う俺。思わず『前世の不治の病(釘●病)』が危うく再発するところだったぜと、見た目から滲み出る濃厚なツンの気配を裏切らない素晴らしいツンに感動すら覚えていた俺だったが、周囲のみんなはそうではなかったようで。

 

 明らかに強者である俺に対する暴言に血相を変えて青くなりながら美亜子ちゃんの口を抑える他の女子たちに「達郎くん、ごめん!」と頭を下げる大貴くん。そして即座に俺に抱きつくのをやめ怒気を放つあやかとエリカ。

 

 ーーまずいな、止めるか。

 

 俺がそう思ったその時、身体を投げ出すようにして間に入ったのは超爆乳の女の子である『ゆみり』さんだった。

 

「ごめんなさい! 美亜子(みゃーこ)ちゃんを許してください! ちょっと口は悪いけどとってもいい子なんです! ごめんなさい!」

 

 そういってその場で何の躊躇もなく土下座を始めるゆみりさん。

 

 そのことに俺はゾッとした。謝るだけならいい、普通だ。庇うために前に出るのもいい、それも普通だ。だがその自分の身を一切顧みず躊躇なく投げ出すように土下座をした彼女の慣れた動きに俺は背中に氷を突っ込まれたかのような寒気を感じた。

 

 彼女、自分自身のことよりも他人を大事にしてるというより、これは自分に価値を見出していないのではないか、と。そしてあまりにも慣れすぎた土下座までの動き。あんなの普段からやり慣れてなきゃできるわけがない。

 

 そしてしばらく考えてその理由について思い当たった。……彼女、虐待されてたのか? 初対面の時に感じたあの感情……、あの痛ましいと感じたあの時の俺の直感はそれが理由か?

 

 空気が静まりかえる。そのまま何度も謝るゆみりさんのあまりに必死さにあやかもエリカも怒りを忘れてただ呆然と彼女の様子を見ていた。

 

 俺はゆっくり立ち上がり彼女の前にしゃがみ込む。びくりと恐怖に震える彼女の手を取ってゆっくりと「大丈夫、何も怒ってないよ」といいゆっくり顔をあげた彼女に笑いかけた。

 

 彼女を椅子に座らせ落ち着かせている間、あらためて残りの美亜子ちゃん、アンナさん、美園さん、佐和子さんに尋ねる。

 

「どうだろう? 明日、ダンジョンダイブで試してみてレベルが上がってからでいい。頑張れる子がこの中にいないかだけ試してみてもいいかな?」

 

 という俺の言葉に頷く四人の中で、一人悔し涙なんだろう、涙を浮かべて頷く美亜子ちゃんを見て俺は彼女によく似た口うるさい二つ年下の又従姉妹のことを思い出した。元気にしてるかね? あいつ。 

 

 そんなこと埒もないことを考えながらも、少なくても美亜子ちゃん、彼女はいけるなと席に戻った俺はノートにマイナス一人と書き込んで残り十七人。あ〜、それでもどうしても人手が足りん。誰か俺以外で強くて週四でそれぞれ四人いっぺんに連れて行っても大丈夫な奴おらんかね? ツテを使えばどうとでもなる話だが、それは流石にNG。俺がここにいる意味がなくなってしまう。じゃあ、俺自身が来週馬車馬のように頑張るか? と言われたらそれもNO。流石に来週はもう少し自分のために時間を使いたい。具体的には延び延びになってる薙刀の更新を早めにしたい。あー、うまくいかねーとガシガシと頭をかきながら考える。誰かいねえのか? 例えばあの人斬り予備軍、ちょっとは世の中の人様の役に立たんかね? という心の叫びがついこの時口をついて出た。

 

「あー、京介くんが使い物になればもう少し楽なのになぁ〜!」と。

 

 その俺の呟きに「およ? 何、ダーリン。京介ちなんなん? なんかダメなん?」と再び俺の隣に座っていたエリカが食いついた。

 

 正直、思考に疲れていた俺は正直にゲロっちまった。

 

「あー、あれはダメ。刀に魅入られちまってる。ていうかそのうち誰かところかまわず他人を斬りかねない。だからダンジョンの中みたいな無法地帯でアイツに自分より弱い他人の面倒任せたら、その子達を育てるどころかアイツ自身が斬り捨てそうでとてもじゃないけど任せられん」

 

 俺の評価にエリカがドン引きした顔をしてこう続けたのだ。

 

「うわ、京介ちやば。そういう奴だったか〜。もう近づかんとこ。でもさ〜、ダーリン?」

「ん?」

「ウチとあやちにあんだけすげー武器ぱぱっと作ってくれたダーリンならさ、パパーンと京介ちがまともになるような何かすげー刀とか作れんの?」

「そんなにうまくいか……」

 

 ないよ。と言いかけて俺は途中で口を右手で抑えた。

 

 今、何かがうまく重なり合った気がした。

 

 ーーいずれどうにかしなくちゃいけない人斬り予備軍が喉から手が出るほど刀を欲しがっている。

 

 ーー今必要なのは俺以外に来週だけでも週四で四人ずつ、ダンジョン第一階層なら連れて行っても全員連れ帰れそうな強いやつ。

 

 ーーそして俺。お前は何の職人だ? 刀によって道を踏み外しそうな少年を正道に強引に引き戻すような一振りぐらい作れなくて何が天才、何が神童だ?

 

 ーー材料はある。いや、むしろアイツに【純魔玉鋼】製の武器は逆効果だ。だから玉鋼があればいいが、材質的にやれるか? いや、やる。

 

 ーー時間は? 今、何時だ? 時計を見ると午後二時を差したところ。明日は午前も午後もそれぞれ大貴くんたちの引率をしないといけないから残り時間およそ十六時間か。今の俺なら急げば間に合う、はず。いや、間に合わせる!

 

 結論。サンキュー、エリカ!! お前やっぱ天才!

 

 彼女の方を向いて一手で全てのことが解決する妙手の閃きをくれたエリカの唇を強引に奪ってディープキス。「あんたたち、いきなり何やってんのよ!」という美亜子ちゃんの当然のツッコミも今は耳に入らない。突然のことに最初は目を白黒させていたエリカもやがて俺に応えて熱烈に舌を絡めてくれる。やがて自然とお互いの顔が離れた。

 

 目が合ったエリカの瞳はもうトロンと蕩けており、俺の肩に枝垂れかかって「あん、ダーリン❤︎ ここですんの? ウチならいいよ?」と囁いてくるので俺の隣で私も私もと唇を尖らせているあやかにキスだけしてエリカを預けた。ぶーぶーと二人して可愛く抗議してくるがそれはまた今度よろしくと二人を宥めて俺は声を出した。

 

「いいこと思いついたから、今日のところはみんな解散! それで明日の朝、まずは大貴くんと千歳さんに、そうだな、美亜子ちゃんとゆみりさん、あとあやかとエリカは装備を整えて【羅城門】前で待ってて! 残りのアンナさん、美園さん、佐和子さんは午後になったら同じく【羅城門】前で待ってて! これできっと上手くいく!」

 

 この時ばかりは明日が日曜日で助かった!

 

 そう思いながら俺は必要そうなものを持ってくるべくウキウキ気分でコンテナ倉庫へと走るのだった。

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

 4/27(水)18:40  第一講堂

 

 

「まず先ほどの、京介(きょうすけ)くんの言った『できるだけレベルの高い人から順番にパーティを組む』の最大の問題点は京介くん自身が言ってますね。はい。ではあやかさん、主に京介くんに教えてあげてください」

 

「はい。京介(きょうすけ)くん。自分自身で(みなと)ちゃんをダンジョンに連れて行く理由を言っといてどうして気づかないの? 達郎さま、梅吉くん、大助くんのダンジョン内でのセックスの相手はどうするのよ? 全部(みなと)ちゃんにしてもらうの?」

 

「「「あ!!」」」

 

 あやかの当たり前の指摘に講堂中から大きな声が上がる。そして全員がようやくその問題点に気づいたのか、流石にそれはなぁという顔になった。そしてそんなことにも気づかなかった京介くんはバツが悪そうに下を向いて落ち込んでおり、怒った湊さんに太ももをつねられている。

 

 あほ、刀もらって浮かれすぎだ。最初の小賢しい系腹黒キャラどこいったよ。

 

「はい、ということでこのことからいくつかのことが分かります。パーティを組むときはパーティ内の男女のバランスが大事なこと、あと皆さん体感としてダンジョン内での精力アップは普通なら男女ともに耐えられるものじゃないのは経験済みですね? であるならパーティ内に必ず一人は異性を入れておくことの重要性は理解できるはずです。ちなみにちゃんと考えた上であれば、男子5に女子1の編成も無しではないので。ケースバイケースですね」

 

 そう俺が説明すると講堂内にガヤガヤとした声が響く。大半、特にうちのクラスメイトはほとんど全員納得した顔だが、まだ()組と(みずのえ)組の実感の薄いであろう女子数人の中から一人が手を挙げた。

 

「質問です。『女子だけでのダンジョン攻略は絶対に不可能というわけじゃない』と寮の先輩に教えられたんですが、違うんですか?」

 

「はい、確かに絶対に不可能ではありませんが、それは事実上不可能です。そしてその先輩はあなたにこうおっしゃったのではないですか? 『女子だけのダンジョン攻略も絶対に不可能というわけじゃないけどそんな夢物語は決して考えるな』と。そもそもモンスターを倒したりそれに伴うレベルアップによる精力の異常な増大は男女のセックスによってしか解消できません。つまり女子だけのパーティでダンジョンを攻略するとしても、それはセックスをダンジョンの中でするか、外まで我慢してそれからするかの差でしかありませんよ?」

 

 俺がそう答えると図星だったのだろう、彼女は顔を真っ赤にして俯いた。潔癖症と理想論は結構だがこの学園ではその考えは早死にするぞ? と心の中で付け加えて質問者が他にいないか見渡すも誰もいなかった。

 

 静まったところで説明を続ける。

 

「次にこれは全員が第一段階に転職している前提の話をしますが、現時点でレベルの高い順番で選んだ場合、ほとんどパーティが【戦士(ファイター)】と【盗賊(シーフ)】で埋まってしまいます」

 

 今度はボサボサの短髪に鋭い目つきの男子が手を挙げた。

 

「【()組】の梅吉だ。よろしく頼む。なんとなく弊害はわかるんだが、達郎くん、あんたの口からはっきり教えてもらいたい。【戦士(ファイター)】と【盗賊(シーフ)】だらけのパーティ、それの何がダメなんだ?」

 

 おや、コイツできるな。確か京介くんの今の正式なパーティメンバーで【()組】のリーダーだったか。腕もそうだが結構頭も切れるか。なら、正面から真剣に答えてやろうかな。

 

「まず、先ほどのパーティ編成が0点といった理由は男女のバランスを全く考慮していなかったからです。次に【戦士(ファイター)】と【盗賊(シーフ)】だらけのパーティに関してですが、その場合20点ぐらいですね。ただ第三階層までなら単純な戦力的には100点でもいい。ただこの時点でも一つの大きな問題があります。さて【戦士(ファイター)】と【盗賊(シーフ)】だらけのそのパーティ、果たして地図が読めますかね?」

 

 一度口を閉じて反応を待つ。反応は様々。理解ができずオロオロするもの、反発するもの、うんうんと頷くもの。ただこの時点でこの場のほとんどの人間は【初心者(ノービス)】であり、当然週一度のダンジョンダイブのノルマにも躊躇するような余裕のない彼らにそれを理解しろというのも酷だが、このダンジョンで一番重要なクラスを一つ挙げろといわれたら間違いなく【文官(オフィサー)】である。

 

 パンパンと手を叩き意識をこちらに向けさせたところで話を再開する。

 

「地図がわからず現在地が不明な場合、例えば知らず知らずに既知外領域に近づいてしまい【徘徊する怪物(ワンダリングモンスター)】に遭遇してしまい全滅。もしくは逆に既知内領域の浅いところにどんどん戻ってしまい、主に先輩方のPK部隊に見つかって同じく全滅。そうでなくても事前に敵の数や分布がわからず玄室に飛び込んだら、実は大量の魔物の巣窟で囲まれてあえなく全滅など、ダンジョン内の危険は数え上げればキリがありませんが、その大半は現在地がわからないこと、地図が読めないことが原因です。だからクラスチェンジしたメンバーのみで構成できるようになったパーティならば最低一人は【文官(オフィサー)】を入れるべきなんですね」

 

 さらに俺はダンジョン攻略における【文官(オフィサー)】必須論について続ける。

 

「階層を跨いだダンジョンダイブ時のダイブポイントの任意選択、ダンジョン内の現在位置の確認、地図の更新に、周囲の索敵、宝箱の探知まで全て【文官(オフィサー)】のスキルで可能です。さらにこれについて詳しくは後で改めて触れますが、条件付きで【文官(オフィサー)】はパーティの弱点を埋めることができます。なので真剣にダンジョン攻略を考えるなら一パーティに一人は【文官(オフィサー)】は必須です。なのでそれが入っていない【戦士(ファイター)】と【盗賊(シーフ)】だらけのパーティには高い点数はあげられません」

 

 ここまでで言葉を切ってみんなの顔を見るとなんとなくその危険性が認識できたのだろう、脳筋パーティではダメなんだという最低限の理解はしてもらえたように見えた。

 

 質問した梅吉くんに目配せをすると、彼は小さく頭を下げてきたので俺も会釈で返しておく。アイツ、最初の京介くんの質問の時もほんとは理解してたな? でもその場の空気に乗っかって馬鹿なふりしてやがった。俺よりよっぽどそういう能力高そうだし、現時点でも実力も高そうだ。彼にも何か恩を売っておくべきかもなと心のメモ帳に付け加えた後、俺は続いて難関である『パーティにおける【遊び人(ニート)】必須論』へと話を進めることにした。

 




感想、評価気が向いたらお願いします。

独自設定(という名の謝罪と訂正)

工房(ファクトリー)

2/14に原作を読み返していると、原作だと工作室であり、通常の教室を三つほどつなげたワンフロアを衝立で十八の作業ブースに区切っただけと明記されていました。いつものガバでした……。ほんと、申し訳ありません。

とはいえ、ここを修正してしまうとガチの鍛治師用の鍛冶場がなくなりそれは本作の都合上流石にまずいので、財閥である主人公の実家が投資した結果、原作よりもはるかに工房の施設が広く良くなっているとお考えいただけると幸いです。なお、構造としては原作通りの衝立で分けられた奥に専用工房があるものとしますので、今後の原作の展開に影響を与えるものではありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。