【俺の女は】ハイスクールハックアンドスラッシュの世界に転生したけど、なんか質問ある?【俺のもの】 作:笛吹き用
「……ごめんね、達郎くん。お任せすることになっちゃって。あっ、千歳ちゃん、耳、耳は舐めないで! ……み、美園さんたちもっ! 本当に、ごめんなさい。本当は一緒に僕たちも行くはずだったのに……。あっ、あっ、違うんだよ? 今はこんなだけどね? 千歳ちゃん、普段はとってもシャイな子なんだよっ? もう、こんなの、今日だけ、なんだけどぉ! ち、ちくびクリクリしないで! 千歳ちゃん! お願い待って。あの、ちょっと、ちょっとね? 千歳ちゃんもう本気で我慢できないみたいで……。あ、千歳ちゃん、お願い、お願いだからもうちょっとだけ待って……」
「「いや、お気になさらず」」
思わず俺と美園さんの声が完璧に重なった。
大丈夫だよ、大貴くん。君のいう通り普段の彼女はちゃんと慎みと良識のある女の子で間違いないはずのに、現在進行形で熱に侵されたように堪えきれず今こうして俺たちと話している最中でも体をべったりと擦り付けながら君のほっぺたにチュウしたり耳に息吹きかけたり耳のふちを舐めたり耳を塞ぐような至近距離から掠れた声で「好き❤︎ 大貴くん❤︎ 好き❤︎ 大好き❤︎」と求愛をやめない千歳さんと、その千歳さんに今にも押し倒されそうになって顔を良く熟れたトマトみたいに真っ赤にして興奮してるのにそれでも必死に理性を保ちながら俺たちへと謝り続けている今の君を見てどうこう言える奴は多分この世にいないよ。
現在午後一時半。場所は千歳さんの住んでいる茶鴨寮の前である。
本来なら購買→食堂→
で、二人だけで寮に帰すのは流石に心配だったのでここまで付き添ってきたわけである。本当その程度には千歳さんがマジでやばかった。
いや、クラスチェンジが無事終わり食堂に移動するまでぐらいはまだ良かったんだよねぇ。顔は真っ赤、太もも擦り合わせてモジモジしながらも腕組んでご機嫌ではあったけどそれでもみんなとちゃんと会話はしてたし理性は保てていたんだけど、問題はその後。まぁ、気が緩んだんだろうね……。食堂で席に座って隣の大貴くんにもたれかかったあたりからヤバくなってきた。ドンドン息が荒くなっていき目が血走って抑えがきかなくなっていく千歳さんは怖いくらいにエロかったよ。
特にあれだよ。あのサンドイッチからはみ出て指についたマヨネーズを舐めてる時の表情。ちらりと目があった瞬間の流し目だけで思わず俺のまで勃ったわ。女の子ってすげーよ。
まぁ、理由はわかるんだよね。今日の午前中のダンジョンダイブだけで10体以上も格上の魔物と戦ったりトドメを刺したりしたし、その結果一気にレベルを最低6も上がった。というかおそらく経験値のオーバーフローもしてる。そもそも戦うって行為自体そりゃ興奮するものだし、ちょっと普通じゃなく急激なレベルアップもした。ダメ押しに初めてのクラスチェンジまで経験して、よりにもよってそのクラスチェンジ先が【
基本六職の中で一番身体能力と体力に秀でているのはいうまでもなく【
で、椅子に座って緊張が解けた瞬間にあれだけダンジョン内でセックスしても未だがっつり燻っていただろう精力の昂ぶりの波が襲いかかってきて、そして隣には自分を絶対に受け止めてくれる大好きな
そりゃ血管に直接大量の媚薬ぶち込まれるよりも効いただろうねぇ。可哀想に。
正気取り戻したら黒歴史確定だよ、千歳さん。
むしろあの場で押し倒し返さずに耐えた大貴くんを俺は讃えたいよ。自分だって似たような状態だったろうに。
もはや立っていることも怪しい千歳さんを男らしくお姫様抱っこでエスコートしていく大貴くんの背中にエールを送りながら見送った俺は思わず「大貴くん、すごい愛されてるなぁ……」と呟いたら、隣にいた美園さんに呆れ切った声で「キミも大差ないと思うけどね? ボクは」と突っ込まれた。
まぁ、俺も右からあやか、左からエリカに挟まれて大貴くんと似たような状態にはなってたんだけどね。
あははと乾いた笑いを一つこぼしてその場を誤魔化し歩き出す。そうして五分もしないうちに今や俺自身の寮となりつつある海燕寮が見えてきた。俺は知らなかったのだがどうやら美亜子ちゃんとゆみりさんも同じ海燕寮だったようで、寮の玄関前にて午前中に参加した二人ともお別れとなった。
「じゃあね、二人とも。今日はお疲れ様でした」
「あっ、今日は本当にありがとうございました、達郎くん。あやかちゃんもエリカちゃんも本当にありがとう。美亜子ちゃん? ほら美亜子ちゃんもお礼言わないと」
そう促された美亜子ちゃんだがいつもの威勢がどこにいったのやら俯いてしまっている。まぁ、最後に不可抗力とはいえ満員電車の痴漢みたいなことしたからなぁ。嫌われたのかもしれん。ちょっと悲しいが仕方ない。じゃあね、と言って踵を返そうとした瞬間か細い声で、
「……今日はありがと。ゆみりのこと、黙ってたのにゆみりに優しくしてくれて、怒らないでいてくれて嬉しかった。あと、ちゃんと守ってくれたのもわかってた。あとあと……、わたしに魔物も倒させてくれたのもありがと。……お礼は、ちゃんと、するから」
と言われたものだから、あれ?嫌われてはないのか? と思った俺は気にしないでとだけ言い残し、本日二回目のダンジョンダイブするために【界門】のある本校舎へと向かって歩き出した。
……小さな声すぎて全部は聞き取れんかった。特に最後何いってたの? ほんとにさっきまでの彼女と同一人物か? と俺が首を傾げていると、また美園さんに典型的なダメ人間を見る目で見られた。解せぬ。
○ーーーーーーーーーー○
ダンジョンへ向かう道中、当たり前のように両側から俺の腕に抱きついてご機嫌なあやかとエリカ、そして美園さんたち3人とともに歩いて向かうわけだが……、当然これからダンジョンに潜る=命懸けの冒険を共にすることになる彼女たち相手にこちらが無言というわけにもいかない。しかも本来の世話人であり彼女たちとの間を取り持ってくれただろう大貴くんが来られなくなったことでその責任は全て俺にかかってしまった。
だって男、俺一人だけだし。正直、人当たりがよくコミュ力お化けのエリカに何もかもぶん投げたいが、流石にかっこ悪いし。ただし、入学四週目になってさえいまだにクラスメイトとまともな交流ができていない基本ベースがクソぼっちの俺にフランクでフレンドリーで小粋なトークなどできるはずもなく、あーだこーだ考えた末に、とりあえず「あー、えっと、今日はいい天気ですね。美園さん、アンナさん、佐和子さん。……どうも初めまして? 達郎です」としどろもどろになりながらいうと、名前を呼ばれた三人どころかその場の女子全員キョトンとした顔になりその後小さく吹き出した。
中でも一番リアクションが大きかったのがゲラゲラ笑って「ダーリンそれウケる!」と言いながら俺のことをバンバン叩いてくるエリカとツボに入ったのか爆笑を堪えるようにその場でしゃがみ込んだ美園さんである。
そんな美園さんはしばらくしてクスクス笑いを堪えながらしゃがみ込んだまま顔だけ俺の方を見上げているんだが、なんというか……色っぽい。
こうして改めてまじまじと彼女のことを見たけれど……。美園さん、とんでもない美人だわこの子。髪型は艶のあるショートボブであえて額は隠さずにその形の良さがはっきりわかる。眉は少し太めで大きくて綺麗なアーモンド型の目と調和していた。そして高く綺麗な鼻筋、少しイタズラ気にキュッと蠱惑的なカーブをした唇が艶かしくその全てが完璧なバランスで小さな顔の中に配置されている。とてもじゃないが高校一年生、十五歳には見えない完成された大人の美を感じさせる美貌の女の子が今イタズラ気な顔つきのまま俺のことを見上げていた。
あやかの魅力が小さな花が開く前のつぼみの爽やかな清楚さと可憐さで、エリカが太陽に向かって咲く向日葵の元気と華やかさとおおらかさだとすると、彼女の魅力は整ったバラ園で咲き誇る薔薇や完璧なコーディネートでしつらえられた胡蝶蘭のような自然の造形美だけでは完成しない人の手の加わった匂い立つような美しさとでも言えばいいのだろうか。それでいて年相応の幼さを残す彼女のような女の子のことをコケティッシュっていうんだろうなと、婀娜っぽいという言葉の横文字を連想させる彼女が楽し気に目元に笑い涙を浮かべながら話しかけてきた。
「アハハ、キミは思った以上に面白い人みたいだね。達郎くん。さすがにはじめましてはないだろう? もう入学してから1ヶ月だよ? それに私たちはつい一昨日みんなで【
しかもボクっ子だった。え? この綺麗さでボクっ子ってことはヅカ要素ありありの王子様系女子なのか? なんか常に彼女の背中から離れない後の二人のこともあるし、もしかして彼女王子様系女子? と普段全く回さない方面の思考に脳が混乱さえしてきた。
「あぁ……、そうだったよね。ごめん。ちゃんと覚えてるよ。うん。だけどね、どうも俺、人付き合いあんまり得意じゃなくてね……。何というか集団の人は集団の人、みたいな認識になっちゃってるから、こういう風にちゃんと個別に誰かとお話し始めた時はどうしても初対面の対応というか……、大概こんな感じになっちゃうんだよね」
「へぇ……、クラスメイトはクラスメイトだとして認識してるけれど、個別に話すまでは個人としては認識してないってこと?」
「ん〜、どうかな。でもそんな感じかな」
そんなことをしどろもどろになりながらも話していたのだが、そこで不意に彼女の眉間にしわがよった。何かに気がついた、と言わんばかりに。
「もしかして……もしかしてなんだけどさ。達郎くんはボクのこと知らない? とか?」
「え? 美園さんでしょ? さすがにクラスメイトの名前くらいはおぼ」と言いかけたところで俺と美園さん以外の全員の口から異口同音に非難の声が響く。
「え? 達郎さま、彼女のこと知らないんですか? 本当に?」
「ちょ、ダーリン、マ? マジ? マジで言ってんの? みんな入学すぐにクラスであんだけ騒いでたのに?」
「ノンノン、嘘でしょ? ミソノのこと知らない同級生とかシンジられません!」
「……だからこの前の時も園ちゃんにお話ししてこなかったんですね」
全員が驚き五割非難五割と言った感じで俺を取り囲んで攻め立ててきた。なになに? なんなの? 彼女を知らないのってそんなにおかしいの? なになに? どういうこと?
しばし呆気に取られた顔をしていた美園さんだったが、おもむろに立ち上がって芝居がかった仕草で俺に向かって一礼しこういった。
「どうも、はじめまして達郎くん。美園です。入学前はアルファベットで『SONO』って名前で子役から芸能人、やってました。……結構有名だったつもりだったんだけど本当に知らない?」
とはにかむように笑う彼女にやらかしたと思いながら俺は正直に、
「ごめんなさい……、俺テレビは
とゲロるのが精一杯だった。
○ーーーーーーーーーー○
「いや〜、新鮮だったなぁ。まさかクラスメイトの中にボクのことを知らない人がいたなんて思いもしなかったよ」
そういってケラケラと楽し気に笑う美園さんとその後ろから非難の視線をレーザーのように向けてくるアンナさんと佐和子さんに俺の現在進行形で心が削られ続けている。これに関してはあやかもエリカも弁護のしようもないようで二人揃って苦笑いである。
あの後、急にまくしたてるようにお話してくれた佐和子さんによると、
「園ちゃんは子役時代から天才子役女優って言われてドラマでもバラエティでもCMでもずっと引っ張りだこの超売れっ子でしたし、中学に入る頃にはモデルもやるようになって有名なファッション雑誌の表紙もいっぱい飾ったりした私たちの世代で一番有名な女の子といっても過言じゃありません! それを知らないなんて正直ありえません!」
と憤慨しきりであり同調したアンナさんも「ソウデス! ソウデス!」とそれに追従したため興奮した二人をなだめるのに美園さんが苦労するほどだった。
当然俺は針のむしろ。だってしょーがないじゃん。テレビとか見てる暇あったら鉄叩いてるか刀振って稽古してるかガンプラ作ってるかしてたんだからさー、なんて言えるはずもなく、ひたすら小さくなって低身低頭するしかなかった。こういう時の女の子に何いっても自分が負けるって俺、前世の女性たちにも今世の親戚たちにも思いしらされてよく知ってんだ。
そんなふうにちっちゃくなって歩いていた俺に美園さんが声が少し声を低めて声をかけてきた。
「え〜と、ごめんね、達郎くん。そろそろ真面目な話を聞きたいんだけどいいかな?」
「う、うん、どうぞ?」
この空気が変わるならと俺は飛びついた。
「まず達郎くん、キミってどれだけ強いの?」
その単刀直入な一言に俺の中でモードが切り替わる。なぜならこれは単純な言葉通りの意味もあるがそれ以上に美園さんの『大貴くんたち二人が午前中の一回のダンジョンダイブだけでクラスチェンジできた事実がどう言うことなのかをきちんと理解してますよ』というアピールだからだ。なので答え方を間違えると面倒になりかねない。
「ん〜、ちょっとだよ。ちょっと」
そう言って具体的なことははぐらかした。あやかとエリカにすらはっきりとは教えていない現状の俺のステータスについての情報なんてバカ正直に明かすわけがないのだ。とはいえ嘘を言ったわけでもなかったりする。レベル60で第三弾階職相当の今の俺にはたった三年の攻略組程度の力しかない。だから自分的に『ちょっと』というのは実はただの本音。さらにはなんかずっと言ってる気がするが自分用の武器の更新が全然できてないのだ。こういうこともあって実はここ数日の俺は結構焦っているというのはあやかにもエリカにも言ってない本音中の本音でもある。何故なら同格相手ならどうとでもできる自信はあるが、明確な格上である第四段階職の先輩方という明確な脅威がすぐ側にあってそれに対する力が手元にないなんていうのは俺みたいな小心者の心臓にはいささか辛すぎるのだ。正直、今日の夕方以降はしばらく自分のために使いたいのでこれ以上のボランティアはノーサンキューなのだ。
「……じゃあ聞き方を変えるね? キミは大貴くんたち二人を午前中のダンジョンダイブだけでクラスチェンジさせてたよね? あれってボクにもできる?」
しばし考えた後に秘密中の秘密を尋ねるような響きの言葉がこうだった。これは『あなたの考えはわかりました。これ以上余計なことは聞きませんので、代わりに同じ恩恵に私もあずかれますか?』かな。なんだろう、頭もキレるのかこの子。いや、おそらく芸能界で慣れてるんだな、こういう副音声がついてそうな大人がやる会話に。とはいえそこは隠せるわけもない既に彼女に出してしまっていた情報なので普通に返す。
「まぁ、それぐらいなら。でも大貴くんいなくなったから竿役になる男いないけど大丈夫? 急激なレベルアップした後の精力上昇の結果どうなるのかはさっきの千歳さん見たらわかるでしょ? 美園さんのレベル次第ではあるけど……、そうだなぁ一度のダンジョンダイブでレベルが2あがったら耐えるのはまず無理だと思ってくれていい」
「ボクの今のレベルが5。うん、なら耐えるのは絶対無理だね。……ねぇ、それはそうとして達郎くん。ボク、そんなに魅力がないかな? これでも結構女として魅力的な体つきしてると思うんだけどさ。おっぱいだってほら結構大きいよ?」
少し遠回しに経験値稼ぎ自体は構わないが俺がセックスの相手にする気はないぞと釘を刺す俺に対し、対価が自分の身体じゃダメか? とアピールしてくる美園さん。ほれほれと言いながら両腕の間に胸を挟んで強調するように見せつけてくるその姿は、さすがに中学生にして一流芸能人兼モデルをやっていただけのことはあるというべきか。女性にしては俺とさほど変わらない170cm近いスリムでしなやかな長身に見合った美乳とそれを裏切るようにたわわに実ったヒップの曲線美は正直眼福ものであるが、それはそれこれはこれである。
「外で出会ってたなら正座で土下座して拝み倒してでもヤリたいと思うくらいにはイイ女だとは思うよ? ……でもさぁ、俺の両腕にあやかとエリカがしがみついてるの見えない? 両手に花抱えたままの状態で他の女のケツ追っかける男ってどうなのよ? と俺は思うわけですよ」
「達郎さま!」『ダーリン!!』
俺がそうぼやくように言うと感極まったとばかりに二人が俺の名前を呼んで両側から頬にキスをしてくれた。そうそう、こんだけ愛されてんのにさすがにホイホイ他に手は出さないってという何よりのアピールである。二人の髪を撫でながら美園さんに目を向けると呆れたように返された。
「そんな男しかいないのがこの学園なんじゃないの?」
「それはそうだね。間違いない」
これは俺の強烈なカウンターに対する『そんなのルール違反じゃない? この学園では』というニュアンスの揶揄とこのままなし崩しで自分のアピールに取り合わない俺に対しての私怒ってますってアピールか。あとそれと学園に対するただの本音だな。
ただそんなの言われても苦笑い浮かべて逃げるしかできませんが? 小さく肩をすくめて同意も込めて返事を返す。さて、攻められ続けるのも億劫だしここらで一手切り返そうか。
「それよりも俺は美園さんたちが大貴くん行けなくなったことに抗議しなかったことにびっくりしたよ。大貴くんと違って俺への信用とか正直ゼロでしょ? よく怒らなかったね?」
「いやいやいや、さすがにあの状態の二人、特に千歳ちゃんを見て約束が違うからって無理強いするのはちょっとね。そもそも大貴くんにもそれにキミにも。ボクたちはあくまでお願いしてダンジョンに連れて行ってもらう立場だしね。信用するとかしないとか以前の問題だよ。それにさっきまでのやりとりと今もキミから離れようともしない二人を見るにまぁ、他のクラスの男子たちよりはよほどキミは信頼できる人なんだろうと思う。それこそ大貴くんもそこは保証してくれたし。今日のボクたちとしてはダンジョンに連れて行ってくれて、無事に連れ帰ってさえくれればそれ以上のことはないよ? できればボクのレベルアップもして欲しいけど。してくれるんでしょ? 期待してるよ、達郎くん」
『俺ってぶっちゃけ信用ないよね? なんなら学園からのペナルティ覚悟でダンジョンダイブ、キャンセルする? こっちは別にそれでも構わないよ』という俺の問いかけに対し、『いやいや、そんなに怒らないでくださいよ。大貴くんたちには怒ってないですし、というか貴方のことも信用してますよ。というかむしろ貴方が大貴くんの代わりに約束はちゃんと守ってくださいね。貴方は大貴くんと同じくらい信頼できる人間なんですよね? ちゃんとわかってますよ私。あとできれば私のクラスチェンジもよろしくお願いしますね』と大貴くんの信用を盾にとってのうまいカウンターに合わせて俺にバチコンウインクを決めてくる美園さん。
やベぇ、別に連れて行くのは全然構わないし負けてもいいけどなんか悔しい。なんかうまい切り返しは……と探って口をついて「いや、レベルアップはいいけど竿役……」と言いかけたところですいっと華麗なステップで間合いを詰めた美園さんに唇を塞がれた。
ちくせう、負けた! 両腕二人に塞がれてて咄嗟に対応できんかった!
瞬間、あやかとエリカからは抗議の、アンナさんと佐和子さんからは驚愕の悲鳴が上がるが彼女は意にも返さず舌を俺の舌と絡めてしばし。
「手付金、ってところだね。あと達郎くん、キミ、女心がわからないって言われたことない? ボク思うんだけさ、あんまり女に恥をかかせるものじゃないと思うよ?」
「これは結構なものをいただきまして……。あと俺に女心を理解することを期待しないで。無理だから」
ここで勝負あり。10カウントで完全KO。ここまで言わせた時点で俺の負けである。芸能人美少女に突然ベロチューされて何が負けなんだか意味不明だが。
そんな俺たち自身にしか分かっていないだろう勝負に勝った美園さんは困った表情を浮かべて「キミは本当に変わったヒトだね」と呟いたあと振り向いて背中を向けて再び前へと歩き出した。
その背中を見ながら俺は内心でこの子は何にこれほど追い詰められているのだろうかと、この学園特有の理不尽以外の理由の存在を感じていた。
その後のことについてはあんまり語ることはない。午前中、最後のダンジョンダイブポイントから午後のダンジョンダイブを再開した俺たちは単純に素材が欲しかった俺の都合であやかの【
その後時間に余裕を持って移動し、比較的安全な第三階層の【
この時、満面の笑みに涙を浮かべて俺に抱きついてきた彼女がボソリと言った一言だけが心に残っていた。
「……本当にありがとう、達郎くん。感謝するよ。おかげでまだしばらくは二人を綺麗なまま返す夢の続きを見ていられそうだ」
その呟きに詳しいことは何もわからなかったが、俺はこの学園が本当にクソであることをこの時再認識した。
○ーーーーーーーーーー○
謎の数字にざわざわと騒ぎ出す講堂内の空気だが、そんなものお構いなしに俺は話を進める。
「次にこの一番上の全体の部分を見てください。これのパーセントの数字の下に各クラスの定員である40から算出される人数を書き加えると、【
俺がそう言うとわかっていないみんなが頷き、わかっているであろう三人、純くんと梅吉くん、そして先日ダンジョンダイブを共にした美園さんが俺を斬りつけるように鋭い目で見ていた。
「では、次にここで一つ定義を付け加えます。内容自体は先ほどから何度も言っていたことですのでご安心を。ではいきますね。『【
俺が定義の内容を告げ切った瞬間、シンっと講堂内が静まった。
構わず続ける。
「で、次ですが……」と続けようとしたところで声が上がった。クラスメイトの男子で見覚えがある。確か長五郎くん。古風な名前で俺がエリカや京介くんと行ったダンジョンダイブにも一緒に行った男の子だ。なかなかガタイが良くそして顔がいかつい。
「な、なんだよそれ! 落ちこぼれるってどう言うことだよ! それに四年生にもなれないって!?」
「言葉通りですが?」
しれっと返すと「ふざけやがって!」と言いながらその場で立ち上がった長五郎くんと他数名の姿を確認し、牽制のために軽く、そうレベルにして30程度の魔物相当が放つ【
さっと【
「さて、静かになりましたね。では詳しく説明していきます。『落ちこぼれる』というのは学園の用語で言うと【攻略組】ではなく【エンジョイ組】になるという意味です。つまり真面目にダンジョンの奥へ奥へと挑み続けるのをやめて、セックスだけしたりダンジョンの低階層でPKしたりするような人間になるってことですね。ここで改めて一番上の全体の【文官】の数字を見てください。もちろん統計なので実際の場合、一人二人程度なら上にも下にも多少の誤差もあり得ますけど、ここでは仮に統計通りクラスで6人しかいないとします。クラス全体の人数40ー(【文官】の人数6×1パーティの人数6)=4。……ほら、もうこの最初の時点で必然的に4人、クラスから『落ちこぼれる』んですよ」
ここで俺はさらに黒板に言葉を書き加える。
一番上の全体の横に、【理想的第一段階クラスチェンジ分布】と書き、さらに次の全体の隣に【実際の学園における一年後第一段階クラスチェンジ分布】と書き加えた。
「と、このように上は【理想的一年後第一段階クラスチェンジ分布】です。これの理想的、の意味ですが、これはこの先みんながクラスチェンジする際、余計な介入要素なしでクラスチェンジできた場合のクラスチェンジ先という意味です。情報のソースは明かせませんが信用してくれて大丈夫です」
ソースは実家が持っていたデータと見せかけて、俺の記憶にあるゲームのクラスチェンジ分布であるがそんなことはどうでもいい。もはやこの場の誰も何も意味のある言葉を話さない。話せない。聞こえるのは少女のように泣き崩れたひなちゃんの漏らす「ごめんなさい、ごめんなさい……」の声だけ。
「で、問題はこっちですね。【実際の学園における一年後第一段階クラスチェンジ分布】。これによると【
このデータは図書館の中で見つけたとある年の【実際の学園における一年後第一段階クラスチェンジ分布】統計データそのままだ。だからこそ救えない。事実を示す数字というやつは真実だからこそ何よりも人を打ちのめすことがある。なんて言ったって説得力が違う。そして泣き崩れるひなちゃんの声が俺の言葉の信頼性を補強してくれるわけだ。最悪の信用保証だな。
じゃあ、こんな胸糞悪い話はこれで最後にしよう。
「で、ここまでくれば分かった人もいると思いますが、最後の24は1学年は24クラスって意味で、40は当然一クラスの人数です。で、100はおおよそこの学園を卒業できる人数。生きてこの地獄から出ていける人数。それが1クラス換算だとおよそ4人」
最後に外連味を込めて腹に力を入れドスのきいた声を出す。
「で、この4つの椅子。4−3ってのは3つは俺とあやかとエリカで埋まってる意味。だからあとはみんなで仲良く残り1席取り合ってくれ」
そう言って俺はこの一連の数字の意味の説明を終わらせた。
当然、全員の顔に貼りつけたような絶望が浮かんでいる。俺が助けると指名した二人さえ同じだ。そりゃそうさ、前半の説明はつまり個々の役割とみんなの協力が大事って話だったのが、最後に180度ひっくり返って残り一つの椅子を取り合うバトルロワイヤルに早変わりなんだからな。だがこれがこの学園の現実だ。俺は先輩方の誰もがおよそ一年ほどで緩慢な自殺に似た諦めと共に理解する自分達の末路を今、言葉で教えてやったにすぎない。
もちろん、別に俺は人が絶望してるのを見るのが趣味なわけじゃない。ここまでセンセーショナルにする気もなかった。元々大貴くんたちだけに話す予定の話がここまで人数が増えたから一気のやった方が効果的と舵を大きく切っただけの話なんだ。
大貴くんの希望である『せめてクラスメイトぐらいは笑っていてほしい』ってやつを叶えるにもこんなこと言わなきゃいけないこの学園はやっぱり狂ってるよ。だけど希望がないわけじゃないんだ。
ーーさぁて、誰か気づいてくれよ。この絶望しかない統計の示す裏の意味に。このデータが
そう思いながら俺はできるだけ傲岸不遜に見える顔を装って教壇に立ち続けていた。
感想、評価気が向いたらお願いします。
数字は基本根拠のある捏造です。なお、原作内で戦士が転職先で一番多いとありますが原作を読み進めるにどう考えても一番多いのは遊び人でと考えた結果が、男子が転職する先で一番多いのが戦士系という形に改変しております。ご了承ください。