※この作品はR-18です。

【俺の女は】ハイスクールハックアンドスラッシュの世界に転生したけど、なんか質問ある?【俺のもの】   作:笛吹き用

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第十七話 統計という名の現代の神託が仰るには 3(前)

 購買で午後の精算を終えた俺はみんなをそれぞれの寮まで送り届けたあと海燕寮にて机に並べた大量の夕ご飯を手早く食べた。そのまま席を立って俺のパートナー二人に出かけることを告げると、あやかとエリカが揃って俺の腕を両側から掴んで完璧ユニゾン異口同音で「どこに?」と言ったのには笑ったのだが、だからと言って離してくれるわけもないので理由をスキンシップをとりながら簡単に説明するとむくれながらも納得してくれたんだけど、その途中に言われた二人の「今すぐに3人でシよう」というお誘いを断るのには相応以上の忍耐力が必要だった。ごめんよ、あやか、エリカ。そしてごめんよ、中途半端に元気になっちゃった俺の息子。

 

 あとなぜか出際に見送りにきたあやかたちとゆみりさんが何事かを熱心にお話をしていた気がするが、正直時間が押しているのでまずは急いで購買へと向かう。

 

 あやかたちに理由を説明するときにはもうちょっとマイルドな言い方をしたが俺の内心は絶賛大焦り中である。さすがに今夜あやかたちとイチャコラするにはあまりにも現時点で事前のチャートから乖離しすぎた。何しろあやかをパートナーにした四月十八日から今日に至るまで丸一週間もアドリブアドリブアドリブの連続。そのこととそれによって得られたものは多くその選択自体に後悔しているわけではないが、その皺寄せが俺自身のレベリングにもろ響いていた。何しろこの一週間、ソロでのダンジョンダイブを一度もしていないのだ。既知内領域外縁部とはいえ第三段階職相当(サブクラス解放済み)、現在レベル60の俺が第一から第三程度の場所で今更レベルが上がるはずがなく、総合的な戦力という観点ならともかく俺自身の単純なレベルの上昇はこの一週間ほぼ完全に足止め状態。おかげで入学当初にたてた本来のチャートの予定通りならとっくに終わっていたはずの武器の更新もソロでの第拾階層到達も全部後回しになってしまった。

 

 正直まずい。すんげーまずい。何しろここはレベルこそ正義、暴力とセックスが支配する世紀末(マッドマックス)な学園であり、ガチで力がある奴が正義で、力がない奴が悪いが平気で罷り通る原始人(ギャー●ルズ)もびっくりの野蛮な世界なのだ。

 

 そして今の俺は客観的に見て普通の新入生基準ならもはや大都市に聳え立つ摩天楼よりも高みにいるが基準をこの学園全体に切り替えれば第三段階職なんてよくて中堅ぐらいでしかなく、逆に新入生基準なら悪目立ちでは済まないほど突出しているため、先輩たちから見れば目障りを通り越して粛清の対象だろう。さらに言えばダンジョン攻略の最前線、学園のトップ層から見れば『新入生』なのに『既に第三段階職相当(サブクラス解放済み)』の『結構戦えて使える武器を作れる武器職人』なんてカモがネギ背負ってるなんてレベルじゃない。今のこの状態で俺の存在が第四段階職(フォースチェンジャー)の先輩方、特にAランク上位倶楽部やSランク倶楽部にバレでもしたら本気で拉致られて監禁、その後は言われるがまま武器を作り続ける未来しか本当に存在しない。

 

 それを覆す方法はあるのか? ある。『レベリング』だ。レベルこそ力、レベル制のRPGと同じ、強くなりたいのなら何はなくてもまずはレベリング、そしてクラスチェンジである。

 

 だから俺は入学後狂ったようにダンジョンに潜り続け、レベルアップとクラスチェンジを急いだわけだ。仮に早い段階で先輩たちに目をつけられてもどうにか対抗できるように。今現在の俺が第三段階職相当のレベル60。これはおおよそ同時期の平均的な攻略組の三年生と同等といえるがそんなものには俺の安全を保証するのになんの意味もない。

 

 それぐらい第四段階職(フォースチェンジャー)第三段階職(サードチェンジャー)以下には超えがたい格差が存在する。何しろ原作小説にもそういう場面が描写されているぐらいだ。まともなやり方ならば、どれだけ足掻いても完璧と思える一撃を通しても、第三段階職(サードチェンジャー)以下では第四段階職(フォースチェンジャー)にはまともにダメージすら与えられないのだ。

 

 そんな状況で安穏としていられるほど俺の心臓は強くない。本来ならGW全部使ってレベリングと行きたいところだが、あやかとエリカのこと、そしてそれよりは優先度が下がるが大貴くんたちのこともある。それ以外にもいくつか絶対に外せないイベントもある。GW中にさすがにあとレベル20上げて自分自身が第四段階相当(サブクラス2解放)に到達するにはどう考えても時間が足りなかった。

 

 そしてGWを過ぎた頃から本格的に上級生たちが倶楽部勧誘の青田刈りという形で新入生に介入を始めるため、それまでになんとか状況を整えておきたかったがもうまともなやり方では自衛のための力を備える時間が足りない。

 

 ではどうするのか? 諦めるのか? 

 

 そんなわけがない。

 

 だって、まともなやり方じゃダメならまともじゃないやり方をすればいいだけじゃない(迫真)?

 

 こうなったら仕方ないよねぇ? こうなったらさすがにここまでやるのは……っていう今まで最低限していた遠慮とか理性とか自重と人間として大事なもの、全部捨てるしかないよねぇ(嗤)?

 

 つまり俺は入学二度目の禁じ手を使うことを決意していた。ククク、学園の野蛮人どもに人間がこれまで築き上げてきた文明社会の力をみせてやるのだ……。

 

 そう内心で死ぬほど馬鹿なことを考えながら、購買で電話を借りてお目当ての番号に内線をかける。

 

 程なくして通話が繋がった。

 

『……はい、こちら生徒会『()()』執務室です』

 

「もしもし、突然のお電話申し訳ありません。達郎と申します。吉行さんはご在室ですか?」

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

「では、お待ちしてます」 

 

 そう言って受話器を置いた。これでしばらくすれば待ち人が来てくれるはずなのだが、それまでにも今ここでやるべきことが山ほどあった。まずは購買が二束三文で買い取っているゴブリンのドロップ武器を購買のお姉さんに付き添いの元、購買に併設されているドロップアイテムの保管庫で選別し使えるものを買えるだけお買い上げした。その額、ざっと100万銭。今の俺にとってもそこそこ大きな額ではあるが、この後のお買い物金額に比べれば端金なので気にしない。結果、文字通り立った大人一人が隠れられるほどの山ができる量になったため、購買職員さん数人がかりでいつもの【工房(ファクトリー)】に運んでいただいた。

 

 そのまま、保管庫の棚を物色する。あれもいいな、これもいいなと物色していく中に特に俺の目を引くものがあった。

 

 厳重に封印用の呪符が所狭しと貼り付けられたガラスケース。その中に鎮座する何かの牙だ。近づくと肌がヒヤリとする。感覚的なものか? と思ったがそうじゃない。俺の存在に反応したのか、ガラスケースから周囲へと霜が広がり始め、明らかにこの保管庫の温度そのものが下がっていた。

 

「……これは?」

 

 俺に付き添ってくれていた購買職員のお姉さんにそう尋ねると彼女は寒さか、それともガラスケース越しの牙から発せられる圧倒的な瘴気(みあずま)にか、あるいはその両方か、何かに震えながらも教えてくれた。

 

「……数年前に当時のSランク倶楽部が持ち帰った超級(ハイパーランク)のレイド領域のボスドロップです。氷と水を操る強大な水龍から剥ぎ取った牙と聞いております。ご覧の通り、これだけ封印を重ねてもなお漏れ出すほど強力な呪物であり、学園にて買い取りこそしましたが学園直下のどの職人の手にも負えず今もこのように塩漬けになっております」

「ありがとうございます、参考になりました。ちなみにお値段は?」

「こちらですか? 7億銭ですね。正直、買取価格から考えれば原価割れの処分価格ですがご覧のように場所を取る上に近寄るものを威嚇するような厄介モノでもあるので」

 

 できればさっさとどうにか処分してしまいたい。という彼女が言えなかった本音が聞こえるようだった。そんな厄介モノであるが超級《ハイパーランク》レイドのボスドロップが()()()()()ねぇ。よっぽど邪魔なんだなと小さく笑ってしまう。レイドに関してはまた別の機会に詳しく説明するとして【超級《ハイパーランク》】というのは難易度でいうと上から二番目で、そのボスとなるとSランク倶楽部が全力を出して何人も犠牲者を出しながらようやく討伐したと考えて差し支えない。先ほど俺が散々怖い怖いと言っていた第四段階職の中でも上澄みの上澄みが寄り集まってさえ命懸けの文字通りの『超級の敵』。それがドロップした素材が弱いわけがない。封印越しに覗くその姿と瘴気(みあずま)を目を薄くして見てみると、……ふ〜ん、()んよ。これが7億とかザッと見た感じ正直超お買い得だわ。それに氷と水を操る水龍の牙とか格好いいし、かなりインスピレーションが湧く。あー作ってもいいし、こう作っても面白そう。面白そうだけど、これだけじゃなぁ……。もうちょっと、あと一声かなぁ。

 

 そのまま踵を返して他の棚へと移動する。露骨にほっと一息ついたお姉さんには申し訳ない。

 

 そうして他にも第拾階層以降の階層でドロップするモンスタードロップや同じくレイドのボスドロップ、やたらでかい亀の甲羅、黒い木に白い木etcetc……なんかを物色してしばしした頃。

 

「失礼します。……お待たせして申し訳ありません」

 

 そう言いながら現れたのは髪を短く切り揃え身長180cmを超える恵まれ鍛え込まれたその体をブレザーではなく詰襟の学ランで包んだ男性。腰には刀が一振りあり、察するにその名の由来となった坂本龍馬の佩刀【陸奥守吉行】の写しだろう。そしてその三歩後ろにはあやかたちの着ているブレザーではなくセーラー服姿の可憐な女性の姿もあった。二人とも急いで来てくれたのだろう、男性の方はともかく女性の方はわずかにだが息が乱れている。急なお願いで本当に申し訳ない。

 

 さて、この学園において学ランとセーラー服というのは特権階級の証である。つまり彼ら彼女たちの所属は普通科ではない。

 

「わざわざすいません、吉行(よしゆき)さん。美里(みさと)さん。こんなところまで」

「いえ、若様のお呼びとあればいついかなる時、いかなる場所でも駆けつけますとも」

 

 俺を若様と呼び今年三年生となるこの人は本来原作に存在しなかった役職【豊葦原学園生徒会()()()】を務める特級科所属の生徒であり、由里お婆様の実の孫にして俺の従兄弟である『久世(くぜ)吉行』さん。そしてそのパートナーで婚約者でもある十二家ある久遠寺を名乗ることを許された分家の一つ、金融を担当する白川久遠寺家のご令嬢久遠寺美里さん。

 

 つまり現在の立場的に普通科生徒の今の俺からすれば普通に殿上人。それでも彼らが急いで俺の元へ駆けつけてくれた理由は一つだけ。

 

 俺が本家の跡取り候補筆頭という完全無欠のコネを持っているだからだ。

 

 ビバ! 文明社会の力! ボンボン生まれ最強! これこそが俺ではなく今まで家と親が積み重ねたの社会的信用の持つ力だ! まいったか!

 

 な〜〜んて誰に言ってんだ? ってことを心中で毒突きながらも同時に本心からの感謝を伝えるため神妙な顔つきで、

 

「本当にごめんなさい。ありがとうございます、吉行さん」

 

 と俺が言うと、

 

「何を仰いますか。若様の恩為であれば文字通り魂の一片までもお捧げするのが久遠寺の家の者の勤め。このくらいのことで頭をお下げくださいませぬよう」

 

 この返答である。なお、吉行さんのこれがうちのデフォルト。この時代錯誤としか思えない一族の本家至上主義こそが久遠寺グループの力であり、一大財閥であるにも関わらず、グループ各企業の会長や社長など財閥の舵取りをする意思決定組織の構成員は全て本家から出された養子や娘や孫を嫁がせたその配偶者で構成されており、その全てが割と狂信的な忠誠心を本家に向けているという昭和大正明治を通り越して江戸時代と言われる閉鎖的かつ前時代的な意思決定プロセス。にも関わらず、もう俺が生まれてから十数年来、不祥事一つも起こらず揺らがない盤石の一族経営。

 

 そして本妻が何も言わないどころか大量の妾と仲良さげに日々を過ごし、その子供たちがみんな仲良く暮らす俺の実家の日常。正直生まれてからこれがこの世界における普通なのか? と俺の前世の感覚を疑う時もあったくらいに意味不明だったが、この学園のことを知らされて理解したわ。

 

 そりゃ歴代当主が学園から卒業する時、そりゃパートナー全員連れて帰ってくれば自然と実家も妾でいっぱいになるし、当然のようにそのパートナー全員【隷属】してるだろうからその子供たちも自然と狂信的になるよね!?

 

 入学前、直前に気がついて思いっきり納得したわ!

 

 当時の衝撃を思い出しながら俺が悶えていると、悪戯げな目をした俺の従兄弟が悪巧みに誘うように、

 

「で、若様。棚のどこからどこまでをお買い上げになりますか?」

 

 と言いつつ、その手にはいつの間に取り出したのだろうか、どっからどう見ても最高ランクのクレジットカード(ブラックカード)にしか見えないカードを持っていた。これこそが時間がなくなった俺の奥の手にして禁じ手!

 

 

俺は 今から 借金をする!

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

 その後、俺は支払いを頼りにしかならないパトロン様に支払いを全力でぶん投げて購買保管庫にて大人買いをした。ざっと30億銭分くらい。

 

 最初は大人買い、しますか? と茶目っ気たっぷりだった吉行さんもその後あまりにも無造作に欲しいものを買い漁る俺の所業に最後の方は冷や汗をダラダラ垂らして焦っていた。が問題ない。実は本当に問題ない。別に今でも時間さえあれば30億程度の金額は本当になんでもないのだ。

 

 なぜなら学園のオークションではダンジョン内の宝箱から手に入ったマジックアイテムは驚くほどの高値で取引される。例えば京介くんが持っていた火の力の宿る【レッドソード】。あれをもう少し細かく分類すると、火属性の霊級バスタードソードである【レッドソード】となり、これで販売価格1000万銭はする代物なのだが……。今の俺なら材料さえ揃えばあんなもん鼻歌混じりに量産できる。なんならさらに高ランクの王級レベルの属性武器でも問題なく量産できると思う。ちなみに王級越えの属性武器のオークション相場は最低でも1億超え。それを単純計算で30本なら、その気になれば実作業時間3日で借金は返せる。相場崩れるからやらんけど。

 

 それもこれもこの学園、職人が不当に低く見られているせいでまともな武器防具が流通しておらず装備市場に関しては無意味にインフレに陥ってるんだよな。明らかに適正にあっていない装備が高値で販売されている一方で、【匠工房(アデプトワーカーズ)】の先輩たちのような腕のいい職人たちの作品が貶められている。これに関しては生徒のせいもあるがどちらかといえばその状況をあえて都合がいいと放置している無能な運営側の責任だろう。

 

 話が逸れた。ということで俺が今回借りたのはどちらかといえば購買保管庫から高額商品を持ち出すための吉行さんの特級科であり生徒会役員としての信用と、借金による時間節約、つまり時間そのものを借りたといえる。

 

 とはいえ何をどう言ったところで30億は大金で、あのブラックカードも吉行さん個人のものではなく家のものらしく程なくバレるだろうと。そしてそれは『俺への援助はなし(あまやかすな)』という実家の方針に背く行為だと説明された。その時、同時に吉行さんが自分はどうなっても構わないが、俺に迷惑がかかるのは避けたいと、どう考えても逆だろと言いたくなるようなことを言うものだから、ここで一つ二つ手見せをして言い訳を用意する必要に迫られた。

 

 うちの実家のいいところは、鍛治の成果を見せれば俺が何やっても大概みんな黙ることである。

 

 と言うことで時間もないので美里さんは外に着いてきていた付き人とともに特級科の寮である【玉兎荘】へとお帰りいただき、吉行さんを連れて【工房】へと移動した。

 

「で、手見せの内容ですけど今から実証実験するものでいいですか?」

「はい、何をなさるのかは分かりかねますが、若様のお作りになる物でしたら間違いはないでしょう」

 

 そう言って作業の邪魔にならぬよう俺から少し離れた場所に直立不動で立つ吉行さんの全幅の信頼が重い。軽く頭をかいた後ブレザーを脱ぎ捨てて準備を始め、さて何を作ろうかと少しだけ考えたのだが時間的に比較的簡単なものかつ目新しいアプローチのものにするかと思い、必要なものを炉のそばへと並べていく。

 

 おもむろに炉に火をくべ充分に火が回ったら先ほど購買で一緒に大量購入したステンレス鋼を放り込んだ。そのあと比較的粗悪なものから小鬼剣や小鬼槍などのゴブリン武器をどんどん放り込んでいきステンレス鋼を核として概念を抽出し【小鬼鉄】を作っていくのだが、今回は前回のアプローチとはまた違ったアプローチを行おうと思っていた。

 

 前回の純魔玉鋼は何度も叩き上げることで武器に宿る【瘴気(みあずま)】から【小鬼(ゴブリン)】の概念を無くす方向に向かうことを目指したが、今回はその逆。【小鬼(ゴブリン)】の概念を濃縮、その後概念そのものに干渉、反転させ対ゴブリン用武器のための特攻武器を作るための鋼を作ろうという試みだ。

 

 そのためには質より量である。炎に包まれ存在を保てず溶けていく瘴気が大量にステンレス鋼に濃縮されたところで純魔玉鋼の時と一見同じように叩いて熱するを繰り返す。

 

 なぜ今更対ゴブリン武器用の鋼なんて? と言われるだろうが、これは今に加えて今後のことも見据えている。今これを作る理由は手見せを迫られたからなんだが、それ以外の理由として溜まったストレス解消と鍛治師としての本能による探究、そして大貴くんを見ていると俺もなんかしないとなーという俺の心の発露があった。

 

 今後、大貴くんとその仲間たちがダンジョンをどんどん攻略していく途中で『数』という意味で厄介なのが、第四階層以降に出てくる犬系狼系とそして第漆階層以降に出てくる豚鬼、オークどもである。特にこのオークども動きがトロイ傾向こそあるがとにかくデカくてそしてしぶとい。既知内領域なのでそれほど異常な数が出てくることはあまりないが、進むにあたって第漆から第玖階層での大きな壁がパーティを組み統制の取れたこいつらの一団であり、どうしてもその対策は必須。

 

 その時にどうせ対オーク用武器のための素材がいるよな? と考えたとき、ならさっき別件のために大量に購入して有り余っているゴブリン素材で対ゴブリン装備ができるか試せばいいじゃんと思いついたのだ。

 

 なお、玉鋼を使わず一般的なご家庭の包丁などでも使われているステンレス鋼を用いたのは持ち込めるだけ持ち込んだとはいえ玉鋼が貴重品だからだ。実家の財力でもって代々保護増産に努めているとはいえ他の全国の刀鍛冶のところへも納品しなくてはいけないため、さすがにメチャクチャな量を俺だけが消費するわけにはいかない。

 

 やがておぞましいほど【小鬼(ゴブリン)】の概念で侵食された鋼が出来上がる。【小鬼薙ぎ】を作った時点でもここまではいけたが、ここからまとめきれずに鋼が瘴気(みあずま)に侵食されすぎて形を保てず諦めた経緯があるのだが今の俺なら問題ない。

 

 そしてここからが初挑戦の技術、【概念変換】である。何度も何度も鋼を叩き中に閉じ込めた【小鬼(ゴブリン)】の概念を反転させていく。ここで本格的に鋼を打つ体勢に入った俺に吉行さんから声がかかる。

 

「若様、僭越ながら私が相槌を務めましょうか?」

「あぁ、ありがたい申し出なんですけど今回はこっちの実験も兼ねてますのでお気持ちだけで」

 

 そう言って今日手に入れたばかりの【分身(ドッペルゲンガー)】を発動したことにより俺が二人に増えた。

 

「【職人(クラフター)】クラスの若様が【分身(ドッペルゲンガー)】……、これは【スキルオーブ】か」

「ええ、今日手に入れました。今回はこれを試させてください」

 

 ひとりごとをうめくように言った吉行さんにそう俺が答えると吉行さんは「出過ぎたことを申しました」と謝罪してくれたのだが、吉行さんの相槌の腕は悪くないので謝らなくていいのになぁ。

 

 さて、話は戻って【分身(ドッペルゲンガー)】であるが、俺の場合一人が二人に増えるというのは作業効率が倍になることだけを意味しない。これにより俺は機械を使わず文字通り一人二役が可能になった。つまり一人で相槌を打つことが可能になったわけである。

 

 これによる効果は果てしなくでかい。やはり機械では埋められない刹那のタイミング、力加減、打つべきポイントへの正確性などにより出来に明確に差が出る。どのくらい出るかというと音ゲーの高難易度のexcellent率が70%から99%に上がるくらいに仕上がりに差が出るのだ。そのため俺が何かを作る時できれば相方は人間がいい。それも俺と同格の職人ならもっといいんだが、そんなの実家の父、祖父、曽祖父、高祖父しかいないので諦めていたんだが、【分身(ドッペルゲンガー)】を手に入れた今なら話は別である。

 

 このためだけじゃないけど、ほぼこのために手に入れた【分身(あいかた)】とともにニヤリと笑った俺たちは早速目の前の鋼へと立ち向かう。

 

 それからしばらくして見事に【(アンチ)ゴブリン】の性質を持つ新素材【ゴブリン鋼】が産声を上げた。見た目として色は紫色で、鋼そのものの特性として硬さもさることながらしなやかさに強みがある鋼に仕上がった。

 

 吉行さんにも見せるとこのような鋼は少なくても私は見たことがありませんと太鼓判をいただいた。

 

 続いて軽く鑑定。それだけで伝わってくる『コロス! オデ、ゴブリン絶対コロス!』という漆黒の意志にワクワクした。これを使って武器を仕上げたら一体全体ゴブリンに対しどれほどの特効効果が出るのだろうか?

 

 早速ウキウキしながらまずは一本手見せのため、吉行さんに渡すショートソードを仕上げていく。とはいえコイツは最低限の手間で時間はかけずささっと仕上げることとする。

 

 敢えてその最低限でどういう効果を発揮する武器が出来上がるのか知りたかったのだ。

 

 そして濃い紫色が怪しげな雰囲気を放つ一振りが出来上がった。そのまま備え付けの回転研ぎ石を使って一気に研ぎ上げる。出来上がりを改めて確認し、この濃い紫、まるでトリカブトの花の色のような紫だな、と思った瞬間、俺の中でこの【ゴブリン鋼】でできた武器のシリーズ名が決まった。

 

 トリカブトの学名である【アコニツム】がこの鋼でできた武器には相応しい。その第一作目であるコイツはさしずめ【アコニツムソード】だろう。

 

 出来上がったので早速鑑定。これは刃物なので【主席鑑定士(チーフオーセンディケーター)のモノクル】はいらない。そのまま直接視る。どれどれ、ランクは【銘なし(ノーネーム)】で、特性はっと……。

 

【ゴブリンキラーⅡ】ゴブリンに対する最終ダメージ150%

【恐怖の波動Ⅰ:ゴブリン】対象の魔物に対して戦闘開始時に【状態異常:恐怖Ⅰ】を高確率で与える。戦闘継続中この効果判定は何度も繰り返される。

止まらない出血(スリップダメージ):ゴブリン】この武器で傷つけられた対象の魔物は10秒ごとに最大体力の1%のダメージを継続して負い続ける。

 

 さ、殺意が高い。ゴブリン相手なら無条件で最終ダメージ1.5倍、戦闘開始時と戦闘中繰り返し行われる恐怖の状態異常付与、かすり傷でも継続スリップダメージとか流石にやばいだろ、おい。

 

 これ見せてもいいのかね? と思いながらも見せないわけにもいかず、ポーチから【主席鑑定士(チーフオーセンディケーター)のモノクル】を取り出し【アコニツムソード】と一緒に吉行さんに渡した。

 

 吉行さんも最初は濃く品のある紫一色に染まった剣そのものの美しさにうっとり眺めていたが、それも束の間モノクルをはめて特性を確認し始めた後の変化俺と全く同じだっただろう、見事な顔芸を披露してくれた。

 

「若様、これはさすがに……」

「正直、予想外に跳ねましたね。強いと言うよりエグい武器ができちゃいました。で、応用すれば豚鬼(オーク)だろうが、大鬼(オーガ)だろうが同じやり方で似たような素材、似たような武器が量産できるようになると思います。作り方も見ていただいた通り、正直そんなに難しいものでもないのでいずれは誰でもできるようになるんじゃないですかね? この可能性でどうでしょうか? さっきの借金の担保がわりになりませんか?」

「担保代わりなどと! この武器とそこから広がる可能性を考えれば先ほどの30億など端金に過ぎません! さすがは若様、見事なお手前でございました」

 

 それではこれにて! お婆様にお見せしなくては! と颯爽と去ろうとする吉行さんを呼び止めてもう一つ、お願いをすることにした。

 

「吉行さん、今手配できる最高レベルの陰陽師って誰がいます?」

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

 俺の二つ目のお願いに関しても可能な限り早く手配いたしますという返事をいただいて俺たちは吉行さんは俺に深々と礼をして帰っていった。

 

 ふー、いい人なんだけど一族の人間はみんなあんな感じだから疲れるぜ……。そういう意味ではそんなの関係ねぇとばかりに俺に物怖じせずに言いたいことがあればガンガン向かってきた又従姉妹殿は貴重な存在だったなぁ。あいつ、今頃どうしてるかね?

 

 ……俺のガ●プラに異常な殺意を抱いてたからな。卒業した時に全て薙ぎ払われてたらどうしよう。その場合俺、ショックで死んじゃうんだが?

 

 なんて同年代の一族出身者である吉行さんと話したせいとはいえ、口うるさいアイツのこと思い出すとは……。ホームシックか? これ。

 

 くだらない感傷を頭から追い出すべく再び炎に向かう。

 

 最初に火を入れてからここまで一時間ちょいかかってる。前に比べれば相当な時短ができてるが、それでも時間はいくらあっても足りない。けれど明日以降のことを考えればできれば日が昇る前には寝たいので、続いて今日の午後【界門守護者(ゲートキーパー)】から手に入った【銘入り(ネームド)武器、戦士系R職【突剣士(フェンサー)】の得意スキルである【突斬り(スラスト)】の力を秘めた【刺突のレイピア】を先ほどの【ゴブリン鋼】の残りを使って打ち直していく。

 

 このレイピアは美園さんのための武器として打つ。元々彼女たちと一緒の時に手に入れた武器だし完全に俺のものというわけじゃなかったコイツは、彼女の手の中にあって彼女が守りたいのであろうアンナさんと佐和子さんのために振るわれるべきであると思っていたから。

 

 今日のクラスチェンジで俺と同じくスキップ転職した美園さん。俺は知らなかったが肩書き通りの天才子役だったのだろう、それを証明するかのように転職先は【遊び人(ニート)】の第二段階職の一つにして【俳優(アクター)】系統の派生である【女優(アクトレス)】だった。まさにこの学園に入るまで子役から女優さんをやっていた彼女に相応しいそのクラスだが、この【俳優(アクター)】系、数ある【遊び人(ニート)】の第二段階職の中でもトップクラスに扱いが難しいクラス特性を持っているのだ。

 

 まず基礎スペックだが、元々結構高めの身体能力補正が入る【遊び人(ニート)】クラスの中でも間違いなくトップ3内に君臨する身体補正がかかる。俳優さん、人によってはアクションとかスタントとか自分でこなすし、日本の時代劇の役者さんなんて殺陣をこなすために剣道や剣術を修めている人も少なくないからこの高い身体能力補正は当然といえば当然である。

 

 癖が強いのはそのクラス特性。【模倣(ミミック)】と【演技(アクティング)】というスキルがこの【俳優(アクター)】系のメインスキルなのだが、【模倣(ミミック)】で他のクラスのスキルをコピーし、【演技(アクティング)】のスキルでそれを再現するという、漫画の強スキルの代表格であるコピースキル持ちクラスであり、極めれば万能とさえいえるんだが……、その強さの反動で某団長の『盗賊の●意』ぐらい制限がきつい。

 

 まずスキルをコピーするのに何度も実際に見たり体験する必要がある。簡単なスキルであればあるほど少ない回数でコピーできるし、難しいスキルだと回数は果てしなく増えていく。つまりコピーさせてくれるほど関係性がちゃんとした人間の協力が必須なので本人のコミュ力がないとクラスそのものが宝の持ち腐れになってしまうというデメリット持ちクラスなのだ。この時点で俺には無理(笑)。

 

 で、二つ目の制限が第二段階の【俳優(アクター)】や【女優(アクトレス)】であればコピー可能なのが【戦士(ファイター)】や【盗賊(シーフ)】などの第一段階職のスキルに限定されること。つまり自分より下位のクラスのスキルしかコピーできないことになる。

 

 三つ目の制限がコピー元のクラスよりもSP消費が激しい。これはコピースキルの使用時に【演技(アクティング)】のスキルとコピーしたスキルを同時に使用しているというスキルの仕様上の問題でありSP管理がなかなかシビアなクラスでもある。

 

 最後にこのスキルのコピーまでの速さ、ストックできるコピースキルの数などの様々な要素が本人の素質、いや演技力という数値化できないものに死ぬほど左右されるところだ。

 

 それでも簡単なコンボを考えるだけでもこういう使い方ができるわけで。

 

 まず自前の【遊び人(ニート)】スキルである【蜻蛉(シャドウ)】で気配を消し、【盗賊(シーフ)】の【俊足(ファスト)】で間合いを一気に詰め、そのまま【山賊(バンディット)】の【待ち伏せ(アンブッシュ)】や【戦士(ファイター)】の【強打(バッシュ)】、【剣士(ブレイダー)】の【斬撃(スラッシュ)】などを併用して攻撃する、なんてことができる時点で戦闘向きの【遊び人(ニート)】系クラスの中でも性能を使いこなせさえすれば抜けた強さになるのがこのクラスの特徴である。逆にサポートに振り切ってもそれはそれで便利という意味でクソ強いし。

 

 そんな強クラスになった美園さんであれば、クラスチェンジで増大した身体能力のならしとスキップしてしまって慣れていない【遊び人(ニート)】のスキル習熟さえ終われば毎週一度アンナさんと佐和子さんを一人づつ安全にダンジョンに連れていくのも難しくはないだろう。

 

 そして安全策をとるなら必然的に第一から第三階層でのダンジョンダイブになるだろうしそうなればゴブリン鋼でできた武器さえあれば滅多なことは起こらないはずだ。

 

 先ほどとは違い、できる全力を込める。今日彼女を見て一番印象的だったのがその悲壮なまでの決意である。所詮無関係で袖擦りあっただけの俺に聞けることでもないが、それでも頑張っている女の子がそこにいるなら、自分の負担にならない程度、ちょっとぐらいならば手助けするのが男の仕事だろう。

 

 再び【分身(ドッペルゲンガー)】を出してレイピアを鍛え上げる。元々鈍色をしていた【刺突のレイピア】の色が濃い紫色に染まった頃、王級レイピアである【刺し殺す魔女の毒杯(メーディアンリュトン)】が完成した。

 

 早速鑑定である。先ほどとは違って今度は全力で打ったので結構いいものができたと思ってるんだけど、どうかな? どれどれ、ランクは【銘入り(ネーム)】かつ王級で、さっきでも十分やばかった特性はどうなってるかな?。

 

【ゴブリンキラー(MAX)】ゴブリンに対する最終ダメージ300%

【魔女の毒杯:ゴブリン】対象の魔物に対して戦闘開始時に【状態異常:恐怖Ⅲ・猛毒Ⅲ・戦意喪失(チキン)Ⅲ】を超高確率で与える。戦闘継続中この効果判定は何度も繰り返される。

恐るべき神経毒(アルカノイド):ゴブリン】 この武器で傷つけられた対象の魔物は口、唇、舌、手足の痺れによる麻痺に加え、嘔吐、腹痛、下痢などによる行動不能、呼吸不全による10秒間に最大体力の5%のダメージを継続して負い続ける。

 

 あー、コレはやり過ぎたか? 量産した暁にはアイツら存在自体が消えるな。あいつら(ゴブリン)死んだわ。

 

 とはいえ欠点がないわけじゃない。この素材でできた武器に【モンスターカード】による後付けのスキルエンチャントはおそらく俺でも無理。素材の内部が既に概念ですり切れ一杯分の余裕もなくパンパンだから外からの後付けは不可能に近い。そういう意味では今回のように元々有用な覚醒効果を持つダンジョン装備を打ち直すやり方がベストっぽいな。後でメモしておこう。

 

 その後、今度は玉鋼を用いて山ほど積んであったゴブリン武器の山が消えるほど明日以降のために純魔玉鋼を造り終えたことでようやく今できる明日以降の準備は完了した。正直徹夜を覚悟していたが【分身(ドッペルゲンガー)】のおかげでえげつないほど時短できたので御前様を回避した俺は意気揚々とあやかとエリカの待つ海燕荘の玄関をくぐり、二人の部屋に帰ろうとしたら階段を登ろうとするところで声をかけられた。

 

「ちょっとアンタ! なんでこんな時間に帰ってくるのよ! いくらなんでもちょっと遅すぎるんじゃないの!?」

 

 思わず声の方を見るとそこには保護者代わりのゆみりさんを背に透けるように白い肌を真っ赤にした美亜子ちゃんが上半身にぶかぶかの白いパーカー、下半身はそこからのぞく完璧な生足という扇状的すぎる姿で俺を睨みながら立っていた。

 

 ……あれ? なにこれめっちゃエロいんですけど? 俺の勘違いでなければコレってそういう流れなの?

 




長くなったので初の前後半編でお送りします。
感想、評価、気が向いたらよろしくお願いします。

独自設定 
素材

ゴブリン鋼 
純魔玉鋼とは真逆のコンセプトで作られ新素材の魁となったアンチゴブリンマテリアル。特定の種族、このゴブリン鋼の場合はゴブリンに対して無類の効果を誇る武器防具を作り出すことが可能になるが、その生成難度は10段階の8。学園所属の高レベル【|素材製造士》マテリアルメイカー》】ですら大半が匙を投げる難易度を誇る。

武器

アコニウムソード 攻撃力35 
達郎の作った新造材【ゴブリン鋼】でできた記念すべきアンチゴブリン武器の第一作。
デフォルトでゴブリンへの最終ダメージ最低でも1.5倍、会敵時及び戦闘中恐怖の状態異常付与、傷を与えることでスリップダメージ発生の効果を持つ。
オークション参考価格は5000万銭だが、これはこの武器の持つ濃く美しい紫色に魅入られる刀剣マニアの学生が高音をつけるためであり、本来ダンジョン内での限界レベルが20であるゴブリン相手にこれほどの武器は必要ない。あくまで通常のゴブリンや通常のダンジョン内であれば、という注釈はつくが。

王級レイピア【刺し殺す魔女の毒杯(メーディアンリュトン)】攻撃力 52
達郎がダンジョンドロップの【突き斬るレイピア】を基に【ゴブリン鋼】を用いて打ち直した王級レイピア。覚醒すると戦士系R職【細剣剣士(フェンサー)】の基本スキル【突斬り(スラスト)】のスキルが発動する。その他アコニウムシリーズに共通する武器特性は武器の出来に従って効果が強力になる。

なお、ゴブリン鋼に限らずこの後作られるオーク鋼などの素材からできるアンチモンスターマテリアル産の武器に共通する特徴として、
・ 最低でも対象の魔物に対して最終ダメージ量増加、状態異常付与、傷によるスリップダメージの特性を持つ。
・ モンスターカードによるエンチャントは不可能。
・ どれだけ上手く仕上げても王級中位クラスの攻撃力(75)が限界。これは素材自体の特性として出来の良し悪しは武器の攻撃力に反映されるよりも武器効果の強弱により反映される性質を持つため。

もしオークションで販売された場合の相場は3億銭以上。こちらはコレクション的な価値もあるが攻撃力だけで十分に攻略系倶楽部のメイン武器を張れる実力があるためである。

クラス

細剣剣士(フェンサー)
戦士系R職。レイピアのような細剣を武器とする戦士職。通常の戦士職より一撃の威力と腕力に劣り、スピードと攻撃の連続性、そして急所に対してのクリティカル攻撃に優れている。日本においてはかなりレアなクラスだが、ヨーロッパでは比較的メジャーであり、日本における刀系戦士職とほぼ同じ扱いと考えて良い。
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