※この作品はR-18です。

【俺の女は】ハイスクールハックアンドスラッシュの世界に転生したけど、なんか質問ある?【俺のもの】   作:笛吹き用

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お詫び 連続投稿はここまでとなります。ごめんなさい。投稿開始日に約2週間あれば終わらせられると思いましたが、毎日暑すぎて無理でした⋯⋯。


外伝1 俺は普通のクラスメイト10

 7月4日(水) 夕方

 

 俺たちがシャワーを浴び終わってブースの外に出ると既にそこには先ほどの騒動の痕跡は何もなかった。奴らの姿はもうどこにもなく、先ほど血まみれだったタイルも綺麗に洗い流されていた。おそらくだけど俺たちが肩を寄せ合ってシャワーを浴びていた10分ほどの間に応援を呼んで全て片付けたんだろう。……いや、応援なんてなくても真紀せんせなら人間の4人くらいシャワー室から引きずり出して片付けるなんて楽勝か。自分とそう変わらない身長の男の手を自分の右手でつかんで握りつぶした後そのまま吊し上げるあのパワーさえあれば。

 

 更衣室で着替えを終えてトレーニングルームに戻るとそこにはいつも通り変わらない風景が広がっており、先ほどの騒動がまるで嘘だったかのように思える。だがそんなわけはない。未だに俺の両の拳には奴らを撃った感触が残っているし、何より俺の胸ポケットにしまわれているバッチの存在が白昼夢の類でなかったことを示しているのだから。

 

「……いっくん、怖い顔してるよ?」

 

 下から心配そうに俺のことを覗き込むかのんの声にハッとした。とりあえずまずはみんなを安全圏である部室敷地内へと連れ帰らないと……。その前にまず危ないところを助けてくれた真紀せんせにあらためてお礼を言おうと探してみたもののせんせはどこにもおらず、そのまま未だ恐怖に怯える千帆たちを慰めつつ俺は部室への帰路へとついた。

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

「おかえり! 一平くん!」

「おかえり。一平くん」

 

 再度の襲撃を警戒しつつ四人を連れてなんとか無事に安全圏といっていい部室の母家の玄関前まで帰り着いた俺はまた驚かされることとなる。

 

 玄関前で雑談しながら連れ立って達郎さんと純くんが待っていたからだ。

 

 しかもやたらと機嫌良さそうにニコニコしている達郎さんと対称的に振り回された後なのかちょっと疲れた様子の純くんというレアな状況で。ニコニコしているから非常事態ってことはないはずだけど、月曜の『相談会』の時以外には滅多に俺たちの前に姿を見せないのにどうして? とどうしても疑問が浮かぶ。

 

 嫌な予感こそしないが先ほどのこともありどうしても警戒してしまう。

 

「……何事ですか?」

 

 と俺が尋ねると、

 

「君を探してたんだよ!」

 

 と食い気味に応える達郎さん。額に手を当ててダメだこりゃとばかりに純くんの様子に興味が掻き立てられなかったかといえば嘘になるが今の俺はそれどころじゃない。

 

 ちょっと後でいいですか? と切り出しかのんたちを母家に入れようとしたところで二人は俺の様子から何かに勘づいたらしい。二人揃ってさっと表情を切り替え一瞬のアイコンタクトの後、純くんが尋ねてきた。

 

「何かあった? ……いや、何()あった?」

 

 物理的な冷たさすら感じる純くんの声。そして傍の達郎さんに至っては一言も口を開かずただ黙っているだけなのにどんどんと周囲の空気が張り詰め、まるで冬の嵐を告げる雷が落ちる直前のような空気感がその場を支配していく。

 

「ヒッ!」

 

 この2人のやばい時の空気を体験するのが初めてだったんだろう、ちょこと四ツ葉、そして千帆が恐怖で小さく悲鳴をあげる。

 

 さっきのバカ共どころの話じゃない。本物の絶対強者2人が放つプレッシャーに多少耐性のあるかのんや俺ですら恐怖に身が竦みそうになるが、それを堪えて俺は2人に目線で抗議。すると少しだけ空気が和らいだのでその隙に無理矢理かのんたちに奥で休むように言いつけて先に行かせると、彼女たちの姿が中へ消えたのを確認した俺はとりあえずぼやいた。

 

「さすがに勘弁してよ……。心臓止まるかと思ったわ」

 

「ごめんね。で、何があったの?」

 

「トレーニングルームのシャワー室で全員裸のところ、かのんたち狙いのクソ共に絡まれた」

 

「……人数は?」

 

「4人。おそらく全員上級生で多分うち3人は第二(セカンド)。残りの一人は多分だけど第三(サード)だったと思う。途中から武器まで持ち出しやがったからね、正直ヤバかったよ」

 

「……よく、全員無事だったね」

 

「最後の一人、その第三(サード)らしきやつは済んでのところでその場に来てくれた真紀せんせが片付けてくれたんで何とか」

 

「そいつら、どこのどいつかわかる?」

 

 そこで胸ポケットから先ほどのバッチを取り出して手のひらに乗せ二人に見せた。可愛らしいビーグル犬が衣装化されたそのバッチは素材や色の違いから学園の人間が見ればCランク倶楽部のものであると分かる。 

 

 指でつまみ上げた純くんが取り出した生徒手帳で検索をかけ奴らの正体が判明した。

 

「……あった、これだ。Cランク倶楽部【家畜小屋(ペットショップ)】。構成員数22人、うち男子の数は11人。部長は……、三年。名前が、八徳(はっとく)の方の()でサトシ。データ通りなら盗賊系第三段階職【無法者(アウトロー)】。副部長の二人も……第三(サード)か。どうやら攻略よりのエンジョイクソ倶楽部っぽいね」

「ならさっきの第三の奴は多分部長じゃないな。バスタードソード使ってたからおそらく【戦士(ファイター)】系だった思うし。……。えっと、純くん」

「……自分でやる気かい? こんなこというとなんだけど結構強めだと思うよ、コイツら。任せてくれたら僕が潰しとくけど?」

 

 しごくあっさりとCランク倶楽部を潰すと宣言する純くんと、その言葉にウンウンと小さく頷く達郎さん。この場合頷いたのは達郎さん()がやってもいいよって意味だと思う。

 

 そういうと思った。実は今この時点でこの二人へと今回の件を俺が伝えた時点で奴らは倶楽部ごと完全に詰んだ。今回のような俺たちへの襲撃なんてものは奴らの方から倶楽部間戦争をふっかけたようなもので、そうでなくてもPKを蛇蝎のように忌み嫌うこの二人が白昼堂々、人攫いのようなことをする輩を見逃すわけがない。そして俺からすれば強敵になり得る第三段階職の上級生たちも純くんにとっては狩り慣れたカモのようなもの。そして達郎さんに至っては、それこそ相手の倶楽部が総動員でかかっても傷一つつけられるかどうか。だから二人に任せておけば安全かつ確実に奴らは終わる。

 

 それがどうした? 

 

 自分の女が狙われたのに俺はそれで納得できるのか? 千帆を泣かせ、ちょこと四ツ葉を怯えさせ、かのんに覚悟をさせたアイツらへの報復を誰かに委ねるのか? 

 

 答えはノー。ノーだ。

 

 俺は俺の獲物を誰にも譲る気はない。この腸が煮え繰り返るような怒りは俺自身がはらさなければならない。こんな凡人でみんなにおんぶに抱っこな俺にだって一握りの男の子のプライドぐらいあるのだ。

 

 自分の喧嘩を人に任せるわけねーだろ。

 

 押し込めていた怒りとともにそんな気持ちが口から出た。

 

テメエらはすっこんでろ

 

 流石に失言だったことにすぐ気づき、

 

「……ごめん、純くん、達郎さん。生意気言って。でもアイツらへの落とし前は俺が自分でつけるよ。もしダメだっていうなら今すぐ倶楽部も抜ける」

 

 と謝ったのだが、そんな俺の返答を聞いた二人は怒るどころか顔を見合わせてとても楽しそうにニッコリ笑った。

 

「これはいいタイミングだったかな?」と嬉しそうにいう達郎さんに、

「そうみたいだねぇ、偶然だろうけど」と先ほどと同じく呆れ気味に返す純くん。

 

 急に意味のわからないことを言い出した二人に戸惑う俺。そんな二人にいいからいいからと言われながら有無を言わせず手を取られてそのまま蔵の地下にある【工房(ファクトリー)】へと連れ込まれた俺がそこで見たものは、

 

 ━━紅の刀身と十字星の彫刻を鍔に持つ炎そのもののような騎士剣。

 

 ━━背後に羽のようなものが突き出た青を基調とした西洋式の全身甲冑。

 

 ━━十字架を潰したような形の真ん中に黄金の十字をあしらった分厚い盾。

 

 であった。

 

 そのあまりの見事さに俺はしばし怒りを忘れて魅入ってしまう俺に達郎さんが自慢げに声をかけてきた。

 

「気に入ってもらえたようで何より。少し遅くなったけど約束していた通り、第三段階クラスチェンジ祝いだ。右から(ほのお)(つるぎ)(かすみ)(よろい)(ちから)(たて)だ。全部持ってけ!」

 

 驚きよりも喜びよりも恐怖が優った。今俺のものだと言われたこの三つの装備の放つ力はあまりにもおかしい。全部最低でも王級上位。いや、剣に至っては……、少なくても贔屓目なしであの京介くんの【陽炎(かげろう)】よりも上だとさえ感じる。

 

 そんなの、まさか……、神級!? 例外中の例外らしい達郎さんとゆみりちゃんのあの二つの人造遺物(アーティファクト)を除けば事実上最強ランクの剣ってことか!?

 

 あまりのことに気が動転してしまいお礼も言えずに、

 

「……そんな、クラスチェンジ祝いは剣だけじゃ?」

 

 と言うのが精一杯の俺にニヤリと笑った達郎さんが俺の背中を勢いよく叩きながら言い放った。

 

「今から喧嘩に行くんだろ? 細かいことは気にすんな! 男が喧嘩の前に気にすることは相手をぶちのめすことだけで十分だぜ」

 

 

○ーーーーーーーーーー○

 

 

 それから1時間後、俺の姿はCランク倶楽部が集まるプレハブ部室棟の一角にある【家畜小屋(ペットショップ)】の部室前にあった。中からはかなりの数の人間の気配が感じられるだけでなく真っ昼間から盛ってやがるのか、男がゲラゲラと笑うゲスな声と女の子がイカされて絶叫する声が外まで響いていた。

 

 そのまま躊躇なしに扉を蹴破り中に飛び込む。まだ外が明るいにもかかわらずプレハブ小屋の中はカーテンで締め切られて薄暗く、臭いも鼻が曲がりそうなほど精液や愛液、汗、そして尿の臭いが充満していた。突然の乱入にその中で動きを止め唖然とするクソども相手に開口一番こう言い放つ。

 

 

「ちわっす、先輩方。先ほどあんたらのお仲間に売られた喧嘩、買いに来ましたよ?」

 

 

「……んだ、いきなりテメェ!!」

 

 呆気にとられていたクソどもだったが、一番俺に近い場所にいた男がいち早く我に返ったらしく真っ裸のまま殴りかかってきたが、軽く盾で受けてちょうど上手く奴らが密集しているあたりに跳ね飛ばしてやると、ドスンと言う大きな音と同時に男と女の悲鳴が上がる。

 

 さっきの意趣返しに全裸のままのコイツらをぶちのめしてもいいが、それじゃあ俺がコイツらと同じ穴の狢になっちまう。

 

 ていうかよう、テメエら全員言い訳一つできないように完膚なきまでに叩きのめさねえと俺の気がすまねぇんだよ!

 

「俺はテメエらみたいなクソどもと違って喧嘩の相手に服を着る時間ぐらいくれてやる優しさがあるんでな? だからよ、出るとこ出ようぜ!」

 

 そこまで言って大きく息を吸い込む。

 

「【学生決闘(メンズーア)】だ!!」

 

 

●ーーーーーーーーーー●

 

 

 【学生決闘(メンズーア)】。

 

 学園内のどこであってもそう一声叫ぶだけでどこからともなく現れる謎の集団『決闘委員会』により取り仕切られる【学生決闘(メンズーア)】は、学園在学生全てが等しく有する自力救済の権利であり、その主なルールは以下の通りだ。

 

・ 決闘においては如何なる身分も立場もこれに影響されることはない。

 

・ 決闘権は在学生全てが平等な権利であるが、同時に拒否する権利も持っている。

 

・ 決闘のルールは挑戦を受けた側が決定し、これに挑戦した側は異議申し立てできず、拒否した場合敗北となる。

 

・ 格下からの【学生決闘(メンズーア)】の申し立てを格上は拒否できない。逆に言えば格上から格下への【学生決闘(メンズーア)】の申し立ては拒否することができる。

 

 上記が【学生決闘(メンズーア)】の基本ルールである。

 

 とはいえ、何事にも例外というものは存在するもので。

 

「なんでだよ! なんでこの決闘の拒否ができねぇんだ! コイツ、Bランク倶楽部のレギュラーだろ! うちらはCランク倶楽部だぞ!?」

 

「確かに君のいう通りBランク倶楽部メンバーからCランク倶楽部への【学生決闘(メンズーア)】の申し出の為、その他の条件を勘案しても本来であれば拒否することが可能と言える。しかし今回は非常にレアなケースだが、君たちの倶楽部である【家畜小屋(ペットショップ)】のメンバー4人が、つい先ほど完全な私闘を彼、一平とそのパートナー4人に対してしかけたと学園治安部隊から我々【決闘委員会】への()()があった。この事実を鑑みて我々【決闘委員会】はペナルティとしてBランク倶楽部【三刀流(さんとうりゅう)】メンバーの彼からの君たちCランク倶楽部【家畜小屋(ペットショップ)】に対する【学生決闘(メンズーア)】の申し立てを受理する。……それとも何かね? パートナーたち含め真っ裸のところに上級生数人がかりで襲われるというクソのような喧嘩の売られ方をした一年生が至極正当な権利を行使してたった一人で君たち上級生7人に決闘を挑むという勇気ある行動に水を差せと?」

 

「ぐっ……、条件は俺たちが決めていいんだよな?」

 

「それは君たちに許された正当な権利だとも。ルールの範囲であれば好きにするといい」

 

 その白い頭巾を被っていても分かる決闘委員会の()()()()()()()()()()の言葉に、闘技場全てに響くほど大きな舌打ちをうった【家畜小屋(ペットショップ)】部長であるサトシは内心下手を打った手下どもにいくら罵詈雑言を浴びせボコボコにしても飽き足りない気持ちだった。入学して丸2年と3ヶ月、強いやつに媚び諂い好きなようにされながら苦労の果てにようやく第三段階職まで辿り着きようやく自分が好きなようにする側に立った途端になぜこんなことになる?

 

 しかも本来であれば入学してまだ3ヶ月ほどの新入生が、三年、しかも第三段階職が3人も所属するCランク倶楽部に、こちらが勝ったら最大100億銭という訳のわからない条件で喧嘩を売ってくるなんて黄金のカモがダイヤモンドのネギを背負って来るようなものと笑い転げながら二つ返事で受けてやるのだが、そんな余裕は今のサトシにはカケラもなかった。

 

 それほど自分の目の前に立っている一年はやばすぎる。

 

 改めてチラリと相手のクソガキの姿を見ると、この前の自分たちがCランク倶楽部になった同じ対抗戦で最大の話題を掻っ攫った新入生を中心とした新進気鋭のBランク倶楽部【三刀流(さんとうりゅう)】のレギュラーメンバー、その一人が見たこともないほど強力そうな装備に全身を包んでそこに立っていた。

 

(なんだよ、あの嫌になるほど硬そうな碧い鎧。なんだよ、あの十字架みたいな形のえげつない盾。なんなんだよ! あの燃えさかる炎がそのまま剣の形になったみたいな真っ赤な剣は!) 

 

 サトシは忌々しさと羨ましさに気が狂いそうになりながらその姿を睨みつけた。

 

 公式情報を調べてみたところ、名前は一平、クラスは第二段階の【騎士(ナイト)】という答えが返ってきたがそんなものなんの気休めにもなりはしない。こちらからの条件として7対1のバリトゥード(なんでもあり)ルールこそ通させたが、それを聞いて余裕だとタカを括って笑う第二段階止まりの手下どもの何と見る目のないことか! 曲がりなりにもこの学園で二年以上生き抜いてきた経験と昔ダンジョンで運よく手に入れた魔眼【鑑定人の眼(アイオブアブレイザー)】に映る、虫食いだらけの情報が目の前の新入生が自分よりも明らかな格上だということを雄弁に示している。

 

 ……つまり装備を抜いても新入生にも関わらず奴も既に自分と同じ第三段階だということである。一体どんなチートを使えばたった三ヶ月で俺たちの二年三ヶ月に追いつき、追い抜けるっていうんだよ! とサトシは信じてもいない神や仏に恨み言を言いたくなった。

 

 それにあの勝てば最大100億という条件も恐ろしかった。このところ学園内で札付きの連中が次々と姿を消しているのをサトシは知っていた。()()()()()()()新入生らしき男に勝てば破格の条件、それこそ今の最大100億のような条件での【学生決闘(メンズーア)】をふっかけられ、代わりに、金、アイテム、手持ち以外の装備、そして女も全て何もかもを奪われる事件が多発していたのだ。そして自分達に突きつけられた条件もまるで同じもの。自分達の今身につけている装備以外の全ての資産を決闘委員会の連中にざっと金額に換算され、勝利した場合報酬として20億銭手に入ることになったのだが、もはやそんなものに喜べる精神状態ではない。

 

 手口から間違いなくコイツの仲間。おそらく【三刀流(さんとうりゅう)】のメンバーに例の謎の男がいるのだろう。だから仮にここを切り抜けてもこの先無事でいられる保証はどこにもない。しかしまずここを切り抜けなければこの先も何もない事実がサトシを打ちのめす。

 

「……おい、サトシ。やべえだろ、これ」

 

 副部長の一人、自分と同じ盗賊系第三段階職【追跡者(ストーカー)】の(ゴウ)が顔を青くしながら小声で話しかけてきた。返す言葉が思わず震える。

 

「……マジでヤベェ。あのガキ、ほとんど『何も見えねぇ』んだよ。クソがぁ! 正一(しょういち)の奴、ヘタ打ちやがって! 何でよりにもよって最悪の相手を狙ったんだよ!」

 

 この場にいないもう一人の副部長である戦士系第三段階職【戦闘士(グラディエーター)】正一が引き起こしたこの事態だが、それはこの場の二人に責任がないことを意味しない。そもそもにおいて【家畜小屋(ペットショップ)】という倶楽部名が示すように、彼らは主に夏休みを前にしてぼちぼち出だしている新入生の第一段階職クラスチェンジャーの女子、その中でもダンジョン攻略に必要な【職人(クラフター)】や【文官(オフィサー)】、他にもセックスの時に具合の良い【遊び人(ニート)】などの特に有望な女子を自分や手下で二年の【鑑定人(アブレイザー)】のスキルで目をつけて攫い自分達に無理やり隷属させた後、自分達が使う時以外にはダンジョン攻略に必要不可欠なのにおざなりにされがちなクラスの女子を、他の倶楽部にレンタルすることで恩を売り、コネを作ることでのしあがって行こうと作った倶楽部だ。その過程でパートナーを奪われた1年生側が今のように【学生決闘(メンズーア)】を挑んできたこともあったが、全て返り討ちにして嘲笑ってきたのが彼らだ。

 

 今回の一平たちの件もそうだ。今回の件の切欠そのものが学園内を物色中だった正一たちがたまたま見かけた四人もパートナーを連れ回す生意気な一年の女の中に【文官(オフィサー)】を見つけたことから始まっている。

 

 そしてその原因となった倶楽部のコンセプトそのものが盗賊系第三段階職【無法者(アウトロー)】でありながら、対象のレベルや職業を看破可能な【鑑定人の眼(アイオブアブレイザー)】を持つ彼の発案であり、既に結成からのこの2ヶ月ほどの間、ダンジョンの内外で暗躍し倶楽部メンバーに登録している以外にもかなりの数の女子を無理やりかき集めているため今回のことは正しく因果応報なのだが、それを顧みるような彼ではなかった。

 

 サトシは絞り出すように豪へと告げる。

 

「……豪、他の5人は何の役にも立たないと思え。ただの弾除けにしかならねぇ。だから目眩し代わりに最初全員に突っ込ませてその瞬間に俺とお前で()()を使ってできた隙を全力でつく。俺は右、お前は左。これしかねぇ」

 

 決意した顔で頷く豪と共に配置につく。開始の掛け声と同時に手下共が歓声を上げて突っ込む。そして最初の一撃が盾に弾かれたその瞬間! 自身の奥の手である魔剣【黒煙(ブラックスモーク)】による視界殺しを発動。さらにスキルによって位置を捕捉したまま2人同時に瞬間移動に等しい動きで自分が右、豪が左とそれぞれ一平の斜め後ろに回り込んだ上で持てる全ての攻撃スキルを発動させ完璧な奇襲を決めようとしたその瞬間、

 

 ━━炎よ。

 

 という声とともに剣から伸びた真っ赤な炎に黒い煙ごと全員まとめて真一文字に切り裂かれた。

 

 サトシは腹部にまず異常な熱を感じ、上半身と下半身が泣き別れになったことを知覚し、そして意識を失うまでのほんの僅かな時間に、そんな馬鹿な! こんな理不尽なこと許されていいのかよ! とこの世のありとあらゆる全てのものに対する文句を思い連ねたが、ついぞ自分が始めた行動のツケが自分に回ってきただけだということには気づかないまま、自分が今まで嘲笑ってきた者と同じように弱者として強者に蹂躙されて終わった。

 

 

●ーーーーーーーーーー●

 

 

 その光景の全てを物陰に隠れて見ていた10人ほどの男女の姿があった。

 

「まぁ、当然の結果だね」と左目を閉じたまま笑う白い髪の鍛治師。

「うわ、えぐいね」とは幼さすら感じさせる美少年文官。

 

 余裕げだったこの2人に対し、深刻そうに真顔で一平を見つめているのは3人の男。

 

「……やばい。レベル差無しなら相性最悪で正面からのガチンコじゃまず勝てない」

 

 と一平も所属する倶楽部の部長を務める【暗殺剣士(アサシンブレイド)】。強い水と風の属性を纏う一平の鎧と彼が振るう愛刀の熱の刃は相性が最悪であり、遠距離からの居合の一撃ではその威力はその身に纏う霞によって減衰されほとんどダメージにならないだろし、かといって正面からの近接戦闘だとこちらの攻撃はほとんど防がれるのにカウンターでくる相手の一撃が重過ぎて話にならないだろうと、今も高速で攻略方法を考えつつ忙しげに刀の柄頭を撫でている。

 

「……距離を取ってまともに戦わずにひたすらガス欠を待つしかねーな」

 

 と現実的な攻略法を口に出したのは倶楽部の副部長を務める【御庭番】の苦労人。無数の分身を駆使した同時包囲攻撃を得意戦術の一つとする彼にとって先ほど全てもろともに炎で薙ぎ払われた敵の姿は人ごととは思えなかった。

 

「うむ、俺もおそらく無理だな! ただでさえあの一平相手に全力を尽くしても一発や二発で倒し切れるわけがない! そしてあの盾で攻撃を受け止めたり弾き返されたりするだけで反撃としてくるのがあの炎の一撃! 俺の今の防御では耐えれて数発だろう。うむ、どう考えても無理だな!」

 

 と快活な口調で情けなく諦めを口にしたのは倶楽部のもう1人の副部長で【恐竜闘士(ディノウォーリア)】のやや老け顔でマッチョな男。口では勝てないなどと殊勝なことを言いながら視線は一平の姿に固定されたまま、どうにか一矢報いる方法はないかと思案を続けている。

 

 そしてその場にいた最後の1人である目端の効きそうな小男はただただ呆れていた。

 

「なんやアレ。どんだけ強力な武器やねん。あれ一つあるだけでもうアイツら第弐十階層までいくとか絶対楽勝やん。達郎はん、ちょっとやりすぎやないか?」

 

 ニヤリと笑う達郎は笑いながら表情を固定して言うが目は盛大に泳いでいた。

 

「アハハハ、虎次の言う通りなんだよなぁ……。ちょっとテンションが上がってやりすぎた」

「やっぱりか! 自重せえや、このボケェ!」

「アハハハハ……。ごめん。ただまぁ、ダンジョン攻略においては強すぎることはそんなに問題にならないと思うよ」

 

「どう言うこと?」

「なんでや?」

 

と短く尋ねた2人に対して達郎は装備の解説を始める。

 

「炎の剣、霞の鎧、力の盾。どれも強力な装備なんだけどフルパワーを引き出して長時間戦うには今の一平くんではまだまだレベルが足りてないんだよね。特に【覚醒(アギト)】時の炎の剣のSPの消費量は割と洒落にならないし、剣自身もまだ完全には一平くんを認めてないからね。【完全装甲(フルアーマー)】状態の一平くんが真価を発揮するのはまだまだ先の話かなぁ」

 

 としたり顔の達郎。

 

 それを聞いた虎次は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「なんでそない本人が扱いきれんもん作ってんねん! おのれはアホかぁ!」

 

 とぐうの音も出ない正論を言う虎次に言われた方の達郎は容赦のない切れ味鋭いツッコミを受けて満足げにした後、開き直って言った。

 

「だって仕方なくない? 俺がどういう口実で一平くんをフルアーマー化しようか悩んでる最中に次々にそれの最高の素体となる剣とか防具持ってくるんだよ? これは運命が俺に三種の神器再現せよって言ってるとしか思えないじゃん?」

「100万%おのれの趣味やないか! 開き直んなぁ! この腐れガノタ脳がぁ!」

 

 逆に普通に使う分には全く問題ないから! それだけでも今までの装備よりも10倍くらい強いから! と頭の痛い言い訳をする達郎に掴みかかりそのまま襟元を締め上げ前後にゆする虎次に、まるで自重することを知らない鍛治&ガンダム馬鹿への説教を任せた純はその場で泣き崩れている女の子たちに優しく声をかけた。

 

「とまぁ、一平くんはこのようにちゃんと無事に君たちのところに帰ってくるから安心して今から出迎えてあげて」

 

「ありがとう、純くん……。みんなもありがとう。本当にいっくんが無事でよかったぁ……」

「ありがとうございます、ありがとうございます……」

「良かったよぉ……、いっぺーさまが無事でほんと良かったよぉ……」

「一平さまが死んじゃうかと、死んじゃうかと思いました。良かったぁよかったぁ……」

 

 そのまま彼女たちをなんとか立たせようとした純だったが、誰がどう見ても今日あの場で攫われかけた自分達のために死地に飛び込んだ自分達の男の無事に安心して腰を抜かしてしまったらしい彼女たちの様子に頭をかきながら諦め、おそらく初めてであろう【学内決闘(メンズーア)】の後のあれこれに戸惑いまくっている一平の元に向かい自分の役割を全うしにいくことにした。

 

 ━━【外装詐称(ディスガイズ)】。

 

 念の為、手を一振りして己のクラスである【詐欺師(シンドラー)】のスキルで姿を普段の自分とは似ても似つかぬ架空の小男に変えた純は、小気味の良い関西弁に未だ叱られ続けている達郎と涙を流す乙女たちに小さく手を振ってから闘技場の舞台へと向かい歩いていく。

 

 しばらくしてそれら全てを見届けたかのんが意を結したように顔を上げて言った。

 

「達郎さん、お願いがあるんですけど」

 

 その瞳には強い乙女の決心が満ち満ちていた。




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敵データ

サトシ LV 62 盗Ⅲ【無法者】 倶楽部【家畜小屋】部長

豪   LV 61 盗Ⅲ【追跡者】 倶楽部【家畜小屋】副部長

正一  LV 60 戦Ⅲ【戦闘士】 倶楽部【家畜小屋】副部長
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