ゆるキャン△ 少女達の秘め事 作:斉藤プロダクション
「……」
「……」
図書室の一角で、体育館裏で出会った二人は向き合っていた。
「……見た?」
「……見た」
「……そっか」
「……うん」
端的に言って地獄であった。
普段は打てば響くような軽口を叩きあっていた二人だが、この時ばかりは口から言葉が出てこない。
「ふぅ……やっぱり何も計画せず学校でするのは迂闊だったかな」
「……その、実は前にもホテルから斉藤が出てくるのを見てたんだ」
「え!?そうだったの!?」
「うん……。その事について聞きたかったんだけど、なかなかタイミングがつかめなくて……」
「そうだったんだ」
「……幻滅した?」
「そ、そんなこと……」
「でもリンってそういうのあんまり好きじゃないでしょ」
「……///」
「リン?」
「な、なんでもない……///」
そういうことという言葉から、色々なことを想像してしまったリンは思わず顔を赤らめる。
恥ずかしがる親友の様子を見て、今までのような関係は続けられないと思った恵那は、悲しさと寂しさを織り交ぜたような表情のまま座っていた。
「……ねぇ、リン」
「?」
「もう私と関わりたくないって思ったら、そう言ってね」
「……急に何言い出すんだよ」
「だって……」
「斉藤。私はただ、斉藤が危ない事に巻き込まれてるんじゃないかって心配してただけ。それが急に関わらないって話になったら意味わかんないよ」
「……」
「それぞれ好きな事は違うし、斉藤が好きでそれをしてるなら私がどうこうする理由なんて無い。私だってマイノリティな冬のソロキャンを好んでやってる身だし、人の事言えないよ。それにーー」
「そんなことで親友辞めるほど薄情な奴だと思われてた事に怒ってる」
「リン……」
真剣な顔で自分を見据えてくる親友に、恵那は自分の口から本心では無い言葉が出てしまっていたことに気付かされた。
「……私も、もっとリンと仲良くお喋りしたい」
「ならそうすればいいじゃん」
「もっとキャンプの話したり、一緒にちくわと遊びたい」
「いつでも歓迎だよ」
「……ありがとう、リン」
弱々しい笑顔を浮かべる恵那に、別にそんな顔をして欲しかった訳では無いとリンは居心地が悪くなる。
普段あまり多くは語らない彼女だが、そんな恵那を放っておくことは出来ず、慣れない冗談を必死に考えた。
「……別に、私だって、その、興味が無い訳じゃないし///」
「……お?」
だがしかし、その言葉は恵那の悪戯心をくすぐる絶好の餌になってしまった。
「小説を読んでれば、そういった描写は無いわけじゃないし///」
「ほうほう」
「……な、なんだよ///」
「ん?続けて続けて?」
「……斉藤がホテルから出てきた時、どんなことしてたのかなって、ずっと気になって頭がぐるぐるしてたし///」
「ふ〜ん、そうだったんだ」
「今までそういう事が書かれた本は、その、ちょっと恥ずかしくてあんまり読んでなかったけど……たまに頭の中がそれでいっぱいにーーって何言わせんだよ!///」
語るに落ちるとはこの事か。聞いていない事までペラペラと口にするリンの様子を、恵那は笑いを堪えながら眺めていた。
「ごめんごめん、リンが可愛いからつい、ね?」
「……///」
「ねぇ、リンって好きな人いる?」
「い、居ないよ!」
「別に男の人じゃなくても良いんだよ?」
「そ、そんなの///」
「なでしこちゃんとか仲良いしね、天真爛漫でガードが緩いからドキッとすることも有るんじゃない?♡」
「なっ///」
「あおいちゃんとかもおっぱい大きいし、大垣さんも初心っぽくて可愛いじゃん」
「……そんなこと考えた事もないし///」
「もしかして……私とか?♡」
「っ!///おい、ちょっといい加減にしろよ///」
「あははは、ごめんごめん冗談だって♪」
「うぅ……///」
励ますつもりで話していたのに、いつの間にか弄られる側に回ってしまったリン。次々と名前を挙げられると、想像力豊かなリンは思わずその様子を思い浮かべてしまう。
「話を戻すけどさ……まぁリンの予想通り、私は男の人と会ってお金を貰うアルバイトをしてる」
「……うん」
「私はこのアルバイトが好きだし、辞めるつもりもない。それでもまだ友達を続けてるくれるなら、私は嬉しいな」
「さっきも言っただろ。そんな事で友達やめたりしないよ」
「……ありがとう、リン」
友達を失うこと無く、自分の趣味を理解して貰えた恵那は、胸を撫で下ろしながらリンと笑顔を向け合うのだった。
◇
「ただいま〜」
「あら、リン。今日は遅かったわね」
「うん。ちょっとね」
いつもより少し遅れて帰宅したリンは、玄関を抜けて自室にそのまま直行する。
「……ふぅ。今日は色々あったな」
ベッドの上に横たわりながら、頭の中を整理する。今まで知らなかった親友の一面を知り、見たこともない悲しげな顔も見てしまった。
「女の子同士でって……///」
そして思い出されるのはその中でも言及された事柄について。別に男の人じゃなくてもいいんだよ?という一言。
今まで落ち着いた父親や、頼りになるおじいちゃんくらいしか身近な異性が居なかったリンは、同級生の男子はどこか幼稚に思えてしまい魅力的に感じることは無かったのだ。
そこに急遽された同性という選択肢は、今まで無かった自分の考え方に無限の可能性を提示してきた。
(確かにみんな可愛いけど……本当にそんなこと考えた事も無かった。……でも改めて考えてみたら、なでしこは結構距離が近いし、たまに柔らかいのが身体に当たったりしてた、かも///犬山さんと大垣は、まだあんまり話してないから分からないけど……たしかにあのおっぱいは大きい///)
もしかして……私とか?♡
(っ!///いや無い無い無い無い!///斉藤はただの友達だし…………でも、ちょっとあの時の顔……えろかったな///)
ぶんぶんと頭を振り、邪念を振り払う。斉藤はただの友達、斉藤はただの友達と何度も念じて冷静を保とうとするも、火照った顔から熱を逃がすことは出来ない。
ブーッブーッ
「っ!……?」
そんな彼女の思考を遮ったのは、ポケットに入っていたスマホのバイブ音だった。
[こんにちは]
[桜さん、こんにちは]
[こないだ言っていた原付の旅のDVDを貸すって約束、今度の土曜日ちょうど暇になったから一緒に見ない?]
[土曜日ですか、私もその日なら空いてます]
[良かった。それじゃあ西日本編と東日本編両方見ましょ]
[そ、それって合わせて何時間あるんですか……?]
[たったの10時間よ。私の下宿先なら夜更かししても大丈夫だから、また連絡するわ]
[了解です]
「10時間をたったのって……すごいな桜さん」
原付の旅とは北海道発祥のニッチなテレビ番組、その中の企画の一つである。ローカル番組ながら熱狂的なファンが全国各地に生息しており、ここ山梨にもしっかりと存在していた。
そんな番組のライトなファンであったリンは、ガチファンである桜に目をつけられてから(失礼)事ある毎に同時視聴を迫られていたのだ。
「……桜さん、か」
予定がすんなり決まったことで、先程まで考えていた内容に思考が戻る。
妹であるなでしことは似ても似つかない、まさに大人の女性といった妖艶さを持つ桜。アンニュイな雰囲気を醸し出しながら、ふと見せる優しい態度や冗談を言う姿も美しい。
「っ!///な、何考えてんだ私は///」
ゴンッ
そんな桜に迫られる状況を想像したリンは、壁に頭を打ち付けて今度こそ思考を停止させた。
「ちょっとリン?大きな落としたけど大丈夫?」
「だ、大丈夫。壁で頭打っただけだから」
「それ本当に大丈夫なの!?」
音を聞き付けて部屋にやってきた母親に無理やりな言い訳をして何とか切り抜ける。
親友からの言葉でここまでかき乱されると思っていなかったリンは、うるさい心臓の鼓動から逃れるように1階へと降りていった。