※この作品はR-18です。

ちょっと風紀のゆるいアナグラ   作:弦弾

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15:2071-4

 サクヤは暗い自室のベッドで一人、うずくまっていた。現場指揮官である雨宮ツバキに体調不良を見咎められ、強制的に休暇を与えられ自室で休養しようと寝転がった。

 

 しかし頭の中では、今も見つからず痕跡さえも発見されないまま捜索を打ち切られた最愛の恋人のことだけが浮かび、焦燥に駆られてしまう。

 

 いっそ一人でも今すぐ飛び出して探しに行きたかった。しかし、神機はメンテナンスの名目で抑えられ、物資もない。そもそもとして体調不良は事実でろくに眠れておらず、歩くことさえおぼつかなかった。休みたい身体と飛び出したい心のせめぎ合いに、サクヤは一歩も動けずにいた。

 

 部屋は荒れ放題であり、衣類もゴミも散乱している。普段の彼女ではありえない光景だった。いつ恋人が訪れてもいいようにと整えられていた姿は、見る影もない。サクヤは隈だらけの落ちくぼんだ眼で無理やり眠ろうと試み、それでもやはり寝付けずにいた。

 

 なぜ、という言葉が繰り返し頭に浮かぶ。

 なぜリンドウは見つからないのか。

 なぜ捜索が早期に終わってしまったのか。

 なぜこんなことになってしまったのか。

 

 そして、

 自分はなぜリンドウを置いていったのか。

 最愛の人を一人置き去りにしてしまったのか。

 

 頭では分かっている。助かる見込みのあった自分を置いていくことは、仲間にはできなかった。

 

 それでも、もう会えないと知っていたら。

 リンドウが帰ってこないと知っていたら。

 

 自分は死ぬまであの場に残っていただろう。リンドウと共に。

 最後まで、そばにいたかった、のに……。

 

「──サクヤ?」

 

 扉の開く音がした。聞き覚えのある、久しく聞いていない男性の声。恋人以外でもっとも親しいと言える異性。

 

「──ホムラ」 

 

 ツゥ、とサクヤの頬を一筋の涙がほころぶように流れた。

 

「あーあ、ひどい顔しちゃって。せっかくの美人が台無しだ」

 

 その言葉を聞いた瞬間サクヤは起き上がり、ホムラにしな垂れかかるように抱き着いた。筋肉質な雄の長身が、華奢なサクヤからは想像もできない強い力によって締め上げられる。

 

「どうしよう、ホムラ!リンドウが……!リンドウが……!」

「……うん、知ってる。大変なときに力になってあげられなくてごめん。それでも、サクヤが無事で良かったよ」

「よくない、よくないよぉ……!リンドウがいなきゃ…………!」

 

 ホムラの手は優しくサクヤの背を撫でる。温かな手が伝える労りの心に、張りつめていたサクヤの体はゆっくりと弛緩していった。

 

「このままリンドウが帰ってこなかったらどうしよう。ずっと、ずっと一緒だったのに…………私を置いていかないで!死ぬならいっそ私も一緒に死なせて!」

「……………………サクヤ」

「………………私を一人にしないでよ、リンドウ」

「…………サクヤ」

 

「ねえ、ホムラ──いっそ、私をめちゃくちゃにして。リンドウのことなんて考えられなくなるくらい、めちゃくちゃに抱いて?」

 

 きっとホムラは抱くだろう、そんな確信があった。ホムラが女性の誘いを断ったところを見たことはない。

 恋人以外に許したことの無い体をさらけ出すことに罪悪感は感じたが、それでもよかった。この不安とストレスから解放されるなら、どんなことだって──。

 

 ──しかし、ホムラは。

 

「──リンドウは生きてるよ。アイツが死ぬわけないじゃん」

「…………え?」

「そもそも、サクヤ。君、ちょっと臭いよ。何日その格好で居たわけ?部屋も汚いし、流石にここで抱くのはちょっと…………」

「…………え」

「というわけでさっさと風呂入ってきな。その間に僕はちょっとでもこの部屋を片付けてみるから……それとも、自分では入れないから洗ってほしいって?」

 

 そんな言葉ですげなくあしらわれ、促されるままに浴室へと向かった。

 

 断られるとは思っていなかった。

 好色として有名なホムラにあんなに雑に拒否されるとは。

 

 頭が真っ白になったサクヤは、空っぽの頭のまま湯船に浸かり、全身を洗い流した。ぼーっと体に巡る熱を感じていると、少しずつ理性と恥じらいが戻ってくるのを感じて、サクヤは手で顔を覆った。いったい自分は何をしでかしたというのか。ホムラがその気だったら、サクヤは一時の気の迷いで体を差し出すところだった。そんなことになったらリンドウに顔向けができない。サクヤは自らの行為の危うさを反省し、ホムラの冷静さと理性に感謝した。

 

 一人反省会も兼ねて長い入浴を済ませたころには、ホムラの姿は部屋から消えていた。大量にあったゴミは捨てられ、積もったほこりは掃除され、衣服は洗濯の真っ最中だった。友達とはいえ、家族でも恋人でもない異性にそこまでさせてしまったことに強い恥じらいを覚えたサクヤの目に、ベッド傍のテーブルに置かれたラップの掛けられた皿とメモ書きが映った。

 

『親友の彼女を抱く趣味はないのであしからず。こういうときは美味しいものを食べて”ビール”でも飲むといいよ。──ホムラ』

 

 皿の中身は、出来立てらしいパスタ。一人暮らしの男性っぽいメニューだ、と少しだけ顔がほころんだ。

 サクヤは酒が得意ではない。配給のビールはいつもリンドウに渡していた。それでも、こんなときだからこそ、とアドバイス通り冷蔵庫からビールを取り出す。

 

 その底から、メダル状の金属がカラコロと外れて落ちた。

 

「何これ……」

 

 床に転がったそれを拾いながら、サクヤの脳裏にリンドウの言葉が閃光のように蘇った。

 

『配給ビール、とっておいてくれよ』

 

 これまでの塵積もった『違和感』が、明確に『異常』に変わった瞬間だった。

 

 

(メダルはデータの入ったディスク、でもリンドウの腕輪認証が必要……。知られたくない何かがあった?浮気、はないだろうし。……そもそもあの日はイレギュラーが不自然なまでに多かった。あるはずのない同一区画2チーム、いえ、そもそもあの日のミッション自体がおかしかった……履歴を検索、…………存在しない?そんな…………もしや、消された?)

 

 2チームとも、あの日の異常なミッション履歴が消されている。

 

 それはつまり──、と嫌な考えに至ったその瞬間、扉が開く。

 緊張に身を強張らせ勢いよく振り返ると、そこには、

 

「なんだ君か……どうかしたの?」

 

 後輩である新型神機使い、霊代アキ。鍵は──ホムラが開けっ放しで帰ったとか。ありえる。料理とか掃除はさらっとこなすのに、変なところで気が利かないなぁ。

 

 そんな風にホムラを評しながら、サクヤは笑顔を作ってアキを出迎えた。

 

「……そう、アリサにそんな事情が……。教えてくれてありがとう。……大丈夫よ、私もアリサが何かしたなんてはじめから疑ってないわ。それにしても、触れるだけで通じ合える能力なんて、新型だからなのかしら」

 

 アキは、記憶の断片の中で耳にした銃声についてサクヤに話した。

 

「そんなことが……?あのヴァジュラの新種の群れの中で、私たちにもアラガミにも察知されずに天井を撃ち抜くなんて、アサルト型のアリサには無理よね。それこそスナイパーでも……いえ、そんなはずは……」

 

 アラガミに囲まれたあの状況で、銃声を聞かれず、アラガミにも察知されずに天井を撃ち抜く。そんな荒業など、それこそスナイパーの狙撃型くらいしかできない芸当のはず。狙撃型……その言葉に、ついさっき現れては消えた狙撃型神機使いの頂点に位置する青年を自然と思い浮かべてしまう。だが、そんなはずはない。彼は現場に出ることができない誓約を結ばされている。そもそも侵食率を考えれば現場に出ることすら危ぶまれる状況のはずだ。だからそんなはずはない。

 

 いずれにせよ。

 狙撃型の神機使いを用意でき、ミッション内容を改ざんし、さらにはミッション履歴を消せる権力。そういった手段を持つ相手がリンドウを襲った陰謀の裏にいるはずだ。

 

「今日はありがとう。でも、あなたはアリサのそばにいてあげて。私はもう大丈夫だから」

 

 サクヤはいつものように余裕を感じさせるような柔らかい笑みを見せた。

 紅茶を飲み干したアキは、安心したように去っていった。

 

(もし、巨大な陰謀があるのだとしたら。……あの子たちを巻き込むわけにはいかないわ)

 

 その背中を見送ったサクヤは一人、悲愴な覚悟を固めていた。

 

 

「……本日付で原隊復帰になりました。また、よろしくお願いします」 

 

 数日後、アリサは心身ともに健康になって退院し、フェンリルからの尋問を受けたのちに無実であるとして解放された。

 

 コウタとアキに頭を下げるも、その表情は以前と打って変わって暗い。

 コウタはまるでなにもなかったような顔をして言葉を掛けた。

 

「実戦にはいつから復帰なの?」

「まだ決まってません」

「そうなんだ……」

 

 気まずい会話を交わす二人の耳に、遠くから嘲るような声が聞こえてきた。

 

「おいおい聞いたか、例の新型の片割れ……やっと復帰したらしいぜ」

「ああ、リンドウさんを新種のヴァジュラと一緒に閉じ込めて見殺しにしたメスガキだろ」

「ところがあんなに、威張り散らしてた癖に結局戦えなくなったんだってさ。これはプレイルーム落ちじゃね?楽しみだわー!」

「はははっ!結局口ばっかりじゃねえか!これだからメスガキは大人しくチンポでも咥えてろってんだ」

 

 アリサが顔を落とし、暗い影が差した。

 

「……あなたも、笑えばいいじゃないですか……」

「俺達は笑ったりしないよ……」 

 

 コウタのその言葉に、アリサは驚いたように顔を上げ、息を呑んだ。

 

「あー、ええと……、……それより、リンドウさんがやられた新種のヴァジュラ……欧州支部からも目撃報告があったみたいだね、ロシアとか。ここにきて新種との遭遇例が増えてきてるのは、何かの兆しかもしれないねー、なんて……」

 

 気まずい空気にどんどん早口になっていくコウタ。

 その目が縋るようにアキの方を向く。

 

「スマン、後は頼んだ……」

 

 合掌を一つ。フォローを諦め早々とコウタは立ち去った。

 あまりの早業に混乱していたアキに、今度はアリサが真っ直ぐに姿勢を正し真摯な態度で向き直った。

 

「お願いがあるんです……。あの……その……私に……もう一度ちゃんと戦い方を教えてくれませんか!今度こそ過ちを繰り返さないように、……憧れに胸を張れるようになりたいんです」

 

 自分に何ができるかはわからない。それでも、少しでも力になってあげたい。

 アキは深く強く頷きを返した。

 

 

 それから数日、アキはアリサと2人でミッションをこなした。

 

 当初、アリサは以前の失態が頭を過ったのか動きが固く、判断にも自信がない状態だった。近接を封印し遠距離に徹して援護を行う。それは以前の勇猛な姿が見る影もない、臆病で消極的な動きだ。しかしその目はアキの動きを注意深く観察していた。

 

 アリサの思考にはある変化が生じていた。

 

 それまでのアリサにはなかったもの、それはアキの記憶である。入隊3か月ですでに一流に迫る動きを見せるアキ。それは孤児として外部居住区の路地裏に生活することで培われた、危険を察知する嗅覚であったり、生きるためにアラガミが闊歩する街中を身一つで散策して資材を回収して生きてきた経験が大きい。それは豪華な屋敷で生まれ育ったアリサには想像もしなかった世界であり、能力だった。

 

 そんなアキの人生を疑似的に追体験することで、能力の片鱗を獲得していたのだ。

 そしてアキがゴッドイーターとなって最初に刻まれたリンドウの薫陶、4つの至上命令。それはアキを今なお強固に成長させ続ける核心的な戦略である。

 

 それらを吸収したことによってアリサの戦闘勘はこれまでにないほど研ぎ澄まされた。なにより生きた手本が目の前で動くことによって、それを反映してアリサの動作からは無駄が削ぎ落され洗練されていった。

 

 何より、感応現象によって互いの人生を共有した彼女たちは双子以上に相手を見知っている。どういった時にどう動くか、行動原理すら把握してしまっている。このことが2人の連携を限りなく練度の高いものに昇華していった。

 

 それによってかつてのアリサ以上の実力を得た頃、コウタの提案でアリサは第一部隊員として復帰、そこで一流ゴッドイーターの登竜門となったヴァジュラを難なく屠ったのである。

 

 言葉通り、周囲の悪評を結果で黙らせることに成功したアリサは、この日を境に周りから信頼される立派なゴッドイーターへの成長を始めた。

 

 

「サクヤさん、私にも手伝わせてくれませんか。……せめて……何か一つ罪滅ぼしが……」

「ううん……あなたにこれ以上償ってもらうことなんかない。ミスなんて誰にでもあることだもの。それに、考えれば考えるほどあの日のミッションはおかしいわ。あのミッションの異常といい、あなたの入院後に第一部隊が誰も漏らしていないのに妙に詳細な情報が噂で広まったことといい、なにか大きなことが裏で起きているはず。あなたもリンドウも、それに巻き込まれたと考える方が自然よ。今回の件にはきっと何か裏がある」

 

「でも、そうね……あなた自身にも関わることだものね……。実はねリンドウの置手紙が開けられなくて困ってるの……これが最後の手がかり。でも、この手紙を読むためには、リンドウの腕輪が必要みたいなの。一緒に探してくれる?」

 

 

 

「本日、執行部から正式な辞令が降りた。今回の任務の完了をもって貴官をフェンリル極東支部保守局第一部隊の隊長に任命する」

 

 アリサの復帰からほどなくしてアキは昇進した。

 

 一足飛びの昇進。サクヤ、ソーマといった隊長に相応しい実力と実績を持つ部隊員を通り越しての隊長就任、それも入隊3か月の新人にという異例の人事であったが、当の第一部隊員からの反発は一切無かった。アリサ、コウタは素直に祝福し、エリックとソーマは初対面での任務をからかいながらアキの成長を認め、サクヤは引っかかるものを感じながらも実力・人格といった面でアキへの信頼を示した。

 

 神機使いとしての実力は既に一流。第二のリンドウ……あるいは、その成長性から『極東の魔弾』の再来なのではないかと目されていた。人格面でも言うに及ばず。アキの温厚篤実な性格は周知のものであり、困ったときはアキを頼れというのが最近の神機使いの鉄則である。先頭に立って誰かを引っ張るような牽引力はないが、背中に常に温かな手を添えるような、縁の下の力持ちと呼べる種類のカリスマがアキにはあった。何より精神面でダウンしていたアリサを回復させ、それまで以上の実力を引き出した育成手腕において高く評価されることになった。あのアリサを見捨てることなく更生に成功した人格者、と。

 

 もちろん、反対意見もあった。 

 基本的に無口であり、コミュニケーション能力に難がある。ロビーで謎のダンスを踊りだすなど時折奇行が目立つ。実験的な神機パーツを唐突に任務直前に導入する。異彩を放つファッションセンス……などといった点でマイナス面もあった。

 

 しかしそれらを差し引いてもやはり優秀な人材である。

 

 アキの存在を極東支部の誰もがすでに認めていた。

 第二世代神機使い、つまり新世代のゴッドイーターの代表格として、フェンリル極東支部における精鋭たる討伐班のトップに相応しい人物である、と。

 

「期待通り、滞りなく任務を完遂してくれたようだね。まずは祝辞を述べさせてもらおう……リーダー就任おめでとう」 

 

 隊長就任試験とも言えるミッションを終えたアキは、満を持して隊長となり、その後支部長室へと呼び出された。ヨハネス・フォン・シックザール支部長と対面するのは入隊以来のことで、約3か月ぶりである。

 

「さて……ここに足を運んでもらったのは他でもない。リーダーの権限と義務、について触れておこうと思ってね」

 

 アキに与えられるのはリーダーとしての個室。入れ替わりの激しい新人区画のフロアではなく、落ち着きのある格調のベテラン区画の、かつてのリンドウの部屋を与えられた。

 

 加えて機密性の高い内部資料の閲覧権限。……知るべきでない裏側を知ることになりそうだ。

 

 居住空間のグレードアップと機密情報。

 その代償に課せられた義務は、リンドウが遂行していたという特務の遂行だった。

 

「……詳しい説明は彼の方からしてもらおう。入りたまえ」

「──やあ、初めまして新型神機使い。実は僕も君の適合試験を眺めていたりしたんだけど、わかるかな……え、わかるの?…………嬉しいからちょっとだけ便宜図っちゃおうかな!」

 

 どこか見覚えのある年若い男は、笹木ホムラと名乗った。

 それがアキと『極東の魔弾』の邂逅だった。

 

 

 支部長室を離れた二人は極東支部の屋上を訪れていた。

 

 アキは対面する男を観察する。 

 笹木ホムラ。身長は180センチほどで、ほどよく鍛えられ筋肉質であるが、どこにでもいそうな雰囲気の凡庸な顔立ちの青年。──そしてかつて世界最強のゴッドイーターとして一世を風靡した英雄。『極東の魔弾』。データベースによれば、年齢は18歳。アキの3つ上だが、実績や経験が醸し出すある種の雰囲気からは、実年齢以上のものに感じられるなにかがあった。

 

「君は煙草は吸う人?あ、吸わない?じゃあ僕もやめとこう。それにしても相変わらず辛気臭い部屋だったね、支部長室は」

 

 喫煙を相手に合わせるマナーはあるらしいが、どうにも答えづらい毒を満面の笑みで吐くあたり、いい性格をしているらしい。

 

「……さて、本題に入ろうか。支部長の言う特務、その内容について。一つは指定された強力なアラガミの討伐、ただし、第一部隊のメンバーを交えず単独で。通常の任務とは別に業務をしてってことだね。これは第一部隊としての本業よりも優先される、けどまあ第一部隊は優秀だからリーダーがいなくてもだいたいなんとかなる。リンドウもそうだったろ?」

 

 頷き辛いがその通りである。アキは首肯した。リンドウがいなくなる前も、いなくなったあとも、人員に欠けはあっても第一部隊そのものは問題なく業務をこなしていた。同様に、アキがいなくても部隊は回るだろう。これからは特務が最優先ということになるのか。

 

「特務は秘密裏に遂行される。君の戦歴に特務での戦績が加算されることはない。そして討伐したアラガミのコアはすべて支部長に徴収される。その分高額な報酬が支払われるけど、正直割にはあってない。しかし残念なことにこれは義務なので仕方ない」

 

 あまり嬉しくない話である。アキの趣味の一つは神機パーツの生産とテストである。強力なアラガミ素材からパーツを作れば、さぞ面白いものが出来るに違いないのに。

 

「全ての特務は支部長直属の第七部隊の管轄になる。つまり、君は今後第一部隊の隊長でありながら第七部隊の平隊員ということになる。第七部隊の隊長は僕、だけど現場には出れないので、隊員たちはそれぞれ個々に高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に適宜対処してもらう」

 

 やり方は任せるからアラガミをぶっころしてきてね、ということだろうか。

 

「そして一番大事なことだけど、第七部隊は活動中、この着ぐるみを身につけてもらう」

 

 ホムラがアキに箱を差し出す。

 その中にはパンク調のうさ耳ファンシーな着ぐるみが入っていた。

 

「第七部隊はゴースト部隊だからね、誰が特務を受けているのか外部に知られるわけにはいかないんだ。だから君はキグルミ部隊のキグルミ隊員としてつよつよアラガミを狩ってもらう。君のコードネームは『キグルミ5』だ!」

 

 冗談だろうか、とホムラを二度見した。

 たしかにアキはファッションセンスが壊滅的である。最近は上半身水縞のビキニに下半身フェンリル制服という半分露出狂みたいな恰好で任務に赴いているが、それでもさすがにキグルミを着て外に出た経験はない。そんな恰好でまともに動けるのかという思いもあった。とても正気の発想ではない。恐ろしいのは自分以外のキグルミがあと4人はいたという事実だった。

 

 アキが様子を伺ってみるも、笹木ホムラは平静な顔つきである。若干期待に目を輝かせている気もするが無表情である。……どうやら本気らしいと悟ったアキは……『キグルミ5』は、何かを失ったような心地で段ボール箱を受け取った。

 

「以上が特務と第七部隊の説明になる。…………本当はあと一つ業務説明があるけど、それは支部長から説明されそうな気もするし、追々でいい。特務が入ったらヒバリあたりから連絡が入ると思うから、その時は指示に従ってね」

 

 何か質問は?

 と問うホムラに、アキはなにも返せなかった。『極東の魔弾』の経験、アリサとの関わり、リンドウのこと……聞きたいことはたくさんあった。しかしアキはキグルミの衝撃に思考が持っていかれ、受け止めることに精一杯で質問をする余力はない。

 

「今の一瞬で全てを呑みこむなんて、流石は新型だ。僕だったらキグルミに突っ込まずにはいられなかったと思うよ。寡黙とは聞いていたけど、基本的な胆力が違うのかな、やるなぁ」

 

 どうやら、その沈黙もホムラには良いように取られてしまったらしい。

 …………自分が無口であることをうらめしく思ったのは、アキにとって初めての経験だった。

 

「これからよろしく、キグルミ5」

「…………ょろしくおねがいします」

 

 終始手玉に取られ、謎の敗北感を植え付けられたアキだった。

 




原作主人公に会えて内心凄くテンションの高いホムラ。

TIPS 『キグルミ戦隊クルマルンジャー』
おもにフェンリル極東支部周辺で目撃されている謎のゴッドイーター集団。その名称も目撃した人によって付けられたあだ名にすぎず、詳細は一切不明。歴戦のゴッドイーターでも苦戦するような強力なアラガミを狙って出没するという。その特徴的な神機から一部のゴッドイーターとの関連が噂されているが、フェンリルは回答を差し控えており────以降検閲済み。
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