※この作品はR-18です。

ちょっと風紀のゆるいアナグラ   作:弦弾

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17:2071-6

「先日、太平洋近海、エイジス島周辺に非常に特殊なアラガミのコア反応があった。高度な知性を有していると思われる。そのアラガミのコアを必ず無傷で摘出し、持ち帰ってもらいたい」

 

 支部長室に呼び出されたアキを待っていたのは最優先だという特務の発行だった。

 

 ……その特殊なアラガミにアキは見当がついていた。というのもその前日、シオが食事中に意味不明な言動をしたのちに失踪していたからだった。場所も一致しており、特務のターゲットは間違いなくシオその人に違いなかった。

 

 どう特務を失敗しようか、そう考えるアキ……『キグルミ5』が赴いた現地には既に、第七部隊員『キグルミ3』と『キグルミ4』の姿があった。これが自分以外のキグルミとの初遭遇である。捜索という内容もあり、第七部隊での連携を支部長が命令したことによるものだった。同じくキグルミを着せられた同士の存在にパントマイムで喜びを表現したアキだったが、対する先輩キグルミの一人、『キグルミ3』が自らの頭部に手をかけた。

 

 現れたのは金髪に褐色肌の青年──ソーマ・シックザールその人であった。

 

「俺が……『キグルミ3』だ。リーダー、芝居はもういい。話をしよう……だからお前もさっさとそのふざけたキグルミを脱げ」

 

 脱げ、と男に言われたのはアキの人生でも初の経験である。ドキドキする鼓動を感じながらうさ耳ヘッドを外すと、爽快な潮風が鼻腔をくすぐった。同時にキグルミ4の中からエリックが姿を現す。

 

「分かっているだろうが……支部長が探している特殊なコアを持ったアラガミ、ってのは、シオで間違いない」

 

 どうやらアキの見当は正解を引き当てたらしい。

 

「俺はずっとあのクソ親父の命令でそいつの探索を任されてきたんだ。だが、俺はシオを……あのヤロウに差し出すつもりはない」

 

 ソーマの瞳が剣呑な光を帯びる。

 そして初めて会った任務の日のようにアキに黒い鋸剣を突きつけてきた。

 

 アキは説明する。

 同じく、シオを支部長に渡すつもりはなかった。わたしはソーマ×シオ強火勢だ、と。

 

「……意味が分からん。……まったくもって意味が分からんが、シオを害する気がないならそれでいい」

「分かってるくせに。照れ隠しは良くないよソーマ、堂々としていたまえ」

 

 一言一句相違なくエリックと同意見である。

 

「……さっさと邪魔な連中を片付けるぞ。キグルミなんぞもう捨てちまえ、今更何の意味もない」

「ボクは結構気に入ってるんだけどね、このキグルミ。エリナにも好評だし……あ、新型クンもかい?」

 

 イエーイ、とエリックとハイタッチを交わす。キグルミでロビーに行く際の何だあれは、というざわめきは何物にも代えがたい快感がある、というのがアキの座右の銘の一つであった。

 

「……クソが。ホムラもリンドウもそっちだったし、マトモなのは俺だけか……」

 

 仲間外れとなったソーマが愚痴をこぼしながら、普段着で突入していく。

 顔を見合わせたエリックとアキは、うさ耳ヘッドをかぶり直して追随していった。……どのみちシオを回収したら秘匿のためにキグルミを着直すことになるのに、とは口にしなかった。

 

 

 愚者の空母、その端の方にアラガミの屍の山を築いたシオが独り、歌を歌っていた。

 

「あ……」

 

 シオが目を擦る。

 

「何だろー、これ……」

 

 擦っても擦ってもそれは止まらない。

 

「これ……いやだな……」

「別れの歌、だからかな。その歌は、大切な人とあえなくなってしまう……そんなことを歌ってるんだ」

「そっか……でも、またあえたな」

「……こっちが探してやってんだろーがよ……」

 

 悪態を吐きつつも、ソーマはどこか嬉しげに見えた。

 

「帰るぞ、シオ」

「うん」

 

 そう返事をしたシオが突如青い光を放つ。

 シオは苦し気に呻くと、やがてふらふらと立ち上がった。

 

「……イカ、ナキャ……」

 

 何かに導かれるように、シオは夢遊病者のような足取りでエイジス島へと向かっていく。過日、アキの前で失踪したときと同じように。

 

「待て!帰って来い‼シオ‼」

 

 ソーマの強い懇願に反応し振り返ったシオが、崩れ落ちた。

 

 

 シオを連れ帰ったアキたちがアナグラへ帰ると、サクヤとアリサがエイジス島への侵入容疑で指名手配されていた。

 

 寝耳に水の事態である。

 また仲間外れにされた、とアキが些細なショックを覚えつつも、シオの保護とサクヤたちの詳しい状況を知るために榊博士の研究室に向かうと、

 

『リーダー!』

 

 と、なぜか当の指名手配犯たちが通信機越しに顔を覗かせていた。

 

 アキたちがシオの捜索をしていたその頃、サクヤは一人、エイジス島への侵入を果たしていた。

 名目上、世界で最も重要な拠点であるエイジス島は専属のゴッドイーターを含む監視によって厳重に警備されている。それを突破したのはリンドウの置き土産による監視システムの一時的なダウンの結果だった。

 

「そろそろ中心地のはずだけど……」

 

 暗い屋内、しかし広々とした空間を見上げたそのとき、アラーム音が鳴り響く。──防衛システムが復活したのだ。

 同時に侵入者であるサクヤを迎撃するためにレーザーが撃ち放たれる。突然のことに硬直したサクヤは動けない。

 

 刹那、人影が割り込んで盾を展開した。

 そうして攻撃をしのいだ直後、武器を換装してバレットを抜き撃つ。……反撃は無い。

 

 安全を確保した人物が振り返る。

 

「……ふう!危なかったですね」

 

 アリサだった。

 彼女は一人で潜入しようとするサクヤを見越して後をつけ、同じくエイジス島へと侵入していたのだ。

 

「ようこそエイジスへ。どうだろう、思い描いていた楽園と違っていて落胆したかな?」

 

 声が響く。同時に照明が灯り、エイジス島の楽園とは程遠い無骨な内観を露わにした。

 

「……リンドウ君のことは残念だった。身内が全てフェンリル関係者である彼ならばきっと計画に賛同してくれただろうが、成就する前に台無しにされてしまっては仕方がない。実に、実に惜しい人物だったが、消えてもらうほかなかった」

 

 声の主……フェンリル極東支部支部長、ヨハネス・フォン・シックザールがリフトに乗って姿を現す。

 

「ヨハネス支部長……あなたが、リンドウを……」

「終末捕食には『特異点』と呼ばれる特殊なアラガミのコアを必要とする。あの時点ではアーク計画を知られるわけにはいかなかったのだよ。アラガミが引き起こす終末捕食により、この星はやがて完全な破壊と再生を迎える。完全な再生だ。全ての種が一度完全に滅び、生命の歴史が再構築される。その世界に、人類という種とその遺産を残すための箱舟、それがアーク計画だ」

 

 終末捕食。

 それはアラガミが共食いの果てに行きつくとされる、星を食らうアラガミ『ノヴァ』の出現によって引き起こされるという終焉。巷では都市伝説程度の与太話として流布する噂だが……都市伝説を鵜呑みにしての行動にしては、エイジス計画──アーク計画の規模はあまりにも大きすぎる。そしてヨハネス・フォン・シックザールはそんなカルト染みた話を盲目に信じる種類の人間には見えない。

 

「しかし残念なことに、新しい世界へ誘う箱舟の席は限られている。次世代へと繋ぐ限られた席だ。真に優秀な人間こそ座るべきだと思わないかね?」

 

 サクヤはリンドウの調査報告書に添付されていた名簿を思い出した。名を連ねたフェンリル関係者……あれは、箱舟の乗客リスト?

 

「で、それに乗るのはあなたとあなたに選ばれた人だけってわけね」

「他に適役がいるかね?…………ふぅ。本当に……そう、本当に残念だが、これで君たち二人はリストから外れてしまった。申し訳ないが、ここで消えてもらおう……」

 

 ヨハネスが手を振り上げるが、何も起こらない。

 

「あら?残念ながら、残りのセーフガードは私が全て破壊しましたけど?」

 

 アリサは得意満面である。どうやらここに来るまでの間にエイジス島の防衛機構を潰して回っていたらしい。道理で遅れて駆けつけたわけね、とサクヤは得心した。

 

「そうか……それは困った。できればこの手は使いたくなかったが、事ここに至っては仕方あるまい。──()()()、出番だ」

「イエス、ボス」

 

 その何気ない声に、サクヤの全身が一気に粟立つ。

 暗闇の中から現れたのは歪な遠距離式神機を携えた一人の凡庸な男。だがフェンリル関係者であれば誰もがその顔を知っている。

 

「やあ、サクヤ。それからもう一人の新型ちゃん。できればこんな風に会いたくなかったよ」

 

 ──笹木ホムラ。

 元、世界最強のゴッドイーター。近距離で戦えば正確無比に弱点を抉る弾幕の嵐を放ち、離れれば砂粒ほどの距離から砂粒ほどの急所を射貫く必中の射手。人類でただ一人、万を超えるアラガミを屠った無敗の神機使いだ。

 

 耐用限界で半引退状態にあっても、……アラガミ化を前提に捨て駒として戦うのであれば、その制約は意味を為さない。

 

「……さて、君たちには選んで欲しい。戦うか、否か。戦うというのであれば、たとえ世界の果てに隠れたとしても射貫いてみせよう」

 

 その瞬間、アリサの思考は真っ白になり、サクヤから戦うという選択肢は消えた。アリサはかつてのホムラの活躍をロシア支部出身として知っている。サクヤはホムラの理不尽なまでの強さを味方として理解している。どちらも、ホムラに戦力で対抗するという選択の無意味さを理解していた。

 

「では、あとは任せたよ笹木君。私は忙しいのでね、アーク計画もいよいよ大詰めだ。……これでもまだ、勝負はついていないと言えるのかな?」

「…………ええ、もちろん」

 

 その返答に少しだけ顔を歪めて、それからヨハネスはその場を立ち去った。

 残されたのは馴染みの間柄の2人と、英雄に憧れていた少女だけ。

 

「一つだけ答えて、ホムラ。──あの日……リンドウが死んだ日。あのとき教会の天井を撃ち抜いた狙撃手は、あなた?」

 

 サクヤの声は震えていた。

 リンドウとホムラは10年来の付き合いだ。2人は、近接と射撃のコンビとしてもっとも長い付き合いの戦友であり、親友だった。リンドウは、家族を失い、記憶と味覚をはじめさまざまな感覚を喪失しながら戦い続けるホムラの境遇を悼んで、なにかと気にかけていた。戦い続ける日々の苦悩を共有できる唯一の同志と信じていたはずだった。

 

 リンドウも、サクヤも……弟のように想っていたのだ。

 そんなことがあっていいはずがない。ホムラがリンドウを死に追いやったなんて、そんなことが──。

 

「──不死身の英雄ジークフリートは、討ち果たした竜の血を浴びて無敵の肉体を得た。しかし、その背に菩提樹の葉が張り付いていたことで、そこだけが弱点として残った。そんなジークフリートを殺したのは、義兄弟であり親友ハーゲンの裏切りだった……」

 

 アリサはその語りを聞いてとある物語を思い起こす。

 ヨーロッパでは誰もが知る英雄譚、ニーベルゲンの歌。……そして自身はおろか仲間の生還率を高める屈指の生還能力を指して、リンドウが『不死身』と呼ばれていたことも思い出していた。

 

「不死身の英雄を殺すには、不意をついて裏切るしかなかった。──ああ、そうだ。僕が撃った」

 

 なんで、どうして。そんな言葉の代わりに涙が落ちた。サクヤにはもう、言葉が無かった。裏切られた、いいえ、それは違う──ホムラを動かせるのは、その首輪を握っているヨハネスただ一人。

 

 あの日、戦友を撃たされたホムラの心境はいったいどんなものだったのか。

 2人を思えばこそ、涙が溢れて止まらなかった。

 

「……笹木中尉。あなたも、アーク計画に賛同しているんですか?先ほど支部長が語った終末捕食やら世界の再生やら、それが正しいと本気で思っているんですか?」

「──君は勘違いしている。支部長の行いは紛れもなく救済だ。そもそも、彼が動かなければ誰も何も成す術もなくとっくに世界は終わっていた…………そんなことだってありえたんだ。そしてほんの一握りであろうと人類とその遺産を残そうともがく贖いが、『救世』以外のなんと例えられるだろうか。世が世なら救世主として讃えられていい人物だよ」

「……………………」

 

 本気で意味が分からない。アリサは『どん引きです……』と言いたげに顔をしかめた。

 計画のためにリンドウを殺し、今またサクヤとアリサへの殺意を示した。そんな冷酷非道なヨハネスの目的は、終末論を鵜呑みにした人類救済であるらしい。狂人としか言いようがない。そして、そんな人間を救世主として讃えるべきだと目の前のホムラは言う。

 

 ……これが憧れた英雄の姿なのか。夢として目標に掲げた恩人なのか。

 アリサの心は失望に塗りつぶされていった。

 

「まずは榊博士に尋ねるべきだ。彼こそが終末捕食理論の提唱者……いわば、アーク計画の発端と言える人物なのだから」

「…………それはつまり私たちを見逃す、と?」

「──僕は狙撃手だ、殺す気なら姿を現すはずがないだろう。それに僕もまだ死ぬわけにはいかないんでね……君たちが死ぬまで戦うというなら、僕もアラガミ化のリスクを覚悟で戦うしかない。それを避けられるなら、お互い本望のはずだ。支部長にとっても、ことここに至れば君たちの生死にこだわりはない。…………それに」

 

「まだ勝ちの目は残されている」

 

 

『────という感じで逃がされたんですよ。憧れのゴッドイーターがあんな人だったなんて幻滅というか……もうぶっちゃけどん引きして神機使いやめて実家に帰ろうか迷ったんですが、サクヤさんを置いていけないので逃げ回ることにしました』

 

 通信映像越しにアリサから聞かされた事の顛末は以上だった。……サクヤは落ち込んだまま、言葉を発することは無い。

 

「……エイジス計画が、嘘?……そんな、そんなことって……」

 

 その報告に最も動揺していたのがコウタだった。コウタは外部居住区に母と妹を残している。エイジス計画が成就すれば安全な世界でまた家族一緒に暮らせるはずだった。エイジス計画に強い希望を抱いてゴッドイーターになったからには、その失意も大きいものだった。

 

「アリサ君、笹木くんは確かに『まだ勝ちの目は残されている』と、そう言ったんだね?」

『え、ええ……ですけど、それに何の意味があるって言うんですか?』

「…………終末捕食論は、エイジス計画が始動するより以前から私が提唱していた理論だ」

『…………え?』

 

 与太話を肯定されアリサの目が点になる。

 

「アラガミが捕食を繰り返した結果、やがて星を食らうほどに成長し『ノヴァ』というアラガミが生まれ、地球を捕食することで生命の再分配を行う。終末捕食こそ全てのアラガミ、オラクル細胞の行きつく先であり最終目標だ。冗談でも何でもないこの星の仕組みさ、実際に地層を分析すればこの星で幾度となく終末捕食が繰り返されてきたことがわかる。これは地球のどの地点でも証明できる単なる事実だよ。……この研究が世に出ることが無かったのは、ヨハンがそれを止めたからだ。もし明るみになれば、必ず誰かが意図して終末捕食を起こす……それが人類の業というものだからね」

 

 だから、フェンリルは終末捕食をカルト的終末論として嘲笑した。そうしなければ、誰かが真実に行きついてしまうから。

 

「確証はないが……もしそうだとしたら笹木くんがヨハンを救世主と呼ぶのも理解できる。アリサ君、もし終末捕食が事実だとしたら、何が一番恐ろしいかな?」

『それは……誰かが私利私欲で起こすことなんじゃないですか?フラれたから腹いせに世界を終わらせる……なんてことがあったらゾッとしますけど』

「たしかにゾッとするね。ただ、私が一番恐ろしいのはね、人の手の届かないところで起こることさ。仮に誰かが終末捕食を企図したとしても、アラガミの被害報告やアラガミ素材の流通から未然に防ぐことは可能だろう。だが、人類のいない秘境……それこそヒマラヤ山脈だとか南極で発生したら?そこで誰も感知する間もなく発生したら?そうなれば、人類にはどうしようもない。大人しく祈りを捧げて終わりの時を待つことしかできないだろう。……それを防ぐには?」

「──先んじて終末捕食を行う。並行して、終末捕食から逃れる術も用意する。……なるほど、それがアーク計画の正体か……箱舟とはよく言ったもんだ」

 

 答えを述べたのはソーマだった。

 

「箱舟を作ったノアも、後世で人類が自ら洪水を起こすようになるとは思わなかっただろうね。……ただ、笹木くんの言う『勝ちの目』が何を指しているのかは私にもわからない。何かを見落としているのかもしれない」

「……チッ、あのバカ。この期に及んでまだ黙ってんのか」

 

 ヨハネスの手駒としての立場を明白にしたホムラへの苦々しい感情をソーマは露わにする。まさか、リンドウすら手にかけるなど俄かには信じがたかった。……いや、信じたくなかった。仲間を裏切るほど一人で抱え込むくらいなら、いっそ初めから話してほしかった。

 

 彼は今もなお、ソーマの選ぶ道を信じていると、いつかのように言うのだろうか。

 ソーマにはもう、ホムラの真意が分からなくなっていた。

 

 

 通信が切断されると、コウタは重い口を開いた。

 

「……悪い……俺は……アーク計画に乗るよ」

 

 ソーマ、アリサたちが次々と計画への反意を示す中で、その決断は重い。ただ、それを責める者は誰一人いなかった。コウタが外部居住区出身であり、家族を守るためにゴッドイーターになったことは周知の事実だ。コウタの生家近くにアラガミの襲撃があったときは、聞くや否や走り出して家族の安否を確かめていた。そんなコウタが家族を安全な土地に住まわせるため、エイジス計画に強い期待を抱いていたことも皆が知っている。

 

 アーク計画では、ゴッドイーターの二親等以内の親族を連れて箱舟に乗ることが許されている。

 コウタの選択は必然と言えた。

 

 ……コウタのような神機使いは少なくないだろう。反発すれば地球と臨終することになるが、従えば家族は救える。それはある意味で人質とも言えた。

 

 

 コウタが部屋を出ると、ソーマは沈黙していた幼馴染に問いかける。

 

「お前はいいのか、エリック」

「んー……父上とエリナはアーク計画にがっつり絡んでいるだろうし間違いなく船に乗るけど、ボクはいいかな。最後まで神機使いとしての矜持を貫きたい。というか、ここで乗るようならそもそも神機使いにはならないとも」

 

 アーク計画が成功したら妹がフォーゲルヴァイデを引き継ぐだろうしね、とエリックは達観した笑みを浮かべる。

 

 エリック=デア・フォーゲルヴァイデは、妹を喜ばせるために神機使いになった。病床でろくに遊ぶこともできない子に、せめて兄の活躍を楽しんでもらおうと。……結局エリナはホムラしか見ていなかった気もするがそれはそれとして、最後まで妹が胸を張れる兄でありたい。だからこそエリックは箱舟を選ばない。……なにより、大事な友人達の力になりたいのだから。

 

「……コウタには、正直同情するよ。そして尊敬する。家族と仲間の間で板挟み……それでも自分の心を押し殺して、一家の大黒柱として守ることを選んだんだ。とても年下の、15歳の少年とは思えない」

「……ああ」

 

 普段、浮ついた言動を繰り返すコウタだが、その芯は固い。ここ一番での心の強さは、誰もが認めるほどのもので、それは家族を思うからこその強さだ。

 

 だからこそ、第一部隊の誰もがコウタの選択を尊重していた。

 




26/7/3 誤字修正。報告していただいた方々に感謝。
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