あー、なにから話そう。言葉が上手くまとまらない。
……端的に起こったことを、羅列してみようと思う。
2063年になり、また新たにゴッドイーターを2人迎えた。
そして春になった頃、……楠さんが亡くなった。
それからしばらくのち、ヨシノさんは失踪した。
今年何度目かの外部居住区へのアラガミ侵入の直後だった。
フェンリル極東支部の判断はMIA──任務中の行方不明。神機をアラガミに奪われ、その後腕輪反応を喪失したと考えられ、捜索は程なくして打ち切られた。実質的な殉職扱いで……つまり、原作通りの展開になった。
別れの言葉さえ、無かった。
こうなることを予想していなかったわけじゃない。ただ、楽観視していたのも事実だ。
ヨシノさんには、僕の出来ること……いわゆる頼りがいというものを提示した気でいた。神機使いとしてそれなりの戦力があり、上層部と取引になるカードがあり、また懇意にしている有力者がいる。有事に対しての問題解決能力も見せた。ヨシノさんに『話せないこと』があって、そうであってもいざというときに僕を頼れるように、頼りに出来るように、言葉ではなく行動で示してきたつもりだった。
結果からみれば、それはまったくの見当違いで。
ヨシノさんはMIAとなった。
それはつまり原作通り幼いナナを連れてフェンリルから逃亡したということ。
にも関わらず逃亡をいっさい相談されることはなく、その素振りさえ隠されていた。
僕があてにされていなかったことの証左に他ならないだろう。
これまでの行動はただの空回りに過ぎなかったのだ。
それは、さすがに、落ち込む。落ち込んだ。
だが、人生は続く。
ヨシノさんがフェンリルから死人判定されたとしても、僕はまだ生きていて、そして仕事があった。
ヨシノさんが死亡を装って逃亡しているというのは、あくまで原作知識からの予想に過ぎず、実際に生存を確かめたわけではない。
ただ、状況からしてそうだろう、と判断できた。フェンリル側から理解可能な現実的な状況は『香月ヨシノ上等強襲兵は任務中にアラガミに捕食された。その際に神機をアラガミに突き刺すなどして逸失した』というものになる。原作のリンドウみたいな感じだ。
しかし僕の専属護衛であるはずのヨシノさんが事前に相談もなく単独で任務に赴き、そして神機さえ残さず消えるというのはあまり現実的じゃない。なにより神機は偏食因子によってアラガミに捕食されづらい。だから破損したパーツによって遺された神機が発生するわけで……それが痕跡さえ残さず消える事態は、ちょっと想像が難しい。神機専門の回収部隊による捜索が行われていたならなおさらだ。
結論として、僕から見た状況は『ヨシノさんはナナを連れて逃亡した』ということになる。
そしてゴッドイーターは継続的なP53偏食因子の接種・投与を要する。怠ればオラクル細胞に浸食されアラガミ化することになるからだ。幼い子を連れた母親がその事態を想定していないはずもなく、それはつまりP53偏食因子の補給の当てがあるということであり、ヨシノさんに秘密裏に協力を約束した個人ないし部隊が存在することを意味していた。
しかし僕は、それにすら選ばれなかった。
誰よりも近くにいたはずなのに、頼ってもらえなかった。
その端的な事実が、僕に沈鬱とした気分をもたらし。
けれど僕の体は、自らの精神状態などおかまいなしに、染みついた動作のまま働いた。
ヨシノさんがいても、いなくても、それとは無関係に僕の人生は続くのだから。
そんな最中の非番のことだった。
寝起きの微睡みの中で、股間に快感を感じた。
ぴちゃ♡ぺろっ、じゅる♡じゅぼっ、じゅぼっ♡
慈しむような労りフェラ。しかし優れた技巧ではない。
拙いながらも……拙いからこそ感じる奉仕の心に、朝勃ちして敏感なチンポの底から、自然と射精感がこみ上げていく。
あー、出る。
何も考えられないまま、衝動のままに精を吐き出した。
ビュルビュル、と溜まりきった一発目の精液がとめどなく溢れていく。
月日を経るごとに増加していくスペルマの量は、だんだん人外染みた領域に至りつつある。今ではコップ一杯分だろうか。薄い本のような射精量だった。
ごきゅ、ごきゅ、と飲み下す音が布団越しに聞こえる。青臭く粘ついて、とても飲めたものじゃないだろうに、ゆっくりと確実に飲み干されていく。けほっ、と咳払いが聞こえて、それで誰だかようやくわかった。おはようフェラを終えたその人が布団から這い上がってくる。
ツバキさんだった。
一年前から髪を伸ばしたツバキさんは、だんだんと原作の髪形に近づいてきていた。
「……お前の精液は、不味くて飲めたものじゃないな。嫌いではないが」
……それって、好きってことじゃん。むっつりスケベがよぉ。
「どうしてここに?一夜の過ちはどうしたんですか?」
実際、去年酒の勢いでヤってしまって以来、一年ぶりの行為で。
あれからツバキさんの私室に入ることさえもなかったのだけど。
「……黙れ」
と、なし崩しに口封じされる。精液臭い唇に貪られ、僕は問いただす術を失った。
仕方がないので、ツバキさんの服の隙間に手を入れ乳首を摘まんで遊ぶ。コリコリと硬くなっていく乳首を弄んでいく。
キスをしながらどんどん呼吸が荒くなっていったツバキさんは、ついに唇を離した。
「はぁっ♡や、やめろ♡乳首は、乳首は敏感だから♡」
「オナニーのし過ぎかな?感度上がりまくりのざぁこ♡ざぁこ♡乳首、爪先でカリカリ♡カリカリ♡ってしたら、どうなっちゃうんですか?」
「それ♡カリカリだめっ!んっ♡」
カリカリはダメ、とおっしゃるので、仕方なく乳首をねじり上げて引っ張る。
「イ、ぐっ♡雑魚乳首イクっ♡」
ツバキさんはカラダをのけ反らせて軽イキした。敏感に震える女体の、下半身の割れ目からぷしっ♡ぷしっ♡と愛液を漏らし、交尾の準備を整えていく。
「……敏感過ぎでしょ。溜まってたんですか?」
「……人に触られるのは、一年ぶりだ……♡」
それって、最後に僕としてから他の誰ともしてないってことでは。
「プレイルームで男を漁ればよかったのに」
「馬鹿め。私を抱きたい男はそれなりにいるが、私が抱きたい男は限られていると知っているだろうが」
……それは、ちょっと申し訳ないことをしたな。
ちょっと無理矢理でも、壁ドンして迫ればよかった。
そうすればこんな雑魚乳首抱えて生きるような、よわよわメスにならずに済んだだろう。
「今からお前を抱く。お前は何も考えず、ただ気持ちよくなっていろ」
その宣言通り、ツバキさんはまるでレイプするように僕の勃起チンポに腰を落とした。
「んっ♡」
前回のような騎乗位。
しかし、今度は僕に拒否権があり、だけど僕はそれをしなかった。
都合がよかった。
僕は誰とも会話をしたい気分ではなく……ツバキさんはそれを理解してくれていた。
ツバキさんは無尽蔵の体力でひたすら腰を振った。まるで、全自動オナホールのように。
僕はペニスをおっ勃てていればよくて、ほとんど無感情に射精した。……ヨシノさんがいなくなってから一度も射精していなかったので、童貞卒業したときのように逸物は一切萎えず、ツバキさんの膣内から溢れ出した精液で周囲がビチャビチャになるくらい射精し続けた。
「満足したか?」
「……非常に」
ようやくチンポが落ち着いた頃には、ツバキさんは大量の精液によって若干ボテ腹になっていた。エロかった。
ピロートークの一つでもしたいところだったけど、残念ながらベッドは大惨事になっていたので、お風呂に入って身綺麗にしたあと清掃の依頼を出してツバキさんの部屋でゴロゴロした。
そうしてベッドの中でツバキさんに抱きしめられ、頭を撫でられながらそのまま眠った。
──微睡みの中で、こんな言葉を聞いた。
「……お前が家族を失ったあのとき、私は悔やんだ。もっと早く駆けつけられたら……あるいは、もっと遅ければ。そうすれば幸福な思いのまま、家族と一緒にいられたのではないか、と。だから私は……命を救った者の責任として、お前が独り立ち出来るまで面倒を見ると、そう決めた」
ああ、そうか。最初の日、救援に駆けつけてくれたのは……。
だから、病室で目覚めたときにツバキさんが来たのか。
「どれだけ手を広げても、救えないものはたしかにある。……それでも。それでも過酷な現実に立ち向かうというなら──せめて私くらいは、そばにいてやる」
──ああ。
不思議なことに、その言葉だけで──無限に勇気が湧いてきそうだった。
目が覚めた僕は、体調不良を理由に二日の休みを取った。代償に地獄の十四連勤が組まれてしまったが仕方ない。おぼえてろよー、と抜け目ない神機使いの方々を恨みつつ、僕は行動を開始した。
考えて、答えを出さなきゃいけないことがあった。
そして僕はそこから目を逸らして生きていけるほど器用な人間じゃない。
休暇を取った僕はまずアンジェリカに連絡を取り、仕事を頼んだ。
その後外部居住区へと向かい、”最近いなくなった”ゴッドイーターの母親を持つ女の子が住んでいた家を探した。
程なくそれは見つかった。
人伝いに尋ねてまわると、近所に住んでいてよく面倒を見ていたという人がいたのだ。
「ああ、それ、ナナちゃんだろ。忙しい母親の言うことをよく聞いて、いつも素直ないい子だったなぁ。少し前に母親が来て、『ここを出ていく』って。……ここを離れたところで、いったいどこへ行くってんだろうな」
その家は外部居住区の外れの方にあり、外壁からほど近い場所。
つい最近もアラガミの襲撃があり、外壁が破られる事態が生じた危険な地域だった。
無断ながら立ち入らせてもらうと、やはりそこはもぬけの殻で。家財はそのままに生活臭が染みついていて、それは愛おしいおでんの匂いがした。
……そしてその家の近くには、今は無き僕の家だった場所があった。
自室に戻ると、既にアンジェリカが待っていた。
「ハーイ、ご主人さま♡頼まれてたものは用意できてますわ」
2年前、オペレーターを辞めさせられたアンジェリカは慰安部所属になり、プレイルームのえっちなお姉さんに転職していた。フェンリルのオペレーター制服にバニーガールとスケベ水着を合わせたような改造を施したプレイルームの制服に身を包み、熟練の身のこなしで投げキッスをした。
サービス精神が向上したみたいでなにより。
早速だけど、報告よろしく。
スリングショットみたいな水着の股間部分をずらし、手マンを始める。
大陰唇をこねこねとマッサージし、雌液を垂らさせて指を挿入した。
半分プレイの手マン報告会。
アンジェリカにわからセックスをして以来、彼女は手マンが大のお気に入りになってしまったため、ご褒美と躾を兼ねてこんなことをしている。
「んんっ♡は、はいっ♡上手くできたらご褒美くださいね♡」
アンジェリカに頼んだのは、ヨシノさんのフェンリル入隊以降の経歴を入手することだった。
その手の情報は、NORNのデータベースには最低限の概要しか表示されない。表向きではない部分も含めて詳細を知るには、フェンリルが握る機密情報を得ることが必須だった。アンジェリカは元オペレーター所属だったこともあり、その手の伝手は多い。プレイルームでサービスするから、の一言で融通が利いてしまう。利いちゃダメだろ、僕が言うことじゃないけどさ……風紀も頭もゆるゆるかよ。世紀末かな?世紀末みたいなもんだったわ。
「こ、香月ヨシノはぁ……あっ♡2056年にフェンリル極東支部に入隊っ♡、あっそこきもちイイっ♡入隊1か月後には妊娠が発覚、フェンリル側は堕胎させるかどうかで大揉めしたそうですぅ♡その後周囲の反対を押し切って2057年に出産、……私もそろそろベイビー孕みたいなぁって、んぁっ♡ちゃんとしますっ♡ちゃんと手マン報告しますっ♡だからやめないで♡……ん♡、出産したもののその事実は公にせず、被験体扱いでフェンリルの研究対象となり、その後は外部居住区で秘密裏に住まわせたとか。……そろそろイきます……イク、イクイクイクイクっ♡んんんっ♡♡」
ぷしゃあ♡とアンジェリカは派手に潮をまき散らした。一気にベッドは雌臭に溢れかえり、交尾欲求が高められていく。
「……結婚はしなかったのかな、子作り相手とか」
「……わからなかったそうよ。当時も新兵が初陣後に性的欲求を昂らせることは知られていたから、相手がわからないほど興奮していたのか、それとも誰が父親か確信できないほど多人数でしていたのか……」
まあ、新兵をこます目的で手を出していたなら、責任を取るなんてありえないな。仮に遺伝子で判別できても認知しなさそう。
──『初めての戦場帰りって、みんなムラムラしちゃって大変なの』、か。初陣おめでとっくすで孕んだりしたら、そら大変なことにもなる。時期的にも、ゴッドイーターは半分実験動物みたいなものだっただろうし。妊娠なんてされたら貴重な戦力が減るし、入隊1ヵ月で妊娠ともなれば、出産後の復帰も鍛え直しから始まることになる。堕胎も選択肢に入るし、むしろそれが当時の常識だったと言われても驚かない。
それでも貫き通してナナを出産したヨシノさんは流石と言わざるを得ない。その後の苦難も目に見えていただろうに……それでも、産み、育てることを選んだのだろうな。まさしく『強い母』だ。
「アンジェリカは、どうしてヨシノさんに娘がいるって知ってたの?」
「……えと、そのぉ……なんとか弱みを握ってやろうと思って、機密にアクセスしてぇ……でも当時の上司にバレて口止めされたのでなんにもしませんでしたっ!これはセーフよね⁉」
アウトです、お馬鹿。
「じゃ、じゃあ……おしおき……?♡」
「ちゃんと報告できたご褒美と、馬鹿なことしようとしたおしおき、どっちがいい?」
アンジェリカはもちろん、天国イキを選んだ。
アンジェリカを帰した後、ひとり、部屋で音楽を聴いていた。
レコードも随分と増えた。壁に飾ってあるのはお気に入りとレア物、そのほかは収納してある。
最初の殺風景な部屋はどこへ行ったんだろう、という感じだ。ちょっとお洒落だよな、と思う。
煙草……最近は特に吸いたくなる出来事が多くなった……が吸えたら吸っていただろう、そんな気分でヨシノさんのことを考えた。今日1日で集めた情報を統合し、整理し、原作知識とすり合わせてみる。
浮かんだ疑問は主に3つ。
ヨシノさんはなぜ、僕の専属護衛になることを納得し、了承したのか。
なぜ、ナナの存在を僕に隠し通したのか。
そして何も言わずにMIAという形でフェンリルから逃亡することを選んだのか。
簡潔に答えを言えば、『ナナが原因で僕の両親は死んだ』からなのだろう。
少なくとも、ヨシノさんはその可能性が高いと判断した。だから僕からナナを遠ざけた。
そして”笹木ホムラ”は『敵対した人物に容赦ない』から、ナナによって両親を失ったことに気付いたら報復に出るかもしれない、という危機感を拭えなかった。そういうことになるんだろう。
GE2の描写を考えると、ナナはおそらく生まれつきP66偏食因子を有している(むしろゴッドイーターチルドレンが皆そうなのかもしれない)。
つまりナナには生まれつき血の力がある。発現する力は【誘引】、フェロモンのようにアラガミを誘導することのできる力だった。
その力はフェンリルからサンプルとして目を付けられる程度に幼少期から片鱗を見せていたのだと思う。
言うまでもなく、アラガミやゴッドイーターに関する研究はフェンリルが最先端であり、関連する問題について相談しようと思えばフェンリルを頼るのが筋だ。しかし、ヨシノさんはそうしなかった。それはフェンリルという組織に対して不信感を持っていたからに他ならない。『人類のため』という免罪符のもと、ナナの持つ力を研究するために解剖するくらいしてもおかしくないと思ったのだろう。実際、シックザール支部長あたりは嬉々として手を出しそう。榊博士?黒幕顔で人道的配慮するに決まってるだろ。
ただでさえ数の少ないゴッドイーターチルドレンだ。『ゴッドイーターチルドレンは安全だ』『何の問題もないから安心して子作りに励め』と今後のゴッドイーターたちに推奨するためにも、ナナをサンプルにデータ採取くらいはするだろう。なにせ極東支部のトップからして、人体実験に臨んでまっさきに自分の子に安全性が確保されていないP73偏食因子を投与するような人物なのだから。
ヨシノさんは幼いナナを外部居住区に匿うくらいしかできなかった。
そしてそれにも問題は起きた。寂しさを募らせたナナが、【誘引】によってアラガミを引き寄せてしまったことだ。
それによって起こったのが僕の家族の末路だった、ということになるんだろう。二年前にオウガテイルが僕の家をぶち抜いた日の記録を見れば、外壁の装甲が破られた地点とナナの家がある地点を線で結ぶと、僕の家はその直線状にある。つまり、ナナによって引き寄せられたオウガテイルが両親の命を奪った、それがあの日に起きたことだった。
ヨシノさんは、そのことに気付いていた。少なくとも、初陣の前後くらいには。だから彼女は僕の専属護衛になることを納得し、了承した。体を差し出し、また命を張って盾となることで、贖罪にしたのかもしれない。いずれにせよ、その戦略は僕に対して非常に有効だった。ヨシノさんの意志でヨシノさんをプレゼントされたのなら、ゆるすしかないからね。その時点でお互い打ち明けられたなら、何の問題もなく話は済んだに違いない。
しかし、話は僕のせいでこじれることになる。そう、あのDQNに絡まれたあの一連の出来事だ。あろうことか、敵には容赦しない姿勢を示してしまったことで、ヨシノさんは疑ってしまったのだろう。僕がナナを誤射を装って狙撃する、その可能性を。だからナナの存在を隠し通すことに決めた。どこからでも狙えるスナイパーには、知られないことが一番の対策だったから。
そしてお互い打ち明けられないまま時が過ぎ、しかしナナの力は強くなる一方で。外壁が頻繁に破られ、その行き先がいつも同じともなれば、これ以上は隠し通すこともできない。
だから、ヨシノさんはナナを連れて逃亡することを決断した。僕に知らされなかったのは……原作展開なんか関係ない、ただの自業自得だった。……ああ、インガオホー。
逃亡といっても、神機を抱えて逃げる以上、メンテナンスは必須になる。幼い子どもがいれば、食事に衣服、医薬品など必需品は膨れ上がる。P53偏食因子もある。それらを頻繁に融通するのはフェンリルの部隊であっても難しいことだ。ヨシノさんが逃亡のためにどれだけ準備を重ねてきたのかはわからないが、どうあっても外部の助けは必要になる。その状況で、ヨシノさんが見返りに差し出せるのは……まあ、体しかないだろう。ヨシノさんはずっとそうやって生きてきたのだろうし、そしてこれからもそう生きていくのだろう。僕との専属護衛がまさしくそれだし、専属護衛をしながらも他の男と肌を重ねていることは察していた。……あの男尊女卑価値観もそうやって生きる過程で培われたものだったりするのかもしれない。
ヨシノさんから見た僕、そしてナナの存在についてもっと深く考えていれば、ヨシノさんは逃亡する必要なんてなかった。ナナについてお互い話し合ったなら、それだけですべてが大団円で済んだ。ナナに対して危害が加えられないように、そして彼女が血の力を制御できるようにするには、やっぱり榊博士に相談するのが最善の選択肢で。余計な横やりはエリパパに頼めば助けてくれる。解決に必要な要素はすべて揃っていた。
だから、あと必要だったのは……僕が勇気を持てばよかった。
そして『二人目ってどういうこと?』と、尋ねるだけだった。それだけでよかったんだ。
翌朝、僕は外部居住区民のために設置された共同墓地に向かった。
外壁に囲まれている以上、土地は限られているが死者は出る。死者が出れば埋葬の必要があり、しかし前時代のように一人一人の墓を建てるわけにはいかない。極東支部が建設されて真っ先に作られた共同墓地には、これまでの死者、すべての遺骨が眠っている。その中には、僕の両親の名が彫られた慰霊碑もあった。僕はそこで線香を焚き、冥福を祈った。
「…………」
隣に、一人の少女が並んだ。同じく手を合わせ、死者に祈りを捧げている。
灰色髪に年季の入ったゴーグルを装着した女の子、楠リッカ。
新たに加えられた父親の名前の前で祈った少女は、決然とした瞳で僕を見た。
「ねえ、ホム。私、フェンリルに入ろうと思うんだ」
「……どうして?」
「お父さんの遺した研究を完成させたいんだ。それには、どうしてもフェンリルの技術力と支援が必要だと思う」
「……リンクサポートデバイス」
「やっぱり、ホムも知ってたんだ。そう、それ。お父さん、馬鹿だよね。使われない神機を活用するための研究をして、机上の空論だってバカにされて……それでも出来るって信じて疑わなくて、仕事のし過ぎで疲れて死んじゃった。馬鹿だよ、ほんとに……笑われたって苦しくたって、そばにいてくれればそれでよかったのに。私はそれだけでよかったのに……」
「…………」
「だから、私くらいは馬鹿なお父さんのことを信じてあげようと思うんだ。お父さんは間違ってなかった、立派な人だった……って」
「楠さんは立派な人だよ。寡黙だけど、仕事はいつも完璧で、娘思いだった」
「うん。私もそう思う。そして、みんなにもそう思ってほしいんだ。だから、いっぱい勉強して研究して、フェンリルの役に立つ人間になって……リンクサポートデバイスを完成させてやるんだ。そう決めた」
「……そっか。僕も、応援するよ」
「ありがと、ホム。それじゃ、私はもう行くね。やることが山ほどあるんだ、じっとしてる暇なんてないくらい、頑張らないと」
そう言って、リッカは駆け出して行った。
「そっかぁ……。リッカはやっぱりそうするのか……」
──リンクサポートデバイスが実用化されるには、GE2主人公の登場を待たなければならない。
彼、ないし彼女が現れるのは2074年。11年も先の話だ。
…………そして、原作通り進行しなければ、それも叶わない。
もしも僕がヨシノさんを引き止め、原作を改変させてしまったなら。
こんな風に、起こるはずだった多くの出来事が起こらなくなってしまうのだろう。
例えば、リンクサポートデバイスの実用化に焦る楠さんに一言、「その問題は11年後になるまで解決できません」と囁けば……彼は肩の力を抜いて生きながらえていたかもしれない。その代わりにリッカは原作通りに登場せず、それによってさまざまな物事がうまくいかなくなる恐れがあった。その先に待ち受けているのは、終末捕食という決定的な終わりだ。原作GE無印の結末に辿り着くには、さまざまな奇跡があった。そこに介入して失敗すれば、世界は終わってしまう。
だから僕は……ヨシノさんを強く引き止めることが出来なかった。
たった一言でよかったのに、それさえ言えなかった。
原作通り進み、GE2に辿り着かなければ、リッカの願いは……故人を想う気持ちは……果たされない。
だけど。
『──せめて私くらいは、そばにいてやる』
今まではなかった。
でも、ああ、今なら。勇気を持って言える。
原作なんかぶち壊してやる、って。
ヨシノさんがいなくなるような原作より、ヨシノさんの方が大事だ。
終末捕食?月の緑化?螺旋の樹?世界を閉ざす者?
馬鹿め。それがどうした。
男根崇拝ドチャクソスケベ肉便器セフレ雌オナホお姉さんの方が大切に決まってる。
だからこそ、それを押し通すために、僕は銃を手に取るんだ。
……でも。
そろそろ、銃だけじゃ不十分なのかもしれなかった。
銃だけじゃ、力押しだけじゃ、すべての願いは叶わない。
ヨシノさんを助け、リッカの願いを果たし、そして終末捕食を乗り越えるためには、真剣に考える必要がある。何を選び、何を切り捨てるのか。そのために、何が必要なのか。
大変な選択だ、けれど、GEプレイヤーならそれくらいはしなくちゃ。
そうでなければ、何のためにこの記憶はあるというんだ。
『そばにいてくれればそれでよかったのに』
僕は、ヨシノさんにそばにいて欲しかった。でも、できなかった。
リッカに目標を叶えて欲しいと思う。しかしそれではヨシノさんを切り捨てることになる。
……どうすればいいんだろうか。
リッカが楠さんの研究を継ぐことを決めたように、僕もまた、人生の岐路に立ったらしかった。
そして、2064年。
僕は支部長に呼び出された。
「やあ、笹木ホムラ君。いつも息子と仲良くしてくれてありがとう。君には一度礼を言っておきたかったんだ。アラガミでしかないこの子を構ってくれるとは、君はなんて高潔なんだろうと思わずにはいられなかったよ。──ところで、この度息子もフェンリルに入隊させることにしたんだ。君のような少年が8歳から人類のために貢献しているというのに、極東支部の支部長たる私の息子が遊び惚けて生きることが許されるはずもない。笹木君には先達としてどうかよろしく頼むよ、なに、コレが暴走するようなことがあれば、遠慮なく撃ち殺してくれればそれでいい。君には簡単な仕事だろう?」
────僕は、原作をぶち壊すことを決めた。
『男根崇拝ドチャクソスケベ肉便器セフレ雌オナホお姉さん』については、事前に別の表現を考えていたのですが、感想の方でより適切かつ秀逸な表現をいただきましたので、勝手ながらリスペクトさせていただきました。不快に思われましたなら伏して謝罪したうえで訂正させていただきます、アンジェリカが。
ヨシノさんの経歴については2056年入隊(18)、2057年にナナを出産(19)、2063年にMIA(25)の3つは公式です。そして当時の婚姻・出産の制度や体制には不十分な点があった、と強調したうえで濁されています。まあ、何が起こったかはお察しな気もしますが。