ふしぎふしだら ~少子高齢化にキレた神々の淫らな祟り~ 作:大中小太郎
幕間
神々は考えた。
日本の少子高齢化をいかにして解決すべきか。
加えて、
「ただいまより、緊急の
意外と近代的な議事堂だった。
国会を思わせる作りで、議席に座る神々には
「議題は人間界の少子化対策、および黄泉津大神による
議長を務める
改めて聞くと、同時に
「
早速、ビックネームが立ち上がり、中央の演壇まで出てくる。
「
壮年男性の神は、調査報告書を手に語る。
「黄泉津大神の宣言から数時間後、大規模な『神隠し』が発生しました。場所は日本中に
報告は続く。
「被害者の傾向を調査したところ、年齢層で最も多いのは老人、次に
ざわめく議会。
「なんという……っ」
「子を成さない者という条件には一致するが……」
「神隠しの行き先は、
黄泉津大神は、子を成さない者や成せない者を殺すと言った。
黄泉路へ神隠しされた人間の傾向にも、その方針が表れている。
子供など到底見込めない高齢者、同じくらい当ての無い初老から壮年。
逆に適齢期の世代は見逃されているようだが、不妊症には容赦が無い。
十五歳以下の子供というのも、病気などの理由で生殖機能を損なった者だろう。
「
報告を終えた大国主神が自席に戻っていく。
「続いて、
議長に呼ばれ、入れ替わりで演壇に立ったのは、老人の神だ。
山の神様の総本山のような大御所である。
「十四島三十五柱の会、大山津見神、またの名を
少子化どげんかせんとと口火を切った神である。
「黄泉津大神の『神隠し』ですが、我が神域では、不自然に被害がございませんでした。これは、既に私が当該地域の人間に強い干渉を行っていたことが主な原因と思われます」
この神を酒神として祭る田舎では、神による少子化対策――率直に言って産めよ増やせよの乱痴気騒ぎが行われていたらしい。
その詳細は伏せたが、重要なのは、既に他の神が干渉していた場所では被害が無かったということだ。
「これを
ふむふむ……と、お歴々の神が頷く。
大山津見神は、自分の思い付きが予想外の大事になってしまい、内心
「恐らく、あの場の『子を成さない者を片っ端から』という言霊が、そのまま呪いとなったのであろう」
「あれだけで国中を呪っておるのか。なんという力か」
「だが、いかに黄泉津大神といえど、国中を呪えば神通力も薄れるはずだ」
「その薄れた力なら、神格で劣る者でも
日本中を満遍なく襲う呪いに対して、八百万の神々がそれぞれ自分のホームを守ることで対抗する――という方針が定まっていく。
やがて議席の上段――議長席の背後にある特別席から、かの
「それを可能とする神格は、己の神域で人を保護しなさい。神隠しには神隠し――黄泉の魔手が伸びる前に、人をかくまうのです」
神隠しで黄泉路へ連れ込まれる前に、自分たちで隠してしまう。
八百万の神々と黄泉の女神による大規模な綱引きが、人知れず始まっていた。
「それ以外の神々は、呪いの対象となっている『子を成さない者』への対策を」
人間を保護した上で、何かしらの手段で『
下知を受けた神々は、各々の権能と知恵を
○
とある一室、外に雲海を臨む天空のお座敷にて、数柱の神が会合を開いていた。
「いやはや数奇なことになりましたなぁ」
京都府に建つ金ぴか鳥居の神社、その名も御金神社に祀られる、金属と鉱物の神だ。
「兎にも角にも子を成せ、然らずんば死あるのみという『祟り』。これに対抗せんとする我ら
金山毘古は後半の台詞に鋭さを持たせる。
「
女神が口を開く。
金山毘古に比べれば誰でもそうであろうが、華美にならない着物姿の女性だ。
「それはそれは、黄泉津大神といい大御所のすることは派手ですな」
「無理もあるまい。そちの見立て通り、
黄泉津大神の祟りという大きな脅威に乗じて、手柄を立てたがる神々が多い。
その功績次第では、恩賞必罰に従い、位を上げる者も出るだろう。
ただ静観するだけでは下へ行く。下の下となった神の末路がどんなものかは神々しか知らないが、それを好む者が多くないのは確かだろう。だから末端の神々まで動く。
神々による少子高齢化対策は、神々の地位を巡るポイントゲームになりつつある。
そうでなければ、多くの神は、下界の少子化に本腰を入れなかっただろう。
「恐らくここまで黄泉津大神の思惑通り。産まねば殺すの宣言も、御方なりの少子化対策ということであろう」
扇子を開いてくすくすと笑う女神。
彼女に向けて金山毘古が問い掛ける。
「あなたも何やら手を打っているようですな?
橋姫――妖怪として区分されることもあるが、一応は社も建っているマイナーな女神だ。
名の通り橋を司る彼女は、扇子を閉じて小さく鼻を鳴らす。
「なぁに、神々に盛らされた人の子に、軽く権能を駆使しただけのこと。なにせこの身が司るは『橋』ひとつ。『渡す』ことしか取り得がないものでな」
「なるほど――交わった男女の腹から、そうでない者の腹へ、
奇怪に聞こえる奇跡だった。
その真意についての問いに、橋姫も隠さず答える。
「神通力を受けやすい者とそうでない者がある。どうせ下界に子を増やすなら、そうした血の者がよかろう」
神々にとって操りやすい人間の増加。
それを企図するなら、既に起きている『天候』に左右された男女の子は、多いほどよい。
「であれば、一人子を授かって十月十日も待たせるのは時間が惜しい。産む手間を省いてとっとと次の子を宿させた方がよかろう。交わった男女と、渡されて宿した女、どちらも黄泉大神の標的からは外れる。一石三鳥であろう」
他の神々が起こしている発情現象に便乗して、橋姫も手柄を立てていた。
「この術は自動化した。孕んだ女が強く望まぬ限り、世のどこかで子を望んでいる女へと子は渡る。現状の位を保つ程度の『得点』にはなるじゃろう」
「他の神々が力を揮うほど加点される仕組みですな。実に上手い」
「末席の知恵と笑いたくば笑うがよい――して、そこそこ著名な金儲けの神は、いかなる手を講じておる?」
揶揄の反撃を受けた金山毘古は、肩を竦めてみせた。
「いかんせん、元は鉱物の神。子孫繁栄に直結するような権能は持ち合わせておりませんのでな――」
目線を雲海に向けた金山毘古が見ているのは、察するに下界、地上の人間たちだ。
「人の世の金回りを担う者どもに軽い『お告げ』をしたり」
人間界では既に話題となっている、政府の急な方針転換。
少子化対策と子育て支援に全力を注ぐという指針の発表には、この神が絡んでいたらしい。
「後は、子宝を求める者たちにご利益をくれてやっている程度ですな」
ほぅ――と、橋姫は相手の性悪を見抜いたような顔をする。
「交わる男女に神のご加護あり――と、人間どもにそう認識させ、自ら事に至らせるか。妾が他の神を使ったように、お主は人の欲を使うというわけじゃな」
「はっはっは、人聞きの悪い。私はただ健やかな夫婦を応援したいだけですよ」
神々の少子化対策は始まっている。
それに翻弄される人間の胸中など、推し量ることも無く。
ご一読いただきありがとうございます
別に必要なさそうな、神々の小話でした