ふしぎふしだら ~少子高齢化にキレた神々の淫らな祟り~ 作:大中小太郎
6月10日、水曜日――その朝の出来事だった。
俺、浅村悠太は、一生の不覚を犯す。
信号待ちの道路で、迫るトラックに気付かず前に出た綾瀬さんを引き止めるのが――少しだけ遅れてしまった。
「あ――」
綾瀬さんっ! と口にして、彼女の手を掴むはずだった。
引き寄せた綾瀬さんを受け止めきれず、二人で尻餅をついて――
柄にも無く叱りつけて、彼女が少し照れた顔を見せてくれて、英会話の勉強をしていることを知って、それをきっかけに――
そんな、その先にあったはずの、綾瀬沙季という義妹との生活は――
「っ!」
迫り来る大型トラックによって無残に、
「危ない!」
ひき潰される直前――俺ではない別の男が、綾瀬さんを引っ張った。
「え?」
当惑した声を口にしたのは、綾瀬さんだったか、俺だったのか。
男の手で歩道に引き戻された綾瀬さんは、その男性の胸に受け止められる形で止まり、自分の眼前を通過していくトラックの車体側面に目を見開く。
「君、怪我は? 大丈夫かい?」
綾瀬さんを救ったのは、中年男性だった。
大柄で太り気味の、ちょっと偉そうな印象も受けるが、平凡な範疇の男だ。
「あ……」
男性に両肩を掴まれた綾瀬さんは、彼の胸板に背を預ける形で、顔を振り返らせる。
間近にあったおじさんと、下手すれば恋人のような距離で見詰め合う。
「あ、綾瀬さん……」
俺はその光景に、嫌な予感を覚えた。
この男性が綾瀬さんの命を救った――それは理解できる。
しかしそれでも、彼女と密着していることが、間近に見詰め合っていることが、心のどこかに引っかかる。
まるで、この後に起きる出来事を、無意識のうちに悟っていたかのように。
「ありがとう、ございます……」
少しの間だけ呆然としていた綾瀬さんは、頬を赤らめて、細い声でお礼を言う。
「無事でよかった。まったく、ひどい運転だったね。でも、イヤホンは外した方がいい」
男性は綾瀬さんから手を離すと、一言だけ注意して、立ち去ろうとする。
「ま、待って!」
その手を、今度は綾瀬さんが掴む。
咄嗟の行動と言葉だったのだと、端から見ていた俺には分かった。
男を引き止めた綾瀬さんの表情は、同じ家で暮らす義兄妹の俺も知らない――必死さと、興奮と、恥じらいと、その他様々な感情に満ちていた。
「なにか、お礼をさせてください」
「いいよそんな、お礼なんて」
「だめです。その……大げさではなく、命の恩人ですから……」
そう……確かにそうだ。
このおじさんが綾瀬さんを助けなければ、高確率で死んでいた。
命の恩人と言って、なんら誇張はない。
「偶然だよ。それに、君もおじさんも遅刻しちゃうだろ」
「でしたら、連絡先だけでも。改めてお礼にうかがいますから」
綾瀬さんとおじさんが、連絡先を交換する。
仮にも義兄妹である俺がまだ知らない、綾瀬さんのLINEを。
「――これでいいかな?」
「はい、ありがとうございます」
――終始、俺は蚊帳の外だった。
綾瀬さんを助けるのが、ほんの少し遅れた。
彼女の生死に直結するほどの、愚かな出遅れ。
それをしてしまった時点で、俺はこの物語における端役と化したのだ。
いわゆる、
○
その日の放課後は、雨だった。
俺は綾瀬さんに傘を押し付けて、一足先に帰った。
綾瀬さんは――なかなか帰ってこない。
風呂上りの俺が鼻歌を聴かれて恥ずかしい思いをすることもなく、
親友の奈良坂さんを連れて来たりもせず、
俺と綾瀬さんと奈良坂さんの三人でゲームをするなんてイベントもなく、
俺と綾瀬さんがLINEを交換したりすることもなく、
(……あのおじさんに、『お礼』をしに行ったのか?)
連絡先を交換したみたいだし、放課後に早速メッセージを送って、会う機会を作ったのかもしれない。
恩返しをするなら、早いに越したことはない。
見た目とは裏腹に生真面目で几帳面な綾瀬さんらしい。
(帰ってきたら、LINEを聞いておこう)
俺はのんびりと、綾瀬さんの帰りを待つ。
それ以外、何の代わり映えもない一日だった。
○
浅村悠太の想像通り、沙季はおじさんと会っていた。
「これ、つまらないものですが」
「おや、お土産なんて、しっかりしているね」
沙季はあの後、母に連絡をとって事の次第を説明し、助言をもらって場を設けた。
喫茶店で待ち合わせして、手土産を渡し、誠意をもって礼を言う。
後は軽く世間話でもして帰る――その予定だった。
「実は、娘が君と同じ学校に通っていてね」
「娘さんが?」
世間話の内容に、意外な縁が見つかった。
おじさんは制服で気付いたらしい。
娘と同じ高校の制服を着た沙季を見ていたら、危うい場面に出くわして、助けるのが間に合ったそうだ。
「なら、娘さんに感謝しないといけませんね。そのお土産は是非娘さんと一緒に」
奇縁に助けられた沙季はそう微笑むが、おじさんの微笑には寂しさがあった。
「ああ、恥ずかしい話なんだが、離婚してね。娘は元妻と暮らしてるんだ」
これまた奇縁だった。
「……私も、両親が離婚しているんです。母のことは大好きですけど……父と会えないことを、寂しく思うときもあります」
彼の娘さんが同じかどうかは分からないが、自分が彼に送れる言葉の中で最も価値があるのはこれだと感じた。
「そうか。気を遣わせてしまったね――そうだ、決して恩に着せるわけじゃないんだが、もし学校で娘を見かけたら、少し気にかけてやってほしい。イジメられていないかとか、痩せたりしていないかとか」
「そのくらいでしたら」
外見は派手めだが律儀な沙季である。
彼への恩返しに、娘さんの様子に気を配るのは、最適な形であるように思えた。
「ありがとう。何かあったときだけ、連絡してくれればいいから」
おじさんは安心したように微笑んでいた。
沙季には、彼と奥さんの間に何があったのかは分からない。
だが話してみる限り、離婚に関して彼だけが有責ということは無いように感じた。
妻子の離れられてしまった父は、こんな風に寂しそうに、それでも健気に娘のことを想うものだったのか――と、胸が切なくなる。
あるいは自分の父も、娘の自分を案じてくれているのだろうか。
そう考えると、彼の頼みを聞くことが、何かの孝行であるような気がした。
――些細なきっかけで、未来は変わる。
ちょっとした変化が次の変化を生み、気が付けば蝶の羽ばたきが嵐になる。
沙季の、義理の兄妹となった浅羽悠太と近付いていくはずの未来は、この件をきっかけに異なる方向へと進み始めるのだった。
○
彼から名前を聞いていた娘は、すぐに見つかった。
奇しくも同級生で、去年は同じクラスの顔見知りだった。
「その、言いにくいんですが……娘さん、大人の男性と付き合ってるみたいです」
沙季は先日のおじさんと通話していた。
『それは、清い恋際ということかな? それとも……』
「ごめんなさい。ご想像している方みたいです」
彼の娘には、パパがいた。
ほとんど隠してもいない。
化粧や小物が歳不相応にリッチな印象だったので探ってみたら、悪い予感が的中した。
『そう、か……なんとなく、そんな気はしていたんだ』
おじさんは、ぽつぽつと語りだした。
元々、おじさんと元妻も、そういう関係だったらしい。
やがて子供ができて、おじさんは責任を取ったが、後に娘との血縁が無いことが発覚。
揉めた末に離婚となり、しかし一定以上の期間を親子として過ごしたため、おじさんには養育費の支払い義務が発生した。
妻と娘はそれを得ながら、それぞれ新しい男と関係を持ち、そちらからも金銭を貰っているらしい。
「……っ」
沙季は、義憤を覚えた。
同じ女として、妻子の方に。
母と娘だけで生きていくのが大変なことは、自分の家庭で知っている。
でも、夜職気味の母も、学校は「売り」をしていると噂の自分も――そこまでじゃない。
男を食い物にするような女たちに、自分の恩人を裏切っておきながら搾取を続けるような彼女らに、怒りを禁じえない。
そのことを電話で口にすると、
『ありがとう。でもまあ、いいんだ……元々、働いて稼ぐしか能の無い男だからね。血が繋がっていなくても大事な娘だ』
諦めたようなおじさんの言葉に、沙季の心が乱れる。
なんとかしたい。
なんとかしてあげたい。
そんなとき、沙季の頭に、彼の娘が口にしていたことが思い出された。
『知ってる? 最近、男の人とそういうことをすると――
なにを言ってるんだこのビッチはと、そのときは思ったものだ。
最近、そういう噂が実しやかに囁かれているのは知っている。
でもそんなのは、贅沢のため体を売る尻軽女たちの、くだらない妄言だと断じていた。
いまも、それを信じているわけではない――
「おじさん……」
信じてはいなかったが、閃いてしまった。
自分にできることはなにか。
恩人であり、妻に裏切られ、娘にも親心が届かず、孤独に耐えている男に――
命の借りがあり、娘と同じ年頃で、学校では「売り」をしていると噂の自分が――
できることなんて、『それ』しか無いんじゃないか。
むしろ、これだけ符号しているのなら、それこそ
「もし、よかったらだけど」
兆候はあった。
元より、一人で生きられる人間になるため、お金を稼ぐ方法を模索していたこと。
その選択肢として、若い女であることを活かす非合法な手段が、頭にあったこと。
――本来なら、沙季がその胸中を明かす相手は、別の男だった。
相談した結果、愚かな真似をせずに済むはずだった。
そうなる前に、別の人間と、別の機会が訪れただけ。
「私と――」
些細な違いで、物語は一変する。
○
浅村悠太の生活は――安泰だった。
親の再婚と新たな家族、同い年で同級生の義妹ができたにしては、何事もなかった。
「ああ、おかえり綾瀬さん」
「ん、ただいま浅村くん」
沙季はここ最近、放課後になると何処かへ寄り道している。
いつも日が沈んだ後、夕飯ぎりぎりの時間帯に帰ってくるのだ。
「沙季、最近帰りが遅いわね?」
それを気にしたのは、彼女の母である亜季子。
母として当然の心配に、沙季は慌てた様子もなく――
「うん、最近新しい友達ができて」
「あら、どんな子?」
「前に話した、助けてくれたおじさんの娘さん。同じ学校の生徒だったの」
沙季から聞いた奇縁に、悠太も目を瞬く。
「偶然だね」
相槌を打つ程度のコメントをしつつ、沙季の顔色を注視した。
何か、怪しいところはないかと、荒を探すように。
なぜ、そんな疑念を抱いているのか、悠太にも分からない。
「うん。お礼を言ったときに分かって、話してみたら意外と
箸を進めながら答える綾瀬さんは、どこか楽しそうだった。
新しい友人ができて楽しい――と、捉えるべきなのだろう。
「最近、おじさんと奥さんが離婚しちゃったみたいで」
「ああ、それはお父さんも心配だろうね」
沙季の語った友人の家庭事情に、悠太の父・太一も神妙に頷く。
なるほどそういう事情なら、そのお友達は母子家庭ということになる。
しかも離婚が最近なら、戸惑うことも多いだろう。
その点……再婚した両親の手前、直言はしないが、母子家庭歴で一日の長がある綾瀬さんなら、いい相談相手になれるのではないか。
「お夕飯に誘われたりもしてるんだけど、たまに行ってもいい? お母さんの帰りが遅いから、一人だと不安になるみたい」
綾瀬さんは食事の手を止めて、両親に目を配り、確認を取る。
亜季子と太一は軽く目を合わせた後、「そういう事情なら」と頷いた。
「遅くなるときは連絡するのよ?」
「うん」
こうして沙季は、家族の了承を得た。
今後、たまに帰りが遅くなっても、心配はいらない――と。
(なにも、変じゃない……よな?)
太一だけが、明言できない引っ掛かりを覚えていた。
それでも、ここで口に出来るほどの確信はない。
「ごちそうさま。部屋で勉強するね」
食事が終われば部屋に入ってしまう沙季。
登下校は別、学校では他人のふり、帰りは遅く帰ればすぐ部屋へ――
彼女の私生活を詮索できるだけの接点が、あまりに乏しかった。
○
そうして、帰りが遅くなる言い訳を得た沙季は、今日も『お友達』の家に行く。
正しくは、そのお友達が、かつて暮らしていた家に。
「やあ、今日も来てくれたんだね」
「お、お邪魔します――」
玄関を開いて沙季を迎えたのは、先日の男性。
沙季は少し頬を赤らめながら――
「パパ」
これからすることの合言葉のように、そう口にした。
「さあ、入って」
「あ……っ」
パパは沙季の腰を抱くようにして、家の中へ導く。
野太い手は沙季の背を撫でるように下がり、ショートパンツの上からヒップに触れた。
気付かないはずもなく身を震わせる沙季だったが、
「パパ……も、もう……♡」
露骨に体を求める、父親のような歳の男に、しおらしく顔を赤らめていた。
――名目上は、パパ活だった。
お金を稼ぎたかった沙季は、彼にパパ活を申し出た。
彼は当初、自分を大事にするように説いた。
しかし沙季なりの考え――自分で生きていける力が欲しくて、かつ恩返しもしたいという旨を伝えると、やがて彼は頷いてくれた。
最初にパパと呼んだ日から、今日で一週間。
――もう、お金なんか受け取らなくていいんじゃないかと、思っている。
「きゃっ」
玄関扉を閉じるなり、パパは背後から沙季を抱き寄せ、無遠慮に胸へ手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと……パパ、んっ♡ 急に、掴むの、はっ♡ 止めてって――ふあっ♡」
強引な、そしてわいせつな行為に、沙季は口でこそ抗議するが、ほとんど抵抗は無い。
キャミソールの上から乳房を掴む指に、女の声すら零している。
「ごめんなぁ。待ちきれなかったんだ。仕事中もずっと、沙季のことばかり考えて」
背後から、耳元へ語りかけてくるパパの声と言葉に、沙季は陶酔感を覚えた。
(パパも……そうだったんだ……私も、一日ずっと、授業が頭に入らなかった……♡)
受け入れてしまっている。
体も、心も――親子のように歳の離れた男性の性欲を、快く思ってしまっている。
彼にパパ活の関係を提案した後、最初に体を許したあの日から――
沙季の体は、日に日に女の快感を学び、飢えるようになってしまっていた。
「んあっ♡ やっ♡ パパっ♡ お、落ち着いて……んっ、くぅぅっ♡」
布越しに乳首をくすぐられ、沙季はパパの腕の中で身じろぎする。
(やだ……私の体、日に日に、敏感に……っ♡ パパも、私を感じさせるコツ、もう掴んじゃってる……っ♡)
乱暴にされても、優しくされても、それぞれ違った快感を拾ってしまう。
分かりやすい性感帯はもちろん、それ以外の部位も、聴覚や嗅覚まで敏感になっていた。
「少し大きくなったか? 感度も上がって。可愛いぞ。声、我慢しないでくれ」
「やっ♡ だぁ♡ 恥ずか、し……んぁんっ♡」
パパの手付きが激しくなる。
指先が巧みに乳首をこね回し、手の平は乳房を揺らし、沙季の頭に浮遊感をもたらす。
パパの隆起した股間をショートパンツに擦られ、ヒップからも電流めいた快感が走る。
「あっあっあっ♡ んぁぁうっ♡ パパっ♡ 待って♡ あっ♡ 胸っ♡ もぉ、だめっ♡」
一分も経たないうちに、沙季の声は甲高くなっていた。
手加減を求めようと振り返ると、パパの顔が近付いて唇を奪われる。
「んんっ♡」
まるで最初からそうするつもりだったように、沙季は自然とキスに応じた。
(どう、しよ……気持ちいい♡ 胸、触られるのも♡ キス、されるのも♡)
玄関で、靴も脱がず、一秒も待てないとばかりに身を擦りあう男女。
(こんな、おじさんなのに……すごく、素敵に見える♡ エッチな顔、格好いい♡)
好きだとか告白だとかデートだとか、そんな児戯の段階には無い、雄と雌。
(好き、に……なっちゃった♡ 親みたいな歳の人、好きに、なっちゃってる……♡)
母も、新しい父も、義理の兄も――誰も知らない綾瀬沙希の姿がそこにあった。
「ひゃっ♡ パパ、落ち着いてぇ♡」
居間の畳に押し倒された沙季は、艶っぽい声でパパを制止する。
強引な運びに驚いてはいるようだが、嫌がっているようには到底見えない。
なにかが、見えざる神の意思らしきものが、彼女の体を淫らに変えていた。
「落ち着いてなんかいられるかっ。こんなエロい体の味を知ったら、半日だって我慢できないっ」
パパは鼻息を荒くしながら、沙季の服に手を掛ける。
キャミソールとショートパンツを同時に、乱暴に脱がしていく。
元から破れかけのデザインだった服が引っ張られる様は、服を引き裂いて乱暴するかのようだった。
「んんっ♡」
パパが沙季に覆いかぶさり、唇を奪う。
沙季は身を震わせながらもキスに答え、中年の分厚い唇と少女の薄い唇から、水音と共に唾液が伝っていく。
「ちゅっ♡ ぢゅるっ♡ んっ♡ パパぁ♡ だい、じょうぶ♡ ちゅっ♡ 逃げ、ないから♡ して、いいから♡ 優しく……んっ♡」
沙季の手は自然と、パパの背中に回っていた。
自分を貪るオスに、無抵抗に体を差し出し、抱き返すことで催促すらする女の動き。
男に抱かれることに慣れている、女の姿だ。
(あぁ、やっぱりダメ……パパに求められると、頭バカになっちゃう♡ 体中が、大喜びで、火照って、敏感に……っ♡)
キスだけで、全身に火が点いている。
前のセックスからいまに至るまで、家でも学校でも欲求不満だった体が、砂漠でオアシスに辿り着いたかのように歓喜していた。
自分の体が、あまりにも男に飢えていたことを痛感する。
「綺麗な下着だな。また新しく準備してくれたのか?」
下着を褒めながら胸を愛撫されると、体だけでなく心にまで快感が訪れた。
精神にまで性感帯が生まれてしまったかのように、パパの些細な言葉や、指先に宿る欲情や慈愛を感じるだけで、脳が痺れる。
「うん……せっかく、パパのために選んだんだから……大事に、して? ね♡」
言葉ではパパを制止するようなことを言いながら、自分で「嘘だ」と感じていた。
落ち着いたりしなくていい。
興奮してくれることが嬉しい。
もう生娘ではないのだから、ちょっと荒々しくてもへっちゃら。
「沙季は悪い子だな。そういう言い方で、パパが興奮するって知ってるくせに」
もっと――彼の欲望を解放してあげたい。
その滾りを身に浴びたとき、より大きな快感を得られるのだと、沙季はもう知っていた。
「そ、そんなつもりじゃ――っ!」
パパは忙しなくズボンを開くと、太くいきり立ったペニスを取り出す。
ごくり――と、沙季は生唾を飲んだ。
自分を女にしてくれた男の象徴、奥で達する快感の凄まじさを教えられた肉棒には、何度見ても息を呑まされる。
(あぁ……これ♡ パパの、これぇ♡ 私の体、これ、待ちわびちゃってる……男の人の、これが、気持ちいいって覚えちゃってる。パパに……屈服しちゃってるっ♡)
男根に服従する。
少し前の自分なら、受け入れがたいことだった。
なにか、女というものの持つべき誇りや尊厳を、失うかのようで。
「パパぁ♡ きて♡」
――そんなもの、最初から嘘っぱちだった。
「んんっ――あっ♡ あああぁぁぁっ♡」
ゆっくりと挿入された極太の陰茎が、今日も沙季の体に、号砲の如く絶頂をもたらす。
細身な沙季の膣を拡張しながら進む剛直。
太めの肉棒が内壁を擦るだけで、沙季の膣内が満遍なく刺激される。
やがて最奥部にぴたりと触れた頃には、沙季の反らした背筋が床に落ちていた。
「はぁっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡」
「よしよし、最近は挿れただけでイってくれるようになったなぁ」
沙季が感じたことに、パパはいつも嬉しそうな顔をする。
男性の支配欲が満たされているのだろうが、自分を気持ちよくすることに熱心なのだと思うと、沙季の胸中に奉仕を受けているような充足感が生じてしまう。
「ゆ、ゆっくり……んんっ♡」
「ああ、最初はゆっくりな」
パパが腰を揺らすと、沙季の中で剛直が前後する。
まるで赤ん坊の揺りかごを揺らすようなリズムは、肉棒の逞しさに反して慈しむようで、好色な風貌に似合わぬ優しいセックスだった。
「ふぅぅぅ♡ これっ♡ 好きぃ♡ おっきいの、がぁ♡ 優しく、動いて♡ んあぁっ♡」
愛されている――そう感じてしまう。
女としても、そして或いは、可愛がるべき娘としても。
妻子に捨てられてしまった彼に対して、パパ活という形で、妻と娘の役を同時に果たす。
これが自分にだけできる恩返し――沙季はパパとセックスする度、そう思う。
「あっ♡ はっ♡ んぁっ♡ パパのっ♡ やっぱりっ♡ おっき♡ 奥っ♡ ふぁんっ♡」
沙季は少しずつ、声を堪えるのを止め、パパを抱き寄せる腕を強くする。
ペースアップしてもいいという意味を、パパは見逃さない。
「まったく、ゆっくりなんて言っておいて、こんなに吸い付いてくるじゃないかっ」
「あふぁっ♡ ちがっ♡ 勝手にっ♡ ひぁんっ♡ あっ♡ あっあっあっあっあっ♡♡♡」
ひとたび男に許してしまえば、雄々しい腰付きが襲い掛かる。
準備運動させてもらったおかげか、痛みも苦しさもなく、力強さが快感に変換された。
(これ……やっぱりこれっ♡ 私、これを待ってたんだ……っ♡)
自分が淫乱であることを痛感する。
布団も敷かない畳の上で、下着も脱がずに股を開いて喘ぐ自分は、きっと自覚している以上に、一刻も早く抱かれたかったのだろう。
「ほら、奥も突くぞっ。沙季はこの角度が好きだろっ?」
パパが更にペースアップする。
このまま子宮口を責め立て、最初の奥イキを引き起こすつもりなのだ。
「あああぁぁぁっ♡ パパっ♡ 待ってっ♡ だめっ♡ これだめっ♡ むりっ♡ イクっ♡ イっちゃっ♡ パパのでっ♡ 奥っ♡ イかされたらぁ――んあぁぁぁぁぁっっっ♡♡♡」
このままイかされると、自分がどうなるのか――沙季はもう知っていた。
全身がはじけ飛んでしまうような大絶頂がどれほどのものか、それを味わってしまったら雌の体にどんなスイッチが入るのか。
(無理、無理ぃ♡ 頭まっしろ♡ おまんこ気持ちいいっ♡ 体中っ♡ びりびりぃって♡ この人のおちんぽ喜んでるっ♡ 私っ、もう♡ パパのセックスに堕とされてるぅ♡♡♡)
分かっているから……パパのピストンに腰の動きを合わせてしまう。
口では何と言いながらも体は正直――綾瀬沙希はそういう女だった。
「パパぁっ♡ イクッ♡ イクイクいっちゃう凄いの来るぅぅぅっっっ♡♡♡」
やがて訪れる、子宮から全身へ爆発するようなオーガズム。
脳内に火花が散り、視界が白むほどの、鉄砲水のような悦楽。
あまりの快感に意識が飛ぶ刹那、沙季は、獣のような自分の声を遠くに聞いていた。
――どれくらい時間が経っただろうか。
「あはっ♡ あんっ♡ パパっ♡ それっ♡ 来てっ♡ あぁんっ♡ 好きっ♡ 後ろからっ♡ ふぁぁっ♡ 気持ちっ♡ いいっ♡ もっとっ♡ あひゅっ♡ 突いてっ♡ ついてぇ♡」
沙季は部屋で四つん這いになり、背後からパパの腰を打ち付けられていた。
「しゅご、いい♡ パパのぉ♡ 腰付きっ♡ エッチでっ♡ 気持ちよすぎっ♡ こんなっ♡ おっきいのでっ♡ 上手なのっ♡ あひゅっ♡ イっちゃうっ♡ 何度もぉ♡」
媚びるような声と言葉が、口を吐いている。
それを認識できるようになったのも、いましがたのこと。
あれから何度も襲い掛かってくる絶頂で、気絶と覚醒を繰り返している。
「いいぞ、沙季っ。いくらでもイっていいし、喘いでいいからなっ! パパがいくらでも気持ちよくしてやるぞっ!」
「はひゅっ♡ うんっ♡ してぇ♡ パパのぉ♡ おちんぽでっ♡ いっぱいしてぇ♡♡♡」
意識不明瞭だというのに、体は勝手に剛直を締め付け、口はおねだりを繰り返す。
「もうだめっ♡ パパのぉっ♡ こんな、気持ちいいこと♡ 知っちゃたらぁ♡ むりっ♡ パパ無しじゃっ♡ だめっ♡ 私っ♡ ダメになっちゃったぁ♡♡♡」
「ああ、安心しろっ! パパも、この名器っ、ぜったい手放さないからなっ!」
普段の沙季なら金を詰まれても言わないような、甘えきって恥知らずな声。
まるで色欲に狂った別人格に体を乗っ取られたかのようだ。
(嬉しっ♡ やっぱり嬉しいっ♡ この人にっ、求められるのっ♡ 欲情されてっ♡ 太いの突かれるのっ♡ 大好きにっ、なっちゃった♡ 何度、イってもぉ♡ 何度でも、イキたいっ♡ パパのっ♡ セックスでっ♡ ずっと、ずぅっと♡ 鳴いていたいっ♡♡♡)
背後からのピストンで立て続けに起きる、大小無数の絶頂。
それに翻弄されながら、沙季の意識は先鋭化していた。
巻き起こる快感に理性や知性を溶かされ、ただ雄の性欲に呼応する雌となっていく。
ちょっと前の自分は、そういう女を、嫌っていた気がする。
いまは、とんだお子様だったと恥じている。
「くぅっ! もう、ダメだ……」
ようやく、彼の射精が迫ってきたらしい。
「あっあっあっ♡ パパっ♡ イク、のっ? ふあっあっあはぁっ♡」
中出し――膣内射精――妊娠――赤ちゃん――子宮に――彼の――
「きてっ♡ きてぇっ♡ パパぁ♡ 私の、
正常な思考力を保てていない頭は、ただ「孕みたい」という雌の本能に従った。
「ああ、イクぞっ! 沙季の中に全部出してやるぞっ!」
ラストスパートを掛ける雄の腰付き。
「んあああぁぁぁっっっ♡♡♡ んおっ♡ おおおぉぉぉっっっ♡♡♡」
巨根に子宮口を連打された沙季は、桁違いに高まった快感の最中、自分がいま正に種付けされるのだと痛感する。
(あ――は――っ♡ イって、りゅ♡ ずっと♡ イキ、っぱなし♡ 声――私の、声っ♡ 獣みたいに♡ なって♡ 遠くに――)
絶頂、絶頂、また絶頂。
もはや突かれる度に達する、マルチプルオーガズム状態。
ああ、男性が無我夢中で自分の体を使ってくれる瞬間とは、なんて悦楽なのだろう。
自分はきっと、この瞬間を味わうために、女に生まれたのだ――!
「っぐ、おお!」
やがて、パパが子種を解き放つ。
腹の中で爆発した熱い液体が、沙季の背筋を大きく反らさせ、視界が明滅するほど激しい大絶頂を生み出した。
「ぉぉぉぉぉっっっっっ♡♡♡ でてりゅぅぅぅっっっ♡♡♡ パパのあちゅいのっ♡♡♡ 中でびゅーってっ♡♡♡ あひゅっ♡ ひぅぅぅっっっ♡♡♡」
間抜けに喘ぎながら、沙季は思う。
これだ。これが自分をおかしくしたのだ。
僅かな時間に凝縮された群発絶頂と多幸感に、麻薬の如く酔っている。
これを味わい続けられるなら、他の何を捨てたって構わない――
「ふぅ……いっぱいイってくれたみたいだなぁ。でも、まだ1ラウンド目だぞ?」
パパは、まだ自分を可愛がるつもりらしい。
死にそうなほどイかされて怖いくらいだったのに、もう心変わりしている。
今日も遅くまで、明日からもずっと――自分は彼とのセックスに溺れるのだろう。
○
俺――浅村悠太は、最近思う。
世間が、性に熱心だ。
(父さんと亜季子さん、遅くなるのか……)
再婚したばかりの二人が最近、二人きりになる時間を作っているのは、気付いていた。
まあつまり、遠からず弟か妹ができるかもしれないということだ。
それはいい。
立派な大人の夫婦が計画的にしていることなら、世界で最も正当なセックスだろう。
(最近、そういう話、よく聞くな……)
学校で聞く雑談からも、ニュースでも、ゴシップでも。
子供を作るのは尊いことで、そうした男女は何より優先される。
俺にしても、学校で妙に女子から接近されたり、バイト先の書店で若い女性客に口説かれたりすることが増えた。
もちろん、モテる特徴なんて持った覚えは無い。
ただ、人々が日に日に、色恋に熱心になっている。
(俺は……なんか、いいや……らしくない)
フラットであることが信条だ。
多少、世間が変わったとしても、いままでの自分を変えたくない。
周囲に増えている、異性とお近づきになる機会を見逃しても――
あるいはその選択で、
いつも通りのフラットな人生観を、今日も保ち続ける。
なぜそこまで拘るのかは、自分自身にも分からなかった。
(綾瀬さんは……今日も『お友達』のところか)
今日も家で一人、夕飯を食べて勉強をして寝た。
義理の妹ができた生活は――思いの他、殺風景だった。
ご一読いただきありがとうございます。
ちまちまと書いておりました、『義妹生活』のNTRです。
どんなに機会があっても本番行為には至れない全年齢ラブコメ主人公は、
神様の発情パワーに耐性があるようです。